オレオレ詐欺に係る詐欺保護事件における少年院送致の処分が著しく不当であるとされた事例
東京高裁H28.6.15
<事案>
被害者から400万円を詐取したといういわゆるオレオレ詐欺の事案。
少年は受け子として関与。
家庭裁判所は、非行事実を認め、第1種少年院に送致。
⇒原審付添人が、事実誤認と処分不当を理由に抗告
⇒東京高裁は、事実誤認の主張は排斥したが、処分不当の主張を容れ、原決定を取り消して家裁に差し戻し。
<家裁>
①本件の組織性・計画性
②子を思う親の心理に付けこむ犯行態様の悪質性
③被害額が比較的高額
④少年が現金授受という犯罪完成に不可欠の役割を果たしたこと
⑤少年の犯意が強いこと
⑥それにもかかわらず、少年の問題意識が高まっていない
⇒
少年の要保護性は大きいと判断し、第一種少年院に送致。
①少年の前歴が審判不開始1件
②母親と同居して高校に通っている
⇒
非行性が進んでいるとまではいえないとして、短期間の処遇勧告を付した。
<本決定>
①本件は、少年がすぐに逮捕され被害金が還付されていることから実質的には未遂に近い事案。
②オレオレ詐欺が重大な犯罪であり、それに関与する非行も軽視できないが、常に施設内処遇が必要であるとはいえない。
③少年は、詐欺の方法などの犯行の全容を知らされておらず、約束された報酬も低額にとどまっており、共犯者の中では末端に位置するものと評価される。
④少年の関与の程度や期間に照らすと、本件が社会内処遇得が許されないほどの重大な非行であるとは必ずしもいえず、非行性の程度や保護環境等を十分検討したうえで処遇を選択すべき。
具体的事実を挙げて、
少年は、過去にある程度の生活の乱れがあったものの、それ以外は、通学し、補導されることもなく生活をしていた⇒審判不開始となった前歴等を考慮しても、少年の非行性が深まっているとはいえず、本件のような悪質な非行を繰り返す危険性があるとはいえない。
少年の保護環境の検討に移り、
母親及びその交際相手と少年との関係、母親の指導力、在籍高校への通学可能性を検討して、少年の保護環境にも大きな問題はない。
家庭裁判所が重視した、少年の自己の問題点や犯罪への問題意識が十分に高まっていない点についても、少年の非行性を程度等から見て、社会内資源を活用して認識を深めさせることで対応できる。
⇒
家庭裁判所の説示は、本件非行の重大性をやや厳しくとらえすぎている上、少年の非行性の程度についても検討が不十分であり、結論としての少年院送致という処分は著しく不当なものとなっている。
⇒原決定を取り消して、本件を家庭裁判所に差し戻した。
判例時報2331
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