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2017年7月 4日 (火)

天候の悪化による遭難事故についての登山の引率者の過失責任が問われた事例

<事案>
天候の悪化による遭難事故についての登山の引率者の過失責任が問われた事例。 
 
<判断・解説> 
●結果の予見可能性 
◎ 
①過失責任を問うためには、普通に注意していれば天候の悪化による遭難事故の発生を予見することができたにもかかわらず、必要な注意を欠いてその予見をせずに登山を続行した、といえることが必要。
遭難事故となる危険性のあるような天候の悪化が予見できれば、遭難事故を避けるために登山を中止することが期待できる

過失判断の前提としての予見の内容としては「遭難事故となる危険性のあるような天候の悪化の可能性」でたり、それ以上に「現に生じたような著しい天候の悪化の可能性」は予見の対象とならないというべき。

一審判決が、現実の因果的経過を逐一予見することまでの必要はなく、ある程度抽象化された因果的経過を予見することが可能であれば十分といえると判断したのと同様の理解により、その判断を是認。

◎過失犯の成立要件の予見可能性:
具体的予見可能性説(構成要件該当事実の具体的予見可能性が必要であるとする見解)が判例・通説。

どの程度まで結果発生の危険が認識可能であれば予見可能性を肯定してよいかが問題。 

判例:
予見の対象としての因果経過はある程度具体的なものである必要があるものの、現実結果発生に至る因果の経過を逐一具体的に予見することまでは必要ではなく、ある程度抽象化された因果経過(「因果関係の基本的部分」)が予見可能であれば、過失犯の成立要件としての予見可能性が認められる
 
●結果回避義務 
◎本件における結果の予見可能性の内容⇒被告人には、遅くとも、被害者らの生命、身体に対する危険を生ずる結果を回避することが可能であったと認められる尾根の途中で、登山を中止して避難小屋に引き返すなどの対応をとる義務があったというべきであるとして、これを肯定。

結果回避義務の検討にあたり、「優良登山ツアーでは、登山者が自己の責任で行う通常の登山の場合と異なり、登山者は、登山中の安全の確保についてツアーの引率者に依存するところが大きいと考えられる」

引率者が、引率の対価を得る有料の企画か否かも、責任の有無に関係している可能性。
 
◎過失犯の正否の検討:
結果から遡って、結果と因果関係が認められる過失行為を抽出した上で、行為者の結果回避義務の存否及び内容を検討していく方法。
その内容として複数のものを考え得ることもある

判例時報2328

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