成人として地裁に起訴⇒20歳に達していないかも⇒公訴棄却で家裁に送致⇒検察官送致の事例
横浜家裁H28.10.17
<事案>
外国人である少年が、氏名不詳者と共謀の上、不正に入手したキャッシュカードを用いてATMから現金を複数回引き出した窃盗の事案(被害額合計約537万円)。
少年は、当初、旅券に記載された生年月日を踏まえて成人として地裁に起訴⇒第三回公判期日において、初めて、実際の生年月日は旅券に記載された生年月日の1年後の日であり、いまだ満20歳に達していない旨供述⇒同裁判所は、出生国の公的機関発行に係る証明書を取り調べるなどした上で、被告人が満20歳に達していると認めることには合理的な疑いが残るとして公訴棄却⇒検察官は、上訴権を放棄して事件を家裁に送致。
<本決定>
少年の年齢の認定に関する地方裁判所の判断を是認した上で、本件の犯情、少年の犯罪傾向、更生意欲、年齢等を踏まえると、少年には保護処分ではなく刑事処分が相当⇒事件を検察官に送致。
<解説>
少年法は、少年審判の対象となる「少年」を「20歳に満たない者」と定義し、少年の被疑事件について、捜査機関は、事件を家庭裁判所に送致しなければならないのが原則(41条、42条)。
検察官は、家庭裁判所から事件が送致された場合(19条2項、20条、45条5号)を除き、20歳未満の者について公訴を提起することができず、同送致を欠く公訴の提起がなされても、手続規定違反として控訴棄却判決が下される(刑訴法338条4号)。
合理的手段を尽くしても年齢を認定できない場合:
A:少年法が刑訴法の特別法であることを重視⇒一般法である刑訴法によって手続を進めるべき
B:対象者の利益に従い、20歳以上であることの証明がないため、少年法によって手続を進めるべき(実務)
原則検察官送致対象事件(20条2項本文)以外の事件で、検察官送致が選択される少年は、保護処分原則主義(最高裁H9.9.18)の下、犯情や保護処分歴等を総合考慮すると、保護処分による矯正の見込みの少なさ(保護不適)がいわば実証されているような場合が多いというのが実務の大勢。
本決定は、
非行歴及び保護処分のない少年について、
本件の罪質(組織的犯行)、
少年の関与のあり方(常習的犯行、強い犯意、被害金額や少年の得た利益の大きさ)、
少年の性格ないし生活態度(組織犯罪によるもの以外の収入がない。)、
少年の観護措置中の言動(内省の深まりがない。)
少年の年齢(数週間後には20歳になる。)
等を定年に検討した上で、
検察官送致を結論。
判例時報2343
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