犯行時15歳による殺人被告事件について、家裁に移送された事例
横浜地裁H28.6.23
<事案>
少年である被告人が、実母及び祖母の計2名の胸部及び背部を包丁で多数回刺して心臓損傷等により失血死させたという殺人保護事件。
罪名的には少年法20条2項に定めるいわゆる原則逆送の対象事件。
but
被告人が犯行当時15歳8か月であり、同項の定める犯行時16歳との要件を充たさなかった
⇒同条1項の通常の検察官送致決定により地裁に係属。
<判断>
①鑑定人による、被告人の精神面の問題性の分析と、被告人に対しては安定した保護的な生活環境の中での働きかけが必要であり、適切な援助によって被告人の改善更生を図ることは可能とする意見を採用できる
②被告人が鑑定中に良い変化を見せたことや非行歴がないこと⇒保護処分により改善更生する可能性がある。
③少年が、行った犯罪の重大性を自覚してこれを向き合うためには、第三者からの働きかけが必要⇒時間や人手を十分にかけた矯正教育を行うことができる少年院で教育を受けさせることが効果的。
④本件の背景には成育歴等が影響を与えていること、本件各犯行は家庭内におけるものであって、遺族でのある被告人の父等は厳し処罰を求めていないこと、改善更生させることが被害感情を和らげ社会の不安を鎮めるためにも重要⇒保護処分を選択することも許容される
⇒
家庭裁判所に移送
<解説>
少年法55条は、刑事裁判所の家庭裁判所移送決定の要件を、「保護処分jに付するのが相当であると認めるとき」と規定するのみ。
~「保護処分相当性」
同法20条1項は、家庭裁判所の検察官送致決定の要件を、「罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき」と規定。
~「刑事処分相当性」
「刑事処分相当性」とは「保護処分相当性がないこと」というように両者を表裏の関係で理解すべき。
←
そのように解しないと、
同一事実について同一の評価をしても検察官送致決定と家庭裁判所移送決定が両立し得ることになり、少年に対して時機にかなった適正な処分をなしえないだけでなく、いつまでも手続から解放されないという不当な手続的負担を少年にかける危険性がある。
少年法20条1項の刑事処分相当性=保護処分では少年を更生させることができないという意味での保護不能、または、事案の内容や社会に与える影響に照らし保護処分に付することが相当ではないという意味での保護不適であること(通説)。
判例時報2342
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