公立学校の卒業式の国歌斉唱の際の起立斉唱等の職務命令に従わず⇒減給処分(適法とされた事例)
大阪高裁H28.10.24
<事案>
大阪府立特別支援学校の教員であるXは、平成24年度の同校高等部の卒業式において、同校の校長かは国歌斉唱時には式場内にいる全ての教職員が起立斉唱すること及びその日配布された役割分担表に従い職務に専念するようにとの職務命令を、准校長からは式場外での受付業務をするようにとの職務命令をそれぞれ受けていた(「本件職務命令」)にもかかわらず、同受付病無を無断で放棄した上、式場内に勝手に立ち入って国歌斉唱時に起立しなかったことを理由として、大阪府教育委員会から減給1か月(給料と地域手当の合計額の10分の1)の懲戒処分
⇒Xが、本件減給処分が違法であると主張して、その取消しを求めるとともに、Y(大阪府)に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料200万円の支払を求める事案。
大阪府は、大阪府内の公立学校の行事において行われる国歌の斉唱に当たり、教職員は原則として起立斉唱を行うものとすることなどを内容とする府国旗国歌条例を規定。
府教委教育長は、府立学校の教職員宛てに、平成24年1月17日付けで、国歌斉唱が行われる学校行事において、式場内の全ての教職員は国歌を起立斉唱することなどを内容とする「入学式及び卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱について(通達)」(「本件通達」)を発出。
<争点>
①本件通達及び本件職務命令の憲法違反(19条、20条、26条、14条)
②本件減給処分の違法ないし裁量権の逸脱又は濫用等
<判断>
●本件通達及び本件職務命令の憲法適合性
憲法19条違反について、最高裁H23.5.30等を参照の上、
本件通達及び本件職務命令にはXの思想・良心の自由の間接的な制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められ、これらの根拠となった府国旗国歌条例についても、違憲・違法であるということはできない。
⇒憲法19条(思想・両親の自由)に違反するとはいえない。
憲法20条(信教の自由)、26条(教育を受ける権利等)及び14条にも違反しない。
●本件不起立等を理由とする懲戒処分の適法性
①准校長の職務命令に違反し、受付業務が勝手に終わったと判断して卒業式開始前に会場内に入ったこと、
②受付業務に戻るようにとの教頭らの指導に従わなかったこと
③本件不起立
のいずれもが職務命令反行為であり、
これらは地方公務員法32条が規定する上司の職務上の命令に忠実に従う義務に違反する法令違反行為。
Xが平成23年度卒業式に関して戒告処分を受けながら、1年後に同様の行為を繰り返した。
本件においては前記③のみならず前記①②という二重に上司の職務上の命令に従う義務に違反した行為。
⇒
前記の行為①ないし③は、いずれも法令違反及び全体の奉仕者たるにふさわしくいない非行に該当するものと認められ、これらを理由として懲戒処分を行うことは適法。
●本件減給処分に係る裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無
最高裁H24.1.16等を参照の上、
本件減給処分の理由となったXの非違行為は、
①卒業式における国歌斉唱時の起立斉唱を命じた本件通達及び校長の職務命令にに違反するだけでなく、准校長の職務命令にも違反
②その内容をみても、勝手に式場内に入って無関係の席に居座り不起立に及ぶなど、卒業式という重要な学校行事の秩序や雰囲気を損なうような行為に積極的に及んだものと評価できる、
③これらの本件不起立前後におけるXの態度等の諸事情
⇒
本件減給処分による不利益の内容を踏まえてもなお、学校の規律や秩序の保持等の必要性の観点から、減給処分が重きに失するものということはできず、
本件減給処分が裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たると解することはできない。
判例時報2341
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