特殊詐欺事件の受け子と詐欺の未必的故意(肯定)
福岡高裁H28.12.20
<事案>
被告人が氏名不詳者を含む複数の者と共謀して、高齢者を電話で騙し、指定するアパートの一室に現金を送らせようとしたが、不審に感じた被害者が警察に通報したため未遂に終わった。
~現金送付型の特殊詐欺事案。
被告人は「受け子」で、被害者を騙す行為が終了した後に犯行に加わったと認定。
<主張>
荷物(書類)の受領という適法行為を頼まれただけで、故意がない。
<原審>
特異な状況における荷物の受領(共犯者の後輩なる面識のない者の自宅に、夜間、夕食もとらずに1人で待機し、他人宛ての荷物を受領するというもの)⇒被告人は荷物の中味が何らかの違法な行為に関わる物である可能性を当初から認識していたとして、「何らかの違法な行為に関わるという認識」はあった。
but
「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」までは認められない。
⇒未必的故意も否定し、無罪。
<主張>
「騙されたふり作戦」(騙されていることに気付いた、あるいはそれを疑った被害者側が捜査機関と協力の上、引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして、受領行為等の現場に警察官が臨場)、かつ、騙されているのに被害者が気付く前に被告人と他の共犯者らとの共謀が成立したとは認定できない
⇒被告人については詐欺の実行行為を認定できない。
<判断・解説>
●詐欺の故意
本件のように特異な状況において荷物を受領する場合、そのような行為態様から通常想定される違法行為の類型には、本件のような特殊詐欺が当然に含まれる。
⇒
受領行為につき「何らかの違法な行為に関わるという認識」さえあれば、特段の事情がない限り、本件のような特殊詐欺につき規範に直面するのに必要十分な事実の認識があったとものと解され、同行為が「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」があったと評価するのが社会通念に適い相当。
~
特異な状況における受領行為であること自体が「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」を基礎づける重要な事実であるとしている。
覚せい剤の密輸入等につき、「覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かも知れないとの認識はあった」として故意を認めた最高裁H2.2.9.
but
「身体に有害で違法な薬物類」に覚せい剤が含まれることには異論がないのに対し、特異な状況における受領行為であることから特殊詐欺の認識を導き出すには、本判決も言及するような「社会通念」を介在させる必要がある。
また、仮に、荷物の中身につき違法薬物やけん銃等の法禁物であると認識しており、詐欺に係る現金であるとは思わなかった旨主張された場合の処理も問題。
福岡高裁宮崎支部H28.11.10:
1か月間に約20回、異なるマンションの空室で、異なる名前を使い他人になりすまして荷物を受け取っていた被告人につき、
①犯行時、報道等により、「空室利用送付型詐欺」が社会に周知され浸透し社会常識となっていたとはいえない旨の認定を重視、
②違法薬物かけん銃等の法禁物であると思っていたとの弁解を排斥する根拠もない
⇒
同未遂につき有罪とした原判決を破棄。
●「騙されたふり作戦」の実施について
①詐欺の承継的共同正犯を肯定することを暗黙の前提として、交付された財物を受領する行為もまた詐欺の実行行為
②本件受領行為の実行行為性(危険性)の有無につき、不能犯における判断手法を用い、その中でもいわゆる具体的危険説に立ち、
これを肯定。
名古屋高裁H28.9.21:
単独犯で結果発生が当初から不可能な場合という典型的な不能犯の場合と、結果発生が後発的に不可能となった場合の、不可能になった後に共犯関係に入った者の犯罪の成否は、結果に対する因果性といった問題を考慮しても、基本的に同じ問題状況にあり、全く別に考えるのは不当である。
本判決:
不能犯の判断の際に仮定される「一般通常人」につき、「当該行為の時点で、その場に置かれた一般通常人」であるとして、行為者の立場に置かれた者とすべきである旨明示
判例時報2338
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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