妊婦の死亡⇒医療過誤で過失・因果関係肯定事例
東京高裁H28.5.26
<事案>
帝王切開で胎児を出産する手術⇒出産(死産)後ショック状態に陥り、分娩から約4時間後に死亡⇒Aの夫X1と母X2は、手術を担当した医師らは、常位胎盤想起剥離発生時における産科DIC防止に関する過失、産科DIC及びショックに対する治療に関する過失、出血量チェック及び輸血に関する過失、弛緩出血への対応に対する過失、転送義務違反があり、Aはこれらの過失によって死亡⇒
Y1に対して選択的に診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、また担当医師であったY医師らに対して不法行為に基づき損害賠償を請求。
<一審>
Y医師らは、Aが常位胎盤想起剥離を発症したことを把握しながら、その後進展する可能性のある産科DICに対する治療の準備が遅れた結果、十分な抗ショック療法及び抗DIC療法を行うことができなかった過失がある。
but
Aは羊水塞栓症を発症し、子宮を主体とするアナフィラキー様のショックにより、血管攣縮、血管透過亢進及び浮腫を生じて、その後産科DICも併発したことにより死亡。
保険手術当時、このような症状に対する有効な治療法は確立されておらず、かつ、Y病院においてはICUによる集学的管理・治療も行うことができなかった。
⇒
仮に、Y医師らが適切に抗ショック療法や抗DIC療法を実施していたとしても救命でいたとは認められない。
⇒
Y医師らの過失とAの死亡との間には相当因果関係が認められないとして、請求棄却。
<判断>
Y病院におけるAの診療経過、医学的知見などについて詳細に認定⇒Aについては、出血性疾患である常位胎盤早期剥離を発症し、その後に重篤な産科DICを発症して死亡。
常位胎盤早期剥離の中でも胎児死亡例は極めて産科DICを伴いやすく、産科DICは重篤化すると非可逆性になり生命が危険となる
⇒
産科DICスコアを用いた母体の状態把握を行い、産科DICを認める場合には可及的速やかにDIC治療を開始すべきであった。
but
Y医師らは産科DICスコアのカウントを全く行わず、産科DICの確定診断に向けた血液検査等も実施しなかった。
⇒
産科DIC防止に関する注意義務に違反。
手術中の出血量の把握についても十分に行わず、
少なくともショックインデックスを用いた出血量の把握を行うべきであったとにそれを行わず、
適時適切に輸血を実施しなかった注意義務違反もある。
症例報告や医学的知見
⇒Aの死亡とY医師らの注意義務違反とAの死亡の結果との間には相当因果関係が認められる。
<解説>
周産期における妊婦の突然死事例に関しては医療機関側から救命不可能な羊水塞栓症であった旨のの主張がされることがしばしば見られ、実務的にも過失や因果関係に関し困難な立証が必要となる。
本件においては、患者側から国内外における症例報告や医学論文をもとに産科DICの症例や救命可能性について相当充実した立証活動が行われたことがうかがわれる。
判例時報2346
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