« 2017年7月 | トップページ | 2017年9月 »

2017年8月

2017年8月31日 (木)

社会福祉法人の理事選任の紛争

東京高裁H29.1.31       
 
<事案>
Xは、
(ア)自らが保育園、老人介護施設などを設置運営する社会福祉法人であるY(代表者理事A)の理事に就任した旨
(イ)AはYの理事兼評議員でない旨
各確認を求めて提訴。 
 
<原審>
Bの役員人事に関する提案はされたが、理事の1人が反対意見を述べた結果、提案された人事案は承認されなかった
⇒(ア)の確認請求を棄却、(イ)の確認の訴えを不適法として却下。
   
Xが控訴し、
(ア)の確認請求を(ウ)XがYの理事兼常務理事の権利義務を有することの確認請求に交換的に変更し、
(←平成28年3月末日の経過により、当初の2年の理事任期が満了したことから、社会福祉法人においても役員が退任した場合に後任者が選任されるまでに従前の役員がその権利義務を有するとの任期伸長規定(一般法人法75条1項、会社法346条1項)が類推適用されるべきとの主張)
(エ)YがXを理事兼常務理事の地位を認めなかったことにつき不法行為に基づく慰謝料請求を追加
 
<争点>
①役員会におけるXの理事選任、事務理事指名の有無
②Xの理事兼常務理事の権利義務を有する地位の有無
③Aが理事兼評議員でないことの確認請求に係る訴えの利益の有無
④Yの不法行為の成否・損害論
⑤②に関連して、社会福祉法人における役員の退任後、後任者が選任されるまでの任期伸長規定の類推適用の可否
 
<判断>
Xが役員会でYの理事に選任されて就任し、併せて新理事長となったBから常務理事に指名されたと認定(争点①)

2年の任期が経過したことによりXは理事を退任し、その後Xが理事兼常務理事の権利義務を有するとの法律上の根拠はない
(争点②)⇒(ウ)は棄却 

Xは(イ)の確認を求める法律上の利益はない⇒不適法として却下

Xが理事に選任されたにもかかわらず、Yが一貫して否定し続けたことは不法行為に当たる⇒慰謝料10万円を相当と認める。

争点⑤について、
①当時の(平成28年法律21号による改正前のもの)社会福祉法には一般法人法75条1項、会社法346条1項にみられる任期伸長規定がない
②一般法人法78条等の準用規定はあるが、同法75条1項は準用しておらず、
③定めがない以上適用の余地はない

Xが理事兼常務理事の権利義務を有するという法律上の根拠はない
 
<解説> 
社会福祉法人の役員等に欠員が生じた場合に関する先例:
①「社会福祉法人において、理事の退任によって定款に定めた理事の員数を欠くに至り、かつ、定款の定めによれば、在任する理事だけでは後任理事を選任するのに必要な員数に満たないため後任理事を選任することができない場合において、仮理事の選任を待つことができないような急迫の事情があり、かつ、退任した理事に後任理事の選任をゆだねても選任の適正が損なわれるおそれがない場合には、民法654条の趣旨に照らし、退任した理事は、後任理事の選任をすることができる」(最高裁H18.7.10)

②退任理事が仮理事選任の申立てをしたのに対し、処分行政庁が職権で別の者を仮理事に選任する処分をした場合に、当該退任理事は処分行政庁の行った仮理事選任処分取消訴訟を提起する原告適格を有する(広島高裁H27.10.28) 

判例時報2335

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月29日 (火)

独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく救済給付等における因果関係の主張立証責任

東京地裁H28.10.14      
 
<事案>
Xらは、子及び夫が後遺障害が残り、又は死亡したのは、タミフルの副作用⇒X1、X2は機構法に基づく障害児養育年金の給付請求を、X3は機構法に基づく遺族一時金及び葬祭料の給付等の請求⇒いずれも不支給とする各決定⇒本件各決定の取消しを求めて本訴を提起。 
 
<争点>
①A、Bの知的障害及びCの死亡とタミフルとの因果関係の主張立証責任は、Xら(救済給付請求者)が負うのか、それともY(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が負うのか
②タミフルの服用と前記知的障害や死亡との間に相当因果関係が認められるか 
 
<判断>
●争点①について:
副作用救済給付の支給決定は、授益的処分としての性質を有するものというべきであり、その根拠法規である機構法16条1項が副作用救済給付の請求権について規定する一方、同条2項が同条1項の規定にかかわらず、これを支給しない場合を規定するという機構法の文言・構造等
因果関係の主張立証責任はXら(救済給付請求者)にある。 

● 争点②について:
Xらの主張:タミフルに中枢神経抑制作用があることを前提に、服用したタミフルにより、A及びBには重篤な脳障害が残存したし、Cは突然死した
①経口投与されたタミフルについて、オセルタミビル未変化体が脳内に移行する割合は限られており、インフルエンザ罹患時にオセルタミビル未変化体の脳内濃度が上昇するとしても、脳内の各種受容体等へ有意に作用するほとには至らないものと考えられ
②動物実験の結果についても、臨床用量のタミフルが、中枢神経抑制作用を有することを裏付けるものとは評価し難い

Xらの主張を排斥。

疫学調査の結果等もタミフルの服用と異常行動との間に因果関係が存在することを裏付けるとも言い難い

タミフルの服用とAの精神運動発達遅滞との間、Bの重度脳障害との間、Cの死亡との間には、それぞれ因果関係があるとはいえない。
⇒Xらの請求をいずれも棄却。

判例時報2335

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月26日 (土)

乳幼児に対するいわゆる虐待死の事案(無罪事案と保護責任者遺棄致死罪否定事案)

大阪地裁H28.2.26(①事件)
大阪地裁H28.1.28(②事件)   
 
<事案>
乳幼児に対するいわゆる虐待死の事件

積極的に暴行を加える⇒傷害致死
殺意あり⇒殺人
養育の放棄⇒保護責任者遺棄致死や重過失致死

客観的な証拠や目撃者等が少なく、事実認定上難しい問題を抱えている。
 
<①事件> 
【事案】
被告人(男性)が実子(被害児。生後2か月。)に対し、頭部に強い衝撃を与える何らかの暴行を加えて死亡させたとして起訴された、傷害致死被告事件の裁判員裁判で、被告人にのみ波高可能性のある時間帯以前に、既に死因となった脳損傷が生じていた可能性が否定できないなどとして、無罪が言い渡された事例
 
【判断】
何らかの外圧(頭部への複数回の打撲ないし圧迫やゆさぶりなどの故意の暴行が想定される)が加わって被害児の死因となった外傷性急性くも膜下出血・脳腫脹(本件脳損傷)が生じたことはおおむね明らかで、受傷時期が25日午前8時頃以降と認められるのであれば、その間、被害児と2人きりでいた被告人がその外圧を加えたと推認されることになり(10時31分に、被告人が119番通報)、受傷時期がそれ以前であれば、この推認は成り立たないことになるという、証拠関係。 

法医学を専門とする医師2名の各所見に加え、被害児の頭部CT画像で本件脳損傷を確認した脳神経外科の専門医2名の各所見

被害児が受傷した時間帯は、25日午前8時以降であると医学的には断定できず、かえって、その時間帯より以前に受傷していたと考える方がより整合的。

死亡前日の被害児の様子や被告人以外の者の暴行による受傷の可能性等についても検討

前日の夜中の時点で既に本件脳損傷に至る受傷をしていた可能性が排除できないし、また、あくまでも可能性の問題ではあるが、被害児の実母にも暴行を加える機会があったといえ、被告人以外の者による暴行の可能性を排除することはできない
 
【解説】
外に可能性がないから被告人の犯行であるとの、いわば消去法的な事実認定にならざるを得ない⇒種々の問題。 
 
<②事件>
【事案】
難病である先天性ミオパチーに罹患した3歳の女児が低栄養により死亡した事案について、女児と養子縁組をして同居し、女児をその実母であると妻とともに監護すべき立場にあった養父である被告人に、
主位的訴因である保護責任者遺棄致死罪の成立を認めず、
予備的訴因である重過失致死罪の成立を認め、
執行猶予付きの禁固刑(禁固1年6月、3年間執行猶予)を言い渡した裁判員裁判の事例。 
 
<訴因>
保護責任者遺棄致死罪の主位的訴因の要旨:
被告人は、
妻の実子である女児(被害者)と養子縁組をして同居し、
妻と共に被害者を監護すべき立場にあったものであるが、
妻と共謀の上、
平成26年4月頃から6月中旬頃までの間、
幼年者であり、かつ先天的ミオパチーにより発育が遅れていた被害者に十分な栄養を与えるとともに、適切な医療措置を受けさせるなどして生存に必要な保護をする責任があったにもかかわらず、
被害者に対して十分な栄養を与えることも、適切な医療措置を受けさせるなどのこともせず、
もってその生存に必要な保護をせず、
よって同年6月15日、被害者を低栄養に基づく衰弱により死亡させた。 
 
<争点>
①被害者の死因
②被害者が保護を要する状態にあったか否か
③これに対する被告人の認識・認容の有無
 
<判断>
医師の所見
⇒被害者は低栄養による衰弱により死亡。

平成26年4月頃以降の時点では、普通の人であれば十分な栄養を与えられていないために生命身体が害されるかもしれないと認識する状態(=保護を要する状態)にあった。
but
被告人は、被害者の体重や(手足が痩せていたように見えたのを除く)体系の変化、食事量の減少を認識していたとは認められず、
同年6月13日と14日の被害者の様子を認識しても、直ちに病院に連れて行かなければならないほど被害者が衰弱していると認識していたとまでは認められない。


被害者が保護を要する状態にあるとの認識・認容が認められず、保護責任者遺棄致死罪は成立しない。

①被害者の手足が従前に比べて痩せていたこと、被害者が頻繁に食事を抜くなど、その食生活に変化が生じたことは認識しており、これらを踏まえて意識的に観察すれば、被害者の体重と食事量の減少傾向を容易に認識できた
②同年6月13日、被害者が昼間から就寝し、買い物の誘いにも応じないのに接し、夜にはその頬が痩せているのを認め、翌14日夜には、風邪等の症状があるわけでもないのに被害者が朝から一切食事をせずに就寝し続けているのを認識して、翌日病院に連れていることを意識する程度には被害者の健康状態に不安感を抱いていた

少なくとも同月14日夜の時点であれば、被害者が衰弱していることを容易に認識できた

被告人は、僅かな注意を払えば、被害者が低栄養により生命身体が害されるかもしれない状態にあることを認識できた

被告人には、被害者に適切な医療措置を受けさせるなどしてその生命身体への危険の発生を未然に防止すべき注意義務と、これを怠った重大な過失がある。

重過失致死罪の成立。

判例時報2334

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月25日 (金)

認知症により要介護3の認定を受けた高齢者が締結した根抵当権設定契約が、意思能力がなく無効とされた事例

広島高裁H28.12.1      
 
<事案>
A(訴訟承継前原告)とその次女X(原告)が共有して居住する本件建物につき、銀行であるYを根抵当権者とする根抵当権設定登記がされていたところ、平成24年11月に根抵当権に基づく競売開始決定
Aが根抵当権の実行禁止及び競売手続停止の仮処分を得た上、根抵当権設定登記の抹消登記手続を求めた。
 
<原審>
根抵当権設定契約証書の原告の署名押印にXが関与した可能性は否定できず、本件契約書にAの意思に基づく署名押印があったとは直ちに認め難く、本件根抵当権設定契約は不成立。
⇒請求認容。 
 
<判断>
本件契約書にAが自ら署名押印したものと認めることができ、本件根抵当権設定契約が成立したものと認めるのが相当。
but
Aの意思能力について、本件根抵当権設定契約当時、同契約の意味を理解するだけの意思能力はなく、本件根抵当権設定契約は無効
⇒請求を認容した原判決は結論において相当。
 
<解説>
高齢者の場合には、その法律行為の態様等からみて、意思能力の理論よりも、法律行為不存在の理論のほうが有用であり、立証が容易であると言われている。 
本判決では、Aの意思能力について詳細な事実認定が行われており、特に、事実認定の調査の際に作成された「介護保険認定調査票」や「介護保険主治医意見書」が有力な証拠として利用されている。

判例時報2334

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月24日 (木)

特別の事情による仮処分の取消しのための担保の事由が消滅したとされた事案

東京高裁H28.7.20      
 
<事案>
Xは、Yとの間で抵当権設定登記手続をする合意をしたと主張して、Yを債務者とする土地(本件土地)の処分禁止の仮処分命令を申し立て、その旨の仮処分命令(本件仮処分命令)を得た上、Yに対する抵当権設定登記手続を求める訴えを提起(別件訴訟①)。 

Yは、民保法39条1項に定める特別の事情があるとして、本件仮処分命令の取消しを求め⇒東京地裁は、担保を立てることを条件として本件仮処分命令を取り消す旨の決定をし、Yは担保(本件担保)の供託

Xは、別件訴訟①において訴えを変更し、Yが他社に所有権を移転する登記手続をするとともに本件仮処分命令の取消申立てをして貸付金の回収を不可能にしたとして、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償等を求めた。
but
東京地裁は、XがYとの間で本件土地にXを抵当権者とする抵当権の設定登記手続をする旨の合意をしたとは認められないなどと判断し、損害賠償請求を棄却。
Xは、不服として控訴を提起したが、別件訴訟①の控訴審で主張を変更し、
主位的に、抵当権設定合意に基づく信義則上の義務の不履行、
予備的に、共同不法行為に基づく損害賠償請求
⇒東京高裁はXの請求を棄却、上告・上告受理申立も棄却・不受理。

Xは、別件訴訟①における請求とは異なるものとして、Yらに対し、特別事情による本件仮処分命令の取消申立てによって貸付金の回収が不能になったことなどを理由とする損害賠償等を求める訴えを提起(別件訴訟②)。
Yは、別件訴訟②の係属中に、本件担保の事由が消滅したと主張してその取消しを申し立て、東京地裁は、本件担保を取り消し⇒Xが、原決定を不服として、その取消しを求めて即時抗告
 
<規定>
民訴法 第79条(担保の取消し)
担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない
 
<判断>
本件担保について、Xが本件抵当権設定登記請求権を行使すれば回収し得た金員を本件取消決定により回収し得なくなるであろう損害を担保するもの

本件担保について担保事由が消滅したとは、本件取消決定により取り消された本件仮処分命令において疎明されたと判断された被保全権利である本件抵当権設定登記請求権の不存在がその後の訴訟手続において確定した場合又はそれと同視すべき場合をいうものと解される。 

Xが別件訴訟①で主張したXのYに対する損害賠償請求権は、本件仮処分命令の被保全権利である本件抵当権設定登記請求権の発生原因事実及び本件担保が担保する損害を包摂すると解され、これを棄却する判断が確定しており、仮に、別件訴訟①の控訴審で主張した損害賠償請求権が一審の訴訟物と異なると解するとすれば、Xは貸付金の回収困難を発生原因とする不法行為に基づく損害賠償請求と同一の訴えを提起できない。

本件においては、本件担保の事由は消滅したとして、抗告を棄却。
 
<解説>
民訴法79条1項の「担保の事由が消滅したこと」の意義
最高裁H13.12.13は、「担保供与の必要性が消滅したこと、すなわち、被担保債権が発生しないこと又はその発生の可能性がなくなったこと」をいう。

民事保全における請求の基礎の同一性について、
最高裁昭和26.10.18は、本案の訴えの不提起による保全取消し(民保法37条)における本案について、請求の基礎が同一であれば足りると解し、
最高裁H24.2.23も、仮差押命令について、当該命令に表示された被保全債権と異なる債権について、これが前記保全債権と請求の基礎を同一にするものであれば、その実現を保全する効力を有するものと判示。
but
保全処分の手続においては、同一訴訟手続内で行われる訴えの変更の可否が問題となる場面と異なり、審理を行う裁判所が同一であるとは限らない

請求の基礎の同一性の有無の判断にあたって訴えの変更の可否とは異なる考慮がされる余地もないではないと思われるとの指摘(最判解説)。

本決定は、最高裁H13.12.13を引用した上で、
別件訴訟①の第一審において、保険処分禁止仮処分の被保全権利に係る発生原因事実を請求原因事実として包含する損害賠償請求権が棄却され、また、控訴審における訴え変更後の請求も棄却され、その判断が確定したことを認定し、
本件抵当権設定登記請求権の不存在がその後の訴訟において確定した場合又はこれと同視すべき場合であると認められるとし、別件訴訟②の提起にかかわらず、担保の事由の消滅を認めたもの。

判例時報2334

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月23日 (水)

高浜原発差止仮処分命令申立事件

大阪高裁H29.3.28    

高浜原発差止仮処分命令申立事件
 
<事案>
大津地裁が平成28年3月9日に関西電力の設置にかかる高浜原子力発電所3号機、4号機について運転を禁止する仮処分を発令⇒同年7月12日に関西電力がした保全異議申立ても退けた関西電力が大阪高裁に申し立てた保全抗告に対する決定。 
 
<原決定>
債権者住民らの、「本件原発は、地震や津波に対する安全対策、原子力災害対策等が不十分であり、運転を継続した場合、過酷事故を起こして債権者らの人格権を侵害する具体的危険がある」旨の主張を認めた。 
 
<本決定>
本件原発の安全性が欠如していることの疎明があるとはいえない
⇒保全異議審決定及び原決定を取り消し、本件仮処分申立てを却下
。 
 
<解説> 
●原発周辺住民が原発の運転差止めを目的として提起する訴訟
①設置運転許可の取消し等を求める行政訴訟
②運転の差止めを求める民事訴訟ないし民事仮処分申立て
 
●原発に求められる安全性 
本決定:
(1)「絶対的安全性」を求めることはできず、「相対的安全性」に止まる
(2)安全性の程度は格段に高度なものでなければならず被害発生の危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理されていることが必要
(3)原発の有用性、必要性の高低によって求められる安全性の程度は左右されない
(4)新規制基準に適合した原発は原則として原発に求められる安全性を具備する
but
(3)について、
一般に「危険」が社会的に許容される理由は「社会的有用性」であると理解
⇒原発を運転していないても日本の電力供給に支障がないことが明らかになった現在、「原発に求められる安全性」を判断する際に、そのことを考慮要素とする考え方は、十分成り立ち得る。

審査基準の策定(A)とその適合性判断(B)は、規制行政庁に専門技術的裁量があると解釈されてきた。
(A)の作業を分析すれば、
「原発に求められる安全性の決定」(a1)
「その安全性を実現するための審査基準の策定」(a2)
に分けられる。
原子力規制委員会を構成している原子力工学や放射線防護学等の専門家は、(a2)については、専門性を有しているが、(a1)については専門性を有しているとは言えない。

原子力規制委員会が定めた「原発に求められる安全性」をそのまま是認できるという社会的合意が存在するとは言えない
 
●立証責任論
本決定:
本件原発が安全性を欠くことは、住民側に立証責任がある
but
安全性の審査に関する資料を関西電力が保有
⇒関西電力において、本件原発が原子力規制委員会が定めた「安全性の基準に適合すること」を主張立証すべきであり、
この主張立証が十分尽くされないときは、人格権侵害の具体的危険があることが事実上推認され、
関西電力が前記主張立証を尽くしたときは、住民側において、安全性の基準自体が合理性を欠き、又は適合するとした原子力規制委員会の判断が合理性を欠くことを主張立証する必要がある。

◎伊方最高裁判決(最高裁H4.10.29)
原子炉設置許可処分についての取消訴訟においては、
被告行政庁がした判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解されるが、
当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点
被告行政庁の側において、まず具体的審査基準並びに判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点がないことを相当の根拠、資料に基づき立証する必要。
被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認される。

ここでの「推認」は破れることがない。

本来的に立証責任を負担していない被告の立証責任の総合的評価の結果としての「推認」が、本来的に立証責任を負担している原告の立証活動によって破れることは想定できない。

原子炉設置許可処分取消訴訟は、被告行政庁が、「被告行政庁の判断に不合理な点がないこと」を立証できたか否かについて攻防が行われ、
立証できる⇒原告の請求は棄却
立証できない⇒請求認容

 
◎女川原発についての仙台地裁H6.1.31:
原発民事差止め請求訴訟において初めて立証責任論を展開。
本件原子炉の安全性については、被告の側において、
まず、その安全性に欠ける点のないことについて、立証する必要があり、
被告が右立証を尽くさない場合には、本件原発に安全性に欠ける点があることが事実上推定(推認)され、
被告において必要とされる立証を尽くした場合には、安全性に欠ける点があることについての右の事実上の推定は敗れ、原告らにおいて、安全性に欠ける点があることについて更なる立証を行わなければならない

被告が「安全性に欠ける点がないこと」を立証した場合でも、原告が「安全性に欠ける点があること」を立証できる

被告の立証命題である「安全性に欠けるところがないこと」と
原告の立証命題である「安全性に欠ける点があること」
とは、1枚のコインの裏表ではない。

 

裁判所は、前者は後者よりもレベルが低いものと想定

判例時報2334

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月21日 (月)

賃金減額協定による賃金減額が認められなかった事例

大阪高裁H28.10.26      
 
<事案>
Yの従業員であるXらが、Yは平成23年8月から10月に支払う賃金について一方的に減額してその一部を支払っただけ⇒Yに対し、未払賃金と遅延損害金の支払を求め、
一部のXらは、賃金を支払わないことが不法行為に該当するとして、予備的に不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた。 

<争点>
(1)
14パーセント減額協定が就業規則の変更等としてXらに効力を及ぼすか、
14パーセント減額協定に対応する合意がXらとYとの間で個別に成立し、個別合意として効力を及ぼすか、
14パーセント減額協定が労働協約としてXらに効力を及ぼすか
(2)
14パーセント減額協定の効力がXらに及ばない場合、Xらの賃金はいくらか 
 
<判断>
●争点(1)について
①14パーセント減額協定は就業規則ないしそれに準ずるものとしてXらに効力を及ぼすとは認められない
②14パーセント減額協定に対応する合意がXらとYとの間で個別に成立したとは認められない
③14パーセント減額協定はYとA労働組合関西地方C支部が確認書を作成した時点で労働協約として効力を生じたと認めるのが相当であるが、C支部Y分会を脱退したXらについては労働協約としての効力は及ばない

①就業規則を変更する場合には、その内容の適用を受ける事業場の労働者が就業規則の内容を知り得る状態に置かれていることを要すると解するのが相当
②控訴人が就業規則の変更とみるべきと主張する社内報には、賃金改定の内容や説明が記載されているものの、それが就業規則の変更となる旨の説明はない上、交渉結果の報告等を交えたものとなっていることからすると、就業規則の体裁も整っていない

前記社内報は、協定内容等の説明文書の域を超えるものとはいえず、前記社内報に賃金改定の内容等が記載されていることによって、従前の就業規則が変更されたとみることはできない。

労使慣行(C支部との協議あるいは従業員との意見交換を踏まえた上で、社内報による周知により賃金改定を行う)の主張も否定

①労使慣行は、就業規則、労働協約などの成文の規範に基づかない集団的な取扱いが長い間反復・継続して行われ、それが使用者と労働者の双方に対して事実上の行為準則として機能する場合の問題であり、成文の規範であり所定の手続が必要とされる就業規則の変更の効力がこのような労使慣行により直ちに生じるものとは認め難い
②本件においては、およそ社内報による周知等によって賃金改定の法的効力が生じているとは評価し難く、労使ともに社内報による周知によって賃金の改定が実施されたと理解していたものとも認め難い
 
●争点(2)について 
Xらは、基本給協定、9パーセント減額協定及び逓増初任給協定に基づいて算定した賃金の支払を受ける権利を有している。
 
<規定> 
労契法 第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

民法 第92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
 
<解説>
●就業規則が法的拘束力を有するにはいかなる手続が必要か
最高裁H15.10.10(フジ興産事件):
就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきであると判示し、労契法7条においてもその旨を規定。
内規の形で労働組合に提示された退職功労金の支給基準について、体裁、手続面などを検討し、同基準自体は就業規則の一部ではないと判断した大阪高裁H27.9.29

●労使慣行について 
最高裁H7.3.9:
労使慣行が長期間にわたって反復継続して行われ、
②労使双方がこれを明示的に排除しておらず
労使双方、特に使用者の規範意識によって支えられている場合
には、「事実たる慣習」(民法92条)としてその法的効力を認める

判例時報2333

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月20日 (日)

親権停止審判申立事件を本案事件とする審判前の保全処分申立事件で、本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性を認め、未成年者に対する職務の執行を停止した事例

親権停止審判申立事件を本案事件とする審判前の保全処分申立事件
 
<事案>
児童相談所長は、未成年者を一時保護し、親権者らについて親権停止の審判を求めるとともに、同審判が効力を生じるまでの間、親権者らの未成年者らに対する職務の停止を求める審判前の保全処分を申し立てた。 
 
<判断>
未成年者の病状は今後予定される手術の内容等
⇒未成年者の親権者としては、未成年者を頻繁に見舞うとともに、医療従事者と十分に意思疎通を図り、緊急の事態が生じた場合も含めて、未成年者が必要としている医療行為が実施されるよう、迅速かつ適切に対応する必要がある。 

親権者らのこれまでの対応や現在の生活状況等
親権者らが迅速かつ適切に対応できるかどうか疑問がある。

本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性があると判断し、申立人の申立てを認容
 
<規定>
民法 第834条の2(親権停止の審判)
父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。

家事事件手続法 第174条(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判事件を本案とする保全処分)
家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てがあった場合において、子の利益のため必要があると認めるときは、当該申立てをした者の申立てにより、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる。

2 前項の規定による親権者の職務の執行を停止する審判は、職務の執行を停止される親権者、子に対し親権を行う者又は同項の規定により選任した職務代行者に告知することによって、その効力を生ずる
 
<解説>
●未成年者が病気・事故等のために手術や治療を必要としている場合、医療機関がその未成年者に対し医療行為を行うには、通常、親権者の同意が必要。
but
親権者が正当な理由もなく未成年者に対する医療行為についての同意を拒否して放置することにより、未成年者の生命・身体が危険にさらされている場合がある(=医療ネグレクト)。 

親権停止(民法834条の2)は、平成23年の民法改正によって設けられた制度であり、親権を喪失させるまでには至らない比較的程度の軽い事案や、一定期間の親権制限で足りる事案において、必要に応じて適切に親権を制限することができるようにするために設けられていたもの。

家庭裁判所は、親権喪失・親権停止等の申立てがあった場合において、親権者による虐待の程度が重大で子の心身に危険が生じている場合など、「子の利益のため必要がある」と認められる場合には、本案事件の申立人の申立てにより、本案審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる(家事事件手続法174条)。

● 本件では、保全処分の内容として、親権者の職務執行停止のみが申し立てられており、職務代行者選任は申し立てられていない。

未成年者につき一時保護が行われているため、親権者の職務の執行を停止しさえすれば、児童相談所長において親権の行使が可能とされている(児童福祉法33条の2)。
but
職務代行者を選任しない場合、職務代行者に告知をすれば親権者への告知を待たずに審判の効力が生ずるとする家事事件手続法174条2項を適用することができない(同法74条2項及び109条2項により、親権者に告知されたときに効力を生じる)。

● 医療ネグレクト事案における本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性についての考慮要素
①未成年者の疾患及び現在の病状
②予定される医療行為及びその効果と危険性
③予定される医療行為を行わなかった場合の危険性
④緊急性の程度
⑤親権者が未成年者に対する医療行為を拒否する理由及びその合理性の有無等

本件についても、前記の考慮要素等を総合考慮の上、未成年者の病状が深刻であって、直ちに治療及び手術を受ける必要性があり、これを受けなった場合には未成年者の生命に危険が生じかねない事態であることを重視し、親権者らがこのような緊急事態に迅速かる適切に対応できるかどうか疑問であるとして、本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性を認めた

判例時報2333

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月19日 (土)

特定商取引に関する法律での法定書面における商品名の記載とクーリングオフ期間の進行

京都地裁H28.10.11      
 
<事案>
家庭教師の派遣及び学習用教材の販売等を目的とするA社と消費者Yとの間の受験用教材の売買契約に係る売買代金債権を譲り受けたXが、Yに対し、売買残代金とこれに対する遅延損害金の支払を求めて訴訟提起。

Yが、特定商取引に関する法律9条1項に基づく解除等を主張。
特商法9条1項は、本文で、訪問販売における購入者によるクーリングオフを認め、ただし書で、特商法5条所定の書面を受領した日から起算して8日を経過した場合には、これを制限している。
 
<判断>
特商法5条1項は、販売業者は、訪問販売契約等を締結したときは、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、同法4条各号の事項についてその売買契約の内容を明らかにする書面(「法定書面」)を購入者等に交付しなければならない旨を定め、同法4条は、その6号として、同条1号ないし5号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項を挙げ、これを受けて、特定商取引に関する法律施行規則3条は、特商法4条6号において、商品名および商品の商標又は製造者名を掲げている

このように、特商法施行規則3条4号が、法定書面に商品名等を記載することを要求したのは、訪問販売において、購入者等が契約内容を十分に吟味しないままに契約を締結して後日のトラブルが生じることを防止するとともに、クーリングオフの行使の機会を確保させるために、契約の目的である商品と実際の商品とが一致するかを客観的に確認できるようにすることにあると解される。

法定書面に該当する書面に記載すべき商品名については、実際の商品と客観的に一致しているかどうかの判断を可能とする程度の記載がされる必要がある。

A社からYに売買契約書及び概要書面が交付されているところ、各書面の記載内容が異なり、A社からYに交付された書面の商品名の記載を一義的に解することは困難
⇒同書面には、契約の目的である商品と実際の商品とが客観的に一致しているかどうかの判断を可能とする程度に具体的な記載がなされていなかったといわざるをえない。

Yが法定書面を受領したとはいえないとして、Yのクーリングオフを認めた

判例時報2333

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月18日 (金)

青果物等の卸売業者と仲卸業者らの協同組合との間の合意内容の解釈

東京地裁H28.6.27      
 
<事案>
青果物及び青果加工品の卸売業者であるXが、仲卸業者らの協同組合であるYに対し、
①代払契約に基づく代払債務の履行請求として、又は、
②保証契約に基づく保証債務の履行請求として(①と選択的請求)、
XがYの組合員に対して売り渡した商品の代金の支払、及び、これに値する商事法廷利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 
 
<事実>
東京都中央卸売市場条例85条1項は、買受人は、卸売業者又は仲卸業から買い受けた物品の引渡しを受けると同時に買い受けた物品の代金を支払わなければならないが、卸売業者又は仲卸業者があらかじめ知事の承認を受けて買受人と支払猶予の特約をしたときは、この限りでない旨規定。

XとYは、取引協約書を取り交わし、以下の規定のある、支払猶予の特約を締結。
①Yに所属する組合員のXに対する買受代金は、買い受けた日から起算して6日以内にYがXに対して「代払い」を行うこと(本件代払契約)
②Yが買受代金を①によって完納した場合、XはYに対し、完納奨励金として10000分の10を支払うこと
③Yに所属する組合員のXに対する買受代金の債務についてはは、Yが、関係法令に準拠してこれを「保証」すること(本件保証契約)

 
<争点>
①代払債務の履行請求につき、本件代払契約に係る当事者の合意内容(Yは、無制限の代払義務を負うか、Yが組合員から入金された金額の限度のみ支払えばよいか)
②保証債務の履行請求につき、本件保証契約に係る当事者の合意内容(Yは、Yが通知した金額の限度で保証債務を負うという「限度付き」保証か)
③相殺の抗弁(Yは、Xに対し、不当利得返還請求権を有するか)
 
<判断>
取引協約書の文言
青果物の取引に係る買受人組合(仲卸組合等)による代払制度や完納奨励金支払制度に係る沿革
③本件における完納奨励金支払の経緯等
について検討

当事者の合意内容は、Yが組合員から入金された金額の限度のみ支払えばよいというものではなく、Yは組合員からの入金金額にかかわらず、代払義務を負う

取引協約書の文言
前記条例85条1項の規定内容
X・Y間の取引の経緯等
について検討

X・Y間において、Yが指摘する取引も代払いや保証の対象とするという合意が成立したことが推認される。

被告の相殺の抗弁を否定。
 
<解説>
本判決は、
当事者間の合意につき、当事者間で作成された文書や、当事者間の経緯だけであなく、青果物の取引に係る買受人組合(仲卸組合等)による代払制度や完納奨励金支払制度に係る沿革等も考慮した上で、判断を行ったもの。 

判例時報2333

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月16日 (水)

義援金の不正疑惑についての署名活動と署名を求める文書が、正当な意見・論評であり名誉毀損とならないとされた事例

仙台高裁H28.12.7      
 
<事案>
東日本大震災にかかる義援金の不正疑惑について、警察による捜査を求める署名活動と署名を求める文書(「本件文書」)が、名誉毀損となるかが争われた事案。

原告:町議会議員
被告:(同じ)町議会の議員と市民オンブズマンの代表者
⇒不正疑惑の追及の名を借りた政敵への攻撃と見る余地
 
<原審>
事実摘示型の名誉毀損とし
被告は、不正疑惑の存在を摘示したのではなく、真実不正が存在するとして摘示したもので、
摘示事実について真実と信じた相当な理由があるとは言えない。
 
<判断> 
被告の署名活動と本件文書につき、
事実摘示型の名誉毀損ではなく、義援金にかかる不正疑惑があるという事実を前提として、捜査機関に疑惑の解明を求める、意見・論評であると判断。 

①本件文書に、雑誌やブログによる記事の引用がある
②原告による義援金の不正利用により町民が受給するべき義援金が減額されたのではないかという疑惑があるとの記載がある
被告の行為は、事実を摘示したもの
but
本件文書は、
これらの事実を前提とした町民の怒りの感情や、捜査機関に対して、原告が受領した義援金の総額や使途を明らかにすること、不正使用の疑惑を解明するよう求める部分を含んでおりこれらの部分は、客観的証拠等をもってその存否を決することのできないもの

一定の事実を前提とした意見ないし論評であると判断。

事実の摘示から構成される原告に対する名誉毀損か、あるいは、
疑惑解明を求める意見・論評(感情・要望)
という問いについて、後者であると判断。

判例時報2333

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月15日 (火)

原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条3号に該当する者とされた事例

長崎地裁H28.2.22      
 
<事案>
昭和20年8月9日に原子爆弾が長崎市に投下された際ないしその後、いわゆる「被爆未指定地域」で生活していたXらが、原爆投下時に爆心地から7.5ないし12キロメートルの範囲内の地域にある居住地において生活していたから、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当すると主張
⇒長崎県又は長崎市に対し、被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消し、同手帳交付の義務付け、健康管理手当の支払等を請求。
 
<解説>
被爆者援護法は、昭和32年制定の原子爆弾被爆者の医療等に関する法律および昭和43年制定の原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を統合する形でこれらを引き継ぐとともに、その援護内容をさらに充実発展させるものとして、平成6年に制定。
国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じることをその目的とする。
 
<争点>
Xらが被爆者援護法1条3号に該当するかどうか 
 
<判断>
被爆者援護法1条3号の意義について、
前身の原爆医療法制定に至る経緯及び同法の定め、同法につき発出された通達・通知、同法の改正並びに原爆特例措置法の制定経過及び同法の定め、被爆者援護法制定に至る経緯、同法1条3号該当性の審査基準に係る運用(広島市の例も含む)等

同法の立法趣旨や健康被害を生ずるおそれがあるために不安を抱く被爆者に対して広く健康診断等を実施することが同法の趣旨に適うと考えられる

同法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」とは、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったことをいうものと解するのが相当であり、同事実の存否は最新の科学的知見に基づき判断すべきである。 

①長崎に投下された原爆の概要、②放射線・被爆・原爆放射線に関する科学的知見、③下痢・脱毛・出血傾向の原因及び放射線による急性症状に関する知見、④被爆未指定地域における放射性降下物による外部被曝の状況、⑤内部被曝の影響、⑥遠距離被曝と急性症状の発症、⑩一定地域の住民に対する染色体異常・白血球数増加についての調査結果、⑪低線量被曝が人体に及ぼす影響等について、当事者から提出及び申請された多くの資料、専門家の意見等を整理し、詳細に吟味。

被爆未指定地域の住民は、その地域に降下した放射性降下物の発する放射線によって外部被曝及び放射性降下物を呼吸や飲食の際に摂取して内部被曝する状況にあったところ、被爆者援護法上の援護は、被爆者が原子爆弾の等価によって「特殊の被害」を受けたことを根拠にするもの

日常生活における個々人の生活状況の相違に起因する被曝の量の差に含まれる程度の被曝をしたことをもって、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったというのは相当ではない

具体的には、原爆投下による年間積算線量が自然放射線による年間被曝線量の平均2.4ミリシーベルトの10倍を超える25ミリシーベルト以上(福島原発事故において当初計画的避難地域に指定され、その後居住制限区域に指定された地域と同程度以上の年間被曝線量)である場合には、個々人の生活状況に起因する被曝の量の差を超える程度の被ばくをすると評価することができ、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったというが相当。

Xらのうち原爆投下当時一定の地域に居住していた10名については、年間積算線量の推計値が
①減衰率をマイナス1.5とした場合、②マイナス1.2とした場合、③その平均値をとった場合の数値がいずれも25ミリシーベルトを超えており、被爆者援護法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」というのが相当
⇒これら10名による被爆者健康手帳交付請求却下処分の取消し請求及び被爆者健康手帳交付の義務付けを求める請求を認容。
but
同10名以外のXら(その被相続人を含む)については、本判決が示す前記の基準に達していない⇒同法1条3号に該当すると認めることはできない。

判例時報2333

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月14日 (月)

取締役会設置会社である非公開会社における株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の効力(有効)

最高裁H29.2.21      
 
<事案>
取締役会設置会社である非公開会社において、取締役会の決議によるほか、株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めが有効かどうかが争われた事案。 

Y1(非公開会社で、取締役会を設置する旨の定款の定めを有する取締役会設置会社)の定款には、
代表取締役は取締役会の決議によって定めるものとするが、必要に応じ、株主総会の決議によって定めることができる旨の定めがされていた。

Xは、Y1の代表取締役であった者。
Y2は、平成27年9月30日に開催されたY1の株主総会において取締役に選任する旨の決議及び代表取締役に定める旨の決議がされた者。
Xは、Y1及びY2に対し、本件株主総会の前記各決議には法令違反があるとして、Y2の取締役兼代表取締役の職務執行及び職務代行者選任の仮処分命令の申立て。
 

<規定>
会社法 第二九五条(株主総会の権限)
株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。
 
<原決定>
代表取締役の選任・解任権限を株主総会に認めたからといって、取締役会の監督権能が失われるものではなく、本件定めが無効であるとはいえない。
⇒Xの申立を却下。 
   
Xからの許可抗告の申立てを原審(東京高裁)は許可
 
<判断>
①会社法295条2項によれば、取締役会設置会社において、株主総会は、会社法に規定する事項及び定款定めた事項に限り、決議をすることができるところ、この定款で定める事項の内容を制限する明文の規定はない
取締役会設置会社である非公開会社において、取締役会決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができるとしても代表取締役の選定及び解職に関する取締役会の権限が否定されるものではなく、取締役会の監督権限の実効性を失わせるものではない

本件定めを有効として、本件許可抗告を棄却すべき。
 
<解説>
会社法295条は、株主総会が決議することができる事項を、
1項で「この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項」とし、
2項で取締役会設置会社においては、「この法律に規定する事項及び定款で定めた事項」に株主総会の決議事項を限定。

本決定は、
取締役会設置会社である非公開会社において、
取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款を有効であるとの法理を示したもの。

①公開会社について、株主総会にも代表取締役の選定権限を認める定款が有効かどうか
②取締役会設置会社において、株主総会のみに代表取締役の選定権限を認める定款が有効かどうか
などについては、判示するものではない。

判例時報2333

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月12日 (土)

普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性(肯定)

最高裁H28.12.19      
 
<事案>
被相続人Aの遺産分割審判における許可抗告事件。 
Aの法定相続人はXとYのみで、その法定相続分は各2分の1。
Aは、不動産(評価額合計約258万円)のほかに預貯金債権(合計4000万円以上)を有している。
 
<規定>
民法 第427条(分割債権及び分割債務) 
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
 
<原審>
預貯金債権は預金者の死亡によって法定相続分に応じて当然に分割され、相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とすることはできない。
Yに特別受益があり、その額は5500万円程度と認めるのが相当⇒Yの具体的相続分は0⇒Xが前記不動産を取得すべき
   
Xが許可抗告の申立てをしたところ、原審がこれを許可。
 
<判断>
「共同相続された普通預金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」

原決定を破棄し、本件を原審に差し戻した。 
 
<解説>
●預金債権の遺産分割対象性 
最高裁判決(昭和29.4.8):
「可分債権」について相続により債権者が数人となった場合に、共同相続人の数に相当する個数の債権に分割されて各共同相続人に帰属すること(民法427条が定める分割債権関係。ただし、その割合は相続分による。)を判示。

最高裁H16.4.20:
相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではないと解される。
債権が各共同相続人に当然に分割されて帰属⇒共同相続人による当該債権の準共有状態は存在しないから、当該債権は遺産分割の対象とならないというのが、昭和29年判決や平成16年判決の論理的帰結。

「可分債権」は原則として遺産分割の対象とならないが、共同相続人全員がこれを遺産分割の対象に含める合意をした場合には、遺産分割の対象となるとの見解が、家裁実務の大勢。

近似の判例で、①定額郵便貯金債権、②委託者指図型投資信託の受益権、個人向け国債、③委託者指図型投資信託の受益権につき相続開始後に発生した元本償還金等に係る預り金について、当然分割を否定。
but
これらは、それぞれの事案で問題とされた財産権が昭和29年判決や平成16年判決にいう「可分債権」に当たらないことを理由に(前記両判決等の射程を限定して)当然分割を否定し、その裏返しとして当該財産権を遺産分割の対象とすることを認めたもの。

中田:
給付がその性質上可分である債権には、相続開始と同時に当然に分割債権となる「分割型」と、そうでない「非分割型」とがあり、後者には債権者全員が共同して出ないと行使することができない債権(共同債権)が含まれる。

潮見:
債権発生原因である契約により内容・属性を与えられた金銭債権が相続の結果として共同相続人に承継される場合に、分割単独債権として各自に帰属するのか共同相続人の準共有となるのかは、前記の内容・属性に則しは判断されるべきであるが、預金債権の相続に関しては、<預金債権=準共有=相続人全員による共同行使>構成の採用を正面から検討すべきである。
 
●本決定の考え方 
遺産分割制度の趣旨・目的について説示し、共同相続人間の実質的公平を確保するという目的に照らして、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整を容易にする財産を遺産分割の対象とすることを指摘。
②預貯金に関する事務の内容、預貯金の決裁手段としての性格や現金との類似性等について詳細に説示した上で、遺産分割の実務において当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とする運用が広く行われていることを指摘。

預貯金債権が遺産分割の対象とすることになじむ財産であることを示す。

普通預金債権・通常貯金債権(普通預金)について、
普通預金契約(通帳貯金契約を含む。以下同じ。)が、一旦契約を締結して口座を開設すると、以後預金者が自由に預入れ、払戻しをすることができる継続的取引契約であり、口座に入金が行われた場合、これにより発生した預貯金債権は口座の既存の預貯金債権と合算され、一個の預貯金債権として扱われる(一個の債権として同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものである)という特殊性を指摘。

普通預金債権等が相続により数人の共同相続人に帰属するに至る場合、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはない

相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終了していない以上、その額は観念的なものにすぎない

共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、例えば、相続開始時の残高が100万円であったとしても、その翌日には残高が110万円になっているかもしれないのであり、本質的にそのような可能性を有するものとして普通預金債権等は存在⇒相続が開始された場合、各共同相続人はそのような1個の債権の上に準共有持分を有すると解すべきであるという趣旨。
以上のような普通預金債権等の特殊性を捉えて、本決定は、共同相続された普通預金債権等は相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となると判示。

本決定:
株式会社ゆうちょ銀行に対する定期貯金債権について、契約上分割払戻しが制限されており、このことは単なる特約ではなく定期貯金契約の要素となっている

共同相続された定期貯金債権は相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となる。

以上の説示は、近時の判例と同様に、本件で問題とされている普通預金債権等及び定期貯金債権が、その内容及び性質に照らして昭和29年判決にいう「可分債権」に当たらない旨をいうものと解される。

本決定の考え方は、貯金債権が相続開始と同時に当然に分割される旨を判示した平成16年判決等と相反するものであり、これを変更したもので、昭和29年判決を変更したものではない
 
●個別意見の概要 
鬼丸意見:
①多数意見が述べる普通預金債権等の法的性質⇒相続開始後に被相続人名義の預貯金口座に入金が行われた場合、当該口座に係る預貯金債権の全体が遺産分割の対象となる(相続開始時の残高相当額部分のみが遺産分割の対象となるものではない。)
②果実、代償財産、可分債権の弁済金等が被相続人名義の預貯金口座に入金された場合、具体的相続分の算定の基礎となる相続財産の価額をどう捉えるかが問題となることになる。
 
●本決定の射程等 
本決定:
普通預金債権等及び定期貯金債権について、権利の内容及び性質に照らし遺産分割の対象となることを判示。

定額貯金債権に関する説示(=分割払戻しの制限が契約の要素となっていること)の考え方は、ゆうちょ銀行の定額貯金のほか、その他の金融機関の定期預金・定期貯金にも及ぶ(約款上一部解約が認められることは定期預金等の本質に影響しないのではないか。)。

共同相続人の1人が相続開始前に被相続人に無断でその預貯金を払い戻した場合に発生する不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権(いわゆる使途不明金問題)については、本決定の射程外

平成16年判決の事案のように、相続開始後に共同相続人の1人が相続財産の預貯金を払い戻した場合、他の共同相続人は、自己の準共有持分を侵害されたものとして、払戻しをした共同相続人に対し、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものと解される(結論において、平成16年判決が説示したところと同じに帰するが、理由を異にする。)

本決定の考え方⇒相続人は全員で共同しなければ預貯金の払戻しを受けることができない(民法264条本文、251条)

共同相続人の一部が、被相続人の預貯金債権を相続分に応じて分割取得したと主張して、金融機関に対しその法定相続分相当額の支払を求めた場合、その請求は棄却されるべきものとなる。
(このことと、金融機関が顧客の便宜のために相応のリスク判断の下で一定の便宜を行うことは、もとより両立し得るものと思われる。)
 
●確定判決等に与える影響 
既に確定している遺産分割審判や預貯金払戻請求訴訟の判決に影響を与えるものではない
but
預貯金債権が残存する場合には、別途これについての遺産分割をすることを要する

本決定と異なる解釈を前提として遺産分割の協議や調停がされた場合に、その協議や調停の効力が当然に錯誤等により影響を受けるものではない

判例時報2333

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月11日 (金)

GPS捜査の適法性大法廷判決

最高裁H29.3.15      
 
<事案>
広域集団窃盗・建造物侵入等被告事件について、車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査の適法性が問題とされた事案。 
GPSを利用した捜査には、携帯電話・スマートフォンのGPS機能を利用して携帯電話等の位置情報を電話会社等から検証許可状の発付を受けて取得する方法があり、実務上も行われているが、本判決はこれには触れない。
 
<一審>
本件GPS捜査は検証の性質を有する強制の処分(刑訴法197条1項但書)に当たり、検証許可状を取得することなく行われた本件GPS捜査には重大な違法がある⇒本件GPS捜査により直接得られた証拠及びこれに密接に関連する証拠の証拠能力を否定。
but
その余の証拠に基づき被告人を有罪とした。
   
被告人が控訴
 
<原審>
その余の証拠についても証拠能力を否定すべきという控訴趣意をいずれも排斥。
本件GPS捜査に重大な違法があったとはいえないと説示。
 
<争点>
GPS捜査の強制処分性及び令状主義(憲法35条)との関係
強制処分性が肯定される場合、現行刑訴法上の強制処分との関係(GPS捜査が「現行刑訴法上の」強制処分といえるかという問題) 
 
<規定>
憲法 第35条〔住居侵入・捜索・押収に対する保障〕
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
②捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

刑訴法 第197条〔捜査に必要な取調べ、照会、通信履歴保管命令等〕
捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない
 
<判断>
上告趣意のうち、憲法35条違反をいう点は、原判決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであり、その余は、適法な上告理由に当たらない。
but
所論に鑑み、
論点①について
車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器その所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり、令状がなければ行うことができない強制の処分である

論点②について
GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付ことには疑義がある。
GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な操作方法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。
 
<解説>
●GPS捜査の強制処分性及び令状主義との関係
強制処分性が問題とされた捜査手法:
①公道上における写真撮影
②人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるビデオ撮影
~強制処分性否定

③刑訴法222条の2制定前の電話傍受
④宅配運送の過程下にある荷物の外部からのエックス線検査
~強制処分性肯定

判例上、強制処分とは、
「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」(最高裁昭和51.3.16)

本判決:
GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを必然的に伴う

個人のプライバシーを侵害し得るものであり、
また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべき。

本判決が、GPS捜査について令状が無ければ行うことができない強制の処分と結論付けた理由:
憲法35条は、『住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利』を規定しているところ、
この規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。
 
●現行刑訴法上の各種強制処分との関係
本判決:
GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の『検証』と同様の性質を有するものの
対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において、『検証』では捉えきれない性質を有することも否定し難い。

検証に「必要な処分」(刑訴法129条)としても説明しきれないとの意味。

本判決:
GPS捜査は、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある。

令状主義の趣旨:
被疑事実との関連で必要性のある処分であるか否かを裁判官に事前審査させるとともに、
捜査機関に対し権限行使の具体的範囲をあらかじめ令状に明示させることにより、捜査権限の恣意的行使を抑制するところにあると解されている。

GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴う⇒把握される情報の中には被疑事実と関係のない行動に関するものが必然的に含まれる。
その中には将来の犯罪に関するものも含まれるが、そのような将来の犯罪の強制捜査は、刑訴法上は想定されておらず、これを許容するためには特別の立法が必要と解される。

本判決:
GPS捜査は、被疑者らに知られる秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状提示を行うことは想定できない
刑訴法上の各種強制の処分については、手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項、110条)、
他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても、これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは、適正手続の保障という観点から問題が残る。

本判決:
これらの問題を解消するための手段として、一般的には、実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等様々なものが考えられるところ、、捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし、第一次的には立法府に委ねられていると解される。

仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば、以上のような問題を解消するため、裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じるが、事案ごとに、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは、『強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない』と規定する同項ただし書の趣旨に沿うものとはいえない

令状請求を受けた裁判官がGPS捜査を可能にするために刑訴法上の令状を発付することは基本的に想定していない。

判例時報2333

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月10日 (木)

尿中から覚せい剤成分が検出された被告人が無罪とされた事例

東京高裁H28.12.9      
 
<事案>
警察官に任意提出した尿中から覚せい剤成分が検出⇒覚せい剤使用の事実で起訴。 
 
一審 有罪 
 
<判断>
●わが国においては覚せい剤が厳しく取り締まられており、日常生活を送る中で、本人の意思に基づかずに覚せい剤が体内に取り込まれることは通常考え難い
⇒尿中から覚せい剤成分が検出されたことは、その者が自らの意思で覚せい剤を摂取したことを強く推認させる。 

この事実に加え、同人と覚せい剤との結び付きを示す事情や、覚せい剤の意図的な使用を疑わせる同人の言動等が認められるときは、前記推認は一層強いものとなり、その推認を妨げる特段の事情が認められなければ、同人が自らの意思で覚せい剤を窃取したとの事実を認定することができる。
but
「日常生活を送る中で、本人の意思に基づかずに覚せい剤が体内に取り込まれることは通常は考え難い」との前提は、尿中から覚せい剤が検出された者の生活状況や人間関係等によって妥当性の程度に差異がある

前記のような推認を強める事情が認められないにもかかわらず、尿中から覚せい剤成分が検出されたことのみに基づいて、自らの意思で覚せい剤を摂取したものと認定するには、その者の生活状況等や推認を妨げる特段の事情に関する慎重な検討が必要

特段の事情につき検討するに当たっても、推認を妨げる事情があることの立証責任が被告人にあるかのような判断に陥らないように注意する必要がある。

本件においては、被告人の尿から覚せい剤成分が検出されたとの事実が認められるだけであって、被告人と覚せい剤との結び付きを示す事情や覚せい剤を使用したことを疑わせる被告人の言動等は見当たらない。

被告人が自らの意思で覚せい剤を摂取したものと推認することの適否や特段の事情の有無を慎重に検討し、
被告人の生活状況や人間関係等に照らせば、第三者が被告人の飲食物に覚せい剤を入れ、被告人の知らないままに覚せい剤がその体内に取り込まれたという可能性を否定することができず、被告人が自らの意思で覚せい剤を摂取したとするには合理的な疑いがある

原判決は、「何者かがわざわざ被告人の飲食物に覚せい剤を混入させるというのも、にわかには想定し難い」と判示するが、その旨を抽象的に述べるだけで、以上のような具体的な事実関係を踏まえた検討が行われた形跡はうかがわれない。 

・・・・被告人が、自己の身体から覚せい剤等の違法薬物の成分が検出されることを想定していなかったとの疑いを生じさせるものである。この疑いは単なる一般的な可能性に留まるとはいい難いにもかかわらず、原判決の前記説示は、その疑いを超えて、被告人が自らの意思で覚せい剤を摂取したと認定することができる理由の説明として実質的な内容を含んでおらず、捜索が入るとの話を被告人が聞いていたことについては検討の跡もうかがえない

被告人には覚せい剤を購入する資力はなかったとする原審弁護人の主張についても、それが根拠を欠く主張ではないにもかかわらず、原判決は、被告人が自らの意思で覚せい剤を窃取したとの推認を妨げる事情とはならないとの結論を示すだけで、そのように判断した理由の説明は全くない
 
<解説> 
注意すべきは、被告人が思い当たることとして説明する内容そのものが「特段の事情」ではないこと。
その説明内容が信用できないからといって「特段の事情がない」ことになったり、自らの意思で覚せい剤を摂取したとの推認が強化されたりするわけではない。

「特段の事情がない」ことの立証責任が検察官にあることは、刑事裁判における鉄則である。しかし、実質上、被告人に「特段の事情があること」の立証責任を負わせているのではないか、と思わせるような判示に遭遇することも稀とはいえない。
尿中からの覚せい剤成分の検出ほどの強い推認力がある場合でもないのに、「〇〇の事実が認められることからすれば、特段の事情のない限り、××の事実が推認される」などと判示することには慎重であるべき。

実際には、当該事案における個別具体的な事実関係に基づく事実上の推認にすぎないものを、あたかも一般的な経験則であるかのように表現することになるし、そのフレーズを使うことによって、立証責任を転換したかのような判断に陥る危険も生まれる。
本来「〇〇の事実からは、××の事実が推認される。△△の事実は右の推認を覆すものとはいえず、他に右の推認を覆すべき事情も認められない」、とすれば済む

判例時報2332

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月 9日 (水)

公立学校教員の懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分が取り消された事案

札幌高裁H28.11.18      
 
<事案>
処分庁が設置する公立学校の教員であったXが、ソフトウエアの違法コピーをインターネット上で販売したという非違行為を理由に、懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分を受けた⇒本件各処分は、いずれも処分庁が有する裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用したものであると主張し、処分庁の所属するYを相手に、本件各処分の取消しを求めた事案。 
 
<原審>
公立学校教員の懲戒処分にかかる先例である伝習館事件上告審判決(最高裁H2.1.18)を参照しつつ、公務員の懲戒処分は、「社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はそれを濫用してしたものであると認められる場合に限り、違法となる」という判断枠組みの下、
①Xの非違行為は、地方公務員法上の懲戒事由に該当し、職務外の行為ではあるものの、 「高い倫理と廉潔性が求められる」教員にとって重大な非違行為であり、Yの地方教育行政に対する社会的信頼も著しく低下させられた
②窃盗との材質の近似性

内部的な懲戒処分の指針に従って免職処分としたことはYの裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用したものとは認められない。
 
<判断>
前記伝習館事件上告審判決に加え、公務員の懲戒処分にかかる先例である神戸税関事件上告審事件(最高裁昭和52.12.20)を参照しつつ、
一審と同様、「社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はそれを濫用してしたものであると認められる場合に限り、違法となる」という判断枠組みの下、
Xの非違行為は、地方公務員法上の懲戒事由に該当するとし、懲戒処分の選択に当たって内部的な指針に従うことが相当と判断。
but
①Xの非違行為について、窃盗との罪質の近似性を否定し、極めて重大な非違行為であるとまでは言えないと判断。
②本件非違行為は職務外の行為であり、Xが本件非違行為をしたことによって、Yの教育公務員が遂行する地方教育行政に係る職務に対し、・・・社会全体が有する信頼が著しく低下したとまで認めることはできない
③本件非違行為の発覚前後や処分前後におけるXの勤務状況や態度

教員としての地位を失わせる免職処分は「社会観念上著しく妥当性を欠き、処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱したものとしうべき」
と判断。
 
<解説>
一般の民間労働者に関して、使用者は、労働契約上の付随義務である企業秩序順守義務の違反について、規則の定めるところに従い制裁として労働者に懲戒処分を科すことができる
そして、当該懲戒処分に関しては、労働契約法15条に基づき、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」か否かの司法審査に服する。

労働契約法 第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

● Xのような公務員に関しては、国家公務員法82条1項ないし地方公務員法29条1項に基づいて、法律上、任命権者が懲戒処分を科すことができるが、任用関係である公務員に対して、労働契約法は適法されない(同法22条1項)。 

労働契約法 第22条(適用除外)
この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。

公務員の懲戒処分の適否に関しては、労働契約法の制定後も、前掲神戸税関事件上告審事件が設定した判例上の判断枠組みに従って、「社会観念上著しく妥当を欠」くか否かという観点から、裁量権の逸脱ないし濫用の有無が審査。

民間労働者の場合、使用者は、労働遂行に関係する限りで労働者の行動を規制する権限を有するに過ぎない
本件のような私生活上の非行について当然に制裁を科す権限を有していない

そこでは、私生活上の非行をもって懲戒すること自体は可能と解されているものの、懲戒の可否・適否をめぐっては、「当該行為の性質、情状、会社の事業の種類・態様・規模、従業員の会社における地位・職種等諸般の事情を考慮して、企業の社会的評価の毀損の有無」を「厳格に審査」すべきものと考えられている。 

本件のような公務員の私生活上の非行に関しては、やはり任命権者が懲戒処分を科すること自体は可能と解されているものの、私生活上の非行であることにより民間労働者のような制約が生じるのか明らかでない。

民間労働者の場合懲戒処分として行われる解雇(懲戒解雇)に関しては、当該処分に伴う有形・無形重大な不利益に鑑みて、その適法性が特に厳格に判断されている。

公務員の場合にも、懲戒処分として行われる免職(懲戒免職)に関しては、公務員たる地位を失わせる重大な結果をもたらすことに鑑みて、特に慎重な配慮を要するものと解されている。

判例時報2332

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月 8日 (火)

重症新生児仮死の状態で出生し、重度の後遺障害を負った⇒損害賠償請求(肯定)

高知地裁H28.12.9      
 
<事案>
Yの運営する病院で重症新生児仮死の状態で出生し、重度の後遺障害を負ったA並びにその両親である父B及び母Cが、Y病院の医師及び助産婦には急速遂晩の準備及び実行をすべき義務があるのにこれを怠った過失等がある
⇒Yに対し、民法715条1項に基づき、合計約2億円余の損害賠償請求。 
 
<判断>
遅発一過性徐脈がある場合には胎児が低酸素状態にあることが、基線細変動が減少している場合には胎児の状態が悪化していることが、それぞれ推測される
②上記のとおり、Aの遅発一過性徐脈は一時的なものではなく、午後3時40分頃には高度遅発一過性徐脈が発生し、午後3時50分頃から、基線細変動の減少を伴う高度遅発一過性徐脈が複数回にわたり発生

担当医Dにおいては、遅くとも午後4時40分頃に分娩室に入室したころには、Aが低酸素状態にあり、その状態が悪化していることを認識することができた。 

Aがその後直ちに娩出されるような状況にはならなかった

陣痛促進薬による経膣分娩をそのまま続行した場合には、上記の低酸素状態がさらに増悪し、ひいてはAに低酸素状態を原因とする脳性麻痺の後遺障害が生じることがあり得ることを予見することができた

急速遂娩を行わなかった担当医Dには過失がある。
Yに対し、Aに1億7411万円余、Bに330万円、Cに440万円を支払うよう命じた。

 
<解説>
本判決が依拠したのは日本産婦人科学会と日本産婦人科医会が発表している「産婦人科診療ガイドライン・・・産科編2011」

日本産婦人科学会と日本産婦人科医会でコンセンサスが得られた医学的知見が示されていると判示。

判例時報2332

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月 7日 (月)

肝機能が悪化した場合に専門の医療機関を紹介する診療契約締結とその不履行が認められた事例

京都地裁H28.2.17      
 
<事案>
Xが、Yの開設するYクリニックにおいて、Yとの間で、B型肝炎の治療を目的とした診療契約を締結
but
Yクリニックの担当医師であるA医師が、適切な診察を怠った結果、肝硬変及び肝がんに罹患

診療契約の債務不履行に基づき、1億2278万円余の損害賠償請求。

B医師は、A医師にXを紹介するにあたり、XがB型肝炎ウイルスキャリアであり、肝機能障害に注意すべきであるとの引継ぎ。
but
Yクリニックは、Xに対し積極的に肝炎の治療は行わなかった。
Xは平成17年10月、C病院で肝がんの疑いを指摘され、同年11月にはD病院で肝腫瘍と診断された。
 
<判断> 
①Yクリニックでの治療を受ける前のB医師の治療でもバセドウ病の治療を受けており、B型肝炎の治療を受けていない
②YクリニックはB型肝炎の専門的な治療を行う医療機関ではない
③XもYクリニックにおいて積極的な肝炎の治療を受けていたとまでの認識がない

X・Y間でB型慢性肝炎に関する諸検査等を積極的に実施するなどの治療管理を内容とする診療契約が成立したとまでは認定できない。
but
①A医師はB医師からXがB型肝炎ウイルスキャリアであり、肝機能障害に注意すべきである旨の引継を受けた
②これを受けて、A医師は、第1回目の診察の際、血液検査を実施し、その2か月後の診察の際には、腹部エコー検査及び腫瘍マーカー検査を実施し、「肝機能←ならG紹介」とカルテに記載している
③甲状腺機能亢進症の治療で処方されるメルカゾールにより肝機能が悪化することがあり、治療の際にも肝機能には注目しなければならない
④A医師は、定期的にXの血液検査を実施し、GOT及びGPTの各値をカルテに記載

A医師は、バセドウ病の治療を継続する際に、肝機能に着目し、Xの肝機能が悪化した場合には、専門医療機関を紹介する必要があるとの意思を有していた

Yは、Xの肝機能が悪化した場合には、肝臓専門の医療機関を紹介する診療契約を締結したと認定。

①平成15年6月に実施された血液検査によれば、GOT値がGPT値を上回るような数値でないものの、GOTが97、GPTが166といずれも急激に上昇しており、肝硬変への進行が疑わる数値が表れている
②A医師自身も、前記検査結果を受けてカルテに「肝機能←」と記載

平成15年6月の時点で、XをG等の肝臓の専門医療機関に紹介すべき義務があったのに、これに違反した債務不履行がある。

Yの債務不履行とXの肝硬変及び肝がん罹患との因果関係について、
平成15年6月の時点でXが肝臓の専門医療機関において治療を受けていれば、少なくとも、肝がんへの進行時機を遅らせることができたとして因果関係を肯定

損害については、4割の過失相殺
⇒954万円余の限度で請求の一部を認容。
 
<解説>
医師は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準に従った診療を行うべき注意義務を負っている。

医師が自ら医療水準に応じた診療をすることができないときは、医療水準に応じた診療をすることができる医療機関に患者を転送する義務がある
(最高裁)。 

判例時報2332

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月 6日 (日)

自動車事故での傷害保険契約の保険金の支払請求(否定事案)

名古屋地裁H28.9.26      
 
<事案>
本件法施行後の平成23年10月に発生した、カーブした山道を走行中崖から車両ごと転落して運転者Aが死亡⇒X(会社、事故当時の代表取締役A)と保険会社Yとの間で、保険法施行前に締結され、毎年自動継続されてきた、Aを被保険者とする普通傷害保険契約に基づき、XがYに対し、保険金の支払を請求。
約款では、保険金の支払事由
「被保険者が急激かつ偶然な外来の事故により傷害を被ったこと」と定め、
他方、
被保険者の故意又は重大な過失によって生じた傷害免責事由と定めている。
 
<原告>
被保険者の故意又は重大な過失によって生じた保険事故を免責事由とする保険法下の障害疾病定額保険契約に適用される約款の解釈について、かかる保険法の規定の内容等が斟酌される⇒最高裁H14.4.20の判示するところは妥当しないのであり、原告において事故の偶然性の主張・立証をする必要はない。 
 
<規定>
保険法 第八〇条(保険者の免責)
保険者は、次に掲げる場合には、保険給付を行う責任を負わない。ただし、第三号に掲げる場合には、給付事由を発生させた保険金受取人以外の保険金受取人に対する責任については、この限りでない。
一 被保険者が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたとき。
二 保険契約者が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたとき(前号に掲げる場合を除く。)。
三 保険金受取人が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたとき(前二号に掲げる場合を除く。)。
四 戦争その他の変乱によって給付事由が発生したとき。

<判断> 
事故の偶然性の主張立証責任について 
保険金請求者側が主張立証責任を負う

①保険法は、傷害疾病定額保険については、「人の傷害疾病に基づき」一定の給付を行うと定義するのみであるから、保険契約において、急激性、外来性の3要件を充足する事故のみを保険事故たる傷害の原因事故と定めたうえ、それにより生ずる傷害のみを保険保護の対象とすることは、保険法の定めに反するものではない。
②保険約款において、「傷害」について、急激かつ偶然な外来の事故によって被ったものであることを保険金給付事由と定めている以上、保険金請求者側において、発生した事故が急激かつ偶然な外来の事故であることの主張立証責任を負う。
③その場合、故意免責の規定は確認的な規定と解さざるを得ないが、保険法80条1号は任意規定とされているから、直ちにこれに反するわけではない
 
●本件事故の偶然性 
①本件事故現場の道路脇に設けられた待機所に設置されたコンクリートブロック(崖への転落防止用擁壁)の損傷状態、②現場のわだちの跡、③本件事故後の車両の破損状況、④Xの経営状況、⑤事故前のAの状況、⑥事故日前後のAの言動等を検討。

①②③⇒Aは、本件事故現場付近でいったん道路のカーブに沿って右にハンドルを転把し、夜間の照明もない山道において、最高速度を10キロメートル程度上回る高速で走行したうえ、緩やかに左ハンドルを転把してコンクリートブロックに衝突したもので、意図的にダム湖に向かうようにハンドル操作をしたと認定できる
⇒本件事故が外形的に見て事故であるといえるような事故態様であったとはいえない。

Xの経営状況(倒産の危機に瀕していたとなどとは言えない。)、Aの事故前後の行動状況(本件事故後の予定も組まれていた等)など⇒Aが自殺する意図を有していたとまでは言えない。
but
Aは当時Xの業績の変動等から相当のストレスを受けていたと考えられること等から、およそ自殺を考えるような状況になかったとも言えない。

結局、本件事故については、急激かつ偶然のものとは認め難い(外形的に見て事故であることの立証がされれば、急激かつ偶然の事故であることについて一応立証がされたとする立場に立ったとしても、本件では、外形的に見て事故であるとの立証がされたとも言えない。)として、Xの請求を棄却。
 
<解説>
●保険法制定前の商法には傷害疾病定額保険契約について規定はなく、約款において規律されるものとなっていたところ、
約款において、
被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して保険金を支払うものとされる一方、
被保険者の故意、自殺行為によって生じた傷害に対しては保険金を支払われないものと定められていた事案につき、
平成13年最高裁判決:
前記約款に基づき死亡保険金の支払を請求する場合における自己の偶然性の主張立証責任は保険金を請求する者が負うとし、故意による場合の免責の規定は確認的注意的なものにとどまる旨判示。
(なお、同日付の最高裁判決は、生命保険契約に付加された災害割増特約についての約款に基づき災害死亡保険金を請求する場合、請求する側が発生した事故の偶然性について主張・立証責任を負うと判示。) 

①保険法では、傷害疾病定額保険契約を「人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行うことを約するもの」とだけ定義し、かつ、
②被保険者の故意により給付事由を発生させたことを免責事由として定めている

被保険者の故意による自己招致(偶然性の不存在)は抗弁として位置づけられるので、平成13年最高裁判決の判断は保険法下では維持できないという考え方もあり得る。

● 約款の規定の仕方から保険金請求者の側において偶然性の主張立証責任を負うと解すると、保険金請求者の側に困難を強いる。

平成13年最高裁判決は、立証の程度の問題について、保険金請求者側の負担を軽減する判断手法を用いることを否定するものではないとし、
人は一般に自ら自分を傷つけるものではないという人の自己保存本能に基づく経験則が存在する⇒保険金請求者側において、外形的にみて事故であるということ(例えば、道路から車が湖に転落したこと)が立証できれば、事故が偶然であることが事実上推定される
②これに対し、保険者が、事故の偶然性を争うためには、自殺を真に疑わせる事項を立証する必要がある
③保険者がこの立証をした場合には、保険金請求者は、この疑念を反ばくするに足りる程度の立証をする必要があり、これができなければ、偶然性の立証はされなかったことになる
とする見解が有力に主張。

● 本件事故の偶然性の判断については、自殺の動機という面からはあまり決定的なものは見当たらず、現場のコンクリートブロックに残されていた損傷という客観的状況から推定される車両の進行状況から意図的に左にハンドルを切って路外に高速で進行したという判断が導かれたことが決定的。 

判例時報2332

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月 5日 (土)

起立斉唱拒否等を理由に再任用教職員採用選考不合格⇒国家賠償請求

大阪地裁H28.12.12      
 
<事案> 
起立斉唱拒否等を理由に再任用教職員採用選考不合格⇒国家賠償請求
 
<判断>
先例(最高裁H23.5.30)に基づき、本件指導はXの歴史観・世界観を否定するものではないXの思想及び良心の自由を直ちに制約せず、また、本件指導及び本件不合格は、Xの思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面はあるものの、本件指導の目的及び内容並びに制約の態様等を総合的に較量すれば、前記制約を許容し得る程度の必要性と合理性が認められる

自己申告票については教職員に特定の世界観や人生観等、個人の人格形成に必要ないしはそれと関連のある事項の記載をさせるものとは認められない

本件所為及び自己申告票を提出しなかったことを本件不合格事由としたことについては、憲法19条に違反しない
 
本件不合格に当たって、Xには本件所為のほか、その後の職務命令違反行為や自己申告書の不提出等複数の事由の存在が認められる

他の教員と事情が同じであるとは認め難い

本件不合格は憲法14条に違反しない。

 
①本件指導は児童に対するものではない、②本件不合格はXの行為を理由にするもの⇒それぞれは児童の権利を侵害しない。 

教育の自由は現行法規の体系下での教育を実施する上で認められるところ、本件不合格はXの行為を理由とするもの
教師の教育の自由を侵害しない
 
①再任用の合否や採否の判断に関しては、市教委に広範な裁量権が認められているところ、②Xに係る各事情はXの教育公務員としての適性に疑義を抱かせるもの⇒これらの事情を考慮してXを不合格・不採用とすることに裁量権の逸脱・濫用はない。
 
<解説>
最高裁は、不規律等の職務命令違反を理由とする懲戒処分における裁量論の判断枠組を示している(最高裁H24.1.16)が、他方で、不起立等をした教員に対する再任用について裁量論のそれを示していない。

下級審では、
再任用についての教育委員会の広範な裁量を認めつつ、
「不合格等の判断が客観的合理性や社会的相当性を著しく欠く場合には」裁量権の逸脱・濫用を認めるべきという判断枠組を示した判決(東京地裁H27.5.25)。

この枠組みを踏まえ、不起立等の行為が消極的な態様で、その程度が重大であることの客観的な説明ができない
行為の非違性を不当に重く扱う一方で他の具体的な事情を考慮することがなかったものとして、教育委員会の不合格の判断は、客観的合理性及び社会的相当性を欠き、裁量権の逸脱・濫用に当たるとされた事例(東京高裁H27.12.10)。

判例時報2332

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月 3日 (木)

宗教法人との間の根抵当権設定契約が内部手続がとられていないことを理由に無効とされた事例

高松高裁H28.11.25      
 
<事案> 
Y銀行が、Aとの間の銀行取引等に基づきAが負担すべき債務を担保するために、Aが代表者である宗教法人Xが有する不動産につき、Xとの間で根抵当権設定契約を締結し、同設定登記を経由したところ、Xが、本件設定契約は利益相反取引であるにもかかわらず宗教法人法及びXの規制に定められた手続を欠くからその効力を生じない⇒Y銀行に対し、前記不動産の所有権に基づき妨害排除請求として、根抵当権設定登記の抹消登記手続を求めた。 
 
<規定>
宗教法人法 第21条(仮代表役員及び仮責任役員)
代表役員は、宗教法人と利益が相反する事項については、代表権を有しない。この場合においては、規則で定めるところにより、仮代表役員を選ばなければならない。

宗教法人法 第23条(財産処分等の公告)
宗教法人(宗教団体を包括する宗教法人を除く。)は、左に掲げる行為をしようとするときは、規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、第十九条の規定)による外、その行為の少くとも一月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない。但し、第三号から第五号までに掲げる行為が緊急の必要に基くものであり、又は軽微のものである場合及び第五号に掲げる行為が一時の期間に係るものである場合は、この限りでない。
一 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること
 
<事実>
Xの規則には、これらの宗教法人法の規定と同旨の規定が置かれている。
また、Xが解散したときには、その残余財産が原則として現代表役員(A)に帰属することが定められている。 
 
<判断>
特に、包括宗教団体の代表者作成の承諾書面やX内部で公告手続がされたことを証する旨の信者作成の書面については、Y銀行の担当者が作成した原稿をAの責任役員等ではなくB社の従業員に交付して関係者の署名押印を求めるという経緯で作成されたものであった上、実際には公告手続がとられていなかったこと、Xの規則20条が定める責任役員会の同意手続がとられていなかったことを認定。
 
本件設定契約が利益相反取引に当たるにもかかわらず宗教法人法及びXの規制が定める仮代表役員選任の手続を経ていないから無効であるところ、

金融機関であるY銀行が本件設定契約の締結が利益相反取引に当たることを看過していたこと、
②Xに対するAの影響力が大きく、解散時の残余財産がAに帰属する旨がXの規則に定められているなどの事情は認められるものの、Xが宗教法人としての実態を有しており、A個人は別の法主体として固有の保護法益が認められること
③本件設定契約の締結手続に関して作成された前記各書面も前記認定の経緯で作成されたものである上、実際には公告手続がとられておらず公告がされたか否かについては外部からの確認も容易であったにもかかわらずY銀行が何らの確認もしていない等の事情

前記各書面の交付を受けたことによりY銀行の信頼を重視すべきとは認められない
⇒Xの請求を認容

判例時報2332

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

不特定多数の消費者に向けられた働きかけと消費者契約法12条の「勧誘」(肯定)

最高裁H29.1.24       
 
<事案>
消費者契約法2条4項の適格消費者団体であるXが、健康食品の小売販売を営むYに対し、Yが自己の商品の原料の効用等を記載した新聞折込チラシを配布することが、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、いわゆる不実告知(法4条1項1号)を行うことに当たると主張⇒法12条1項及び2項に基づき、新聞折込チラシに前記の記載をすることの差止め等を求めた事案。

<規定>
消費者契約法 第一二条(差止請求権)
適格消費者団体は、事業者、受託者等又は事業者の代理人若しくは受託者等の代理人(以下「事業者等」と総称する。)が、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第四条第一項から第三項までに規定する行為(同条第二項に規定する行為にあっては、同項ただし書の場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者等に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法及び商法以外の他の法律の規定によれば当該行為を理由として当該消費者契約を取り消すことができないときは、この限りでない。

2適格消費者団体は、次の各号に掲げる者が、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第四条第一項から第三項までに規定する行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該各号に定める者に対し、当該各号に掲げる者に対する是正の指示又は教唆の停止その他の当該行為の停止又は予防に必要な措置をとることを請求することができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。

消費者契約法 第四条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)

消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

<争点>
本件チラシの配布が法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たるか否か?
 
<原審>
「勧誘」には不特定多数の消費者に向けて行う働きかけは含まれないところ、本件チラシの配布は新聞を購読する不特定多数の消費者に向けて行う働きかけ。
⇒前記の「勧誘」に当たるとは認められない。 
 
<判断>
事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしてもそのことから直ちに「勧誘」に当たらないということはできない
⇒原審の前記判断には法令の解釈適用を誤った違法がある。 
but
その事実関係からは、法12条1項及び2項にいう「現に行い又は行うおそれがある」とはいえない
⇒原審の判断は結論において是認することができる。
⇒原告の上告を棄却。
 
<解説>
そもそも、法は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、消費者の利益の擁護を図ること等を目的として(1条)、

事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、消費者の意思形成に不当な影響を与える一定の行為をしたことにより、消費者が誤認するなどして消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をした場合には、当該消費者はこれを取り消すことができることとし(4条1項~3項、5条)
さらに、一定の要件の下で適格消費者団体が事業者等に対して前記行為の差止め等を求めることができることとするもの(12条1項及び2項)。

事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により働きかけを行うときは、その働きかけが個別の消費者の意思形成に直接に影響を与え、これにより当該消費者が誤認するなどして消費者契約を締結することもあると考えられる

事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を「勧誘」に当たらないとして法の適用対象から一律に除外することは、前記の法の趣旨目的に照らし相当とはいえない。

判例時報2332

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月 1日 (火)

相続税の節税のための養子縁組と縁組意思(民法802条1号)

最高裁H29.1.31      
 
<事案>
亡Aの長女であるX1及びAの二女であるX2が、Aの孫であるYに対して、AとYとの間の養子縁組は縁組をする意思を欠くものでると主張⇒養子縁組の無効確認を求めた。 
 
<規定>
民法 第802条(縁組の無効) 
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき
 
<原判決>
本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであり、かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たる。
⇒Xらの請求を認容。
 
<判断>
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない
 
<解説>
本判決は、相続税の節税のために養子縁組をすることは、節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るもの

専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないと判断。

借養子縁組を無効とした最高裁昭和23.12.23:
たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があったとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないときは、養子縁組は効力を生じない

相続税の負担軽減のための便法として、養子縁組を仮装したような場合には、養子縁組が無効となるものと思われる。

「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はない」との説示で、縁組意思が存在する旨の積極的な認定、説示はされていない。

養子縁組の無効確認の訴えにおいて、縁組意思がないことについては、縁組の無効を主張する原告に証明責任があるという見解に立ったものと思われる。

相続税法上、遺産に係る基礎控除額の算定の際に、相続人の数に算入される養子の数は、実子がいれば1人、実子がいなくても2人まで(同法15条2項)。
その制限内の人数の養子であっても、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、その養子の数をその遺産に係る基礎控除額算定上の相続人の数に算入しないで更正又は決定できる(同法63条)。

相続税の節税のための養子縁組が直ちに無効とならないとしても、相続税の節税効果が得られるとは限らない。

判例時報2332

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年7月 | トップページ | 2017年9月 »