インサイダー取引事案。金商法施行令の「公開」の意義。リーク報道がされた場合のインサイダー取引規制。
最高裁H28.11.28
<事案>
経済産業省大臣官房審議官であった被告人が、職務上の権限の行使に関し、上場会社であるNECエレクトロニクス㈱の業務執行を決定する機関が、株式会社ルネサステクノロジと合弁することについての決定をした旨の重要事実を知った⇒その公表前に、NECエレクトロニクス社の株券合計5000株を代金合計489万7900円で買い付けたというインサイダー取引の事案。
本件の重要事実であるNECエレクトロニクス社とルネサステクノロジ社の合併に関する意思決定は、両社及び親会社の連名により、平成21年4月27日に適時開示されているところ、これに先立つ同月21日から同月27日の間に、被告人はNECエレクトロニクス社㈱の購入を行った。
<解説>
金商取引法(塀絵師23年法律第49号による改正前のもの)166条4項及びその委任を受けた金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条は、インサイダー取引規制の解除要件である重要事実の「公表」の方法を、
(1)有価証券届出書・報告書等の、公衆の縦覧
(2)報道機関(2以上を含む報道機関に対して公開)し、12時間経過
(3)取引所への通知と公衆への縦覧(適時開示)
<弁護人主張>
平成21年4月16日付け日本経済新聞朝刊及びそれに引き続く一連の報道において、本件の重要事実を内容とする情報源不明のリーク報道
⇒
論点①本件重要事実は、施行令30条1項1号に基づき公表され、法166条1項によるインサイダー取引規制の対象外となった可能性が高く、少なくともかかる方法により公表されていないことにつき検察官が立証責任を果たしていない。
論点②本件重要事実は、一連のリーク報道により公知の状態に⇒法166条所定の「重要事実」性を喪失し、インサイダー取引規制の効力が失われていた。
<判断>
法令上、重要事実の公表の方法として限定的かつ詳細な規定が設けられた趣旨:
「投資家の投資判断に影響を及ぼすべき情報が、法令に従って公平かつ平等に投資家に開示されることにより、インサイダー取引規制の目的である市場取引の公平・公正及び市場に対する投資家の信頼の確保に資するとともに、インサイダー取引規制の対象者に対し、個々の取引が処罰等の対象となるか否かを区別する基準を明確に示すことにあると解される。」
論点①について:
かかる法令の趣旨に照らせば、施行令30条1項1号の方法は、
「当該報道機関が行う報道の内容が、同号所定の主体によって公開された情報に基づくものであることを、投資家において確定的に知ることができる態様で行われることを前提としていると解される」
「情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達は、たえその主体が同号に該当する者であったとしても、同号にいう重要事実の報道機関に対する「公開」にあは当たらない」
⇒本件において同号に基づく、「公開」はされていない。
論点②について:
所論のような解釈は「当該報道に法166条所定の「公表」と実質的に同地の効果を認めるに等しく」、「公表の方法について限定的かつ詳細な規定を設けた法令の趣旨と基本的に相容れない」とした上、
「会社の意思決定に関する重要事実を内容とする報道がされたとしても、情報源が公にされない限り、法166条1項によるインサイダー取引規制の効力がうしなわれることはない」
と判示。
<解説>
最高裁判例が存在しない方166条4項の「公表」を巡る論点のうち、リークないしリーク報道とインサイダー取引規制の効力の関係について初判断を示したもの。
判例時報2331
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