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2017年8月23日 (水)

高浜原発差止仮処分命令申立事件

大阪高裁H29.3.28    

高浜原発差止仮処分命令申立事件
 
<事案>
大津地裁が平成28年3月9日に関西電力の設置にかかる高浜原子力発電所3号機、4号機について運転を禁止する仮処分を発令⇒同年7月12日に関西電力がした保全異議申立ても退けた関西電力が大阪高裁に申し立てた保全抗告に対する決定。 
 
<原決定>
債権者住民らの、「本件原発は、地震や津波に対する安全対策、原子力災害対策等が不十分であり、運転を継続した場合、過酷事故を起こして債権者らの人格権を侵害する具体的危険がある」旨の主張を認めた。 
 
<本決定>
本件原発の安全性が欠如していることの疎明があるとはいえない
⇒保全異議審決定及び原決定を取り消し、本件仮処分申立てを却下
。 
 
<解説> 
●原発周辺住民が原発の運転差止めを目的として提起する訴訟
①設置運転許可の取消し等を求める行政訴訟
②運転の差止めを求める民事訴訟ないし民事仮処分申立て
 
●原発に求められる安全性 
本決定:
(1)「絶対的安全性」を求めることはできず、「相対的安全性」に止まる
(2)安全性の程度は格段に高度なものでなければならず被害発生の危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理されていることが必要
(3)原発の有用性、必要性の高低によって求められる安全性の程度は左右されない
(4)新規制基準に適合した原発は原則として原発に求められる安全性を具備する
but
(3)について、
一般に「危険」が社会的に許容される理由は「社会的有用性」であると理解
⇒原発を運転していないても日本の電力供給に支障がないことが明らかになった現在、「原発に求められる安全性」を判断する際に、そのことを考慮要素とする考え方は、十分成り立ち得る。

審査基準の策定(A)とその適合性判断(B)は、規制行政庁に専門技術的裁量があると解釈されてきた。
(A)の作業を分析すれば、
「原発に求められる安全性の決定」(a1)
「その安全性を実現するための審査基準の策定」(a2)
に分けられる。
原子力規制委員会を構成している原子力工学や放射線防護学等の専門家は、(a2)については、専門性を有しているが、(a1)については専門性を有しているとは言えない。

原子力規制委員会が定めた「原発に求められる安全性」をそのまま是認できるという社会的合意が存在するとは言えない
 
●立証責任論
本決定:
本件原発が安全性を欠くことは、住民側に立証責任がある
but
安全性の審査に関する資料を関西電力が保有
⇒関西電力において、本件原発が原子力規制委員会が定めた「安全性の基準に適合すること」を主張立証すべきであり、
この主張立証が十分尽くされないときは、人格権侵害の具体的危険があることが事実上推認され、
関西電力が前記主張立証を尽くしたときは、住民側において、安全性の基準自体が合理性を欠き、又は適合するとした原子力規制委員会の判断が合理性を欠くことを主張立証する必要がある。

◎伊方最高裁判決(最高裁H4.10.29)
原子炉設置許可処分についての取消訴訟においては、
被告行政庁がした判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解されるが、
当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点
被告行政庁の側において、まず具体的審査基準並びに判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点がないことを相当の根拠、資料に基づき立証する必要。
被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認される。

ここでの「推認」は破れることがない。

本来的に立証責任を負担していない被告の立証責任の総合的評価の結果としての「推認」が、本来的に立証責任を負担している原告の立証活動によって破れることは想定できない。

原子炉設置許可処分取消訴訟は、被告行政庁が、「被告行政庁の判断に不合理な点がないこと」を立証できたか否かについて攻防が行われ、
立証できる⇒原告の請求は棄却
立証できない⇒請求認容

 
◎女川原発についての仙台地裁H6.1.31:
原発民事差止め請求訴訟において初めて立証責任論を展開。
本件原子炉の安全性については、被告の側において、
まず、その安全性に欠ける点のないことについて、立証する必要があり、
被告が右立証を尽くさない場合には、本件原発に安全性に欠ける点があることが事実上推定(推認)され、
被告において必要とされる立証を尽くした場合には、安全性に欠ける点があることについての右の事実上の推定は敗れ、原告らにおいて、安全性に欠ける点があることについて更なる立証を行わなければならない

被告が「安全性に欠ける点がないこと」を立証した場合でも、原告が「安全性に欠ける点があること」を立証できる

被告の立証命題である「安全性に欠けるところがないこと」と
原告の立証命題である「安全性に欠ける点があること」
とは、1枚のコインの裏表ではない。

 

裁判所は、前者は後者よりもレベルが低いものと想定

判例時報2334

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