地方議会での行為と司法審査の範囲
函館地裁H28.8.30
<事案>
Y町の町議会議員である4名が、Y町に対し、
①Y町議会によるXらそれぞれをY町議会懲罰委員会に付託する旨の各決議の無効確認を求め(請求①)
②Y町議会によるX1に対する3日間の出席停止の決議並びにX2、X3及びX4に対する戒告の各決議の無効確認を求め(請求②)
③Xらとは別のY町議会議員3名がXらに係る各町会動議を提出し、その理由を読み上げた行為が、Xらの名誉を毀損するものであるとして、Xら各自に対し、それぞれ慰謝料200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(請求③)
事案
<判断>
●請求①②について
本件各付帯決議及び本件各懲罰決議は、いずれも、XらのY町会議員としての身分を喪失させるものではなく、一般市民法秩序と直接の関係を有しないものであり、内部規律の問題として自治的措置に任せるのが相当
⇒事柄の性質上、司法審査の対象とはならない。
⇒不適法で却下。
●請求③について
本件動議提出行為によってXらの名誉という私権が侵害され、Y町に国賠法上、賠償責任が生じるか否かが問題となっているのであり、これは純然たる内部規律の問題ではなく、一般市民法秩序に関係する問題。
⇒司法審査が及ぶ。
本件動議提出行為は、Xらの名誉を毀損するものであって、一部を除き違法性阻却事由も認められない。
⇒一部認容。
<解説>
●地方議会における決議と司法審査の範囲
裁判所は、日本国憲法に特別の定めがある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判する権利を有する(裁判所法3条1項)が、
法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争を意味するものではなく、事柄の性質上司法審査の対象外とするのを相当とするものがある。
一般市民社会の中にあってこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争については、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのと相当とし、裁判所の司法審査の対象とはならない(判例)。
◎いかなる場合に内部規律の問題にとどまるとされ、いかなる場合に一般市民法秩序と直接の関係を有するとされるか?
最高裁昭和35.10.19:
地方議会の議員に対する懲罰決議のうち出場停止(地方自治法135条1項3号)について、司法審査の範囲外であると判断し、同判例は、傍論ながら、地方議会の議員に対する懲罰決議のうち除名処分(同項4号)については、議員の身分の喪失に関する重大事項で単なる内部規律の問題に止まらないから司法審査の対象となるとしている。
一般市民法秩序と直接の関係を有するとされ、司法審査が許される場合であっても、
当該団体の内部的自立権の尊重という観点⇒司法審査は原則として、処分等が当該団体の内部規範に合致しているか否かという手続面の当否に限定されるべき(最高裁昭和63.12.20)。
●損害賠償請求等と司法審査の範囲
最高裁H6.6.21:
町議会が議員辞職勧告決議等をしたことが名誉毀損にあたるとして国賠請求がなされた事案で、当該議員辞職勧告決議は、私人間の土地所有権をめぐる紛争についての言動を理由とするものであり、これを司法審査の範囲内と判断。
大阪高裁H26.2.27:
公認会計士協会が所属する公認関係しに対し懲戒処分をし、当該処分及び当該処分を会報に掲載したことが名誉毀損にあたると争われた事案。
当該処分となった行為は公認会計士の監査の方法に関するものであり、当該処分及び当該処分を会報に掲載したことが名誉毀損にあたるか否かは、いずれも司法審査の範囲内であると判断。
本件動議提出行為:
Xらの町長に対する不信任の提出に関する地方議会議員としての言動を理由とするもの。
but
①地方議会の議員に対する懲罰決議そのものでなく、その前提としてなされた行為にすぎず、
②その後に可決された本件各付託決議及び本件各懲罰決議の有効性を前提とするものではない。
⇒
本件動議提出行為がXらの名誉を毀損するものか否かについては、議会内部の規律のみにゆだねて解決すべき問題とはいい難く、司法審査が及ぶ事項であると判断。
●地方議会議員が地方議会においてした発言と国家賠償責任
地方議会議員の地方議会における発言が特定個人の名誉を低下させる場合、いかなる要件の下で国賠法1条1項にいう違法な行為があったものとして地方公共団体の責任が生じるか?
最高裁H9.9.9:
国会議員が国会の質疑などの中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言につき、国賠法1条1項の規定にいう違法な行為であったとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法または不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする。
国会議員には、憲法上、免責特権(憲法51条)が認められており、地方議会議員には、明示的に免責特権が認められているわけではない。
⇒地方議会における議員の発言についての名誉毀損が問題となる場合の国賠法1条1項の規定にいう違法な行為であったとして地方公共団体の損害賠償責任が肯定されるための要件として、最高裁H9.9.9以上に厳格な要件が課されることは考え難い。
本判決は、少なくとも前掲最高裁の要件を満たす場合は、地方公共団体の損害賠償責任が肯定されるとし、本件動議提出行為はこれを満たすと判断。
判例時報2331
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