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2017年7月10日 (月)

検察官からの実質証拠として取調べ状況の録音録画記録媒体の取調べ請求の却下等

東京高裁H28.8.10    
 
<事案>
被告人が、B及びCと共謀の上、駐車中の自動車を窃取しようとしたところ、その所有者に発見され、同車を取り返されることを防ぐとともに、逮捕を免れるため、殺意をもって、同社を運転して衝突させるなどして同人を死亡させた⇒強盗殺人罪。
付近で別の車両に乗っていたB及びCは窃盗罪の限度で刑責を問われた。 
被告人は、運転者はBであったとして犯人性を争った

原判決は、弁護人が取調べ請求したBから被告人に宛てた手紙等も根拠として、B及びCらの供述の信用性を否定⇒「被告人が運転者であったことにつき、常識的に見て間違いないと認められるほどの証明はされていない」⇒窃盗罪の限度で有罪。
 
<検察官>
訴訟手続の法令違反と事実誤認の主張をして控訴。 

訴訟手続きの法令違反の主張:
起訴後に行われた被告人の取調べの録音・録画記録媒体(自己が運転者であることを認めるもの)について、原審検察官が「被告人が供述した内容そのものを実質証拠として、かつ、その供述態度をみてもらうことにより、その供述の信用性を判断してもらうため」として請求⇒取調べの必要性を否定して却下
~裁判所の合理的な裁量を逸脱したと主張

事実誤認の主張:
前記Bの手紙の趣旨の解釈等を誤った⇒B及びCらの供述の信用性判断を誤り、明らかに不合理な事実認定をした。
そのことは、控訴審で取調べを求めた被告人の返信の手紙等を見れば一層明らか。
 
<判断>
●訴訟手続きの法令違反の主張
①B及びCらの証人尋問や被告人質問を経た後に、被告人が運転者であったことを立証する趣旨で原審検察官から実質証拠として請求された被告人の自白を内容とする録音・録画記録媒体について、これを原裁判所が採用すべき法令上の義務は認められない。
その自白の概要が被告人質問により明らかになっている。
③争点については、B及びCの供述の信用性が決めてであるが、前記記録媒体で再生される被告人の供述態度を見て供述の信用性を判断するのが容易とはいえない
取調べ状況の録音・録画記録媒体を実質証拠として用いることには慎重な検討が必要

取調べの必要性がないとして請求を却下した本件却下決定には合理性があり、同決定が、証拠の採否における裁判所の合理的な裁量を逸脱したものとは認められない。
 
●事実誤認の主張
①B及びCらの捜査の経緯や
②控訴審で調べた被告人の返信の手紙等

前記Bの手紙の趣旨等に関する原判決の認定には明らかな事実誤認があり、・・・運転者は被告人であるとの事実が優に認められる。

第一審判決を破棄
その認定をしなかった強盗殺人罪における殺意の有無について判断をした上で量刑をする必要⇒事件を原審に差し戻した。
 
<解説>
●録音・録画記録媒体の却下決定と裁量逸脱の有無 
◎ 本判決が、取調べの録音・録画記録媒体を実質証拠として用いることの許容性や仮にこれを許容するとした場合の条件等については、適正な公判審理手続の在り方を見据えながら、慎重に検討する必要があるとしている。

原審で請求されたものが検察官調書であった場合は、逆の結論が導かれた可能性は否定できない。

◎本判決は、公判審理において、長時間にわたる被疑者の取調べを、記録媒体の再生により視聴することの問題性を指摘。

裁判員制度対象事件における被疑者1人の取調べ時間は平均約43時間。
共犯事件では、被疑者の人数に応じて、更に2倍、3倍になる。
これを公判審理において全部再生することは現実的ではない。

通常は、全体の取調べの録音・録画記録の中から一部を抽出して編集したものでなければ、証拠としての適格性を有するとはいえない。
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取調べ中の供述態度を見ることが裁判体に強い印象を残すことも考えられる。


当事者の一方である検察官が編集した録音・録画記録媒体については、そのことを理由として、実質証拠としての適格性ないし法律的関連性が争われることも考えられる。
 
●取調べを請求することができなかった「やむを得ない事由」 
原審検察官は、公判前整理手続の段階で、Bが前記の手紙を保管していることを知ってはいたが、それらが弁護士を通じて授受されたもので、任意に提出することをBが拒んでおり、接見交通権に対する配慮という点でも、重要証人であるBの意思に反して差押えにより強制的に押収する手段を選択することには支障があった。

第一審弁論終結前に取調べを請求することができなかったことには、やむを得ない事由があった。

判例時報2329

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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