原爆症認定申請に対する却下処分の取消訴訟と国賠請求
名古屋地裁H28.9.14
<事案>
広島市又は長崎市に投下された原子爆弾に被ばくした原告ら(4名)が、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)1条1項に基づいて原爆症認定申請⇒厚生労働大臣がこれらを却下⇒
各却下処分の取消しを求めるとともに、
前記各却下処分は違法であるとして、国賠法1条1項に基づき、慰謝料として300万円の損害賠償等を求めた事案。
<争点>
原告らの各原爆症認定申請に係る各疾病(各申請疾病)が、
被爆者援護法10条1項にいう
「原子爆弾の放射能に起因」するものであるか(放射線起因性)及び
「現に医療を要する状態」にあるか(要医療性)
<判断>
●放射線起因性
放射線起因性の立証の程度等について、
最高裁H12.7.18を引用し、
高度の蓋然性が必要であるとした上で、
その具体的な判断方法として、
当該被爆者の放射線への被曝の程度と、
統計学的、疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝との関連性の有無及びその程度とを
中心的な考慮要素としつつ、
これに当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して、
原爆放射線の被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を将来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当。
その上で、原告らの各申請疾病について、いずれもその放射線起因性を肯定。
●要医療性
①被爆者援護法7条に規定する健康診断において、視診等の検査や、血液検査、エックス線検査等の各種検査を行うことが可能(同法施行規則9条)であるところ、
これらは、同法10条2項にいう「診察」ないし「医学的処置」というべきであるにもかかわらず、同法において、これらは「医療」(同法第3章3節)とは区別された「健康管理」(同章第2節)として揚げられている
②「負傷し、又は疾病にかかり、現に医療を要する状態にある」(同法10条1項)という文言の自然な意味内容等
⇒
被爆者が積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察が必要な状態にあるような場合には、同法上、原則として健康管理としての検査等によって対応すべきであって、当該疾病等につき再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情がない限り、前記検査等は「医療」には当たらない。
X2の肺がん及び乳がんについて:
いずれも、経過観察を受けているにとどまる状態であるところ、その病期がⅠであり、術後相当期間を経過している
⇒再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情があるとまでは認められない。
⇒要医療性を認められない。
X3の慢性甲状腺炎:
①積極的な治療行為を伴わない経過観察がされていたにとどまり、当該疾病につき悪化の可能性が高い等の特段の事情があったとは認められない、
②1年に1回程度の定期検査により経過観察を行うことで足りる⇒被曝者援護法条の健康管理としての検査等によってX3の病状に対応することができないとみるべき事情は存在しない。
⇒要医療性は認められない。
●原告らの国家賠償請求について:
厚生労働大臣は原爆症認定請求につき疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で前記各処分をしており、同意権を尊重すべきでない特段の事情も認められない
⇒
厚生労働大臣の前記処分等について国賠法上の違法性は認められず、国賠請求は理由がない。
判例時報2350
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