和歌山カレー事件再審請求棄却決定
和歌山地裁H29.3.29
<事案>
和歌山カレー事件で死刑確定
請求人は、夫に対する殺人未遂事件及びカレー毒物混入事件について、請求人が無罪であり、再審開始の理由がある旨主張して、94点もの新証拠を提出。
<主張>
カレー毒物混入事件に係る申立ての理由の骨子:
新証拠によれば
①請求人が1人で亜ヒ酸の混入されたカレーの見張り番をしていた時間帯があり、その際に不自然な言動をしていた旨の目撃証言に信用性がなく、
②カレー毒物混入事件に関係すると思料される各亜ヒ酸の同一性に関し、捜査段階において実施された警視庁科学警察研究所における異同識別鑑定及び東京理科大学理学部教授中井泉による異同識別鑑定並びに第一審公判段階において実施された大阪電気通信大学工学部教授谷口一雄と広島大学大学院工学研究科助教授早川慎二郎による異同識別鑑定が誤りであることが明らかとなっており、
③請求人の毛筆にヒ素の外部付着が認められるとする中井及び聖マリアンナ医科大学予防医学教室助教授山内博による毛髪に関する鑑定には信用性が無く、
④請求人以外の者にも犯行の機会があった
等というもの。
<判断>
確定判決における証拠構造等を明らかにした上で、
新証拠について
①前記目撃証言に関するもの、
②異同識別三鑑定その他の亜ヒ酸の同一性に関するもの、
③毛髪鑑定に関するもの及び
④犯行機会に係るもの
などに区分。
①③④については、確定判決の認定を動揺させるものではない。
②により、異同識別三鑑定から認められた間接事実のうち、
(A)夏祭り会場から押収された青色紙コップに付着していた亜ヒ酸及び請求人の周辺から発見された亜ヒ酸とは製造工場、原料鉱石、製造工程又は製造機会の異なる亜ヒ酸の中に原料鉱石に由来する微量元素の構成が酷似するものが存在せず、前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸及び請求人の周辺から発見された亜ヒ酸が製造段階において同一とされた点、
(B)請求人の周辺から発見された亜ヒ酸の一部と前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸に共通して含まれていたバリウムが製造後の使用方法に由来するとされた点
の2点については相当性を欠くといわざるを得ないものの、
前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸及び請求にの周辺から発見された亜ヒ酸についていずれも原料鉱石に由来する微量元素の構成が酷似しているとされた点などについてはいささかの動揺も生じていない。
微量元素の構成が酷似する以上、請求人の周辺から発見された亜ヒ酸と組成上の特徴を同じくする亜ヒ酸がカレーに混入されたといえる
⇒異同識別三鑑定の証明力が減殺されたからといって、それだけで直ちに確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じるわけではない。
新旧全証拠を総合して検討してみても、異同識別三鑑定以外の証拠から認定できる間接事実のみでも請求人の犯人性が非常に強く推認されるし、請求人が入手可能な亜ヒ酸とカレーに混入された亜ヒ酸の組成上の特徴が一致するということは請求人の犯人性を積極的に推認させる間接事実になっている
⇒確定判決の有罪認定に合理的な疑いを生じさせる余地はない
⇒新証拠の明白性を否定。
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
<解説>
証拠の明白性の判断方法に関しては、白鳥決定(最高裁昭和50.5.20)で、「もし当の証拠(新証拠)が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠(新証拠)と他の全証拠(旧証拠)とを総合的に評価して判断すべきであ」ると判示。
~総合評価説。
再審請求段階で新たに提出された証拠により確定判決の有罪認定の根拠となった証拠の一部について証明力が大幅に減殺された場合に刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか否かは、
再審請求後に提出された新証拠と確定判決を言渡した裁判所で取り調べられた全証拠とを総合的に評価した結果として確定判決の有罪認定につき合理的な疑いを生じさせ得るか否かにより判断すべき(名張決定、最高裁H9.1.28)
本決定は、最高裁の証拠の明白性の判断手法に則り、
①確定判決における証拠構造等を明らかにし、
②再審請求段階で新たに提出された新証拠の証拠価値を検討し、
③新証拠の提出により異動識別鑑定の一部について証明力の減殺が生じたこと自体は否定しがたい状況にあることを踏まえ、これだけでは確定判決における有罪認定に合理的な疑いが生じず、嫌疑亜ヒ酸の同一性に関する間接事実以外の間接事実の認定に影響はなく、新旧全証拠を総合しても有罪認定に合理的疑いは生じない
⇒新証拠の明白性を否定。
判例時報2345
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