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2017年9月20日 (水)

特許法102条2項における推定覆滅率等についての事案

東京地裁H28.12.6      
 
<事案>
①発明の名称を「遮断弁」とする特許権(X特許権1)を有し、また、発明の名称を「流体制御弁」又は「遮断弁」とする3件の各特許権(X特許権2~4)を有していたXが、遮断弁(Y製品)を販売するYに対し、
X特許権の1の侵害を理由として、Y製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、
X特許権1~4の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計2億5607万5000円(一部請求)並びに遅延損害金の支払を求めた事案(本訴)
②発明の名称を「モーター駆動双方向弁とそのシール構造」とするYと第三者との共有特許権(Y特許権)を有していたYが、遮断弁(X製品)を販売するXに対し、
Y特許権の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計5000万円(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案(反訴) 
 
<争点>
本訴請求について:
①文言侵害及び均等侵害の成否(争点(1)~(3))
②差止め・廃棄請求の必要性(争点(4))
③Xの損害額及びYの不当利得額(争点(5))

反訴請求について:
①文言侵害の成否(争点(6))
②無効理由(進歩性欠如、サポート要件違反、更正不可欠要件違反)の有無(争点(7))
③訂正の再抗弁の成否(争点(8))
④Yの損害額及びXの不当利得額(争点(9))
 
<判断>
●本訴請求に関し損害賠償金債権(遅延損害金を含む)約2億5300万円、
反訴請求に関し損害賠償金及び不当利得返還請求債権(同)合計1憶6400万円
がそれぞれ生じたと認めた上、
前記各債権はX・Y間の相殺合意によって対等額で消滅

Yに対し、前記各債権の差額である約8900万円等の支払を命じる一方、反訴請求は棄却。
 
●本訴請求について 
Y製品がX特許権1に係る文言侵害を認めたが、
X特許権2~4については文言侵害及び均等侵害のいずれも認めなかった。
差止め、廃棄の必要性については一部を除き認められる。
特許法102条2項の推定に対する覆滅割合をXが主張するとおり20%と判断し、約2億4100万円(Y製品の限界利益の8割及び弁護士費用2200万円の合計額)をX特許権1の侵害によって生じたXの損害と認定。
 
●反訴請求について 
Yの訂正発明について無効理由が存在せず、かつ、X製品がY訂正発明の技術的範囲に属するとして訂正の再抗弁を認める。
Y訂正発明に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
⇒X製品は同訂正前のY発明の技術的範囲に当然に属する
⇒訂正前発明についての無効理由の存否を判断するまでもなく、X製品はY特許権を侵害。

特許法102条2項に基づく損害額(反訴提起日から遡って3年前の日以降の分)につき、同条項の推定に対する覆滅割合をYが主張するとおり20%と判断

Y特許権が共有特許権であることによる推定覆滅について、共有者によるY特許権の実施割合は認められないことを前提に、特許法102条3項に基づく損害額の覆滅されるとした上、仮想実施両立を4%と算定し、約1億500万円(Y製品の限界利益の8割から共有者の損害額を減じた額及び弁護士費用950万円の合計額)をY特許権の侵害によって生じたYの損害と認定。
さらに、民法703条に基づくXの不当利得額(反訴提起日から遡って10年前の日から同3年前の日の前日までの分)につき、約4000万円と認定。

Yは、Y特許発明が基本特許である価値が高いのに対して、X特許発明はY特許発明の改良発明にすぎず、その技術的意義が小さいと主張。
but
本判決は、
Y製品の売上に対するX特許発明とY訂正発明の技術的意義や発明の客観的価値が相違する旨のYの上記主張は、直ちに推定覆滅率についての判断を左右するものとはいえず失当である旨判示。)
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
 
<解説>
特許法102条2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益がの額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られただろうという事情が存在する場合には2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情では、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。

この2項の推定の覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮事情としては、侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合、営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等)等が挙げられることが多い。

本判決は、同様の判断枠組及び判断要素を採用した上、
①対象発明の技術的意義及び
②侵害品の具体的構成に加えて
③侵害品の構成全体について対象発明が実施されていること、
④市場がX・Yの寡占状態で需要者にとってX製品・Y製品以外の代替品の選択肢がほぼ存在しないこと、
⑤X・Yが長年にわたり対象製品について拮抗する市場シェアを有していたこと
などを考慮

いずれも大幅な推定覆滅を認めることは相当でないとして、本訴・反訴共に20%の限度でのみ推定の覆滅を認めた。

●2項侵害に係る損害論の審理においては、しばしば、侵害者から、推定覆滅事情の主張として、対象となる特許発明の価値(技術的意義)が小さいとの主張がなされる。
but
2項は侵害者の利益額を権利者の損害額と推定するもの。

2項による推定を覆滅させるためには、侵害者において、権利者の売上減少による逸失利益の額の数量的ないし金額的な全部又は一部の不存在を基礎付けるに足りる事情、すなわち、侵害者の利益額に結びついた特許権侵害以外の要因(侵害者の資本、営業努力、宣伝広告、製造技術等)を具体的に主張・立証することが必要。

発明の技術的意義や客観的価値の大小が2項の推定覆滅の可否又は割合と直ちに結び付くものではない。
but
侵害者の利益額に結びつく当該発明以外の具体的な要因が認められた場合には、特許発明の技術的意義の大小が推定覆滅割合を判断する上での一事情として考慮されることもあり得る。

●2項については、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情については、特許発明外侵害品の一部のみに実施される部品特許の場合を除いては、
1項においてはただし書の事情として
2項については推定覆滅の事情として、
いずれも侵害者に立証責任を負わせることが相当であり、
「寄与度減額」という発想からは決別すべきである旨が指摘されている。 

判例時報2336

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