区分所有者の、管理組合が保管する文書の閲覧・写真撮影を請求する権利(肯定)
大阪高裁H28.12.9
<事案>
控訴人らは、本件訴訟を提起し、被控訴人(管理組合で、権利能力なき社団)に対し、平成21年度以降の総会及び理事会の議事録、会計帳簿、現資料、組合員名簿の閲覧等とデジタルカメラでの写真撮影を容認するよう求めた。
<原審>
規約に定めがある請求(議事録、会計帳簿、什器備品台帳及び会員名簿の閲覧請求)を認容したが、
規約に定めがない請求(原資料の閲覧請求及び閲覧文書の写真撮影請求)を棄却。
~
控訴人らの権利は、規約以上でも以下でもないと判断
<判断>
①被控訴人は、他人(組合員)が拠出した費用をもって、当該他人が保有する不動産(マンションの敷地及び共用部分)を管理する社団⇒他人の財産に関する準委任事務の受任者と位置づけることができる。
②マンションの管理の適正化の推進に関する法律3条所定のマンション管理適正化指針は、管理組合に対し、帳票類の作成・保管および区分所有者に対する開示を義務付け、組合経理の透明性を確保するよう求めており(同指針2の4)、同指針に沿った法解釈が相当。
③一般社団法人及び一般財団法人に関する法律32条、97条、129条は、個々の社員について、社員名簿、計算書類や事業報告書の閲覧謄写請求権を有すると規定し、121条は、一定の社員について、原資料の閲覧謄写請求権まで有すると規定。社団の内部関係に関しては、社団法人に関する法律の規定が類推適用されるというのが通説。
⇒
これらを総合すれば、社団たるマンション管理組合と個々の区分所有者の間の法律関係には民法645条(受任者の報告義務を定めた規定)が類推適用される。
⇒
被控訴人に対し、
業務に関する報告義務の履行として、控訴人らに対し、規約に定めがない文書(原資料)の開示を命ずるとともに、規約に定めがない方法(写真撮影)による開示も命じ、結果的に、控訴人らの請求を全部認容。
マンション管理組合の業務内容に照らせば、一般法人法121条を類推適用する際、10分の1要件は不要。
<解説>
従来の下級審は、規約自治・団体自治を尊重し、社団構成員と社団の間の権利義務は「全て規約によって定まる」とするものが多かった。
but
①わが国の法律学の通説は、社団の内部関係については社団法人に関する法律の規定が類推適用されるとする(我妻、民法総則等)。
②今日では、社団法人の内部関係を規律する多数の規定が一般法人法において整備されている。
⇒
閲覧謄写の可否に関する紛争が生じた場合、裁判所としては、一般法人法の規定の類推適用が可能かどうかを検討すべき。
判例時報2336
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