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2017年7月 9日 (日)

私立学校で旧姓の使用と損害賠償を求める請求

東京地裁H28.10.11      
 
<事案>
私立学校において、同校に勤務する教員が婚姻前の氏(旧姓)を通称として使用することを拒否された⇒同教員が同学校法人に対し、旧姓の使用を求めるほか、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を求める事案。 
婚姻前の氏(旧姓)を通称として使用することを拒否されたXは、Yに対し、
妨害排除請求(ないし予防請求)として、時間割表、生徒出席簿、生徒指導要録、成績通知票、生徒及び保護者に対する書面による通知、業務用ソフトへの登録氏名、タイムカード、年次有給暇届並びに出張願(届)において、Xの氏名として旧姓を使用することを求めるほか、
損害賠償請求として、慰謝料110万円及び弁護士費用相当の損害金11万円の合計121万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める本件訴訟を提起。
 
<争点>
①Yに対してXの婚姻前の氏を使用することを求めることの可否
②Yによる不法行為の有無
③Yによる労働契約法上の付随義務違反の有無
④Xの損害 
 
<判断>   
XがYに対してXの婚姻前の氏を使用することを求めることはできない⇒YのXに対する不法行為(使用者責任)は成立しない
YのXに対する労働契約法上の付随義務に違反するところもない
⇒Xの請求を棄却。

●Yに対して婚姻前の氏を使用することを求めることの可否及びYによる不法行為の有無

最高裁昭和63.2.16:
氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する。

最高裁昭和61.6.11:
人は、その氏名を他人に冒用されない権利を有しこれを違法に侵害された者は、加害者に対し、損害賠償を求めることができるほか、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる

氏名が上記の識別特定機能、個人の人格の象徴等の性質を有する⇒氏名を自ら使用することが、いかなる場面で、いかなる目的から、いかなる態様で妨害されたとしても法的な救済が一切与えられないとすることは相当ではなく、その意味で、氏名を自ら使用する利益は、民法709条に規定する法律上保護される利益であるというべきである。
氏は、氏名を構成する要素⇒それを自ら使用する利益についても、上記と同様の意味で、法律上保護される利益ということができる

以上の議論は、まずは戸籍上の氏名、氏について当てはまるところ、婚姻前の氏についても、同様にそれを使用する利益が法律上保護される利益をいえるか否かは措くとしても、少なくとも、上記の意味で、法律上保護される利益であるということができ、これを違法に侵害した場合には不法行為が成立し得ると解するのが相当。
とはいえ、本件のように職場という集団が関わる場面において職員を識別し、特定するものとして戸籍上の氏の使用を求めることには合理性、必要性が認められるということができるだけでなく、婚姻後に通称として婚姻前の氏を使用する利益は、・・・婚姻前に戸籍上の氏のみを自己を特定するものとして使用してきた期間における当該氏を使用する利益と比して、それと同程度に大きなものであるとはいえないところ、いまだ、婚姻前の氏による氏名が個人の名称として、戸籍上の氏名と同じように使用されることが社会において根付いているとはまでは認められない

通称として婚姻前の氏を使用する利益は一般的には法律上保護される利益であるということができるが、本件のように職場が関わる場面において戸籍上の氏の使用を求めることは、その結果として婚姻前の氏を使用することができなくなるとしても、現時点でそれをもって違法な侵害であると評価することはできない

不法行為の成立、人格権に基づく妨害排除(予防)請求を否定

●Yによる労働契約法上の付随義務違反の有無 
Yの上記行為が業務命令に該当するとしても、Xが婚姻前の氏を使用することができないことの不利益を考慮してもなお、上記の合理性、必要性を以て、当該業務命令の適法性を基礎付けるに足りる合理性、必要性が存するというべき。
Yが労働契約上の付随義務に違反したとは認められない

判例時報2329

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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