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2017年7月22日 (土)

再審請求を認めなかった原審が請求人に対する不意打ち・審理不尽とされた事例

大阪高裁H28.3.15      
 
<事案>
2人組の郵便局での強盗。
AがBと共謀して強盗に及んだとして公訴提起。
Aは犯行への関与を否定し、本件はBとCによる犯行であると主張。
Bは、自ら警察に出頭して、Cから金を取る話を持ちかけられ、Cと一緒に郵便局に入って犯行に及んだ」と述べていた。 
 
<確定審 一審>
強盗事件の局面における事実とAの領域における事実を対比する形で複数の間接事実として指摘⇒AとBの密接な関係をも考慮すると、AがBの共犯者として本件強盗を敢行したことが強く推認される。
「共犯者はCである」とのBの証言及び「自分にはアリバイがある」とのAの供述は信用できない。
A以外の者がAの管理下にある倉庫内の車両を使用し、証拠物を倉庫内に隠匿したとの合理的な疑いが生じ得る事情はない。

Bとともに強盗を行ったのはAであると認定し、Aを懲役6年に処した。

控訴上告も棄却され、確定。 
 
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。

刑訴規則 第286条(意見の聴取)
再審の請求について決定をする場合には、請求をした者及びその相手方の意見を聴かなければならない。有罪の言渡を受けた者の法定代理人又は保佐人が請求をした場合には、有罪の言渡を受けた者の意見をも聴かなければならない。
 
<再審請求審原審>
確定審ではAが実行犯人か否かが争点とされたが、再審請求審において再審開始の事由があるとするためには、弁護人が提出した証拠と確定審で取り調べられた証拠とを総合評価して、Aが実行犯人であると認定した確定判決に合理的な疑いを生じさせるだけでは足りず、Aが犯人であることに合理的な疑いを生じさせることが必要。

確定判決の証拠構造を整理し、間接事実のうち最も重要なのは「強取された現金全額が事件発生後短時間のうちにAが管理権限を有する倉庫に持ち込まれたこと」であり、この事実からAが犯人の一人であることがかなり強く推認されるが、これだけでは実行犯人の1人であることまでは推認できず、Aが実行犯人ではない共犯である可能性が残る。

次いで重要なのは「犯人が逃走に使った自動車が短時間のうちに本件倉庫に持ち込まれ、ナンバープレートに罪証隠滅工作が施されていたこと」等で、異常を併せると、Aが犯人の1人であることが極めて強く推認される。

提出された証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠であるというためには、①前記の被害現金が倉庫に持ち込まれた事実の認定を覆すに足りる蓋然性があること、または②Aが犯人の1人であるとの強力な推認を妨げる蓋然性があることを要する。
①本件倉庫にA以外の者が立ち入ることができたとしてもAが犯人の1人であるとの推認は揺るがない
②Aが実行犯人でないとしても第三の共犯者が第三者の共犯者が加わることになるに過ぎず、Aが犯人の1人であるとの強力な推認は妨げられない、
③Cが実在するとしても実行犯人の1人がCである疑いに結びつくわけではなく、Aが犯人の1人であるとの強力な推認が妨げられるはずもない。
 
<請求人の主張>
即時抗告し、
再審請求審の審理対象は「確定判決における事実認定」であるからAが実行犯人か否か以外の事実について審理することはできない。
できるとしても訴因変更を要する事実にまで広げることは許されない。 
 
<即時抗告審>
再審請求審が新たな証拠を加えて総合評価した結果、確定判決が認定したのと同一の事実を認定することができないとしても、同一の構成要件に該当する事実や法定刑が軽くない他の構成要件に該当する事実を認定することができる場合には刑訴法435条6号の新たな証拠を発見したことにはならない

再審請求審の審理対象は「確定判決における事実認定」に限定されない。

本件は、確定審において、訴因変更又はその他の不意打ち防止の措置を講じることによって訴因と同一の構成要件に該当する事実を認定することができる場合

再審請求審において、請求人の主張や証拠を検討した結果に基づき、釈明を求め主張を促すなど十分な防御の機会を与えて審理を尽くせば防御の権利を損なうことにならず、実行犯人以外の共犯形態についても審理することができる

共犯の形態が実行共同正犯かそれ以外の共犯かの点、いかなる者との間で共犯関係が成立するのかの点は、再審請求審の審理に当たって請求人の主張の組立てや提出すべき証拠の内容に影響を及ぼすことが考えられる

原審が、実行共同正犯以外の共犯の形態等に関して争点を顕在化させる措置を講じず、主張立証の機会を与えなかったことは、請求人に対し不意打ちを与え、その防御権を侵害する違法なもの

Aの関与なしにA以外の者が本件倉庫に被害現金を隠匿したり犯行使用車両を持ち込んだりすることは考え難いという推認については、そのような管理状態であったことが前提となるはずで、原審がAの管理権限を基礎に推認力を認めたのは論理則・経験則に反する、間接事実の推認力が減殺されるか否かについて弁護人から提出された証拠の信用性を検討しておらず、審理が尽くされていない

実行共同正犯以外の共犯性について弁護人が証拠を提出し、検察官も意見書を提出して信用性を争っていたにもかかわらず、原審は証拠の信用性について検討を加えておらず、間接事実の検討について十分な審理が尽くされていない
⇒原決定を取り消し、審理を尽くさせるために差し戻した。
 
<解説> 
●再審請求審の審理対象 
◎ 有罪の言渡しをした確定判決に対し再審を開始するためには、その言渡しを受けた者に対して無罪等を言い渡すべき明らかな証拠又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したことが必要

再審請求審において、従来の証拠構造に新しい証拠を加えて総合評価した結果、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じ、その認定した犯罪事実と全く同一の事実を認定することができなくなったとしても、ただちに刑訴法435条6号に該当するということにはならない
そのような場合でも、確定判決の認定した事実と同一の構成要件に該当する事実やその事実よりも法定刑が軽くない他の構成要件に該当する事実を認定することができ、かつ、その事実が確定判決の認定した犯罪事実との関係で公訴事実の同一性の範囲内にある場合には、無罪を言い渡すべき又は原判決よりも軽い罪を認めるべき証拠が発見されたとはいえないとした例(福岡高裁H7.3.28)。

公判手続であれば審理の進展に伴い訴因変更を要する事態になるような場合であっても、再審請求審において、公訴事実の同一性の範囲内で審理の対象を広げ、別の犯罪事実を認定し得ることを前提とした考え方。
同事件の特別抗告審(最高裁H10.10.27):
放火の方法のような犯行の態様に関し、詳しく認定判示されたところの一部について新たな証拠等により事実誤認のあることが判明したとしても、そのことにより更に進んで罪となるべき事実の存在そのものに合理的な疑いを生じさせるに至らない限り、法435条6号の再審事由に該当するということはできない

訴因変更の余地については言及していない。

確定判決では被告人と共犯者が共謀して被告人が放火の実行行為をしたと認定されていたところ、再審請求審において新しい証拠を他の証拠と総合すると実行行為をしたのは共犯者であると認められるが、このような場合でも刑訴法435条6号の証拠に当たらないとした例(東京地裁昭和43.7.1)。
 
◎実行共同正犯の訴因で審理が勧められた事案において共謀共同正犯の認定をすることができるかが問題となったケースの公判審理について、被告人の防御に実質的な不利益をもたらす場合には訴因変更の手続を必要とするものと解すべき(大阪高裁昭和56.7.27)。

本決定:
再審請求審の審理の中で、実行犯人であるB及びもう1人の者と請求人との間で共謀関係が成立し、これに基づいてBらが実行に及んだという事実関係を想定し、その事実を推認するための間接事実の位置づけ及び証拠構造の組立てを明確にした上で、請求人に対してこれに対する反論及び証拠提出の機会を与えるべきであった。

公判審理とは構造が異なる再審請求審の手続についても適正手続の保障が及ぶとして、請求人の防御権に配慮し、その意見を十分に酌むことを求めたもの。
 
●再審開始後の訴因変更 
A:刑訴法451条により通常の訴訟手続として更に審判をする⇒必要な限りにおいて当然に許される(大阪高裁昭和37.9.13)。

B:A訴因での有罪認定の誤りを正すために再審請求して認められたらかえってB訴因で有罪の危険にさらされるというのでは利益再審の制度に不利な制約を課すことになる⇒否定説。

強盗事件の公訴事実に記載された特定の日について請求人にアリバイがあるとして再審を開始したとしても、再審の審理手続において、その日ではない別の日の犯行として訴因が変更され、変更された訴因について有罪の言渡しがなされるとしたならば、結局、前記のアリバイの事実もなんら公訴事実について無罪を言い渡すべき理由とはなりえない(東京地裁昭和51.1.14)。
but
その即時抗告審は、犯行日時は証拠により特定済のものであって今後の立証の如何により変更の余地があるとは認められない。
⇒再審証拠の明白性を肯定(東京高裁昭和k55.10.16)。

判例時報2330

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