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2017年10月11日 (水)

元市長に対する退職手当返納命令の事案

大阪地裁H28.11.2      
 
<事案>
4期12年4か月にわたってY(枚方市)の市長を務めたXが、現職警察官、ゼネコン担当者らと共謀の上、清掃工場建設工事の入札において談合を行った⇒談合罪で懲役1年6月(執行猶予3年)に処せられ、同判決が確定
⇒処分行政庁であるY市長から、市職員の退職手当に関する条例、市長等の退職手当に関する条例に基づき、2期目及び3期目に係る退職手当の返納命令を受けた⇒その取消しを求めた。
(4期目に係る退職手当については、Xが起訴後に辞職願を提出したことを受け、起訴後判決確定前に退職したときは退職手当を支給しない旨の特別措置条例が制定・施行⇒支給されていない。)

本件市長退職手当条例4条は、
「市長等の退職手当の支給方法については、一般職の職員の例による」旨規定。

本件職員退職手当条例12条の3第1項は、
退職した者に対し、一般の退職手当等を支給した後において、その者が在職期間中の行為に係る刑事事件に関し禁固以上の刑に処せられたときは、任命権者は、その支給をした一般の退職手当等の額のうち次に掲げる額を返納させることができる」旨規定。
 
<Xの主張>
①本件処分の根拠となる条例が存在しない
②本件処分のうち、2期目に関する部分は「在職期間中の行為に関し禁固以上の刑に処せられたとき」という要件を満たさない。
③本件処分は裁量権を逸脱・濫用したものである。
④返納命令の対象となるのは、現実にXに支払われた所得税及び住民税を控除した後の金額に限られる。 
 
<判断>
●主張①について 
本件職員退職手当条例12条の3第1項の文言⇒返納命令の対象となるのは一般の退職手当等に限られ、特別退職手当は対象外。
市長の退職手当は一般の退職手当である。

Xは、
①本件市長退職手当条例4条は、支給に関する規程のみを準用するにとどまり、返納に関する規定を準用していない。
②市長には任命権者が存在しない⇒本件職員退職手当条例12条の3第1項を適用することはできない
と主張。

市長と一般の職員を比較した場合、市長の方がはるかに職責が重く、また、権限も強大であることからすれば、刑事事件で禁固以上の刑に処せられた場合に、一般の職員であれば退職手当の返納が命じられるにもかかわらず、市長であれば退職手当の返納が命じられないというような制度設計をすることは想定し難い

本件職員退職手当条例、本件市長退職手当条例が本件処分の根拠となる条例にあたる
 
●主張②について 
本件退職手当条例12条の3第1項の文言

在職期間中の行為が、刑法あるいは特別刑法等が定める犯罪の構成要件に該当することが必要であり、
共謀共同正犯の場合は、共謀行為あるいは談合行為のいずれかが在職危難中に行われたと認定されることが必要。

Yが指摘するホテルでの会談について、同会談は2期目の在職期間中に行われたものであり、刑事事件の判決においても、共謀を認定する重要な間接事実として認定されているが、
①間接事実は犯罪行為の存在を推認される事実ではあるものの犯罪行為そのものではないこと、
②本件処分が、退職手当の返納という不利益処分であること
⇒その要件については厳格に解する必要がある。

間接事実が行われたことをもって、「在職期間中の行為に関し禁固以上の刑に処せられたとき」という要件を満たすということはできない。
 
●主張③について 
退職手当返納命令は羈束処分ではなく裁量処分。
Xが市長として市政に熱心に取り組み、一定の成果をあげてきたことなど、Xが主張する事情を十分に考慮しても、
①本件で問題となっているのが公務に対する信頼を大きく害する談合という行為であること、
②Xが地方公共団体の長である市長という立場にあったこと

Xの行為は重大な非違行為に当たり、裁量権の逸脱・濫用はない
 
●主張④について 
所得税の源泉徴収及び住民税の特別徴収が徴収納付の租税であり、納税義務者は、過納付があっても、原則として、直接国又は地方公共団体に対して還付を求めることはできない

返納命令の対象となるのは、Yが徴収納付義務者として控除した額を除いた部分に限られる
 
<解説>
公務員の非違行為を行った場合の退職手当の返納命令処分については、
退職手当の性格等を考慮し、
全部不支給を原則、一定の事由がある場合に例外的に一部不支給とした上で、
退職手当管理機関の裁量を認め、
社会通念上著しく妥当性を欠いた場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものして違法とならないものというべきであるとの基準で判断されることが多いと思われ、本判決も同様の基準で判断。 

判例時報2338

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