« 上場企業の巨額損失隠しに関与した経営コンサルティング会社の代表取締役らの責任(肯定) | トップページ | 予備的訴因追加を許可した原審の訴訟手続に法令違反はないが、認定において過失が否定され無罪された事例 »

2017年9月 4日 (月)

賃金規則上の定めが公序良俗に違反するとの原審の判断に違法があるとされた事例

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
Y社(上告人)に雇用され、タクシー乗務員として勤務したX(被上告人)らが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるYの賃金規則上の定めが無効であり、Yは、控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払い義務を負うと主張し、Yに対し、未払賃金等の支払を求める事案。

本件で特に問題とされているのは、本件賃金規則のうち歩合給(1)に関する定めであり、乗務員に支払われる歩合給(1)につき、次のとおり規定
対象額A(揚高(売上高)から一定額を控除し、控除後の額に一定割合を乗じたもの)-(割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の合計)+交通費)
 
<主張>
Xらは、本件規定は、歩合給の計算に当たり、対象額Aから割増金及び交通費に相当する額を控除するものとしているところ、これによれば、割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別にして、揚高(売上高)が同額である限り、時間外労働等をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は同額になる⇒このような定める労基法37条を潜脱するものであると指摘。
 
<規定>
労基法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規
定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

労基法 第13条(この法律違反の契約) 
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による
 
<争点>
①本件規定の有効性
②遅延損害金の利率
③付加金の支払を命じることの可否及び相当性
 
<原審>
本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除する部分は労基法37条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして無効⇒対象額Aから割増金に相当する額を控除することなく歩合給を計算すべき。

請求を一部認容
 
<判断>
労基法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令に具体的に定められている。

使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべき。

他方において、労基法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていない
⇒労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、
当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない
but
原審は、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労基法37条の趣旨に反し、公序良俗に反し無効であると判断するのみで、
①本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、また、
②そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく、Xらの未払賃金の請求を一部認容すべきとした。

原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、前記の点について審理を尽くさなかった違法がある。
 
<解説>   
●労基法における割増賃金制度の概要 
労基法37条は時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を規定。
その趣旨は、時間外・休日労働は通常の労働時間又は労働日に賦課された特別の労働⇒それに対して一定額の補償をさせることと、時間外労働に係る使用者の経済的負担を増加させることによって時間外・休日労働を抑制すること。

割増賃金の算定方法については、労基法37条、労基法37条1甲の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令、労働基準法施行規則19条に定められている。
割増賃金を支払うべき時間外労働とは、労基法32条又は40条に規定する労働時間(法定労働時間)を超える労働であり、休日労働とは同法35条に規定する休日(法定休日)における労働。

就業規則等に定められた所定労働時間を超える労働で法定労働時間内にとどまるもの(いわゆる法内残業)については、労基法上は割増賃金を支払う義務はなく、就業規則等に定められた法令休日以外の休日(いわゆる所定休日)についても同様。
 
●労基法37条等所定の算定方法とは異なる割増賃金の算定方法の取扱い 
労基法37条は、同法所定の割増賃金の支払いを義務付けるにとどまり、同条所定の計算方法を用いることまで義務付ける規定ではない。
使用者が労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法を採用すること自体は適法

その上で、労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法が採用されている事案においては、その算定方法に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払をされたといえるかが論じられる。

従前の最高裁判例(最高裁H6.6.13、最高裁24.3.8):
労基法37条等所定の計算方法によらずに割増賃金を算定し、これに基づいて割増賃金を支給すること自体は直ちに違法とはいえないことを前提に、
①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とした上で(「判別要件」)、そのような判別がでく場合に、
②割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として、労基法所定の計算方法により研鑽した割増賃金の額を下回らないか否かを検討して、労基法37条等に定める割増賃金の支払がされたといえるか否かを判断。

上記判例法理に沿った見当をするに当たっては、賃金規則等において支払うとされている「手当」等が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものである必要。
当該「手当」等がそのような趣旨で支払われるものと認められない場合には、そもそも割増賃金に当たるとはいえず、判別要件を充足するか否かを検討する前提を欠くことになる。
使用者の賃金規則等において通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かは、個別の賃金規則等の内容に即して判断せざるを得ない⇒一般的は判断基準を定立することは容易ではない。
but
①労基法37条等が割増賃金の算定方法を具体的に定めている
②従前の最高裁判例の判示内容

少なくとも、「基本給(歩合給)に割増賃金が含まれる。」といった抽象的な定めを置くのみでは足りず、賃金規則等に定められた計算式等により、支給された総賃金のうち割増賃金とされた金額を具体的に算定することが可能であり、かつ、その割増賃金に適用される「基礎賃金の一時間当たり金額(残業単価)」を具体的に算定することが可能であることが必要
 
● 労基法37条等は割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の支払方法が同条等に適合するか否かは客観的に判断が可能

端的に当該賃金の定めが労基法37条等に違反する否かを検討し、仮に同条に違反するのであれば、その限度で当該賃金の定めが同法13条により無効となり、労基法37条等所定の基準により割増賃金の支払義務を負うとすれば足りる。

殊更に公序良俗に違反するかいなっかを問題とする必要はない。
 
● 仮に、本件規定が労基法37条に違反するものとしてその効力が否定されると解し得る場合の法的効果?

労基法37条に違反するとしてその効力を否定⇒当該賃金規則等に定められている通常賃金と割増賃金との区別の全部又は一部が無効となると解した上で、当該賃金規則等において割増賃金とされている部分を通常賃金として取り扱う。

当該賃金規則等に定められている割増賃金を通常賃金に振り替える取り扱いをするもの。
but
労働契約の内容が労基法に違反する場合の法的効果は、同法13条により規律され、同条は、労働契約のうち同法に違反する部分のみを無効とし(強行的効力)、無効とされた部分につき、同法所定の基準を契約内容として補充するもの(直律的効力)と解されているところ、賃金規則等における割増賃金を通常賃金に振り替えるという取り扱いをすることが、この強行的効力や直律的効力によるものであると理解することができるかについては慎重な検討を要する。

労基法37条は、使用者に対し、法内時間外労働や法定外休日労働に対する割増賃金を支払う義務を課しておらず、使用者がこのような労働の対価として割増賃金を支払う義務を負うか否かは専ら労働契約の定めに委ねられている。

Xらに割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するに当たっては、Xらの時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別する必要がある。

●本判決は、賃金規則において歩合給の計算に当たり、売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがされているという事案において、そのような定めを含む賃金規定に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払がされたといえるかを検討するに当たって、そのよな定めが当然に公序良俗に違反するとして無効であるとすることができないとした事例判断。 

判例時報2335

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 上場企業の巨額損失隠しに関与した経営コンサルティング会社の代表取締役らの責任(肯定) | トップページ | 予備的訴因追加を許可した原審の訴訟手続に法令違反はないが、認定において過失が否定され無罪された事例 »

判例」カテゴリの記事

労働」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/132655/65751483

この記事へのトラックバック一覧です: 賃金規則上の定めが公序良俗に違反するとの原審の判断に違法があるとされた事例:

« 上場企業の巨額損失隠しに関与した経営コンサルティング会社の代表取締役らの責任(肯定) | トップページ | 予備的訴因追加を許可した原審の訴訟手続に法令違反はないが、認定において過失が否定され無罪された事例 »