語学学校の外国人講師と厚生年金保険の被保険者の資格
東京地裁H28.6.17
<事案>
語学学校を運営するA社との間で雇用契約を締結し、英語講師として就労していたX(カナダ国籍)が、平成21年11月9日、港社会保険事務所長に対し、厚生年金保険の被保険者の資格の取得の確認請求⇒同年12月4日付けで、却下する旨の処分⇒本件却下処分の取消しを求めて訴えを提起。
港社会保険事務所は同月31日に廃止され、本件却下処分は厚生労働大臣等がした処分とみなされ、同処分に係る権限の受任者はY(日本年金機構)となった。
Xは、平成18年8月1日に厚生年金保険の被保険者の資格を取得したが、
Aは、平成21年8月1日付けでXについて被保険者の資格喪失の届出をし、港社会保険事務所長は、同年9月3日付けで、Aに対し、Xについて同年8月1日付けで被保険者の資格喪失が確認された旨の通知。
Aから同通知内容を知らされたXは、本件確認請求⇒請求に係る事実がないものと認めたとして本件却下処分(なお、Xについては、その後平成22年12月1日付けで、被保険者資格の取得が確認された。)。
<争点>
被保険者資格の喪失が確認された平成21年8月においてXが厚生年金保険の被保険者であったと認められるか否か。
<判断>
厚年法が、標準報酬月額を基礎として年金額や保険料を算定する制度を採用し、標準報酬月額の最低額が9万8000円とされていること
報酬月額算定に当たり報酬支払の基礎となる日数が17日未満の月の報酬を除外するものとしていること等
⇒
同法は、労働力の対価として得た賃金を生計の基礎として生計を支えるといい得る程度の労働時間を有する労働者を被保険者とすることを想定。
そのような労働者といえない短時間の労働者は、同法9条にいう「適用事業所に使用される70歳未満の者」に含まれないものと解するのが相当。
短時間の労働者を判断する具体的な基準についての法令の定めがない
⇒被保険者とされるかどうかについては、前記の趣旨に照らして、個々の事例ごとに、労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等を総合的に勘案して判断すべき。
Xの具体的な労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等
⇒同年7月までの間において被保険者の資格を喪失するには至らなかったじことになるとともに、同年8月において被保険者の資格を取得することができたと認定。
その他、
①Xの労働日数は常勤講師のものと変わりがなかったこと、
②報酬の額も前記標準報酬月額の最低額を大きく上回っており、十分に生計を支えることができる額であったこと
③事業主との雇用関係も安定していると評価することができること
⇒
Xは、本来、同月の前後を通じて被保険者の資格を有していたとみるべきであって、本件確認請求の趣旨に沿って検討した場合には、同月1日付けで被保険者の資格を喪失したものとされ、その旨の確認がされているものの、同日において被保険者の資格を再取得したものと認めることができる。
⇒
Xは、同日において「適用事業所に使用される70歳未満の者」に該当するというべきであり、これを否定した本件却下処分は違法なものであるとして、Xの請求を認容。
<解説>
厚年法9条は、「適用事業所に使用される70歳未満の者」は被保険者とする旨を定め、
例外として、同法12条(平成24年改正前のもの)は、臨時に使用される者であって日々雇い入れられる者等同条各号のいずれかに該当する者は被保険者としない旨を定めている。
同条各号のほかには適用事業所に使用される者について被保険者に該当しない旨を具体的に定めた明文規定はない。
本件は、厚生年金保険の被保険者資格の判断に当たり、厚年法の趣旨より、明文の適用除外事由に該当しない場合でも、いわゆる短時間の労働者は被保険者とはならないとの解釈を基本としつつ、
当時の短時間就労者(いわゆるパートタイマー)に係る被保険者資格の取扱いに関する、昭和55年6月6日付け厚生省保険局保健課長等による都道府県民生主管部(局)保険課(部)長宛ての文書(「内かん」)や平成17年5月19日付け社会保険庁運営部医療保険課長による地方社会保険事務局長宛ての文書(「語学学校に雇用される外国人講師に係る健康保険・厚生年金保険の適用について」)に示されている内容も踏まえつつ、
Xの労働時間のほか、労働日数、就労形態、職務内容等を個別かつ総合的に勘案して、
本件のXについては短時間の労働者ではなく厚生年金保険の被保険者の資格があるとした事例。
平成24年8月10日成立の「公的年金制度の財務基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」により、従前の厚生年金保険法12条各号の適用除外対象者に加え、一定の短時間の労働時間を有するにすぎない者(短時間労働者)を適用除外対象者として具体的に定める規定が設けられた。
判例時報2346
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