国籍留保制度の期間規定に関する「責めに帰することができない事由」
最高裁H29.5.17
<事案>
戸籍法104条1項所定の日本国籍を留保する旨の届出について、その届出期間の例外を定めた同条3項の適用が問題となった事案。
<規定>
戸籍法 第104条〔国籍留保の意思表示〕
国籍法第十二条に規定する国籍の留保の意思の表示は、出生の届出をすることができる者(第五十二条第三項の規定によつて届出をすべき者を除く。)が、出生の日から三箇月以内に、日本の国籍を留保する旨を届け出ることによつて、これをしなければならない。
②前項の届出は、出生の届出とともにこれをしなければならない。
③天災その他第一項に規定する者の責めに帰することができない事由によつて同項の期間内に届出をすることができないときは、その期間は、届出をすることができるに至つた時から十四日とする。
<解説>
国籍法12条の規定する国籍留保制度:
出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものについて、戸籍法の定めるところにより日本国籍を留保する意思表示をしなければ、出生の時に遡って日本国籍を失う。
この制度は、昭和59年法律第45号(「本件改正法」)の施行前は、中華人民共和国等で出生した者を対象としていなかった。
戸籍法104条:
出生届をすることができる者が、出生の日から3ヶ月以内に、出生届と共に、国籍留保の届出によってしなければならない(同条1項、2項)。
天災その他前記の者の責めに帰することができない事由によって前記の期間内に届出をすることができないときは、その届出期間は、届出をするに至った時から14日(同条3項)。
父母が本籍を有しない場合でも、その子の出生届をすることに障害はない。
<原審>
本件各届出の時点で、X1~X4に本籍及び戸籍上の氏名がなかったところ、このような場合でも戸籍法上は本件子らの出生届をすることは不可能ではない。
but
国籍留保の届出をしなければ日本国籍を喪失するという重大な結果を生ずる
⇒
出生届について父母の本籍及び戸籍上の氏名を記載した原則的な届出を提出できない場合は、戸籍法104条3項にいう「責めに帰することができない事由」があると解すべき。
⇒本件届出を受理すべき。
<判断>
国籍留保の届出が戸籍法104条1項の期間内にされなかった場合において、出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものの父母について、戸籍に記載されておらず、本籍及び戸籍上の氏名がないという事情のみをもって、同条3項にいう「責めに帰することができない事由」があるとした原審の判断には、違法がある。
⇒原決定を破棄し、Xらの申立てを却下した原々審判に対するXらの抗告を棄却。
<解説>
●国籍は国家の構成員の資格であり、何人が自国の国籍を有する国民であるかを決定することは国家の固有の権限に属するものであって、憲法10条は国籍の得喪に関する要件を法律に委ねている(最高裁H20.6.4)。
最高裁H27.3.10は、
国籍留保制度を定めた国籍法12条について、
子の出生時に父又は母が日本国籍を有することをもってわが国との密接な結びつきがあるものとして日本国籍を付与するという父母両系血統主義の原則の下で、国外で出生して重国籍となる子について、前記のような結びつきがあるとはいえない場合に、形骸化した日本国籍の発生を防止し、重国籍の発生をできる限り回避することを目的とするもの
⇒憲法14条1項に違反するものではない。
●国籍留保制度:
①大正時代、アメリカ合衆国など自国の領土内で出生した子に国籍を付与する生地主義の国への日本からの移民について、不留保による日本国籍の喪失によって移民先国への同化定着を促進する目的で創設。
②本件改正法は、従前の不系血統主義を改め、父母両系血統主義を採用することに伴い、血統の相違により父母の両国籍を取得して二重国籍となる者にも国籍留保制度を適用することとし、その対象を中国など血統主義の国で出生した子に拡大。
③国政留保の意思表示がされずに日本国籍を喪失した者で20歳未満の者について、日本に住所を有するときは(日本人の子として出生した者には、出入国管理及び難民認定法上、在留資格が認められている。)、法務大臣への届出によって日本国籍を再取得できる旨の制度が設けられた(国籍法17条)。
④20歳に達した者は、前記制度の対象とならないが、国籍留保の意思表示がなされずに日本国籍を喪失した者は、簡易帰化(国籍法8条3号)の対象となるものと解されている。
戸籍法104条1項
←
①子の法的地位の安定のために、生来的な国籍をできる限り子の出生時に確定すること
②父母等による国籍留保の意思表示をもって我が国との密接な結びつきの徴表とみることができる。
● 本決定は、
①戸籍法104条3項が同条1項の届出期間の例外を定めたもの⇒その要件は、前記のような国籍留保制度や同条1項の趣旨及び目的を踏まえて判断されるべき
②同条3項が「天災」という客観的な事情を挙げている
⇒
同項にいう「責めに帰することができない事由」の存否は、客観的にみて国籍留保の届出をすることの障害となる事情の有無やその程度を勘案して判断するのが相当。
③X1~X4について本籍及び戸籍上の氏名がないという事情だけでは客観的にみて本件各国籍留保の届出の障害とならないことは明らか。
判例時報2345
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