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2017年8月12日 (土)

普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性(肯定)

最高裁H28.12.19      
 
<事案>
被相続人Aの遺産分割審判における許可抗告事件。 
Aの法定相続人はXとYのみで、その法定相続分は各2分の1。
Aは、不動産(評価額合計約258万円)のほかに預貯金債権(合計4000万円以上)を有している。
 
<規定>
民法 第427条(分割債権及び分割債務) 
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
 
<原審>
預貯金債権は預金者の死亡によって法定相続分に応じて当然に分割され、相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とすることはできない。
Yに特別受益があり、その額は5500万円程度と認めるのが相当⇒Yの具体的相続分は0⇒Xが前記不動産を取得すべき
   
Xが許可抗告の申立てをしたところ、原審がこれを許可。
 
<判断>
「共同相続された普通預金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」

原決定を破棄し、本件を原審に差し戻した。 
 
<解説>
●預金債権の遺産分割対象性 
最高裁判決(昭和29.4.8):
「可分債権」について相続により債権者が数人となった場合に、共同相続人の数に相当する個数の債権に分割されて各共同相続人に帰属すること(民法427条が定める分割債権関係。ただし、その割合は相続分による。)を判示。

最高裁H16.4.20:
相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではないと解される。
債権が各共同相続人に当然に分割されて帰属⇒共同相続人による当該債権の準共有状態は存在しないから、当該債権は遺産分割の対象とならないというのが、昭和29年判決や平成16年判決の論理的帰結。

「可分債権」は原則として遺産分割の対象とならないが、共同相続人全員がこれを遺産分割の対象に含める合意をした場合には、遺産分割の対象となるとの見解が、家裁実務の大勢。

近似の判例で、①定額郵便貯金債権、②委託者指図型投資信託の受益権、個人向け国債、③委託者指図型投資信託の受益権につき相続開始後に発生した元本償還金等に係る預り金について、当然分割を否定。
but
これらは、それぞれの事案で問題とされた財産権が昭和29年判決や平成16年判決にいう「可分債権」に当たらないことを理由に(前記両判決等の射程を限定して)当然分割を否定し、その裏返しとして当該財産権を遺産分割の対象とすることを認めたもの。

中田:
給付がその性質上可分である債権には、相続開始と同時に当然に分割債権となる「分割型」と、そうでない「非分割型」とがあり、後者には債権者全員が共同して出ないと行使することができない債権(共同債権)が含まれる。

潮見:
債権発生原因である契約により内容・属性を与えられた金銭債権が相続の結果として共同相続人に承継される場合に、分割単独債権として各自に帰属するのか共同相続人の準共有となるのかは、前記の内容・属性に則しは判断されるべきであるが、預金債権の相続に関しては、<預金債権=準共有=相続人全員による共同行使>構成の採用を正面から検討すべきである。
 
●本決定の考え方 
遺産分割制度の趣旨・目的について説示し、共同相続人間の実質的公平を確保するという目的に照らして、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整を容易にする財産を遺産分割の対象とすることを指摘。
②預貯金に関する事務の内容、預貯金の決裁手段としての性格や現金との類似性等について詳細に説示した上で、遺産分割の実務において当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とする運用が広く行われていることを指摘。

預貯金債権が遺産分割の対象とすることになじむ財産であることを示す。

普通預金債権・通常貯金債権(普通預金)について、
普通預金契約(通帳貯金契約を含む。以下同じ。)が、一旦契約を締結して口座を開設すると、以後預金者が自由に預入れ、払戻しをすることができる継続的取引契約であり、口座に入金が行われた場合、これにより発生した預貯金債権は口座の既存の預貯金債権と合算され、一個の預貯金債権として扱われる(一個の債権として同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものである)という特殊性を指摘。

普通預金債権等が相続により数人の共同相続人に帰属するに至る場合、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはない

相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終了していない以上、その額は観念的なものにすぎない

共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、例えば、相続開始時の残高が100万円であったとしても、その翌日には残高が110万円になっているかもしれないのであり、本質的にそのような可能性を有するものとして普通預金債権等は存在⇒相続が開始された場合、各共同相続人はそのような1個の債権の上に準共有持分を有すると解すべきであるという趣旨。
以上のような普通預金債権等の特殊性を捉えて、本決定は、共同相続された普通預金債権等は相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となると判示。

本決定:
株式会社ゆうちょ銀行に対する定期貯金債権について、契約上分割払戻しが制限されており、このことは単なる特約ではなく定期貯金契約の要素となっている

共同相続された定期貯金債権は相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となる。

以上の説示は、近時の判例と同様に、本件で問題とされている普通預金債権等及び定期貯金債権が、その内容及び性質に照らして昭和29年判決にいう「可分債権」に当たらない旨をいうものと解される。

本決定の考え方は、貯金債権が相続開始と同時に当然に分割される旨を判示した平成16年判決等と相反するものであり、これを変更したもので、昭和29年判決を変更したものではない
 
●個別意見の概要 
鬼丸意見:
①多数意見が述べる普通預金債権等の法的性質⇒相続開始後に被相続人名義の預貯金口座に入金が行われた場合、当該口座に係る預貯金債権の全体が遺産分割の対象となる(相続開始時の残高相当額部分のみが遺産分割の対象となるものではない。)
②果実、代償財産、可分債権の弁済金等が被相続人名義の預貯金口座に入金された場合、具体的相続分の算定の基礎となる相続財産の価額をどう捉えるかが問題となることになる。
 
●本決定の射程等 
本決定:
普通預金債権等及び定期貯金債権について、権利の内容及び性質に照らし遺産分割の対象となることを判示。

定額貯金債権に関する説示(=分割払戻しの制限が契約の要素となっていること)の考え方は、ゆうちょ銀行の定額貯金のほか、その他の金融機関の定期預金・定期貯金にも及ぶ(約款上一部解約が認められることは定期預金等の本質に影響しないのではないか。)。

共同相続人の1人が相続開始前に被相続人に無断でその預貯金を払い戻した場合に発生する不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権(いわゆる使途不明金問題)については、本決定の射程外

平成16年判決の事案のように、相続開始後に共同相続人の1人が相続財産の預貯金を払い戻した場合、他の共同相続人は、自己の準共有持分を侵害されたものとして、払戻しをした共同相続人に対し、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものと解される(結論において、平成16年判決が説示したところと同じに帰するが、理由を異にする。)

本決定の考え方⇒相続人は全員で共同しなければ預貯金の払戻しを受けることができない(民法264条本文、251条)

共同相続人の一部が、被相続人の預貯金債権を相続分に応じて分割取得したと主張して、金融機関に対しその法定相続分相当額の支払を求めた場合、その請求は棄却されるべきものとなる。
(このことと、金融機関が顧客の便宜のために相応のリスク判断の下で一定の便宜を行うことは、もとより両立し得るものと思われる。)
 
●確定判決等に与える影響 
既に確定している遺産分割審判や預貯金払戻請求訴訟の判決に影響を与えるものではない
but
預貯金債権が残存する場合には、別途これについての遺産分割をすることを要する

本決定と異なる解釈を前提として遺産分割の協議や調停がされた場合に、その協議や調停の効力が当然に錯誤等により影響を受けるものではない

判例時報2333

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