高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正附則の趣旨に反し、継続雇用の機会を与えたとは認められず違法とされた事例
名古屋高裁H28.9.28
<事案>
Y1社においては、60歳定年制が採用され、労使協定の定める再雇用の選定基準を満たした者に対しては、スキルドパートナーとして定年後再雇用者就業規則に定める職務を提示(雇用期間は最長5年)
当該基準を満たさない者に対しては、パートタイマー就業規則に定める職務(雇用期間は1年間)を提示。
Xは、Y1社に対し、
①スキルドパートナーとして再雇用を拒否する旨の通告は違法であり無効⇒スキルドパートナーとしての雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同地位に基づく未払賃金等及び遅延損害金の支払を求め(請求①)
②パートタイマーとしての1年間の清掃業務等の雇用条件を提示したことが、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に当たる⇒慰謝料200万円および遅延損害金の支払を求め(請求②)
③Y1の代表取締役であるY2に対して、会社法429条1項ないし債務不履行に基づく損害賠償として、慰謝料500万円及び遅延損害金の支払(請求③)
を求めた。
<原審>
いずれも棄却。
<判断>
●
請求①及び請求③の棄却は相当。
請求②は一部認容。
●
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(「高年法」)においては、従前、継続雇用の対象者を労使協定の定める基準(「継続雇用基準」)で限定できる仕組み
⇒平成24年改正で、この仕組みが廃止される一方、改正附則(経過措置)において、従前から労使協定で継続雇用基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしつつ、この法律の施行の日から平成28年3月31日までの間については、継続雇用基準は61歳以上の者を対象とするものに限る旨の定め。
~
60歳の定年後、再雇用されない男性の一部に生じ得る無年金・無収入の空白期間を埋めて、無年金・無収入の期間の発生を防ぐために、老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して、労使協定で定める基準を用いることができるとした。
⇒
事業者においては、労使協定で定めた継続雇用基準を満たさないため基準適用開始年齢(61歳)以降の継続雇用が認められない従業員についても、60歳から61歳までの1年間は、その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって、提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合、当該事業者の対応は高年法改正の趣旨に明らかに反する。
●
給与水準:
Y1社が提示した給与水準によれば、Xの老齢厚生年金の報酬比例部分の約85%の収入が得られる⇒高年法改正の趣旨に反するものではない。
職務内容:
前記の高年法改正の趣旨⇒従前の職務とは全く別個の職種に属するなど性質の異なった職務内容を提示した場合には、もはや継続雇用の実質を欠く
⇒従前の職務全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されない⇒事務職であったXに対して清掃業務等を提示したことは、高年法改正の趣旨に反して違法であると判示。
<規定>
高年法 第9条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
2 継続雇用制度には、事業主が、特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主をいう。以下この項において同じ。)との間で、当該事業主の雇用する高年齢者であつてその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれるものとする。
<解説>
●高年法の経過措置は、基準適用開始年齢(61歳)以上の者を対象とする労使協定の定める継続雇用基準によって継続雇用の可否を判断することを認めているが、定年から61歳までの勤務については何ら触れていない。
高年法改正を踏まえた定年後の勤務のあり方:
①継続雇用基準を満たすか否かの問題
②継続雇用基準を満たさない労働者の定年後61歳までの労働条件のあり方の問題。
①の問題:
当該労働者が高年法9条1項2号における継続雇用基準を満たしており、嘱託雇用契約の終了後も継続雇用規定に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当とする最高裁判例(H24.11.29)等
②の問題:
定年後の労働⇒労働条件の設定について広く裁量を認めて欲しいという要望(使用者側)
給与水準の面及び職務内容の面で、定年前と同程度のもの、あるいは継続雇用が認められた労働者と同程度のものを期待(労働者側)
●本判決は、Y1社のように継続雇用を認めるか否かを60歳に達する前の時点で判断し、継続雇用が認められた労働者をとそれ以外の労働者との間で、60歳から基準適用開始年齢(61歳)までの勤務条件に大きな差異が生じること自体を違法と判示するものではない。
but
高年法改正の経過措置によれば、基準適用開始年齢は62歳、63歳、64歳と順次変更
⇒
①勤務条件に大きな差異が生ずる期間がより長期になるという問題
② 継続雇用の可否を判断する時期と基準適用開始年連との時間的ずれがより大きくなるという問題
が顕在化。
●高年法9条1項につき私法上の効力を否定する裁判例もあるが、
少なくとも高年法の趣旨を実現するための継続雇用基準やそれに対応した就業規則が制定されている場合には、高年法上の違法が、継続雇用基準や就業規則を通じて私法上の義務違反にも繋がると考えられる。
判例時報2342
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- 訴訟費用の負担の額を定める処分を求める申立てがされる前に、裁判所が受救助者に猶予した費用につき当該相手方当事者に対して民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる額を定める場合(2018.04.22)
- 厚生年金保険法47条に基づく障害年金の支分権の消滅時効の起算点(2018.04.21)
- 薬剤の製造方法に係る特許権を侵害する後発医薬品の販売等ないしその薬価収載⇒先発医薬品の市場におけるシェア喪失と薬価及び取引価格の下落⇒損害賠償請求(肯定)(2018.04.20)
- 宿泊施設の経営者と路上生活者との間の契約の、公序良俗違反、不法行為、不当利得(肯定)(2018.04.19)
- 土地の所有者である個人に対して投資事業を勧誘し、取引を行った不動産業者につき、事業収支見込みに関する情報提供・説明義務違反に係る不法行為(肯定)(2018.04.18)
「労働」カテゴリの記事
- 日雇派遣の派遣元・紹介元および派遣先・紹介先への損害賠償請求(否定)(2018.03.23)
- 求人票記載の労働条件と労働契約(2018.03.21)
- MLC契約に基づく在日米軍基地労働者に対し、国が行った解雇が違法とされた事例(2018.02.28)
- 私立大学における自社年金規程の不利益変更の事例(有効)(2018.01.30)
- タクシー会社の乗務員の雇止めの事例(有効)(2018.01.29)
コメント