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2017年10月17日 (火)

貸金についての支払督促と同保証債務履行請求権の消滅時効の中断効(否定)

最高裁H29.3.13      
 
<事案>
上告人と保証契約を締結していた被上告人が、上告人に対し、同契約に基づき、保証債務の履行を求めた。 

上告人:前記保証契約に基づく保証債務履行請求権の消滅時効を主張
被上告人:上告人に対する貸金の支払を求める旨の支払督促により消滅時効の中断の効力が生じていると主張
 
<事実>
①被上告人は、Aに対し、7億円貸し付けた。
②被上告人と上告人との間で、債務弁済契約公正証書が作成:
上告人が被上告人から借り受けた1億1000万円を、1000万円ずつ11回にわたって分割弁済。
③上告人が 被上告人に対し、Aの前記債務について1億1000万円の範囲で連帯保証する趣旨で作成。

被上告人は、上告人に対し、被上告人が上告人に対して貸し付けた貸金1億1000万円のうち、1億950万円の支払を求める旨の支払督促の申立てをし、上告人に送達。仮執行の宣言を付した支払督促は確定。
 
<判断>
AのX(被上告人)に対する貸金債務についてY(上告人)がXとの間で保証契約を締結した場合において、YがXから金員を借り受けた旨が記載された公正証書が上記保証契約の締結の趣旨で作成され、上記公正証書に記載されたとおりYが金員を借り受けたとしてXがYに対して貸金の支払を求める旨の支払督促の申立てをしたとの事情があっても、上記支払督促は、上記保証契約に基づく保証債務履行請求権について消滅時効の中断の効力を生ずるものではない
 
<解説>
●争点:
貸金の支払を求める旨の支払督促によって、当該支払督促の当事者間で締結された保証契約に基づく保証債務履行請求権について、消滅時効の中断の効力が生ずるか否か。 
 
●訴訟物の異なる請求による消滅時効の中断の問題に関連する最高裁判決 
消滅時効中断効を肯定したもの
最高裁昭和38.10.30:
株券引渡請求訴訟における被告の留置権の抗弁による留置権の被担保債権である立替金債権の裁判上の催告の効力を肯定。

①留置権の主張には被担保債権の存在の主張が必要
②留置権の抗弁が認められると引換給付判決がされることから、留置権の抗弁には被担保債権が履行されるべきであるとの権利主張の意思が表示されているものということができる
but
裁判上の請求に準ずる効力は否定。

最高裁昭和43.12.24:
農地の所有権移転登記手続請求による農地法3条の許可申請手続請求権の裁判上の催告の効力を肯定。

所有権移転の主張は農地法3条の許可を当然の前提としている。

最高裁昭和44.11.27:
抵当権設定登記抹消登記手続請求における被告の被担保債権の主張の抗弁による同債権の裁判上の請求に準ずる効力を肯定。

最高裁昭和45.7.24:
交通事故による損害賠償請求権につき、一部請求の趣旨が明示されていない訴えの提起による、債権の同一性の範囲内における時効中断効を肯定。

最高裁昭和53.4.13:
退職金債権の明示的一部請求による残部について裁判上の催告の効力を肯定した東京高裁の判決を維持

最高裁昭和62.10.16:
手形金請求訴訟の提起による原因債権の裁判上の請求に準ずる効力を肯定。

手形債権は、原因債権と法律上別個の債権ではあっても、経済的には同一の給付を目的とし、原因債権の支払の手段として機能する。

最高裁H10.12.17:
金員の着服を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とする訴えの提起及び訴訟係属による、基本的な請求原因事実を同じくし、経済的に同一の給付を目的とする関係にある不当利得返還請求権の裁判上の催告の効力を肯定。

最高裁H25.6.6:
明示的一部請求がない場合、特段の事情のない限り、残部について、裁判上の催告の効力を肯定。
but
この判決は、明示的一部請求がされ、債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由があると判断⇒判決において債権の総額の認定がされたとしても、残部に係る裁判上の請求に準ずる効力を否定した。

消滅時効中断効を否定したもの 
最高裁昭和34.2.20:
明示的一部請求の訴えの提起による残部についての時効中断効を否定

最高裁昭和37.10.12:
詐害行為取消訴訟の提起による被保全債権の時効中断効を否定

最高裁昭和43.7.27:
明示的一部請求の訴えの提起による残部についての時効中断効を否定

最高裁昭和47.11.28:
建物賃貸借契約の不履行による損害賠償請求権(逸失利益)を保全する仮差押えによる、借家権価格相当の損害賠償請求権の時効中断効を否定

最高裁昭和50.12.25:
貸金訴訟の訴え提起による、これと基本的事実関係を同じくする立替金債権についての時効中断効を否定

最高裁H11.11.25:
建築請負人からの注文者に対する請負契約に係る建物の所有権保存登記抹消登記手続請求訴訟の提起による請負代金債権の消滅時効中断効を否定 
 
<解説>
訴え提起に時効中断の効力を認める理論的根拠
A:訴えが権利者の最も断固たる権利主張の態度と認められることに基づくとする権利行使説(権利主張説、実体法説とも言われ、通説)
B:判決の既判力により訴訟物である権利関係の存否が確定されることに基づくとする権利確定説(訴訟法説) 

本件では、支払督促に既判力がなく、権利確定説からのアプローチは困難。
 
被上告人が上告人に貸し付けた金員の支払を求めることと、被上告人がAに対して貸し付けた金員について上告人に保証債務の履行を求めることは、全く別個のもの
本判決の「上記の貸金返還請求権の根拠となる事実は、本件保証契約に基づく保証債務履行請求権の根拠となる事実と重なるものですらなく」としている部分は、貸金返還請求により、他の訴訟物である保証債務履行請求権についての時効中断効を認めるための拠り所となるものがないことを述べている。 

判例時報2340

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