子の名に用いられ得る戸籍法50条1項、2項にいう常用平易な文字
さいたま家裁川越支部H28.4.21
<事案>
申立人が、子の名に「舸」の字を用いた出生届を提出⇒市長によって「舸」の字が戸籍法施行規則60条に定める文字でないことを理由に不受理処分⇒家庭裁判所に対し、市長に対して前記出生届を受理することを命じることを求めた(戸籍法121条)
<規定>
戸籍法 第50条〔子の名の文字〕
子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。
②常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。
戸籍法 第121条〔不服の申立て〕
戸籍事件(第百二十四条に規定する請求に係るものを除く。)について、市町村長の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができる。
<判例>
最高裁H15.12.25:
家庭裁判所は、審判手続に提出された資料、公知の事実等に照らし、当該文字が社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるときは、当該市町村長に対し、当該出生届の受理を命じることができる。
←
①法50条1項が子の名には常用平易な文字を用いなければならないとしているのは、従来、子の名に用いられる漢字には極めて複雑かつ難解なものが多く、そのため命名された本人や関係者に、社会生活において多大の不便や支障を生じさせたことから、子の名に用いるべき文字を常用平易な文字に制限し、これを簡明ならしめることを目的とするものと解される
②同条2項にいう委任の趣旨は、当該文字が常用平易な文字であるか否かは、社会通念に基づいて判断されるべきものであるが、その範囲は、必ずしも一義的に明らかではなく、時代の推移、国民意識の変化等の事情によっても変わり得るものであり、専門的な観点からの検討を必要とする上、前記事情の変化に適切に対応する必要があることなどから、その範囲の確定を法務省令に委ねたものであり、施行規則60条は、法50条2項の常用平易な文字を限定列挙したものと解される
③法50条2項は、同条1項による制限の具体化を施行規則60条に委任したものであるから、同条が、社会通念上、常用平易であることが明らかな文字を子の名に用いることができる文字として定めなかった場合には、法50条1項が許容していない文字使用の範囲の制限を加えたことになり、その限りにおいて、施行規則60条は、法による委任の趣旨を逸脱するものとして違法、無効と解すべき
④法50条1項は、単に、子の名に用いることのできる文字を常用平易な文字に限定することにとどまらず、常用平易な文字は子の名に用いることができる旨を定めたものである
「曽」の時について、社会通念上明らかに常用平易な文字であるとした原審の判断を相当であると判断。
←
①当該文字が古くから用いられており、平仮名の「そ」や片仮名の「ソ」は、いずれも「曽」の字から生まれたもの
②「曽」の字を構成要素とする常用漢字が5字もあり、いずれも常用平易な文字として施行規則60条に定められている
③「曽」の字を使う氏や地名が多く、国民に広く知られていることなどの諸点
<判断>
「舸」の字は、社会通念に照らし明らかな常用平易な文字とはいえない⇒本件申立てを却下。
←
①「舸」の字が字源となる平仮名又は片仮名が認められない
②「舸」の字を構成要素とする常用漢字が存在せず、「舸」の字を使用した熟語も数点あるのみ
③「舸」の字を含み、新聞・テレビ等で日常的に接する報道や書物によって、広く国民に知られているといえるような氏は認められない
④日本国内に「舸」の字を含む地名はわずかである
判例時報2342
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