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2017年11月

2017年11月30日 (木)

妊婦の死亡⇒医療過誤で過失・因果関係肯定事例

東京高裁H28.5.26      
 
<事案>
帝王切開で胎児を出産する手術⇒出産(死産)後ショック状態に陥り、分娩から約4時間後に死亡⇒Aの夫X1と母X2は、手術を担当した医師らは、常位胎盤想起剥離発生時における産科DIC防止に関する過失、産科DIC及びショックに対する治療に関する過失、出血量チェック及び輸血に関する過失、弛緩出血への対応に対する過失、転送義務違反があり、Aはこれらの過失によって死亡⇒
Y1に対して選択的に診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、また担当医師であったY医師らに対して不法行為に基づき損害賠償を請求。
 
<一審>
Y医師らは、Aが常位胎盤想起剥離を発症したことを把握しながら、その後進展する可能性のある産科DICに対する治療の準備が遅れた結果、十分な抗ショック療法及び抗DIC療法を行うことができなかった過失がある。
but
Aは羊水塞栓症を発症し、子宮を主体とするアナフィラキー様のショックにより、血管攣縮、血管透過亢進及び浮腫を生じて、その後産科DICも併発したことにより死亡。
保険手術当時、このような症状に対する有効な治療法は確立されておらず、かつ、Y病院においてはICUによる集学的管理・治療も行うことができなかった。

仮に、Y医師らが適切に抗ショック療法や抗DIC療法を実施していたとしても救命でいたとは認められない。

Y医師らの過失とAの死亡との間には相当因果関係が認められないとして、請求棄却
。 
 
<判断>
Y病院におけるAの診療経過、医学的知見などについて詳細に認定⇒Aについては、出血性疾患である常位胎盤早期剥離を発症し、その後に重篤な産科DICを発症して死亡。 
常位胎盤早期剥離の中でも胎児死亡例は極めて産科DICを伴いやすく、産科DICは重篤化すると非可逆性になり生命が危険となる

産科DICスコアを用いた母体の状態把握を行い、産科DICを認める場合には可及的速やかにDIC治療を開始すべきであった。
but
Y医師らは産科DICスコアのカウントを全く行わず、産科DICの確定診断に向けた血液検査等も実施しなかった。

産科DIC防止に関する注意義務に違反。

手術中の出血量の把握についても十分に行わず、
少なくともショックインデックスを用いた出血量の把握を行うべきであったとにそれを行わず、
適時適切に輸血を実施しなかった注意義務違反もある。
症例報告や医学的知見
Aの死亡とY医師らの注意義務違反とAの死亡の結果との間には相当因果関係が認められる。
 
<解説>
周産期における妊婦の突然死事例に関しては医療機関側から救命不可能な羊水塞栓症であった旨のの主張がされることがしばしば見られ、実務的にも過失や因果関係に関し困難な立証が必要となる。 
本件においては、患者側から国内外における症例報告や医学論文をもとに産科DICの症例や救命可能性について相当充実した立証活動が行われたことがうかがわれる。

判例時報2346

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2017年11月29日 (水)

語学学校の外国人講師と厚生年金保険の被保険者の資格

東京地裁H28.6.17      
 
<事案>
語学学校を運営するA社との間で雇用契約を締結し、英語講師として就労していたX(カナダ国籍)が、平成21年11月9日、港社会保険事務所長に対し、厚生年金保険の被保険者の資格の取得の確認請求⇒同年12月4日付けで、却下する旨の処分⇒本件却下処分の取消しを求めて訴えを提起。

港社会保険事務所は同月31日に廃止され、本件却下処分は厚生労働大臣等がした処分とみなされ、同処分に係る権限の受任者はY(日本年金機構)となった。

Xは、平成18年8月1日に厚生年金保険の被保険者の資格を取得したが、
Aは、平成21年8月1日付けでXについて被保険者の資格喪失の届出をし、港社会保険事務所長は、同年9月3日付けで、Aに対し、Xについて同年8月1日付けで被保険者の資格喪失が確認された旨の通知。

Aから同通知内容を知らされたXは、本件確認請求⇒請求に係る事実がないものと認めたとして本件却下処分(なお、Xについては、その後平成22年12月1日付けで、被保険者資格の取得が確認された。)。
 
<争点>
被保険者資格の喪失が確認された平成21年8月においてXが厚生年金保険の被保険者であったと認められるか否か。 
 
<判断>
厚年法が、標準報酬月額を基礎として年金額や保険料を算定する制度を採用し、標準報酬月額の最低額が9万8000円とされていること
報酬月額算定に当たり報酬支払の基礎となる日数が17日未満の月の報酬を除外するものとしていること等

同法は、労働力の対価として得た賃金を生計の基礎として生計を支えるといい得る程度の労働時間を有する労働者を被保険者とすることを想定
そのような労働者といえない短時間の労働者は、同法9条にいう「適用事業所に使用される70歳未満の者」に含まれないものと解するのが相当。 

短時間の労働者を判断する具体的な基準についての法令の定めがない
⇒被保険者とされるかどうかについては、前記の趣旨に照らして、個々の事例ごとに、労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等を総合的に勘案して判断すべき

Xの具体的な労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等
⇒同年7月までの間において被保険者の資格を喪失するには至らなかったじことになるとともに、同年8月において被保険者の資格を取得することができたと認定。

その他、
①Xの労働日数は常勤講師のものと変わりがなかったこと、
②報酬の額も前記標準報酬月額の最低額を大きく上回っており、十分に生計を支えることができる額であったこと
③事業主との雇用関係も安定していると評価することができること

Xは、本来、同月の前後を通じて被保険者の資格を有していたとみるべきであって、本件確認請求の趣旨に沿って検討した場合には、同月1日付けで被保険者の資格を喪失したものとされ、その旨の確認がされているものの、同日において被保険者の資格を再取得したものと認めることができる

Xは、同日において「適用事業所に使用される70歳未満の者」に該当するというべきであり、これを否定した本件却下処分は違法なものであるとして、Xの請求を認容
 
<解説>
厚年法9条は、「適用事業所に使用される70歳未満の者」は被保険者とする旨を定め、
例外として、同法12条(平成24年改正前のもの)は、臨時に使用される者であって日々雇い入れられる者等同条各号のいずれかに該当する者は被保険者としない旨を定めている。
同条各号のほかには適用事業所に使用される者について被保険者に該当しない旨を具体的に定めた明文規定はない。

本件は、厚生年金保険の被保険者資格の判断に当たり、厚年法の趣旨より、明文の適用除外事由に該当しない場合でも、いわゆる短時間の労働者は被保険者とはならないとの解釈を基本としつつ、
当時の短時間就労者(いわゆるパートタイマー)に係る被保険者資格の取扱いに関する、昭和55年6月6日付け厚生省保険局保健課長等による都道府県民生主管部(局)保険課(部)長宛ての文書(「内かん」)や平成17年5月19日付け社会保険庁運営部医療保険課長による地方社会保険事務局長宛ての文書(「語学学校に雇用される外国人講師に係る健康保険・厚生年金保険の適用について」)に示されている内容も踏まえつつ、
Xの労働時間のほか、労働日数、就労形態、職務内容等を個別かつ総合的に勘案して、
本件のXについては短時間の労働者ではなく厚生年金保険の被保険者の資格があるとした事例


平成24年8月10日成立の「公的年金制度の財務基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」により、従前の厚生年金保険法12条各号の適用除外対象者に加え、一定の短時間の労働時間を有するにすぎない者(短時間労働者)を適用除外対象者として具体的に定める規定が設けられた。

判例時報2346

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2017年11月28日 (火)

強盗致傷等被告事件について執行猶予とした裁判員裁判の判断が破棄された事例

東京高裁H28.6.30      
 
<事案>
被告人A・B両名が共謀して、深夜の住宅街の路上において、連続的に、通行中の3名の中年男性を襲った強盗致傷、強盗の事案(裁判員裁判) 
 
<一審>
①被害金額が多額で、致傷結果も重く、安易な動機、経緯で短期間に各犯行を累行⇒実刑に処することは十分あり得る。
②検察官主張の計画性は、この種犯行で通常行われるもので、特に非難されるべきものと評価できない。
③第3事件の被害者の傷害(骨折)は揉み合いの中で生じたもので、暴行は全体としてみると執拗又は強度なものであったと認めるに足りる証拠はない。
⇒本件が執行猶予を付することがあり得ない事件と断ずることはできない。

①全事件について示談が成立し、特に第3事件の被害者には合計100万円の示談金が支払われ、同人から宥恕の意思が示されている
②被告人両名が逮捕後自ら犯行を告白するなどして反省を深めている
③被告人両名には近親者等の監督者がいる
④被告人Aには懲役前科がなく、被告人Bには前科前歴がない

実刑しかあり得ないとは認められず、むしろ公的機関による指揮監督に服させた上で社会内で更生する機会を与えるのが相当。

被告人両名に対し、いずれも懲役3年、5年間保護観察付き執行猶予。
(検察官の求刑は、被告人Aについて懲役9年、被告人Bについて懲役8年)
 
<判断>
●原判決の量刑判断は是認できない。
 
●量刑の在り方 
行為責任の原則に従って、まず犯情の評価を基に当該犯罪にふさわしい刑の大枠を設定し、その枠内で一般情状を考慮して最終的な刑を決定すべきことは裁判員裁判でも同様であるが、
行為責任の原則に基づく量刑の大枠を定めるに当たっては、犯罪類型ごとに集積された量刑傾向を目安とすることが、量刑判断の公平性とプロセスの適正を担保する上で重要
 
●本件強盗致傷等事案についての犯情及び量刑傾向等 
本件事案の犯情の重さや量刑傾向を踏まえた量刑の大枠について検討。
強盗致傷の中の犯罪類型として見た場合、
2人がかりで暴行を加えるという方法で立て続けに3件の路上強盗を敢行し、2人に傷害を負わせたもの⇒そもそも全体の中で軽い部類に属するとは評価できず、行為態様、動機経緯、法益侵害の各点を総合しても、本件の犯情は、前記の犯罪類型の中でも中程度の部類に属する。
本件のような共犯による連続的な強盗致傷の類型のおおまかな傾向については、中心的な量刑は懲役4年6月以上懲役8年以下の範囲に収まっており、それがほぼ本件の量刑の大枠に相当。
 
●原判決の犯情評価等
そもそも強盗致傷の事件で刑の執行を猶予するという判断は、
当該事案が犯罪類型として極めて軽い部類に属すると判断することにほかならず
、特に、事後強盗を除く強盗致傷を複数犯した事案の量刑傾向を前提にすると、執行猶予の判断に至るのは例外的な事案に限られる

原判決が指摘する被告人らのために酌むべき一般事情を考慮しても、刑の執行を猶予した原判決は、これまでの量刑傾向の大枠から外れる量刑判断を行ったものと言わざるを得ない。
 
●量刑傾向を変容させる場合の量刑判断の在り方 
最高裁H26.7.24(平成26年最判)を引用しつつ、
これまでの量刑傾向を変容させる意図をもって行う量刑判断が公平性の観点から是認できるものであるためには、
従来の量刑傾向を前提とすべきでない事情の存在について裁判体の判断が具体的、説得的に判示される必要がある。

原判決がそのような意図をもって本件量刑を判断したとしても、その理由は何ら説明されていない。
⇒原判決の量刑を是認することはできない。


量刑不当を理由に原判決を破棄した上で、
被告人両名を実刑に処した(Aを懲役6年6月、被告人Bを懲役6年)

 
<解説>
平成26年最判:
夫婦である被告人らが共謀の上、1歳8か月の幼児の頭部を平手で1回強打して床に打ち付けて死亡させたという傷害致死の事案において、第1審判決が、これまでの量刑傾向から踏み出し、公益の代表者である検察官の懲役10年の求刑を大幅に超える懲役15年という量刑をすることについて、裁判体として具体的説得的な根拠を示しているとはいい難い⇒その量刑を是認した原判決について、量刑不当により破棄を免れない

責任は、単に刑罰を消極的に限定する(刑の上限を画する)だけでなく、刑罰を科する基礎としての役割を果たす(刑の下限を画する)こととなる
責任より重い刑はもちろん、軽い刑を言い渡すことも許されないとの見解が裁判実務上は有力。

執行猶予期間中に同種再犯に及んだ覚せい剤使用事案について執行猶予を付した原判決について、同種事案に関する量刑傾向に照らし、行為責任から大きく逸脱した不当に軽い量刑をしたもの⇒これを破棄し実刑に処した事例(大阪高裁H27.7.2)。

判例時報2345

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2017年11月27日 (月)

ネットモール事業者が検索連動型広告にハイパーリンクを施して広告を掲載する行為と商標法違反・不正競争防止法違反(否定)

大阪高裁H29.4.20      
 
<事案> 
出店者が各ウェブページを公開し商品を売買する形態のインターネット上のショッピングモールを運営するYが、インターネット上の検索エンジンに表示される検索連動広告に、「石けん百貨」等の標章とYのサイトへのハイパーリンクを施す方法による広告を表示した行為が、X各商標権の侵害にあたり、また不正競争法2条1項1号の不正競争にあたるとして、X各商標の商標権者であるXが、損害賠償を請求した事案。 
 
Yは、少なくとも平成24年8月から平成26年9月12日までの間、
「石けん百科」「石鹸百貨」をキーワードとして、検索連動型広告に、「石けん 百貨大特集」などの見出しのもとに広告(以下、これらの広告を「本件広告」、標章表示を「本件表示」)を掲載。

本件広告のなかにYのショッピングモールのURLがハイパーリンクとして表示され、クリックすると、Yのサイト内での「石けん百貨」等をキーワードとする検索結果表示画面(「Y検索結果が面」)に移動。
本件広告から移動したY検索結果画面には、少なくとも平成26年6月頃には、出店者である訴外Aが販売する複数の石けん商品が陳列表示。
 
<争点>
①YによるX各商標権侵害の有無
②Yによる不正競争行為の成否 
 
<判断> 
●争点①について
◎ 本件表示を「石けん」等と「百貨」等との間に半角スペースがない場合と、ある場合に区分(それぞれ、「スペースなし表示」「スペースあり表示」)。

◎  Yの行為につき、Y検索結果画面に表示される内容は、Yが制作に関与していない加盟店の出店頁の記述により専ら決せられる
⇒検索連動型広告に「石けん百貨」という具体的な表示が表示され、かつ、そのリンク先のY検索結果画面に石けん商品が陳列表示されたことは、直ちにYの意思に基づくこととはいえないYの行為は商標法2条3項8号の要件を欠き、X商標権を侵害しない

①Yが「商標権の侵害又はその助長を意図して構築したものであるとも、客観的に見て専ら商標権侵害を惹起するものであるとも認めることができない」
②規約で知的財産権侵害を、ガイドラインで隠れ文字の使用を禁止していることなどを指摘⇒本件標章が付されたことを自己の行為として認容していたとは言えない。
③一定のキーワードの取得を制限する管理の必要性につき、そのために必要な出店のページの事前調査は加盟店や取扱商品の膨大さから著しく困難。
④隠れ文字使用の設定ができないシステムが通常の仕様として普及しているとの事情がないこと、加盟店や取扱い商品等の膨大さに照らせば規約違反の常時監視は非現実的⇒それらのことをもってYが隠れ文字使用を包括的に認容していたとはいえない

but
本件広告のリンク先のY検索結果が面にX商標の指定商品である石けん商品の情報が表示された場合、ユーザーから見れば、本件広告とY検索結果画面とが一体となって、検索エンジンで「石けん百貨」をキーワードとして検索したユーザーを、Yサイト内のX商標の指定商品である石けん商品を陳列表示する加盟店のウェブページに誘導サウルための広告であると認識される

Yが当該状態及びこれが商標の出所表示機能を害することにつき具体的に認識するか、又はそれが可能になったといえるに至ったときは、その時点から合理的期間が経過するまでの間にNGワードリストによる管理等を行って、「石けん百貨」との表示を含む検索連動型広告のハイパーリンク先のY検索結果画面において、登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品緒情報が表示されるという状態を解消しない限り、Yは、「石けん百貨」という標章が付されたことについても自らの行為として認容したものとして、商標法2条3項8号所定の要件が充足され、Yについて商標権侵害が成立

本件では、Yは、本件広告の存在を認識するや、直ちにAの出店頁を調査、サーチ非表示とするなど、具体的に認識してから合理的期間が経過するまでに、商標の出所表示機能を害する状態を解消した。

Yと販売業者との間に何らかの意思の連絡があったとは認められない⇒裁判所は共同不法行為の成立を否定
 
●争点②について 
Xのサイトの広告であると誤認混同するおそれがあるとの主張に対し、
Yの名称が使用されており、Yがインターネットショッピングモールとして周知⇒誤認混同のおそれはない。

本件広告のリンク先のY検索結果画面に表示されている商品をXが販売しているとの誤認混同するおそれがあるとの主張に対し、
争点①と同様に、商品等表示を使用したとは認められない⇒不正競争行為に該当しない
 
<規定>
商標法 第25条(商標権の効力)
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

商標法 第36条(差止請求権)
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

民法 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
 
<解説>
●商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有し(商標法25条本文)、自己の商標権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の差止めを請求でき(商標法36条1項)、損害賠償を請求できる(民法709条)。
商標の「使用」は、商標法2条3項各号で規定され、同8号は、
「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を掲げる。

広告等を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為は、平成14年改正により規定され、たとえばホームページ上のバナー広告、自己のホームページの出所を示す広告等が挙げられる。
 
●検索連動広告:インターネット上の検索エンジンにおいて、利用者が検索したキーワードの検索結果表示画面に、関連した広告が表示されるもの。

Aというキーワードを利用者が検索⇒Aに関する検索結果が表示されるが、その検索結果の上部や下部などに、関連する広告が表示。
この広告にはハイパーリンクが設定され、利用者が広告をクリックすると、広告主の設定したウェブサイトに異動。

広告主が、表示対象となる検索結果のキーワードを指定し、表示したい広告の見出しやURL等を登録することにより、設定がされる。
キーワードや広告内容には、商品や役務の内容だけでなく、他者の登録商標も設定できうる⇒商標権侵害の問題が生じうる。 

本件では検索連動型広告の広告内において原告の登録商標が表示され、なおかつハイパーリンク先に当該商標の指定商品が陳列表示⇒商標法2条3項8号にいう行為に該当するか?
 
●検索連動型広告と商標権をめぐる紛争の当事者:
①商標権者・広告主間
②商標権者・検察エンジン運営者間
③商標権者・オンライン市場運営者

本件は③。 

通常の広告主とオンライン市場運営者では広告への関与の度合いが異なる。
本件では、
①広告のハイパーリンク先のYサイト内における商品陳列が面に、いかなる商品が陳列表示されるかも、
②検索連動型広告での表示も、
Yが関与しない加盟店の出店ページの記述に左右される
⇒オンライン市場経営者であるYが侵害主体となりうるかが問題
 
●過去の裁判例として、
原告商品の名称及び原告商標をキーワードとして表示される検索結果の広告スぺースに被告が自社の広告を掲載することが商標権侵害であるかが争われた大阪地裁H19.9;.13:
裁判所は「被告の行為は、商標法2条3項各号に記載された標章の「使用」のいずれの場合にも該当するとは認め難い⇒本件における商標法に基づく原告の主張は失当」
but
本件とは事案が違う。 
 
●本控訴審は、オンライン市場運営者による検察連動型広告における標章の使用が、自らの商標の使用(商標法2条3項8号)にあたる場合の基準を示したもの。 
Yのようなオンライン市場において加盟店が第三者の商標権を侵害する商品を陳列表示している場合に、オンライン市場運営者が侵害主体となりうるときの基準を示した知財高裁H24.2.14と比較すると、本控訴審判決はオンライン市場運営者の行為が商標の使用にあたるとしている点に特徴がある。

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2017年11月25日 (土)

固定資産税等の賦課徴収行為が国賠法上違法とされた事例・消滅時効の起算点

東京地裁H28.10.26      
 
<事案>
Yの都税事務所は、平成26年10月、Xに対し、過納付があった旨を通知し、平成27年2月、平成22年度分から平成26年度分の過納付分の合計額を還付

Xは、平成17年度から平成21年度の固定資産税等の過納付分に係るYの賦課徴収行為が国賠法1条1項の適用上違法である旨主張し、国賠請求。 
 
<判断>
●国賠法上の違法性
公権力の行使に当たる公務員の職務上の行為が国賠法1条1項の適用上違法と評価されるのは、
当該公務員が、当該行為によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係において、職務上の法的義務として通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為を行ったと認め得るような事情がある場合に限る」との一般論。

固定資産税等においては
①地方税法上、申告納税方式ではなく賦課課税方式が採用されており、課税庁は、納税者とともにする実地調査、納税者に対する質問、納税者の申告書の調査等のあらゆる方法により、固定資産評価基準に従った公正な評価を行って価格を決定する義務を負っている
諸規模住宅用地の特例及び市街化区域農地の特例の適用につき、土地所有者の申告が要件ではない

Yの評価担当職員は、小規模住宅用地及び市街化区域農地の所有者からの申告の有無にかかわらず、各所有者との関係で小規模住宅用地の特例及び市街化区域農地の特例の各要件の有無を調査し、同特例が適用される土地には、同特例の基準に従って算出した価格を評価すべき職務上の注意義務を負っている。

本件の事実関係の下では、同注意義務違反が認められる
 
●消滅時効の主張 
A又はXが、各納付の時点で本件土地の固定資産税等が小規模住宅用地の特例及び市街化区域農地の特例の適用により減額されていないことを知ったのであれば、過納付となる金額が相当多額になることも知り得るものであることが推認⇒同人らは、直ちに本件土地が小規模住宅用地及び市街化区域農地であることをYに申告して過納付金の返還を求める等の対応をするものといえる
but
平成26年10月頃にYからの連絡が来るまで何等の対応をしていない

Yの主張する時点において、Yに対する国賠請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度において損害を知ったということはできない

●地方税法及び都税条例が住宅用地等の所有者に一定の申告義務を負わせたのは、固定資産税等について賦課課税方式を採用しつつ、固定資産の適正な評価・認定を行うに当たってすべき調査等を補完し、その過誤の防止に資するため

Xの不申告の事実が過失相殺において考慮すべき事情
Xの損害額から2割を控除するのが相当。 
 
<解説>
民法724条の「加害者及び損害を知ったとき」につき、
「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知ったときを意味する」(最高裁昭和48.11.16) 

遅延損害金の起算点についても問題となっており、この点については、各納付時点としている。

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2017年11月24日 (金)

死刑確定者の「懸賞応募券」の郵送願い・差し入れされた写真ネガフィルムの送付者への返送・領置願いの不許可の違法性(違法)

名古屋高裁H29.4.13      
 
<事案>
名古屋拘置所に収容中の死刑確定者Xは、
①自分で購入した食品などの包装ビニール袋に付いていた「懸賞応募券」を親族に対して郵送することを願い出た⇒拘置所長がこれを不許可とした
知人が差し入れした「写真のネガフィルム」について、知人に引き取りを求めたうえ、Xが同フィルムを領置するよう願い出たのに対して拘置所長が不許可とした

Y(国)への国賠請求
 
<Yの主張>
①「懸賞応募券」は、いわゆる「自弁物品」には該当しない⇒この応募券の郵送願いを不許可にしたことは適法
②「ネガフィルム」は「釈放の際に必要と認められる物品」に該当しないし、被収容者が閲覧することができる書籍等に該当しない⇒送付者に引き取りを求め、領置願いを不許可にしたことは適法 
 
<規定>
刑事収容法 第48条(保管私物等)
刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、保管私物(被収容者が前条第一項の規定により引渡しを受けて保管する物品(第五項の規定により引渡しを受けて保管する物品を含む。)及び被収容者が受けた信書でその保管するものをいう。以下この章において同じ。)の保管方法について、刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができる。

刑事収容法 第50条(保管私物又は領置金品の交付)
刑事施設の長は、被収容者が、保管私物又は領置されている金品(第百三十三条(第百三十六条、第百三十八条、第百四十一条、第百四十二条及び第百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する文書図画に該当するものを除く。)について、他の者(当該刑事施設に収容されている者を除く。)への交付(信書の発信に該当するものを除く。)を申請した場合には、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、これを許すものとする。
一 交付(その相手方が親族であるものを除く。次号において同じ。)により、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき。
二 被収容者が受刑者である場合において、交付により、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。
三 被収容者が未決拘禁者である場合において、刑事訴訟法の定めるところにより交付が許されない物品であるとき。

刑事収容法 第69条(自弁の書籍等の閲覧)
被収容者が自弁の書籍等を閲覧することは、この節及び第十二節の規定による場合のほか、これを禁止し、又は制限してはならない。
 
<判断>
「懸賞応募券」は、刑事収容法48条1項及び50条にいう「保管私物」に該当⇒この郵送願いを不許可にする事由が認められない⇒拘置所長のした不許可処分は違法
②「ネガフィルム」は、法69条所定の「書籍等」に該当拘置所長をその領置願を不許可とし、送付者に返送したことは違法

慰謝料として2万2500円の支払を求める限度で、Xの請求を認容。

判例時報2345

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2017年11月23日 (木)

民法30条2項の失踪宣告の「死亡の原因となるべき危難に遭遇」への該当性

東京高裁H28.10.12      
 
<事案>
不在者である二男が民法30条2項の規定する危難に遭遇⇒Xが失踪宣告を求めた。 
不在者が会社員として勤務していたいが、平成27年1月、スキー場のリフト終点から登山を開始したが、その後帰宅せず、捜索でも見つからない
 
<規定>
民法 第30条(失踪の宣告)
不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。d.
 
<原審>
危難に遭遇したとは認められない⇒申立てを却下 
 
<判断>
民法30条2項が規定する「その他死亡の原因となるべき危難に遭難した」とは、人が死亡する蓋然性が高い事象に遭遇することをいうと解される。
 
①不在者は、夏山登山の経験は多かったものの、冬山登山の経験がほとんどなく、その経験も初心者向けの山であった
②今回単独で登山
③登山計画書によれば、非常時に要する備品を携行せず、登山ルートも夏山登山のルートと時間であり、冬山ではルートも時間も異なった
④登山ルートは、天候が急変しやすく、吹雪になるとホワイトアウト状態となって迷いやすく、毎年遭難も発生
⑤登山ルートには樹木が雪で覆われたモンスターが多数あり、その根元部分には大きな穴があり、積雪のため穴の見分けが困難
⑥当時、登山ルートの山頂付近は、最低気温がマイナス22度程度、最高気温がマイナス10度程度であり、気圧配置によると、登山時には山頂付近の天候が悪化していた可能性がある
⑦リフト終点の積雪も3メートル以上あって、新雪もあり、登山ルートはそれ以上の積雪があった
⑧捜索隊も、隊員が交代しながらラッセルをして進み、スノーシューを履いても30センチメートル程度沈む程度

①登山ルートは、道に迷ったり、転落したりして身動きができなくなり、凍死するおそれがあったところ、
②不在者は、冬山登山の経験が少なく、登山ルートや所要時間を調査しないまま、体温を維持したり方向を確認したりする装備を携行せずに登山を開始し、
視界が悪化して道に迷ったか、所々にある穴に転落した蓋然性が高く
その場合には凍死する危険性も高い

人が死亡する蓋然性が高い事象に遭遇したと認めることが相当
 
<解説>
民法30条2項が規定する「その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者」とは、一般的な事象であると、個人的な遭難であるとを問わず、 ことごとくこれを含む広い規定(我妻)。
その例として、
地震、火災、洪水、津波、山崩れ、雪崩、暴風、火山噴火のほか、登山や探検に参加して生死不明の者等が挙げられ、
個別具体的に死亡原因となるか否かにより決定すべきであり、
渡し船が転覆した場合は、水泳の能否、大人と子供とで異なるとされている。

判例時報2345

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2017年11月22日 (水)

国籍留保制度の期間規定に関する「責めに帰することができない事由」

最高裁H29.5.17      
 
<事案>
戸籍法104条1項所定の日本国籍を留保する旨の届出について、その届出期間の例外を定めた同条3項の適用が問題となった事案。 
 
<規定>
戸籍法 第104条〔国籍留保の意思表示〕
国籍法第十二条に規定する国籍の留保の意思の表示は、出生の届出をすることができる者(第五十二条第三項の規定によつて届出をすべき者を除く。)が、出生の日から三箇月以内に、日本の国籍を留保する旨を届け出ることによつて、これをしなければならない。
②前項の届出は、出生の届出とともにこれをしなければならない。
天災その他第一項に規定する者の責めに帰することができない事由によつて同項の期間内に届出をすることができないときは、その期間は、届出をすることができるに至つた時から十四日とする。
 
<解説>
国籍法12条の規定する国籍留保制度:
出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものについて、戸籍法の定めるところにより日本国籍を留保する意思表示をしなければ、出生の時に遡って日本国籍を失う。
この制度は、昭和59年法律第45号(「本件改正法」)の施行前は、中華人民共和国等で出生した者を対象としていなかった。 

戸籍法104条:
出生届をすることができる者が、出生の日から3ヶ月以内に、出生届と共に、国籍留保の届出によってしなければならない(同条1項、2項)。
天災その他前記の者の責めに帰することができない事由によって前記の期間内に届出をすることができないときは、その届出期間は、届出をするに至った時から14日(同条3項)。

父母が本籍を有しない場合でも、その子の出生届をすることに障害はない。
 
<原審>
本件各届出の時点で、X1~X4に本籍及び戸籍上の氏名がなかったところ、このような場合でも戸籍法上は本件子らの出生届をすることは不可能ではない。
but
国籍留保の届出をしなければ日本国籍を喪失するという重大な結果を生ずる

出生届について父母の本籍及び戸籍上の氏名を記載した原則的な届出を提出できない場合は、戸籍法104条3項にいう「責めに帰することができない事由」があると解すべき
⇒本件届出を受理すべき。 
 
<判断>
国籍留保の届出が戸籍法104条1項の期間内にされなかった場合において、出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものの父母について、戸籍に記載されておらず、本籍及び戸籍上の氏名がないという事情のみをもって、同条3項にいう「責めに帰することができない事由」があるとした原審の判断には、違法がある
⇒原決定を破棄し、Xらの申立てを却下した原々審判に対するXらの抗告を棄却。 
 
<解説> 
●国籍は国家の構成員の資格であり、何人が自国の国籍を有する国民であるかを決定することは国家の固有の権限に属するものであって、憲法10条は国籍の得喪に関する要件を法律に委ねている(最高裁H20.6.4)。

最高裁H27.3.10は、
国籍留保制度を定めた国籍法12条について、
子の出生時に父又は母が日本国籍を有することをもってわが国との密接な結びつきがあるものとして日本国籍を付与するという父母両系血統主義の原則の下で、国外で出生して重国籍となる子について、前記のような結びつきがあるとはいえない場合に、形骸化した日本国籍の発生を防止し、重国籍の発生をできる限り回避することを目的とするもの
憲法14条1項に違反するものではない
 
●国籍留保制度:
①大正時代、アメリカ合衆国など自国の領土内で出生した子に国籍を付与する生地主義の国への日本からの移民について、不留保による日本国籍の喪失によって移民先国への同化定着を促進する目的で創設。
②本件改正法は、従前の不系血統主義を改め、父母両系血統主義を採用することに伴い、血統の相違により父母の両国籍を取得して二重国籍となる者にも国籍留保制度を適用することとし、その対象を中国など血統主義の国で出生した子に拡大。
国政留保の意思表示がされずに日本国籍を喪失した者で20歳未満の者について、日本に住所を有するときは(日本人の子として出生した者には、出入国管理及び難民認定法上、在留資格が認められている。)、法務大臣への届出によって日本国籍を再取得できる旨の制度が設けられた(国籍法17条)。
④20歳に達した者は、前記制度の対象とならないが、国籍留保の意思表示がなされずに日本国籍を喪失した者は、簡易帰化(国籍法8条3号)の対象となるものと解されている。
 
戸籍法104条1項

①子の法的地位の安定のために、生来的な国籍をできる限り子の出生時に確定すること
②父母等による国籍留保の意思表示をもって我が国との密接な結びつきの徴表とみることができる。

● 本決定は、
①戸籍法104条3項が同条1項の届出期間の例外を定めたもの⇒その要件は、前記のような国籍留保制度や同条1項の趣旨及び目的を踏まえて判断されるべき
②同条3項が「天災」という客観的な事情を挙げている

同項にいう「責めに帰することができない事由」の存否は、客観的にみて国籍留保の届出をすることの障害となる事情の有無やその程度を勘案して判断するのが相当
③X1~X4について本籍及び戸籍上の氏名がないという事情だけでは客観的にみて本件各国籍留保の届出の障害とならないことは明らか

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2017年11月21日 (火)

和歌山カレー事件再審請求棄却決定

和歌山地裁H29.3.29      
 
<事案>
和歌山カレー事件で死刑確定 

請求人は、夫に対する殺人未遂事件及びカレー毒物混入事件について、請求人が無罪であり、再審開始の理由がある旨主張して、94点もの新証拠を提出。
 
<主張>
カレー毒物混入事件に係る申立ての理由の骨子:

新証拠によれば
①請求人が1人で亜ヒ酸の混入されたカレーの見張り番をしていた時間帯があり、その際に不自然な言動をしていた旨の目撃証言に信用性がなく、
②カレー毒物混入事件に関係すると思料される各亜ヒ酸の同一性に関し、捜査段階において実施された警視庁科学警察研究所における異同識別鑑定及び東京理科大学理学部教授中井泉による異同識別鑑定並びに第一審公判段階において実施された大阪電気通信大学工学部教授谷口一雄と広島大学大学院工学研究科助教授早川慎二郎による異同識別鑑定が誤りであることが明らかとなっており、
③請求人の毛筆にヒ素の外部付着が認められるとする中井及び聖マリアンナ医科大学予防医学教室助教授山内博による毛髪に関する鑑定には信用性が無く、
④請求人以外の者にも犯行の機会があった
等というもの。 
 
<判断>
確定判決における証拠構造等を明らかにした上で、
新証拠について
①前記目撃証言に関するもの、
②異同識別三鑑定その他の亜ヒ酸の同一性に関するもの、
③毛髪鑑定に関するもの及び
④犯行機会に係るもの
などに区分。 

①③④については、確定判決の認定を動揺させるものではない。

②により、異同識別三鑑定から認められた間接事実のうち、
(A)夏祭り会場から押収された青色紙コップに付着していた亜ヒ酸及び請求人の周辺から発見された亜ヒ酸とは製造工場、原料鉱石、製造工程又は製造機会の異なる亜ヒ酸の中に原料鉱石に由来する微量元素の構成が酷似するものが存在せず、前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸及び請求人の周辺から発見された亜ヒ酸が製造段階において同一とされた点、
(B)請求人の周辺から発見された亜ヒ酸の一部と前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸に共通して含まれていたバリウムが製造後の使用方法に由来するとされた点
の2点については相当性を欠くといわざるを得ないものの、
前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸及び請求にの周辺から発見された亜ヒ酸についていずれも原料鉱石に由来する微量元素の構成が酷似しているとされた点などについてはいささかの動揺も生じていない。
微量元素の構成が酷似する以上、請求人の周辺から発見された亜ヒ酸と組成上の特徴を同じくする亜ヒ酸がカレーに混入されたといえる
⇒異同識別三鑑定の証明力が減殺されたからといって、それだけで直ちに確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じるわけではない。

新旧全証拠を総合して検討してみても、異同識別三鑑定以外の証拠から認定できる間接事実のみでも請求人の犯人性が非常に強く推認されるし、請求人が入手可能な亜ヒ酸とカレーに混入された亜ヒ酸の組成上の特徴が一致するということは請求人の犯人性を積極的に推認させる間接事実になっている
確定判決の有罪認定に合理的な疑いを生じさせる余地はない
新証拠の明白性を否定
 
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。

六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<解説>
証拠の明白性の判断方法に関しては、白鳥決定(最高裁昭和50.5.20)で、「もし当の証拠(新証拠)が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠(新証拠)と他の全証拠(旧証拠)とを総合的に評価して判断すべきであ」ると判示。
~総合評価説。

再審請求段階で新たに提出された証拠により確定判決の有罪認定の根拠となった証拠の一部について証明力が大幅に減殺された場合に刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか否かは、
再審請求後に提出された新証拠と確定判決を言渡した裁判所で取り調べられた全証拠とを総合的に評価した結果として確定判決の有罪認定につき合理的な疑いを生じさせ得るか否かにより判断すべき(名張決定、最高裁H9.1.28)

本決定は、最高裁の証拠の明白性の判断手法に則り、
①確定判決における証拠構造等を明らかにし、
②再審請求段階で新たに提出された新証拠の証拠価値を検討し、
③新証拠の提出により異動識別鑑定の一部について証明力の減殺が生じたこと自体は否定しがたい状況にあることを踏まえ、これだけでは確定判決における有罪認定に合理的な疑いが生じず、嫌疑亜ヒ酸の同一性に関する間接事実以外の間接事実の認定に影響はなく、新旧全証拠を総合しても有罪認定に合理的疑いは生じない
新証拠の明白性を否定

判例時報2345

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2017年11月20日 (月)

成人として地裁に起訴⇒20歳に達していないかも⇒公訴棄却で家裁に送致⇒検察官送致の事例

横浜家裁H28.10.17    
 
<事案>
外国人である少年が、氏名不詳者と共謀の上、不正に入手したキャッシュカードを用いてATMから現金を複数回引き出した窃盗の事案(被害額合計約537万円)。 

少年は、当初、旅券に記載された生年月日を踏まえて成人として地裁に起訴⇒第三回公判期日において、初めて、実際の生年月日は旅券に記載された生年月日の1年後の日であり、いまだ満20歳に達していない旨供述⇒同裁判所は、出生国の公的機関発行に係る証明書を取り調べるなどした上で、被告人が満20歳に達していると認めることには合理的な疑いが残るとして公訴棄却⇒検察官は、上訴権を放棄して事件を家裁に送致。
 
<本決定>
少年の年齢の認定に関する地方裁判所の判断を是認した上で、本件の犯情、少年の犯罪傾向、更生意欲、年齢等を踏まえると、少年には保護処分ではなく刑事処分が相当⇒事件を検察官に送致。 
 
<解説>
少年法は、少年審判の対象となる「少年」を「20歳に満たない者」と定義し、少年の被疑事件について、捜査機関は、事件を家庭裁判所に送致しなければならないのが原則(41条、42条)。

検察官は、家庭裁判所から事件が送致された場合(19条2項、20条、45条5号)を除き、20歳未満の者について公訴を提起することができず、同送致を欠く公訴の提起がなされても、手続規定違反として控訴棄却判決が下される(刑訴法338条4号)。

合理的手段を尽くしても年齢を認定できない場合:
A:少年法が刑訴法の特別法であることを重視⇒一般法である刑訴法によって手続を進めるべき
B:対象者の利益に従い、20歳以上であることの証明がないため、少年法によって手続を進めるべき(実務)

原則検察官送致対象事件(20条2項本文)以外の事件で、検察官送致が選択される少年は、保護処分原則主義(最高裁H9.9.18)の下、犯情や保護処分歴等を総合考慮すると、保護処分による矯正の見込みの少なさ(保護不適)がいわば実証されているような場合が多いというのが実務の大勢。

本決定は、
非行歴及び保護処分のない少年について、
本件の罪質(組織的犯行)、
少年の関与のあり方(常習的犯行、強い犯意、被害金額や少年の得た利益の大きさ)、
少年の性格ないし生活態度(組織犯罪によるもの以外の収入がない。)、
少年の観護措置中の言動(内省の深まりがない。)
少年の年齢(数週間後には20歳になる。)
等を定年に検討した上で、
検察官送致を結論

判例時報2343

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2017年11月19日 (日)

なりすまし捜査⇒違法収集証拠排除⇒自白の補強証拠がないとして無罪

鹿児島地裁加治木支部H29.3.24      
 
<事案>
被告人が深夜、他人の自動車内から発泡酒1箱(警官が現行犯逮捕目的で置いたもの)を盗んだとして起訴された事案。 
 
<判断>
おとり捜査が許容される類型として最高裁H16.7.12が示した要件(①犯意があると疑われる者を対象とし、②直接の被害者がいない薬物犯罪等の操作において、通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難であること)に沿って検討。

尾行捜査時の被告人の行為等⇒被告人には車上狙いの犯意があると疑われる。
but
その犯罪傾向は強くはなく、本件の捜査により被告人の車上狙いの実行が促進された面が多分にある

捜査の必要性に関して、
車上狙いは証拠収集や犯人検挙が困難な犯罪類型ではなく、また、
本件を具体的に見ても、
①被告人の住居等は特定され、
②行動方法も徒歩又は婦人用自転車であって追跡が容易であり、
③車上狙いは他者から観察しやすい犯罪類型である上、実際にも被告人が他人の自動車を覗き込む様子が観察されており、
④新たな被害申告後に捜査に着手するとしても、その捜査遂行は特に困難ではない。
過去の各車上狙いの被害額や発生頻度等⇒なりすまし捜査を行わない場合に生じ得る害悪も大きくない。

本件ではなりすまし捜査を行う必要性はほとんどなく、そうである以上、捜査の態様いかんにかかわらず、本件の捜査は任意捜査として許容される範囲を逸脱しており、国家が犯罪を誘発し、捜査の公正を害するものとして違法

適法手続からの逸脱の程度が大きい
②警察官らには捜査方法の選択につき重大な過失がある
③本件はそれほど重大な犯罪に関するものではない
④警察官らは、なりすまし捜査を行った事実を捜査書類上明らかにせず、公判廷でも同事実を否認する証言をするなど、捜査の適法性に関する司法審査を潜脱しようとする意図が見られること等
本件の捜査の違法は重大

違法な捜査と直接かつ密接な関連性を有する被害届等の証拠は、証拠能力を欠くものとして証拠排除

本件では被告人の自白の補強証拠がなく、無罪
 
<解説>
おとり捜査については、
①犯罪誘発型(=おとり捜査により犯意を生じさせる場合)は違法だが、
②機会提供型(=元々犯意を有していた者に犯行の機会を提供した場合)は違法ではない
との2分説で、平成16年決定も、その実務傾向を概ね追認。 

おとり捜査をめぐる実務傾向について二分説のような単純化が可能なのは、その多くが薬物犯罪(特に密売)に関するものであり、各事例間においてその適法性の主要な考慮要素(犯意の強固さや通常の操作方法のみによる摘発の困難性、事案の重大さ等)の同質性が高いため。

本件のようにその典型的類型から外れる事案については、各考慮要素を事案に応じて具体的に見極め、それらを総合的に考慮してその捜査の適法性を検討することが必要であり、その検討の結果、捜査の適法性につき二分説とは異なる結論となることも当然あり得る。

捜査の違法の重大性に事後の事情を取り込む判断は、最高裁H15.2.14等にも見られるもの。

判例時報2343

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2017年11月18日 (土)

麻薬取締官の対応による被告人の覚せい剤等の取引の促進助長と、意匠収集証拠は維持・量刑評価

大阪地裁H29.4.12      
 
<事案>
被告人がトランクルームや自宅で覚せい剤及びコカインを合計約1023g所持していたという事案。 
 
<判断>
被告人が、薬物取引を行う際に、その情報を麻薬取締官に提供し、麻薬取締官もこれを容認していた「持ちつ持たれつ」の関係があった。
but
客観的な薬物所持の態様等
被告人には、自己の利益を図る目的(営利目的あるいは使用目的)があると認定し、私人である被告人に犯意を誘発させて薬物犯罪に巻き込んだとの弁護人の主張を排斥。 

量刑の場面で、
麻薬取締官の対応が被告人の薬物取引を促進、助長した面があるとし、その意味で被告人の意思決定に対して不当な影響を与えてことは否定できない⇒被告人の刑を引き下げる一事情として考慮
 
<解説> 
おとり捜査については、最高裁H16.7.12でその許容性について判示
調査官解説では、
国家が犯罪を創出した点等におとり捜査の違法性の実質を求め、働きかけも強度で国家が犯罪を行ったに等しいような場合には公訴棄却、免訴といったドラスティックな処理もあり得、
そこまで至らない程度の違法については、違法収集証拠排除法則の適用が問題となる、との見解。 

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2017年11月17日 (金)

無効審判についての除斥期間経過と、商標権侵害訴訟の相手方による、無効の抗弁の主張

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
本訴:米国法人であるエマックス・インクとの間で同社の製造する電気瞬間湯沸器につき日本国内における独占的な販売代理店契約を締結し、X使用商標を使用して本件湯沸器を販売しているXが、本件湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売しているYに対し、X仕様商標と同一の商標を使用するYの行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当⇒その商標の使用の差止め及び損害賠償等を求めた。

反訴:Yが、Xに対し、商標権に基づき、登録商標に類似する商標の使用の差止め等を求めた。
X:Yの登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けることができない商標に該当し、Xに対する商標権の行使は許されないと主張。 
 
規定   
 
<原審>
X仕様商標は不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示・・・として需要者の間に広く認識されているもの」に当たり、YがX仕様商標と同一の商標を使用する行為は同号所定の不正競争に該当⇒本訴請求を一部認容。
X使用商標は商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」(「周知商標」)に当たり、X仕様商標と同一又は類似の商標である本件各登録商標のいずれについても、商標登録を受けることができない同号所定の商標に該当
⇒同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定に係る抗弁が認められ、Xに対する本件各商標権の行使は許されない⇒反訴請求を棄却。
 
<判断>
上告を受理し、
原審の認定事実からはX使用商標が不正競争防止法2条1項1号及び商標法4条1項10号の周知商標に当たると直ちにいえず、Xによる具体的な販売状況等について十分に審理しないまま前記各号該当性を認めた原審の判断には違法がある⇒本訴請求のうち不正競争防止法に基づく請求に関する部分及び反訴請求に関する部分の原審の判断は是認できないとして、これらの部分について原判決を破棄し本件を福岡高裁に差し戻した。
 
<規定>
商標法 第39条(特許法の準用)
特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。

商標法 第47条
商標登録が第三条、第四条第一項第八号若しくは第十一号から第十四号まで若しくは第八条第一項、第二項若しくは第五項の規定に違反してされたとき、商標登録が第四条第一項第十号若しくは第十七号の規定に違反してされたとき(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く。)、商標登録が第四条第一項第十五号の規定に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)又は商標登録が第四十六条第一項第三号に該当するときは、その商標登録についての同項の審判は、商標権の設定の登録の日から五年を経過した後は、請求することができない。

商標法 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
 
<解説>
●問題
Xは、本件各登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けられない商標に該当すると主張。
but
①本件各登録商標のうち最初に登録された平成17年登録商標については、商標権設定登録日から5年を経過
②同号該当を理由とする無効審判請求について同法47条1項が5年の除斥期間を定めている
本件訴訟において同号該当性の主張をすることが許されるのか(=同項が無効審判手続について定めるのと同様の期間制限が、商標権侵害訴訟における同号該当性の主張にも及ぶのか)が問題。
 
●無効の抗弁の主張と期間制限 
商標法39条によって準用する特許法104条の3第1項の規定(「本件規定」)は、商標権侵害訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは商標権者は相手方に対しその権利を行使することができない旨を定めているところ、商標権設定登録日から5年を経過した後は、商標法47条1項の規定により、商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き同法4条1項10号該当を理由とする無効審判を請求することができない
「商標登録が無効審判により無効にされるべきもの」と認められる余地がないこととなる。
②商標法47条1項の趣旨(=商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護する)からいっても、誰でも主張できる抗弁である無効の抗弁を期間の制限なく主張し得るものとすると、商標権者がいつ誰に対して商標権侵害訴訟を提起しても、同訴訟の相手方は、登録商標が周知商標(自己の商品等表示として周知である商標でなく、他人の周知商標であってもよい。)と同一又は類似の商標であることを主張して、同法4条1項10号該当をもって無効の抗弁を主張できる⇒商標権者は、この抗弁が認められることによって自らの権利を行使することができなくなり、同法47条1項の趣旨が没却される

商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、本件規定に係る抗弁を主張することが許されない
 
権利濫用の抗弁の主張と期間制限 
例えば、周知商標を自己の商品等表示として使用する者(周知商標使用者)の知らないうちに周知商標と同一又は類似の商標について商標登録がされ、その商標権設定登録日から5年を経過した後に周知商標使用者に対する商標権侵害訴訟が提起された場合、同訴訟の相手方(周知商標使用者)にとっては、商標登録に係る不正競争目的を立証しない限り商標法4条1項10該当をもって商標権者の権利行使に対することができなくなる。

本判決:
登録商標が商標法4条1項10号に該当し、かつ、その商標権を行使されている相手方が当該登録商標を同号に該当するものとされている周知商標につき自己の商品等表示として周知性を獲得した当人(=周知商標使用者)であるという場合に、その周知商標使用者は当該商標権侵害訴訟において自己に対する商標権の行使が許されないとする権利濫用の抗弁を主張することができ、このような抗弁の主張については期間制限を受けないとした。

◎商標権の濫用は、民法1条3項に定める権利の濫用が商標権行使の場面で表れたものにほかならない。

山﨑裁判官の補足意見:
権利の濫用の有無は、当該事案に表れた諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきものであって、このことは、商標権の行使について権利の濫用の有無が争われる場合であっても異なるものではない。
もっとも、商標権は、発明や著作などの創作行為がなくても取得できる権利であることなどから、その行使が権利の濫用に当たるとされた事例はこれまでに少なからずみられるところであり、こうした事例の中から、権利の濫用と判断される場合をある程度類型化して捉えることは可能。
一般に、正当に商標が帰属すべき者(又はその者から許諾を受けた者)に対して商標権を行使する場合には権利濫用が認められる傾向がある。

本判決:
登録商標が商標法4条1項10号に該当するものであるにもかかわらず同号の規定に違反して商標登録がされた場合に、当該登録商標と同一又は類似の商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商用登録の出願時において需要者の間に広く認識されている者に対してまでも、商標権者が当該登録商標に係る商標権の侵害を主張して商標の使用の差止め等を求めることは、特段の事情がない限り、商標法の法目的の1つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして、権利の濫用に当たり許されないものというべきである。


商標法4条1項10号が、同号の要件(=出願時までに引用商標につき周知性を備えていること)を満たす場合には商標登録出願人よりも周知商標使用者を有意とするという規律を定めていることから導かれるもの。

判例時報2343

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2017年11月16日 (木)

売主の本人確認情報を提供した弁護士に、成りすましを看過したことに過失があるとされた事例

東京地裁H28.11.29      
 
<事案>
不動産を購入して代金を支払い、自己に対する所有権移転登記を経たXが、売主の依頼によって当該不動産の所有権移転登記申請に当たり売主の本人確認情報を提供した弁護士であるYに対し、Yが過失により売主の本人確認の際に提示を受けた住民基本台帳カード等の書類が偽造されたものであることに気付かないまま誤った本人確認情報を提供し、このために、真実の所有者から所有権移転登記抹消登記手続を求められ、当該不動産の所有権を取得することができなくなった⇒不法行為に基づき、当該不動産の売買代金、登記申請費用、不動産の紹介者に対して支払った報酬及び弁護士費用相当額の合計3億2239万円余及びその遅延損害金の支払を求めた。
 
<判断>
不動産登記制度における資格者代理人制度は、直接的には登記義務者の権利を保護するものではあるが、不動産登記制度は取引の安全を保護するもの
当該登記を信頼して法律上の利害関係を有するに至った者も保護の対象に含まれる。 

Yは、誤った本人確認をすることによって、Xが不測の損害を被る可能性があることについて予見可能性を有し得る立場にあった。

①売主であると称する自称PがYに提出した遺産分割協議書には相続開始日と被相続人の死亡時が異なっていること等遺産分割協議の内容を正確に示すものではなく、そのままでは遺産分割協議に基づく登記申請に用いることができないことを容易に気付くことができる内容であったとに、Yは、これらの誤記に関して調査、確認を何ら行っていないも同然であった
②本件売買契約の決裁は、自称Pが、現金で2億4000万円を受け取るという異例の決済方法であり、決済当時78歳の高齢であるはずの自称Pに多額の現金を交付することは著しく安全を欠く行為といわざるをえず、成りすましによるものと疑うべき事情があった

予見可能性があった

本件確認の追加資料として提出された本件遺産分割協議書は、かえって本人確認に当たり疑義を抱かせる体裁のものであり、本件売買契約の履行態様も不自然なもの
提示を受けた本件住基カードが一見して真正なものと判断されるようなものであったとしても、成りすましによって発行を受けたり、偽造によるものであるという可能性を疑うべきであり、自ら(所有者である)Pの自宅に赴くか、Pの自宅に確認文書を送付して回答を求めるなどして、本人確認を行う義務があった。

結果回避義務違反があった

損害について、
支払った売買代金2億4000万円、登記費用309万円余を認め、
過失相殺を4割認め、
その上で弁護士費用を1割認め、
合計1億6044万円余を認容。

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2017年11月15日 (水)

営業許可を取り消す等の処分の違法を理由とする損害賠償請求権の時効の起算点

東京高裁H28.9.5      
 
<事案>
Xは、家畜のきゅう肥等を原料とした有機肥料の製造及び供給等を目的とする会社であって、一般廃棄物及び産業廃棄物の収集運搬や処分を業として行っていた
平成17年8月22日に営業停止勧告(「本件勧告」)、平成18年7月7日に各種営業許可取消処分(「本件処分」)を受けた。
Xは、本件処分の取消しを求め、平成22年7月8日に本件処分を取り消す旨の判決が確定
⇒Xは、本件勧告及び本件処分の違法を主張し、平成25年7月3日、Y(長野県)を被告として、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求訴訟を提起。 
 
<争点>
本件勧告及び本件処分の違法を理由とする損害賠償請求権の時効成立の有無
 
<判断>
①Xは、本件勧告を受けたものの、Yとの間に前提事実や法適用の認識に齟齬があったためこれに従わないでいた
②本件勧告等による損害につき法的措置を検討している旨の内容証明郵便による通知書を送付

Xは、本件勧告の時から、これが不法行為を構成するとの認識の下に損害賠償請求のための準備を進めていたのであり、本件勧告及び本件処分の時から損害及び加害者を認識
本件勧告及び本件処分の翌日からそれぞれ起算して3年間を経過した日をもって消滅時効が完成
 
<解説>
Xは、取消訴訟が継続している限り、国賠訴訟の時効は進行しない旨を主張。
but
国賠訴訟を提起するに際して、行政処分につき取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないことは、判例、学説。 

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2017年11月14日 (火)

市立記念館条例を廃止する条例の制定行為の「処分性」を否定した事例

青森地裁H29.1.27      
 
<事案>
本件は、Y(十和田市)が、地方自治法244条1項所定の公の施設として十和田市立新渡戸記念館(本件記念館)を設け、十和田市立新渡戸記念館条例(本件記念館条例)において、その設置及び管理に関する事項を定めていたが、その後、十和田市立新渡戸記念館条例を廃止する条例(本件廃止条例)を制定

Xが、Yに対し、本件廃止条例制定行為が行政事件訴訟法3条2項所定の処分すなわち「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(同条3項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。)」に当たることを前提として、本件廃止条例制定行為の取消しを求めた。 
 
<争点>
本案前の争点:本件廃止条例制定行為の処分性
本案の争点:本件廃止条例制定行為が違法なものであるか否か 
 
<判断> 
本件廃止条例制定行為に処分性を認めることはできない⇒訴えを却下 
 
●条例制定行為の処分性の認否の判断枠組み 
条例の制定行為は、普通地方公共団体の議会が行う一般的・抽象的な法規範を定める立法作用に属し、一般的には処分に当たるものではない。
but
他に行政庁の法令の執行行為と処分を待つことなく、その施行により特定の個人の権利義務や法的地位に直接影響を及ぼし、行政庁の処分と実質的に同視し得ることができるような例外的な場合には、処分に含まれるものと解するのを相当とすることもあり得る。
 
●本件廃止条例制定行為の処分性の認否 
①地方自治法、本件記念館条例、文化財保護法及び十和田市文化財保護条例の関係法令の内容に照らすと、本件記念館の設置、あるいは、本件記念館において本件資料の保存等がされることに関して、Xが、Yに対して、本件各契約等に基づく契約上の地位等を離れて法的保護の対象となる権利ないし利益を有するものとは認められない
②本件保管覚書合意を基礎として本件廃止条例制定行為の処分性を認めることはできず、本件廃止条例の施行により本件各契約等に基づくXの権利ないし法的地位に直接影響が及ぶものということもできない
③実質的に考えても、法的救済を求める手段としては、民事訴訟によるのが最適というべきであって、取消訴訟において本件廃止条例制定行為の法的効力を争い得るものとすることに十分な合理性は見出し難い

本件廃止条例の制定行為の処分性を認めることはできない。
 
<解説>
横浜市保健所廃止条例事件(最高裁H21.11.26)は、条例制定行為の処分性を最高裁判例として初めて肯定。
←①法的効果とその直接性、②対象の特定性、③救済方法としての合理性
が認められる。
本件廃止条例制定行為については、①③が認められないとして、処分性を否定。

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2017年11月13日 (月)

情報公開条例に基づく公開請求で、訴訟事件の事件番号が非開示とされた事例

東京地裁H28.11.29      
 
<事案>
東京都の都民であるXが、東京都情報公開条例6条1項に基づき、東京都知事Yに対し、原告をA社、被告を東京都及び新宿区とする損害賠償事件の第1審及び控訴審の訴訟関連文書として、文書開示請求⇒意見の各文書を非開示の対象とした上で、そのうち特定の個人の氏名など特定の個人を識別する記載、事件番号の記載並びに訴訟当事者、訴訟代理人及び裁判所書記官等の印影の各部分を非開示とし、その余の部分を開示する旨の一部開示決定。

Xは処分行政庁であるYに対し、本件一部開示決定のうち、別件訴訟の第一審及び控訴審の各事件番号を非開示とした部分の取消しを求める訴えを提起
 
<条例>
本件条例7条2号は
本文において、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報を照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するもの」を非開示情報として定めた上で、
ただし書において、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」(同号イ)等を本文に定める非開示情報から除く旨を規定。 
 
<判断>
①本件一部開示決定において、別件訴訟の第1審及び控訴審の係属する各裁判所名は明らかにされている⇒不開示とされた本件各事件番号と併せてみることにより、当該事件が特定されることとなる。
何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる

特定される別件訴訟の訴訟記録を閲覧することにより、何人も、別件訴訟の訴訟記録に記載された当該事件に関与する個人の氏名、住所、生年月日等を知ることができ、特定の個人を識別することができることとなる。
本件各事件番号は、個人識別情報に該当

「法令の規定」とは、何人に対しても等しく情報を公開することを定めている法令のことをいい、
「慣行」とは、事実上の慣習をいい、
「公にされている情報」とは、現に何人も容易に入手することができる状態におかれている情報をいう

本件各事件番号は、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当するとは認められない。
⇒請求を棄却。
 
<解説>
情報公開条例との関係で、「個人に関する情報」に該当するか否かが問題となった裁判例:
①法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。)の代表者に準じる地位にある者以外の従業員の職務遂行に関する情報は、その者の権限に基づく当該法人等のための契約の締結等に関する情報を除き、「個人に関する情報」に当たるとした最高裁H15.11.11
②県の職員の出勤簿に記録された職員が停職処分により特定の日に出勤しなかったことを示す情報は「個人に関する情報」に該当するとした最高裁H15.11.21

東京都情報公開条例を巡って、非開示としたものを取り消した裁判例:
③警視庁における制服購入契約締結文書の起案者(東京地裁H18.5.26)
④警視庁の非管理職職員の氏名、印影が含まれる情報(東京地裁H18.7.28)

非開示を相当とした裁判例:
⑤建築審査会裁決案の評議の議事録に記載された情報
⑥警視庁K署内の道路標示塗装委託単価契約書の法人の契約代表者の氏名

判例時報2343

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2017年11月12日 (日)

犯行時15歳による殺人被告事件について、家裁に移送された事例

横浜地裁H28.6.23      
 
<事案>
少年である被告人が、実母及び祖母の計2名の胸部及び背部を包丁で多数回刺して心臓損傷等により失血死させたという殺人保護事件。 
罪名的には少年法20条2項に定めるいわゆる原則逆送の対象事件
but
被告人が犯行当時15歳8か月であり、同項の定める犯行時16歳との要件を充たさなかった
同条1項の通常の検察官送致決定により地裁に係属。
 
<判断>
①鑑定人による、被告人の精神面の問題性の分析と、被告人に対しては安定した保護的な生活環境の中での働きかけが必要であり、切な援助によって被告人の改善更生を図ることは可能とする意見を採用できる
②被告人が鑑定中に良い変化を見せたことや非行歴がないこと⇒保護処分により改善更生する可能性がある。
③少年が、行った犯罪の重大性を自覚してこれを向き合うためには、第三者からの働きかけが必要⇒時間や人手を十分にかけた矯正教育を行うことができる少年院で教育を受けさせることが効果的。
④本件の背景には成育歴等が影響を与えていること、本件各犯行は家庭内におけるものであって、遺族でのある被告人の父等は厳し処罰を求めていないこと、改善更生させることが被害感情を和らげ社会の不安を鎮めるためにも重要⇒保護処分を選択することも許容される

家庭裁判所に移送
 
<解説>
少年法55条は、刑事裁判所の家庭裁判所移送決定の要件を、「保護処分jに付するのが相当であると認めるとき」と規定するのみ。
~「保護処分相当性」

同法20条1項は、家庭裁判所の検察官送致決定の要件を、「罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき」と規定。
~「刑事処分相当性」

「刑事処分相当性」とは「保護処分相当性がないこと」というように両者を表裏の関係で理解すべき。

そのように解しないと、
同一事実について同一の評価をしても検察官送致決定と家庭裁判所移送決定が両立し得ることになり、少年に対して時機にかなった適正な処分をなしえないだけでなく、いつまでも手続から解放されないという不当な手続的負担を少年にかける危険性がある。

少年法20条1項の刑事処分相当性=保護処分では少年を更生させることができないという意味での保護不能、または、事案の内容や社会に与える影響に照らし保護処分に付することが相当ではないという意味での保護不適であること(通説)。

判例時報2342

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2017年11月11日 (土)

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正附則の趣旨に反し、継続雇用の機会を与えたとは認められず違法とされた事例

名古屋高裁H28.9.28      
 
<事案>
Y1社においては、60歳定年制が採用され、労使協定の定める再雇用の選定基準を満たした者に対しては、スキルドパートナーとして定年後再雇用者就業規則に定める職務を提示(雇用期間は最長5年)
当該基準を満たさない者に対しては、パートタイマー就業規則に定める職務(雇用期間は1年間)を提示。 

Xは、Y1社に対し、
スキルドパートナーとして再雇用を拒否する旨の通告は違法であり無効スキルドパートナーとしての雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同地位に基づく未払賃金等及び遅延損害金の支払を求め(請求①)
パートタイマーとしての1年間の清掃業務等の雇用条件を提示したことが、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に当たる⇒慰謝料200万円および遅延損害金の支払を求め(請求②)
③Y1の代表取締役であるY2に対して、会社法429条1項ないし債務不履行に基づく損害賠償として、慰謝料500万円及び遅延損害金の支払(請求③)
を求めた。
 
<原審>
いずれも棄却。 
 
<判断>

請求①及び請求③の棄却は相当。
請求②は一部認容。 


高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(「高年法」)においては、従前、継続雇用の対象者を労使協定の定める基準(「継続雇用基準」)で限定できる仕組み
⇒平成24年改正で、この仕組みが廃止される一方、改正附則(経過措置)において、従前から労使協定で継続雇用基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしつつ、この法律の施行の日から平成28年3月31日までの間については、継続雇用基準は61歳以上の者を対象とするものに限る旨の定め。

60歳の定年後、再雇用されない男性の一部に生じ得る無年金・無収入の空白期間を埋めて、無年金・無収入の期間の発生を防ぐために、老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して、労使協定で定める基準を用いることができるとした。

事業者においては、労使協定で定めた継続雇用基準を満たさないため基準適用開始年齢(61歳)以降の継続雇用が認められない従業員についても、60歳から61歳までの1年間は、その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって、提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合、当該事業者の対応は高年法改正の趣旨に明らかに反する


給与水準:
Y1社が提示した給与水準によれば、Xの老齢厚生年金の報酬比例部分の約85%の収入が得られる⇒高年法改正の趣旨に反するものではない。

職務内容:
前記の高年法改正の趣旨⇒従前の職務とは全く別個の職種に属するなど性質の異なった職務内容を提示した場合には、もはや継続雇用の実質を欠く
⇒従前の職務全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されない⇒事務職であったXに対して清掃業務等を提示したことは、高年法改正の趣旨に反して違法であると判示。
 
<規定>
高年法 第9条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止

2 継続雇用制度には、事業主が、特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主をいう。以下この項において同じ。)との間で、当該事業主の雇用する高年齢者であつてその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれるものとする。
 
<解説> 
●高年法の経過措置は、基準適用開始年齢(61歳)以上の者を対象とする労使協定の定める継続雇用基準によって継続雇用の可否を判断することを認めているが、定年から61歳までの勤務については何ら触れていない。

高年法改正を踏まえた定年後の勤務のあり方:
①継続雇用基準を満たすか否かの問題
継続雇用基準を満たさない労働者の定年後61歳までの労働条件のあり方の問題

①の問題:
当該労働者が高年法9条1項2号における継続雇用基準を満たしており、嘱託雇用契約の終了後も継続雇用規定に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当とする最高裁判例(H24.11.29)等

②の問題:
定年後の労働⇒労働条件の設定について広く裁量を認めて欲しいという要望(使用者側)
給与水準の面及び職務内容の面で、定年前と同程度のもの、あるいは継続雇用が認められた労働者と同程度のものを期待(労働者側)
 
●本判決は、Y1社のように継続雇用を認めるか否かを60歳に達する前の時点で判断し、継続雇用が認められた労働者をとそれ以外の労働者との間で、60歳から基準適用開始年齢(61歳)までの勤務条件に大きな差異が生じること自体を違法と判示するものではない。
but
高年法改正の経過措置によれば、基準適用開始年齢は62歳、63歳、64歳と順次変更

①勤務条件に大きな差異が生ずる期間がより長期になるという問題
② 継続雇用の可否を判断する時期と基準適用開始年連との時間的ずれがより大きくなるという問題
が顕在化。

高年法9条1項につき私法上の効力を否定する裁判例もあるが、
少なくとも高年法の趣旨を実現するための継続雇用基準やそれに対応した就業規則が制定されている場合には、高年法上の違法が、継続雇用基準や就業規則を通じて私法上の義務違反にも繋がると考えられる。

判例時報2342

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2017年11月 9日 (木)

コンビニ店長の精神障害発病による自殺と業務起因性(肯定事例)

東京高裁H28.9.1      
 
<事案>
Xは、その子A(コンビニ店長)が過重な業務に従事したことで精神障害発病して自殺⇒処分行政庁に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償一時金及び葬祭料を請求⇒処分行政庁は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に定める疾病にかかっていないとして、不支給の処分⇒XはY(国)に対し、本件処分の取消しを求めた。 
 
<争点>
自殺の業務起因性が認められるか 
 
<原審>
適応障害の発病は認めつつ、自殺の業務起因性を否定⇒Xの請求を棄却。 
 
<判断>
自殺の業務起因性を肯定⇒原判決を取り消し、本件処分を取り消し。

Aが店舗の配置転換を含む店舗の業績、人事管理、人間関係等に悩み、長時間の時間外労働に連続して従事し、自らの限界を感じて自信を喪失し、次第に追い詰められた心境になり、睡眠障や食慾不振等の症状が2週間以上の期間にわたって持続
中等症うつ病エピソードの診断基準に合致
労基則別表第1の2第9号に該当する精神障害を発病。

①発病時期から6ヶ月間の時間外労働は平均して70時間程度であるが、遡って6ヶ月こえる時期には毎月概ね120時間を超え、時期によっては160時間を超える場合もあり、発病時期前の1年間の長時間労働は相当に過酷で、心理的負荷の程度は相当に強度なものであった。
20日間にわたる連続勤務を行っていた。
ノルマによる心理的負荷の程度も決して小さくはなかった。
心理的負荷の強度の全体評価は「強」に当たる。

その他業務以外の心理的負荷及び固体側要因は認められない

本件精神障害の発病には業務起因が認められ、その影響下で自殺に至った
 
<解説>
労基則別表第1の2第9号「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」に該当するかは、
平成11年9月14日基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」を基準にしてきたが、その後
平成23年12月26日基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に認定基準が改められた。 

精神障害を発病していること、
発病前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること、
業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められないこと
を認定要件とする。

判例時報2342

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2017年11月 7日 (火)

仮処分命令が不当であるとして保全異議審で取り消されたが、不法行為は成立しないとされた事例

福島地裁H28.5.24      
 
<事案>
産業廃棄物処理施設の設置許可を受けたXが、Yらの申立てより発令されたXを債務者とする本件処理施設の建設工事の続行差止めをもt目る仮処分が保全異議審で取り消された(保全抗告審もその判断を維持)⇒取り消されるまでの間、Xの事業の停滞を余儀なくされたと主張し
(1)Yらに対し、共同不法行為に基づき、事業停滞期間の借地料及び運用収益等の損害の賠償を求めるとともに、
(2)Yら(Y3を除く)に対し、本件処理施設の設置につき同意をしたにかかわらず、これを撤回し本件仮処分の申立てを行ったことが債務不履行に該当するとして、前記損害の賠償を求める。
 
<争点>
①Yらによる本件仮処分の申し立てが不法行為となるか。
②Yら(Y3を除く。)が本件処理施設の設置につき同意していたにもかかわらず、それを撤回し本件仮処分の申し立てを行ったことが債務不履行となるか。 
 
<判断>

①Yらは、本件処理施設の設置によりため池にに関する水利権が侵害されると主張するところ、本件仮処分の手続では、Xに対する審尋を行った上で、本件処理施設の設置によりため池の集水域は、減少し、利用可能水量が減少すると判断しており、保全異議及び保全抗告審もこの判断自体は是認
②このように発令裁判所と保全異議審及び保全抗告審の判断が異なったのは、ため池の水量が農業用水として不足する場合に備えて、他にも給水方法が確保されているなどの事情を考慮すると、本件処理施設の建設の建設工事によるため池の水量の減少は被告らの受忍限度を超えるものではないないといった、Yの有する他の権利をも考慮すべきか否かの判断が別れたことになる。
③このような判断枠組みに対する考え方には様々なものがあり、現に発令裁判所と異議審によって異なった

Yらにおいて、ため池の水量の減少を危惧し、本件仮処分根異例の申立てを行ったとしても、そのことが不相当であるとは認められない。

④保全手続においてはじめてXが他の取水方法を採ることによって増加した費用を負担するとの申し出を行った
⑤XとYらとの信頼関係が崩れたことが本件仮処分の申立ての契機となったこと等の経緯

Yらにおいて本件仮処分を申し立てるにあたって、相当な理由があったものといえ、Yらの本件仮処分申立てに過失があると認めることはできない

Yら(Y3を除く)が本件処理施設の設置許可に関わる行政手続に当たっておこなった同意は、処分行政庁において周辺住民の同意を求めている趣旨が、産業廃棄物処理業を円滑に実施し得るよう、周辺住民の理解と協力を得ることにより、事業者と周辺住民との間の利害を調整し、もって紛争を未然に防止すること等にある
本件処理施設の設置に当たって紛争が生じることを防止する目的で取得したもの。
but
①X代表者は、Y2を含む周辺住民に本件処理施設の設置について同意を求めるに当たって、・・・メリットについて説明しながら、廃棄物の埋立て等によって生じる可能性のあるデメリット等について特に説明しなかった。
X代表者の説明により、Yらに対し、本件処理施設の設置による環境や、所有する水利権に与える影響を的確に判断し得る情報が提供されたものとはいえない

②同意書には水利権の喪失に対する補償や代替措置の記載がない

Yら(Y3を除く。)が本件同意を行うに当たって、本件処理施設の設置に関し、今後一切反対の意思を表明することはない旨の意思を表示したものとは考えられず、まして、本件仮処分の申立てや訴えの提起に関する権利を放棄する趣旨であったとまでは認められない

Yらが、本件仮処分の申し立てを行ったことが、債務不履行を構成するということはできない。


Xの請求をいずれも棄却。 
 
<解説>
仮処分が不当であるとして取り消された場合、これによって仮処分の相手方が受けた損害については、判例(最高裁昭和43.12.24)上、一般の不法行為と同様、仮処分の申立人に故意又は過失があることが必要であるが、
仮処分が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情がない限り、申請人(申立人)において過失があったものと推認するのが相当である」とされている。
but
結論として、「特段の事情」の存在を認める事案も多い。

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2017年11月 6日 (月)

ドッグラン施設で大型犬が女性に衝突⇒飼い主に損害賠償請求(肯定)

神戸地裁H28.12.26      
 
<事案>
ドッグラン内で、小型犬を遊ばせていた女性Xが、同施設内で大型犬二頭が互いに追いかけ合うようにして走って来て、Xの右膝付近に衝突したため、転倒し頸椎捻挫等の負傷をしたと主張⇒各大型犬の買主Y1及びY2に対し、管理責任違反があるとして、連帯して141万円余の損害賠償請求。 
 
<規定>
民法 第718条(動物の占有者等の責任)
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
 
<判断>
●本件事故の態様 
Yらの大型犬二頭は、じゃれ合ったり追いかけ合うなどしているうちに、次第に興奮の度合いを高め、走る速度を上げながら、その行動範囲を広げる中、xのいる方向に向けて互いに追いかけ合うように駆けて行き、Xに衝突するに至った。
 
●Yらは相当の注意を払ったか
Yらは、動物の占有者として、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもって管理したことを証明しない限り、Yらの大型犬がXに加えた損害を賠償する責任を免責されない。(民法718条)

①Yらは自らの飼い犬の動向を十分監視していたというには疑問がある
②Yらの大型犬がXに衝突するまでの間大型犬に声を掛けたり、これを制止するなど一切していない
③Xにおいて、本件施設においてことさらに危険な状況を作出したなどの事情はうかがえないこと等

Yらには民法718条1項本文に基づき、本件事故によりXに生じた損害について賠償する責任がある。
 
●過失相殺
Xにも一定の不注意があった⇒2割の過失相殺を認め、Yらに対し連帯して103万円余の支払を命じた。

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2017年11月 5日 (日)

底地譲渡に関する賃貸人と賃借人との間の合意が第三者のためにする契約に当たるとされた事例

東京地裁H28.6.9      
 
<事案>
土地所有者Aは、平成4年2月、Bとの間で、堅固建物の所有を目的とする借地契約を締結し、附則として、
賃貸人は、賃借人が将来本件土地の借地権を第三者に譲渡しようとする場合は、賃借人の借地権譲渡を承諾すると共に、賃貸人の所有する底地部分を譲渡することに同意する。この場合、賃貸人と賃借人との譲渡代金取得の割合は、賃貸人の取得分1000分の225、賃借人の取得分1000分の775とする」(本件条項)の定めあり。 

Aは、平成23年2月に死亡し、Yが相続。
Bは、平成26年6月、
①本件建物、本件土地をX株式会社(代表者はB)に譲渡すること、
②本件条項により、本件土地もXに譲渡されること等を
Yに通知し、
Bは、Xに本件建物、本件借地権を譲渡(本件売買)。

Xは、Yに対し、本件条項が第三者のためにする契約である等と主張し、本件土地の代金の支払を受けるのと引換えに所有権移転登記手続を請求
 
<規定>
民法 第537条(第三者のためにする契約)
契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
 
<争点>
①本件条項が第三者のためにする契約であるか
②本件条項の有効性
③消滅時効による消滅
④権利の濫用、信義則医違反
⑤支払うべき代金額 
 
<判断>
本件条項は、その内容に照らし、賃貸人が本件借地権の買受人に対して、予め底地を譲渡することを賃借人との間で約している
買受人が受益の意思表示をすれば、本件土地の売買契約が成立すると解されるものであり、第三者のためにする契約。 
①売買代金、その確定方法が定められていないとしても、本件条項では売買代金が確定すれば賃貸人が取得する売買代金は一義的に決せられ、売買代金額は将来決定される事項。
売買代金は将来における社会通念上相当な価格を想定しており、時価を指すものと考える。

時価を8480万円と算定し、その1000分の225である1908万円の支払との引換給付によって請求を認容。
 
<解説>
第三者のためにする契約:
第三者に直接権利を取得させる類型の契約

本判決:
賃貸人が借地権の買受人に対して、予め底地を譲渡することを賃借人との間で約しており、買受人が受益の意思表示をすれば、底地の売買契約が成立するものであると解釈し、第三者のためにする契約に当たると判断。

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2017年11月 3日 (金)

マンションと接合する立体駐車場と一棟の建物(=大規模修繕対象)

東京地裁H28.9.29      
 
<事案>
マンションの大規模修繕が実施された際、立体駐車場部分が修繕対象から外され、自己の費用で修繕工事を行った⇒管理組合に対して不当利得の返還請求等をした。
 
<争点>
①本件立体駐車場部分が本件マンションと一棟の建物を構成するか
②不当利得返還請求の当否
③損害賠償請求の当否 
 
<判断>
一棟の建物か否かは、社会通念に従って決定されるべきであり、
その具体的な判定基準としては、①建物構造上の一体性、②外観(外装)上の一体性、③建物機能の一体性、 ④用途・利用上の一体性であるとした上、
本件マンション、本件立体駐車場の位置、構造、設備、用途、登記上の記載、実際の利用状況等の事情を考慮し、
本件立体駐車場は、本件マンションと一棟の建物として構成されず、別棟であり、区分所有建物の建物部分ではないとし、
前記外壁等が本件マンションの共用部分と解することはできない

当該外壁等を工事対象に含めなかった総会決議は適法であり、法律上の原因がないことにはならない

各請求を棄却。

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2017年11月 2日 (木)

障害者支援施設を運営する社会福祉法人が特別縁故者として認められた事例

名古屋高裁金沢支部H28.11.28      
 
<事案>
被相続人が入所していた障害者支援施設を運営する社会福祉法人が、被相続人の特別縁故者に該当するとして、被相続人の相続財産の分与を求めた⇒原審が申立てを却下⇒即時抗告 
 
<規定>
民法 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
 
<原審>
抗告人が被相続人に提供した療養看護が、社会福祉事業を目的とする障害者支援施設とその利用者との関係を超える特別なものであったとまではいえない⇒抗告人が民法958条の3第1項の特別縁故者に該当するとは認められない。 
 
<判断>
抗告人が運営する施設の職員は、約35年間にわたって、知的障害及び身体障害を有し、意思疎通が困難であった被相続人との間において地道に信頼関係を築くことに努めた上、
食事、排泄、入浴等の日常的な介助のほか、カラオケ、祭り、買い物等の娯楽に被相続人が参加できるように配慮し、
その身体状況が悪化した平成5年以降は、昼夜を問わず頻発するてんかんの発作に対応したり、
ほぼ寝たきりとなった平成21年以降は、被相続人を温泉付きの施設に転居させて、専用のリフトや特別浴槽を購入してまで介護に当たるとともに、
その死亡後は葬儀や永代供養を行うなどした。

抗告人は、長年にわたり、被相続人が人間としての尊厳を保ち、なるべく快適な暮らしを送ることのできるように献身的な介護を続けていた。
このような療養看護は、社会福祉法人として通常期待されるサービスの程度を超え、近親者の行う世話に匹敵すべきもの(あるいはそれ以上のもの)といって差し支えない
国等からの補助金があることを考慮しても、被相続人の介護の内容やその程度に見合うものではなかったといえるし、
このような低廉な利用料の負担で済んだことが被相続人の資産形成に大きく寄与した。

抗告人は、被相続人の療養看護に努めた者として、民法958条の3第1項にいう特別縁故者に当たる。 
 
<解説>
民法958条の3第1項は、相続人が不存在の場合に、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができると定める。
同条に記載された前二者は例示であり、特別縁故者に当たるか否かは、抽象的な親族関係の遠近ではなく、具体的実質的な縁故の濃淡が判断の基準。
自然人のみならず、法人も特別縁故者になり得る

療養監護に努めた者のうち、正当な報酬を得ていた者について、直ちに特別縁故者の該当性が否定されるものではないが、学説の中には、そのような者については、原則として特別縁故者となり得ず、特別の事情がある場合に限ってこれを肯定すべきであり、特別の事情として、単に金銭的対価に応じた機械的サービスをしただけではなく、肉親に近い愛情の伴っている献身的サービスを必要とするというものもある。

裁判例での肯定例:
・対価としての報酬以上に献身的に被相続人の看護に尽くした付添看護師。
・14年間にわたって被相続人が入所し、療養看護を受けた権利の養護老人ホーム。
・労災事故により身体の大部分が麻痺した被相続人が入所していた施設の運営主体。

本決定は、
①被相続人が施設に入所していた期間、②被相続人の障害の程度及び介護の難易度、③被相続人に対する介護の献身性、④施設に支払われた対価等を総合的に勘案した上で、当該施設を運営する主体に相続財産の分与を認めたもの。

判例時報2342

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2017年11月 1日 (水)

子の名に用いられ得る戸籍法50条1項、2項にいう常用平易な文字

さいたま家裁川越支部H28.4.21      
 
<事案>
申立人が、子の名に「舸」の字を用いた出生届を提出⇒市長によって「舸」の字が戸籍法施行規則60条に定める文字でないことを理由に不受理処分⇒家庭裁判所に対し、市長に対して前記出生届を受理することを命じることを求めた(戸籍法121条)
 
<規定>
戸籍法 第50条〔子の名の文字〕
子の名には、常用平易な文字を用いなければならない
常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める
 
戸籍法 第121条〔不服の申立て〕
戸籍事件(第百二十四条に規定する請求に係るものを除く。)について、市町村長の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができる。
 
<判例>
最高裁H15.12.25:
家庭裁判所は、審判手続に提出された資料、公知の事実等に照らし、当該文字が社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるときは、当該市町村長に対し、当該出生届の受理を命じることができる

①法50条1項が子の名には常用平易な文字を用いなければならないとしているのは、従来、子の名に用いられる漢字には極めて複雑かつ難解なものが多く、そのため命名された本人や関係者に、社会生活において多大の不便や支障を生じさせたことから、子の名に用いるべき文字を常用平易な文字に制限し、これを簡明ならしめることを目的とするものと解される
同条2項にいう委任の趣旨は、当該文字が常用平易な文字であるか否かは、社会通念に基づいて判断されるべきものであるが、その範囲は、必ずしも一義的に明らかではなく、時代の推移、国民意識の変化等の事情によっても変わり得るものであり、専門的な観点からの検討を必要とする上、前記事情の変化に適切に対応する必要があることなどから、その範囲の確定を法務省令に委ねたものであり、施行規則60条は、法50条2項の常用平易な文字を限定列挙したものと解される
法50条2項は、同条1項による制限の具体化を施行規則60条に委任したものであるから、同条が、社会通念上、常用平易であることが明らかな文字を子の名に用いることができる文字として定めなかった場合には、法50条1項が許容していない文字使用の範囲の制限を加えたことになり、その限りにおいて、施行規則60条は、法による委任の趣旨を逸脱するものとして違法、無効と解すべき
④法50条1項は、単に、子の名に用いることのできる文字を常用平易な文字に限定することにとどまらず、常用平易な文字は子の名に用いることができる旨を定めたものである
「曽」の時について、社会通念上明らかに常用平易な文字であるとした原審の判断を相当であると判断。

①当該文字が古くから用いられており、平仮名の「そ」や片仮名の「ソ」は、いずれも「曽」の字から生まれたもの
②「曽」の字を構成要素とする常用漢字が5字もあり、いずれも常用平易な文字として施行規則60条に定められている
③「曽」の字を使う氏や地名が多く、国民に広く知られていることなどの諸点
 
<判断>
「舸」の字は、社会通念に照らし明らかな常用平易な文字とはいえない⇒本件申立てを却下

①「舸」の字が字源となる平仮名又は片仮名が認められない
②「舸」の字を構成要素とする常用漢字が存在せず、「舸」の字を使用した熟語も数点あるのみ
③「舸」の字を含み、新聞・テレビ等で日常的に接する報道や書物によって、広く国民に知られているといえるような氏は認められない
④日本国内に「舸」の字を含む地名はわずかである

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駐車場が地方税法の併用住宅の敷地の用に供されている土地に該当するかどうか(肯定事例)

東京地裁H28.11.30      
 
<事案>
Xが、東京都知事の委任を受けた東京都練馬都税事務所長から、その所有する各土地のうち駐車場として使用されている各部分については地方税法349条の3の2及び702条の3に規定する固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例の適用を受ける住宅用地に該当せず、その余の部分に限り前記の住宅用地に該当するものとして、固定資産税及び都市計画税の各賦課決定を受けた

本件各駐車場も前記の住宅用地に該当する旨を主張して、前記各決定の一部の取消しを求めた。 

<規定>
住宅用地とは、専ら人の居住の用に供する家屋(「専用住宅」)又はその一部を他人の居住の用に供する家屋で政令で定めるもの(「併用住宅」)の敷地の用に供されているj土地で政令で定められるものをいう(地方税法349条の3の2台1項)。

前記の併用住宅
とは、その一部を人の居住の用に供する家屋のうち人の居住の用に供する部分(「居住部分」という、その余の部分を「非居住部分」という。)の床面積の当該家屋の床面積に対する割合(「居住部分の割合」)が4分の1以下である家屋をおう(地税法施行令52条の11第1項)
 
<問題点>
本件家屋が併用住宅に該当すること、本件各駐車場以外のX所有の前記の各土地がその敷地の用に供されている土地で政令に定めるもの(住宅用地)に該当することに争いはない。
本件各駐車場も併用住宅の敷地の用に供されている土地に該当し、ひいては住宅用地に該当するのかが争われた。
 
<主張>
X:
本件各駐車場はX所有の各土地の他の部分と共に、併用住宅である本件家屋を維持し又はその効用を果たすために使用されている一画地の土地⇒住宅用地に該当する。 

Y(東京都):
駐車場が本来的に家屋を維持し又はその効用を果たすために使用されている土地ではないが、附属的な家屋については本来の家屋と効用上一体として利用される状態にある場合には、一個の家屋に含めるものとされ、附属的な家屋には車庫も含まれると解される⇒車庫以外の駐車場についても、住宅に附属する施設として判断できる場合には、住宅用地として認定し得るとして、通達に言及。
but
本件各駐車場については、専ら当該住宅の居住者のための施設であること、ひいては居住者自らが利用する施設であるとは評価できない⇒住宅用地に該当しない。
 
<判断>
駐車場が併用住宅の敷地の用に供されている土地に該当するといえるためには、併用住宅の駐車場との間の関係に着目し、その形状や利用状況等を踏まえ、社会通念に従い、居住部分と非居住部分とから成る併用住宅を維持し又はその効用を果たすために使用されている駐車場であるか否かで判断されるべき。 

併用住宅と全く関わりのない者が利用している駐車場については、社会通念上、これを併用住宅を維持し又はその効用を果たすために使用されている駐車場と評価する余地はない。
but
併用住宅の非居住部分の利用者が利用している駐車場であるからといって、直ちに併用住宅の敷地の用に供されている土地に該当しないものではない。
Yが主張するにように、もっぱら当該住宅の居住者のための施設であることや専ら居住者自らが利用する施設であることまでは要しない

本件各駐車場は併用住宅である本件家屋の敷地の用に供されている土地に該当し、ひいては住宅用地に該当する
⇒Xの請求を認容。

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