教員採用処分の取消処分の有効性が問題となった事案
①福岡高裁H29.6.5
②福岡高裁H28.9.5
①事件
<事案>
Xが、平成20年度大分県公立学校教員採用選考試験に合格し、同年4月1日付けで県教委から小学校教員に任命(本件採用処分)⇒前記試験のXの成績に不正な加点操作があったとして本件採用処分の取消処分
⇒
Xが、大分県に対し、
本件取消処分の取消しを求めるとともに、
国賠法1条1項に基づき、違法な本件取消処分ないし本件採用処分により精神的苦痛を受けた⇒慰謝料700万円及び弁護士費用70万円の合計770万円の損害賠償を求める。
<一審>
本件採用処分は裁量権を逸脱し又は濫用したものとして違法であり、
本件採用処分を維持する公益上の不利益は、本件取消処分によってXが被る不利益よりさらに重大で公共の福祉の観点に照らし著しく相当性を欠く
⇒
本件取消処分の取消請求を棄却。
本件採用処分は違法な行政処分
⇒国賠法に基づいて、大分県に慰謝料350万円、弁護士費用50万円の合計400万円の損害賠償をXに支払うよう命じた。
<判断>
一審を維持。
<解説>
●行政処分の職権取消しの可否及び要件
行政処分の職権取消しについての総則的規定は存在しない。
but
法律による行政の原理等を理由にこれを認めるのが一般。
要件について、特に授益的行政処分では、
A:違法又は不当を要件とするもの
B:違法に限定するもの
C:取消制限の利益衡量とともに判断するもの
最高裁H28.12.20:
行政処分の職権取消しの適否についての審理判断は、原処分が違法又は不当(違法等)があると認められるか否かの観点から行われるべきである。
判断:
本件採用処分は大幅に改ざんされた点数に基づくもので、改ざんがなければXについての本件採用処分はなかった⇒本件採用処分は事実の基礎を欠く違法なもの。
●授益的行政処分の取消制限
授益的行政処分については、当該行政処分の相手方の既得の利益や処分の存続及び適法性への信頼の保護等
⇒職権による取消しが制限される場合がある。
①当該処分の取消しによって生ずる不利益と、
②取消しをしないことによって当該行政処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益
とを比較考量した上、
当該行政処分を放置することが公共の福祉に照らして著しく不当であると認められるときに限り、当該行政処分を取り消すことができる。
(最高裁)
判断:
Xの正教員採用への信頼と期待の侵害等は軽視し難い(ただし、Xが正教員の地位を保持する正当な利益は認められない。)ものの、
大幅な点数の改ざん(特にX所属の勉強会の指導官の口利きが原因)による合格は、公平な教員採用試験の実施についての信頼、教員あるいは公教育自体に対する県民の信頼を失わせる等本件採用処分の維持による公益上の不利益はより重大であって、本件採用処分を維持することは公共の福祉の観点に照らし著しく相当性を欠く
⇒
本件取消処分は適法。
<②事件>
①事件とほぼ同様の枠組みを採った上で、
採用処分に瑕疵はあるものの、
教員としての地位を失うなどZの社会的・経済的不利益は大きく、
Zが加点操作に何ら関与していないこと
⇒
教員採用処分を取り消すことはできない。
①事件②事件とも、いずれも上告
判例時報2352
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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