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2017年8月11日 (金)

GPS捜査の適法性大法廷判決

最高裁H29.3.15      
 
<事案>
広域集団窃盗・建造物侵入等被告事件について、車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査の適法性が問題とされた事案。 
GPSを利用した捜査には、携帯電話・スマートフォンのGPS機能を利用して携帯電話等の位置情報を電話会社等から検証許可状の発付を受けて取得する方法があり、実務上も行われているが、本判決はこれには触れない。
 
<一審>
本件GPS捜査は検証の性質を有する強制の処分(刑訴法197条1項但書)に当たり、検証許可状を取得することなく行われた本件GPS捜査には重大な違法がある⇒本件GPS捜査により直接得られた証拠及びこれに密接に関連する証拠の証拠能力を否定
but
その余の証拠に基づき被告人を有罪とした。
   
被告人が控訴
 
<原審>
その余の証拠についても証拠能力を否定すべきという控訴趣意をいずれも排斥。
本件GPS捜査に重大な違法があったとはいえないと説示。
 
<争点>
GPS捜査の強制処分性及び令状主義(憲法35条)との関係
強制処分性が肯定される場合、現行刑訴法上の強制処分との関係(GPS捜査が「現行刑訴法上の」強制処分といえるかという問題) 
 
<規定>
憲法 第35条〔住居侵入・捜索・押収に対する保障〕
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
②捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

刑訴法 第197条〔捜査に必要な取調べ、照会、通信履歴保管命令等〕
捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない
 
<判断>
上告趣意のうち、憲法35条違反をいう点は、原判決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであり、その余は、適法な上告理由に当たらない。
but
所論に鑑み、
論点①について
車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器その所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり、令状がなければ行うことができない強制の処分である

論点②について
GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付ことには疑義がある。
GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な操作方法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。
 
<解説>
●GPS捜査の強制処分性及び令状主義との関係
強制処分性が問題とされた捜査手法:
①公道上における写真撮影
②人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるビデオ撮影
~強制処分性否定

③刑訴法222条の2制定前の電話傍受
④宅配運送の過程下にある荷物の外部からのエックス線検査
~強制処分性肯定

判例上、強制処分とは、
「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」(最高裁昭和51.3.16)

本判決:
GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを必然的に伴う

個人のプライバシーを侵害し得るものであり、
また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべき。

本判決が、GPS捜査について令状が無ければ行うことができない強制の処分と結論付けた理由:
憲法35条は、『住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利』を規定しているところ、
この規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。
 
●現行刑訴法上の各種強制処分との関係
本判決:
GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の『検証』と同様の性質を有するものの
対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において、『検証』では捉えきれない性質を有することも否定し難い。

検証に「必要な処分」(刑訴法129条)としても説明しきれないとの意味。

本判決:
GPS捜査は、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある。

令状主義の趣旨:
被疑事実との関連で必要性のある処分であるか否かを裁判官に事前審査させるとともに、
捜査機関に対し権限行使の具体的範囲をあらかじめ令状に明示させることにより、捜査権限の恣意的行使を抑制するところにあると解されている。

GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴う⇒把握される情報の中には被疑事実と関係のない行動に関するものが必然的に含まれる。
その中には将来の犯罪に関するものも含まれるが、そのような将来の犯罪の強制捜査は、刑訴法上は想定されておらず、これを許容するためには特別の立法が必要と解される。

本判決:
GPS捜査は、被疑者らに知られる秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状提示を行うことは想定できない
刑訴法上の各種強制の処分については、手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項、110条)、
他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても、これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは、適正手続の保障という観点から問題が残る。

本判決:
これらの問題を解消するための手段として、一般的には、実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等様々なものが考えられるところ、、捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし、第一次的には立法府に委ねられていると解される。

仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば、以上のような問題を解消するため、裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じるが、事案ごとに、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは、『強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない』と規定する同項ただし書の趣旨に沿うものとはいえない

令状請求を受けた裁判官がGPS捜査を可能にするために刑訴法上の令状を発付することは基本的に想定していない。

判例時報2333

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