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2017年12月29日 (金)

ピクトグラムの「使用許諾契約」終了による原状回復義務・契約当事者たる地位の承継の主張等

大阪地裁H27.9.24      
 
<事案>
X:VI(ヴィジュアル・アイデンティティ)等の制作等を主たる目的とする株式会社(仮説創造研究所)
Y1:大阪市
Y2:大阪市都市工学情報センター 
Y1は、その案内表示の改善のため、Y2に業務委託を行い、Y2は、平成12年3月31日、大阪城等のピクトグラムのデザインを、板倉デザイン研究所に委託し、P1がピクトグラムのデザインを行った。

Y2は、平成12年3月31日、大阪市各局の設置する案内表示等に、P1がデザインしたピクトグラムを使用することを目的として、板倉デザイン研究所との間で、「ピクトグラム使用契約」(「本件使用許諾契約1」、対象となったピクトグラムを「本件ピクトグラム」)を締結。

Y2は、平成12年8月31日、P1がデザインした本件ピクトグラムを、同じくP1がデザインした地図デザイン(「本件地図デザイン」)に配した「本件案内図」につき、これをY1が設置する案内表示等に使用することを目的として、板倉デザイン研究所との間で、「大阪市観光案内使用契約」(「本件使用許諾契約2」、両契約を併せて「本件各使用許諾契約」)を締結。

本件各使用許諾契約において、板倉デザイン研究所が、Y2に対し本件ピクトグラム等についての使用を許諾するに当たり、大阪市案内表示ガイドラインに従って実施される大阪市各局の案内表示とそれらを補足する地図等の媒体において、Y1が本件ピクトグラム等を使用することが定められている。
 
<争点>
(1) 本件各使用許諾契約の有効期間内に作成された本件ピクトグラム等の原状回復義務
①Yらは有効期間の満了による有効期間内に作成した本件ピクトグラム等についての原状回復義務を負うか
②Xは、Yらに対し、板倉デザイン研究所から本件各使用許諾家役の許諾者たる地位を承継したとして同契約上の権利を主張しうるか

(2) 本件各使用許諾契約の有効期間満了後に作成された本件ピクトグラムの複製権侵害
(3) 前記争点(1)の原状回復義務及び前記争点(2)の著作権に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除の必要性(使用継続のおそれ)
(4) 前記争点(1)の原状回復義務違反及び前記争点(2)の著作権侵害の不法行為に基づくXの損害額
(5) Yらは、本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載を行ったことによる、本件ピクトグラムの複製権及び公衆送信権侵害の不法行為責任を負うか
①本件ピクトグラムの著作物性

(6) Y1は、Xによる本件ピクトグラムの一部修正について報酬支払義務を負うか
(7) Y1は、別紙4案内図を作成することによって、本件地図デザインについての複製権又は本案権侵害として不法行為責任を負うか 
 
<規定>
民法 第613条(転貸の効果)
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
 
<判断>
●争点(1)①について
◎Y2の義務 
本件各使用許諾契約には、有効期間満了後の被告らの義務について明確な規定はない。
but
本件各使用許諾契約において、Y2に認められた本件ピクトグラム等の使用権は、主として複製後も継続して展示される案内表示が対象とされており
複製後もY1において使用し続ける形態であることを前提としている。

本件各使用許諾契約は、このような使用形態を前提に、有効期間を設定して契約当事者間の折合いをつけたもの。
有効期間を新たな複製ができる期間と解したのでは、その趣旨が損なわれる。

「使用」の通常の意義からしても「使用権の有効期間」とは、本件ピクトグラム等を複製することだけでなく、複製した案内表示等の展示を継続することの有効期間を定めたものと解するのが自然。

本件各許諾契約において、有効期間が満了した以上、少なくとも案内表示でのピクトグラム等の使用を中止し、原状に服するという合意までが含まれていると認めるのが相当。

原状回復義務として、既に複製された本件ピクトグラム等の抹消・消除の義務が生じると解するのが相当。

◎Y1の義務 
本件各使用許諾契約においては、板倉デザイン研究所が、Y2に対し本件ピクトグラム等についての使用を許諾するに当たり、大阪市案内表示ガイドラインに従って実施される大阪市各局の案内表示とそれらを補足する地図等の媒体において、Y1が本件ピクトグラム等を使用することが定められている。

Y1は、板倉デザイン研究所の承諾の下に、Y2の使用権を前提に、本件ピクトグラムなどの一種の再使用許諾を受けているものといえ、
これは、賃貸人の承諾を受けて転貸借がされている状況と同様の状況にある

民法613条の趣旨は、転貸借が適法に行われている場合に、目的物を現実に用益する転借人に対する直接請求権を認めることにより、賃貸人の地位を保護する点にあるが、
再使用許諾関係の場合にも、本件ピクトグラムを現実に使用するのが再被許諾者であるY1である以上、同様の趣旨が妥当する。
本件における本件ピクトグラム等の使用は、案内板等における継続的使用を対象とし、本件各使用許諾契においてY2に原状回復義務が認められる
賃貸借終了後の原状回復義務に類似した関係にある

Y1においては、本件各使用許諾契約の当事者ではないものの、民法613条を類推適用し、本件ピクトグラム等の抹消・消除義務を直接負う。

●争点(1)② 
◎「統合」の意義
Xが、平成19年6月1日に板倉デザイン研究所の事業を統合する際に、・・著作権全てを板倉デザイン研究所から包括的に譲り受ける合意をし、その後同年9月に板倉デザイン研究所が解散清算
当事者間において本件ピクトグラム等を含む著作権が譲渡
本件各使用許諾契約上の地位も譲渡
 
◎地位の譲渡の対抗 
本件各使用許諾契約における許諾者の義務は、許諾者からの権利不行使を主とするものであり、本件ピクトグラムの著作権者が誰であるかによって履行方法が特に変わるものではない
⇒本件ピクトグラムの著作権の譲渡と共に、被許諾者たるY2の承諾なくして本件各使用許諾契約の許諾者たる地位が有効に移転されたと認めるのが相当。
(賃貸人たる地位の移転についてのものであるが、最高裁昭和46.4.23)
but
著作物の使用許諾契約の許諾者たる地位の譲受人が、使用料の請求等、契約に基づく権利を積極的に行使する場合には、これを対抗関係というかは別として、賃貸人たる地位の移転の場合に必要となる権利保護要件としての登記と同様、著作権の登録を備えることが必要
(賃貸人たる地位の移転に関するものであるが、最高裁昭和49.3.19)

Xは、Yらに対し、著作権の登録なくして本件各使用許諾契約上の地位を主張することはできない
 
●争点(5)① 
本件ピクトグラムは、実在する施設をグラフィックデザインの技法で描き、これを、四隅を丸めた四角で囲い、下部に施設名を記載したもの。
本件ピクトグラムは、これが掲載された観光案内図等を見る者に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され、実際にも相当数の観光案内図等に記載されて実用に供されているもの
いわゆる応用美術の範囲に属するもの

応用美術の著作物性について、
実用性を兼ねた美術的創作物においても、「美術工芸品」は著作物に含むと定められており(著作権法2条2項)、
印刷用書体についても一定の場合には著作物性が肯定(最高裁H12.9.7)

それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には、美術の著作物として保護の対象となると解するのが相当。

ピクトグラムが指し示す対象の形状を使用して、その概念を理解させる記号(サインシンボル)⇒その実用的目的から、客観的に存在する対象施設の概観に依拠した図柄となることは必然。
⇒創作性の幅は限定される。
but
それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか、
そのためにもどの角度からみた施設を描くのか、
どの程度、どのように簡略化して描くのか、
どこにどのような色を配するか、
等のの美的表現において、実用的機能を離れた創作性の幅は十分に認められる

このような図柄としての美的表現において制作者の思想、個性が表現された結果、それ自体が実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となる得る美的特性を備えている場合には、その著作物性を肯定し得る。

本件ピクトグラムは
その美的表現において、制作者であるP1の個性が表現されており、その結果、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている
それぞれの本件ピクトグラムは著作物である
 
<解説>
●使用許諾契約の解釈 
本来、原状回復の規定がなければ、その義務を負わないが、契約に明文の規定がなくとも原状回復が含意されているとした。
 
●民法613条の類推適用 
本判決:
①本件における本件ピクトグラム等の使用は、案内板等における継続的使用を対象とし、②本件各使用許諾契約においてY2に原状回復義務が認められている
⇒賃貸借終了後の原状回復義務に類似した関係にある。

大阪地裁H22.3.11:
Qは原告から、本件ソフトウェアの使用許諾を受けたが、許諾の期間が経過した場合、Qにおいて、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバー等から削除する義務がある。
Qは、被告に対し、本件ソフトウェアを本件事業のために使用することを許諾していたと認められるが、Qへの使用許諾が終了した以上、民法613条(本件のような無償再許諾にも準用を認めるのが相当であると考えられる)の趣旨を類推し、被告においても、本件ソフトウェアの使用中止とサーバ等からの削除義務が発生していると解することができる。

反対説
民法613条の趣旨を簡単に及ぼしてよいものか疑問

①転貸借に係る原状回復義務は法定の典型的な義務であるのに対して、(再)使用許諾によって定められた義務は非典型的なもの
②著作権の範囲外の義務を課す点で、転貸借において問題となる、目的物自体の原状回復義務とは異なるものと評価できる。
 
●地位の譲渡の対抗 
著作権法 第77条(著作権の登録)
次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない
一 著作権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ。)若しくは信託による変更又は処分の制限
二 著作権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は著作権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限

本判決:
賃貸人の地位の移転に関する最高裁判断を参照に解決をはかっている。

使用許諾契約は誰が行っても履行方法が特に変わるものではない⇒許諾者の地位の移転に被許諾者の承諾は不要。
その有効に移転した地位に基づいて、許諾者たる地位に立つ者が契約上の権利を積極的に行使する場合には、権利保護要件としての登記と同様、著作権の登録の具備を必要とする

判例時報2348

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