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2017年9月

2017年9月30日 (土)

学校給食の白玉団子で窒息し、脳死状態の後死亡⇒小学校職員の過失(否定)

宇都宮地裁H29.2.2      
 
<事案>
Yの設置するA小学校の給食に出された白玉汁の白玉団子を食べた小学1年生Bが、白玉団子を喉に詰まらせて窒息し、脳死状態となり、約3年後に死亡
⇒小学校職員等に白玉団子の提供方法や誤飲事故の救命措置に過失がないか否かが問題となった事案。 
 
<争点>
①大きさ直系2センチ強の白玉団子を白玉汁の形で提供したことに過失があるか
②本件事故発生後の学校の対応に過失があるか 
 
<判断>
●Bが誤嚥する具体的危険性を予見させる兆候はなかった
⇒A小学校ないし給食センターの過失はない
●教員らは、本件事故を察知してから2分ないし3分後には救急車を要請している⇒救急車の要請が遅れたとの評価はできない。

①職員らは、Bが自立できているうちは背部叩打法(=傷病者を立位又は座位にし、傷病者の上半身を前のめりにし、背後から左右の肩甲骨の真ん中辺りの背中を手掌基部で連続して叩く手法)を試み、Bがぐったりして自立できなくなってからは心臓マッサージと人工呼吸の手続を行うなどしている。
②ハイムリック法(=傷病者の後ろから両腕を回し、みぞおちの下で片手の手を握り拳にして、腹部を上方に圧迫する手法)については、15歳以下の児童の 場合、「内臓損傷、胃内容物の気管内への流入の可能性があることを念頭に入れて処置しなくてはならないとされており、職員らが当時7歳で大柄でもないBに対し、既に行っている背部叩打法のほかにハイムリック法を行うべき義務はない
⇒Yの責任を否定。
 
<解説>
学校給食は、学校に在学するすべての児童又は生徒に対し実施されるものであり、学校給食の安全性につき、安全配慮義務を学校に課している。 

責任肯定事例:
①学校給食で出されたそばを食べ、食物アレルギーで窒息死した事案
②学校給食を食べて食中毒を起こした事案

責任否定事例:
③学校給食中に食器が破損して失明した事案
④養護学校の給食時間に、摂食指導中、2度にわたり誤嚥により呼吸困難に陥り、入院を経て死亡した事案
1歳9か月の幼児がこんにゃくゼリーを食べ、喉に詰まらせて死亡した事案につき、製造販売会社の責任を否定した大阪高裁H24.5.25

判例時報2337

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2017年9月29日 (金)

福島第一原発事故により自主避難した原告の損害賠償請求

京都地裁H28.2.18      
 
<事案>
福島第一原発事故⇒
自主避難等対象区域(中間指針等に基づくもの)内の自宅から家族で自主避難した原告らが、福島第一原発を設置・運営するY(東京電力)に対し、本件事故の結果、X1らが自宅から避難せざるを得なくなった上、X1(父)が精神疾患に罹患し、X1(父)及びX2(母)は就労が出来なくなった

原賠法3条1項に基づいて、
X1は自主避難に伴う費用通院に伴う費用休業損害慰謝料等
X2は休業損害、慰謝料等
X3~X5は、慰謝料等
の損害賠償を求めた。
 
<争点>
本件事故と相当因果関係の認められるX1らの損害の範囲
①避難先で起業が奏功しなかったため更に転居したことが自主避難として合理的であり、これによってX1に生じた損害につきYが賠償責任を負うか
②自主避難を継続する合理性が認められる期間
③本件事故とX1の精神疾患の発症との相当因果関係の有無
④本件事故がX1の精神疾患の発症に寄与した度合い
⑤本件事故と相当因果関係のあるsン買いは、中間指針等により示された損害に限られるか
 
<判断>
●争点①について
X1らが当該転居の主な理由とする避難先で起業を計画したその見通しが立たなかったことについて:
①起業は自主避難者としての合理的行動とはいえない
②起業が奏功しなかった責任は本来的に当人に帰すべきものである
⇒特段の事情のない限り合理的な理由とはいえない。
③本件では同事情は認められない。

再度の転居の理由についても、合理性は認められない
 
●争点②について 
①政府の要請に基づき設置されたワーキンググループの報告書をはじめとした低線量被ばくの危険性に関する科学的知見等を根拠に、年間20mSvを下回る被ばくが健康に被害を与えるとは認められない
②同知見の内容、その周知状況、自主避難等対象区域内のX1らの自宅所在地付近の放射線量の推移、本件における主張関係等を考慮

平成24年8月31日(中間指針等に基づき、18歳以下及び妊娠していた者につき、Yが精神的損害等を賠償する対象期間の終期)以降、X1らが自主避難を続けることに合理性は求められない
 
●争点③について 
PTSDについては、
本件事故が原因で同疾患に罹患したという医師の診断書を排除。
PTSDの診断基準を満たすとは認められない
本件事故との因果関係を否定

うつ病については、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会が報告している具体的な出来事に係る心理的負荷の強度を掲げた上で、
本件事故に起因してX1は種々のストレス要因にさらされた
本件事故との因果関係を肯定
 
●争点④について 
X1のうつ病の悪化については、自主避難者の行動として合理性を欠くX1の様々な行動等に伴うストレスが相当程度寄与

民法722条2項類推適用により、うつ病に伴う損害の賠償責任を減じている
 
●争点⑤について 
中間指針等は本件事故に基づき賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものにすぎない
中間指針等の対象にならなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではない
 
<解説>
本件事故からの自主避難者によるYへの損害賠償請求を認めた初めての判決。 
自主避難中の再度の転居に自主避難としての合理性がないと判断したが、一般論を述べたものではないと理解すべき。

自主避難中に起業を選択することや、それに伴い生じた損害をYに負担させることが相当とされる事情が認められる場合は、その合理性が認めらる場合もあり得る。
but
①放射線被ばくの危険性が解消されるまでの間暫定的に非難を続けるという自主避難の性質
②起業は失敗により経済的損失を拡大するリスクを内包
③成功しても資本の回収に長時間を要することがある

避難者が起業を選択したことにより生じた損害の賠償責任をYに負わせることが相当とされる事情が認められる場合はそれほど多くないと思われる。

低線量被ばくによる危険性についての判断がただちに自主避難を継続する合理的期間を決定するのではなく、危険性が残存しているといえない場合であっても、危険性に関する情報開示が十分でない状況であれば、自主避難を続けることに合理性は認められる

自主避難継続の合理性の立証責任は自主避難者の側にあることを前提として、本件事案における主張立証状況を踏まえた上での判断

民法722条2項類推適用により寄与度減額による割合的解決。

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2017年9月28日 (木)

自己破産申立代理人の不法行為責任(財産散逸防止義務違反)

千葉地裁松戸支部H28.3.25      
 
<事案>
A社(代表取締役B)は、弁護士法人であるY1に自己破産の申立を委任し、Y1の社員であるY2が担当。
Xが破産管財人に選任された。
 
①Y2がA社の財産からBに対し役員報酬等として115万8220円を支払うなどしたこと、②破産申立ての弁護士報酬として相当金額を250万円を上回る金銭及びゴルフ預託金回収の弁護士報酬として800万円をY1に入金したことは、破産申立代理人として負うべき財産散逸防止義務に違反しており、不法行為に該当。

Xが、Y1に対しては、弁護士法30条委の30第1項、会社法600条に基づいて、
Y2に対しては、民法709条に基づいて、
それぞれ損害金合計1165万8220円の支払を求めた事案。

Y2がXに対して、XのYらに対する前記損害賠償請求の訴えの提起等が不法行為に該当すると主張して、慰謝料30万円の支払を求める訴えを提起。
 
<判断>
●債務者から破産申立てを受任した弁護士(弁護士法人)は、破産制度の趣旨に照らし、破産管財人に引き継がれるまで債務者の財産が散逸することのないよう、必要な措置を取るべき法的義務(財産散逸義務)を負い、この義務に違反して破産財団を構成すべき財産を減少・消失させたときは、不法行為を構成するものとして、破産管財人に対し、損害賠償責任を負う。

●Y2がA社の財産からBに支払うなどした115万円は、本件委任契約以降破産開始手続申立てまでのBの職務執行の対価である報酬と認めるのが相当であり、一般破産債権にすぎない取締役の報酬債権の支払は偏頗弁済に当たり、破産財団を構成すべき財産の減少を招いた

Y2がA社の財産からBに支払うなどした金銭の内前記115万円を含む115万8220円について、Y2の不法行為が成立。

●破産申立代理人が破産者から支払を受ける弁護士報酬は、破産手続においては、役務の提供と合理的均衡を失する場合、合理的均衡を失する部分の支払行為は、破産債権者の利益を害する行為として否認の対象となり、その支払を受領することは破産財団を構成すべき財産を減少させたもの

具体的な弁護士報酬の額が役務の提供と合理的均衡を失するか否かの判断は、客観的な弁護士報酬の相当額との比較において行うのが相当であり、
事件の経済的利益、事案の難易、弁護士が要した労力の程度及びその時間その他の事情を考慮し、日弁連が定めた旧日弁連報酬基準、弁護士の報酬に関する規程等も斟酌し、総合的に勘案すべき。
本件委任契約における前記諸事情を斟酌すると、本件委任契約の弁護士報酬相当額は200万円を上回ることはない⇒弁護士報酬450万円のうち200万円を超える部分は、Y2の役務の提供と合理的均衡を失する
⇒Y2がその部分をY1に入金したことについて、不法行為が成立。

●ゴルフ預託金回収の弁護士報酬相当額は、前記諸事情を斟酌すると、530万円を上回ることはない。
⇒弁護士報酬800万円のうち530万円を超える部分は、役務の提供と合理的均衡を失するものであり、Y2がその部分をY1に入金したことについて、不法行為が成立。 

●ゴルフ預託金を全額又はこれに近い金額回収することは通常容易ではなく、Y2はゴルフ預託金2100万円のうち1600万円を回収しており、破産申立て代理人としては可及的速やかに破産手続開始申立てを行うことが望ましいものの、ゴルフ預託金の回収行為が当然に財産散逸防止義務違反になるとまでは言い難い。
⇒弁護士報酬800万円全額についての不法行為の成立は認めなかった。 
 
<解説>
労働者に対する給与等は破産手続開始後は財団債権となるその支払は破産財団を構成すべき財産を減少させるものとはいえない
but
代表者の報酬は一般の破産債権にすぎない⇒その支払は他の破産債権者との関係で偏頗弁済に当たる。 

弁護士報酬の支払について否認権の行使が認められた裁判例はあるが、本件では、否認権の行使ではなく、不法行為に基づく損害賠償として請求。

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2017年9月27日 (水)

定期預金債権・定期積金債権の相続による当然の分割(否定)

最高裁H29.4.6      
 
<事案>
亡Cの共同相続人の1人であるXが、亡Cが信用金庫であるYに対して有していた普通預金債権、定期預金債権及び定期積金債権(本件預金等債権)を相続分に応じて分割取得したと主張⇒Yに対し、その法定相続分相当額の支払等を求めた
亡きCのその他の相続人であるA等がYに補助参加 
 
<原審>
本件預金等債権は当然に相続分に応じて分割される⇒Xの請求を一部認容 
 
<判断>
共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。 
 
<解説> 
●共同相続された普通預金債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものでない(最高裁H28.12.19)。

平成28年大法廷決定は、ゆうちょ銀行の定期預金債権についても同様の結論となることを判示しており、この考え方はゆうちょ銀行以外の金融機関の定期預金・定期貯金にも及ぶものと考えられていた。
一部支払が可能である旨の特約は、定期預金の基本的性質を変更するものではない。


定期積金:期限を定めて一定金額の給付を行うことを約して、定期に又は一定の期間内において数回にわたり受け入れる金銭(銀行法2条3項) 

定期積金契約とは、金融機関が、あらかじめ一定の期間を定め、一定の期日に所定の金額の掛金を受け入れ、満期時に掛金総額と給付補填金を合計した一定の金額(給付金)を給付する諾成の有償片務契約であるが、その私法的性質において預金と区別する理由に乏しいとされている。

定期積金における給付補填金は、預金の元本に相当する掛金総額に加算して給付される金額⇒経済的には預金の利子と同じ実質を有する。
相続開始と同時に当然に分割されるか(共同相続人全員の同意の有無にかかわらず遺産分割の対象となるか)という点について定期積金債権と定期預金債権と区別する理由はない。


原告が相続により取得したと主張する分割単独債権について給付を求める訴訟を提起⇒原告の請求は棄却。
(給付の訴えにおいては、自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格がある(最高裁))
この場合の請求棄却判決の既判力は、原告と他の共同相続人との準共有債権を訴訟物とする訴訟には及ばないものと解される。
(不動産について原告が所有権を有しない旨の確定判決の既判力が原告の共有持分権を訴訟物とする訴訟に及ぶのとは異なり、前訴と後訴の訴訟物の間に内包関係がない。)

原告が他の共同相続人と準共有する債権について給付を求める訴訟を提起する場合、1個の物を共有する数名の者全員が共同原告となり、共有権(その数名が共同して有する1個の所有権)に基づきその確認を求める訴訟(最高裁昭和46.10.7)と同様に、固有必要的共同訴訟となるものと解される。

●本判決は、平成28年大法廷決定の直接の射程の外にあった定期預金及び定期積金についても同じ法理が妥当することを示したもの。 

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2017年9月26日 (火)

自宅に隣接した場所に折り畳み式ゴミボックスを設置された住民の道路占有許可処分の取消しを求める原告適格(否定)

津地裁H28.12.8      
 
<事案>
自宅に隣接した場所に折り畳み式ゴミボックスを設置された住民が、本件ゴミボックス設置を許可した道路占有許可処分の取消しを求める原告適格があるのか否かが問題となった事案。 
Xが取消の理由としているのは、
①本件ゴミボックスの設置により、Xは交通上の危険にさらされており、安全な交通環境等で生活する利益を侵害された
②Xは自宅敷地の利用を制限され自宅敷地の市場価値も下落する
 
<争点>
Xに本件処分の取消しを求める原告適格があるのか否か 
 
<規定>
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
 
<判断>
道路法が道路の占有について制限を設けた趣旨及び目的は、道路の構造を保全し、交通の障害を防止することによって、広く一般的公益を保護することにあり、同規定において考慮されている利益は、一般に道路を利用する者が共通して持つ一般的な利益であり、当該道路近隣の居住者の利益の保護は、前記一般的公益の保護の結果として、反射的に実現されるにすぎない。 

道交法についても、当該道路の近隣の居住者の利益保護は、道路における危険が防止され、円滑な交通が保たれるという一般的な利益が確保される結果として、反射的に実現されるにすぎない。
以上のような道路法32条、道交法77条の各規定の趣旨及び目的、これらの規定が道路占有許可、道路使用許可を通じて保護しようとしている利益の内容及び性質を考慮
本件設置場所に隣接して居住するXの安全な交通環境等の生活上の利益及び財産権が一般的な利益以上に個別具体的な利益として保護されているとはいえない

Xの本件処分の取消しをもとめる原告適格はない
 
<解説>
行訴訟9条1項の「法律上の利益を有する者」 について、法律上保護された利益説

①処分行政庁B社に対してしたガス管の埋設を目的とする道路占有許可処分の取消訴訟で、原告的確を肯定したが請求を棄却した事案。
②墓地経営許可処分がされた土地の周辺住民のうち、違法な墓地経営に起因する周辺の衛生環境悪化により健康又は生活環境の著しい被害を直接に受けるおそれのあるものには原告適格があるとした事例。
③産業廃棄物処理施設付近に居住する住民が施設設置許可処分の取消訴訟の原告適格を肯定した事例。
④成田空港への航空機燃料輸送暫定パイプライン埋設のための道路占有許可処分をしたところ、住民からの取消訴訟について原告適格を否定した事例、
⑤道路法92条の不用物件の管理者がした使用承諾処分により営業上重大な支障を被った第三者の取消訴訟について原告適格を肯定した事例。

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2017年9月25日 (月)

精神保健指定医の指定取消処分が争われた事例

東京地裁H28.8.30      
 
<事案>
精神保健指定の指定を受け、A大学病院に神経精神科の医長として勤務していた医師である原告が、本件病院に勤務する医師が指定医の指定の申請に際して提出した虚偽の内容の書面に確認の証明文を付す指導医として署名

処分行政庁から、平成27年6月19日付で指定医の指定の取消処分を受けるとともに、
同年10月1日付で、同月15日から同年12月14日までの期間医業の停止を命ずる処分を受けた

処分行政庁の所属する国を被告として、本件指定取消処分及び本件医業停止処分がいずれも処分要件を充足せず、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用してされた違法なものであり、手続上も違法

前記各処分の取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づき、前記各処分につきそれぞれ100万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<争点>
①本件指定取消処分該当性の有無及び処分選択の適否
②本件指定取消処分の手続上の違法事由の有無
③本件医業停止処分の取消しを求める訴えの利益の有無
④本件医業停止処分の処分事該当性の有無及び処分選択の適否
⑤本件医業停止処分の手続上の違法事由の有無
 
<判断>
●争点①について
指定医の申請者への指導、ケースレポートの内容の確認が、精神保健及び精神障碍者福祉に関する法律(「精神福祉法」)19条の2の定める「職務」に当たる。

同項の「その職務に関し著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当するか否か、指定の取消し又は職務の停止のいずれの処分を選択するかは、法令上具体的な基準が定められていない


厚生労働大臣の合理的裁量に委ねられている

原告が、ケースレポートを作成する申請者に対する指導・確認を怠ったことに基づき、精神保健医としての指定を取り消したことは適法。
 
●争点②について 
聴聞の通知を受けた医師が聴聞の期日までの間に本件病院の他の医師ら等の関係者と通謀して証拠隠滅工作等を行う可能性を想定し、本件聴聞期日の2日前に同送付書を送付したことには合理的な理由があった
⇒手続的違法はない。
 
●争点③について 
処分を受けたことを理由とする不利益な取扱いを定める法令の規定がある場合に、当該者が将来において前記の不利益な取扱いの対象となる規定があるときは訴えの利益があるが、
処分を受けることを理由とする将来の処分における情状として事実上考慮される可能性があるにとどまる時は、法律上の利益があるとはいえない
⇒本件訴えは訴えの利益がなく、不適法。
 
●争点④について 
医師法7条2項の規定は、医師に同項の引用する同法4条各号の欠格事由があった場合に、厚生労働大臣が、当該医師に対し、医師免許の取消し、3年以内の医業の停止又は戒告の処分をすることができる旨を定めているところ、いかなる処分をなすかは厚生労働大臣の合理的裁量に委ねられている

原告が、ケースレポートを作成する申請者に対する指導・確認を怠ったことについて、2か月間の医業停止処分をしたことは適法。
 
●争点⑤について 
理由提示、弁明の機会の付与について手続上の違法はない。
 
<解説> 
●争点①について
精神福祉法19条の2第2項は、指定医の指定の取消し又は職務の停止に係る処分事由として、
「その職務に関し著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき」を挙げている。

平成11年の改正により、指定の取消しに加えて、期間を定めてその職務の停止を命ずることができるという規定が設けられたもの。
 
厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした処分は、それが社会観念上著しく妥当性を欠いており、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる場合でなければ違法とはならない(最高裁昭和63.7.1)。
but
平成9年6月27日の公衆衛生審議会精神保健福祉部会における「精神保健指定医の取消しについて」という資料では、
職務に関し著しく不当な行為を行ったときの例として、
主として患者の人権侵害があった場合を挙げており、行政規則の裁量基準に準じた位置づけを有していた可能性がある。

申請者がケースレポートを作成する際の指導・確認を原告が怠ったことについて、職務の停止ではなく、指定の取消しをしたことは、比例原則に照らし、やや重すぎるのではないか(いったん保険医の指定を取り消されると、5年間は再登録ができないという事情があるようである。)との見解もあり得る。
 
●争点②について 
行政手続法の定める聴聞手続(同法13条)は、処分の公正の確保と処分に至る行政手続の透明性の向上を図り、当該処分の名宛人となるべき者の権利利益の保護を図る観点から、処分の原因となる事実について、その名宛人となるべき者に対して防御の機会を保障する趣旨のもの。

同法15条1項にいう聴聞の通知から期日までの「相当な期間」は、不利益処分の内容や性質に照らして、その名宛人となるべき者が防御の機会を準備するのに必要な期間とみるのが相当であり、
同項1号及び2号所定の通知事項である「予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項」及び「不利益処分の原因となる事実」については、不利益処分の名宛人となるべき者にとって、その者の防御権の行使を妨げない程度に、行政庁がどのような事実を把握しているかを認識できる程度の具体性をもって具体的事実が記載されていることが必要

本判決は、防御の機会を与え、審議を尽くす利益よりも、証拠隠滅の防止の利益の方が優先するとし、聴聞会の2日前に通知書を発し前日に届いた措置を適法とした。
~証拠状況によっては、異なる判断もあり得たであろうし、異論もあり得る。
 
●争点③について 
処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった場合には、当該処分を受けた者がその取消しを求める訴えの利益は失われるのが原則。
but
当該者がその場合においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有するときは、その取消しを求める訴えの利益は失われない(行訴法9条1項括弧書き)。
そして、処分を受けたことを理由とする不利益な取扱いを定める法令の規定がある場合に、当該者が将来において前記の不利益な取扱いの対象となる規定があるときは訴えの利益がある
but
処分を受けることを理由とする将来の処分における情状として事実上考慮される可能性があるにとどまる時は、法律上の利益があるとはいえない(最高裁昭和55.11.25)。

精神福祉法19条の2第1項が
「指定医がその医師免許を取り消され、又は期間を定めて医業の停止を命ぜられたときは、厚生労働大臣は、その指定を取り消さなければならない」としている。

医業の停止が保険医の指定の取消事由になることが法定されている以上、処分を受けたことを理由とする不利益な取扱いを定める法令の規定がある場合に当たる可能性がありえる。
本件で、保険医の指定の取消しは医業の停止よりも前になされているため、直接の処分理由とはされていないが、不利益な取扱いを定める法令の規定自体は存在すると考えることも可能

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2017年9月24日 (日)

騒音を理由とする自衛隊航空機の運航差止訴訟

最高裁H28.12.8      
 
<事案>
海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する厚木海軍飛行場の周辺に居住するXらが、自衛隊及びアメリカ合衆国軍隊の使用する航空機の発する騒音により精神的及び身体的被害を受けている

国を相手方として、行政事件訴訟法に基づき
主位的には、厚木基地における毎日午後8時から午前8時までの間の運航等に係る差止め
予備的には、これらの運行による一定の騒音をXらの居住地に到達させないこと等を求めた事案。

予備的請求に係る訴えは、主位的請求に係る訴えと実質的に同内容のものを公法上の当事者訴訟の形式に引き直して提起。
 
<経緯>
厚木基地の周辺住民は、これまでも本件飛行場からの騒音被害を理由として、自衛隊機の運行差止め等を求める訴えを提起していたが、これらはいずれも民事訴訟として提起。

最高裁H5.2.25:
民事上の請求として自衛隊機の離着陸等の差止め及び自衛隊機の騒音の規制を求める訴えについて、
このような請求は、必然的に防衛庁長官に委ねられた自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含

行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして、(民事上の訴えとしては)不適法である旨を判示。 
 
<1審>
●自衛隊機運航差止請求に係る訴えについて:
法定抗告訴訟としての差止めの訴え(行訴訟3条7項、37条の4)にはなじまないが、
無名抗告訴訟(抗告訴訟のうち行訴法3条2項以下において個別の訴訟類型として法定されていないもの)として適法。 

防衛大臣は、毎日午後10時から午前6時まで、やむを得ないと認める場合を除き、自衛隊機を運航させてはならないとする限度で一部認容。
(予備的請求に係る訴えについては、いずれも不適法であるとして却下。)

●米軍機運航差止請求に係る訴えについて:
本件飛行場の使用許可という存在しない行政処分の差止めを求めるもの⇒不適法で却下。
予備的請求については、これを棄却し又は訴えを却下。
 
<原審>
●自衛隊機運航差止請求に係る訴えについて:
法定広告訴訟としての差止めの訴えの訴訟要件である「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる。
防衛大臣は、平成28年12月31日までの間、やむを得ない事由に基づく場合を除き、本件飛行場において、毎日午後10時から午前6時まで、自衛隊機を運航させてはならないとする限度で一部認容すべきものと判断。
(予備的請求に係る訴えについては、いずれも不適法であるとして却下。)
 
● 米軍機運航差止請求に係る訴えについては、一審と同旨。
 
<判断>
原判決中、自衛隊機運航差止請求に係る国の敗訴部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消してXらの前記請求をいずれも棄却。
(予備的請求に係る訴えのうち、原判決に前記請求の認容部分と予備的併合の関係にある部分は、いずれも不適法であるとして却下。)

米軍機に係る請求に関するXらの上告について、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除⇒これを棄却。
 
<規定>
行訴法 第3条(抗告訴訟)
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

行訴法 第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

5 差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。
 
<解説>
行訴法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があるとの要件
行訴法の平成16年改正⇒法定抗告訴訟の新たな類型として創設された差止めの訴え(行訴法3条7項、37条の4)
~処分又は裁決がされることにより「重大な損害が生ずるおそれがある場合に限り」提起することができるものとされている(行訴法37条の4第1項)。

差止めの訴えは、取消訴訟と異なり、処分等がされる前に、行政庁がその処分等をしてはならない旨を裁判所が命ずることを求める事前救済のための訴訟

そのための要件は
国民の権利利益の実効的な救済の観点を考慮するとともに、
司法と行政の役割分担の在り方を踏まえた適切なものとする必要

事前救済を求めるにふさわしい救済の必要性がある場合に限り認めるのが適当。

「重大な損害を生ずるおそれ」があるの要件の判断基準
最高裁H24.2.9:
処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、
処分がされた後に取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができものではなく
処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なもの
であることを要する。

差止めの訴えの制度創設の趣旨に沿って、事後救済の争訟方法との関係を踏まえ、差止めの訴えの適法性を基礎付ける事前救済の必要性の有無を判定する上での一般的な判断基準を示したもの。

本判決:
①本件飛行場の航空機騒音による被害の性質及び程度
②そのような被害を反復継続的に受け、蓄積していくおそれがあることによる損害の回復の困難の程度等

Xらに生ずるおそれのある損害は、事後の方法により容易に救済を受けることができるものとはいえない。

自衛隊機の運行の内容、性質を勘案しても、Xらの自衛隊機運航差止請求に係る訴えは、「重大な損害を生ずるおそれ」があるとの要件を満たす

●行訴法37条の4第5項の差止めの訴えの本案要件について

行訴法37条の4第5項は、
裁量処分に関しては、行政庁がその処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに差止めを命ずる旨を定める

個々の事案ごとの具体的な事実関係の下で、当該処分をすることが当該行政庁の裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることを差止めの本案要件とするもの。

行政裁量に対する司法審査に当たっては、法が処分を行政庁の裁量に委ねるものとした趣旨、目的、範囲は一様ではない⇒これに応じて裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法とされる場合もそれぞれ異なる⇒当該処分ごとに検討すべき。

本判決:
自衛隊機の運航に係る防衛大臣の権限の行使の内容や性質等について検討。
前記権限の行使が裁量権の範囲を超え又はその濫用と認められるか否かについては、それが防衛大臣に委ねられた広範な裁量権の行使としてされることを前提として、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるか否かという観点から審査を行うのが相当。
その検討に当たっては、当該飛行場において継続してきた自衛隊機の運航やそれによる騒音被害等に係る事実関係を踏まえた上で、当該飛行場における自衛隊機の運航の目的等に照らした公共性や公益性の有無及び程度、前記の自衛隊機の運航による騒音により周辺住民に生ずる被害の性質及び程度、当該被害を軽減するための措置の有無や内容等を総合考慮すべきものである。
前記権限の行使に関する防衛大臣の裁量が広範なものである。

防衛大臣は、我が国の防衛や公共の秩序の維持等の自衛隊に課せられた任務を確実かつ効率的に得遂行するため、自衛隊機の運航に係る権限を行使するものと認められるところ、
その権限の行使に当たっては、わが国の平和と安全、国民の生命、身体、財産等の保護に関わる内外の情勢、自衛隊機の運航の目的及び必要性の程度、同運航により周辺住民にもたらされる騒音による被害の性質及び程度等の諸般の事情を総合考慮してなされるべき高度の政策的、専門技術的な判断を要することが明らか。

前記の裁量審査に当たっては、自衛隊機の運航の公共性や公益性の有無及び程度のみならず、その騒音により周辺住民に生ずる被害の性質及び程度、被害軽減措置の有無や内容等についても総合考慮すべきもの。

自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音の発生を伴うところ、自衛隊法107条1項及び4項は、航空機の運航の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用を大幅に除外しつつ、同条5項において、防衛大臣は航空機による災害を防止し、公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならない旨を定めていることなど、自衛隊機の運航の特殊性及びこれを踏まえた関係法令の規定の趣旨を考慮。

本件飛行場において継続してきた自衛隊機の運航やそれによる騒音被害等に係る事実関係

①前記運航には高度の公共性、公益性があるものと認められる
②Xらに生ずる被害は軽視できないものの、これらの被害の軽減のため、自衛隊機の運航に係る自主規制や周辺対策事業の実施など相応の対策措置が講じられていること
等の事情を総合考慮

本件飛行場において、将来にわたり前記運航が行われることが、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認めることは困難

原判決とは異なり、前記権限行使がその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに当たるということはできない

Xらが、本件訴えと並行して、国に対し、本件飛行場の航空機騒音につき国賠法2条1項に基づく損害賠償を求める民事訴訟を提起し、同民事訴訟においては、Xらの損害賠償請求が一部に認容。
 
●小池裁判官の補足意見: 
「重大な損害を生ずるおそれ」があるとの要件判断について、
自衛隊機の離着陸に係る運航を行政処分と捉えると、離着陸に伴い処分が完結
⇒事後的に取消訴訟等による救済を得る余地は認め難い。

自衛隊機運航請求に係る本案要件の有無について:
①自衛隊機の運航に係る防衛大臣の権限の行使は、あらかじめ一定の必要性、緊急性等に関する事由によって判断の範囲等を客観的に限定することが困難な性質を有し、防衛大臣の広範な裁量に委ねられている
②自衛隊の任務を遂行する中で、前記権限行使によって国民全体に関わる利益を守ることと騒音被害の発生という不利益を回避することは、その対応と調整に困難を伴う事柄であり、具体的な対応については、関連する状況の内容、程度等に応じて様々な態様をとるべきものであること
③前記の2つの要請が作用する中で、本件飛行場において相応の被害軽減措置を講じつつ自衛隊機を運航する行為が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認めることは困難であること
を指摘。

判例時報2337

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2017年9月21日 (木)

暴力団幹部の土地取得のための所有権移転登記等の申請が、電磁的公正証書原本不実記録罪に該当しないとされた事例

最高裁H28.12.5    
 
<事案>
被告人が、暴力団幹部及び不動産仲介業者と共謀の上、茨木県内の土地5筆(「本件各土地」)について、真実の買主はその暴力団幹部であるのにこれを隠すため、被告人が代表取締役を務める会社を買主として売主との間で売買契約を締結した上、登記官に対し、その会社を買主とする虚偽の登記申請をして、登記簿(磁気ディスク)に不実の記録をさせ、これを備え付けさせて供用したことが、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)及び同供用罪(同法158条1項)に当たるなどとして罪責を問われた事案。
 
<原審>
被告人とB(暴力団員)との間の合意を重視し、この売買は買受名義人を偽装したものと見て、土地の所有権が売主らからBに移転したものと認定。 
 
<判断>
売買契約の締結に際し当該暴力団員のためにする旨の顕名が一切なく、売主らが買主はA社であると認識していたことなど
土地の所有権は売主からA社に移転したものと認定し、本件各登記が不実とはいえない
公訴事実第1及び第2については無罪
 
<解説> 
●不実記録罪等の保護法益は、公正証書の原本として用いられる電磁的記録に対する公共的信用。 
刑法第17章の全体につき、文書に対する公共的信用性を保護法益とする。

最高裁昭和51.4.30:公文書偽造罪について、公文書に対する公共的信用を保護法益とする旨判示。
不動産登記制度は、不動産に係る物権変動を公示することにより不動産取引の安全と円滑に資するためのもの。

不実記録罪等の成否に関し、当該登記が不実の記録に当たるか否か等については、原則として当該登記が当該不動産に係る民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映しているか否かという観点から判断すべきものと解され、本判決も判断の前提としてこの点を確認。

本判決「登記実務上許容されている例外的な場合を除く」旨述べるが、その例としては、判決により中間省略登記が命ぜられた場合が挙げられる。

わが国の民法は顕名主義を採用しているところ(99条1項)、本件では被告人によってA社のためにする明らかな顕名がされており、契約の相手方である売主らもそのとおり認識⇒原審の判断は、民事実体法の観点からの事実認定として不適切
 
●暴力団排除条例⇒反社会的勢力が不動産取引の当事者となることが困難になっている。
本件条例では、不動産を譲渡しようとする者等に対し、契約締結前に当該不動産を暴力団事務所の用に供するものではないことを確認することについての努力義務を課し、暴力団事務所の用に供されることを知って当該不動産の譲渡等をすることを禁止するなどの規制。

行為者において売主との関係で詐欺の実行行為と評価される挙動が認められるケースでは、詐欺罪の共犯が成立する余地もある。

判例時報2336

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2017年9月20日 (水)

特許法102条2項における推定覆滅率等についての事案

東京地裁H28.12.6      
 
<事案>
①発明の名称を「遮断弁」とする特許権(X特許権1)を有し、また、発明の名称を「流体制御弁」又は「遮断弁」とする3件の各特許権(X特許権2~4)を有していたXが、遮断弁(Y製品)を販売するYに対し、
X特許権の1の侵害を理由として、Y製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、
X特許権1~4の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計2億5607万5000円(一部請求)並びに遅延損害金の支払を求めた事案(本訴)
②発明の名称を「モーター駆動双方向弁とそのシール構造」とするYと第三者との共有特許権(Y特許権)を有していたYが、遮断弁(X製品)を販売するXに対し、
Y特許権の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計5000万円(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案(反訴) 
 
<争点>
本訴請求について:
①文言侵害及び均等侵害の成否(争点(1)~(3))
②差止め・廃棄請求の必要性(争点(4))
③Xの損害額及びYの不当利得額(争点(5))

反訴請求について:
①文言侵害の成否(争点(6))
②無効理由(進歩性欠如、サポート要件違反、更正不可欠要件違反)の有無(争点(7))
③訂正の再抗弁の成否(争点(8))
④Yの損害額及びXの不当利得額(争点(9))
 
<判断>
●本訴請求に関し損害賠償金債権(遅延損害金を含む)約2億5300万円、
反訴請求に関し損害賠償金及び不当利得返還請求債権(同)合計1憶6400万円
がそれぞれ生じたと認めた上、
前記各債権はX・Y間の相殺合意によって対等額で消滅

Yに対し、前記各債権の差額である約8900万円等の支払を命じる一方、反訴請求は棄却。
 
●本訴請求について 
Y製品がX特許権1に係る文言侵害を認めたが、
X特許権2~4については文言侵害及び均等侵害のいずれも認めなかった。
差止め、廃棄の必要性については一部を除き認められる。
特許法102条2項の推定に対する覆滅割合をXが主張するとおり20%と判断し、約2億4100万円(Y製品の限界利益の8割及び弁護士費用2200万円の合計額)をX特許権1の侵害によって生じたXの損害と認定。
 
●反訴請求について 
Yの訂正発明について無効理由が存在せず、かつ、X製品がY訂正発明の技術的範囲に属するとして訂正の再抗弁を認める。
Y訂正発明に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
⇒X製品は同訂正前のY発明の技術的範囲に当然に属する
⇒訂正前発明についての無効理由の存否を判断するまでもなく、X製品はY特許権を侵害。

特許法102条2項に基づく損害額(反訴提起日から遡って3年前の日以降の分)につき、同条項の推定に対する覆滅割合をYが主張するとおり20%と判断

Y特許権が共有特許権であることによる推定覆滅について、共有者によるY特許権の実施割合は認められないことを前提に、特許法102条3項に基づく損害額の覆滅されるとした上、仮想実施両立を4%と算定し、約1億500万円(Y製品の限界利益の8割から共有者の損害額を減じた額及び弁護士費用950万円の合計額)をY特許権の侵害によって生じたYの損害と認定。
さらに、民法703条に基づくXの不当利得額(反訴提起日から遡って10年前の日から同3年前の日の前日までの分)につき、約4000万円と認定。

Yは、Y特許発明が基本特許である価値が高いのに対して、X特許発明はY特許発明の改良発明にすぎず、その技術的意義が小さいと主張。
but
本判決は、
Y製品の売上に対するX特許発明とY訂正発明の技術的意義や発明の客観的価値が相違する旨のYの上記主張は、直ちに推定覆滅率についての判断を左右するものとはいえず失当である旨判示。)
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
 
<解説>
特許法102条2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益がの額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られただろうという事情が存在する場合には2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情では、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。

この2項の推定の覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮事情としては、侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合、営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等)等が挙げられることが多い。

本判決は、同様の判断枠組及び判断要素を採用した上、
①対象発明の技術的意義及び
②侵害品の具体的構成に加えて
③侵害品の構成全体について対象発明が実施されていること、
④市場がX・Yの寡占状態で需要者にとってX製品・Y製品以外の代替品の選択肢がほぼ存在しないこと、
⑤X・Yが長年にわたり対象製品について拮抗する市場シェアを有していたこと
などを考慮

いずれも大幅な推定覆滅を認めることは相当でないとして、本訴・反訴共に20%の限度でのみ推定の覆滅を認めた。

●2項侵害に係る損害論の審理においては、しばしば、侵害者から、推定覆滅事情の主張として、対象となる特許発明の価値(技術的意義)が小さいとの主張がなされる。
but
2項は侵害者の利益額を権利者の損害額と推定するもの。

2項による推定を覆滅させるためには、侵害者において、権利者の売上減少による逸失利益の額の数量的ないし金額的な全部又は一部の不存在を基礎付けるに足りる事情、すなわち、侵害者の利益額に結びついた特許権侵害以外の要因(侵害者の資本、営業努力、宣伝広告、製造技術等)を具体的に主張・立証することが必要。

発明の技術的意義や客観的価値の大小が2項の推定覆滅の可否又は割合と直ちに結び付くものではない。
but
侵害者の利益額に結びつく当該発明以外の具体的な要因が認められた場合には、特許発明の技術的意義の大小が推定覆滅割合を判断する上での一事情として考慮されることもあり得る。

●2項については、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情については、特許発明外侵害品の一部のみに実施される部品特許の場合を除いては、
1項においてはただし書の事情として
2項については推定覆滅の事情として、
いずれも侵害者に立証責任を負わせることが相当であり、
「寄与度減額」という発想からは決別すべきである旨が指摘されている。 

判例時報2336

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2017年9月19日 (火)

硬式野球部の部活動中の事故について、顧問兼監督教諭の注意義務違反が認められた事例

静岡地裁H28.5.13      
 
<事案>
高等学校の硬式野球部の部活動において、打撃投手を務めていた原告が、その右側頭部に、打者が打ち返したボール(硬球)が直撃した事故(本件事故)により後遺障害が残存⇒被告に対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求。 
 
<争点>
①本件野球部の顧問兼監督を努めていたA教諭の職務行為の違法性(過失による職務上の義務違反)
②本件事故による原告の損害
③過失相殺の要否 
 
<判断>
●争点①(A教諭の職務行為の違法性の有無)
高等学校における部活動を指導、監督する者として、A教諭は、部活動を行う生徒の生命及び身体の安全に配慮する義務に基づき、打撃投手を務める生徒に対し、一般財団法人製品安全協会によるSGマークが付けられている投手用ヘッドギアを着用するよう指導すべき職務上の注意義務を負っていた。
本件高校には投手用ヘッドギアが存在しており、A教諭も部活動に立ち会っていたにもかかわらず、原告に対し、投手用ヘッドギアを着用するよう指導を行っていなかった
A教諭の職務行為には違法性が認められる
 
●争点②(本件事故による原告の損害) 
◎ 当事者間で争われたの:
①将来の治療費、②後遺障害逸失利益、③後遺障害慰謝料
本件事故により、てんかん発作が起きる可能性のある脳波異常残存(「鋭波」の混入)等が残存したものの、「棘波」の混入は見られなかった

①学校の管理下における生徒等の災害に関して適用される独立行政法人日本スポーツ振興センター障害等級認定の基準に関する規程(平成15年度規程第7号)の定める障害等級第12級の13は、「発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの」には該当しないが、鋭波であっても、てんかん発作を引き起こす可能性を否定できない
②本件事故による後遺障害の存在を認めた上、その程度に関し、再度頭部につい衝撃が生じることは避ける必要があり、てんかん発作が発現する可能性も残っていることから、ある程度職業選択に制限が生じると認められること
③現在の原告の生活状況等を総合考慮

規程の定める障害等級14級の9等の「局部に神経症状を残すもの」と同等のものであると認めるのが相当。

◎ 原告の損害について、公益財団法人日本高等学校野球連盟(高野連)が保険契約者として加入している普通傷害保険契約の保険会社及び独立行政法人日本スポーツ振興センターから原告に対し、合計90万7687円が支払われていた
⇒これらの既払金の充当方法が争われた。

前記保険会社から支払われた金員は、いずれも損害費目との結びつきが明確
原告と被告との間において、損害の発生時に遡って損害賠償債務のうち当該損害費目の元本に充当するとの黙示の合意が存在するものと認めるのが相当
⇒元本への充当を認めた。

前記充当の合意により消滅する損害賠償債務の元本に対する遅延損害金の扱いについて:
不法行為責任に関し、不法行為時に全損害が発生してこれに対する遅延損害金も発生すると観念するのは、簡明、迅速な損害賠償の処理等を目的とする一種の擬制にとどまる

保険金等が通常必要かつ相当な期間内に支払われた本件においては、当事者の意思に鑑み、損害の発生と同時に支払がなされたものとして、被害者には当該保険金額に相当する元本に対する遅延損害金は発生していないと解することができる
 
●争点③(過失相殺の要否) 
被告:本件事故の当時、原告の前にはL字型ネットが設置されていた⇒原告は、投球後に同ネットに頭部を隠すことで本件事故を回避することができたとして、3割の過失相殺を主張。

①投手用ヘッドギアは、打撃投手を務める者と打者との距離及び打球の速さに鑑み、L字型ネットだけでは当該打撃投手が打球を避けられない場合があることなどから高野連がその着用を義務付けたもの
②本件の打撃練習が、ハーフバッティングという打撃投手と打者の距離が公式ルールで定められた距離よりも短いものであり、打者の打球が打撃投手の頭部に当たる可能性が一層高かった。

A教諭の過失は重大であったとして、損害の衡平な分担という見地から、過失相殺を認めることは相当でないと判断。

判例時報2336

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2017年9月18日 (月)

訴状送達が無効とされた事例

仙台高裁秋田支部H29.2.1      
 
<事案>
交通事故により傷害を負わせたXが被害者であるYに対し、損害賠償債務が66万8580円を超えて存在しないことの確認を求めた事案。 
 
<原審>
Yが、原審口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかった⇒Yにおいて請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなし、Xの請求を認容。 
 
<判断>
①Yは、本件事故当時山形県A市に居住していたが、平成27年、東京都内で稼働するようになり、これに伴い東京都に転居したが、住民登録上の住所については転出届けを出していない。
②Xは、平成28年3月22日、原審に本件訴訟を提起。
原審の裁判所書記官は、同月29日と4月11日、本件訴状副本及び第1回口頭弁論期日呼出状等を山形県A市のY住所に宛てて特別送達による交付送達を試みたが、送達は奏功せず。
担当書記官は、Xの訴訟代理人に対し、Yの就業場所及び所在の裏付け調査を行うよう指示⇒YがA市に居住していることを確認
④担当書記官は、Yに対し、民訴法107条1項1号に基づき、本件訴状副本及び第1回口頭弁論期日呼出状等をA市のY住居に宛てて書留郵便に付して送達するとともに、民訴規則44条の通知。
⑤原審は、Xの請求を認容する判決
⇒調書判決正本をA市の住居に宛てて書留郵便に付して送達するとともに、民訴規則44条の通知。

書留郵便による送達は、その発送時において、その送達場所が送達者の住居所でなければならなず、かつ、その住居所については、受送達者が現にそこに居住又は現在しているなどの実態を伴うものであることを要する
②本件訴え提起時及びそれ以降におけるA市の住居は、もはや実体を伴うものであたっとは言えない。

担当書記官がした本件訴状副本及び第1回口頭弁論期日呼出状並びに調書判決正本の書留郵便に付する送達は、発送時において、Yの住居所でない宛先を送達場所として行われたことになり、いずれもその効力を有しない

原判決を取り消し、本件第1審裁判所に差し戻した。
 
<規定>
民訴法 第107条(書留郵便等に付する送達)
前条の規定により送達をすることができない場合には、裁判所書記官は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場所にあてて、書類を書留郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第六項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項に規定する特定信書便事業者の提供する同条第二項に規定する信書便の役務のうち書留郵便に準ずるものとして最高裁判所規則で定めるもの(次項及び第三項において「書留郵便等」という。)に付して発送することができる。

民訴規則 第44条(書留郵便に付する送達の通知・法第百七条)
法第百七条(書留郵便に付する送達)第一項又は第二項の規定による書留郵便に付する送達をしたときは、裁判所書記官は、その旨及び当該書類について書留郵便に付して発送した時に送達があったものとみなされることを送達を受けた者に通知しなければならない。
 
<解説>
送達は、交付送達、出会送達によるものを原則とするが、補充送達及び差置送達により送達することができない場合には、書留郵便等に付して送達することができる(民訴法107条)。
その送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所においてすべきものであり、その要件は厳格に解すべきであり、発送時における受送達者の住所、居所等に発送することが必要(伊藤等)。

受送達者の住所、居所が本来の住所、居所と異なっている⇒その効力が否定。
発送後に住所等を変更⇒送達の効力に影響がない。

判例時報2336

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2017年9月17日 (日)

市の、地縁による団体に対する、役員を交代するまで当該地域における投資的事業を休止することが違法とは認められなかった事例

広島高裁岡山支部H29.2.2      
 
<事案>
X:地方公共団体Yに属する特定の地域の住民全員で構成する地方自治法260条の2第1項所定の地縁による団体。
Yは、Xを、当該地域の住民との窓口としていた。 
 
<原審>
本件指導が行政指導か否かはともかく、Yの投資的事業の実施権限を背景としてXに役員交代等を事実上強制してその自治権を侵害したものであり、Xの構成員にだけYの投資的事業による恩恵を享受させない差別をしたもの

Xに対し、非財産的損害等の賠償義務がある
 
<判断>
本件通知は、全体として読めば、Xを当該地域の住民との窓口をしているYが、当該地域におけるYの投資的事業を円滑に実施するため、Xに対し、Xの役員交代等を求めた行為⇒行政指導である。

Xの役員は、当該地域の住民全員の総意によって選任され、Yの行う施策の説明等の相手方としてYの職員と対応⇒Xの役員の前記行為は、Xの組織的な行為

当該地域とその周辺では、Xの役員の前記行為により、行政施策の円滑な実施を不当に妨げられる状況があった⇒Yにおいて、その事情を考慮し、当該阻害要因が解消するまでの期間を目安として、当該地域における一部の投資的事業を一時的に休止することは、Yの投資的事業の実施に係る裁量権の範囲内にあるもの。

これがXが行政指導に従わないことを契機としてされたものであり、それによってXに不利益が生じたとしても、その不利益は、行政手続条例の禁止する「不利益な取扱い」には当たらない
国賠法上の違法性があるとは認めなかった
 
<規定>
行政手続法 第32条(行政指導の一般原則) 
行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない
 
<解説>
●本件通知がXに役員交代等を求める行為⇒行政指導。
行政指導が国賠法の「公権力の行使」に該当することは、多くの裁判例が認めるところ。
その違法性の判断基準も、平成5年の行政手続法の制定及び各地方公共団体の行政手続条例の制定によって、相当明確になっている。

●行政手続法32条2項は、行政指導に携わる者は、その相手方が、行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないと規定。
「不利益な取扱い」とは、同法1項が、行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであると規定していることを受けて、これを否定するような不当なもの、すなわち、
制裁的な意図をもって行う行為や、相手方の任意性を損なうものをいい、不利益効果のある行為一般をいうわけではない(塩野等)。

各地方公共団体の行政手続条例においても、同様に解される。

市がマンションを建築しようとする事業主に対して指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた行為が違法な公権力の行使に当たるとした最高裁H5.2.18。

●行政指導の適法性が問題となった事例は許認可等の権限と関連するものが多いのに対し、本件はいわゆる行政対象暴力を背景にして、地方公共団体のに広範な裁量権がある投資的事業の実施権限と、当該地域の住民全員で構成する地縁による団体の自治権が問題となった事例

判例時報2336

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2017年9月16日 (土)

市庁舎前広場の使用許可申請に対する不許可処分の適法性(適法)

名古屋高裁金沢支部H29.1.25      
 
<事案>
金沢市庁舎前広場における開催が計画されていた「軍事パレードの中止を求める集会」の参加予定者であったXらが、金沢市長による本件集会開催の許可申請に対する平成26年5月14日付け不許可処分は違憲・違法な処分であり、他の集会場所を用意するための費用の支出を余儀なくされた
⇒Y(金沢市)に対して、国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求。 
 
<原審>
本件不許可処分は違憲・違法とはいえない⇒Xらの請求を棄却 
 
<判断>
①本件広場とは別に金沢市庁舎建物への出入用通路が存在することが認められるが、これらは独立した構造を持つものではなく、むしろ本件広場と出入用通路が一体となって金沢市庁舎建物への来庁者の通行に利用されることが予定されたと認められる
②Yは、一貫して市庁舎と本件広場を一体として管理してきた
③本件集会は、自衛隊市中パレードという特定の具体的な行動に対し、これに反対して中止を求める旨の集会⇒本件広場で本件集会が開かれた場合にはYの事業に支障が生じないものと認めることはできない
それ以外は原審と同じ。

控訴棄却
 
<解説>
本件広場は地方自治法244条にいう公の施設に当たる
⇒管理者は、正当な理由がない限り、その利用を拒んではならず(同条2項)、また、その利用について不当な差別的扱いをしてはならない(同条3項)とされている。

前記の「正当な理由」とは、使用料を支払わない場合、利用者が施設の定員を超える場合、利用者に著しく迷惑を及ぼす危険が明白な場合が、これに当たるとされている。

公の施設の利用については、地方公共団体において条例を制定し、「庁舎等の管理上支障がある場合、(地方公共団体の)事業の執行が妨げられる恐れがある場合」には許可しないとされている。

皇居外苑の使用不許可の適否が争われた最高裁昭和28.12.23:
集会の用に共される公の施設の管理権者は、当該施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正に管理権を行使すべきであって、管理権の行使を誤り、ために実質上表現の自由等を侵害したと認められうるに至った場合には、違憲の問題が生じうる旨判示。

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2017年9月13日 (水)

破産管財人の破産債権者への通知の確認・催告義務違反(否定)

大阪高裁H28.11.17      
 
<事案>
A社(破産会社)を破産者とする破産手続(本件破産手続)の破産債権者であったXが、本件破産 手続の破産管財人であったYに対し、破産管財人には破産債権者に対し破産債権届出期間及び破産債権調査期日の通知が適切にされているかを確認し、破産債権届出を催促すべき義務があったところ、Yがこれを怠った
⇒破産法85条2項に基づき、Xが得られたであろう配当額502万円余の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。
 
<争点>
Xが主張する確認・催告義務を破産管財人が負っているか。 
 
<判断>
知れている破産債権者に対して破産債権届出期間等の通知を行う義務を負うのは破産裁判所⇒破産管財人が破産規則7条により通知に関する補助的な事務を取り扱うとしても、通知事務そのものに関して法的義務を負っていない
②破産管財人が、破産債権者に対して、自らは直接担当しない破産債権者に対する通知を破産裁判所が適切に行ったか否か確認すべき義務があることを根拠付ける規定等は見当たらない
③京都地裁と京都弁護士会が協議の上で作成したマニュアルには、未届出破産債権者に対し、破産債権届出を催促がすることが定められているが、本件マニュアルは運用を定めたものであり、それと異なる運用をした場合に、直ちに破産管財人の善管注意義務違反を問われる法的性格のものとはいえない
④本件破産手続において、破産裁判所が破産管財人Yに対し、債権届出をしていない未届出破産債権者に対して債権届出を催促することを求めた事実はなく、本件マニュアルの記載が破産手続において一般的な扱いであたっとはいえない

破産管財人の義務を否定。 
 
<解説>
破産管財人の職務執行は広範な裁量にゆだねられている
善管注意義務に違反するかどうかは、破産管財人の具体的な行為の態様に加え、事案の規模や特殊性、早期処理の要請の程度に照らして個別に判断される。

最高裁H18.12.21の調査官解説で、谷口調査官は、破産管財人の善管注意義務の内容について、破産管財人が、「法令に明確に定めがある事項や、明らかに解釈が固まっている事項について、独自の見解に基づいて職務を遂行して利害関係人に訴なぎを与えた場合等には免責されないが、その処理につき学生・判例が固まっていない分野について破産管財人の措置が結果的に違法な職務行為であると判断されたとしても、直ちに善管注意義務に違反するものと評価することはできない」としてる。

判例時報2336

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2017年9月12日 (火)

区分所有者の、管理組合が保管する文書の閲覧・写真撮影を請求する権利(肯定)

大阪高裁H28.12.9 

<事案>
控訴人らは、本件訴訟を提起し、被控訴人(管理組合で、権利能力なき社団)に対し、平成21年度以降の総会及び理事会の議事録、会計帳簿、現資料、組合員名簿の閲覧等とデジタルカメラでの写真撮影を容認するよう求めた。 

<原審>
規約に定めがある請求(議事録、会計帳簿、什器備品台帳及び会員名簿の閲覧請求)を認容したが、
規約に定めがない請求(原資料の閲覧請求及び閲覧文書の写真撮影請求)を棄却。

控訴人らの権利は、規約以上でも以下でもないと判断 

<判断>
①被控訴人は、他人(組合員)が拠出した費用をもって、当該他人が保有する不動産(マンションの敷地及び共用部分)を管理する社団他人の財産に関する準委任事務の受任者と位置づけることができる。
マンションの管理の適正化の推進に関する法律3条所定のマンション管理適正化指針は、管理組合に対し、帳票類の作成・保管および区分所有者に対する開示を義務付け、組合経理の透明性を確保するよう求めており(同指針2の4)、同指針に沿った法解釈が相当
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律32条、97条、129条は、個々の社員について、社員名簿、計算書類や事業報告書の閲覧謄写請求権を有すると規定し、121条は、一定の社員について、原資料の閲覧謄写請求権まで有すると規定。社団の内部関係に関しては、社団法人に関する法律の規定が類推適用されるというのが通説

これらを総合すれば、社団たるマンション管理組合と個々の区分所有者の間の法律関係には民法645条(受任者の報告義務を定めた規定)が類推適用される。

被控訴人に対し、
業務に関する報告義務の履行として、控訴人らに対し、規約に定めがない文書(原資料)の開示を命ずるとともに、規約に定めがない方法(写真撮影)による開示も命じ、結果的に、控訴人らの請求を全部認容。
マンション管理組合の業務内容に照らせば、一般法人法121条を類推適用する際、10分の1要件は不要。

<解説>
従来の下級審は、規約自治・団体自治を尊重し、社団構成員と社団の間の権利義務は「全て規約によって定まる」とするものが多かった。
but
①わが国の法律学の通説は、社団の内部関係については社団法人に関する法律の規定が類推適用されるとする(我妻、民法総則等)。
②今日では、社団法人の内部関係を規律する多数の規定が一般法人法において整備されている。

閲覧謄写の可否に関する紛争が生じた場合、裁判所としては、一般法人法の規定の類推適用が可能かどうかを検討すべき

判例時報2336

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2017年9月11日 (月)

私道の用に供されている宅地の相続税における財産評価での減額の要否等

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
共同相続人であるXらが、相続財産である土地の一部につき、財産評価基本通達(「評価通達」)の24に定める私道の用に供されている宅地(「私道供用宅地」)として相続税の申告⇒相模原税務署長から、これを貸家建付地として評価すべきであるとしてそれぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分
⇒Yを相手に、本件各処分(更正処分については申告額を超える部分)の取消しを求める事案 
 
<一審・原審>
一般の通行の用に供している私道は、特段の事情のない限り、これを廃止して通常の宅地地して利用することが可能
⇒評価通達24にいう私道とはその利用に道路内の建築制限や私道の変更等の制限などのような制約があるものを指すと解するのが相当。 

本件各歩道状空地は、建築基準等の法令上の制約がある土地ではなく、また、市からの要綱等に基づく指導によって設置されたことをもって制約と評価する余地があるとしても、これは被相続人の選択の結果であり、Xらが利用形態を変更することにより通常の宅地と同様に利用できる潜在的可能性と価値を有する
⇒私道供用宅地に該当するとはいえない。
⇒Xらの請求をいずれも棄却。
 
<判断>
私道の用に供されている宅地の相続税に係る財産の評価における減額の要否及び程度は、
私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず、当該宅地の位置関係、形状等や道路としての利用状況、これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、
当該宅地の客観的交換価値に低下が認められるか否か、また、その低下がどの程度かを考慮して決定
する必要がある。

本件を原審に差し戻した。
 
<規定>
相続税法 第22条(評価の原則)
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
 
<解説>
●相続税法22条の規定と私道の意義等 
相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を規定(=時価主義を採用)
相続税における「取得の時」とは被相続人の死亡の時であり、「時価」とは課税時期における当該財産の客観的な交換価値をいう(最高裁)。

不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額を意味する。

「私道」:
一般的には、「私人がその所有権に基づき維持管理している道路」又は「私物たる道路」と定義。

「道路」:
一般に広く人の通行の用に供されている物的施設をさし、道路法上の道路とそれ以外の道路(農道等の公道と私道)に大別され
歩道とは、歩行者が通行するための道路。
 
●財産評価基本通達24の定め等について 
相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、その客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではない
⇒国税庁によって相続税・贈与税及び地価税に共通の財産評価に関する基本通達として評価通達が定められている。

評価通達24は、「私道の用に供されている宅地」(私道供用宅地)と規定するのみであり、その逐条解説は、
①不特定多数の者の通行の用に供するいわゆる通抜け道路
②袋小路のように専ら特定の者の通行の用に供するいわゆる行き止まり道路
に分類
①⇒私道の価額を評価せず
②⇒路線価等の100分の30として評価
ただし、
所有者の通路としてのみ使用されている私道は、敷地部分と併せて路線価等としての評価を行い、私道としての評価は行わないとしている。
 
●相続税法22条の時価評価と不動産鑑定評価等について 
評価通達は法令ではなく、個別の財産の評価はその価額に影響を与えるあらゆる事情を考慮して行われるべきもの

財産の評価が評価通達と異なる基準で行わたとしても直ちに違法となるものではない。
(下級審裁判例は、評価通達の定める評価方法は一般的に合理性を有するものとして課税実務上も定着している同通達によって評価することが相当でないと認められる特段の事情がない限り、同通達に規定された評価方法によって画一的に評価するのを相当とするものが多い。)

本件で検討されるべき問題は私道の相続税法22条における時価評価
ここでの時価は、不動産の鑑定評価における正常価格と基本的には同一の概念である(地価公示法2条参照)。

不動産鑑定士による土地評価の統一基準である不動産鑑定評価基準には、私道に関する独自の評価基準は存在しない。
but
私道については、、不動産鑑定評価基準に基づく鑑定評価等において、建築基準法等の法令上の制約の有無に加えて、道路としての利用状況、他の用途への転用の難易の程度等を踏まえて減額評価しているように思われる。
 
●私道の用に供されている宅地の相続税法22条の財産評価について 
私道の用に供されている宅地の財産評価において一定の減額が認められるのは、当該財産の使用、収益又は処分に一定の制約が存在することによって宅地としての最有効使用を実現することができないことにあると解されるところ、
本判決は、このような理解を前提として、
当該宅地が第三者の通行の用に供され、所有者が自己の意思によって自由に使用、収益又は処分をすることに制約が存在することにより、その客観的交換価値が低下する場合に、そのような制約のない宅地と比較して、相続税に係る財産の評価において減額されるべきであると判示。

本件各歩道状空地は、
①車道に沿って幅員2mの歩道としてインターロッキング舗装が施されたもので相応の面積がある上に、本件各共同住宅の居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されていることがうかがわれる
②本件各共同住宅を建築する際、都市計画法所定の開発行為の許可を受けるために、市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されるに至ったもの

本件各共同住宅が存在する限りにおいて、Xらが道路以外の用途へ転用することが容易であるとは認め難い

本件各共同住宅の建築のための開発行為が被相続人による選択の結果であるとしても、直ちに本件各歩道状空地について減額して評価をする必要がないとはいえない

判例時報2336

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2017年9月 7日 (木)

実在の児童とCGで描かれた児童との同一性の判断(児童ポルノ法)

東京地裁H28.3.15      
 
<事案>
被告人が、
(1)衣服の全部又は一部を着けない実在する児童の姿態が撮影された画像データを素材として描写したコンピュータグラフィクス(CG)の画像データ16点を含むCG集をパーソナルコンピュータのハードディスク内に記憶、蔵置させ、もって児童ポルノを製造し、
(2)本件CG集1及び前記同様のCGの画像データ18点を含むCG集を、インターネット通信販売サイトを通じて、不特定の者3名にダウンロードさせ、もって不特定又は多数の者に児童ポルノを提供したとして、
平成26年法律第79号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(「児童ポルノ法」)違反の罪に問われた事案。
 
<争点>
①本件16点を含む本件CG集1の画像データが記録されたハードディスクが児童ポルノ法2条3項の「電磁的記録に係る記録媒体」として児童ポルノに当たり得るか、また、本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たり得るか(「本争点」)
②本件CGと検察官がその基ととなったと主張する写真とが同一であるか
③本件CGの女性が実在したか
④本件CGの女性が18歳未満か
⑤児童ポルノの製造又は提供の罪が成立するためには、本件CGの基となった写真の被写体の女性が製造又は提供の時点及び児童ポルノ法の施行時点において18歳未満でなければならないか

 
<弁護人>
本争点(争点①)について、機械的な複写の場合を除いては、 実在の児童を被写体として直接描写するものでない限り、児童ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」に該当せず、前記のようなものではないCGについてはこれに当たらない。
 
<判断>
児童ポルノ法の目的や児童ポルノ法7条の趣旨

同法2条3項各号のいずれかに掲げられる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物については、CGの画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たり得、また、同画像データは同法7条4項後段の「電磁記録」に当たり得る

児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨

同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい実在しない児童の姿態は含まないものと解すべき。

CGであっても、同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物であり、かつ、そこに描写された姿態が実在の児童の姿態であると認められる場合については、児童ポルノ法の規制対象となり得る

CGに描かれた児童と実在の児童とが同一である判断する際の基準およびその際に考慮すべき要素について、「被写体の全体的な構図、CGの作成経緯や動機、作成方法等を踏まえつつ、特に、被写体の顔立ちや、性器等(性器、肛門又は乳首)、胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において、当該CGに記録された姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき、そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については、同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべき」
 
<解説>
●児童ポルノ法は、2条3項において「児童ポルノ」の定義を規定。
そこにいう「児童」が実在する児童である必要があるかについては、一般に肯定(大阪高裁H12.10.24)。
絵であっても、実在する児童の姿態を描写⇒児童ポルノに該当

当該事案で、実在の児童を描写した「児童ポルノ」といえるか否かについて、実在する児童について、その身体の大部分が描写されいている写真を想定すると、そこに描写された児童の姿態は「実在する児童の姿態」に該当し、そこで、その写真に描写されていない部分に他人の姿態を付けて合成すれば、児童ポルノに当たる場合がある(文献)。
 
●控訴審:
児童ポルノ提供罪についての罪数判断において、本件CG集1の提供行為と本件CG集2の提供行為とは、併合罪関係に立つとみるのが相当。
本件CG集2の提供行為の点について無罪を言い渡した。
本件CG集1のうち有罪認定したCG3点に係る児童ポルノの製造、提供の各行為については、児童の具体的な権利侵害は想定されず、違法性の高い悪質な行為とみることはできない⇒罰金刑

判例時報2335

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2017年9月 5日 (火)

予備的訴因追加を許可した原審の訴訟手続に法令違反はないが、認定において過失が否定され無罪された事例

高松高裁H28.7.21      
 
<事案>
被告人運転の普通乗用自動車が民家のブロック塀に衝突し、同乗していた夫が死亡。 

検察官:
起訴状において、被告人が、
「ブレーキペダルと間違えて不用意にアクセルペダルを踏み込んだ過失」と主張

原審弁護人及び被告人:
約750メートル手前から被告人車両のフットブレーキが利かなくなったため衝突に至ったとして過失を争った。

原審検察官は、起訴から約2年後の原審最終時に、
「自車の制動機能が悪化してブレーキペダルを踏み込んでも制動効果が得られない状態にあったから、サイドブレーキを掛けるなどして自車を停止させて運転を中止すべき注意義務に反して運転を継続した過失」とする予備的訴因の追加を請求。

原審弁護人は損変更の不許可を求めたが、原審裁判所はこれを許可し、追加訴因に関して被告人質問を行った後、直ちに結審。
 
<原審>
被告人車両にペーパーロック現象(ブレーキディスク等が高温となってブレーキ液が沸騰して気泡が発生し、それがブレーキパイプ等に入ることで、ブレーキの制動圧力が伝わらなくなる現象)が生じていた可能性は排除できない⇒フットブレーキが利かなくなったという被告人供述を排斥することができない⇒本位的訴因の過失を否定。 

適切にサイドブレーキをかけるなどの対処法をとっていれば、衝突地点までに停止させることは可能であった⇒予備的訴因の過失を認め、有罪
 
<判断>
●訴訟手続きの法令違反 
本件予備的訴因の追加請求は、起訴から2年後の原審の弁論終結直前になされたものであり、予備的訴因に係る争点は従前の攻撃防御の成果を利用できないもの。
but
①審理が長期化した点はやむを得ない面があった
②予備的訴因の内容自体は予想されたものであった
③検察官が新たな立証を求めず、審理の長期化を招いていない

同追加請求が著しく時機に後れ、また検察官の訴訟上の権利の濫用に当たる違法なものであるとはいえないとして、これを許可した原審の訴訟手続は違法ではない
 
●事実誤認の論旨
サイドブレーキを掛ける操作操作によって停止し得たかについて十分な証明がない、
フットブレーキが利かなくなった状態で、そのような操作を義務付けることができるかについても証明がない
③「サイドブレーキを掛けるなどして」と認定しているが、サイドブレーキ以外の具体的な方法は示されていない

予備的訴因の過失を認めた原判決には事実誤認がある

原判決の認定:
フットブレーキが利かなくなった場合には、サイドブレーキなどで制動を試みるべきであるという常識的な判断と、予備的訴因の追加前に証言した検察権請求の専門家証人が、サイドブレーキを引くことによって停止させると証言したことに基づくもの。

サイドブレーキによるによる制動機能の程度常識レベルで判断できることではなく、同証人の停止可能であるという証言も、フットブレーキに異常はなかったという証言に加えて、簡単に答えたものにすぎず、証拠価値が吟味されていない
②同証人は、サイドブレーキをぎゅっと引くとスピンをする可能性があるので、余裕があれば、少しずつ引くのがよいと証言しているが、それによれば、単純に、自損事故の危険を冒しても、一挙にサイドブレーキを掛けるべきであるという注意義務を課すことはできないし、被告人の供述等に照らせば、少しずつ引くような余裕のある状況であったかについても疑問がある。

原判決の認定は論理則、経験則等に反するものである。

本判決は、フットブレーキが突然利かなくなったという緊急事態において、一般の自動車運転者にどの程度の結果回避義務を課すことができるのかについても、検討すべき課題がある。

本位的訴因についての原判断を支持。

いずれについても犯罪の証明がないとし、無罪。

●最後に差戻しの要否を検討し、
①原審検察官は、予備的訴因の追加後に何らの証拠調べも請求しておらず、
②予備的訴因の追加及び立証について十分に検討する機会があった

更に被告人に手続的な負担を負わせて、証拠調べをする必要はないとして、無罪の自判をしている。 
 
<解説>
●第一審又は控訴審における訴因変更請求が当該審級において訴訟上の権利の濫用等の理由で不許可とされた事例や、第1審における不許可を是認した事例はあるが、原審における訴因変更の許可を違法とした高裁及び最高裁判例は見当たらない。 

訴因変更の請求については、公訴事実の同一性がある限り許可すべき(刑訴法312条1項)とされており、被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞がある場合は、必要な期間公判手続を停止することとされている(同条4項)。

第一審裁判所における訴因変更の許可が訴訟手続の法令違反とされる場合は相当に限られる

●本件のように、単純一罪の事実に関する本位的・予備的訴因について攻防対象論が問題となった事案につき、最高裁H1.5.1は、同一の被害者に対する同一の交通事故に係る業務上過失傷害事件で本位的訴因と予備的訴因が構成された場合において、予備的訴因を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴したからといって、検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念して、本位的訴因が当事者間の攻撃防御の対象から外れたとみる余地はない。

最高裁H25.3.5
本位的訴因とされた賭博開帳図利の共同正犯は認定できないが、予備的訴因とされた同幇助犯は認定できるとした第一審判決に対し、検察官が控訴の申立てをしなかった場合に、控訴審が職権により本位的訴因について調査を加えて有罪の自判をすることは、職権の発動として許される限度を超え、違法である。

最高裁調査官解説:
最高裁25年決定は、第一審判決に対して検察官が控訴の申立てをしなかった時点で、「検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念したとみるべきかどうか」という観点から本位的訴因が当事者間の攻撃防御の対象から外れるかどうかを判断しているようにうかがえる。
平成元年については、過失の態様についての証拠関係上、本位的訴因と予備的訴因が構成され、訴因構成に当たって検察官の訴追裁量が働く場面ではないから、検察官が控訴しなかったとしても、本位的訴因の訴訟追行を断念したとみつことはできないと分析。

大阪高裁H16.10.15:
窃盗の本位的訴因を認めず、盗品等保管の予備的訴因を認めた第一審判決に対し、被告人のみが控訴した事案において、予備的訴因の認定を事実誤認として原判決を破棄した上、自判するに当たり本位的訴因も判断の対象となるとして、同訴因により有罪としている。

判例時報2335

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2017年9月 4日 (月)

賃金規則上の定めが公序良俗に違反するとの原審の判断に違法があるとされた事例

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
Y社(上告人)に雇用され、タクシー乗務員として勤務したX(被上告人)らが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるYの賃金規則上の定めが無効であり、Yは、控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払い義務を負うと主張し、Yに対し、未払賃金等の支払を求める事案。

本件で特に問題とされているのは、本件賃金規則のうち歩合給(1)に関する定めであり、乗務員に支払われる歩合給(1)につき、次のとおり規定
対象額A(揚高(売上高)から一定額を控除し、控除後の額に一定割合を乗じたもの)-(割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の合計)+交通費)
 
<主張>
Xらは、本件規定は、歩合給の計算に当たり、対象額Aから割増金及び交通費に相当する額を控除するものとしているところ、これによれば、割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別にして、揚高(売上高)が同額である限り、時間外労働等をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は同額になる⇒このような定める労基法37条を潜脱するものであると指摘。
 
<規定>
労基法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規
定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

労基法 第13条(この法律違反の契約) 
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による
 
<争点>
①本件規定の有効性
②遅延損害金の利率
③付加金の支払を命じることの可否及び相当性
 
<原審>
本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除する部分は労基法37条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして無効⇒対象額Aから割増金に相当する額を控除することなく歩合給を計算すべき。

請求を一部認容
 
<判断>
労基法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令に具体的に定められている。

使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべき。

他方において、労基法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていない
⇒労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、
当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない
but
原審は、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労基法37条の趣旨に反し、公序良俗に反し無効であると判断するのみで、
①本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、また、
②そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく、Xらの未払賃金の請求を一部認容すべきとした。

原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、前記の点について審理を尽くさなかった違法がある。
 
<解説>   
●労基法における割増賃金制度の概要 
労基法37条は時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を規定。
その趣旨は、時間外・休日労働は通常の労働時間又は労働日に賦課された特別の労働⇒それに対して一定額の補償をさせることと、時間外労働に係る使用者の経済的負担を増加させることによって時間外・休日労働を抑制すること。

割増賃金の算定方法については、労基法37条、労基法37条1甲の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令、労働基準法施行規則19条に定められている。
割増賃金を支払うべき時間外労働とは、労基法32条又は40条に規定する労働時間(法定労働時間)を超える労働であり、休日労働とは同法35条に規定する休日(法定休日)における労働。

就業規則等に定められた所定労働時間を超える労働で法定労働時間内にとどまるもの(いわゆる法内残業)については、労基法上は割増賃金を支払う義務はなく、就業規則等に定められた法令休日以外の休日(いわゆる所定休日)についても同様。
 
●労基法37条等所定の算定方法とは異なる割増賃金の算定方法の取扱い 
労基法37条は、同法所定の割増賃金の支払いを義務付けるにとどまり、同条所定の計算方法を用いることまで義務付ける規定ではない。
使用者が労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法を採用すること自体は適法

その上で、労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法が採用されている事案においては、その算定方法に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払をされたといえるかが論じられる。

従前の最高裁判例(最高裁H6.6.13、最高裁24.3.8):
労基法37条等所定の計算方法によらずに割増賃金を算定し、これに基づいて割増賃金を支給すること自体は直ちに違法とはいえないことを前提に、
①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とした上で(「判別要件」)、そのような判別がでく場合に、
②割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として、労基法所定の計算方法により研鑽した割増賃金の額を下回らないか否かを検討して、労基法37条等に定める割増賃金の支払がされたといえるか否かを判断。

上記判例法理に沿った見当をするに当たっては、賃金規則等において支払うとされている「手当」等が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものである必要。
当該「手当」等がそのような趣旨で支払われるものと認められない場合には、そもそも割増賃金に当たるとはいえず、判別要件を充足するか否かを検討する前提を欠くことになる。
使用者の賃金規則等において通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かは、個別の賃金規則等の内容に即して判断せざるを得ない⇒一般的は判断基準を定立することは容易ではない。
but
①労基法37条等が割増賃金の算定方法を具体的に定めている
②従前の最高裁判例の判示内容

少なくとも、「基本給(歩合給)に割増賃金が含まれる。」といった抽象的な定めを置くのみでは足りず、賃金規則等に定められた計算式等により、支給された総賃金のうち割増賃金とされた金額を具体的に算定することが可能であり、かつ、その割増賃金に適用される「基礎賃金の一時間当たり金額(残業単価)」を具体的に算定することが可能であることが必要
 
● 労基法37条等は割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の支払方法が同条等に適合するか否かは客観的に判断が可能

端的に当該賃金の定めが労基法37条等に違反する否かを検討し、仮に同条に違反するのであれば、その限度で当該賃金の定めが同法13条により無効となり、労基法37条等所定の基準により割増賃金の支払義務を負うとすれば足りる。

殊更に公序良俗に違反するかいなっかを問題とする必要はない。
 
● 仮に、本件規定が労基法37条に違反するものとしてその効力が否定されると解し得る場合の法的効果?

労基法37条に違反するとしてその効力を否定⇒当該賃金規則等に定められている通常賃金と割増賃金との区別の全部又は一部が無効となると解した上で、当該賃金規則等において割増賃金とされている部分を通常賃金として取り扱う。

当該賃金規則等に定められている割増賃金を通常賃金に振り替える取り扱いをするもの。
but
労働契約の内容が労基法に違反する場合の法的効果は、同法13条により規律され、同条は、労働契約のうち同法に違反する部分のみを無効とし(強行的効力)、無効とされた部分につき、同法所定の基準を契約内容として補充するもの(直律的効力)と解されているところ、賃金規則等における割増賃金を通常賃金に振り替えるという取り扱いをすることが、この強行的効力や直律的効力によるものであると理解することができるかについては慎重な検討を要する。

労基法37条は、使用者に対し、法内時間外労働や法定外休日労働に対する割増賃金を支払う義務を課しておらず、使用者がこのような労働の対価として割増賃金を支払う義務を負うか否かは専ら労働契約の定めに委ねられている。

Xらに割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するに当たっては、Xらの時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別する必要がある。

●本判決は、賃金規則において歩合給の計算に当たり、売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがされているという事案において、そのような定めを含む賃金規定に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払がされたといえるかを検討するに当たって、そのよな定めが当然に公序良俗に違反するとして無効であるとすることができないとした事例判断。 

判例時報2335

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2017年9月 3日 (日)

上場企業の巨額損失隠しに関与した経営コンサルティング会社の代表取締役らの責任(肯定)

東京地裁H28.3.31      
 
<事案>
光学機器の製造販売等を業とする上場企業Xが、以前証券会社でXの営業担当を務め、その後経営コンサルティング等を主たる業務とするD社を設立してその代表取締役となったY1及びY1の元部下であり、Y1と共にD社を設立してその取締役に就任したY2が、Xの経理・財務部門等に所属していたZ1らと共謀の上、Xの金融資産に発生していた巨額のの運用損失を連結決算の対象とならない海外の投資ファンド(「簿外ファンド」)に移して当該損失を隠匿し、その後当該簿外損失を解消するため、Yらが設立するなどしたいわゆるベンチャー企業3社(「新事業3社」)の株式を不当に高い価格でXに買い取らせるなどし、Xにおいて架空ののれんの計上とその償却などを内容とする違法な会計処理を行わせた⇒Yらに対し不法行為に基づく損害賠償を請求

主位的に、新事業3社の株式の取得原価と購入価格の差額約572億円並びにXが有価証券報告書虚偽記載の罪により有罪判決を受けて支払った罰金7億円相当額及び虚偽記載のある四半期報告書を提出したことにより納付した課徴金1986万円相当額の合計額の一部請求として5億円の支払いを求め、

予備的に、右簿外ファンド管理手数料として支払われた費用等合計額約117億円並びに右罰金及び課徴金相当額の合計額の一部請求として5億円の支払いを求めた。
 
<事実関係>
X社においては、平成8年頃までに、金融資産の運用による含み損が約900億円にまで拡大。
Z1らは、海外に簿外ファンドを組成し、Xやその子会社が保有する特金等の資産の中から国債等を貸し付け、簿外ファンドにおいてこれを売却し、その資金をもってXの含み損を抱える金融資産を簿価で買い取らせた
その後、企業会計原則の見直しによる時価評価主義採用の動き⇒特金等の計画的解消が求められる状況に。
but
国債等を簿外ファンドに貸し付けたままの状態では特金等の残高を減らすことができず、また多額の含み損を抱えた金融資産の存在が露見してしまうおそれ。
Z1は、簿外ファンドに新たな資金を供給して国債等を買い戻す方法を模索

Z1らは、国債等買戻しのため
①平成10年3月、X及び子会社名義で外国銀行に口座を開き、口座内の資産に簿外ファンドを債務者とする根担保権を設定して、同口座内資産を担保に簿外ファンドが外国銀行から融資を受けるようにし、
②平成12年3月、新たにケイマン諸島に事業投資ファンドを組成してX等が出資し、同出資金の一部を債券購入代金として簿外ファンドに送金し、
③右外国銀行に新たなファンドを組成してもらってX及び子会社がこれに出資し、同月、同出資金の一部を、Z1らがケイマン諸島に新たに組成した複数のファンドを経由して、簿外ファンドに債券購入代金として送金するという、一連の操作を行った。

これらの操作を通じて簿外ファンドに流れた資金によって、簿外ファンドは特金等から借りていた国債等を買い戻してX及び子会社に返還し、これによってZ1らは特金等を解消して、Xの巨額の簿外損失の発覚を免れた。
右含み損を抱えたXの金融資産が簿外ファンドに付け替えられたままでは、簿外ファインドが債務超過の状態となり、将来Xの損失隠しが発覚しかねなかった上、簿外ファンドの維持費用もかさむ一方

平成16年4月から平成20年3月にかけて、簿外ファンドの新事業3社の株式を取得させ、X及びZ1らが組成した別のファンドがそれらの株式を本来の価値より高い金額で買い取り(ファンドが買い取った株式は、その後どうファンドの解散に伴いXが現物で取得した。)この売買によって簿外ファンドが代金として受領した多額の金を用いて簿外ファンドがXの金融資産を購入した際に行った借入を等を返済して債務超過状態を解消。

Xは、本来の価値に比べて極めて高い金額で購入した新事業3社の株式について、平成20年3月期の連結貸借対照表に約545億円ののれんを計上(これによりXの簿外損失が計数上解消されたことから、簿外ファンドは全て解散した)。
 
<判断>
以上の事実を認定した上で、
Z1らによる右一連の行為はXに対する不法行為に当たるところ

Yらは、前記①ないし③の一連の資金移動等の目的がXの損失隠匿することにあることを認識しながら、平成10年3月頃、前記外国銀行の東京駐在所長をZ1らに紹介したほか、ファンドの組成・運営や資金移動に関与し、また、新事業3社に対する投資の目的がXの簿外損失を解消することにあることを認識して、平成17年頃、Z1らに新事業3社を紹介し、新事業3社の株式取得等に関与


YらはZ1らの不法行為を幇助したというべきであるから、民法719条2項に基づき、共同行為者とみなし、Xに生じた損害を賠償すべき責任がある。

Yらは、共同行為者として、Xが支払った罰金7億円及び課徴金1986万円の全額について、Z1らと連帯して賠償責任を負う⇒Xの主位的請求(一部請求5億円)を認容。

主位的請求のうち新事業3社の株式の取得原価と購入価格の差額の賠償請求については、含み損を抱えていたXの金融資産を簿価で簿外ファンドに購入させて損失を移転していたものを、新事業3社の株式を実際の価値よりも高い代金で購入することによってふたたび含み損をXに戻した

実質的にはX内部の資金移動にすぎず、Xの損害には当たらない

判例時報2335

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2017年9月 2日 (土)

民法910条の価額請求についての事案

東京地裁H28.10.28      
 
<事案>
被相続人亡Aの相続開始後、
死後認知によって相続人となった原告X1、X2が、
被相続人の配偶者であって、既に被相続人の遺産分割をしていた被告Yに対し、
主位的に価額請求をし、
予備的に不当利得返還請求を求めた事案。
 
<規定>
民法 第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する
 
<Yの主張>
価額請求は審判事項
民法910条に基づく価額請求は、被相続人には子Bがいて、Yの相続分に影響がない⇒本件訴えの相手方とはならない。
不当利得返還請求について法律上の原因を欠くことはない。
 
<判断>
①遺産分割後、被認知者が行う価額請求は訴訟事項
②被認知者が被相続人の子で、被認知者以外に被相続人の子がいる場合には、被相続人の配偶者に対しては、価額請求をすることができず
③否認知者が価額請求をすることはできない場合には、不当利得返還請求をすることもできない。 
 
<解説>   
●価額請求の法的性質 
A:相続回復請求権の一種であるとして訴訟事項
B:分割方法が価額請求に限定された遺産分割請求の一種
通説・裁判例:審判事項とする明文規定がない⇒訴訟事項説
本判決:
家事事件手続き法39条は別表第1及び第2において家事審判事項を列挙していると解されているところ、価額請求は掲げられていない⇒民事訴訟の手続によるべき⇒訴訟事項説。
 
●被認知者以外に被相続人の子がいる場合に、被相続人の配偶者を相手方として、価額請求できるか?
通説:被相続人の配偶者は、別系列の相続人だから、被認知者の出現によりその相続分に影響を受けない⇒価額請求の相手方にならない。 
 
●不当利得返還請求の可否
民法910条は、なされた遺産分割の効果を覆すものではなく、これを有効とした上で、価額請求を認めたもの
Yが遺産を取得したのは有効な遺産分割協議に基づくもの

法律上の原因を欠くものとはいえない

判例時報2335

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2017年9月 1日 (金)

大学の教員の成績評価権等が問題となった事案

大阪高裁H28.3.22      
 
<事案>
Xは大学の教授。 
Xは、Aについて、卒業研究の単位を与えることができないと判断。

本件学部の学部長であるYは、平成25年2月13日、Xが所属する本件学科の教員らで構成される教室会議に対し、Aを卒業させる方向で検討させるよう伝えた(本件諮問)
これを受けて、同月15日、臨時の教室会議が開催され、Aの指導担当教員をXから他の教員に変更することが決議された。Yは、同月20日、Aの指導担当教員をXからBに変更する旨決定し(本件措置)、同年3月4日、本件学部の教授会においてAの指導担当教員をXからBに変更した旨を報告。
 
<争点>
①本件諮問及び本件措置の違法性
②名誉毀損の有無
③Xの損害及び名誉回復処分の要否 
 
<原審>
大学教員が成績評価を行う権利又は利益は、大学における教授の自由と密接な関係を有する
but
成績評価を行うこと専門の研究結果を教授することの不可欠な内容をなすとまではいえず、教授に伴って付随的に生じるもの
教授の自由とは保障の程度が異なる。 

学校法人学生との在学契約上、適切な教育を行う義務を負い、組織体として自主的な秩序維持の権能も認められる必要がある

成績評価を行う権利又は利益は、当該教員の学生に対する指導状況や、当該学部が秩序維持の権能を行使する必要性等から合理的な制約に服する

違法性の有無は、Yの人事権の行使に逸脱、濫用が認められるかどうかで判断すべき

本件事実関係の下では、本件措置には必要性があり、目的は不当ではなく、本件措置によりXが受けた不利益は甚だしいとはいえず、本件措置の必要性や理由につき、Xに必ずしも十分な説明がなかったとしても、教室会議で意見を述べる機会は保障されていた
Yによる人事権の行使に逸脱、濫用はないとして、本件諮問とともに違法ではない

<判断>
原審と同じ枠組みを採用した上、本件措置の前提として、XのAに対するハラスメントの可能性が否定できない状況にあったことや、Xに代わってAの指導担当となったBが行った成績評価の内容、本件諮問を受けた教育会議の審議状況等を補足して、本件措置や本件諮問が不当ではなく、かえって相当であった旨判示して、控訴を棄却。 
 
<解説>
大学における指導担当教員と学生との関係において、セクハラやパワハラなど、いわゆるアカデミックハラスメント(アカハラ)が問題となった事案で、本件と同様の枠組みを採用したものとして、大学教員を、必須科目の講義担当から外し、その研究室に学部4年生を配属せず、学科会議や専攻会議に出席させない措置を採ったことについて、
大学が有する人事権・業務命令権の行使としての職務命令権に基づくものであるが、大学教員の権利を制限する観点からこれを正当とするだけの合理的理由が必要であるとしつつ、人事権の濫用とは認められないとした裁判例。(東京地裁H24.5.31) 

成績評価権が問題となった事案として、大学教員が、論文を提出しなくても単位を認定するなど、単位認定基準を変更したことに関し、学部長から、学生への説明文を用意して事前に見せるよう不当な要求をを受けたとして損害賠償を求めた事案において、
成績評価権は、教育の自由から派生したものではあるが、学部の有する単位認定権限や秩序維持権限などによって合理的な制約を受けるものであって、学部長の要請に違法性はないとした裁判例。(東京高裁H22.1.21)

判例時報2335

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