外務員登録取消処分の取消訴訟での原告適格・違法性
東京地裁H29.4.21
<事案>
内閣総理大臣から外務員に係る登録事務の委任を受けたY(認可金融商品取引業協会)は、XがB及びBを介してC社に対し、D社による公募増資の実施の公表日に関する情報を提供した行為が、法令違反である「有価証券の売買その他の取引・・・につき、顧客に対して当該有価証券の発行者の法人関係情報を提供して勧誘する行為」(金商法38条、平成26年内閣府令第7号による改正前の金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項14号)に該当する
⇒
A社に対し、金商法64条の5第1項2号の規定により、Xに係る外務員の登録を取り消す旨の処分。
本件処分の名宛人ではないXが、Yに対し、本件処分には法64条の5第1項の定める処分要件を欠いた違法及び行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法がある⇒その取消しを求めた。
<規定>
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
行政手続法 第14条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
行訴法 第10条(取消しの理由の制限)
取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。
<判断>
●Xは本件処分の名宛人ではないが、
本件処分の法的効果によってその労働契約上の権利が制限を受ける
⇒
名宛人と同様に自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるといえる
⇒本件処分の取消訴訟の原告適格を有する。
●Xは、Bに対して本件情報を提供したとは認められるものの、C社に対して本件情報を提供したとはみとめられず、また、B及びC社に対して有価証券の売買その他の行為を顧客として行うことを勧誘する行為をしたと認めることもできない
⇒Xが本件違法行為をしたとは認められない。
⇒本件処分には金商法64条の5第1項の定める処分要件を欠いた違法がある。
●一般に外務員は常日頃から数多くの顧客に対して様々な取引等の勧誘等を行っており、特に本件ではB及びC社はA社に口座を持つ顧客ではない一方、
XとBは個人的に業務に関する情報交換を毎日のように行っていた
⇒
本件処分に係る処分通知書に「顧客」、「当該有価証券の発行者の法人関係情報」、「勧誘」等に該当する具体的な事実の記載がなければ、誰に対するいかなる情報の提供及び勧誘の行為が本件処分の具体的なな理由とされているかを知ることは困難。
⇒
本件処分には、行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法がある。
●Yは、Xが本件処分の名宛人ではなく行手法14条1項本文の適用を受けない⇒同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法は、Xの法律上の利益に関係のない違法であるとして、これを理由として本件処分の取消しを求めることはできない(行訴法10条1項)と主張。
本判決:
①行政庁の恣意が抑制されなければXの労働家約上の権利が不当に侵害される
②処分の理由が名宛人であるA社に適切に知らされなければXにおいてもこれを知ることができず不服の申立てに支障を来すおそれがある。
⇒
前記違法がXの法律上の利益に関係のない違法であるとはいえない。
<解説>
●取消訴訟の原告適格
行訴訟9条1項にいう「法律上の利益を有する者」とは、
当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(最高裁昭和53.3.14)。
処分の名宛人以外の者が処分の法的効果による権利の制裁を受ける場合には、その者は、処分の名宛人として権利の制限を受ける者と同様に、当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり、その取消訴訟における原告適格を有する(最高裁H25.7.12)。
●行手法14条1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、
名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであり(最高裁H23.6.7)、
理由の提示を欠いたことは処分の取消事由となる。
判例時報2349
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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