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2017年8月26日 (土)

乳幼児に対するいわゆる虐待死の事案(無罪事案と保護責任者遺棄致死罪否定事案)

大阪地裁H28.2.26(①事件)
大阪地裁H28.1.28(②事件)   
 
<事案>
乳幼児に対するいわゆる虐待死の事件

積極的に暴行を加える⇒傷害致死
殺意あり⇒殺人
養育の放棄⇒保護責任者遺棄致死や重過失致死

客観的な証拠や目撃者等が少なく、事実認定上難しい問題を抱えている。
 
<①事件> 
【事案】
被告人(男性)が実子(被害児。生後2か月。)に対し、頭部に強い衝撃を与える何らかの暴行を加えて死亡させたとして起訴された、傷害致死被告事件の裁判員裁判で、被告人にのみ波高可能性のある時間帯以前に、既に死因となった脳損傷が生じていた可能性が否定できないなどとして、無罪が言い渡された事例
 
【判断】
何らかの外圧(頭部への複数回の打撲ないし圧迫やゆさぶりなどの故意の暴行が想定される)が加わって被害児の死因となった外傷性急性くも膜下出血・脳腫脹(本件脳損傷)が生じたことはおおむね明らかで、受傷時期が25日午前8時頃以降と認められるのであれば、その間、被害児と2人きりでいた被告人がその外圧を加えたと推認されることになり(10時31分に、被告人が119番通報)、受傷時期がそれ以前であれば、この推認は成り立たないことになるという、証拠関係。 

法医学を専門とする医師2名の各所見に加え、被害児の頭部CT画像で本件脳損傷を確認した脳神経外科の専門医2名の各所見

被害児が受傷した時間帯は、25日午前8時以降であると医学的には断定できず、かえって、その時間帯より以前に受傷していたと考える方がより整合的。

死亡前日の被害児の様子や被告人以外の者の暴行による受傷の可能性等についても検討

前日の夜中の時点で既に本件脳損傷に至る受傷をしていた可能性が排除できないし、また、あくまでも可能性の問題ではあるが、被害児の実母にも暴行を加える機会があったといえ、被告人以外の者による暴行の可能性を排除することはできない
 
【解説】
外に可能性がないから被告人の犯行であるとの、いわば消去法的な事実認定にならざるを得ない⇒種々の問題。 
 
<②事件>
【事案】
難病である先天性ミオパチーに罹患した3歳の女児が低栄養により死亡した事案について、女児と養子縁組をして同居し、女児をその実母であると妻とともに監護すべき立場にあった養父である被告人に、
主位的訴因である保護責任者遺棄致死罪の成立を認めず、
予備的訴因である重過失致死罪の成立を認め、
執行猶予付きの禁固刑(禁固1年6月、3年間執行猶予)を言い渡した裁判員裁判の事例。 
 
<訴因>
保護責任者遺棄致死罪の主位的訴因の要旨:
被告人は、
妻の実子である女児(被害者)と養子縁組をして同居し、
妻と共に被害者を監護すべき立場にあったものであるが、
妻と共謀の上、
平成26年4月頃から6月中旬頃までの間、
幼年者であり、かつ先天的ミオパチーにより発育が遅れていた被害者に十分な栄養を与えるとともに、適切な医療措置を受けさせるなどして生存に必要な保護をする責任があったにもかかわらず、
被害者に対して十分な栄養を与えることも、適切な医療措置を受けさせるなどのこともせず、
もってその生存に必要な保護をせず、
よって同年6月15日、被害者を低栄養に基づく衰弱により死亡させた。 
 
<争点>
①被害者の死因
②被害者が保護を要する状態にあったか否か
③これに対する被告人の認識・認容の有無
 
<判断>
医師の所見
⇒被害者は低栄養による衰弱により死亡。

平成26年4月頃以降の時点では、普通の人であれば十分な栄養を与えられていないために生命身体が害されるかもしれないと認識する状態(=保護を要する状態)にあった。
but
被告人は、被害者の体重や(手足が痩せていたように見えたのを除く)体系の変化、食事量の減少を認識していたとは認められず、
同年6月13日と14日の被害者の様子を認識しても、直ちに病院に連れて行かなければならないほど被害者が衰弱していると認識していたとまでは認められない。


被害者が保護を要する状態にあるとの認識・認容が認められず、保護責任者遺棄致死罪は成立しない。

①被害者の手足が従前に比べて痩せていたこと、被害者が頻繁に食事を抜くなど、その食生活に変化が生じたことは認識しており、これらを踏まえて意識的に観察すれば、被害者の体重と食事量の減少傾向を容易に認識できた
②同年6月13日、被害者が昼間から就寝し、買い物の誘いにも応じないのに接し、夜にはその頬が痩せているのを認め、翌14日夜には、風邪等の症状があるわけでもないのに被害者が朝から一切食事をせずに就寝し続けているのを認識して、翌日病院に連れていることを意識する程度には被害者の健康状態に不安感を抱いていた

少なくとも同月14日夜の時点であれば、被害者が衰弱していることを容易に認識できた

被告人は、僅かな注意を払えば、被害者が低栄養により生命身体が害されるかもしれない状態にあることを認識できた

被告人には、被害者に適切な医療措置を受けさせるなどしてその生命身体への危険の発生を未然に防止すべき注意義務と、これを怠った重大な過失がある。

重過失致死罪の成立。

判例時報2334

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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