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2017年7月19日 (水)

消防吏員に対する懲戒処分が取り消された事例

東京高裁H28.6.30      
 
<事案>
Y(大和市)の消防吏員として勤務していたXが、Yの消防庁から平成24年11月30日付で懲戒停職6月の処分⇒その取消しを求めた。 
 
<原審>
●Xの行為が横領に該当するか 
標準貸与期間を徒過した貸与品についても、Yの所有物であり、X自身の廃棄処分にするか退職時に返還するかを委ねられているにすぎず、X・Y間の貸与品に係る委託関係は継続
⇒インターネットオークションに出品・売却することは、上記委託の趣旨に反してYの所有物を不法に領得したもの⇒横領に該当。
 
●本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか 
最高裁判決(最高裁昭和52.12.20)を参照し、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、
懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り処分が違法であると判断すべき。
具体的な考慮要素として、
①本件行為の原因、動機、②本件行為の性質、③本件行為の態様、影響、④本件行為の結果を検討。

①は強く非難されるべき、
②は、Yの貸与品の管理状況に鑑みれば、「委託関係に反した点における違法ないし非行の程度は軽いもの」であり、
③は、本件行為が「消防吏員としての職務遂行に直接関わるものでなく」、「公務に対する信用を直ちに失墜させるおそれがあったものとはいえ」ず、
④は、Yに「経済的損失はなかった

本件行為は、「横領の類型の中では、かなり軽い部類に属するものというべき」。

Xは過去に非違行為や懲戒処分を受けたことがない

本件処分は、「重きに失し、社会通念上著しく相当性を欠」き、Y職員の懲戒処分に関する指針に照らしても、本件処分は「裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものとして違法」
 
<判断>
原判決を基本的に支持し、控訴棄却。
原判決に補足し、
①Yにおける貸与品亡失届出書の提出件数は少なく、「損傷等した貸与品の届け出をするかどうかは、貸与を受けた者の自由に任されていた」こと
②編上げ靴は、一般に販売されているもの
③「標準貸与期間が経過した本件編上げ靴は、その時点で、一段と・・委託関係が緩やかになったと見ることができ」、Xにおいて「自らの判断により破棄することも可能であった物品という意味では、私物に近い存在であった」
④Xは、「当初から職務に使用する意思がなく、インターネットオークションに出品、売却して利益を得る意図のもとに貸与を受けたものではな」く、計画的、意図的な行為ではない

違法ないし避難の程度は軽く、違反の程度は軽微」である。
 
<解説>
公務員の懲戒処分の裁量権濫用をめぐる判断に関しては、
「社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合」に処分が違法となるのが判例であるが、
本件では、とりわけ「処分の相当性」が主な争点となった。 

編上げ靴についての横領の成立は認めつつも、前記のYの貸与品管理状況等から、標準貸与期間が経過している貸与品の横領については、違反の程度が軽微であるとして、本件処分は重すぎると判断

判例時報2330

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