裁判員への声かけ事件
福岡地裁H29.1.6
<規定>
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 第107条(裁判員等に対する威迫罪)
被告事件に関し、当該被告事件の審判に係る職務を行う裁判員若しくは補充裁判員若しくはこれらの職にあった者又はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず、威迫の行為をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 第106条(裁判員等に対する請託罪等)
法令の定める手続により行う場合を除き、裁判員又は補充裁判員に対し、その職務に関し、請託をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
■①判決
Vが裁判員A及びBに発した言葉は、「あんた裁判員やろ」「俺、同級生なんよ」「Xの同級生なんよ」「あんたらの顔は覚えとるけね」「Xは同級生だから、よろしくね」
前提事実⇒Vは、自らの行為によって裁判員らがC会親交者に顔を覚えられたなどの不安や困惑を覚えることは認識していた(=威迫の故意あり)。
Vの「よろしくね」との発言の趣旨が、裁判員らに対し、Xに有利な判断をしてほしいという依頼の意味であり、この意味を分かって発言に及んだ(=請託の故意あり)
⇒威迫罪及び請託罪の成立を肯定。
懲役1年、3年間執行猶予
■②判決
Wが裁判員A及びBに発した言葉についての認定:
「明後日も来るんやろ」「裁判員も大変やね」
判決や刑の重さは裁判員の意見で決まるわけではないという趣旨の文言や、
もうある程度は裁判の結果あるいは判決は決まっているんだろうという趣旨の文言
「いろいろ言っても変わらんもんね」
●威迫罪の認定
「威迫の行為」(裁判員法107条1項)とは、相手に対して言葉・動作をもって気勢を示し、不安・困惑を生じさせる行為を言う。
言葉の内容のほか、声かけがなされた経緯やWの風貌を総合⇒気勢を示す行為に当たる。
威迫の故意も認定。
●請託罪の認定
「請託」(裁判員法106条1項)とは、裁判員又は補充裁判員としての職務に関する事項についての依頼をいい、黙示のものも含む。
本件では否定。
⇒威迫罪のみ。
懲役9月、3年間執行猶予。
判例時報2348
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