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2018年1月

2018年1月31日 (水)

教員採用処分の取消処分の有効性が問題となった事案

①福岡高裁H29.6.5
②福岡高裁H28.9.5         
 
①事件
<事案>
Xが、平成20年度大分県公立学校教員採用選考試験に合格し、同年4月1日付けで県教委から小学校教員に任命(本件採用処分)⇒前記試験のXの成績に不正な加点操作があったとして本件採用処分の取消処分

Xが、大分県に対し、
本件取消処分の取消しを求めるとともに、
国賠法1条1項に基づき、違法な本件取消処分ないし本件採用処分により精神的苦痛を受けた⇒慰謝料700万円及び弁護士費用70万円の合計770万円の損害賠償を求める。 
 
<一審>
本件採用処分は裁量権を逸脱し又は濫用したものとして違法であり、
本件採用処分を維持する公益上の不利益は、本件取消処分によってXが被る不利益よりさらに重大で公共の福祉の観点に照らし著しく相当性を欠く

本件取消処分の取消請求を棄却。 

本件採用処分は違法な行政処分
国賠法に基づいて、大分県に慰謝料350万円、弁護士費用50万円の合計400万円の損害賠償をXに支払うよう命じた
 
<判断>
一審を維持。 
 
<解説> 
●行政処分の職権取消しの可否及び要件 
行政処分の職権取消しについての総則的規定は存在しない。
but
法律による行政の原理等を理由にこれを認めるのが一般。

要件について、特に授益的行政処分では、
A:違法又は不当を要件とするもの
B:違法に限定するもの
C:取消制限の利益衡量とともに判断するもの

最高裁H28.12.20:
行政処分の職権取消しの適否についての審理判断は、原処分が違法又は不当(違法等)があると認められるか否かの観点から行われるべきである。

判断:
本件採用処分は大幅に改ざんされた点数に基づくもので、改ざんがなければXについての本件採用処分はなかった本件採用処分は事実の基礎を欠く違法なもの
 
授益的行政処分の取消制限 
授益的行政処分については、当該行政処分の相手方の既得の利益や処分の存続及び適法性への信頼の保護等
職権による取消しが制限される場合がある

当該処分の取消しによって生ずる不利益と、
取消しをしないことによって当該行政処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益
とを比較考量した上、
当該行政処分を放置することが公共の福祉に照らして著しく不当であると認められるときに限り、当該行政処分を取り消すことができる
(最高裁)

判断:
Xの正教員採用への信頼と期待の侵害等は軽視し難い(ただし、Xが正教員の地位を保持する正当な利益は認められない。)ものの、
大幅な点数の改ざん(特にX所属の勉強会の指導官の口利きが原因)による合格は、公平な教員採用試験の実施についての信頼、教員あるいは公教育自体に対する県民の信頼を失わせる等本件採用処分の維持による公益上の不利益はより重大であって、本件採用処分を維持することは公共の福祉の観点に照らし著しく相当性を欠く

本件取消処分は適法。
 
<②事件>
①事件とほぼ同様の枠組みを採った上で、
採用処分に瑕疵はあるものの、
教員としての地位を失うなどZの社会的・経済的不利益は大きく、
Zが加点操作に何ら関与していないこと

教員採用処分を取り消すことはできない。 
   
①事件②事件とも、いずれも上告 

判例時報2352

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2018年1月30日 (火)

私立大学における自社年金規程の不利益変更の事例(有効)

東京地裁H29.7.6      
 
<事案>
大学等を運営する学校法人であるYが、昭和37年4月に創設した事前積立方式の確定給付型年金制度において、年金財政が危機的な状況⇒平成23年4月に正との改定を実施。 
これによって年金給付が減額されたYの元職員であった年金受給者である14名がその改定の無効を主張し、改定前の年金を受給しうる地位にあることの確認と減額分の支払を請求した事案。
 
<判断>
●本件年金給付の賃金後払い的性格を否定し、教職員に対する恩恵的給付、功労報償としての性質や、教職員の相互扶助としての性質を有する制度であると評価できる⇒Xらの権利性に関する主張を退ける。

●本件年金制度を契約関係と捉えた上で、
その契約内容は年金規程等によって一律に規律されることが予定されており、
Yは同年金規程の減額条項を根拠として、その内容に従い合理的と考えられる範囲内で年金給付額を減額することができる。

●本件改定について:
①死亡率計算の前提となる平均余命が大きく伸びており
②Yが平成20年8月に従来の国民生命表から厚生年金生命表に入れ替えたのも適切
③Yが予定利率を同月以降従前の4%から3.5%に引き下げたのも低金利状況の中での運用実績等からして十分な理由がある

前記年金規程の減額条項にいう計算基礎率の「著しい変動」に該当し、合理的な範囲内で給付額を減額する事情が認められる。
本件改定は、受給額の段階的な兵器10.4%の引下げであり、受給者に対する一定の配慮もなされており、Yの教職員の高水準の退職金等からしても、本件減額は相当性を有する。

●改定続要件について、
本件年金細目の規定内容を理由に、具体的なシミュレーション等による説明は不可欠とはいえない⇒その瑕疵を否定。 
 
<解説>
本判決:
年金受給権の法的性格について、恩恵的給付、功労報償、相互扶助等の性格を強調しており、その権利性に触れるところがない
but
仮にそのような性格が含まれるとしても、年金受給権が年金規程に基づいて既に具体的に発生した権利としていの性格を有することも否定できない

松下電器産業事件控訴審判決(大阪高裁H18.11.28)の判示するように、
その不利益変更は本来信義則に反するものであり、その変更を実質的に基礎付ける「経済情勢の変動」の程度を検討、減額改定の程度も最低限度のものであることの検討が求められる。 

本判決は、年金財政の悪化等から被告の「方針転換」の必要性を肯定し、死亡率・予定利率の「著しい変動」を認定して受給者に対する「合理的な範囲での負担」を求めている。
but
本件年金減額の程度が年金財政の改善として必要かつ合理的な範囲かどうかの、将来予測等による具体的な検討が欠けている

Y法人本体の財政状態については、Yの拠出責任の判断とは別に考慮すべき要素と考えられる。

制度趣旨が類似する確定給付企業年金については、
確定給付企業年金法において給付額引き下げを内容とする規約の変更には行政庁の承認が必要であり、その承認の要件として、実施事業所の経営の状況が悪化したこと等が必要とされている。
同法の適用対象外である自主年金についても参照されてよい。

判例時報2351

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2018年1月29日 (月)

タクシー会社の乗務員の雇止めの事例(有効)

札幌地裁H29.3.28      
 
<事案>
Yに雇用され、タクシー乗務員として勤務していたXが、Yが行った雇止め又は解雇が無効及び違法であると主張し、
労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、
不法行為に基づき、本件雇止め等以降の賃金相当損害金の支払を求めた事案。 
 
<争点>
①XとYとの間の労働契約が、期間の定めのない労働契約か、期間の定めのある労働契約か
②本件労働契約が、期間の定めのある労働契約の場合、本件労働契約は、労契法19条1号又は同条2号に該当するか
③本件雇止め等は有効か
④本件雇止め等には、不法行為が成立するか 
 
<規定>
労働契約法 第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
 
<判断>
●争点①について 
Xに対し交付されたY作成の労働条件通知書(嘱託乗務員)及びXが署名押印しY代表者が記名押印した嘱託乗務員雇用契約書に、期間の定めがあること又は契約期間が明確に記載されていること

Xもこれらのことを十分に認識した上で本件労働契約を締結したものとみることができる

本件労働契約は期間の定めのある労働契約
 
●争点②について 
Xは雇用期間を6か月とする有期労働契約が2回更新されたにとどまる
⇒本件労働契約は労契法19条1号には該当しない

①嘱託乗務員雇用契約書の契約の更新の欄に「会社が特に必要と認めた場合契約の更新をすることもある。」との記載
②労働条件通知書(嘱託乗務員)の「契約の更新はしない」との記載についてのY側の認識
③YからYの労働組合に対する契約の更新についての説明等

Xにおいて、期間満了時に、本件労働契約が更新されると期待することは、その程度は強くないものの、合理的な理由がある

本件労働契約は労契法19条2号に該当
 
●争点③について 
本件雇止めが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」に該当するか?

①Xの勤務成績が極めて悪かった
②Xの勤務方法が一般的な又は勤務成績の良いY乗務員と異なっていた
③Xの勤務成績及び勤務方法について改善可能性がなかった
④Xは雇用期間を6か月とする有期労働契約が2回更新されたにとどまっていた

本件雇止めには、客観的合理性も社会通念上の相当性も認められる

本件雇止めが不当労働行為(労組法7条1号)に該当するか?

本件雇止めに先だって行われていたYとYの労働組合との間の賃金体系についての団体交渉又は事後折衝の経緯等に照らすと、Yは、本件雇止めについて、反組合的意図をも有してたとも考え得る
but
①X以外にも勤務成績等を理由に本件雇止め以前に雇止めされた嘱託社員が1人いた
②X以外にはXの所属するC労働組合の組合員で雇止めされた者は見当たらない
③Xは、勤務成績が極めて悪く、勤務方法が一般的な又は勤務成績と良いY乗務員と異なっており、勤務成績及び勤務方法について改善可能性がないといえる状況であった
④YのC労働組合及びyの労働組合に対する嫌悪の存在をうかがわせるような事情が認められない

本件雇止めの主たる理由又は動機は、Xの勤務成績及び勤務方法並びにそれらの改善可能性にあったと認めるのが相当であり、
反組合的意図が決定的な理由又は動機であったと認めることはできず
また、XのC労働組合への所属又はXの組合活動がなかったならば本件雇止めがなされなかったであろうと認めることもできない

本件雇止めは不当労働行為に該当しない

本件雇止めは有効
 
●争点④:
本件雇止めは有効⇒本件雇止めには、不法行為が成立しない。

判例時報2351

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2018年1月28日 (日)

医師の時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意と割増賃金の支払

最高裁H29.7.7      
 
<事案>
医療法人であるYに雇用されていた医師であるXが、
Yに対し、
Xの解雇は無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めるとともに、
時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金並びにこれに係る賦課金の支払等を求める事案。 
 
<事実>
Xは、平成24年4月、医療法人であるYとの間で、雇用契約を締結。
本件雇用契約に係る契約書には、
①年俸を1700万円とし、年俸は、本給(月額86万円)、諸手当(月額合計34万1000円。ただし同月分のみ初月調整8000円を加算)及び賞与(本給3か月分相当額を基準として成績で勘案)により構成
②時間外勤務に対する給与は、Yの医師時間外勤務給与規程の定めによること等を規定。 

本件時間外規程は、
時間外手当の対象を原則として病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること、
通常業務の延長とみなされる業務は時間外手当の対象とならないこと
等を規定。

本件雇用契約において、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金は年俸1700万円に含まれることが合意されていたが、前記年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかった
 
<原審>
本件時間外規程に基づき実際に支払われたもの(一審が深夜労働等に対する割増賃金として支払を命じた部分を除く)以外の割増賃金は、Xの月額給与及び当直手当に含めて支払われたものということができる

Xの請求をいずれも棄却。 
 
<判断>
Xの年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別することができない

当該年俸の支払により、時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない

原判決中、割増賃金及び付加金に関する部分を破棄し、同部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻した。
 
<規定>
労基法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
・・・
 
<解説> 
●労基法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を規定
⇒使用者が基本給や諸手当にあらかじめ含める方法により割増賃金を支払う場合(いわゆる固定残業代制)、これによる同条の定める割増賃金の支払がされたといえるかが問題となる。 

従前の最高裁:
通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とた上で、
そのような判別ができる場合に、
割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として労基法所定の計算方法により計算した割増賃金の額を下回らないか否かを検討して、同法37条の定める割増賃金の支払がされたといえるか否かを判断
 
●年俸制:
単に労働に従事した時間をもとに賃金を支払うのではなく、労働者の具体的な成果、業績を評価して賃金を支払おうとするもの。

年俸制自体に労働時間規制を免れさせる効果があるわけではなく、管理監督者(労基法41条2号)又は裁量労働制(同法38条の3、38条の4)の要件を満たさない限り、使用者は、同法所定の割増賃金を支払うべき義務がある
。 

年俸制における割増賃金の計算:
労基法施行規則19条1項5号が規定。
行政実務上、確定年俸制については、確定年俸制の12分の1を基礎月額として計算。
年俸制における賞与を割増賃金の算定基礎から除外できるか否かについては、確定年俸額の一部を賞与月に多く配分するにすぎない場合には、当該賞与を基礎賃金から除外できない。(平成12年3月8日基収78号)
年俸制における賞与を割増賃金の算定基礎に含めて計算した下級審判例もある。
 
●本判決は、医療法人とその雇用する医師との間で、年俸制の下で割増賃金を月額給与に含める本件合意がされているという事実関係の下において、労基法37条の趣旨等を踏まえ、従前の判例法理を再確認し、判別要件を満たさなければ、同条の定める賃金を支払ったとういことはできないとしたもの

尚、原審は、Xの年俸制を認定しながら、Xの深夜労働等に対する割増賃金の計算は賞与を含まない給与月額を基礎としている⇒議論があり得る。

判例時報2351

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2018年1月27日 (土)

AIJ投資顧問年金資産消失事件で社外取締役の監視義務違反と常勤監査役の監査義務違反(否定)

東京地裁H28.7.14      
 
<事案>
いわゆるAIJ投資顧問年金資産消失事件に関連して、年金基金等に外国投資信託の受益証券を販売していた証券会社Aの代表取締役であったBにおいて同受益証券の一口当たりの純資産の額を偽るなどしたため、同受益証券を購入した年金基金等に対して合計235億円強の損害賠償義務を負担するという損害を被った
⇒Aの破産管財人XがAの社外取締役であったY1及び常勤監査役であったY2に対して損害賠償を請求。 

Xは、Y1には代表取締役の職務執行に対する監視義務違反があると主張し、Y2には同職務執行に対する監査義務違反があるとし、会社法423条1項に基づき、連帯して前記損害の一部である1億円の支払を求めた。
 
<規定>
会社法 第423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任) 
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う
 
<Xの主張>
Yらには、
①平成21年3月17日の取締役会において本件ファンドの一口当たりの純資産額に関する客観的かつ合理的な調査を行うよう上程すべき義務違反、
②同年7月頃本件ファンドの一口当たり純資産額に関して外部の第三者に対し調査を行うべき義務違反
③平成23年8月9日の取締役会において本件ファンドが顧客から解約請求を受けた際に同請求に係る口数を別の顧客等に対して相対取引の形で売却していたことの継続に関する客観的かつ合理的な調査を行うよう上程すべき義務違反
が認められる。 
 
<判断>
本件において、Yらに監視義務ないし監査義務の違反があるというためには、
Yらが、
本件ファインドの販売活動においてBが虚偽の一口当たり純資産額を用いていることを認識していたか、
又は少なくともこれを発見することができ若しくはこれに疑いを抱かせる事情が存在し、
かつ、Yらが当該事情を知り得たことが必要。

本判決が認定した事実には
①平成19年度及び平成20年度は日本株の期間騰落率が大きくマイナスとなっていたにもかかわらず、本件ファンドが高い収益を上げていたこと
②ある新興ヘッジファンドが急激な下落相場の中で不自然なほとに安定したリターンを出し続けているとして金融庁等が強い関心を示しているという内容の業界紙記事が平成21年3月17日の取締役会に報告されていたこと
③本件ファンドについて同年7月に100億円の解約請求があり、Yらもこの事実を認識していたと認められること
④相手取引の過程で、ファンド設置会社が顧客から一時的に本件ファンドを買い取ることがあったが、そのような買取りによってファンド設定会社が保有するに至った本件ファンドの在庫額は平成21年7月時点で約190億円になっており、Yらはこの事実を認識していたと推認されること
⑤平成22年3月頃及び平成23年3月頃にAが受ける信託報酬が引き下げられたこと、
⑥同年6月24日、Aはファンド設定会社に8億円を無担保で貸し付け、同年7月21日の取締役会で貸付金の弁済を受けた事実が報告されたこと
が含まれる。
but
Xが主張する前記各時点のいずれにおいても、本件ファンドについて虚偽の内容の一口当たりの純資産額が用いられていることを発見することができる事情又はこれに疑いを抱かせる事情が存在したということはできない

Yらには、①②③のいずれについても、Xの主張するような義務があったとはいえない
⇒Xの請求をいずれも棄却。

判例時報2351

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2018年1月26日 (金)

プリンターメーカーとトナーのリサイクル品メーカーとの争い(誤認惹起行為・商標権侵害)

大阪地裁H29.1.31      
 
<事案>
プリンター及び同プリンター用トナーカートリッジを製造販売しているX1及び同トナーカートリッジに付された商標の商標権者であるX2が、
使用済みの同トナーカートリッジにトナーを再充填したリサイクル品を製造販売しているYに対し、
Yの行為は不正競争(誤認惹起行為)及び商標権の侵害行為に該当するとして、
同リサイクル品の譲渡等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めた事案。 
 
<主な争点>
①Yの誤認惹起行為の成否
②Yの商標権侵害の成否
③Yの誤認惹起行為によるX1の損害額 
 
<規定>
不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十四 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為
 
<判断>
●誤認惹起行為の成否 
X1のプリンターは、純正品の又はRFIDが初期化されたリサイクル品のトナーカートリッジを装着すると、ディスプレイに「シテイノトナーカートリッジガソウチャクサレテイマス」と表示され、RFIDが初期化されていないトナーカートリッジを装着すると、ディスプレイに「シテイガイノトナーガソウチャクサレテイマス」と表示
Yは、リサイクル品を製造するに当たり、トナーカートリッジのRFIDを初期化していた。
トナーカートリッジの需要者は、「シテイトナー」を、プリンターメーカーであるX1がX1のプリンターに相応しい一定の品質、内容を有するものとして定めたトナーカートリッジであると理解
本件表示は「品質、内容」の表示である。

Yのリサイクル品がX1が指定したものでない⇒これを「シテイノトナー」と表示することは、これを見た者をしてX1に指定されたものと誤解させるもの
「誤認させるような表示」である。

本件表示はYのリサイクル品の外観に付されたものではない⇒Yのリサイクル品に接した何人でも認識できるような形で表示されているものではない。
but
不正競争防止法2条1項14号の趣旨
⇒本件表示のような表示のあり方も「商品」に「表示」をしていることになる

 
●商標権侵害の成否 
X1のトナーカートリッジは、その底面にX2が有する商標権に係る商標が本件に一体成形されているもの。

Yのリサイクル品は、その底面に純正品と変わりない態様で本件商標が付されているほか、本体及び梱包箱にリサイクル品であることが明記されている一方で、製造元等は全く記載されていない

Yのリサイクル品における本件商標の表示態様は、指定商品の出所を識別表示するもの⇒Yの行為は本件商標権の侵害を構成

①Yのリサイクル品に付されたリサイクル品である旨の表示だけでは本件商標の出所表示機能を打ち消す表示として不十分
②純正品メーカーがリサイクル品を製造することもある

商標権侵害の違法性は阻却されない。
 
●Yの誤認惹起行為によるX1の損害額 
①プリンターメーカーの製造に係るトナーカートリッジを購入する需要者の多くは、プリンターメーカーの製造に係るトナーカートリッジだけを購入し続けている
②Yのリサイクル品はリサイクル品であることがその包装箱等で明らかにされている

Yの受けた利益の額を50%減じた額がX1の損害の額
 
<解説>
●誤認惹起行為の成否 

◎本件表示が商品の「品質、内容・・・について」の表示か 
誤認惹起行為(不競法2条1項14号)の禁止は、虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定3条の2及び工業所有権の保護に関するパリ条約10条の2第3項3号に基づく義務を履行するためという性格
後者は、「産品の性質、製造方法、特徴、用途又は数量について公衆を誤らせるような取引上の表示及び主張」の禁止を求めている
but
ここでいう「性質」や「特徴」の内容は必ずしも明らかではない。
不正競争防止法2条1項14号に規定される商品役務の属性では到底足りない
⇒規定されている個々の属性を広く解釈する必要があるとする学説がある。

認定等の表示が商品の「品質、内容」についての表示であるとされた裁判例:
・建設大臣から付与された不燃認定番号を認定に係る資材と異なる資材に付すことが誤認惹起表示に該当するとされた事例。
電気用品安全所定の検査を受けていない商品に検査に合格した旨を示す表示を示すことが、実際の品質にかかわりなく誤認惹起表示に該当するとされた事例。

本件:
プリンターメーカーが純正品と非純正品がその品質、内容において異なり得ることを需要者に注意喚起しているなどの実態
⇒需要者は、「シティトナー」を、プリンターメーカーであるX1がX1のプリンターに相応しい一定の品質、内容を有するものついて定めたトナーカートリッジであると理解するとして、本件表示は「品質、内容」の表示。
 
◎本件表示が「商品」に「表示をし」たものか
パリ条約10条の2第3項3号は、
産品の性質等について、表示が何にどのように付されているかを問うことなく、「公衆を誤らせるような取引上の表示及び主張」の禁止を求めている。
 
●商標権侵害の成否 
指定商品に登録商標と同一の標章が付された場合であっても、商標権侵害が否定される場合:

標章の仕様が商標としての使用とはいえないとされる場合。
・特定のメーカーのファクシミリにのみ使用できるインクリボンに、そのメーカーのファクシミリに適合するものであることを示す旨の記載の一部としてそのメーカーのロゴを用いることは、ごく普通の表記態様であるとされた事例
・登録商標が付されたインクボトルを顧客から回収し、インクを充填してその顧客に納品する行為について、登録商標とインクの間に何らの関連性もないことが外形的に明らかであるとされた事例

②商標の類否の判断の場面において、打ち消し表示等により出所の混同が否定され、その結果商標が登録商標に類似しないとされることがあり得る。

③外形的には商標権を侵害する行為であっても、商標の機能である出所表示機能及び品質表示機能が害されることがないため、実質的に違法性がないとされる場合
 
●誤認惹起行為による損害額 
不正競争防止法 第5条(損害の額の推定等)

2 不正競争によって営業上の利益を侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。

不正競争防止法5条2項は損害自体の発生を推定するものではないところ、誤認惹起表示によってその表示が付された商品の需要が喚起されたとはいえない⇒誤認惹起行為により競合他社に損害が発生したとはいえない(大阪地裁H24.9.13)

本件:
①純正品のトナーカートリッジを購入する需要者は、純正品のトナーカートリッジを購入することを常としていて、リサイクル品を購入する需要者とは重複せず、市場が分かれているように見受けられる
②本件指定表示はYのリサイクル品をプリンターに装着した後数秒間表示されるに過ぎない上、この種のトナーカートリッジの需要者の多くは、業務用プリンターを使用しているような事業者であろうことが推認できるから、Yのリサイクル品の販売が品質誤認表示と関係なくもたらされていた可能性も大きくない

これらの事情は、不正競争防止法5条2項の推定を覆滅させる事情
 
●プリンターメーカーとリサイクル品メーカーとの争い
・プリンター等のカートリッジ等について商標権侵害の成否が争われた事例
・リサイクル品メーカーが使用済みのインクジェットプリンタ用インクタンクをリサイクル品とする行為が特許製品の新たな生産に該当するとして、この行為に対する特許権者による権利行使が認められた事例(最高裁H19.11.8)
トナーカートリッジの再生品をカラーレーザープリンターに装着した場合に、プリンター本体のパネルに「カートリッジフセイ」と表示させることなどが不公正な取引方法(独禁法19条)の規定に違反するおそれがあるとして、公正取引委員会がプリンターメーカーに対し審査を行った事例

本件は、そうした中で、誤認惹起行為の成否、商標権侵害の成否及び誤認惹起行為による損害額について判断したもの。

判例時報2351

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2018年1月25日 (木)

自立援助ホームで生活している高校性の就職手続に親権者が協力を拒む⇒親権停止の審判前の保全処分(肯定)

広島家裁H28.11.21      
 
<事案>
児童相談所長は、B(父)について親権停止の審判を求めるとともに、同審判が効力を生じるまでの間、親権者Bの未成年者に対する職務の停止及び職務代行者の選任を求める審判前の保全処分を申し立てた。 
 
<規定>
民法 第834条の2(親権停止の審判)
父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。

児童福祉法 第33条の7〔親権停止・喪失の請求等と児童相談所長〕
児童又は児童以外の満二十歳に満たない者(以下「児童等」という。)の親権者に係る民法第八百三十四条本文、第八百三十四条の二第一項、第八百三十五条又は第八百三十六条の規定による親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判の請求又はこれらの審判の取消しの請求は、これらの規定に定める者のほか、児童相談所長も、これを行うことができる。

家事手続法  第174条(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判事件を本案とする保全処分)
家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てがあった場合において、子の利益のため必要があると認めるときは、当該申立てをした者の申立てにより、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる。
 
<判断>
Bが、激しい暴力を振るった上、その後の合理的な理由もなく未成年者との一切の関わりを拒否して就職に必要な手続への協力等も拒んでいる
本案審判認容の蓋然性あり 

パスポートの取得等に当たっては親権者の同意が必要で、就職先の会社から指定された取得期限が迫っていることや、その他の就職に関する手続も翌年4月までの約4か月以内に行う必要がある
保全の必要性もある

⇒申立てを認容。

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2018年1月22日 (月)

自殺防止のために口腔内にタオル挿入⇒窒息死⇒国賠請求(肯定)

静岡地裁H29.2.2      
 
<事案>
亡Aの両親であるXらが、
警察官が亡Aの自殺防止のために口腔内に挿入したタオルにより気道が閉塞され、亡Aが死亡したとして、
警察官については、気道の確保に配慮した必要最小限度の措置を執るべき義務、亡Aを観察する義務、亡Aを救護する義務、救急隊員と相互に連携すべき義務に、
救急隊員については、亡Aを観察する義務、亡Aを救護する義務、警察官と相互に連携すべき義務に
それぞれ違反した

警察官が所属する愛知県警察を管理運営するY1(愛知県)及び
救急隊員が所属する瀬戸市消防本部を管理運営するY2(瀬戸市)に対し、
国賠法1条1項及び民法719条1項に基づき、
損害賠償の連帯支払を求めた事案。 
 
<争点>
①警察官及び救急隊員の注意義務違反緒有無
②注意義務違反行為と亡Aの死亡との因果関係の有無
③過失相殺の可否及び過失割合 
 
<判断>
●争点①について 

Xらは、タオルの挿入態様について、Xらは、事件後に瀬戸市消防本部が主催し、警察官も参加して行われた再現において、救急隊員が再現した亡Aの口腔内から取り出されたタオルの形状(捻じれて下に向かった錐体状になっており、上部は押しつぶされた釘の頭のように錐体の底面より少し広がった形状をしていた。)を根拠に、警察官が口腔内にタオルを深く捻じり入れたと主張。

Y1は、タオルをかませた際、タオルのほとんどの部分が亡Aの口から出ている状態であり、口腔内に深く挿入した事実はないと主張し、また、前記再現においては、タオルの形状について警察官の記憶と異なる際限がされた部分があり、異議を申し入れたが聞き入れられなかったと主張。

◎警察官の注意義務違反について
①警察官及び救急隊員が認識している事実関係を明確にするという前記再現の目的
②前記再現に同席した医師の証言等

前記再現において警察官の記憶と異なる再現がされた部分があったとのY1の主張を排斥。

タオルのほとんどの部分が亡Aの口腔内から出ていたとのY1の主張は、前記再現と矛盾しており、本件当時の状況に照らしても不自然である。
救急隊員の証言等

警察官がタオルを深く挿入し、それを押さえ続けたことが推認される

警察官に咬舌防止のための必要最小限度の措置を執る義務の違反があった

◎救急隊員の注意義務違反について 
救急隊員の証言等

救急隊員が亡Aの口腔内の奥深くまでタオルが挿入されていたことを認識し得た

亡Aの意識、呼吸、循環に障害が見られないかどうかを観察するに際し、タオルが気道を閉塞するおそれがあることを踏まえてより慎重に観察すべきである

目がうつろな様子で半開きの状態であった等の亡Aの様子を現認した救急隊員について、口からタオルを取り出すなどして救護すべき義務の違反等があった

●争点②について 
◎Y:亡Aには自傷行為により大量出血が見られ、亡Aの心停止は急性の精神的ストレスによる心疾患によるものである可能性が高い⇒タオルの挿入行為と亡Aの死亡との因果関係を争った。

①事件当日に作成された現場の写真撮影報告書に血痕等を確認できる写真はない
②救急隊員は大量出血を確認していない

亡Aの出血量はそれほど多いものではなく、出血が原因となって心停止に至ったとの高度の蓋然性を肯定することはできない

①急性の精神的ストレスが心疾患を引き起こして心停止に至る可能性が皆無でないことは否定できないとしつつも、心停止に至る事例は極めて少ない
②亡Aの司法解剖の結果では、心臓を含めた臓器等に脳循環不全の原因となるべき傷病を指摘できないとの意見が述べられている

精神的ストレスが原因となって心停止に至ったとの高度の蓋然性を肯定することはできない


①タオルの挿入態様
②亡Aの口から取り出されたタオルの形状
③事件後に行われた検証会の検討結果等

亡Aは、タオルを口腔内の奥深くまで挿入されたことにより、唾液を吸収していったタオルによって、あるいは、唾液を吸収していったタオルによって押し込まれた自分の舌によって、徐々に軌道が閉塞し、それによって窒息し、最終的に心停止に至ったものと推認される。

各注意義務違反行為と亡Aの死亡との因果関係を認めた。

出血及び精神的ストレスが心停止に影響した可能性が皆無であるとまでいうことはできず、この点は、争点③で考慮するのが相当。

●争点③について 
①出血及び精神的ストレスが心停止に影響した可能性が皆無であるとまでいうことはできず、これらはすべて亡A自身が招いた落ち度に起因する
②タオルをかませられる事態となったのも、亡Aが舌をかんで自殺を図ろうとしたため

他方で
③タオルの大部分を口腔内に深く挿入することにより、気道が閉塞し、窒息させるおそれがあることは明らかであった
④亡Aの抵抗は、バックボードに固定される頃には収まっていた

民法722条2項所定の過失相殺の法理を類推適用し、損害の5割を減額

判例時報2351

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2018年1月21日 (日)

交通事故で保険会社により支払われる遅延損害金の起算日が争われた事例

東京地裁H28.9.12      
 
<事案>
Xは、平成22年11月9日、歩行中に訴外Zが運転する自動車に衝突されて傷害を負い、同傷害による後遺障害が残存。

Zについて、平成25年12月16に破産手続が開始、その後、
Xが、Z被保険者、Z車を被保険自動車とする家庭用自動車総合保険(本件契約)の保険者である保険会社Yに対し、本件契約の約款(本件約款)に基づき、いわゆる直接請求権を行使し、本件事故による損害賠償額と事故日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める訴訟を提起。 

事故日から支払済みまでの遅延損害金を請求する法的根拠についてのXの主張:
①直接請求時にYがXに支払うべき損害賠償額に該当
②YのXに対する損害賠償額支払債務は事故時に遅滞に陥る
 
<判断>
遅延損害金の請求に関し、

Xの主張①について:
被保険者である加害者が損害賠償請求権者に対し支払義務を負う遅延損害金は、直接請求において保険会社が直接請求権者に支払うべき「損害賠償額」には含まれない 

Xの主張②について:
直接請求において、YのXに対する損害賠償額支払債務が遅滞に陥るのは、
約款により、請求完了日からその日を含めて30日を経過したとき


本件においける損害賠償請求に関する具体的な経緯を踏まえ、
Zの破産手続が開始し、XがYに対する直接請求権を行使できることとなったときに、直接請求が完了。
 
<解説>   
●本件約款は、保険会社が直接請求者に支払う損害賠償額を、
被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額(「α」)から自賠責保険等でてん補される金額を控除した金額とする旨を定める

X主張の遅延損害金は、不法行為による損害賠償義務の履行遅滞についての損害賠償であり、対人事故によって加害者が負担することになった損害賠償責任の額そのものとはいえない
加害者が被害者に支払義務を負う遅延損害金に関し、本件約款には、被保険者(加害者)が保険会社に対人賠償責任保険金を請求するときは、保険会社は、訴訟の判決による遅延損害金に限り支払う旨の規定がある

その遅延損害金はαと区別されており、αに含まれない。

一定の条件の下で保険会社が遅延損害金を支払う理由

保険会社が解決にあたる場合はもちろんのこと、被保険者自身が主体となって解決にあたる場合であっても、保険会社の争い方や解決の時期についての判断(裁判所の和解勧告を受け入れるか否かなど)が遅延損害金の額に影響する場合が強く、また、すべての危険から被保険者を守る
 
●約款が定めるYに対する直接請求の手続はとられていなかったことが窺われ、
本判決は、
訴え提起前のXとZとの間の示談や調停の経緯(Z側の行為者はYの示談代行担当者やZの代理人弁護士)を認定し、Xは継続して損害賠償の支払を求めていたと指摘、
Zの破産手続が開始してXが直接請求権を行使できることとなったときに、XのYに対する直接請求は完了
 
●被害者である原告が、加害者と保険会社を共同被告とし、加害者に対して損害賠償を請求するとともに、保険会社に対し、被保険者(加害者)に対する判決の確定を条件として損害賠償額の支払を請求する場合には、保険会社に対しても、交通事故の日を起算日とする遅延損害金の支払を命じるのが東京地裁の運用。 

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2018年1月20日 (土)

長男の意向を考慮し、終末期の延命措置をしないこととした医師の裁量判断等(過誤はなし)

東京地裁H28.11.17      
 
<事案>
Y1の開設する病院で入院中に死亡した亡Aの相続人であるXが、
亡Aは、同じく相続人であるY2が経鼻経管栄養の注入速度を速めたことにより嘔吐して誤嚥性肺炎を発症し、
Y2がその妻Y3と共に延命措置をせずに延命措置を実施しなかったため、続発した敗血症及び急性腎不全により死亡

Y1に対し債務不履行に基づき
Y2及びY3に対し共同不法行為に基づき
損害の賠償を求めた事案。 
 
<判断>
●Y2が経鼻経管栄養の注入速度を速めたことが違法か?
経鼻経管栄養は医療行為であり、嘔気、嘔吐、腹部膨満や腹痛などの副作用や誤嚥性肺炎の危険もある
医師の指示に基づかずに行った行為は違法
 
●Y1に対し、亡Aの家族に対し経鼻経管栄養の注入速度を変更しないように説明し、家族が注入速度を変更していないか確認すべき義務があるのに、これを怠ったとのXの主張について
患者の家族であっても、特段の必要性や緊急性もないのに、病院の医療機器を医師等に無断で操作してはならないことは、通常の識見を持った一般人にとって常識的なことであり、Y2ら家族が亡Aの経鼻経管栄養の注入速度を速めることを予見することは不可能

そもそもXの主張するような義務をY1が負っていたと認めることはできないとして、Xの主張を排斥。
 
●Y2が亡Aの延命措置を拒否したこと、Y1のB医師が延命措置を実施しなかったことが違法か? 

Y2が延命措置を拒否した点について、
延命措置についてどのような意見を述べるかは基本的に個人の自由

Y2が亡Aの延命措置を拒否したことをもって、それ自体が直ちに違法であるとは認められない

B医師について:
亡Aの意思について確認できない状態であった⇒延命措置について亡Aに説明しなかったことをもって注意義務違反があるとはいえない

B医師は、Y2を亡Aの家族のキーパーソンであると認識し、Y2の意見を参考にして延命措置をとらなかったのであるが、このような方法は不合理とはいえず、医師の裁量の範囲内
⇒Y1に責任はない

 
●Y2が経鼻経管栄養の注入速度を速めたことと亡Aの死亡の結果との間の因果関係 
①経鼻経管栄養の注入速度を変更しても最終的に注入される栄養剤の分量は変わらない
⇒注入速度の変更が原因となって嘔吐する場合には、経鼻経管栄養の最中又はその直後に嘔吐するのが自然であるといえるところ、亡Aが嘔吐したのは経鼻経管栄養が終了してから2時間以上経過してから
②8月15日の嘔吐は、ベッドに戻り臥位になった際の本位変換が影響している可能性が高い
③亡Aは糖尿病に罹患しており、気道及び尿路に感染症があった⇒8月15日の嘔吐とは無関係に誤嚥性肺炎を発症した可能性も否定できない

因果関係を否定
 
●相当程度の可能性及び期待権の侵害の有無 
いずれの法理も医師の職責の重大性を前提とするもの
⇒医師でなくその他の医療従事者でもない者については、これらの法理を適用する前提を欠く。


請求棄却。
 
<解説>
厚労省が平成19年5月に策定した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」に沿った判断をしている。
同ガイドラインによれば、
①患者の意思が確認できる場合には、専門的な医学的検討を踏まえた上でインフォームド・コンセントに基づく患者の意思決定を基本とし、
患者の意思が確認できない場合には、
ア:家族が患者の意思を推定できる⇒その意思を尊重
イ:家族が患者の意思を推定できない⇒患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者にとっての最善の治療方針を採る

大学病院において、脳内に再発した悪壊死脳腫瘍の治療として大量抗がん剤治療を受けた患者が、転医先の病院で死亡した事案において、医師が患者に対してこれ以上実施可能な治療はなく、症状が悪化しても延命措置しかできないことを説明し、家族は延命措置を採らないことを承諾したことを認定し、違法性はないと判示した大阪地裁H26.3.18

判例時報2351

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2018年1月19日 (金)

執行処分の取消し等の場合の執行費用の負担

最高裁H29.7.20      
 
<事案>
債権者Xの申立てにより開始された債務者Yの有する不動産の共有持分に対する強制競売手続が、Yの請求異議の訴えに係る請求を認容する確定判決で取消し⇒Xが、民執法20条の準用する民訴法73条1項の規定に基づき、それまでに支出された本件強制競売の執行費用をYの負担とすることを申し立て。 
 
<規定>
民執法 第20条(民事訴訟法の準用)
特別の定めがある場合を除き、民事執行の手続に関しては、民事訴訟法の規定を準用する。

民訴法 第73条(訴訟が裁判及び和解によらないで完結した場合等の取扱い)
訴訟が裁判及び和解によらないで完結したときは、申立てにより、第一審裁判所は決定で訴訟費用の負担を命じ、その裁判所の裁判所書記官はその決定が執行力を生じた後にその負担の額を定めなければならない。補助参加の申出の取下げ又は補助参加についての異議の取下げがあった場合も、同様とする。
2 第六十一条から第六十六条まで及び第七十一条第七項の規定は前項の申立てについての決定について、同条第二項及び第三項の規定は前項の申立てに関する裁判所書記官の処分について、同条第四項から第七項までの規定はその処分に対する異議の申立てについて準用する。

民訴法 第62条(不必要な行為があった場合等の負担)
裁判所は、事情により、勝訴の当事者に、その権利の伸張若しくは防御に必要でない行為によって生じた訴訟費用又は行為の時における訴訟の程度において相手方の権利の伸張若しくは防御に必要であった行為によって生じた訴訟費用の全部又は一部を負担させることができる。
 
<原審>
執行費用は、強制執行がその基本となる債務名義を遡及的に取り消す旨の裁判の確定により終了した場合を除き、債務者の負担とすべきものと解するのが相当
本件は、前記の場合に当たらない
本件強制競売の執行費用を債務者であるYの負担とすべき
 
<判断>
既にした執行処分の取消し等により強制執行が目的を達せずに終了した場合における執行費用の負担は、執行裁判所が、民事執行法20条において準用する民訴法73条の規定により定めるべき。 

①本件強制競売手続きが、Yの提起した請求異議の訴えに係る請求を認容する確定判決の正本が執行裁判所に提出されたことにより取り消されたもの
②前記請求が認容された理由は、本件強制競売の開始決定後にYが弁済供託をしたことにより本件請求債権が消滅したというもの
という事情を考慮して、
Xから民執法20条において準用する民訴法73条1項の裁判の申立てを受けた執行裁判所は、同条2項において準用する同法62条の規定に基づき、
本件強制競売の執行費用をYの負担とする旨の裁判
をすることができる。

本件強制競売の執行費用をYの負担とすべきものとした原審の判断を是認
 
<解説>
強制執行がその目的を達せずに終了した場合の執行費用の負担:
A:常に債権者の負担とするという見解

①強制執行が手続の途中において、申立ての取下げや手続の取消しにより、その目的を達せずに終了した場合には、それまでの手続及びその準備に要した費用については、結局必要であったものではないことに帰する
②民執法54条2項が、強制競売の手続の取消しに基づく差押登記の抹消嘱託に要する登録免許税その他の費用を差押債権者の負担とする旨を定めており、その理は、登録免許税等に限らず、それまでに要した費用についても当てはまる
vs.
執行費用も広い意味での訴訟費用に含まれると解されるところ、民事訴訟の場合には、一般に、訴訟の取り下げ等をするに至った事情等によっては、民訴法73条2項において準用する同法72条により、相手方に訴訟費用の全部又は一部を負担させることができると解されていることと比べて、そのような例外を一切認めないA説はバランスを欠く
抹消の嘱託に関する費用は執行費用そのものではないので、あえて、強制執行が手続の途中において、申立ての取下げや手続の取消しにより終了したときの執行費用の負担者を民執法54条2項と同じにすべき必然性はない
民訴法85条が、強制執行が途中で終了した場合に、同法73条による執行費用の負担の裁判を求めることができることを前提としていると解される

B:強制執行が終了するに至った事情を踏まえて負担について定める
B2:民執法20条において準用する民訴法73条1項の裁判手続の中で、同条2項において準用する民訴法の訴訟費用の負担に関する規定に基づいて定める

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2018年1月18日 (木)

個人情報漏えいの損害賠償請求

最高裁H29.10.23       

<事案>
Xが、通信教育等を目的とする会社であるYにおいてその管理していたXの個人情報を過失によって外部に漏えいしたことにより精神的苦痛を被った
⇒不法行為に基づき慰謝料10万円及び遅延損害金の支払を求める事案。

<事実> 
Yが管理していたAの氏名、性別、生年月日、郵便番号、住所、電話番号、保護者名(「本件個人情報」)が遅くとも平成26年6月下旬頃までにYの外部に漏えい。
本件漏えいは、Yのシステムの開発、運用を行っていた会社の業務委託先の従業員であったBが、YのデータベースからYの顧客等に係る情報を不正に持ち出したことにより生じたもの。
Bは、持ち出した前記の個人情報の全部又は一部を複数の名簿業者に売却。 
 
<一審>
Yの過失によるものであることを基礎付けるに足りる具体的事情の主張立証がない⇒Xの請求を棄却。 
 
<原審>
・・・・そのような不快感等を抱いただけでは、これを被侵害利益として、直ちに損害賠償を求めることはできない。
そして、本件漏えいによって、Xが迷惑行為を受けているとか、財産的な損害を被ったなど、前記の不快感等を超える損害を被ったことについての主張、立証はない。
⇒Xの請求を棄却。 
 
<判断>
本件の事実関係の下では、本件漏えいによってXはそのプライバシーを侵害されたといえる。
原審は、前記のプライバシー侵害によるXの精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく、不快感等を超える損害の発生についての主張、立証がされていないということのみから直ちにXの請求を棄却すべきものとしたものであり、そのような原審の判断には、不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果、前記の点について審理を尽くさなかった違法がある。

原判決を破棄し、Yの過失の有無や前記の損害論について更に審理をさせるために本件を原審に差し戻した。 
 
<解説>
一般に、プライバシーに該当する情報の開示が違法となるか否か:
①それについての定型的な推定的同意が認められるか否か
②受忍限度の範囲内といえるか否か、
③公益が優先される場合か否か
などといった観点を踏まえ、
当該情報の内容や開示の態様を総合考慮して判断。 

本件のような個人情報の流出による精神的損害の有無及びその程度等については、社会通念等をも勘案しつつ、ある程度、類型的に把握されるべきもの。
流出した個人情報の内容、流出した範囲、実害の有無、個人情報を管理していた者による対応措置の内容等、それぞれの事案に表れた事情を総合的に考慮して判断されるべき。

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2018年1月17日 (水)

認定司法書士が弁護士法72条に違反して締結した和解契約の効力

最高裁H29.7.24      
 
<原判決>
補助参加人(認定司法書士)が代理人として本件和解契約を締結した行為は、公益規定である弁護士法72条に違反
⇒この点に関する補助参加人とAとの間の本件委任契約は無効
⇒本件和解契約も、そのような委任契約に基づいて締結されたという点において、無効。
⇒被上告人(Aの破産管財人)の請求を認容。 
 
<判断>
認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが弁護士法72条に違反する場合であっても、
当該和解契約は、その内容及び締結に至る経緯等に照らし、公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り、無効とはならない。
本件事情によれば、公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情はうかがわれず、本件和解契約を無効ということはできない。

被上告人の請求を棄却した第1審判決の結論は正当であるとして、控訴を棄却。
 
<解説> 
●最高裁判例 

最高裁昭和38.6.13:
非弁護士が、依頼者との間で締結した、債権の取立てに成功した場合には取立金額から訴訟費用を控除した残額の半分を報酬として受け取るという契約に基づき、報酬を請求した事案について、
弁護士法72条に抵触する委任契約は民法90条に照らして無効⇒非弁護士による報酬請求は棄却すべきもの。

最高裁昭和46.7.14:
弁護士法72条本文の法意について、
弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行うことをその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講じられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになる
同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられる

最高裁H28.6.27:
司法書士法3条1項7号にいう「紛争の目的の価額」をどのように算定するかについて、
債務整理を依頼された認定司法書士は、当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が司法書士法3条1項7号に規定する額を超える場合には、その債権に係る裁判外の和解について代理することができない

債権額説(債権者が主張する残元金額をいう)
個別説(個別の債権ごとに算定)
をとることを明らかにした。
 
●法令に違反する契約の効力 
当該法令が法律行為を無効とするものか否かについて、
法令違反行為を無効とすることが禁止目的達成のために必要かどうか
違反行為が公序良俗に反するかどうか
違反行為を無効とすることによって当事者相互間に不公正が生じないかどうか
という3要素を考慮して決する。
(末弘、今日でも通説)

弁護士法72条に違反して、j弁護士でない者が代理人として締結した契約の効力:
〇A非無効説
弁護士法72条に違反して締結された委任契約の効力と、当該委任契約を締結した非弁護士が委任者を代理して締結した契約の効力は、別個に判断されるべき。
 

×A:弁護士法72条に違反して締結された委任契約が民法90条に照らして無効となる⇒非弁護士による代理行為が無権代理となり無効となるとする説
but
代理権授与行為自体は存在しており、典型的な無権代理とは異なる。
本判決は、本件和解契約を有効と判断⇒認定司法書士との間で弁護士法72条に違反して委任契約が締結された場合でも、代理権授与は無効とはならないと解しているものと思われる。 

判例時報2351

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2018年1月16日 (火)

第一種少年院に送致した原決定の処分が、著しく不当であるとして、取り消された事例

大阪高裁H28.11.10      
 
<事案> 
少年(非行時17歳)が約2か月の間に、
①原動機付き自転車の無免許運転をし
②共犯少年と共謀の上、歩道上の車止め3本を数人共同して損壊し
③普通乗用自動車の無免許運転をした
事案。 
 
原審:短期間の処遇勧告を付して少年を第1種少年院に送致
⇒少年は、処分の著しい不当を理由に抗告
⇒本決定:抗告に理由があるものと認め、原決定を取り消して、事件を原審に差し戻した。
 
<解説> 
●非行事実と要保護性 
少年法は、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことを目的として(少年法1条)、
罪を犯した少年等を対象に、
要保護性の程度に応じて、
保護観察や少年院送致等の保護処分を用意。(同法3条、24条)

非行事実には、少年の資質・環境に関する問題点が顕在化しているといえる
⇒非行事実の罪責(行為の客観的な悪質性のほか、少年がそのような非行に及んだことに対する非難の強さ)を検討することは、少年の要保護性の程度を判断する上で重要。

要保護性の検討の方が(量刑の検討よりも)、より動機、経緯、少年の性格等の背景事情等も踏まえ、なぜ少年が当該非行に及んでしまったのかという観点からの検討に重きがおかれる。

保護処分は、少年に対して性格の矯正や環境の調整を行うもの
⇒要保護性を判断する上では、
少年の資質や環境の各問題点を、鑑別所技官及び家庭裁判所調査官の各報告書や審判廷における尋問等を通じて、直接的に検討することも重要。

多くの場合、非行事実の重大性と要保護性とは相関関係にある
but
場合によっては、非行事実の検討だけでは必ずしも明らかにならなかった少年の資質あるいは環境に関する問題点の実情が明らかとなって、非行事実で検討したところよりも要保護性が高いと判断されたり、
逆に、非行事実で検討したところほど要保護性は高くないと判断されたりすることもあり得る。
 
●本件について 
◎ 本件各非行事実は、それだけに着目すれば重大な事案ではない
原決定のように少年院送致を結論づける文脈において悪質な非行と評価するためには、そのことを合理的に根拠付け得る理由が必要になる。

原決定が指摘する少年の資質傾向や問題点は、非行に及ぶ少年であれば大かれ少なかれ有している。
本件各非行は重大な事案ではない⇒そのような資質傾向等が本件各非行に結びついていることを明らかにしても、そのことから直ちに、資質傾向等に根深い問題があるとはいえない。
少年の非行歴や本件各非行前後の行動等⇒その顕在化は一時的なもの⇒少年の資質傾向は施設収容しなければ改善できないほど深刻なものであるとはいえない

◎少年の資質等の問題の根深さを量るためには、
非行時だけでなく、
その資質等が顕在化した非行歴の有無・内容、
非行前後に少年が取った行動、
少年が持っている良い資質等も併せて考慮し、
資質等を強制して再非行を防止することの難易度を検討しなければならない。
多角的な検討が不可欠

◎保護者に監護意欲が欠如しているとか、監護意欲はあるものの看護方法が甚だしく不適切で改善の見通しも立たないとか、少年と保護者の基本的な親子関係に問題があってそれが少年の更生の妨げになるとか、少年が家庭から離反してしまっている

保護者による教育に期待することはできない
⇒施設収容に傾く
少年の資質上の問題等が根深い⇒専門的で系統的な矯正教育が必要
⇒保護環境の問題点を検討するまでもなく、施設収容に傾くことが多い。

一般短期処遇勧告付きの事案には、収容処分が相当なのか在宅処遇がまだ行えるのかなど、収容処分相当性の判断が微妙となる事案が含まれていることが少なくない。 

判例時報2350

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2018年1月15日 (月)

いわゆるAIJ投資顧問年金資産消失事件で、信託契約の受託者による、信託財産に属する債権と信託財産に属さない債権との間の相殺(肯定)

東京地裁H28.11.25      
 
<事案>
いわゆるAIJ投資顧問年金資産消失事件において、年金基金と信託契約を締結した信託銀行が、信託財産に属する破産者に対する損害賠償債権と、信託財産に属さない破産者の預金債権を相殺することの有効性の可否等が問題となった事案。 
 
Xらはいずれも厚生年金の給付を行う厚生年金基金。
Xらを含む厚生年金基金は、弁護士Y1に対し、被害回復対応のための一切の件の処理を委任。
A信託銀行らは、裁判所に対し、(AIJが実質的に支配する)C証券や同社の社長であるDに対する破産開始の申立て⇒裁判所は、C証券及びDに対しする破産手続きを開始し、Y2を破産管財人に選任。

E信託銀行、F銀行は、多数の厚生年金基金から年金資産の受託を受けていたところ、その受託資産の一部をG信託銀行に再信託(E、F、Gを「3行」という。)。
3行は、AIJ問題により、本件ファンドに投資した信託財産について損害を受け、破産者であるC証券及び同Dに対する損害賠償請求権を取得。

それぞれ、信託財産に属する破産者C証券及び同Dに対する損害賠償請求権と信託財産に属しない破産者C証券及び同Dに対する預金債務とを対当額で相殺(「本件各相殺」)。

相殺に供された受働債権(3行の破産者C証券及びDに対する預金債権)は、Xらに対しては配当されなかった。

Xらは、本件各相殺は無効であり、Y1及びY2に対し、配当すべき金員が各厚生年金基金の被害額に応じて公平に分配されるようにする義務に違反していると主張。
 
<規定>
破産法 第67条(相殺権) 
破産債権者は、破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで、相殺をすることができる。

信託法 第31条(利益相反行為の制限)
受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。
一 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。
二 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。
三 第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの
四 信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

2 前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第二号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。
一 信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。
二 受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。
三 相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。
四 受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき
 
<判断>
破産法67条を適用して相殺ができるかという点について、
一般に、信託財産に属する債権が成立する際に、信託財産に属しない債務との対立状態が生じた場合には、
受託者は、信託財産に属する債権を信託財産に属しない財務との相殺により、債権の回収をすることへの合理的な期待を有している。

信託法は平成18年に改正されたが、
同法22条1項は第三者が行う相殺について制限規定を置く一方で、受託者は、信託財産に属する債権を自働債権とし、信託財産に属しない債務を受働債権とする相殺を行うことを禁止する規定は置いていない。

かかる相殺の可否は、利益相反行為の制限など受託者の忠実義務に関する一般的な規定に委ねられている

利益相反行為の例外に当たる場合には、かかる相殺は許されると解するのが相当。
本件各相殺により、信託財産が減少⇒受益者である厚生年金基金らと受託者である3行との間で利益相反が生じる。
but
本件のように、受託者により、信託財産に属さない固有財産から、信託財産へと補償がされる場合には、信託財産の減少を免れることができる

正当な理由があり、信託法31条2項4号により、利益相反行為としての制限を受けない
破産法71条、72条の相殺禁止事由にも当たらない。
 
<解説>
本件の最大の争点は、信託契約の受託者が、信託財産に属する債権と信託財産に属しない債務との間で相殺することが許されるかという点。 
相殺した後に信託財産に対し補償がされれば、信託財産にとってメリットがある

利益相反取引の例外の要件(新法31条2項)を満たしたうえで補償がされれば相殺してよい。(学説)

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2018年1月14日 (日)

カイロプラクティック施術による頚椎損傷⇒後遺障害⇒損害賠償(肯定)

東京地裁H28.11.9      
 
<事案>
Yからカイロプラクティック施術を受けたXが、同施術により頚椎を損傷され、8級相当の後遺障害が生じた⇒
Yに対し、
主位的には不法行為
予備的には債務不履行
を理由として5296万円余の損害賠償を提起。 
 
<争点>
①平成16年11月20日に、Yから本件施術を受け受傷したか?
②本件施術と相当因果関係のある損害及び額 
 
<判断>
①Xの手帳の平成16年11月20日欄に「カイロ」との記載がある
②X及びその母はYを紹介してくれた者に苦情の手紙を送付
③Xは本件施術を受けた約1か月以降に受けた医療機関のほとんどにおいて一貫して、本件施術について、首をボキッとされたなどとする表現を繰り返している

Xは、平成16年11月20日、Yから本件施術を受けたと認定。 
 
①Xは本件施術後約1か月後にH1病院を受診し、本件施術後約1週間後から後頚部痛を訴え、その後も複数の病院で同様の訴えを繰り返している
②Xの訴える痛みの部位はほぼ同一であり、Xが本件施術前に訴えていた痛みとは異質なものであり、筋傷害が疑われていた
③カイロプラクティックにおける頚椎に対する急激な回転伸展操作を加える手技は患者の身体に損傷を与える危険が大きいため禁止されている
④本件施術以外に平成16年11月20日頃にXの僧帽筋の付着部の腱に断絶が生じるような事象は見当たらない

Xの施術により、Xの僧帽筋(左上側)の付着部(両側)の腱に断裂が生じた。

本件施術によってXに生じた傷害は僧帽筋の腱の付着部の断裂に留まるところ、平成19年3月22日には、症状が固定し、局部に頑固な神経症状が残るものであり、これは後遺障害等級12級13号に該当。
本件施術と相当因果関係のある損害は1330万円余。
 
主位的請求である不法行為に基づく請求権は消滅時効により消滅。
債務不履行に基づき前記の損害を認めた。

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2018年1月13日 (土)

外国船舶の衝突事故の案件についての弁護過誤の案件

広島高裁H29.6.1      
 
<事案>
Xは、広島湾において牡蠣の養殖業を営んでいるもの。

平成24年12月11日、広島湾を航行していたカンボジア王国籍の機船A号が、Xの設置していた牡蠣筏に衝突してこれを損壊する事故が発生。
A号は平成25年1月、中国から日本に向かい、千葉港において鉄くず等を積載した後、中国に向けて航行していたが、同月18日、淡路島東方沖にて積み荷の火災を起こし、神戸港に緊急入港し、同年3月22日まで神戸港に停泊。
その後中国に向け出港。

Xは、Y(受任弁護士)がXの損害回復に必要な措置を講ずべき注意義務に違反したため、A号の所有者等から損害賠償を受けることができなかった。
⇒Yに対して、委任契約の債務不履行による損害賠償を請求。
 
<一審>
Yの注意義務違反を否定。
 
<判断>
①A号が外国船舶であり、交渉中に国外に出たら執行が容易でなくなること、A号の船主には見るべき財産がないこと
Yには、責任財産の保全等、加害者側からの支払を確保するための措置を講じるべき注意義務があった

船舶の衝突事故の場合、相手船の保険者等の保証状を提供させることが、世界的な慣行であるにもかかわらず、
Yが、保証状の発行を検討し、実行に移すべき措置を講じなかった

善管注意義務違反がある。
⇒Yの債務不履行の責任を肯定し、原判決を変更し、Xの請求を一部認容。

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2018年1月12日 (金)

譲渡禁止特約のある指名債権の譲渡者の破産管財人と、特約の存在を知って譲り受けた者の関係

大阪高裁H29.3.3      
 
<事案>
譲渡禁止特約のある指名債権の譲渡人の破産管財人は、かかる特約の存在を知って譲り受けた者に対し、債権譲渡の無効を主張することができるか否かが問題となった事案。 

Xは、平成26年9月29日、Aとの間で、AがXに対して同日時点で負担し、又は将来負担することのある一切の債務の弁済を担保するため、Aが同日から平成31年9月28日までの間に顧客に対して取得する商品販売契約に基づく売掛債権を譲渡する旨の本件集合債権譲渡担保契約を締結。
Xは、平成26年10月22日、本件集合債権譲渡担保契約について、動産債権譲渡法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)4条1項に基づき、債権譲渡登記ファイルの譲渡の登記。
Aは、平成27年12月11日到達の書面をもって、Xに対し、支払不能の状態になっており、破産手続開始の申立てをする旨通知。
Aは、顧客であるBとの間の商品販売契約に基づき、平成26年9月29日から平成27年12月11日までの間に、Bに対し、380万1763円の本件売掛債権を有していたところ、本件売掛債権には譲渡禁止特約があったが、Xはそれについて悪意であった。
Xは、平成27年12月21到達の内容証明郵便で、Bに対し、本件売掛金債権を自己に支払うよう通知。

同月25日、Aに破産開始決定が出され、Yが破産管財人に選任され、Yも、Bに対し、本件売掛債権の支払を請求。
Bは、X、Yのいずれが真の債権者か確知できないとして、本件売掛債権につき相殺後の366万2613円について供託。

X、Y双方は、自己が本件供託金の還付請求権を有することの確認を求め、Xは本訴請求を、Yは反訴請求をそれぞれ提起。
 
<Xの主張>
最高裁H21.3.27によれば、譲渡禁止特約に反して債権が譲渡された場合において、債務者以外の者は、債務者に譲渡の無効を主張する意思が明らかであるなど独自の利益を有するときに限り、その無効を主張することが許されると解されるところ、破産管財人であるYはそのような利益を有していない⇒Yは本件債権譲渡の無効を主張することができない。 
 
<Yの主張>
最高裁H9.6.5によれば、債権譲渡禁止特約のある債権について、譲受人が特約の存在を知って譲り受けた場合には、民法116条の法意に照らし、差押債権者等の第三者の権利を害することはできないと解されるところ、
本件においては、Xは譲渡禁止特約のあることを知って本件売掛債権を譲り受けたところ、Bはかかる債権譲渡について承諾を与えていない
⇒本件債権譲渡は無効。 
 
<判断>
平成21年最判
⇒本件において、譲渡禁止特約のある本件売掛債権のAからXへの債権譲渡につき債務者であるBが承諾を与えていない以上、本件債権譲渡は無効
本件売掛債権は、Aの破産手続開始決定によりAの破産財団を構成するものであり、本件還付債権はYに帰属。 

Xは、平成21年最判を援用するが、
同判決は、譲渡禁止特約に反して債権を譲渡した債権者自身が同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張すること許さない旨判示したものにとどまるものであって、それ以外の者が譲渡の無効を主張することの可否についてまで判示したものではない。
 
<解説>
平成9年最判⇒譲渡禁止特約に反してされた債権譲渡は無効⇒かかる特約があることを知りながら債権を譲り受けた者は、債権を取得できないのが原則。

平成21年最判は、無効を誰もが主張できると解するのではなく、譲渡禁止特約は誰を保護するために無効とされているのかという法の趣旨を考慮して無効を主張する者の範囲を限定。 

平成21年最判の射程:
差押債権者・破産管財人について、下級審で、肯定例と否定例。

判例時報2350

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2018年1月11日 (木)

原爆症認定申請に対する却下処分の取消訴訟と国賠請求

名古屋地裁H28.9.14      
 
<事案>
広島市又は長崎市に投下された原子爆弾に被ばくした原告ら(4名)が、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)1条1項に基づいて原爆症認定申請⇒厚生労働大臣がこれらを却下⇒
各却下処分の取消しを求めるとともに、
前記各却下処分は違法であるとして、国賠法1条1項に基づき、慰謝料として300万円の損害賠償等を求めた事案。 
 
<争点>
原告らの各原爆症認定申請に係る各疾病(各申請疾病)が、
被爆者援護法10条1項にいう
「原子爆弾の放射能に起因」するものであるか(放射線起因性)及び
「現に医療を要する状態」にあるか(要医療性) 
 
<判断>   
●放射線起因性

放射線起因性の立証の程度等について、
最高裁H12.7.18を引用し、
高度の蓋然性が必要であるとした上で、

その具体的な判断方法として、
当該被爆者の放射線への被曝の程度と、
統計学的、疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝との関連性の有無及びその程度とを
中心的な考慮要素としつつ、
これに当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して、
原爆放射線の被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を将来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当。

その上で、原告らの各申請疾病について、いずれもその放射線起因性を肯定。
 
●要医療性 

①被爆者援護法7条に規定する健康診断において、視診等の検査や、血液検査、エックス線検査等の各種検査を行うことが可能(同法施行規則9条)であるところ、
これらは、同法10条2項にいう「診察」ないし「医学的処置」というべきであるにもかかわらず、同法において、これらは「医療」(同法第3章3節)とは区別された「健康管理」(同章第2節)として揚げられている
②「負傷し、又は疾病にかかり、現に医療を要する状態にある」(同法10条1項)という文言の自然な意味内容等

被爆者が積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察が必要な状態にあるような場合には、同法上、原則として健康管理としての検査等によって対応すべきであって、当該疾病等につき再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情がない限り、前記検査等は「医療」には当たらない

X2の肺がん及び乳がんについて:
いずれも、経過観察を受けているにとどまる状態であるところ、その病期がⅠであり、術後相当期間を経過している
再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情があるとまでは認められない
要医療性を認められない

X3の慢性甲状腺炎:
①積極的な治療行為を伴わない経過観察がされていたにとどまり、当該疾病につき悪化の可能性が高い等の特段の事情があったとは認められない、
②1年に1回程度の定期検査により経過観察を行うことで足りる⇒被曝者援護法条の健康管理としての検査等によってX3の病状に対応することができないとみるべき事情は存在しない。
要医療性は認められない。 
 
●原告らの国家賠償請求について:
厚生労働大臣は原爆症認定請求につき疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で前記各処分をしており、同意権を尊重すべきでない特段の事情も認められない

厚生労働大臣の前記処分等について国賠法上の違法性は認められず、国賠請求は理由がない。 

判例時報2350

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2018年1月10日 (水)

関税法違反とWTO農業協定の効力(直接効力を否定)

東京高裁H28.8.26      
 
<事案>
食料品等の販売及び輸入等の事業を営む被告会社の実質的経営者である被告人が、カナダ等から外国産冷凍豚部分肉を輸入するに当たり、豚肉の単位が関税負担の最小となる分岐点価格に近似する価格であるかのように仮装し、不正に関税を免れようと企て、虚偽の価格を記載した仕入書(インボイス)に基づいて、内容虚偽の輸入申告を行い、その都度輸入許可を受けて、関税合計17億4919万3000円を免れたという関税法違反の事案。
 
<判断・解説>
●法令適用の主張について
WTO農業協定4条2項は、我が国の裁判規範として直接適用されるものではなく、関税暫定措置法2条2項、別表第1の3は、WTO農業協定に違反して無効となるものではないとして、一審判決を是認。 

◎ 条約の国内効力の問題と条約の直接適用可能性の問題は区別されるべき。 
条約の直接適用可能性の有無については、条約当事者の意思(主観的基準)及び規定の明確性(客観的規準)によって決するのが相当。
その場合、一般に、条約自体は、締結した当事国が、その国際義務の遵守を要求することができるにとどまり、国家は国内法秩序における条約の実現について任されているのであって、これが国民の権利義務にかかわる裁判規範たり得るためには、条約当事国が直接適用する意思をもって条約を締結した場合に限られ、規定の明確性は、条約を直接適用するという条約当事国の意思の存在を前提に、私人の権利を規定する裁判規範として備えるべき要件にほかならない。

◎ WTO規定は、加盟国間の紛争に関して統一的に適用される紛争解決手続を規定し、加盟国に対し、同協定を巡る紛争について、すべて司法に準じたことの規則及び手続に従って解決することを義務付け、
加えて、紛争当事国間で事前に行われる協議に関しても規定して、
国内における司法審査においては、このような協議等の機会を奪われることになる

我が国の意思としては、協定違反の是正について、国内における司法審査を前提としていないものと解するのが相当
主要加盟国であるアメリカ合衆国及びEU(欧州連合)が、直接適用可能性を明示的に否定。

我が国は、特段の意思により直接適用を肯定した条項を除いたその他のWTO協定について、直接適用可能性を有するものとしてこれを締結したと解することはできない

WTO農業協定4条2項の直接適用可能性を否定。

●解説
条約が国内的効力を有するか否かについては、各国によって異なるが、
我が国においては、条約の誠実順守義務を定めた憲法98条2項の趣旨から、
条約は批准・公布により、国内法固有の形式に変形することなく、すなわち特段の立法措置を待つまでもなく、そのまま国法の一形式として受容されて、国内的効力を有すると解されている(包括的受容説)。
but
条約は、その国内的実施方法の観点から、
それ自体がそのまま「直接適用可能な」(または、「自動執行的な」)条約と、
立法措置など何らかの国内的措置を通じていわば間接的に適用される条約
に区別される。

条約の直接適用可能性の基準については、
直接適用可能か否かが問題とされるのは条約全体ではなく、個々の規定であり、まずは条約全体について検討し、次に個々の規定について検討されることが多いとした上で、
主観的基準(条約当事国の意思)と
客観的基準(規定の明確性)
を考察して直接適用可能性の有無を判断

 
●量刑不当の論旨について 
関税法違反の事案における量刑において重視すべきは、保護すべき当該国内産業に対する侵害の程度であって、当該輸入貨物の内容・性質、量及び価格並びに当該輸入取引の内容等を総合考慮して判断するのが相当であり、
ほ脱額及びほ脱率は、保護すべき当該国内差b業に及ぼす影響の程度を示す指標として把握するのが相当。

判例時報2349

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2018年1月 9日 (火)

オウム真理教事件に関与し逃亡していた被告人の事案

東京高裁H28.9.7      
 
<事案>
オウム真理教による一連の組織的犯行の後に逃亡⇒17年後に逮捕起訴。
裁判員裁判で、全事件について故意及び共謀等を争ったが、全事件について共同正犯として有罪で、無期懲役。
⇒控訴。
 
<規定>
刑訴法 第157条の3〔証人尋問の際の証人と被告人・傍聴人との間の遮蔽措置〕
裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前(次条第一項に規定する方法による場合を含む。)において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、被告人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。ただし、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置については、弁護人が出頭している場合に限り、採ることができる。
②裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。
 
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

憲法 第82条〔裁判の公開〕
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

刑訴法 第281条〔公判期日外の証人尋問〕
証人については、裁判所は、第百五十八条に掲げる事項を考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き必要と認めるときに限り、公判期日外においてこれを尋問することができる。

刑訴法 第158条〔裁判所外・現在場所での証人尋問〕
裁判所は、証人の重要性、年齢、職業、健康状態その他の事情と事案の軽重とを考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、必要と認めるときは、裁判所外にこれを召喚し、又はその現在場所でこれを尋問することができる。
 
<判断・解説> 
●証人尋問に係る訴訟手続の法令違反 
◎証人尋問請求の却下 
教団代表者及び共犯者1名に対する証人尋問請求の却下の違法性を主張
but
両証人の必要性は乏しく所論の違法はない。
 
◎死刑確定者5名の証人尋問における遮へい措置 
最高裁H17.4.14に従って、刑訴法157条の3第2項は憲法37条1項、2項、82条1項に違反しない。
裁判の公開は証人の供述態度や表情を傍聴人に認識させることは要請していない
②本件は一連のオウム真理教事件の一部である
③死刑確定者が、一般的な証人とは異なる心身の状態にあることは容易に推察され、刑事収容法32条1項に沿って死刑確定者の心情の安定に配慮する必要がある
遮へい措置は不要であるという証人の上申には拘束されない

原審の措置に違法はない。

刑訴法157条の3第2項は、「犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは」と定めているところ、
本判決は、遮へい措置をとる積極的な事情としては、事件の性質と死刑確定者の心情の安定を指摘するにとどめている。
 
公判期日外における証人尋問の実施 
①事件の重大性、
②証人の重要性、
③同証人は再度出頭すれば報道されて失職するおそれがあり、出頭に伴う負担や影響が相当大きい、
④勾引すればかえって失職の可能性が高まる、
⑤裁判員の心証形成のためには審理計画のとおり訴因ごとの証拠調べが望ましい
⇒原審の措置に違法なし。

尚、脅迫の被害者で多忙な国会議員の証人尋問を受訴裁判所外で行った措置を適法とした事例(東京高裁H20.9.29)
 
●VX事件(殺人、同未遂) 
教団関係者が教団の敵対者とされた被害者2名に神経剤VXをかけた殺人及び殺人未遂
被告人は、運転手又は実行役の同行者などとして関与
 
◎殺意 
①被告人が本件前の別の被害者にVXをかけた事件に際し、共犯者からポアするなどと聞いた
②被告人はポアが殺人を意味することは分かっていた

被告人は本件謀議の場に居合わせて話合いの意味を理解し、
VXの殺傷能力も認識していた

被告人は、各被害者にVXをかけることについて、人を死亡させる危険性が高い行為をあえて行うという、殺意と評価できる認識を有していた。
 
◎共同正犯 

原判決:
運転手として重要な役割を果たし(V1事件)、又は実行役に同行して実行行為に準じた重要な行為をした(V2事件)という客観的事情
VX事件は強い精神的一体性を有する教団に属する被告人の目的でもあり、被告人は自己の宗教的な利益を得ようとしたことなどの主観的事情
被告人は自己の犯罪を犯したと評価できるとして共同正犯の成立を認めた。

本判決は、原判決の判断も是認し
運転手が代替可能であることや犯行の計画に関与していないことは、直ちに役割の重要性を否定しない。
ただし、「実行行為を担当するなど、結果発生のために重要な寄与をしている場合は、それ自体だけでも自己の犯罪を犯したと評価するのに大きな事情となるはずである。」と説示し、原判決よりも客観的な寄与を重視している。
 
●V3事件 
教団関係者が、教団信者の実兄V3を自働車に押し込み、教団施設に連れ込んで監禁し、大量の麻酔剤を投与して意識喪失に陥らせて死亡させ、その死体を焼却した事案。
被告人は、被害者を車に押し込んで教団施設に運び込み、死体を焼却場所に運ぶなどして関与した。
 
◎逮捕監禁についての意思連絡 
共謀の前提となる構成要件的故意の内容としても、自己の行為が人の身体・行動の自由を侵害するものであることを認識認容していれば足りる。

被告人は、被害者を逮捕監禁することの認識は十分有しており、被害者を自動車に押し込む時点で麻酔剤を投与することまで認識していたと認められないことは、逮捕監禁の意思連絡を認定する妨げにはならない。

被告人は被害者を車内に押し込んでから教団施設に至る間において、実際に被害者が注射をされて意識を失ったことを認識しながら行動を共にしている

薬物を使用して被害者を意識喪失状態にして監禁することについての意思連絡も認められる。
 
◎致死結果への帰責性 

原判決:
薬物使用に関する被告人の認識及び意思連絡を積極的に認定していなかったが、致死罪の成立については、被告人が本件逮捕監禁の主要部分(骨格)について共犯者と意思連絡をしたと評価できる以上、その逮捕監禁の流れの中で、被告人が事前に認識していなかった共犯者の行為(麻酔剤の投与)があったとしても、その行為による致死結果についても責任を負う。

共犯者の一部が具体的な意思連絡の範囲を超えて過剰な行為に出たとしても、同一罪名及びその結果的加重犯については、他の共犯者も同一の罪責を負うとの法解釈に基づくもの。

本判決:
薬物使用を監禁の手段とすることについても意思連絡があったという事実認定を前提に、
麻酔薬の投与は全て逮捕監禁の手段であり、教団施設に運び込まれるまでに投与された麻酔薬が被害者に蓄積され、副作用の発生に影響を与えている
⇒その後の投与を被告人が知らなかったとしても、被告人には薬物が監禁の手段として使用されていることの認識が認められ、使用された薬物が死亡の結果発生に影響を与えている以上、致死結果についての帰責性は否定されない
 
●地下鉄サリン事件(殺人、同未遂) 
教団関係者が、東京都心を走行中の5つの地下鉄電車内で猛毒のサリンを発散させ、多数の死傷者を出した事案。
被告人は実行役5名のうち1名を自働車で送迎。
 
◎殺意・共謀について 
以下の原判決を是認
①本件前にボツリヌストキシンを駅構内に噴霧させようとしたアタッシュケース事件に関与した
②その後、共犯者から一斉に地下鉄に撒くなどの指示を聞き、不特定多数の乗客等に危害を加えると理解した
③サリンに関する教団代表者の説法や報道を通じて、地下鉄に撒くものが猛毒のサリンである可能性を容易に思い浮かぶ状況にあった
④実行役が車内に戻ってくると、体調の異変を感じて換気をし、中毒を心配して注射を打ってもらった
⑤VX事件、V3事件を通じて、人命を軽視する教団の体質を感じ取っていた

故意を認定

サリンを撒くと被告人に言った等の共犯者供述は全面的に信用できない⇒サリンであると確定的に認識していたとは認められない。
but
被告人は、実行役が地下鉄電車内にサリンの可能性を含む、人を死亡させる危険性が高い行為をあえてするという殺意と評価できる認識を有していた

共謀について:
被告人は地下鉄に撒くものにつき前記認識の限度で意思連絡をしたと認めた上、被告人の関与に係る客観的・主観的事情を総合して、これを肯定
 
◎訴因逸脱認定・不意打ち認定の主張 

判断:
原審検察官が殺意について確定的な内容のみを主張し、未必的な認識を排除する主張をしていたとは認められず、検察官の確定的な殺意の主張と異なる被告人に有利な殺意が認定されたとしても、これは訴因事実に内包されている

訴因外の認定にも不意打ちにもならない

確定的な殺意の主張に対して未必的な殺意の限度で認定する場合、縮小認定として訴因変更は要しないとされており、特段の争点顕在化措置もとらないことが多い。
 
●都庁爆発物事件(爆発物取締罰則違反、殺人未遂) 
教団関係者が、書籍型爆発物を製造して東京都知事宛てに郵送し、これを開披したと職員に傷害を負わせたという爆発物取締罰則違反及び殺人未遂。
被告人は爆発物の製造に関与。
 
◎次の原判決を肯定:
殺人の実行行為について、当該行為が人を死亡させる現実的危険性のある行為であるといえることが必要
爆発による結果、爆発物の構造・外観・威力を検討して、これを肯定。
 
◎弁護人:
原判決が、捜査段階で本件爆発物に関する鑑定をした警視庁科学捜査研究所職員の証言によって、人が死亡する爆風圧の数値を認定したことにつき(本件爆博物の爆風圧はこれを上回る)、この数値についての証言は、専門的知見のない証人が文献の内容を供述した伝聞証拠であるとして、訴訟手続の法令違反を主張。
 
本判決:
専門家証人の供述中に非体験事実が含まれていたとしても、
専門的知見の前提としてその専門分野で所与のものとして共有されている事柄や、専門的知見に基づいて合理性や妥当性を有すると判断された内容に関する事項についての供述は、事実認定を誤らせるおそれが乏しい

体験事実に準じるものとして、伝聞供述とはならず、証拠能力を肯定してよい

判例時報2349

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2018年1月 8日 (月)

均等法の判例における特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情にあたるかが問題となった事案

最高裁H29.3.24      
 
<事案>
角化症治療薬の有効成分であるマキサカルシトールを含む化合物の製造方法による特許権の共有者であるX(被上告人)が、Yら(上告人ら)の輸入販売等に係る医薬品の製造方法は、前記の特許に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであり、その特許発明の技術的範囲に属すると主張(最高裁H10.2.24)
⇒Yらに対し、当該医薬品の輸入販売等の差止めおよびその廃棄を求めた事案。

Yら:本件では平成10年判決にいう、特許権侵害訴訟における相手方が製造等をする製品又は用いる方法(「対象製品等」)が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存在⇒前記特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとはいえない。
 
<原審>
本件では、前記特段の事情が存するとはいえず、Yらの製造方法は本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属する
⇒Xの請求を認容

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、前記特段の事情が存するとはいえない。
前記の場合であっても、出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるときは、前記特段の事情が存在する。
 
<判断>
出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存在するとはいえないというべきである。

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲を記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
 
<解説>
●均等の主張が許されない特段の事情
◎ 特許法 第70条(特許発明の技術的範囲)
特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
特許法70条1項の「特許発明の技術的範囲」は、特許請求の範囲に記載された構成の文言解釈により確定されるのが原則。

平成10年判決:
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(対象製品等)と異なる部分が存する場合(文言侵害が成立しない場合)であっても、所定の要件(第1要件~第5要件)を充足するときは、
当該対象製品等は、
特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、
特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当
であるとし、
特許権侵害(均等侵害)となるものとした。

本件の問題は、第5要件に関する問題で、
「出願時同効材への均等論適用の可否」に関する問題。
 
◎学説
A(出願時容易想到説):
出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけで、均等の主張が許されない特段の事情が存する。

B(客観的外形的表示説):
出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品などに係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけでは、均等の主張が許されない特段の事情が存するとはいえず、特段の事情を肯定するためには、何らかの外形的な付加事情が必要とする説。
B説に親和的な裁判例が大勢を占めている。
 
◎米国 
米国の均等論においては、公衆への提供の法理が承認されており、
特許権者が特許請求の範囲に包含させなかった均等物がある場合に、均等物であるという特許権者の認識の明白な表示が認められるとき(例えば、明細書に代替技術として開示しておきながら、特許請求の範囲に記載しなかったとき)は、特許権者は、当該均等物を公衆に提供したものであるから、その均等論の主張は封じられる
 
◎ドイツ 
均等の判断基準に関しては、判決要旨において「特定の技術的効果がどのように奏させるかについて発明の詳細な説明に複数の可能性が開示され、特許請求の範囲からはそのうち1つの可能性のみが理解できる場合、当該複数の可能性のうち残りの可能性を用いているものは、均等な手段として特許権を侵害することはない。」
 
●本判決
◎禁反言の法理
本判決は、平成10年判決が参照されるべきことを示しつつ、特段の事情が存すると均等の主張が許されなくなる根拠は、禁反言(民法1条2項)の法理に照らしているものであることを述べる。

民法 第1条(基本原則) 
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない

禁反言の法理:
民法1条2項に規定される信義誠実の原則が具体的に適用される場面に現れるものといえ、
権利の行使又は法的地位の主張が、先行行為と直接矛盾する故に(先行行為抵触の類型)、又は先行行為により惹起させた信頼に反する故に(信頼惹起の類型)、その行使を認めることが信義則に反するとされる場合

平成10年判決も説示するとおり、
特許発明の実質的価値は、第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予想すべきもの。

このような立場にある第三者においては、出願者が特許出願時に容易に想到することができた対象製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけでは(先行行為)、対象製品等が特許請求の範囲の記載に含まれず文言侵害はないとの理解が生ずるとしても、例外的に、特許発明の実質的価値が特許請求の範囲外に及びうるとの予期までもが必ずしも払拭できるものではなく、出願人が、あえて特許請求の範囲に記載しなかったとの信頼が生ずるとまではいえない。

出願人の側が、後になって、特許権侵害訴訟において均等の主張をしたとしても(後行行為)、特許発明の実質的価値について先行行為と直接矛盾する行為をしたとはいい難く、前記の「先行行為停職の類型」に当てはまらない。

本判決は、A説(出願時容易想到説)が採用できないことをまず法理として示し、続いて、それではどのような場合に前記のような立場にある第三者の信頼が生ずるといえるのかを分析するべく、前記の「信頼惹起の類型」にあてはまるのかの検討をした。

客観的、外形的にみて、出願人があえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるとき(このような先行行為があるとき)には、明細書の開示を受ける第三者も、その表示に基づき、対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものとして理解するといえる
⇒当該出願人において、対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものということができる。

法理として、
客観的、外形的にみて、出願人があえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、均等の主張が許されない特段の事情が存する
~B説の採用を明示。

判例時報2349

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2018年1月 6日 (土)

生後4か月の幼児に対する身体機能回復指導と称する手揉み施術で死亡、副理事長の幇助者としての責任(肯定)

神戸地裁H28.12.14      
 
<事案>
NPO法人Pは、子育てひろば事業と称する事業として、「背すじ矯正」あるいは「身体機能回復指導」と称する施術を行う。
Y1(理事長)は、平成26年6月2日、関西サロンで、生後4か月のZに対し、身体機能回復指導を施術⇒施術開始から約45分後、それまで泣いていたZの泣き声がやみ、手足が脱力状態となり、呼吸もせず、顔や体が青白くなり容態が急変⇒救急搬送されて救命措置を受けたが、低酸素脳症に基づく多臓器不全で死亡。

Zの両親であるX1及びX2は、
本件事故は、Y1の本件施術に起因して発生したものであるとして、
Y1に対しては民法709条に基づき、
Y2に対しては民法719条2項に基づき、
それぞれ2601万円余の損害賠償請求。

Y1は争わず、Y2は責任を否定。
 
<争点>
Y2が本件事故に関してY1を「幇助した者」(民法719条2項)に当たるか否か。
具体的には、
Y2においてY1による本件施術の危険性を認識し得たにもかかわらず、何らこれを回避することをせず、Y1による本件施術を容易ならしめたということができるか否か。
 
<判断> 
●Y2が本件施術の危険性を認識し得たか否か

①Y2は、平成17年5月には本件法人の役員に就任し、副理事長として本件法人の経理、広報活動等、Y1と共に本件法人の事業活動を担ってきた
②Y2は、広報活動として、Y1が草稿した身体機能回復指導の内容・効用をつづった文章と身体機能回復指導の施術中の様子を撮影した写真をブログ上に掲載して紹介し、頻繁にブログを更新していただけでなく、Y1が関東サロンにおいて身体機能回復指導を施術する様子を間近で見ていた

Y2は、Y1が行う身体機能回復指導の危険性を予見することができた
 
●Y2による本件施術の幇助について 

Y2は、本件事故当時、本件法人の副理事長として、本件法人の事業活動が適正に行われるようにY1の活動を監督すべき立場にあった。

Y2は、Y1に対して乳児の生命に危険を及ぼすおそれのある身体機能回復指導の中止を真摯に検討すべく、自らあるいはY1と共に同施術の危険性について医師等の専門家の意見を聴取して施術内容を変更するなどして、前記危険が現実化することのないようにすべきであった。
but
Y2は、このような措置をとらず、新潟第二事件(平成25年2月に新潟サロンで身体機能回復指導を受けていた1歳10か月の児童が死亡した事件)後も、それ以前と変わらずにブログ等に身体機能回復指導の効用をうたって広報などしており、Y1が身体機能回復指導を行うことを心理的かつ物理的に容易にしたといえる。

Y2は少なくともその過失により、本件施術を幇助したものと認められる
 
⇒請求認容

判例時報2349

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2018年1月 5日 (金)

弁護士会照会に対する報告義務についての確認の訴えの法的性質等

名古屋高裁H29.6.30      
 
<事案>
Zは、弁護士会Xに所属する弁護士Lに対し、Aに対する未公開株詐欺商法による不法行為に基づく損害賠償壊死旧訴訟の提起・追行を委任。
この訴訟は、ZとAとの間の裁判上の和解が成立。
but
Aが約定の支払をしない。
⇒Zは、弁護士Lに対し、和解調書を債務名義としてAの財産に強制執行をすることを委任。

弁護士Lは、X(所属弁護士会)に対し、
①A宛ての郵便物についての転居届の提出の有無
②転居届の届出年月日
③転居届記載の新住所(居所)
④転居届記載の新住所(居所)の電話番号
について、
Yに弁護士法23条の2第2項に基づく照会をするよう申し出た(本件申出)。
Xは、本件申出を適当と認め、Yに対し、本件照会事項について弁護士会照会をした。
but
Yは、Xに対し、本件照会に応じない旨の回答

XとZは、本件拒絶により法律上保護される利益が侵害されたと主張し、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
 
<第1審>
本件拒絶は正当な理由を欠くが、Yに過失があるとまではいえない
⇒請求棄却
 
<差戻し前原審>
Xは、
損害賠償請求を主位的請求としたうえ請求を拡張
予備的請求として、Yにおいて本件照会に対する報告義務あることの確認請求を追加

Zの控訴を棄却
Xに関する第1審判決を変更し、主位的請求の一部を認容し、その余の請求を棄却。
本件確認請求については、主位的請求が全部棄却である場合の予備的請求であることが明らか⇒判断の必要なし。
 
<上告>
差戻し前の原審判決を法令違反であるとして破棄し、原審に差し戻す。
Xの主位的請求は理由がない
Xの予備的請求である報告義務確認請求については、更に審理を尽くさせる必要がある。
 
<争点>
①本件訴えは行訴法4条の「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するか
②損害賠償請求に本件確認請求の追加的併合が許されるか
控訴審における訴えの追加的変更が認められるか
③本件訴えには確認の利益が認められるか
④Xには当事者適格が認められるか
⑤本件拒絶に正当な理由が認められるか 
 
<規定>
行訴法 第4条(当事者訴訟)
この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。
 
<判断>
●弁護士会の照会事項に対する報告義務に係る確認の訴えの法的性質 
弁護士会照会の照会事項に対する報告義務に係る確認の訴えは、
①行政過程における紛争とはいえず、
②行政過程の特質に応じた行訴法の規定を準用する実益や必要性もない

「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するとしてこれに行政事件訴訟手続を適用するのではなく、原則に戻り、民事訴訟であると解するのが相当
 
●損害賠償請求に本件確認請求の追加的併合が許されるか 
①弁護士会照会の照会事項に対する報告義務に係る確認の訴えは民事訴訟であり、
②損害賠償請求訴訟とは同種の訴訟手続

損害賠償請求に本件確認請求を追加的に併合することは許される。
 
●控訴審における訴えの追加的変更が認められるか 
弁護士会照会の照会事項の報告拒絶に正当な理由があったか否かは、損害賠償請求が認められるか否かの判断の前提となっており、
請求の基礎に同一性が認められ
③控訴審における訴ええの追加的変更に相手方の同意は要求されていない

控訴審において本件訴えを追加的に変更したことは適法
 
●本件訴えには確認の利益が認められるか 
対象選択の適否、即時確定の利益、方法選択の適否のいずれの要素も充たしている⇒確認の利益が認められる。
 
●本件拒絶に正当な理由が認められるか 
郵政事業会社は・・・・郵便法8条2項に基づき守秘義務を負うが
弁護士法23条の2に基づく報告義務が優越し、その報告拒絶には正当な理由がない。

 
<解説>
弁護士会照会の照会事項に対する報告義務に係る確認の訴えの法的性質:
A:行政訴訟(公法上の法律関係に関する確認の訴え(行訴法4条))
確認訴訟の訴訟物が公法上の報告義務である
B:そうでない
行政処分等行政特有の諸行為にかかわるものでない
 
民事訴訟としての確認の訴えには確認の利益が必要であり、
確認の訴えによることの適否(方法選択の適否)
確認対象選択の適否
即時確定の利益(原告の地位に対する不安、危険の現実性)
により判定。

判例時報2349

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2018年1月 4日 (木)

カテーテルアブレーション⇒術後脳梗塞と高次脳機能障害等の後遺障害⇒医療過誤(肯定)

名古屋高裁H29.7.7      
 
<事案>
Xが、平成22年8月3日、Yの開設する本件病院において、カテーテルアブレーションを受けた⇒直後に脳梗塞を発症し、高次脳機能障害等の後遺障害が残った

担当医師が
①カテーテルアブレーションの禁忌である左心耳内血栓の所見又はそれを疑うべき所見を見落とした
②本件施術前に十分な抗凝固療法を実施すべき義務に違反した
③カテーテルアブレーションに関する十分な説明をしなかった
と主張し、
Yに対し診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求。 
 
<原審>
①~③のいずれも認められない⇒Xの請求を棄却。 
 
<判断>
①左房ないし左心耳内に血栓が存在する場合のみならず、その存在が疑われる場合であっても、カテーテルアブレーションを実施することは禁忌とされている
②7月22日に撮影されたCT画像にはXの左心耳内に10数ミリの球状の陰影欠損が存在することが認められるし、提出された医師の意見書によれば血栓の存在が疑われるとされている
③本件で実施されたTEEの検査画像から血栓があることが疑われる陰影が存在

TEEの画像から認められるクローバー様の陰影及びいぼ様の陰影は、血栓を疑わせる所見であったと認められる担当医師には、本件施術を実施するにあたり、血栓を疑わせる所見がないことを確認する注意義務を尽くさなかった過失が認められる

Yの損害賠償責任を肯認し、原判決を変更した上、Xの請求を一部認容。 
 
<解説>
カテーテルアブレーションは、経静脈的ないし経動脈的に電極カテーテルを心臓血管内に挿入し、カテーテルを通じて体外から焼灼エネルギーを不整脈源である心筋組織に加え、これを焼灼ないし破壊する治療方法。

判例時報2349

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2018年1月 3日 (水)

約3年余り前に女子高生に対する盗撮の罪で逮捕された記事等の検索結果からの削除請求(仮処分)(否定)

名古屋高裁H29.3.31      
 
<事案>
Xが、Yに対し、人格権に基づき、本件検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てをした事案。 
 
<原決定>
Xは公務員であるが、もっぱら技術的な知識をもって公務に携わるにすぎず、また、本件事件もその職務と何ら関連性のもないものではあるが、
国民・住民の正当な関心の対象となるものであって、本件事件当時、その事件自体を公表することには社会的意義があった
⇒申立てを却下。 
   
Xは即時抗告
 
<判断>
検索事業者に対し、自己のプライバシーに属する事実を含む記事等が刑刺されたウェブサイトのURL等情報を検索結果から削除することを求めるための要件に関して、最高裁H29.1.31において示された判断枠組みに従い、本件抗告を棄却。

本件事実に即した諸事情の考慮要素として
①本件事件が、公共の安全・平穏に関わる社会的に正当な関心の対象であると認められること、
②本件事件のような犯罪が公務員によって惹起された場合には、相当する職務の内容や本件事件との関連性にかかわらず、その資質や清廉性について、広く国民・住民の正当な関心の対象になるというべきであるし、本件事件のような破廉恥行為の存在やこれに対する国民・住民の関心に関する状況が、本件事件後に変化したと認めるに足りる証拠はない。
③Xの名の漢字表記が一般的であるとまではいえない⇒Xの氏名および「盗撮」という検索ワードで検索するインターネット利用者は、そもそも本件事件に関する知識を有している者が多いとも推認され、Xのプライバシーに属する事実が伝達される範囲が広範に及ぶとまでは認め難い

④Xが再犯に及ぶことなく日常生活を営み、近く婚姻の予定があるとしても、本件事件により逮捕された事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない
 
<解説>
●最高裁平成29年決定において触れらていない検索事業者の性格についての言及:
本決定は、「検索エンジンは、表現ないし情報等の送り手を受け手を結び付け、表現者ないし情報発信者の表現の自由及び情報等の受け手の知る権利のいずれにとっても大きな役割を果たし、それを実効あらしめる存在となっている」

表現者ないし情報発信者の表現の自由と情報等受け手の「知る権利」への言及。

検索事業者の情報流通手段としての重要な社会的基盤の1つであり、検索事業者の公益的な性格を有することの説明。

●検索結果の削除の可否について、しばしば「時の経過」が問題。
本件事件に対する国民・住民の正当な関心は、「時間の経過とともに薄れてゆくものであるとはいえ、本件事件の内容等に照らせば、短期間で社会的関心が正当でなくなるとはいえない」とされた。

盗撮による条例違反の事件において、社会的関心の観点から、約3年間という時の経過では「短期間」であるとされている

尚、刑法34条の2第1項を参照し、
罰金の納付を終えてから5年を経過せず刑の言渡しの効力が失われていないことを理由の1つにして非公知性の判断材料とした事例もある。
 
●性的自由に関する最高裁平成29年決定の事案に比べれば法益侵害の程度が小さい。
but
精神的苦痛を被る被害者も多いと推認されることから、
単なる法定刑の軽重のみによって、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らか」であるとの根拠にはなり得ない」 
 
●「忘れるられる権利」について、本決定では、
「我が国における法律上の明文根拠を欠き、その要件及び効果は明らかでないプライバシー権とは別個独立した権利として、その存否及び効果を判断すべき必要性を認めることはできない」と判断。

判例時報2349

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2018年1月 2日 (火)

貸金業法の国際的適用範囲

東京高裁H28.12.12      
 
<事案>
国に対する国家賠償請求訴訟において、貸金業法の国際的適用範囲が主要争点となった事例。 

控訴人(原審原告)Xは、日本の合同会社(平成23年1月設立)であるが、同年11月6日付けで金融商品取引法上の第2種金融商品取引業の登録を受け、と匿名組合の営業者として、国内の投資家から出資を受けた資金を、韓国において貸金業を営むA社に貸し付けていた(「本件事業」)。
Xの貸付先はA社のみ。

平成25年9月、Xは証券取引等監視委員会による金商法に基づく立入検査⇒同委員会から報告を受けた関東財務局理財部金融監督第5課によるXへの業務状況の照会(平成26年6月)⇒平成27年1月8日付で関東財務局長から本件事業は貸金業法の下での貸金業に該当する旨の警告、同月9日付けで、本件事業につき、金商法56条の2第1項に基づく報告命令

Xは、本件報告命令およびそれに先立つ当局の警告は違法で、これによる本来必要のない当局への報告書の作成や対顧客への書面作成・交付を余儀なくされ、また一般投資家による信用も損なわれて損害を被った⇒被控訴人(原審被告)である国に対して国賠法1条に基づき損害賠償を求めた。
 
<争点>
専ら国外への貸付けのみを行う場合にも貸金業法の適用があるか? 
 
<判断>
日本国内において金銭の貸付けの一部を行っている限り、顧客が国外の借主のみであっても「貸金業を営」むこと(貸金業法3条1項)に該当すると解するのが相当
これは属地主義にも抵触しない。
原告は日本国内に本店を有し、金銭の貸付けの一部である送金行為を業として行っている
⇒同法にいう「貸金業を営」んでいるものというべきである。

憲法22条1項違反の主張に対しては、
ある規制がその目的のために必要かつ合理的な範囲を超え、それが著しく不合理であることが明白と認められるときに、当該規制は同規定に違反するものと解するのが相当。

結論として、国外への貸付けにつき貸金業の登録を受けることを義務づけ、行政庁の一定の監督に服せしめることは、必要かつ合理的な範囲にとどまり、著しく不合理であることが明白であるということはできない
 
<規定>
貸金業法 第1条(目的)
この法律は、貸金業が我が国の経済社会において果たす役割にかんがみ、貸金業を営む者について登録制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うとともに、貸金業者の組織する団体を認可する制度を設け、その適正な活動を促進するほか、指定信用情報機関の制度を設けることにより、貸金業を営む者の業務の適正な運営の確保及び資金需要者等の利益の保護を図るとともに、国民経済の適切な運営に資することを目的とする。
 
<解説> 
●貸金業法や金融商品取引法のような金融規制法令の適用対象事案が国境をまたぐ場合、法令の適用範囲がどうなるかについては、当該法令に根拠規定が置かれていることが少なく、解釈の余地が大きい。 

規制対象となる行為の少なくとも一部が国内において行われている場合に当該法令が適用されるという「属地主義」を原則とすべきであるという考え方が一般的。

この属地主義に加えて、これを修正するものとして「効果主義」ないし「効果理論」が主張されることもあるが、これは、領域外で行われた行為(例えば、インサイダー情報を利用した取引)も、それが国内の取引市場や国内投資家にも影響を与えうることを根拠に規制対象とすべきだという議論。

判示は、貸金業法の目的規定(1条)に触れ、それが貸金業法の適正な業務運営の確保をんも目的としていることを指摘。
他の金融規制法においても、直接的な目的であると思われる投資家や消費者の利益保護のみならず、取引市場の適正・公正の確保、金融の円滑をはかる等、より高次の目的も掲げられることが通常
 
●平成27年1月9日付けの本件報告命令の後、Xの基金拠出者である法人がその持分の51%を借主であるA社に譲渡したことにより、本件の貸付けは、貸金業法施行令1条の2第6号の適用除外により、貸金業の登録が不要な貸し付けとなった。 

判例時報2349

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2018年1月 1日 (月)

外務員登録取消処分の取消訴訟での原告適格・違法性

東京地裁H29.4.21      
 
<事案>
内閣総理大臣から外務員に係る登録事務の委任を受けたY(認可金融商品取引業協会)は、XがB及びBを介してC社に対し、D社による公募増資の実施の公表日に関する情報を提供した行為が、法令違反である「有価証券の売買その他の取引・・・につき、顧客に対して当該有価証券の発行者の法人関係情報を提供して勧誘する行為」(金商法38条、平成26年内閣府令第7号による改正前の金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項14号)に該当する

A社に対し、金商法64条の5第1項2号の規定により、Xに係る外務員の登録を取り消す旨の処分。

本件処分の名宛人ではないXが、Yに対し、本件処分には法64条の5第1項の定める処分要件を欠いた違法及び行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法がある⇒その取消しを求めた。
 
<規定>
行訴法  第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
行政手続法 第14条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

行訴法 第10条(取消しの理由の制限)
取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。
 
<判断>
●Xは本件処分の名宛人ではないが、
本件処分の法的効果によってその労働契約上の権利が制限を受ける

名宛人と同様に自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるといえる
⇒本件処分の取消訴訟の原告適格を有する。

●Xは、Bに対して本件情報を提供したとは認められるものの、C社に対して本件情報を提供したとはみとめられず、また、B及びC社に対して有価証券の売買その他の行為を顧客として行うことを勧誘する行為をしたと認めることもできない
⇒Xが本件違法行為をしたとは認められない。
⇒本件処分には金商法64条の5第1項の定める処分要件を欠いた違法がある。

●一般に外務員は常日頃から数多くの顧客に対して様々な取引等の勧誘等を行っており、特に本件ではB及びC社はA社に口座を持つ顧客ではない一方、
XとBは個人的に業務に関する情報交換を毎日のように行っていた

本件処分に係る処分通知書に「顧客」、「当該有価証券の発行者の法人関係情報」、「勧誘」等に該当する具体的な事実の記載がなければ、誰に対するいかなる情報の提供及び勧誘の行為が本件処分の具体的なな理由とされているかを知ることは困難。

本件処分には、行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法がある。

●Yは、Xが本件処分の名宛人ではなく行手法14条1項本文の適用を受けない⇒同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法は、Xの法律上の利益に関係のない違法であるとして、これを理由として本件処分の取消しを求めることはできない(行訴法10条1項)と主張。

本判決:
①行政庁の恣意が抑制されなければXの労働家約上の権利が不当に侵害される
処分の理由が名宛人であるA社に適切に知らされなければXにおいてもこれを知ることができず不服の申立てに支障を来すおそれがある

前記違法がXの法律上の利益に関係のない違法であるとはいえない
 
<解説> 
●取消訴訟の原告適格
行訴訟9条1項にいう「法律上の利益を有する者」とは、
当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(最高裁昭和53.3.14)。

処分の名宛人以外の者が処分の法的効果による権利の制裁を受ける場合には、その者は、処分の名宛人として権利の制限を受ける者と同様に、当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり、その取消訴訟における原告適格を有する(最高裁H25.7.12)。
 
●行手法14条1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、
名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであり(最高裁H23.6.7)、
理由の提示を欠いたことは処分の取消事由となる

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