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2017年10月

2017年10月22日 (日)

薬事法2条14項に規定する指定薬物を所持する罪の故意の有無(肯定事例)

福岡高裁H28.6.24      
 
<事案>
薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)2条14号に規定する私的薬物所持の事案。 
被告人は、所持していた指定薬物含有の植物片(「本件薬物」)について、危険ドラッグであったとの認識はあるが、公然販売していた販売店の店員から合法だと告げられて、そう信じており、指定薬物であることの認識はなかったとして、故意が争われた
 
<判断>
被告人は、①本件植物片がいわゆる危険ドラッグであることを前提に購入所持していた上、②危険ドラッグの危険性や取締りの強化は十分承知している
指定薬物として取締りの対象に入る可能性を認識していた。
 
<解説>
●判例:
故意の成立に必要な事実の認識の範囲は、当該構成要件の該当事実そのものであり、
その一部である違法性の意識を喚起しうる範囲の事実を認識していることは故意の成立を認める証拠に止まる

構成要件に該当する自然的事実を認識しているだけでは足りず構成要件に該当するとの判断を下しうる社会的意味の認識が必要
but
判例は、行政取締り法規違反の罪について、必ずしも統一的には理解できない判断を示しているといわれている。

法規の制定によって禁止される対象が決まり、構成要件該当の事実認識だけでは、一般人には行為の違法性を知り得ない場合が多い(前田)。

判例の立場について:
違法性を喚起しうる一部の事実を認識していたことと行為当時の状況をあわせて考慮すると、少なくとも未必的、概括的には構成要件該当事実を認識していたと認定できる場合⇒その錯誤は法律の錯誤
自然的な意味での事実の認識は存在していたものの、それが構成要件事実に当たるという意味の認識を妨げる特異な事情が介在していたため、故意の成立に必要な程度に事実の認識があったとは判断できない⇒事実の錯誤
 
●本判決:
規制対象となりうる薬物である旨の実質的違法性の認識があり、
指定薬物が含有されていないと信じた合理的な理由がない場合には、
指定薬物の故意に欠けるところはない。 

本件にあっては、
一般人の目からみると、
当該薬物が規制されるに足りる薬理作用を有するいわゆる危険ドラッグ、あるいは、幻覚等の作用を有する有害な薬物であるという認識はあった。

当該薬物を所持することが犯罪に該当すると判断できる社会的な意味の認識、換言すれば、一般人の目からみた「しろうと的認識」(平野)に従って、犯罪事実の認識に欠けるところはない
but
そのような認識を有していたとしても、責任ある公的な立場の者あるいは薬物に関する専門家から、根拠を示すなどして、当該薬物が指定薬物ではないというような説明を受けたなどの状況があれば、故意に必要な事実認識は否定されるものと解される。

判例時報2340

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2017年10月21日 (土)

けんか闘争、自招侵害等の観点と正当防衛の成立(肯定事例)

さいたま地裁H29.1.11      
 
<事案>
被告人は、犬を連れて散歩していた際、以前から被告人を見かけては怒鳴ったり警察に通報したりしていたBが自転車に乗って近付き、自転車に跨ったまま被告人の前に立ち塞がった
⇒どいて欲しいと告げたがBが応じない⇒Bをどかせるためその自転車前輪を2、3回、さほど強くない力で蹴った(自転車の足蹴り行為)⇒突然、Bは、被告人の顔面を手拳で殴打し、その後も何度か殴りかかってきた(Bによる殴打行為)⇒被告人は両手でガードしたり、Bに向かって足を前に出したりした(Bに対する足蹴り行為)⇒その後もBによる殴打行為が止まなかった⇒被告人が右手を突き出したところその顔面に当たり(本件暴行)、Bを転倒させて加療約6か月間を要する急性硬膜下血腫、脳挫傷等の傷害を負わせた。 
 
<争点>
本件暴行について、
①けんか闘争の一環として行われたものといえるか
②被告人が自ら招いた侵害(自招侵害)に対して行われたものとして、反撃行為に出ることが正当とされない状況にあったといえるか 
 
<判断>
●けんか闘争について 
①自転車の足蹴り行為は被害者の進路を妨害しようとするBにどいてもらうための牽制・威嚇の趣旨
②その後のBに対する足蹴り行為についても、あくまでBによる殴打行為に対して被告人が防戦して自己の身体を防衛するという状況にとどまる

本件暴行は、けんか闘争の一環の行為であるとはいえない
 
●自招侵害の点について 
被告人が自転車の足蹴り行為に至ったのは、Bの挑発的・誘発的行為も相応の原因になっており、被告人ばかりが大きく責められるべきではない
その後のBによる殴打行為は自転車の足蹴り行為に比べて量的にも質的にも上回っている

一般の社会通念に照らし、Bによる殴打行為が被告人による自転車の足蹴り行為に触発された一連、一体の事態としてなされたとしても、これに対して被告人が反撃に出ることが正当とされ得ない状況にまでは至っていない


本件暴行は、けんか闘争、自招侵害のいずれの観点からみても、正当防衛状況(急迫不正の侵害)の下における行為と認められるとして、正当防衛の成立を認め、無罪。 
 
<解説>
●けんか闘争について
最高裁昭和23.7.7も、闘争の過程を全般的に観察した結果、正当防衛の観念を入れる余地があるない場合があると説示
⇒けんか闘争と認定されれば正当防衛が成立しないと判示しているわけではない。(最高裁昭和32.1.22)

けんか闘争か否かで正当防衛の成否が直ちに決まる訳ではなく、結局は、「闘争」を全般的に検討する必要があり、けんか闘争を独立の争点とした争点整理には議論の余地。 
 
●自招侵害について 
最高裁H20.5.20:
傷害被告事件について、
相手方から攻撃されるに先立って暴行を加えていた被告人について、
相手方の攻撃は①被告人の暴行に触発された、②その直後における近接した場所での一連一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえる

相手方の攻撃が被告人の暴行の程度を大きく超えるものではないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえない

正当防衛を否定。

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侵害を予期した上で対抗措置に及んだ場合と正当防衛の「急迫性」

最高裁H29.4.26      
 
<事案>
被告人(当時46歳)が
①被害者(当時40歳)と何度も電話で口論
被害者からマンションの下に来ていると電話で呼び出され、刃体の長さ約13.8㎝の包丁を持って自宅マンション前路上に行き、ハンマーで攻撃してきた被害者の左側胸部を、殺意をもって包丁で1回突き刺して殺害 したという殺人の事案と
②コンビニのレジスターのタッチパネルを拳骨でたたき割ったという器物損壊の事案において、
①の殺人に関する正当防衛及び過剰防衛の主張に関し、刑法36条の「急迫性」の判断方法について職権判示したもの。
 
<規定>
刑法 第36条(正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 
<一審・原審>
刑法36条の「急迫性」の要件に関し、
単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である。」(最高裁昭和52.7.21)
が示した積極的加害意思論
⇒正当防衛及び過剰防衛の成立を否定。
 
<判断>
●刑法36条は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したもの。

行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合侵害の急迫性の要件については、侵害を予期していたことから、ただちにこれが失われると解すべきではなく対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべき。

具体的には、事情に応じ、行為者と相手方との従前の関係、予期された侵害の内容、侵害の予期の程度、侵害回避の容易性、侵害場所に出向く必要性、侵害場所にとどまる相当性、対抗行為の準備の状況(特に、凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等)、実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同、行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し、
行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、
前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には、侵害の急迫性の要件を充たさないものというべき。

●被告人は、
①Aの呼出しに応じて現場に赴けば、Aから凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら、
②Aの呼出しに応じる必要がなく、自宅にとどまって警察の援助を受けることが容易であったにもかかわらず、
包丁を準備した上、Aの待つ場所に出向き
④Aがハンマーで攻撃してくるや、包丁を示すなどの威嚇的行動をとることもしないままAに近づき、Aの左側胸部を強く刺突したもの。 
このような先行事情を含めた本件行為全般の状況
⇒被告人の本件行為は、刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとは認められず、侵害の急迫性の要件を充たさない

本件につき正当防衛及び過剰防衛の成立を否定した第一審判決を是認した原判断は正当。

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2017年10月20日 (金)

給与規定変更による給与の減額に伴う退職金の減額について、変更に合理性があるとされた事例

大阪地裁H28.10.25      
 
<事案>
退職金規程及びその前提となる給与規程の改訂により、退職金が減額⇒原告X1~X5が差額退職金の支払を請求。
被告Yは、学校法人であり中学、高校、通信制高校を運営。
XらはいずれもYの元教員であり35年程度の勤務の後、平成27年、28年に定年退職した者(定年退職後、シニア講師としてYに就労)。 

Yは平成25年5月、新たな人事制度を導入し、給与規則と退職金支給規則を改訂(但し、退職金制度について実質的な変更はない)するとともに退職年金制度を廃止。

Yは平成13年度から消費支出超過を続けており、同17年以降は帰属収支においても大幅な支出超過⇒大幅な経費削減を行わなければ早晩経営破たんするとして、平成25年5月、月額給与を8万円程度引き下げ、これに伴って退職金は85~90%程度に減額
 
<規定>
労働契約法 第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法 第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
<判断>
●本事案は、退職金の計算基礎となる「基本給の額が減額となったことによるもの」で「新人事制度全体を踏まえて検討する必要がある」

①変更の必要性、②不利益の程度、③内容の相当性、④労働組合等の交渉状況を検討。 
 
●変更の必要性 
府下私立学校における退職給与引当率の平均値、日本私立学校振興・共同事業団「自己診断チェックリスト」における帰属収支差額費率、積立率、流動比率の評価や管理職手当の減額、理事の減員、役員手当のカットなどを認定

その経営状況は危機的なものであったとし、末期的な状況になってからでは遅いともいえると判示。
 
●不利益の程度 
Xらの請求額は300~400万円であるが、「不利益の程度は大きい」と認定。
 
●内容の相当性 
①基本給減額について経過措置(初年度95%、2年目90%、3年目85%の補償)が採られたこと、②新人事制度導入前に退職したと仮定した場合の退職金と、新人事制度導入後の退職金とを比較し、高い方の金額で支払ったことなど、一定の激変緩和措置を設けていることを認定。
公益財団法人大阪府私学総連合会の退職金事業における支給率と比較⇒「同一地域内において高いもの」

変更後の内容は相当
 
●労働組合等との交渉
①財政破綻のおそれがあることについては7年前から説明
②平成23年12月以降、教職員及び組合に対して情報(決算概要等)や改革案を適宜提示し、組合要求の資料を開示し、交渉においても強硬な態度をとることなく対応してきた。

Yの本件組合あるいは教職員に対する説明の内容・態度は適切なものであった。


本件変更については、
これにより被るXらの不利益は大きいものではあるが、
他方で、
変更を行うべき高度の必要性が認められ、
変更後の内容も相当であり、
本件組合等との交渉・説明も行われてきており
その態度も誠実なものであるといえる

本件変更は合理的なものであると認められる。 
 
<解説>
就業規則による労働条件の不利益変更の効力は、労働契約法9条、10条に、実定法化。 

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2017年10月19日 (木)

ゴルフクラブのシャフトデザインンの著作物性が争われた事案(否定)

知財高裁H28.12.21      
 
<事案>
グラフィックデザイン等を業として行う控訴人が、ゴルフ用品等スポーツ用品の製造、販売等を目的とする株式会社である被控訴人に対し、
(1)①被告シャフトが、
主位的には、控訴人の著作物であるゴルフシャフトのデザイン(本件シャフトデザイン)の翻案に当たり、
予備的には、控訴人の著作物である本件シャフトデザインの原画(本件原画)の翻案に当たる
⇒被控訴人の被告シャフト製造、販売行為が、控訴人の著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)を侵害し、

(2)被告シャフトの製造は、
主位的には、控訴人の意に反して本件シャフトデザインを改変してなされたものであり、
予備的には、控訴人の意に反して本件原画を改変してなされたもの
⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、

(3)被控訴人のカタログ(被告カタログ)の製作は、控訴人の著作物であるカタログデザイン(本件カタログデザイン)を改変してなされたもの⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害

①被告シャフトによる著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)侵害につき民法703条、704条に基づく使用料相当額の不当利得金5400万円等の支払
②被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき民法709条に基づく慰謝料850万円の内金425万円等の支払
③被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき著作権法112条1項に基づく被告シャフト及び被告カタログの製造及び頒布の差止め並びに同条2項に基づく廃棄、並びに
④被告シャフトによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき、同法115条に基づく謝罪広告の掲載
を求めた事案。
 
<規定>
著作権法 第10条(著作物の例示) 
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
<判断>
応用美術の著作物性について、
一般論として、
「応用美術」は、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号) に属するものであるか否かが問題となる以上、著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず、
著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべき

控訴人が本件シャフトデザイン及び本件カタログデザインに創作性が認められる根拠としてあげた点につき、いずれも創作的な表現ではないと判断。
 
<解説>
応用美術の著作物性について、近時の知財高裁判決では、
①実用目的の応用美術であっても、
実用目的に必要な構成を分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるもの⇒美術の著作物として保護すべき。
実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないもの⇒著作物として保護されない。
(知財高裁H26.8.28)と、

②応用美術が「美術の著作物」として保護されるために、
応用美術に一律に適用すべきものついて、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきであるとしたもの(知財高裁H27.4.14)。

本判決は、後者②の判決の流れを汲むものであるが、応用美術の著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならない点を明確にした。

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企業買収の業務を受託した会社のために作業を行った個人に商法512条により相当な報酬を認めた事案

東京地裁H28.5.13       
 
<事案>
企業買収を受託した事業者のために作業を行った場合における仲介報酬の請求の当否、根拠、報酬額が問題となった事案。 

Y1株式会社(代表者はY2)は、A株式会社から、Aが買い手となり、B投資事業有限責任組合らが売り手となるD株式会社の株式譲渡を行う方法による企業買収につき業務委託を受けた⇒Xは、Y2の指示等によって助言、打ち合わせへの出席、書面の作成等の作業を行った。
AとBらは、Dの株式譲渡契約を締結⇒本件案件が完了した後、Y1は、業務委託契約に基づきAから本件案件の報酬として5250万円を受領。

Xは、Y1、Y2に対し、いずれかから委託を受けて本件案件に関する事務を行ったと主張⇒契約に基づく約定の割合に従った報酬として、又は商法512条による相当な報酬として前記報酬の半額の支払を請求。
 
<争点>
①XがY1、Y2のいずれと業務委託契約を締結したか
②同契約上Y1の受け取る報酬の半額を報酬とする合意があったか
③合意がない場合における相当な報酬額はいくらか 
 
<規定>
商法 第512条(報酬請求権)
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
 
<判断>
①本件案件に関する取引の経過、②Y2とXのやり取り、③Xの作業等を認定し、本件案件がY1の業務であった

XがY1から本件案件の交渉、書面作成、検討、助言等の業務を委託したものと認め、Y1とXとの間の報酬に関する合意の成立を否定
but
商法512条を適用
Xの行った作業の内容を検討
Y1が取得した報酬金額の15%程度に当たる800万円が相当な報酬額であると認める等して、Y1に対する請求を一部認容

Y2に対する請求は棄却。

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2017年10月18日 (水)

高層ビルの建物部分の賃貸借契約交渉過程での信義則上の義務違反(肯定)

東京地裁H28.4.14      
 
<事案>
高層ビルの建物部分の賃貸借契約の締結交渉がされ、交渉が打ち切られた場合における契約締結上の過失責任(契約準備段階における信義則上の義務違反)の成否が問題になった事案。 
 
<事実関係>
商業施設等の開発、企画等を業とするX株式会社は、A信託銀行から高層ビルの29回、30階部分を賃借する予定。
平成24年夏頃以降、ウエディング関連事業を行うY株式会社が賃借(転借)することを希望⇒賃貸借の交渉。

Yは、平成24年10月31日、出店申込書を提出し、Xに賃貸借契約の申込みをし、同年11月22日、役員会において本件物件への出店が承認され、その旨がXに伝えられた。
平成24年12月22日、契約書案の内容が確定。
Yは、バンケット区画の拡張を提案し、Xに拡張ができなければ出店が中止される可能性があることを伝えた。
Xは、平成25年1月31日、Aとの間で、本件物件の賃貸借契約を締結。
Xは、平成25年2月20日、Yに区画変更に伴う工事がYの試算した予算内で可能であることを伝えた。
Yは、平成25年3月7日、経営会議において本件物件への出店を打ち切ることを決定し、同月8日、Xに申し込みを撤回。

Xは、Yに対し、契約締結上の過失責任に基づき逸失賃料、完工済工事費用、人件費等、テナント賃料収入額につき損害賠償を請求。
 
<争点>
Yの債務不履行責任又は不法行為責任の有無
Xの損害の有無・額 
 
<判断>
①XとYとの間で賃貸借契約書の内容を確定させる等し、平成25年2月末頃にはYの要望も実現可能な程度に対応を進めた
その頃までにXが本件賃貸借契約の締結に期待を抱いたことは相当の理由がある

②Yの要望への対応に関するYからの信頼を失わせる帰責性を否定

この期待は法的保護に値するとして契約準備段階におけるYの信義則上の義務違反を肯定

完工済工事費用、人件費等の損害を認め、
逸失賃料相当額、テナント賃料収入相当額の損害に関する主張を排斥

請求を一部認容。

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賃料増額請求と管理行為・増額しない旨の特約の合意

東京高裁H28.10.19       
 
<事案>
本件建物につき持分2分の1を有するXは、Yに対し、賃料増額請求権を行使し、
適正賃料(月額898万円、税別)の確認と従前賃料(500万円、税別)との差額等の支払を求めた。
 
<規定>
借地借家法 第32条(借賃増減請求権)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

民法 第252条(共有物の管理)
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
 
<判断>
原審請求棄却、控訴棄却。 
①本件建物の賃貸借契約について、消費税率の変動に伴って賃料が引き上げられた事実がない
②賃貸人と賃借人との間にはもともと密接な関係があり、相続による当事者の変更等はあったものの、円満な賃貸借関係を継続することが優先された

消費税率の変更にかかわらず賃料総額を変えないという黙示の合意が成立していたもので、Xは本件建物の持分を取得したことによりその賃貸人の地位を承継

Xは本件建物につき持分2分の1を有するが、合意の変更は共有物の管理行為に該当
Xが単独で賃料増額請求権を行使できるものではない
 
<解説>
●賃料増減請求権は、経済事情の変動などによって賃料が不相当となった場合に、これを是正するために認められるもの。
その意思表示が相手方に到達した時から増減の効果が生じる(最高裁昭和45.6.4)。 
増額については、請求権の行使を特約によって排除することができる(借地借家法32条1項ただし書)。

特約については、一般の契約の合理的意思解釈に従い、本判決が説示するように、当事者の関係、賃貸借契約の締結の経緯、その後の賃料増額の有無その他の事情により、判断される。

共有物の管理(民法252条本文):共有物を利用しその価値を高めるもの

賃料増額請求権はの行使は、まさに共有物たる賃貸物件の価値を高めるもの⇒持分の価格に従い、過半数で決する必要がある。

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2017年10月17日 (火)

貸金についての支払督促と同保証債務履行請求権の消滅時効の中断効(否定)

最高裁H29.3.13      
 
<事案>
上告人と保証契約を締結していた被上告人が、上告人に対し、同契約に基づき、保証債務の履行を求めた。 

上告人:前記保証契約に基づく保証債務履行請求権の消滅時効を主張
被上告人:上告人に対する貸金の支払を求める旨の支払督促により消滅時効の中断の効力が生じていると主張
 
<事実>
①被上告人は、Aに対し、7億円貸し付けた。
②被上告人と上告人との間で、債務弁済契約公正証書が作成:
上告人が被上告人から借り受けた1億1000万円を、1000万円ずつ11回にわたって分割弁済。
③上告人が 被上告人に対し、Aの前記債務について1億1000万円の範囲で連帯保証する趣旨で作成。

被上告人は、上告人に対し、被上告人が上告人に対して貸し付けた貸金1億1000万円のうち、1億950万円の支払を求める旨の支払督促の申立てをし、上告人に送達。仮執行の宣言を付した支払督促は確定。
 
<判断>
AのX(被上告人)に対する貸金債務についてY(上告人)がXとの間で保証契約を締結した場合において、YがXから金員を借り受けた旨が記載された公正証書が上記保証契約の締結の趣旨で作成され、上記公正証書に記載されたとおりYが金員を借り受けたとしてXがYに対して貸金の支払を求める旨の支払督促の申立てをしたとの事情があっても、上記支払督促は、上記保証契約に基づく保証債務履行請求権について消滅時効の中断の効力を生ずるものではない
 
<解説>
●争点:
貸金の支払を求める旨の支払督促によって、当該支払督促の当事者間で締結された保証契約に基づく保証債務履行請求権について、消滅時効の中断の効力が生ずるか否か。 
 
●訴訟物の異なる請求による消滅時効の中断の問題に関連する最高裁判決 
消滅時効中断効を肯定したもの
最高裁昭和38.10.30:
株券引渡請求訴訟における被告の留置権の抗弁による留置権の被担保債権である立替金債権の裁判上の催告の効力を肯定。

①留置権の主張には被担保債権の存在の主張が必要
②留置権の抗弁が認められると引換給付判決がされることから、留置権の抗弁には被担保債権が履行されるべきであるとの権利主張の意思が表示されているものということができる
but
裁判上の請求に準ずる効力は否定。

最高裁昭和43.12.24:
農地の所有権移転登記手続請求による農地法3条の許可申請手続請求権の裁判上の催告の効力を肯定。

所有権移転の主張は農地法3条の許可を当然の前提としている。

最高裁昭和44.11.27:
抵当権設定登記抹消登記手続請求における被告の被担保債権の主張の抗弁による同債権の裁判上の請求に準ずる効力を肯定。

最高裁昭和45.7.24:
交通事故による損害賠償請求権につき、一部請求の趣旨が明示されていない訴えの提起による、債権の同一性の範囲内における時効中断効を肯定。

最高裁昭和53.4.13:
退職金債権の明示的一部請求による残部について裁判上の催告の効力を肯定した東京高裁の判決を維持

最高裁昭和62.10.16:
手形金請求訴訟の提起による原因債権の裁判上の請求に準ずる効力を肯定。

手形債権は、原因債権と法律上別個の債権ではあっても、経済的には同一の給付を目的とし、原因債権の支払の手段として機能する。

最高裁H10.12.17:
金員の着服を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とする訴えの提起及び訴訟係属による、基本的な請求原因事実を同じくし、経済的に同一の給付を目的とする関係にある不当利得返還請求権の裁判上の催告の効力を肯定。

最高裁H25.6.6:
明示的一部請求がない場合、特段の事情のない限り、残部について、裁判上の催告の効力を肯定。
but
この判決は、明示的一部請求がされ、債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由があると判断⇒判決において債権の総額の認定がされたとしても、残部に係る裁判上の請求に準ずる効力を否定した。

消滅時効中断効を否定したもの 
最高裁昭和34.2.20:
明示的一部請求の訴えの提起による残部についての時効中断効を否定

最高裁昭和37.10.12:
詐害行為取消訴訟の提起による被保全債権の時効中断効を否定

最高裁昭和43.7.27:
明示的一部請求の訴えの提起による残部についての時効中断効を否定

最高裁昭和47.11.28:
建物賃貸借契約の不履行による損害賠償請求権(逸失利益)を保全する仮差押えによる、借家権価格相当の損害賠償請求権の時効中断効を否定

最高裁昭和50.12.25:
貸金訴訟の訴え提起による、これと基本的事実関係を同じくする立替金債権についての時効中断効を否定

最高裁H11.11.25:
建築請負人からの注文者に対する請負契約に係る建物の所有権保存登記抹消登記手続請求訴訟の提起による請負代金債権の消滅時効中断効を否定 
 
<解説>
訴え提起に時効中断の効力を認める理論的根拠
A:訴えが権利者の最も断固たる権利主張の態度と認められることに基づくとする権利行使説(権利主張説、実体法説とも言われ、通説)
B:判決の既判力により訴訟物である権利関係の存否が確定されることに基づくとする権利確定説(訴訟法説) 

本件では、支払督促に既判力がなく、権利確定説からのアプローチは困難。
 
被上告人が上告人に貸し付けた金員の支払を求めることと、被上告人がAに対して貸し付けた金員について上告人に保証債務の履行を求めることは、全く別個のもの
本判決の「上記の貸金返還請求権の根拠となる事実は、本件保証契約に基づく保証債務履行請求権の根拠となる事実と重なるものですらなく」としている部分は、貸金返還請求により、他の訴訟物である保証債務履行請求権についての時効中断効を認めるための拠り所となるものがないことを述べている。 

判例時報2340

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2017年10月16日 (月)

老齢厚生年金について厚生年金保険法43条3項の規定による年金の額が改定されるために同項所定の期間を経過した時点での当該年金の受給権者であることの要否(必要)

最高裁H29.4.21       
 
<事案>
Xが、厚生労働大臣から、厚生年金保険法(平成25年法律第63号による改正前のもの)附則8条の規定による老齢厚生年金について、法43条3項の規定による年金の額の改定(「退職改定」)がされないことを前提とする支給決定(「本件処分」)を受けた⇒Y(国)を相手に、その取消しを求めた。 
 
<制度等>
法は、国民年金法等の一部を改正する法律による老齢厚生年金の支給開始年齢の引き上げ⇒65歳以後に所定の要件を満たした者に対して老齢厚生年金を支給するものとし、
その経過措置として、60歳以上65歳未満で所定の要件を満たした者に対しては特別支給の老齢厚生年金を支給することとしている。 

特別支給の老齢厚生年金の受給権者が65歳に達したときは、その受給権(以下「基本権」ともいう。)が消滅し、他方、このうち法42条所定の要件を満たす者については、本来支給の老齢厚生年金の基本権が発生

各老齢厚生年金の額は、大要、所定の額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とされるが、在職中であっても(すなわち、厚生年金保険の被保険者の資格を有していても)所定の要件を満たした者に対して老齢厚生年金が原則として支給される⇒
法43条2項は、受給権者がその権利を取得した月以後における被保険者であった期間はその計算の基礎としない旨を定めている一方、
同条3項は、「被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日(「資格喪失日」)から起算して1月(「待機期間」)を経過したとき」との要件の下で、被保険者の資格を喪失した月前における被保険者期間を老齢厚生年金の計算の基礎とするものとし、待期期間を経過した日の属する月から、年金の額を改定する旨を定めている(退職改定)。

<事実と争点>
平成19年9月に社会保険庁長官の最低を受けた特別支給の老齢厚生年金の受給権者であるXは、平成23年8月30日、勤務先を退職し、翌31日、被保険者の資格を喪失したが、1箇月の待期期間を経過する前の同年9月17日に65歳に達して特別支給の老齢厚生年金の最終月分である平成23年9月分につき、そのことを理由として退職改定がされないことを前提とする本件処分をした。

このような場合においても退職改定がされるべきか否かが争われた。
 
<一審・原審>
①法43条3項の「被保険者である受給権者」という文言は、その文理上、第2要件の主語として定められたものとは解せないこと
②退職改定制度の導入経緯や待期期間が設けられた趣旨⇒待期期間の経過時点で受給者である必要性は導かれないこと
③特別支給の老齢厚生年金から本来支給の老齢厚生年金への移行に関する制度設計の解釈や老齢厚生年金と拠出された保険料との対価関係等

退職改定の要件としては待期期間経過時に受給権者であることを要しないと解するのが相当である。

平成23年9月分の特別支給の老齢厚生年金の額については退職改定がされるべきであるから、本件処分は違法であるとして、Xの請求を認容すべきものとした。
 
<判断>
原判決を破棄し、第1審判決を取り消してXの請求を棄却。 
厚生年金保険法附則8条の規定による老齢厚生年金について厚生年金保険法(平成24年法律第63号により改正前のもの)43条3項の規定による年金の額の改定がされるためには、被保険者である当該年金の受給権者が、その被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して1月を経過した時点においても、当該年金の受給権者であることを要する
 
<解説>   
●本判決は、待期期間経過時に受給権者であることを要する必要説に立つことを明らかにした。 
 
●法43条3項の文言との関係
①法43条3項の要件を定めた部分は、全体として1つの条件を定めたもの(特に、第2要件の「被保険者となることなくして」の主語は、同項の文言からは第1要件の「受給権者」とみるほかない。)
②原判決のように同項の要件部分を「かつ」の前後で分けてよななければならない実質的根拠が見当たらない

同項の文言は必要説を前提としたものと理解するのが相当。
同項が退職改定の対象となる者を「被保険者である受給権者」と定めている
⇒必要説が「文理に沿う解釈」。
 
●必要説を相当とする実質的論拠 
法における基本権及び支分権に関する理解。
基本権は、支給要件に該当したときに発生するが、受給権者の請求に基づく厚生労働大臣の裁定において基本権の要素(年金の種類、基本権の取得日、年金額等)を確認されて初めて年金の支給が可能になるものであり(最高裁H7.11.7)、
他方、支分権は、裁定に係る基本権を前提として、各月の到来によって法律上当然に発生し、以後、基本権とは別個独立に存続すると理解される。
法43条3項の退職改定の効力に関する定め(①「その被保険者の資格を喪失した月前における被保険者期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし」②「待期期間を経過した日の属する月から、年金の額を改定する」との定め)は、
老齢厚生年金の基本権の基本権に係る年金の額を改定することにより(①)、
支分権の額も(既に発生したものを含めて)当該改定後の基本権を前提としたものに改定すること(②)

としたものと解される

法43条3項は、退職改定がされる待期期間の経過時点においても当該年金の基本権が存することを予定していると考られる。

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2017年10月15日 (日)

嘉手納基地爆音訴訟第1審判決

那覇地裁沖縄支部H29.2.23     嘉手納基地爆音訴訟第1審判決 
 
<事案>
駐日米軍の嘉手納飛行場(本件飛行場)の周辺住民ら2万2048名が、米軍航空機の騒音によって各種の被害を受けていると主張⇒日本国に対し、騒音の差止め及び損害賠償を求める訴え。 
 
<判断・解説>
●騒音の差止請求棄却。 
国が日米安保条約に基づき米国に対し同国軍隊の使用する施設及び区域として飛行場を提供している場合において、国に対して右軍隊の使用する航空機の離発着等の差止めを請求することができない(厚木基地騒音上告審判決、最高裁H5.2.25)

本判決:
国は、日米安保条約及び日米地位協定上本件飛行場における米軍の航空機の運航等を規制し、制限することのできる立場にはない
⇒本件差止請求は、被告に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するもの⇒国に値する航空機騒音の差止め請求を棄却
 
●口頭弁論終結の日の翌日以降の将来分の損害の賠償請求に係る訴えを却下 
航空機の騒音等による損害の賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分については、大阪国政空港訴訟上告審判決(最高裁昭和56.12.16)が将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないと判断。
本判決も同旨。
 
●過去分の損害賠償請求 
過去分の損害賠償請求につきいわゆる受忍限度論を採用した上、生活環境整備法において区域指定に用いられるW値で75以上の区域に居住している期間について、原告らが社会生活上受忍すべき限度を超える違法な権利侵害ないし法益侵害を被っている。

原告らのいわゆる民特法に基づく損害賠償請求を一部認容。
損害賠償額については、
生活環境整備法に基づいて作成されている騒音コンター図(5W値ごとに同一のW値を結んで作成されたコンター図)を用いて、
W75以上80未満の区域に居住する期間は、1か月7000円
W80以上85未満⇒1か月1万3000円
W85以上90未満⇒1か月1万9000円
W90以上95未満⇒1か月2万5000円
W95以上⇒1か月3万5000円
を基本となる慰謝料額。

但し、生活環境整備法に基づき住宅防音工事がされている場合には、施工室数に応じて、慰謝料額は減額
~慰謝料として高額。

本件飛行場における航空機の運航等から生じる騒音によって周辺住民らに受忍限度を超える違法な被害が生じていることを認定し、
国に損害賠償を命じた第一次訴訟の判決が確定した平成10年から既に18年以上、第二次訴訟の判決が確定した平成23年1月からは既に4年以上が経過しているものの、米国又は国による被害防止対策に特段の変化は見られず周辺住民に生じている違法な被害が漫然と放置されていると評価されてもやむを得ない

判例時報2340

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2017年10月14日 (土)

特殊詐欺事件の受け子と詐欺の未必的故意(肯定)

福岡高裁H28.12.20    
 
<事案>
被告人が氏名不詳者を含む複数の者と共謀して、高齢者を電話で騙し、指定するアパートの一室に現金を送らせようとしたが、不審に感じた被害者が警察に通報したため未遂に終わった。
~現金送付型の特殊詐欺事案。

被告人は「受け子」で、被害者を騙す行為が終了した後に犯行に加わったと認定。
 
<主張>
荷物(書類)の受領という適法行為を頼まれただけで、故意がない。 
 
<原審>
特異な状況における荷物の受領(共犯者の後輩なる面識のない者の自宅に、夜間、夕食もとらずに1人で待機し、他人宛ての荷物を受領するというもの)⇒被告人は荷物の中味が何らかの違法な行為に関わる物である可能性を当初から認識していたとして、「何らかの違法な行為に関わるという認識」はあった。
but
「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」までは認められない。
⇒未必的故意も否定し、無罪。 
 
<主張>
「騙されたふり作戦」(騙されていることに気付いた、あるいはそれを疑った被害者側が捜査機関と協力の上、引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして、受領行為等の現場に警察官が臨場)、かつ、騙されているのに被害者が気付く前に被告人と他の共犯者らとの共謀が成立したとは認定できない
⇒被告人については詐欺の実行行為を認定できない。 
 
<判断・解説> 
●詐欺の故意
本件のように特異な状況において荷物を受領する場合、そのような行為態様から通常想定される違法行為の類型には、本件のような特殊詐欺が当然に含まれる

受領行為につき「何らかの違法な行為に関わるという認識」さえあれば、特段の事情がない限り、本件のような特殊詐欺につき規範に直面するのに必要十分な事実の認識があったとものと解され、同行為が「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」があったと評価するのが社会通念に適い相当。

特異な状況における受領行為であること自体「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」を基礎づける重要な事実であるとしている。 

覚せい剤の密輸入等につき、「覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かも知れないとの認識はあった」として故意を認めた最高裁H2.2.9.
but
「身体に有害で違法な薬物類」に覚せい剤が含まれることには異論がないのに対し、特異な状況における受領行為であることから特殊詐欺の認識を導き出すには、本判決も言及するような「社会通念」を介在させる必要がある。

また、仮に、荷物の中身につき違法薬物やけん銃等の法禁物であると認識しており、詐欺に係る現金であるとは思わなかった旨主張された場合の処理も問題。

福岡高裁宮崎支部H28.11.10:

1か月間に約20回、異なるマンションの空室で、異なる名前を使い他人になりすまして荷物を受け取っていた被告人につき、
①犯行時、報道等により、「空室利用送付型詐欺」が社会に周知され浸透し社会常識となっていたとはいえない旨の認定を重視、
②違法薬物かけん銃等の法禁物であると思っていたとの弁解を排斥する根拠もない

同未遂につき有罪とした原判決を破棄。
 
●「騙されたふり作戦」の実施について
①詐欺の承継的共同正犯を肯定することを暗黙の前提として、交付された財物を受領する行為もまた詐欺の実行行為
②本件受領行為の実行行為性(危険性)の有無につき、不能犯における判断手法を用い、その中でもいわゆる具体的危険説に立ち、
これを肯定。

名古屋高裁H28.9.21:
単独犯で結果発生が当初から不可能な場合という典型的な不能犯の場合と、結果発生が後発的に不可能となった場合の、不可能になった後に共犯関係に入った者の犯罪の成否は、結果に対する因果性といった問題を考慮しても、基本的に同じ問題状況にあり、全く別に考えるのは不当である。

本判決:
不能犯の判断の際に仮定される「一般通常人」につき、「当該行為の時点で、その場に置かれた一般通常人」であるとして、行為者の立場に置かれた者とすべきである旨明示

判例時報2338

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2017年10月13日 (金)

不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」該当性等

知財高裁H28.11.30      
 
<事案>
控訴人(一審原告)らは、試験管用の加湿器を共同で開発したプロダクトデザイナー。控訴人加湿器1を平成23年11月に国際展示会へ、控訴人加湿器2を平成24年6月に国際見本市へ、それぞれ出展し、平成27年1月5日頃から、控訴人加湿器3を販売。
被控訴人は、生活雑貨の輸入等を業とする株式会社であり、平成25年に試験管用の加湿器(被控訴人商品)を中国から輸入し、国内の各取引先に販売。 

控訴人らが、被控訴人に対し、
①被控訴人商品が控訴人加湿器1・2の形態を模索したもの⇒不正競争防止法違反(不正競争防止法2条1項3号)に基づいて被控訴人製品の輸入、販売等の差止め等を、
②控訴人加湿器1・2は美術の著作物(著作権法10条1項4号)に当たり、被控訴人商品はこれを複製・翻案したもの⇒著作権に基づいて被控訴人商品の輸入、販売等の差止め等を
求めた。
 
<規定>
不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

不正競争防止法 第19条(適用除外等)
第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。

五 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
イ 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
 
<原審>
控訴人加湿器1・2は、いずれも、市場における流通の対象となる物とは認められない⇒不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらない。 
両加湿器は、いずれも、美的鑑賞の対象となり得るような創作壊死を備えていると認めることはできない⇒著作物に当たらない 
 
<判断> 
「他人の商品」(不正競争防止法2条1項3号)に該当するためには、「商品化」を完了していれば足り、その商品化といえるためには、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある。
②商品展示会に出展された商品は、特段の事情がない限り、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった物品であるとして認められる。
③保護期間(不正競争防止法19条1項5号ロ)の始期は、開発商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時。

被控訴人商品は控訴人加湿器1・2を模倣したものであるから、不正競争防止法所定の保護期間内にされた被控訴人商品の輸入は不正競争に当たる。
but
口頭弁論終結時点では前記保護期間は既に経過している。
控訴人加湿器1・2は美術の著作物とは認められない。
 
<解説>
●「他人の商品」について 

本判決:
商品開発者の保護という法的要請と、②取引の安全性という社会的要請の両要請に鑑みて、保護に値する投資の地度とその外部からの観察可能性という観点

「他人の商品」(不正競争防止法2条1項3号)に該当するためには、「商品化」を完了していれば足り、その商品化といえるためには、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある。
試作品段階のものが保護の対象とはしていない。

サンプル出荷できる段階では商品化を終えていると説示するもの(東京地裁H16.2.24)
 
●「最初に販売された日」について 

本判決:
法文の用語からは若干離れるものの、
①先行開発者の保護と後行開発者の利益とのバランスを取ろうとした保護期間の規定の趣旨や
②知的財産法の法体系との整合性

保護期間(不正競争防止法19条1項5号ロ)の始期は、開発商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時
 
●応用美術品の著作物性について 
「応用美術」という用語には、明確な定義がない。
主に想定されているのは、量産される実用品に用いられている美観(形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)であr、これを「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)又は「著作物」(同法2条1項1号)として、著作権法で保護できるのかという問題。

本判決:
応用美術が著作物性を認められるためには、個性の発露があり、また、美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える必要があると判断。
but高度の創作性は要しない。

控訴人らのスティック型加湿器については、個性の発露が認められない著作物性を否定

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2017年10月12日 (木)

株式交換の効力発生日後に株式買取請求が撤回された場合

東京高裁H28.7.6       
 
<事案>
Y株式会社は、その親会社A株式会社との間で、Yを株式交換完全子会社とする株式交換を行った。
Yの株主であったX1ないしX3は、本件株式交換に反対して株式買取請求をしたが、買取価格の合意には至らず、本件株式交換の効力発生日から60日以内に価格決定の申立てもされなかった。
Xらは、その後、本件各株式買取請求を撤回

XらがYに対して、
①主位的に、Xらが株式交換完全親会社であるAの株式を取得していると主張⇒Aの株式をXらの指定する証券保管振替機構の口座へ振り返るよう指示すること及びAの配当金の支払を請求

予備的に
②XらがAの株式を取得していることが認められない場合、XらがYの株主であることの確認とYの株主名簿への記載及びYの配当金の支払(予備的請求1)
③主位的請求のうち口座振替指図が認められない場合、これに代わる金員の支払とAの配当金の支払(予備的請求2)
④予備的請求1のうちYの株式であることの確認・株主名簿への記載が認められない場合、これに代わる金員の返還とYの配当金の支払(予備的請求3)
を求めた。
 
<原審>
Xらによる株式買取請求の後、株式交換の効力発生日に買取の効力が生じ、Xらが有していたY株式は同効力発生日に完全子会社Yを経て完全親会社Aに移転
⇒Xらは完全子会社Yの株主にも完全親会社Aの株主にもなることはない。

Xらは完が株式買取請求を撤回したからといってYの株主の地位を回復するものではない

XらがA又はYの株主であることを前提とする上記①~③の各請求を棄却。

株式交換の効力発生日後に株式買取請求が撤回された場合には、完全子会社には原状回復義務として完全子会社の株式を返還する義務が生じる
but
②完全親会社が完全子会社の株式を取得している

当該義務は履行不能となり、結局、完全子会社は、株式買取請求に係る株式の価格相当額返還義務を負うことになる。

Xらの請求④のうちXらが有してたY株式の価格相当額の支払を求める請求の一部は理由がある。

その金額は、
株式買取請求を撤回した時点においてY株式の現物返還は履行不能であり、株主は金銭債権を取得することになる

撤回時を基準として、その時点におけるY株式の価格相当額を返還すべき。
 
<判断>
原判決のうち、
株式交換の効力発生日後に株式買取請求の撤回があった場合に完全子会社Yは買取請求に係るY株式の価格相当額の金銭を返還する義務を負うことについては支持。
but
YがXらに支払うべき金額は、株式の返還義務が履行不能となったとき、すなわち株式交換の効力発生日を基準として、その時点におけるY株式の価格相当額を返還すべきものと解するのが相当。

Xらによる株式買取請求の撤回時でではなく本件株式交換の効力発生日に最も近く市場取引最終日のY株式の終値にXらの各持株数を乗じた金額の支払をYに命じた

株式買取請求権の撤回時を基準(原審)
vs.
①株式交換に反対して株式買取請求をした者において、株式交換の効力が発生して完全親子会社の関係が生じた後、価格決定の申立てが可能な60日間の様子を見た上で、親会社の株価が上昇傾向を示した場合には価格決定の申立てをしないで買取請求を撤回し、一方、親会社の株価が下落傾向となった場合には価格決定の申立てをして株式買取請求日の評価による買取価額を得ようとするといった対応が可能になる
②これは、会社法が株式買取請求をした者に対して合意によるかあるいは裁判所による適正買取価格の決定に従わせようとしている趣旨に反し、恣意的に利益獲得を認めることにつながり、
③株式交換に反対してこの会社から撤退しようとした者に対し、完全親子関係の創設によって生じた利益を得させることにもつながる
もので相当でない。

判例時報2338

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2017年10月11日 (水)

元市長に対する退職手当返納命令の事案

大阪地裁H28.11.2      
 
<事案>
4期12年4か月にわたってY(枚方市)の市長を務めたXが、現職警察官、ゼネコン担当者らと共謀の上、清掃工場建設工事の入札において談合を行った⇒談合罪で懲役1年6月(執行猶予3年)に処せられ、同判決が確定
⇒処分行政庁であるY市長から、市職員の退職手当に関する条例、市長等の退職手当に関する条例に基づき、2期目及び3期目に係る退職手当の返納命令を受けた⇒その取消しを求めた。
(4期目に係る退職手当については、Xが起訴後に辞職願を提出したことを受け、起訴後判決確定前に退職したときは退職手当を支給しない旨の特別措置条例が制定・施行⇒支給されていない。)

本件市長退職手当条例4条は、
「市長等の退職手当の支給方法については、一般職の職員の例による」旨規定。

本件職員退職手当条例12条の3第1項は、
退職した者に対し、一般の退職手当等を支給した後において、その者が在職期間中の行為に係る刑事事件に関し禁固以上の刑に処せられたときは、任命権者は、その支給をした一般の退職手当等の額のうち次に掲げる額を返納させることができる」旨規定。
 
<Xの主張>
①本件処分の根拠となる条例が存在しない
②本件処分のうち、2期目に関する部分は「在職期間中の行為に関し禁固以上の刑に処せられたとき」という要件を満たさない。
③本件処分は裁量権を逸脱・濫用したものである。
④返納命令の対象となるのは、現実にXに支払われた所得税及び住民税を控除した後の金額に限られる。 
 
<判断>
●主張①について 
本件職員退職手当条例12条の3第1項の文言⇒返納命令の対象となるのは一般の退職手当等に限られ、特別退職手当は対象外。
市長の退職手当は一般の退職手当である。

Xは、
①本件市長退職手当条例4条は、支給に関する規程のみを準用するにとどまり、返納に関する規定を準用していない。
②市長には任命権者が存在しない⇒本件職員退職手当条例12条の3第1項を適用することはできない
と主張。

市長と一般の職員を比較した場合、市長の方がはるかに職責が重く、また、権限も強大であることからすれば、刑事事件で禁固以上の刑に処せられた場合に、一般の職員であれば退職手当の返納が命じられるにもかかわらず、市長であれば退職手当の返納が命じられないというような制度設計をすることは想定し難い

本件職員退職手当条例、本件市長退職手当条例が本件処分の根拠となる条例にあたる
 
●主張②について 
本件退職手当条例12条の3第1項の文言

在職期間中の行為が、刑法あるいは特別刑法等が定める犯罪の構成要件に該当することが必要であり、
共謀共同正犯の場合は、共謀行為あるいは談合行為のいずれかが在職危難中に行われたと認定されることが必要。

Yが指摘するホテルでの会談について、同会談は2期目の在職期間中に行われたものであり、刑事事件の判決においても、共謀を認定する重要な間接事実として認定されているが、
①間接事実は犯罪行為の存在を推認される事実ではあるものの犯罪行為そのものではないこと、
②本件処分が、退職手当の返納という不利益処分であること
⇒その要件については厳格に解する必要がある。

間接事実が行われたことをもって、「在職期間中の行為に関し禁固以上の刑に処せられたとき」という要件を満たすということはできない。
 
●主張③について 
退職手当返納命令は羈束処分ではなく裁量処分。
Xが市長として市政に熱心に取り組み、一定の成果をあげてきたことなど、Xが主張する事情を十分に考慮しても、
①本件で問題となっているのが公務に対する信頼を大きく害する談合という行為であること、
②Xが地方公共団体の長である市長という立場にあったこと

Xの行為は重大な非違行為に当たり、裁量権の逸脱・濫用はない
 
●主張④について 
所得税の源泉徴収及び住民税の特別徴収が徴収納付の租税であり、納税義務者は、過納付があっても、原則として、直接国又は地方公共団体に対して還付を求めることはできない

返納命令の対象となるのは、Yが徴収納付義務者として控除した額を除いた部分に限られる
 
<解説>
公務員の非違行為を行った場合の退職手当の返納命令処分については、
退職手当の性格等を考慮し、
全部不支給を原則、一定の事由がある場合に例外的に一部不支給とした上で、
退職手当管理機関の裁量を認め、
社会通念上著しく妥当性を欠いた場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものして違法とならないものというべきであるとの基準で判断されることが多いと思われ、本判決も同様の基準で判断。 

判例時報2338

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2017年10月10日 (火)

肖像権侵害を理由に、経由プロバイダに対する発信者情報開示請求が認められた事例

新潟地裁H28.9.30      
 
<事案>
氏名不詳者Aは、平成27年8月、X(平成26年生まれの女性)の画像(本件画像)を添付し、ツイッターに自分の孫娘Bがいわゆる安保法制反対デモに連れて行かれ、熱中症で死亡したとの記事を投稿。
本件画像はXの父親がツイッターに投稿していたもの。

X(法定代理人である両親)は、平成27年9月、Aが本件記事を投稿するに当たって使用したアカウント(本件アカウント)にログインした際のIPアドレス(本件IPアドレス)について、仮に開示することを命じる仮処分命令を受けた。

本件IPアドレスが、いわゆる経由プロバイダであるY会社と管理組合との間でインターネットサービスプロバイダ契約が締結されたマンションにおける共有ルータのグローバルIPアドレスであることが判明。

Xは、本件記事に本件画像が添付されたことで肖像権を侵害されたと主張し、Y会社に対し、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)4条1項に基づいてAの氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの開示などを求める本件訴訟を提起。
 
<Yの主張>
①本件画像はすでにウェブサービスで公開されていた⇒肖像権を侵害しない。
②Y会社は本件IPアドレスに係る危機が設置されているマンションの名称及び住所の情報しか保有しておらず、この情報を開示してもAに対する損害賠償請求などの措置を講じることはできない。⇒Xには開示を受けるべき正当な理由はない。
として、同法4条1項1号、2号の要件に該当することを争った。
 
<判断>
Xが包括的ないし黙示的に本件画像をこのように公開することを承諾したとは考え難いし、Aにおいても容易に認識できたはず
②不法行為などの成立を阻却する存在をうかがわせる事情が認められない本件では、肖像権が侵害されたことが明らか

プロバイダ責任制限法4条1項1号の要件が認められる。 

本件アカウント、このアカウントを使用した記事から推測されるAの年齢、勤務先などを考慮すると、Y会社が保有するのは本件IPアドレスに係る機器が設置されているマンションの名称及び住所の情報だけであるが、この情報だけでもAに対する損害賠償請求権の行使のために必要

XにはY会社から開示を受けるべき正当な理由があるとみるのが相当であり、同項2号の要件も認められる。
Y会社にその開示を命令
 
<解説>
●プロバイダ責任制限法4条1項は、同項1号及び2号のいずれにも該当するときは、プロバイダなどの開示関係役務提供者に対する発信者情報の開示請求権を定めている。

立法担当者の解説:
同項1号の「権利が侵害されたことが明らかであるとき」とは、
権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせせるような事情が存在しないことまでを意味する。」
とされている。

●判例は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益があると判示(最高裁H17.11.10)。

撮影ないし公表に同意したが、その公表形態、時期、媒体についての同意の範囲、承諾の要否が争点になったものとして、
①メイクのサンプル用に撮影した女性モデルの顔写真がいわゆる出会い系サイトの広告に無断で使用された事例で女性モデルの肖像権侵害を理由とする損害賠償請求を認めた東京地裁H17.12.16
②学生時代に撮影され、雑誌掲載に同意した女性アナウンサーの水着写真が放送局に就職した後に別の雑誌に無断で掲載された事例で女性アナウンサーの肖像権侵害を理由とする損害賠償請求を認めた東京地裁H13.9.5

本件画像のようなウェブサービスで公開されていた画像についても、写真と同様、公表形態、時期、媒体いかんによっては、同意が及ばず、公表に違法性が認められる場合がある。
本判決は、自分の画像を死亡した他人の画像として記事に添付するとの公表形態に着目して、肖像権を侵害したと位置づけ。

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2017年10月 9日 (月)

中学生のいじめによる暴行についての損害賠償請求の事案

さいたま地裁越川支部H28.12.22      
 
<事案>
X1及びX1の母X2は、Y10(川越市)が設置する市立中学に在学していたY1、Y4、Y7が、同学年のX1に対し暴行を加え、遷延性意識障害を負わせた

①Y1、Y4、Y7に対し、共同不法行為に基づき、
②前記3名の親権者であるY2、Y3、Y5、Y6、Y8、Y9に対し、監督義務違反を理由として、不法行為に基づき
③Y10に対し、安全配慮義務違反を理由として、国賠法に基づき
それぞれ損害賠償を求めた。 
 
<判断> 
●上記①について
暴行に至る経緯や暴行態様等を認定。Y1、Y4、Y7の加害少年3名は、「タイマン」名下にX1に対し順次暴行を加え、場合によっては共同して暴行を加えることを合意し、かかる合意に基づいてX1に対する暴行を実行。
加害少年3名により一連の暴行とX1の傷害結果についての相当因果関係が認められ、加害少年3名は共同不法行為責任を負う。

●上記②について 
加害少年3名の生活態度、関与した事件及びこれらに対する親権者の指導状況等について認定⇒
①親権者は問題行動について指導を行っており、
②それ以上の措置をとらなければならないような切迫した状態にあったとも認められず、
③X1に対する暴行も予測し得ないものであった。
親権者らの責任を否定

●上記③について 
中学校の教員が負う注意義務
学校教育の場自体においてのみならず、これと密接に関連する生活場面においても、生徒に対して、他の生徒からもたらされる生命、身体等に危険が及ぶおそれが具体的に予見される場合には、被害発生を防止すべき注意義務(結果回避義務)を追う

①教員らは、X1が周囲の生徒から継続的なからかいの対象となっており、このことが暴力を伴う事件いまで発展していたことを認識し得、文科省の発した通知におけるいじめの定義に照らして、これがいじめに当たるものと評価し得た。
②X1と加害少年3名は、いずれも同学年の野球部員であり、学校教育の場と密接に関連する放課後や部活動終了後の帰宅までの間などの生活場面において行動を共にすることが多かった。

教員らは、前記生活場面においても、X1に対するからかいや嫌がらせが暴力を伴う事件にまで発展する事態を予見し得た。

加害少年3名によるX1に対する暴行は、冬休み期間中に学校外の公園で行われたものではあるが、部活動の後、時間を置かず、中学校に近い公園で行われた

学校教育の場と密接に関連する生活場面における事件と評価でき、
教員らにおいても予見可能であった。

教員らのとるべき措置として、いじめに関与した生徒らに対する適切な指導・監督及びX1の母であるX2への働きかけといった具体的な措置を検討した上で、教員らがこうした措置を講じることが可能であり、これによりX1に対する暴行を回避し得たにもかかわらず、教員らは前記措置をとらなかった。
⇒注意義務を怠った過失がある。


①教員らの認識してた事実を前提としてもいじめを認識できた
②X1と加害少年3名との関係等に照らし、暴行を受けるに至ったことにつき、X1、X2に考慮すべき過失があるとは認められない

Y10らの過失相殺の主張を斥けた。 

●損害について 
在宅介護において不可欠な医療機関との連携について具体的な主張立証がないなど、現段階において在宅介護の蓋然性が著しく低く、これを前提とする介護費用等の損害は相当因果関係が認められない

将来の介護費用等について、施設入所を前提とする限度でこれをみとめた。
 
<解説>
学校の教員が負う注意義務については、
学校における教育活動によって生ずるおそれのある危険から児童・生徒を保護すべき義務を負っている(最高裁)ところ、
その範囲については、学校教育活動及びこれに密接に関連する生活関係に限定されるものと解されている。。

加害少年の親権者らの監護義務違反の有無について、
未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めるときは、
監護義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立(最高裁)。

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2017年10月 8日 (日)

県立高校男子生徒がいじめにより自殺した事案

神戸地裁H28.3.30      
 
<事案>
県立高校の男子生徒Aが、同級生Y1~Y3によるいじめ行為を原因として自殺したと主張して、Aの父X1及び母X2が、
Y1らに対して不法行為に基づく損害の賠償を求めるとともに、
同校クラス担任教師Y5が、いじめ行為を発見・防止すべき義務を怠り、
同校校長Y4がY5を監督すべき義務を怠ったため、
あの自殺を防止できなかったと主張

Y1~Y5に対しては不法行為に基づき、
同校を設置するY県に対しては国賠法1条1項に基づき、
損害賠償を求めた。
 
<判断>
●世上「いじめ」といわれる行為のうち、「自分より弱い者に対して、一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手方深刻な苦痛を感じているもの」との定義に該当する場合に限り「不法行為」を構成する。 
Y1らの行為のうち一部のこういについて共同不法行為であると判断。
 
Y県は、入学許可処分によって発生する公法上の法律関係に基づく付随義務として、
信義則上、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護し、安全の確保に配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っており、
かかる義務は、教師が国賠法上負う職務上の注意義務の内容をも構成する。 

かかる法理は学校生活の場におけるいじめ行為にも妥当することを前提に、
具体的な義務の内容として、
本件いじめ行為の存在を認定することが可能であったY5は、本件いじめ行為の存在を具体的に把握して、これを防止し、適切な措置を講ずるべき注意義務(予防・発見義務)を負い、
Y4は、他の教員にいじめ防止のための適切な指導・助言を与え、生徒の生命身体の安全をはかるべき注意義務(指導・助言義務)を負っていたが、
Y5・Y4ともに各注意義務に違反。
 
Aの自殺との間の条件関係(事実的因果関係)
①Aが、本件いじめ行為を受け続ける中で、自殺以外の解決方法が思い浮かばない心理的な視野狭窄の状態に陥っていたことが推認される
②Aが抱えていた他の問題だけでは直ちに自殺を選択する原因とはなり得ない

Aの自殺は、専ら本件いじめ行為に基因するものとみることに通常人の立場から合理的な疑いを挟む余地はないとして、これを肯定。

Y5及びY4の前記各義務違反とAの自殺との事実的因果関係についても、
①本件いじめ行為の性質、態様等に照らすと、Y5が予防・発見義務を尽くしていたならば、いじめ行為を察知し、然るべき措置を講じることなどにより、Aが自殺に至らなかったであろうことを是認し得る程度の蓋然性が認められる。
②Y4の指導・助言義務が尽くされていれば、Y5も予防・発見義務を尽くしていたものとみるのが自然

いずれも肯定。
 
Aの自殺による損害との間の相当因果関係 
①Aの自殺は、本件いじめ行為の性質等に照らして特別損害に該当⇒相当因果関係を認めるためにはY1ら、Y5及びY4がAの自殺を予見し得たことが必要
本件いじめ行為の態様等のほか、Aの抱えるその他の問題等についてY1ら、Y5及びY4が知る由もなかったことなどの事情

いずれも否定。

Y1ら及びY県の負う損害賠償責任の範囲は、本件いじめ行為によって被ったAの精神的苦痛に対するものにとどまる
 

①Y県は、安全配慮義務の1内容として、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係と何らかの関連性がうかがわれる生徒の死亡事故等が発生した場合、遺族対応において、その心情等を著しく傷付けないよう配慮すべき義務(配慮義務)を負う。
②Xらが配慮義務違反であると主張した各行為のうち、Y6が著しく不適切な発言をして配慮義務に違反し、Y4は同校の行使を指導・監督すべき義務を尽くさなかった

Y県に配慮義務違反及び国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を肯定。
 

県が債務不履行に基づく損害賠償責任を負う場合であっても、国賠法1条1項に基づく損害賠償を追う場合と同様、公共団体に対し賠償義務が認められれば賠償能力に欠けるところはない⇒公務員個人はその責を負わない。 
 
<解説>
学校事故に関する最高裁昭和62.2.13:
「学校の教師は、学校における教育活動によって生ずるおそれのある危険から児童・生徒を保護すべき義務を負っている」

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2017年10月 7日 (土)

債権譲渡が信託法10条の趣旨に反する行為として無効とされた事例

広島高裁H29.3.9      
 
<事案>
訴外Aの妻の弟であり、Aと同居しているXが、Aから、AのYに対する不法行為に基づく損害賠償又は不当利得返還請求ほか多種の債権を譲り受けたとして、Yに対し、同請求権に基づく支払を求めた。
 
<規定>
信託法 第10条(訴訟信託の禁止)
信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない
 
<原審>
本件債権に基づく請求権が成立したとは認められない
⇒Xの請求を棄却。 
 
<判断>
Yは、控訴審において、Xの主張する債権譲渡は、AがXに訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであり、信託法10条の趣旨に反すると主張。

債権譲渡であっても、信託法10条の趣旨に反するものは違法であって、無効というべきである。

仮に、AからXに対する本件債権の譲渡が存在するとしても、
①AからXに対する本件債権の譲渡は別件訴訟において、Aの訴訟代理人が辞任したため、別件訴訟についてXに訴訟行為をさせる目的で始まった
②その後にされた本件債権の譲渡を見ると、債権譲渡の提訴ないし訴えの追加という訴訟行為とが時間的に接近している
③Xが債権譲渡を受ける前に、Aとの間で、反対債権の回収方法について協議をしていた事実も認め難い

AからXに対する本件債権の譲渡は、XのAに対する債権回収を目的とするものではなく、Xに訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであると認めるのが相当

Aが弁護士でないXに対する本件債権の譲渡は、XのAに対する債権回収を目的とするものではなく、Xに訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであると認めるのが相当であり、Aが弁護士でないXに本件訴訟の訴訟行為をさせることは、合理的必要性があるとは認められない。
信託法10条に反する行為と言うべきである。
 
<解説>
信託法10条は、訴訟行為をすることを主たる目的とする信託を禁止。

このような信託を認めると、濫訴のおそれ、弁護士代理の原則を潜脱するおそれがある 
同条が禁止するのは、訴訟行為を主たる目的とする信託であって、たまたま受託者として訴訟行為をさせることがあっても、それが信託の主目的でない場合は無効とはならない。

訴訟を主たる目的とするか否かは、①受託者の職業、②委託者と受託者の関係、③受託者が訴訟を提起するまでの時間的隔たり等、諸般の事情を参酌して実質的に決すべく、また行為の当時を標準として判断すべき

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2017年10月 6日 (金)

債務者が履行を求める債務の内容と債務名義に表示された債務の内容の同一性が問題なった事案

東京高裁H28.8.10      
 
<事案>
本件建物周辺に居住するXらは、本件建物が暴力団の組事務所として使用されることで、Xらの生命、身体の安全などが害される危険がある
⇒Yらに対し、平成14年に、人格権に基づき、暴力団事務所使用差止め等の仮処分を申し立て、その旨認められた。
仮処分決定の内容は、五代目傘下のA及びその他の暴力団の事務所又は連絡場所として使用してはならないこと、Yらは本件建物内を銃砲刀剣類等の保存場所に供してはならないこと等
その後、平成28年に、本件債務名義に基づき、本件間接強制申立てがされた。
 
<争点>
債務名義には五代目傘下のAに本件建物を使用させない義務を表示しているのに対し、間接強制の申立て六代目傘下のAに本件建物を使用させない義務の履行を求めるもの⇒義務の同一性が認められるか。
 
<原決定>
仮処分決定から13年以上経過し、五代目傘下のAと六代目傘下のAとが同一であるとは直ちにいえず、五代目傘下のAは四次組織であったが、六代目傘下のAは三次組織であり、両者は異なる存在。
⇒義務の内容に同一性は認められない
⇒本件建物を使用させない義務について申立てを却下 
 
<判断>
兵庫県公安委員会は、「五代目B組」の名称で代表する物を「C」とする団体について、暴対法に規定する要件を満たす暴力団と指定して官報に告示し、その後に再指定されるに当たっての指定番号に連続性がある
② 「六代目B組」の名称で代表する者を「D」とする団体の指定番号は従前と同様で、再指定も「五代目B組」の更新時期に行われている

代表する者の交替に伴い名称を変更したに止まり、団体として同一であると認められる。

四次組織が三次組織になった点については、B組内での階層的序列の問題同一性の判断を左右するものではない
⇒義務の内容の同一性を認めた。
 
<解説> 
債務名義の表示と現状との間に不一致がある場合、執行機関が解釈によって同一性について判断しなければならない。 
債務の内容として団体の表示が異なる場合において、その団体のの同一性の判断にあたっては、単に団体の名称等の外観のみに依拠するのではなく、団体に係る客観的諸事情によって連続性が肯定できるかを検討すべき。

債務の内容に疑義⇒さらに訴えを提起することが必要となる(最高裁昭和42.11.30)。

判例時報2338

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2017年10月 5日 (木)

尼崎連続不審死事件地裁判決

神戸地裁H27.11.13      
 
<事案>
被告人は、首謀者(女性)の義理のいとこであるが、首謀者Aを中心とする共同体(A一家)の一員として、Aら共犯者と共謀の上、
①Aの義妹Bの戸籍上の夫V1に対する保険金目的の殺人とその保険金の詐欺(第1)
②Aらの虐待に耐えかねて行方をくらましていたV4に対する生命身体加害略取、傷害致死(第2)
③Aらの虐待に耐えかねて行方をくらましていたV4の長女V2に対する監禁、殺人と、Aの怒りを買ったA一家の家政婦的存在であったV3に対する監禁(第3)
④A一家が財産目的で介入していた家族から預かっていた女児の胸を触ったとしてAの怒りを買ったV5に対する逮捕監禁、殺人、死体遺棄(第4)
により起訴。 
 
<争点>
①第1について、他人に自殺するよう働き掛けた場合に殺人(未遂)罪が成立するか、仮に成立するとして、被告人に殺意及び共謀が認められるか
②第2について、被告人が傷害致死の実行行為を行ったのを見たという目撃者の証言の信用性
③第3、第4について、いずれも、被害者に対する行為を殺人罪の実行行為と評価することができるか、仮にできるとして、被告人に殺意及び共謀が認められるか
 
<判断>   
いずれの点についても肯定し、被告人に殺意及び共謀が認められるとした。
 
●第1について 
自殺関与罪(自殺教唆罪)なのか、被害者を利用した殺人(未遂)なのかについて、
他人の意思決定の自由を完全に失わせるに至らない場合であっても、単なる働き掛けの域を超え、暴行や脅迫、偽計等を用いて他人を自殺する以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせた結果、その者が自殺行為に及んだ場合は、刑法199条(203条)の構成要件に該当。
被害者が崖から飛び降りて死ぬに至った経緯について詳細に検討⇒自殺する以外に選択することができない精神状態に陥らせた
 
●第2について 
①目撃証言が、捜査機関の求めに応じて被害者の頭部CT写真や診療録等の分析を求められた頭部外傷の専門家である医師の証言に裏付けられている
被告人の犯行を捜査機関に告白した経緯・状況に作為性が感じられず、被告人を陥れようとする意図がうかがわれない
証言の信用性を補強する別人(C)の証言がある

その信用性を肯定。
 
●第3、第4について、 
第3の犯行:
7月頃から被害者をベランダに置いた簡易物置の中に閉じ込める中、数か月間にわたって継続的に監禁、暴行、飲食睡眠の制限、排泄・入浴制限による不衛生等の数々の虐待を加えたことにより11月中旬頃の時点で、監禁下で虐待を継続する行為は、客観的にみて、被害者の生命を大きな危険にさらす行為
殺人罪の実行行為に該当する。

第4の犯行:
7月に前記物置に入れた被害者をビニールひもや手錠等を用いて緊縛した上で殴る蹴るなどの暴行を加え、2日以上正座を強制して飲食を制限した場合も、客観的にみて、被害者の生命を大きな危険にさらす行為
殺人罪の実行行為に該当する

被告人が、これらについて、被害者が死亡する危険性があるとは思わなかったと供述

単に他人の生死に無頓着になっていたために、自分の行為の違法性について意識を喚起できなかっただけであって、このような合理的根拠に基づかない憶測をもって殺意を否定することなどできない
 
●量刑について:
検察官は無期懲役刑の求刑。

判決:
一連の犯行によって3人が殺害され、1人が死亡させられるという極めて重大な結果。
被告人は、いずれの犯行においても、主犯であるAに匹敵するほどの重要な役割を積極的に果たした。
⇒死刑を選択する余地も含めて検討すべき。

①被告人がAに比べて従たる役割であったことは否定できない
②被告人をAと全く同列には論じられない
⇒結論的には、死刑の選択には躊躇せざるを得ないとして、求刑通り無期懲役刑。 

判例時報2337

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2017年10月 3日 (火)

千葉県青少年健全育成条例30条の規定の趣旨と保護処分可能性

東京高裁H28.6.22      
 
<事案>
少年(当時17歳)を含む5名の男子少年が、被害女性が当時18歳に満たないものであることを知りながら、同女にいわゆる野球拳を行った後、順次性的行為を行い、もって、青少年に対して、単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない性行為をした。 
 
<原決定>
少年の行為が、千葉県青少年健全育成条例20条1項(みだらな性行為等の禁止)に当たる⇒同項違反の非行事実を認定し、少年に対し、第1種少年院に送致する旨の決定。 
 
<抗告>
①本条例の解釈を誤った法令違反
②重大な事実の誤認
③処分の著しい不当 
 
<問題>
本条例30条本文は、「この条例に違反した者が青少年(=小学校就学の始期から18歳に達するまでの者をいう、本条例6条1号)であるときは、この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない。」と規定。 
家庭裁判所で保護処分の決定をする場合の「罪を犯した少年(少年法3条1項1号)」については、刑の減免自由、処罰阻却事由がある場合でも、犯罪が成立している以上、犯罪少年として審判に付することができると解されている。

本条例30条本文が、構成要件該当性や違法性を阻却する趣旨ではなく、単に処罰阻却の趣旨であれば、本条例20条1項違反の行為を行った少年に対し、同事実を非行事実として保護処分の決定をすることができる。
 
<判断>
本条例20条1項違反の行為を非行事実とする保護処分を認めた原決定を是認。

(性行為やわいせつんは行為が未成熟な青少年に与える影響の大きさ⇒このような行為から青少年を保護するという本条例20条の目的は、行為者が青少年か否かで異なるものではなく、同条が「何人も」と規定しているのはその表れ
本条例30条本文は、青少年の行為については、処罰を免除するということを規定したものであり、少年の保護、教育を目的とする保護処分に付することは可能。) 

判例時報2337

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2017年10月 2日 (月)

株式譲渡契約の価格調整条項に基づく減額・表明保証違反に基づく損害賠償責任

東京地裁H28.6.3      
 
<事案>
一般乗用・貸切旅客自動車運送事業等を営むX株式会社が、税理士Yから株式会社Aの発行済株式の全部を譲り受ける旨の契約を締結⇒株式譲渡の実行後に、その実行前におけるAの純資産の変動及び簿外債務の存在が判明⇒Yに対し、株式譲渡契約上の価格調整条項に基づく譲渡価格の減額及びYの表明保証違反に基づく損害賠償を求めた。 

<判断・解説> 
●株式譲渡契約上の価格調整条項:
基準貸借対照表における純資産額に変動が生じた場合に、それに応じて譲渡価格を増減し、事後的に清算する旨の価格調整条項
X:当該条項に基づき純資産額の減少に伴う譲渡価格の減額を主張
Y:Aの所有不動産の評価額の増加分を考慮すべきとして、純資産額の増加を主張
価格調査条項は、譲渡価格決定の基礎となる財産状況が資産された日(基準日)から実際の株式譲渡日までの間に対象会社の流動資産自体又はその評価に変動が生じる可能性があることを考慮してのもの。

不動産については、基準日から株式譲渡日までの間という比較的短期間(本件では約1ヶ月半)に評価額の変動が生じる可能性は低い⇒譲渡価格の調整に際して考慮すべき資産とはならない。

①Aの所有不動産の評価額が譲渡価格の決定に当たって当事者間で合意されていた。
②基準貸借対照表において、現金化可能な資産など評価額の変動が生じる可能性のある資産・負債の項目に徴が付されていた。

東京地裁H20.12.17:
譲渡価格の調整の基礎とされる株式譲渡実行時点の貸借対照表の確定手続が争われたものであるが、
価格調整において買収対象事業の再評価をすることは想定されていなかったこと等、当事者間の合意内容に関する詳細な事実認定
⇒基準貸借対照表における会計処理の原則を変更することは許容されない。
 
●簿外債務の存否
Yによる表明保証の内容として、基準貸借対照表が適正な会計基準に基づいて作成されており、そこに記載されていない簿外債務及び偶発債務等は存在しない旨規定。

Xは、
①Aの積立てていた事故対策費が従業員への返還義務を伴う預り金であること
②Aが基準貸借対照表に記載されていない借入債務を負っていたこと
を主張し、表明保証違反に基づく損害賠償を請求。

判決は、Xの主張を認め、簿外債務に相当する金額について、Yに損害賠償を命じた

①価格調整条項に基づく譲渡価格の減額と②表明保証違反に基づく補償請求は、実質的に重複することも少なくないところ、本判決は、そのような場合に価格調整条項による処理を行った例。

判例時報2337

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2017年10月 1日 (日)

吸入器に係る本願意匠と引用意匠の類否について類似性が否定された事例

知財高裁H28.11.30      
 
<事案>
Xは、本願意匠(物品「吸入器」)の登録出願⇒拒絶査定⇒不服の審判を請求⇒特許庁は、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であるから意匠法3条1項3号に該当するとして、不成立審判⇒Xが、同審決の取消しを求めた。
 
<規定>
意匠法 第3条(意匠登録の要件)
工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠

2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

意匠法 第24条(登録意匠の範囲等)
登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。
2 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。
 
<判断>   
本件意匠は、引用意匠と類似するとはいえず、意匠法3条1項3号に該当しない⇒本件審決の判断は誤りであるとして、審決を取り消した。
 
●量意匠に係る物品の需要者 
意匠に係る物品は、いずれも使用者が本体部を持って、マウスピース部から薬剤を吸引するための吸引器に関するものであり、その需要者は、当該薬剤を吸引する必要のある患者及び医療関係者

需要者である患者は、薬剤を必要とする際に吸入器を使用するものであって、その使用方法は、本体部を持って、マウスピース部を口にくわえて、薬剤を吸引するというものであり、両意匠に係る物品を、このような使用状況に応じて観察。

需要者である医療関係者は、患者が薬剤を適切に吸引できるよう、薬剤の性質に応じた吸引の機能を有しているか否か、患者の症状や属性に応じた使用が可能か否かという観点から、両意匠に係る物品を観察し、選択。

持ちやすさや使いやすさという観点からは、吸入器全体の基本的構成態様が需要者の注意を惹く部分であるとともに、
薬剤の吸引という吸入器の機能の観点からは、患者が薬剤を吸引するマウスピース部の端部の形態が最も強く需要者の注意を惹く部分
 
●基本的構成態様
意匠に係る物品の基本的な構成は、必然的に限定される。
基本的構成態様と同様の態様を有する吸入器がありふれたものとして存在。

基本的構成態様は、需要者である患者及び医療関係者の注意を強く惹くものとはいえない
 
●具体的構成態様 
本願意匠のマウスピース部の端部に形成された円形孔は、特に機能を重視する医療関係者に対し、強い印象を与えるものということができ、患者についても同様。
引用意匠のマウスピース部の端部のような態様の吸入部は、ありふれたもの。

本願意匠のマウスピース部の端部に円形孔が形成されている点は、最も強く需要者の注意を惹く部分。
 
●両意匠の類否 
両意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様並びに公知意匠との関係を総合すれば、
マウスピース部の端部の形態の相違は、需要者である患者及び医療関係者らの注意を強く惹き、視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響

マウスピース部の端部についての相違点は、それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではない
 
<解説>
意匠登録出願前に日本国内又は外国において、公然知られた意匠又は頒布された刊行物に記載された意匠等(「公知意匠」)に類似する意匠は、意匠登録を受けることができない(意匠法3条1項3号)。 

意匠法3条1項3号の類似性について、
最高裁昭和49.3.19において、「一般需要者の立場からみた美観の類否を問題とする」旨説示され、平成18年法律第55号により新設された意匠法24条2項には、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」と規定。

最高裁昭和49.3.19:
意匠法3条1項3号の類似性と同条2項の創作容易性とは別個の観念であるとした。

この2つは、ともに創作性の要件に関するものではあるが、
同条1項3号は、「公知意匠と構成要素において部分的差異があっても、その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠は、本質的に公知意匠に含まれるものであり、創作として未知のものと評価するに値しない」ことから、類似の意匠として登録しないこととしたもの(最判解説)。

類似性の判断主体は、需要者であると理解されているところ、かかる需要者は「当該意匠に係る物品の分野に通暁した専門家ではないが、先行意匠にもある程度の予備知識のある取引者を含めた需要者が想定されているもの」と解される。

本判決は、類似性の判断主体である需要者に着目し、その観察、選択態様を具体的に着目し、その観察、選択態様を具体的に考察して、需要者の注意を惹く部分の認定評価を行った点が特徴的。

判例時報2337

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