実在の児童とCGで描かれた児童との同一性の判断(児童ポルノ法)
東京地裁H28.3.15
<事案>
被告人が、
(1)衣服の全部又は一部を着けない実在する児童の姿態が撮影された画像データを素材として描写したコンピュータグラフィクス(CG)の画像データ16点を含むCG集をパーソナルコンピュータのハードディスク内に記憶、蔵置させ、もって児童ポルノを製造し、
(2)本件CG集1及び前記同様のCGの画像データ18点を含むCG集を、インターネット通信販売サイトを通じて、不特定の者3名にダウンロードさせ、もって不特定又は多数の者に児童ポルノを提供したとして、
平成26年法律第79号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(「児童ポルノ法」)違反の罪に問われた事案。
<争点>
①本件16点を含む本件CG集1の画像データが記録されたハードディスクが児童ポルノ法2条3項の「電磁的記録に係る記録媒体」として児童ポルノに当たり得るか、また、本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たり得るか(「本争点」)
②本件CGと検察官がその基ととなったと主張する写真とが同一であるか
③本件CGの女性が実在したか
④本件CGの女性が18歳未満か
⑤児童ポルノの製造又は提供の罪が成立するためには、本件CGの基となった写真の被写体の女性が製造又は提供の時点及び児童ポルノ法の施行時点において18歳未満でなければならないか
等
<弁護人>
本争点(争点①)について、機械的な複写の場合を除いては、 実在の児童を被写体として直接描写するものでない限り、児童ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」に該当せず、前記のようなものではないCGについてはこれに当たらない。
<判断>
児童ポルノ法の目的や児童ポルノ法7条の趣旨
⇒
同法2条3項各号のいずれかに掲げられる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物については、CGの画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たり得、また、同画像データは同法7条4項後段の「電磁記録」に当たり得る。
児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨
⇒
同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい、実在しない児童の姿態は含まないものと解すべき。
CGであっても、同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物であり、かつ、そこに描写された姿態が実在の児童の姿態であると認められる場合については、児童ポルノ法の規制対象となり得る。
CGに描かれた児童と実在の児童とが同一である判断する際の基準およびその際に考慮すべき要素について、「被写体の全体的な構図、CGの作成経緯や動機、作成方法等を踏まえつつ、特に、被写体の顔立ちや、性器等(性器、肛門又は乳首)、胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において、当該CGに記録された姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき、そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については、同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべき」
<解説>
●児童ポルノ法は、2条3項において「児童ポルノ」の定義を規定。
そこにいう「児童」が実在する児童である必要があるかについては、一般に肯定(大阪高裁H12.10.24)。
絵であっても、実在する児童の姿態を描写⇒児童ポルノに該当。
当該事案で、実在の児童を描写した「児童ポルノ」といえるか否かについて、実在する児童について、その身体の大部分が描写されいている写真を想定すると、そこに描写された児童の姿態は「実在する児童の姿態」に該当し、そこで、その写真に描写されていない部分に他人の姿態を付けて合成すれば、児童ポルノに当たる場合がある(文献)。
●控訴審:
児童ポルノ提供罪についての罪数判断において、本件CG集1の提供行為と本件CG集2の提供行為とは、併合罪関係に立つとみるのが相当。
本件CG集2の提供行為の点について無罪を言い渡した。
本件CG集1のうち有罪認定したCG3点に係る児童ポルノの製造、提供の各行為については、児童の具体的な権利侵害は想定されず、違法性の高い悪質な行為とみることはできない⇒罰金刑。
判例時報2335
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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