暴力団幹部の土地取得のための所有権移転登記等の申請が、電磁的公正証書原本不実記録罪に該当しないとされた事例
最高裁H28.12.5
<事案>
被告人が、暴力団幹部及び不動産仲介業者と共謀の上、茨木県内の土地5筆(「本件各土地」)について、真実の買主はその暴力団幹部であるのにこれを隠すため、被告人が代表取締役を務める会社を買主として売主との間で売買契約を締結した上、登記官に対し、その会社を買主とする虚偽の登記申請をして、登記簿(磁気ディスク)に不実の記録をさせ、これを備え付けさせて供用したことが、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)及び同供用罪(同法158条1項)に当たるなどとして罪責を問われた事案。
<原審>
被告人とB(暴力団員)との間の合意を重視し、この売買は買受名義人を偽装したものと見て、土地の所有権が売主らからBに移転したものと認定。
<判断>
売買契約の締結に際し当該暴力団員のためにする旨の顕名が一切なく、売主らが買主はA社であると認識していたことなど
⇒土地の所有権は売主からA社に移転したものと認定し、本件各登記が不実とはいえない。
⇒公訴事実第1及び第2については無罪。
<解説>
●不実記録罪等の保護法益は、公正証書の原本として用いられる電磁的記録に対する公共的信用。
刑法第17章の全体につき、文書に対する公共的信用性を保護法益とする。
最高裁昭和51.4.30:公文書偽造罪について、公文書に対する公共的信用を保護法益とする旨判示。
不動産登記制度は、不動産に係る物権変動を公示することにより不動産取引の安全と円滑に資するためのもの。
⇒
不実記録罪等の成否に関し、当該登記が不実の記録に当たるか否か等については、原則として当該登記が当該不動産に係る民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映しているか否かという観点から判断すべきものと解され、本判決も判断の前提としてこの点を確認。
本判決「登記実務上許容されている例外的な場合を除く」旨述べるが、その例としては、判決により中間省略登記が命ぜられた場合が挙げられる。
わが国の民法は顕名主義を採用しているところ(99条1項)、本件では被告人によってA社のためにする明らかな顕名がされており、契約の相手方である売主らもそのとおり認識⇒原審の判断は、民事実体法の観点からの事実認定として不適切。
●暴力団排除条例⇒反社会的勢力が不動産取引の当事者となることが困難になっている。
本件条例では、不動産を譲渡しようとする者等に対し、契約締結前に当該不動産を暴力団事務所の用に供するものではないことを確認することについての努力義務を課し、暴力団事務所の用に供されることを知って当該不動産の譲渡等をすることを禁止するなどの規制。
行為者において売主との関係で詐欺の実行行為と評価される挙動が認められるケースでは、詐欺罪の共犯が成立する余地もある。
判例時報2336
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