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2017年11月17日 (金)

無効審判についての除斥期間経過と、商標権侵害訴訟の相手方による、無効の抗弁の主張

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
本訴:米国法人であるエマックス・インクとの間で同社の製造する電気瞬間湯沸器につき日本国内における独占的な販売代理店契約を締結し、X使用商標を使用して本件湯沸器を販売しているXが、本件湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売しているYに対し、X仕様商標と同一の商標を使用するYの行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当⇒その商標の使用の差止め及び損害賠償等を求めた。

反訴:Yが、Xに対し、商標権に基づき、登録商標に類似する商標の使用の差止め等を求めた。
X:Yの登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けることができない商標に該当し、Xに対する商標権の行使は許されないと主張。 
 
規定   
 
<原審>
X仕様商標は不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示・・・として需要者の間に広く認識されているもの」に当たり、YがX仕様商標と同一の商標を使用する行為は同号所定の不正競争に該当⇒本訴請求を一部認容。
X使用商標は商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」(「周知商標」)に当たり、X仕様商標と同一又は類似の商標である本件各登録商標のいずれについても、商標登録を受けることができない同号所定の商標に該当
⇒同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定に係る抗弁が認められ、Xに対する本件各商標権の行使は許されない⇒反訴請求を棄却。
 
<判断>
上告を受理し、
原審の認定事実からはX使用商標が不正競争防止法2条1項1号及び商標法4条1項10号の周知商標に当たると直ちにいえず、Xによる具体的な販売状況等について十分に審理しないまま前記各号該当性を認めた原審の判断には違法がある⇒本訴請求のうち不正競争防止法に基づく請求に関する部分及び反訴請求に関する部分の原審の判断は是認できないとして、これらの部分について原判決を破棄し本件を福岡高裁に差し戻した。
 
<規定>
商標法 第39条(特許法の準用)
特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。

商標法 第47条
商標登録が第三条、第四条第一項第八号若しくは第十一号から第十四号まで若しくは第八条第一項、第二項若しくは第五項の規定に違反してされたとき、商標登録が第四条第一項第十号若しくは第十七号の規定に違反してされたとき(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く。)、商標登録が第四条第一項第十五号の規定に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)又は商標登録が第四十六条第一項第三号に該当するときは、その商標登録についての同項の審判は、商標権の設定の登録の日から五年を経過した後は、請求することができない。

商標法 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
 
<解説>
●問題
Xは、本件各登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けられない商標に該当すると主張。
but
①本件各登録商標のうち最初に登録された平成17年登録商標については、商標権設定登録日から5年を経過
②同号該当を理由とする無効審判請求について同法47条1項が5年の除斥期間を定めている
本件訴訟において同号該当性の主張をすることが許されるのか(=同項が無効審判手続について定めるのと同様の期間制限が、商標権侵害訴訟における同号該当性の主張にも及ぶのか)が問題。
 
●無効の抗弁の主張と期間制限 
商標法39条によって準用する特許法104条の3第1項の規定(「本件規定」)は、商標権侵害訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは商標権者は相手方に対しその権利を行使することができない旨を定めているところ、商標権設定登録日から5年を経過した後は、商標法47条1項の規定により、商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き同法4条1項10号該当を理由とする無効審判を請求することができない
「商標登録が無効審判により無効にされるべきもの」と認められる余地がないこととなる。
②商標法47条1項の趣旨(=商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護する)からいっても、誰でも主張できる抗弁である無効の抗弁を期間の制限なく主張し得るものとすると、商標権者がいつ誰に対して商標権侵害訴訟を提起しても、同訴訟の相手方は、登録商標が周知商標(自己の商品等表示として周知である商標でなく、他人の周知商標であってもよい。)と同一又は類似の商標であることを主張して、同法4条1項10号該当をもって無効の抗弁を主張できる⇒商標権者は、この抗弁が認められることによって自らの権利を行使することができなくなり、同法47条1項の趣旨が没却される

商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、本件規定に係る抗弁を主張することが許されない
 
権利濫用の抗弁の主張と期間制限 
例えば、周知商標を自己の商品等表示として使用する者(周知商標使用者)の知らないうちに周知商標と同一又は類似の商標について商標登録がされ、その商標権設定登録日から5年を経過した後に周知商標使用者に対する商標権侵害訴訟が提起された場合、同訴訟の相手方(周知商標使用者)にとっては、商標登録に係る不正競争目的を立証しない限り商標法4条1項10該当をもって商標権者の権利行使に対することができなくなる。

本判決:
登録商標が商標法4条1項10号に該当し、かつ、その商標権を行使されている相手方が当該登録商標を同号に該当するものとされている周知商標につき自己の商品等表示として周知性を獲得した当人(=周知商標使用者)であるという場合に、その周知商標使用者は当該商標権侵害訴訟において自己に対する商標権の行使が許されないとする権利濫用の抗弁を主張することができ、このような抗弁の主張については期間制限を受けないとした。

◎商標権の濫用は、民法1条3項に定める権利の濫用が商標権行使の場面で表れたものにほかならない。

山﨑裁判官の補足意見:
権利の濫用の有無は、当該事案に表れた諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきものであって、このことは、商標権の行使について権利の濫用の有無が争われる場合であっても異なるものではない。
もっとも、商標権は、発明や著作などの創作行為がなくても取得できる権利であることなどから、その行使が権利の濫用に当たるとされた事例はこれまでに少なからずみられるところであり、こうした事例の中から、権利の濫用と判断される場合をある程度類型化して捉えることは可能。
一般に、正当に商標が帰属すべき者(又はその者から許諾を受けた者)に対して商標権を行使する場合には権利濫用が認められる傾向がある。

本判決:
登録商標が商標法4条1項10号に該当するものであるにもかかわらず同号の規定に違反して商標登録がされた場合に、当該登録商標と同一又は類似の商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商用登録の出願時において需要者の間に広く認識されている者に対してまでも、商標権者が当該登録商標に係る商標権の侵害を主張して商標の使用の差止め等を求めることは、特段の事情がない限り、商標法の法目的の1つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして、権利の濫用に当たり許されないものというべきである。


商標法4条1項10号が、同号の要件(=出願時までに引用商標につき周知性を備えていること)を満たす場合には商標登録出願人よりも周知商標使用者を有意とするという規律を定めていることから導かれるもの。

判例時報2343

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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