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2017年7月

2017年7月31日 (月)

オレオレ詐欺に係る詐欺保護事件における少年院送致の処分が著しく不当であるとされた事例

東京高裁H28.6.15      
 
<事案>
被害者から400万円を詐取したといういわゆるオレオレ詐欺の事案。
少年は受け子として関与。
家庭裁判所は、非行事実を認め、第1種少年院に送致。
⇒原審付添人が、事実誤認と処分不当を理由に抗告
⇒東京高裁は、事実誤認の主張は排斥したが、処分不当の主張を容れ、原決定を取り消して家裁に差し戻し。
 
<家裁>
①本件の組織性・計画性
②子を思う親の心理に付けこむ犯行態様の悪質性
被害額が比較的高額
④少年が現金授受という犯罪完成に不可欠の役割を果たしたこと
⑤少年の犯意が強いこと
⑥それにもかかわらず、少年の問題意識が高まっていない

少年の要保護性は大きいと判断し、第一種少年院に送致。

①少年の前歴が審判不開始1件
②母親と同居して高校に通っている

非行性が進んでいるとまではいえないとして、短期間の処遇勧告を付した。
 
<本決定>
①本件は、少年がすぐに逮捕され被害金が還付されていることから実質的には未遂に近い事案。
②オレオレ詐欺が重大な犯罪であり、それに関与する非行も軽視できないが、常に施設内処遇が必要であるとはいえない
③少年は、詐欺の方法などの犯行の全容を知らされておらず、約束された報酬も低額にとどまっており、共犯者の中では末端に位置するものと評価される。
少年の関与の程度や期間に照らすと、本件が社会内処遇得が許されないほどの重大な非行であるとは必ずしもいえず、非行性の程度や保護環境等を十分検討したうえで処遇を選択すべき。

具体的事実を挙げて、
少年は、過去にある程度の生活の乱れがあったものの、それ以外は、通学し、補導されることもなく生活をしていた審判不開始となった前歴等を考慮しても、少年の非行性が深まっているとはいえず、本件のような悪質な非行を繰り返す危険性があるとはいえない

少年の保護環境の検討に移り、
母親及びその交際相手と少年との関係、母親の指導力、在籍高校への通学可能性を検討して、少年の保護環境にも大きな問題はない

家庭裁判所が重視した、少年の自己の問題点や犯罪への問題意識が十分に高まっていない点についても、少年の非行性を程度等から見て、社会内資源を活用して認識を深めさせることで対応できる

家庭裁判所の説示は、本件非行の重大性をやや厳しくとらえすぎている上、少年の非行性の程度についても検討が不十分であり、結論としての少年院送致という処分は著しく不当なものとなっている。
⇒原決定を取り消して、本件を家庭裁判所に差し戻した。

判例時報2331

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インサイダー取引事案。金商法施行令の「公開」の意義。リーク報道がされた場合のインサイダー取引規制。

最高裁H28.11.28      
 
<事案> 
経済産業省大臣官房審議官であった被告人が、職務上の権限の行使に関し、上場会社であるNECエレクトロニクス㈱の業務執行を決定する機関が、株式会社ルネサステクノロジと合弁することについての決定をした旨の重要事実を知った⇒その公表前に、NECエレクトロニクス社の株券合計5000株を代金合計489万7900円で買い付けたというインサイダー取引の事案。
 
本件の重要事実であるNECエレクトロニクス社とルネサステクノロジ社の合併に関する意思決定は、両社及び親会社の連名により、平成21年4月27日に適時開示されているところ、これに先立つ同月21日から同月27日の間に、被告人はNECエレクトロニクス社㈱の購入を行った。
 
<解説>
金商取引法(塀絵師23年法律第49号による改正前のもの)166条4項及びその委任を受けた金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条は、インサイダー取引規制の解除要件である重要事実の「公表」の方法を、
(1)有価証券届出書・報告書等の、公衆の縦覧
(2)報道機関(2以上を含む報道機関に対して公開)し、12時間経過
(3)取引所への通知と公衆への縦覧(適時開示)
 
<弁護人主張>
平成21年4月16日付け日本経済新聞朝刊及びそれに引き続く一連の報道において、本件の重要事実を内容とする情報源不明のリーク報道

論点①本件重要事実は、施行令30条1項1号に基づき公表され、法166条1項によるインサイダー取引規制の対象外となった可能性が高く、少なくともかかる方法により公表されていないことにつき検察官が立証責任を果たしていない
論点②本件重要事実は、一連のリーク報道により公知の状態に⇒法166条所定の「重要事実」性を喪失し、インサイダー取引規制の効力が失われていた
 
<判断>
法令上、重要事実の公表の方法として限定的かつ詳細な規定が設けられた趣旨
投資家の投資判断に影響を及ぼすべき情報が、法令に従って公平かつ平等に投資家に開示されることにより、インサイダー取引規制の目的である市場取引の公平・公正及び市場に対する投資家の信頼の確保に資するとともに、インサイダー取引規制の対象者に対し、個々の取引が処罰等の対象となるか否かを区別する基準を明確に示すことにあると解される。」

論点①について:
かかる法令の趣旨に照らせば、施行令30条1項1号の方法は、
当該報道機関が行う報道の内容が、同号所定の主体によって公開された情報に基づくものであることを、投資家において確定的に知ることができる態様で行われることを前提としていると解される」
情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達は、たえその主体が同号に該当する者であったとしても、同号にいう重要事実の報道機関に対する「公開」にあは当たらない
⇒本件において同号に基づく、「公開」はされていない。

論点②について:
所論のような解釈は「当該報道に法166条所定の「公表」と実質的に同地の効果を認めるに等しく」、「公表の方法について限定的かつ詳細な規定を設けた法令の趣旨と基本的に相容れない」とした上、
会社の意思決定に関する重要事実を内容とする報道がされたとしても、情報源が公にされない限り、法166条1項によるインサイダー取引規制の効力がうしなわれることはない
と判示。
 
<解説>
最高裁判例が存在しない方166条4項の「公表」を巡る論点のうち、リークないしリーク報道とインサイダー取引規制の効力の関係について初判断を示したもの。 

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2017年7月30日 (日)

高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者と労契法20条違反(原審肯定・控訴審否定)

東京高裁H28.11.2      
 
<事案>
運送業を営むY社(被告・控訴人)において所定の定年年齢を迎え、高年齢者雇用安定法9条に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者X(原告・被控訴人)について、Y社の嘱託社員就業規則に基づき、期間の定めのない労働契約を締結した正社員労働者と全く異なる賃金体系が適用⇒定年前よりも賃金が引き下げられたことを受け、Xが、当該賃金の差異を労契法20条違反であると主張し、正社員労働者と同一の権利を有する法的地位にあることの確認などを求めた。
 
<規定>
労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
 
<原審>
本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、労契法20条が禁止する「不合理と認められる」労働条件の差異か否かを判断するに当たっては、条文上の考慮要素である、①職務の内容、②職務の内容及び配慮の変更の範囲、③その他の事情を総合考慮するとしつつ、
通常の労働者と同視すべきパート労働者にかかる均等待遇義務を規定したパート労働者9条の要件との対比という発想を持ち出して、
前記①及び②の各事情が同一である場合には、「特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れない」という判断枠組みを設定。

本件では、①及び②が同一であるとし、「特段の事情」の有無を審査し、結論として本件における賃金の差異を、全体として労契法20条違反とした
 
<判断>
本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、
労契法20条違反の成否については、前記①ないし③を「幅広く総合的に考慮して判断すべき」とする判断枠組みを設定。

前記①及び②は「正社員とおおむね同じである」としつつ、高年齢者雇用安定法によって義務づけられた雇用確保措置の趣旨や継続雇用制度の位置づけからして、「定年後継続雇用者の賃金を定年時により引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない」とする理解を示した。

労働政策研究・研修機構の調査報告書の記載を元に、「控訴人が属する業種又は規模の企業を含めて、定年の前後で職務の内容・・・並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲・・・が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは、広く行われているところであると認められる」という認識を示し、たとえ新入社員よりも賃金水準が低くなっているとしても、統計資料による平均減額率や運輸業の赤字が推測されることに照らすと、「年収ベースで二割前後賃金が低額になっていることが直ちに不合理であるとは認められ」ず、「(手当の増減などによって、)正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らせば、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、なお不支給や支給額が低いことが不合理であるとは認められない」と判示。

高年齢者雇用安定法の継続雇用制度において、「職務内容やその変更の範囲等が(定年前と)同一であるとしても、賃金が下がることは、広く行われていることであり、社会的にも容認されている」とし、労働組合との団体交渉の結果として労働条件の改善が見られることも「考慮すべき」として、労契法20条違反の成立を否定

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2017年7月29日 (土)

不正な金融支援について代表取締役及び担当取締役の任務懈怠が認められた事例

名古屋地裁岡崎支部H28.3.25      
 
<事案>
X㈱の経理部担当取締役A及び経理部参与Bが適正な手続を経ずに取引先で資本関係もあるC社に対する不正な金融支援を行ったのは、Xの代表取締役であったY1及び取締役(Cと取引を所管する部門の担当取締役)でCの非常勤取締役を兼務していたY2の監視義務違反等によるもの

X及びXの株主として訴訟参加(会社法849条1項)をしたZが、Y1及びY2に対し、会社法423条1項に基づき、回収不能になった融資金相当額等の賠償を求めた事案。
 
<事実関係>
平成17年8月、A及びBは、Cの代表取締役の融資方の要請を受け、Xの取締役会の承認を経ることなく1憶5000万円をCに送金(本件無断融資)。
その後、AないしBによるCに対する無断融資ないし保証が繰り返され、平成19年9月、Cが銀行から7億円を借入れるに当たり、BがX取締役会の承認を得ずにXをしてこれを保証(本件無断保証)。

本件無断保証が発覚⇒A及びBは、本件無断保証を解消すべくCに資金を調達させることとし、Cは金融機関から14億5000万円を借り受けることになった。

その際、Bは、同借受金の返済のため、平成19年11月に、X取締役会の承認を得ずに、同金融機関に対してXの約束手形(額面3億円の手形5枚)を振り出した。
同約束手形の最初の決済日までにCが返済資金を準備することができななかった⇒Bは、同約束手形が決済されるのを防ぐためCに資金を送ることにしたが、Cに対する送金であることを隠すため、平成20年3月及び4月に、X取締役会の承認を経ることなく、別会社Dに対し立替金名目または金型代金名目で合計14億9700万円を送金し、Dを経由してCに送金されるようにした。

A及びBは、C代表者の申出に応じ、Xの子会社(香港法人)Eの董事長であったY2に7億円を融通することを依頼し、Y2はこれを了承し、平成19年12月、EからAないしBに指定された口座に7億円が送金された。
同7億円の一部が返済されなかった⇒Y2はこれを回収するため、平成20年11月、EからXに対し、通常の金型代金緒請求に未返済額に相当する187万4999・40米ドルを上乗せして請求し、その支払を受けた。
 
<判断>
●Xの代表取締役であるY1について
遅くとも平成19年11月頃の認識内容を前提としても、
①不正行為に関わったA及びBを直ちにCの担当から外し、自ら指揮するか、A及びB以外の者に指示して、速やかにXとCとの取引関係を監視下において、Cに対してこれ以上の不正な金融支援が行われることを阻止することを周知徹底し、Xのリスク拡大を防止するとともに、
②早急にXのCに対する本件無断保証を含む債権債務関係の全容とCの現在の経営状態を調査させ、Xがどのようなリスクを負っているかを明らかにした上で、
③なし得る限りの対応を迅速に尽くさせるなどの措置を講ずべき義務
があった。
but
Y1は、本件無断保証が発覚してから、再発防止のための措置を取らず、事実関係の調査もリスク状況の確認もせず、損害の回避又は軽減のための措置も何ら講じなかった

前記調査義務及び再発防止措置を講ずる義務を全く果たしておらず、Y1が代表取締役としての任務を懈怠したことは明らか。
 
●Y2について
前記EからCへの7億円を有ずる件について、
Cにそうした資金を送金するについては取締役会決議が得られていない以上応じられないとするとともに、

本件無断保証の事後承認が議案となったX取締役会(平成19年11月)においても、
①XとCとの取引関係の実態について最もよく知る立場から、本件無断保証はそのままXの損失につながる危険性の大きい行為であり、Cが金融機関から15億円を独力で借り入れることは困難であることから、Xの金融支援なしに買入れを行うことができるのかどうかを含め、借入れ条件を確認する必要があることなどを指摘するとともに、
②A及びBがCに送るための資金としてEから7億円を融通することを求めてきていることを報告した上、
③X取締役会として本件無断保証を事後承認するかどうかについては、XのCに対する本件無断保証を含む債権債務関係の全容とCの現在の経営状態を調査し、Xが現在どのよゆうなリスクを負っているかを明らかにした上で判断する必要があること、
④Xの損害を回避又は軽減するために緊急対応が必要になっていないかどうかを確認し、必要な場合には迅速に適切な対応をすべきこと、
⑤Cの経営状態にかんがみ、経理部門の独断によるCに対する金融支援を即刻やめさせる必要があり、そのためにはXとCとの取引関係を監視下においた上、Cに対するこれ以上の不正な金融支援が行われることを阻止することを周知徹底し、Xのリスクが拡大することを防止する必要があることなどについて、適切な意見を具申し、また、
⑥本件無断保証の経緯や原因のほか、本件無断保証によるXのリスクについて、Cの非常勤取締役で内情を知り得る立場から、Cの現在の経営状態等の実情についての調査に取り掛かり、判明次第、報告すべき義務
があった。
but
Y2は、右いずれの義務も果たしておらず、かえって、A及びBの依頼に応じて、Cに送金されることを知りながらEから7億円を送金して資金を融通し、平成19年11月のX取締役会においても、A及びBが独断で不正な金融支援を金融支援を継続していること等、自己が認識している事情について黙っていた

取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反する行動をとっていたことは明らか。


Y1及びY2は、Xに対し、連帯して、これら送金額及び未返済額相当額から口頭弁論終結時までに損害填補された金額を控除した額並びに弁護士費用1500万円を賠償する義務がある。 

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2017年7月28日 (金)

検索結果削除仮処分申立事件(肯定事案)

福岡地裁H28.10.7      
 
<事案> 
インターネット上でYが提供する検索サービスのいて、Xの氏名等の文字列を入力して検索すると、検索結果表題又は内容の抜粋に、Xについての逮捕や刑事事件の起訴がされたこと等が表示。

Xが、Yに対し、人格権(更生を妨げられない権利)等に基づく差止請求権に基づき、前記114件の検察結果を仮に削除するよう求めた事案。
 
<判断>
本件検索結果114件のうち110件について、仮に削除するよう命じた

ある者が前科を有することや逮捕又は刑事事件として起訴を受けたこと(前科等)をみだりに公表されないことは、法的保護の対象になる利益

もっとも、前科等に関わる事実は、刑事事件又は刑事裁判という社会一般の関心又は批判の対象となるべき事項に関わるもの
⇒その者が前記の公表について受忍することを要する場合もあり得る。

その場合に当たるか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、社会一般の正当な関心の対象とんるような公的立場にあるか否か、事件についての歴史的又は社会的な意義、著作物等の目的、性格等に照らした前科等を公表する意義及び必要性をも併せ考慮し、前科等に関わる事実を公表されない法的利益が優越するか否かについて判断すべき。(最高裁H6.2.8)

本件においては、
①本件削除対象検索結果の内容は、Xの氏名や当時の住所、職業、年齢等が摘示されるなどし、Xの知人であれば、検索結果中に示される人物とXが同一人物であると判断できる
②Xは刑の終了後犯罪を行うことなく、平穏な社会生活を送っており、政治的、社会的な団体に属したり、議員その他の公的立場に就任したり、又は就任しようとしたりしておらず、Xが社会一般の正当な関心の対象となるような公的立場にあるとはいえない
③Xの前科等の内容は児童買春といった被害者として未成年者等を想定する犯罪類型ではない
④Xの前科等は、本決定時まで、判決時から13年〇〇月、刑の執行終了時から10年〇〇月が経過している

Xにおいて前科等の公表を受忍しなければならないとはいえない
 
<解説>
最高裁H29.1.31:
検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、
当該事実の性質及び内容
②当該URL等情報が提供されるこによってその者のプライバシーに属る事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度
③その者の社会的地位や影響力
④上記記事等の目的や意義
⑤上記記事などが掲載された時の社会的状況とその後の変化
⑥上記記事等において当該事実を記載する必要性など
比較衡量して判断すべき。

判例時報2331

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2017年7月27日 (木)

①売買代金支払うまで②建物明渡しを拒絶する同時履行の抗弁権と③抵当権消滅請求の手続終了まで代金支払を拒絶する旨の主張

大阪地裁H28.7.27       
 
<事案>
Xは、平成16年7月2日、Yに対して賃貸用マンションである本件建物及びその土地(「本件物件」)を2億3500万円で売り渡した。
その際、XとYとの間で、Xが本件物件を2置く9464万5000円でXの一方的な意思表示により買い戻すことができる旨の再売買の予約を合意。
Xは、平成20年4月1日、Yに対し、本件再売買の予約を完結する意思表示を行ったとして、本件物件を2億9464万5000円で売り渡すことを求めた。
Yは、本件合意が無効である等を主張⇒Xは、本件物件について所有権移転登記手続を求める訴訟を提起⇒Yに対して本件再売買の代金と引換えに所有権移転登記手続を命じる旨の判決確定
but
Yは、平成16年7月22日、本件物件に債務者をYとし、根抵当権者を第三者とし、極度額を3億4800万円とした根抵当権設定登記を設定。

Xは、無条件での本件建物の明渡し等を求める本件訴訟を提起。
 
<争点>
Yは、本件再売買の代金を支払うまで本件建物の明渡しを拒絶する旨の同時履行の抗弁
Xは、抵当権消滅請求の手続が終わるまで代金支払を拒絶する旨の再抗弁

前記の再抗弁に対してYが行った
①Y(売主)がX(買主)に対して遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求して一定期間が経過したから代金支払拒絶権は消滅したとの再々抗弁
②Xが本件再売買の予約完結権を行使したときに本件登記が存在することによる減価は考慮澄み⇒民法577条1項前段の適用はないとの再々抗弁
③代金供託を求める再々抗弁
 
<規定>
民法 第567条(抵当権等がある場合における売主の担保責任)
売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。
2 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる
 
民法 第577条(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
買い受けた不動産について抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる

民法 第578条(売主による代金の供託の請求)
前二条の場合においては、売主は、買主に対して代金の供託を請求することができる。
 
<判断>
●代金支払拒絶権の消滅の再々抗弁(争点①)の可否 
民法577条1項前段の趣旨:
抵当不動産の買主は売主に対してて抵当権消滅請求の手続を行うために要した費用の償還を民法567条2項により請求することができる。
抵当不動産の買主が抵当権消滅請求の手続を終えた後にその費用を差し引いた売買代金額を支払えば足りるとすることによって、当事者間の衡平を図ることにある。

抵当不動産の買主が所有権移転登記を備えていない場合には抵当権消滅請求手続を行うことはできないところ、抵当不動産の売主が所有権移転登記手続に協力することなく民法577条1項後段に基づく抵当権消滅請求手続を行うことの請求ができるとすれば、抵当不動産の売主は同項前段による代金支払の拒絶を恣意的に回避することできる⇒同項前段の趣旨を没却。

抵当不動産の売主が所有権移転登記を備えていない買主に対して抵当権消滅請求の手続を行うことを請求するためには、原則として所有権移転登記を備えることへの協力を併せて行わねばならない

前訴判決に基づいてXは単独で所有権移転登記を備えることができるはずとのYの主張についても、前記判決に基づいて所有権移転登記手続を行うためには本件再売買代金全額を支払わなければならず、抵当権消滅請求の手続を先行させてその費用を差し引いた売買代金を支払えばよいとすることによって当事者間の衡平を図る同項前段の趣旨に反することになる。
⇒採用できない。
 
●民法577条1項前段の適用除外の再々抗弁(争点②) 
前記の民法577条1項前段の趣旨に鑑みれば、民法567条2項に基づく償還が否定される場合に限り、民法577条1項前段の適用が否定される。 

民法567条2項に基づく償還が否定される場合とは、売買契約を締結する際に、買主が、担保権がある事実を知った上、その債務の額を控除して代金額を定めたことにより、買主において担保権の被担保債権の債務引受けがあるものと認められる場合。

本件の再売買の合意は本件登記が設定される以前にされたもの⇒上記が妥当する場合ではない。
⇒Yの主張を排斥。
 
●代金供託の再々抗弁(争点③)
民法577条、578条に基づく代金供託請求は、担保権の登記のある不動産の売主が、代金支払を拒絶する買主の資力を担保するための制度

当事者間の公平のため、買主による代金の供託と売主による不動産の引渡しは履行上の牽連性を有していると解するべき。

Xによる売買代金の供託とYによる本件不動産の明渡しは同時履行関係に立つ
 
引き換え給付判決

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2017年7月26日 (水)

共同企業体の破産管財人に対する財団債権としての不当利得返還請求権が認められた事例

福岡高裁那覇支部H28.7.7      
 
<事案>
2社から構成される建物の建築工事の共同企業体が工事を施工し、発注者から請負代金を同企業体名義で振込受領する等した後、同企業体の代表者であった会社につき破産手続開始
請負代金が破産裁判所を介して、破産管財人に引き渡され、財団組入⇒同企業体の組合員である会社が破産管財人に対して取戻権、財団債権を行使。 

A㈱とB㈱は、平成25年5月、C市の発注に係る幼稚園新築工事の請負につきX共同企業体を結成。
Aは、平成25年7月、Xを代表し、Cとの間で、請負代金2億356万9537円で前記新築工事、同年10月、請負代金341万2500円で付随する防音工事の請負契約を締結。

Aの代表者Dは、平成26年4月9日、Aの破産を考え、E司法書士に破産申立書の作成を依頼するとともに、請負代金がF銀行のX名義の預金口座に入金されると相殺されるおそれがあり、G信用金庫のX名義の預金口座に入金先を変更し、Cは、GのX口座に請負代金残金7447万4037円を入金したほか、Dは、Xの財産を保全するため、Eに前記請負代金を預けることとし、同日、Eの預金口座に振込入金をした。(E口座①.当時、別事件の預り金1826万円余も預けられていた)。

Eは、その後、E口座①からXの債権者に対する支払等の入出金をしたが、同年5月7日、他の事件の預り金と区別して保管するため、本来は7440万5997円となるべきところ、誤ってXの請負代金残額として7408万281円をH銀行のE名義の預金口座(E口座②.当時、Aからの預り金31万円余も預けられていた)に振替送金。

Aは、Eの作成に係る申立書等の書類によって、同年10月8日、N地裁O支部に破産手続開始の申立て。

X(清算人はB)は、
主位的に、金銭6832万9457円(請負代金)の所有権を主張し、破産法62条の取戻権の行使として、同金銭の返還を請求
予備的に、債権としての請負代金につきEとの間の委任契約、あるいは信託契約に基づく受取物引渡義務を主張し、取戻権の行使としての返還
財団債権としての不当利得の返還を請求する訴訟をO支部に提起。
 
<規定>
破産法 第148条(財団債権となる請求権) 
次に掲げる請求権は、財団債権とする。
五 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
 
<争点>
①請負代金についてのXの所有権の有無
②Xの取戻権の有無
③委任契約の成否
④信託契約の成否
⑤財団債権としての不当利得請求権の有無
等 
 
<判断>
●主位的請求は理由なし。

●予備的請求について:
Xの代表者Aの代表取締役Dは、Eとの間で、Xの請負代金の保全を目的とし、これを保管し管理する旨合意し、請負代金を預託

金銭の所有権はEに一旦帰属するものの、Eは、委任の趣旨に従って権利し、委任終了時に残金の返還義務を負い、Xは、委任契約上の預託金返還請求権を有するに至った。(Xの信託契約の主張については、同契約の成立は認め難いとした)。

①Eが裁判所に請負代金を含む7008万円余を予納したのは、とりあえず散逸防止のため予納させたと推認でき、Xに属すべき金銭であることが判明すれば、その時点で何らかの処理をするもの
②予納自体は対価性を有する行為でなく無償行為に属するものであり、請負代金がXが帰属すべき金銭である以上、裁判所が取得すべき法律上の原因は存しないし、Xに帰属すること判明すれば速やかに本来の権利者たるXに返還すべき義務を負う。
③裁判所は、前記7008万円余をYに支給し、Yが財団組入したが、支給決定自体は単に裁判所の保管金を破産管財人に交付するための内部手続にすぎず、何らかの法的原因や対価関係を伴うものではなく、破産管財人がこれを取得する法律上の原因たりえないし、損失と利得との間の直接の因果関係を否定するものでもなく、財団組入は破産手続開始決定時における法定財団と現有財団との間に不一致がある場合に、破産管財人の管理下になかった財産を回収し、現有財団に帰属させる行為にすぎず、第三者に帰属すべき財産を破産者ないし法定財団に帰属させる法律上の原因にならない

Yが請負代金を財団組入したことは、単に第三者であるXに帰属する財産を事実上破産財団としてYの管理下に置いたものXは、Yに対してこの時点で直接に不当利得返還請求権を取得し、Yは財団組入時に悪意であったとして、破産法148条1項5号所定の財団債権を肯定
 
<解説>
財団債権としての不当利得返還請求の有無について、
控訴審判決は、
請負代金が共同企業体の固有財産であることを前提とし、共同企業体の預金口座、司法書士の二口の預金口座、破産裁判所の保管金口座、破産管財人の預金口座のそれぞれの振込を経て、破産管財人が財団組入した場合に、予納、支給決定、財団組入のそれぞれの法的な性質を説示しながら、破産管財人が請負代金を財団組入したことは、法律上の原因がなく、不当利得の要件を満たすとし、
共同企業体が破産管財人に対して財団組入の時点で直接に不当利得返還請求権を取得したこと、
本件の破産管財人が悪意であるとしたこと、
破産法148条1項5号所定の財団債権に当たることを判示。

判例時報2231

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2017年7月25日 (火)

公立中学の部活動中の熱中症での脳梗塞⇒国賠請求(肯定)

大阪高裁H28.12.22      
 
<事案>
Y(東大阪市)の設置する本件中学校のバドミントン部に所属していたXが、指導教諭等による熱中症予防対策が不十分であったことにより、部活動中に熱中症に罹患して脳梗塞を発症⇒国賠法1条1項に基づき5639万円余の損害賠償を求めた。 
 
<原審>
Yの損害賠償責任を認め、Yに対して411万円余の支払を求める限度で請求を認容。 
 
<判断>
●中学校長等の過失
スポーツ活動中の熱中症を予防するための措置を講ずるには環境温度を認識することが前提となり、その把握が極めて重要であることは、平成22年当時において学校関係者に既に周知されていたと認められる。
Yの中学校長に温度計を設置すべき義務があった
 
●本件過失と脳梗塞との間の因果関係 
Xは少なくとも当日の検査でいずれもプロテインS抗原量等の数値が基準を下回っている⇒原審がXのプロテイン欠乏症が脳梗塞の発症及びその重篤化に相当大きく寄与したと推認され、寄与度70%と認定したことは相当
 
<解説>
国公立学校の教育活動に伴う事故について、国賠法1条の公権力を広義に解し、学校教育活動もそれに含まれる(最高裁)。
クラブ活動であっても、それが学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、学校側に生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一時的な注意義務のあることを否定することはできない(最高裁昭和62.2.6)。
危険から生徒を保護するために、常に安全に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止べき一般的な注意義務がある(最高裁H9.9.4)。

学説:
注意義務の具体的基準について
①クラブ活動の性質・危険性の程度
②生徒の学年・学齢
③生徒の技能・体力
④教育指導水準
などの要素を考慮すべき。

熱中症の死亡事故について
千葉地裁H3.3.6は、顧問教諭の過失を肯定しているが、そこでは、水分・塩分の補給が問題。
本件では、環境整備義務の一環として温度計設置義務違反が認められている。

判例時報2331

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2017年7月24日 (月)

家屋課税台帳の登録価格について、需給事情による減点補正をすべき場合

宇都宮地裁H28.12.21      
 
<事案>
那須塩原市に所在する家屋に係る平成24年度家屋課税台帳の登録価格について、XがYに対し、需給事情による減点補正をすべきであるとして審査の申出
⇒Yが棄却する決定⇒Xが同決定の一部取消しを求めた。 
 
<解説>
固定資産の価格は、固定資産評価基準によって決定しなければならないとされているところ(地方税法403条1項)、平成24年度において適用される固定資産評価基準は、家屋の評価について、各個の家屋について評点を付設し、当該評点数に評点1点あたりの価格を乗じて当該家屋の価格を求める方法によると定める。
そして、各個の家屋の評点数は、
当該家屋の再建築費評点数を基礎とし
②これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設するものとし、
さらに
家屋の状況に応じ必要があるものについては、家屋の需給事情による減点を行うものとしている。 
 
<争点>
①需給事情による減点補正率の適用は極めて限定的な場合に限られるべきか否か
②本件家屋において需給事情による減点補正率を適用すべきか否か、適用すべきとした場合の割合 
 
<判断>
●争点①について 
固定資産評価基準が需給事情による減点補正を認めている趣旨からすると、需要と供給の間に乖離がある場合には需給事情による減点補正をしなければならない需給事情による減点補正率を適用するのは極めて限定的な場合に限られるとまではいえない
 
●争点②について 
本件家屋所在地域の観光客入込数及び宿泊数等の著しい減退傾向
②上下水道の不存在
③公図未整備地区内に所在すること
④日光国立公園内に所在すること
土砂災害特別警戒区域内に所在すること

これらの要因を総合的に考慮すると、本件家屋において需給事情による減点補正を行う必要があり、
需給事情による減点補正率は15パーセントが相当。

減点補正率の算定にあたり各要因がどの程度影響を与えたか?
①の要因:一定程度影響を与える
②の要因:影響が大きいとはいえない
③の要因:影響がそれほど大きいとはいえない
④の要因:影響が大きいとはいえない
⑤の要因:大きく影響を与える
 
<解説>
固定資産評価基準は、需給事情による減点補正率の適用について、
建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価格が減少すると認められる非木造家屋等について、その減少する価格の範囲において求めるものとする。」とのみ定め、具体的な適用場面をそれ以上明らかにしない。 

昭和42年10月21日改正の固定資産評価基準の取扱いについての依命通達
(1)・・・最近の建築様式又は生活様式に適応しない家屋で、その価額が減少するものと認められるもの。、
(2)不良住宅地域、低湿地域、環境不良地域その他当該地域の事情により当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋
(3)交通の便否、人口密度、宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において、当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋
について需給事情による減点補正を適用すると定めている。

本判決で大きく考慮された要因は⑤の要因と思われるが、これは、同要因を通達の環境不良地域((2))又は同地域に準ずる地域に該当する事情とした上で、土砂災害等が生じた急傾斜地の崩壊などが起きた場合には、住民等の生命または身体に著しい危害が生じるおそれがあり危険性が大きいため、本件家屋の市場性に大きく影響を与えると判断した結果。

判例時報2331

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2017年7月22日 (土)

地方議会での行為と司法審査の範囲

函館地裁H28.8.30       
 
<事案>
Y町の町議会議員である4名が、Y町に対し、
①Y町議会によるXらそれぞれをY町議会懲罰委員会に付託する旨の各決議の無効確認を求め(請求①)
②Y町議会によるX1に対する3日間の出席停止の決議並びにX2、X3及びX4に対する戒告の各決議の無効確認を求め(請求②)
③Xらとは別のY町議会議員3名がXらに係る各町会動議を提出し、その理由を読み上げた行為が、Xらの名誉を毀損するものであるとして、Xら各自に対し、それぞれ慰謝料200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(請求③)
事案 
 
<判断>
●請求①②について 
本件各付帯決議及び本件各懲罰決議は、いずれも、XらのY町会議員としての身分を喪失させるものではなく、一般市民法秩序と直接の関係を有しないものであり、内部規律の問題として自治的措置に任せるのが相当
事柄の性質上、司法審査の対象とはならない
不適法で却下
 
●請求③について 
本件動議提出行為によってXらの名誉という私権が侵害され、Y町に国賠法上、賠償責任が生じるか否かが問題となっているのであり、これは純然たる内部規律の問題ではなく、一般市民法秩序に関係する問題
司法審査が及ぶ

本件動議提出行為は、Xらの名誉を毀損するものであって、一部を除き違法性阻却事由も認められない。
一部認容
 
<解説>
●地方議会における決議と司法審査の範囲 
裁判所は、日本国憲法に特別の定めがある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判する権利を有する(裁判所法3条1項)が、
法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争を意味するものではなく、事柄の性質上司法審査の対象外とするのを相当とするものがある

一般市民社会の中にあってこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争については、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限りその自主的、自律的な解決に委ねるのと相当とし、裁判所の司法審査の対象とはならない(判例)。

◎いかなる場合に内部規律の問題にとどまるとされ、いかなる場合に一般市民法秩序と直接の関係を有するとされるか?

最高裁昭和35.10.19:
地方議会の議員に対する懲罰決議のうち出場停止(地方自治法135条1項3号)について、司法審査の範囲外であると判断し、同判例は、傍論ながら、地方議会の議員に対する懲罰決議のうち除名処分(同項4号)については、議員の身分の喪失に関する重大事項で単なる内部規律の問題に止まらないから司法審査の対象となるとしている。

一般市民法秩序と直接の関係を有するとされ、司法審査が許される場合であっても、
当該団体の内部的自立権の尊重という観点⇒司法審査は原則として、処分等が当該団体の内部規範に合致しているか否かという手続面の当否に限定されるべき(最高裁昭和63.12.20)。
 
●損害賠償請求等と司法審査の範囲 
最高裁H6.6.21:
町議会が議員辞職勧告決議等をしたことが名誉毀損にあたるとして国賠請求がなされた事案で、当該議員辞職勧告決議は、私人間の土地所有権をめぐる紛争についての言動を理由とするものであり、これを司法審査の範囲内と判断。

大阪高裁H26.2.27:
公認会計士協会が所属する公認関係しに対し懲戒処分をし、当該処分及び当該処分を会報に掲載したことが名誉毀損にあたると争われた事案。
当該処分となった行為は公認会計士の監査の方法に関するものであり、当該処分及び当該処分を会報に掲載したことが名誉毀損にあたるか否かは、いずれも司法審査の範囲内であると判断。

本件動議提出行為:
Xらの町長に対する不信任の提出に関する地方議会議員としての言動を理由とするもの。
but
①地方議会の議員に対する懲罰決議そのものでなく、その前提としてなされた行為にすぎず、
②その後に可決された本件各付託決議及び本件各懲罰決議の有効性を前提とするものではない。

本件動議提出行為がXらの名誉を毀損するものか否かについては、議会内部の規律のみにゆだねて解決すべき問題とはいい難く、司法審査が及ぶ事項であると判断。
 
●地方議会議員が地方議会においてした発言と国家賠償責任 
地方議会議員の地方議会における発言が特定個人の名誉を低下させる場合、いかなる要件の下で国賠法1条1項にいう違法な行為があったものとして地方公共団体の責任が生じるか?

最高裁H9.9.9:
国会議員が国会の質疑などの中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言につき、国賠法1条1項の規定にいう違法な行為であったとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法または不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする。

国会議員には、憲法上、免責特権(憲法51条)が認められており、地方議会議員には、明示的に免責特権が認められているわけではない
⇒地方議会における議員の発言についての名誉毀損が問題となる場合の国賠法1条1項の規定にいう違法な行為であったとして地方公共団体の損害賠償責任が肯定されるための要件として、最高裁H9.9.9以上に厳格な要件が課されることは考え難い。

本判決は、少なくとも前掲最高裁の要件を満たす場合は、地方公共団体の損害賠償責任が肯定されるとし、本件動議提出行為はこれを満たすと判断。

判例時報2331

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再審請求を認めなかった原審が請求人に対する不意打ち・審理不尽とされた事例

大阪高裁H28.3.15      
 
<事案>
2人組の郵便局での強盗。
AがBと共謀して強盗に及んだとして公訴提起。
Aは犯行への関与を否定し、本件はBとCによる犯行であると主張。
Bは、自ら警察に出頭して、Cから金を取る話を持ちかけられ、Cと一緒に郵便局に入って犯行に及んだ」と述べていた。 
 
<確定審 一審>
強盗事件の局面における事実とAの領域における事実を対比する形で複数の間接事実として指摘⇒AとBの密接な関係をも考慮すると、AがBの共犯者として本件強盗を敢行したことが強く推認される。
「共犯者はCである」とのBの証言及び「自分にはアリバイがある」とのAの供述は信用できない。
A以外の者がAの管理下にある倉庫内の車両を使用し、証拠物を倉庫内に隠匿したとの合理的な疑いが生じ得る事情はない。

Bとともに強盗を行ったのはAであると認定し、Aを懲役6年に処した。

控訴上告も棄却され、確定。 
 
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。

刑訴規則 第286条(意見の聴取)
再審の請求について決定をする場合には、請求をした者及びその相手方の意見を聴かなければならない。有罪の言渡を受けた者の法定代理人又は保佐人が請求をした場合には、有罪の言渡を受けた者の意見をも聴かなければならない。
 
<再審請求審原審>
確定審ではAが実行犯人か否かが争点とされたが、再審請求審において再審開始の事由があるとするためには、弁護人が提出した証拠と確定審で取り調べられた証拠とを総合評価して、Aが実行犯人であると認定した確定判決に合理的な疑いを生じさせるだけでは足りず、Aが犯人であることに合理的な疑いを生じさせることが必要。

確定判決の証拠構造を整理し、間接事実のうち最も重要なのは「強取された現金全額が事件発生後短時間のうちにAが管理権限を有する倉庫に持ち込まれたこと」であり、この事実からAが犯人の一人であることがかなり強く推認されるが、これだけでは実行犯人の1人であることまでは推認できず、Aが実行犯人ではない共犯である可能性が残る。

次いで重要なのは「犯人が逃走に使った自動車が短時間のうちに本件倉庫に持ち込まれ、ナンバープレートに罪証隠滅工作が施されていたこと」等で、異常を併せると、Aが犯人の1人であることが極めて強く推認される。

提出された証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠であるというためには、①前記の被害現金が倉庫に持ち込まれた事実の認定を覆すに足りる蓋然性があること、または②Aが犯人の1人であるとの強力な推認を妨げる蓋然性があることを要する。
①本件倉庫にA以外の者が立ち入ることができたとしてもAが犯人の1人であるとの推認は揺るがない
②Aが実行犯人でないとしても第三の共犯者が第三者の共犯者が加わることになるに過ぎず、Aが犯人の1人であるとの強力な推認は妨げられない、
③Cが実在するとしても実行犯人の1人がCである疑いに結びつくわけではなく、Aが犯人の1人であるとの強力な推認が妨げられるはずもない。
 
<請求人の主張>
即時抗告し、
再審請求審の審理対象は「確定判決における事実認定」であるからAが実行犯人か否か以外の事実について審理することはできない。
できるとしても訴因変更を要する事実にまで広げることは許されない。 
 
<即時抗告審>
再審請求審が新たな証拠を加えて総合評価した結果、確定判決が認定したのと同一の事実を認定することができないとしても、同一の構成要件に該当する事実や法定刑が軽くない他の構成要件に該当する事実を認定することができる場合には刑訴法435条6号の新たな証拠を発見したことにはならない

再審請求審の審理対象は「確定判決における事実認定」に限定されない。

本件は、確定審において、訴因変更又はその他の不意打ち防止の措置を講じることによって訴因と同一の構成要件に該当する事実を認定することができる場合

再審請求審において、請求人の主張や証拠を検討した結果に基づき、釈明を求め主張を促すなど十分な防御の機会を与えて審理を尽くせば防御の権利を損なうことにならず、実行犯人以外の共犯形態についても審理することができる

共犯の形態が実行共同正犯かそれ以外の共犯かの点、いかなる者との間で共犯関係が成立するのかの点は、再審請求審の審理に当たって請求人の主張の組立てや提出すべき証拠の内容に影響を及ぼすことが考えられる

原審が、実行共同正犯以外の共犯の形態等に関して争点を顕在化させる措置を講じず、主張立証の機会を与えなかったことは、請求人に対し不意打ちを与え、その防御権を侵害する違法なもの

Aの関与なしにA以外の者が本件倉庫に被害現金を隠匿したり犯行使用車両を持ち込んだりすることは考え難いという推認については、そのような管理状態であったことが前提となるはずで、原審がAの管理権限を基礎に推認力を認めたのは論理則・経験則に反する、間接事実の推認力が減殺されるか否かについて弁護人から提出された証拠の信用性を検討しておらず、審理が尽くされていない

実行共同正犯以外の共犯性について弁護人が証拠を提出し、検察官も意見書を提出して信用性を争っていたにもかかわらず、原審は証拠の信用性について検討を加えておらず、間接事実の検討について十分な審理が尽くされていない
⇒原決定を取り消し、審理を尽くさせるために差し戻した。
 
<解説> 
●再審請求審の審理対象 
◎ 有罪の言渡しをした確定判決に対し再審を開始するためには、その言渡しを受けた者に対して無罪等を言い渡すべき明らかな証拠又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したことが必要

再審請求審において、従来の証拠構造に新しい証拠を加えて総合評価した結果、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じ、その認定した犯罪事実と全く同一の事実を認定することができなくなったとしても、ただちに刑訴法435条6号に該当するということにはならない
そのような場合でも、確定判決の認定した事実と同一の構成要件に該当する事実やその事実よりも法定刑が軽くない他の構成要件に該当する事実を認定することができ、かつ、その事実が確定判決の認定した犯罪事実との関係で公訴事実の同一性の範囲内にある場合には、無罪を言い渡すべき又は原判決よりも軽い罪を認めるべき証拠が発見されたとはいえないとした例(福岡高裁H7.3.28)。

公判手続であれば審理の進展に伴い訴因変更を要する事態になるような場合であっても、再審請求審において、公訴事実の同一性の範囲内で審理の対象を広げ、別の犯罪事実を認定し得ることを前提とした考え方。
同事件の特別抗告審(最高裁H10.10.27):
放火の方法のような犯行の態様に関し、詳しく認定判示されたところの一部について新たな証拠等により事実誤認のあることが判明したとしても、そのことにより更に進んで罪となるべき事実の存在そのものに合理的な疑いを生じさせるに至らない限り、法435条6号の再審事由に該当するということはできない

訴因変更の余地については言及していない。

確定判決では被告人と共犯者が共謀して被告人が放火の実行行為をしたと認定されていたところ、再審請求審において新しい証拠を他の証拠と総合すると実行行為をしたのは共犯者であると認められるが、このような場合でも刑訴法435条6号の証拠に当たらないとした例(東京地裁昭和43.7.1)。
 
◎実行共同正犯の訴因で審理が勧められた事案において共謀共同正犯の認定をすることができるかが問題となったケースの公判審理について、被告人の防御に実質的な不利益をもたらす場合には訴因変更の手続を必要とするものと解すべき(大阪高裁昭和56.7.27)。

本決定:
再審請求審の審理の中で、実行犯人であるB及びもう1人の者と請求人との間で共謀関係が成立し、これに基づいてBらが実行に及んだという事実関係を想定し、その事実を推認するための間接事実の位置づけ及び証拠構造の組立てを明確にした上で、請求人に対してこれに対する反論及び証拠提出の機会を与えるべきであった。

公判審理とは構造が異なる再審請求審の手続についても適正手続の保障が及ぶとして、請求人の防御権に配慮し、その意見を十分に酌むことを求めたもの。
 
●再審開始後の訴因変更 
A:刑訴法451条により通常の訴訟手続として更に審判をする⇒必要な限りにおいて当然に許される(大阪高裁昭和37.9.13)。

B:A訴因での有罪認定の誤りを正すために再審請求して認められたらかえってB訴因で有罪の危険にさらされるというのでは利益再審の制度に不利な制約を課すことになる⇒否定説。

強盗事件の公訴事実に記載された特定の日について請求人にアリバイがあるとして再審を開始したとしても、再審の審理手続において、その日ではない別の日の犯行として訴因が変更され、変更された訴因について有罪の言渡しがなされるとしたならば、結局、前記のアリバイの事実もなんら公訴事実について無罪を言い渡すべき理由とはなりえない(東京地裁昭和51.1.14)。
but
その即時抗告審は、犯行日時は証拠により特定済のものであって今後の立証の如何により変更の余地があるとは認められない。
⇒再審証拠の明白性を肯定(東京高裁昭和k55.10.16)。

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2017年7月20日 (木)

虚偽の供述調書の作成が証拠偽造罪に当たる場合

最高裁H28.3.31      
 
<事案>
被告人が、
①共犯者と共謀の上、生活保護費を不正受給して騙し取った、という詐欺事件のほか、
共犯者と共に警察署を訪れ、警察官らと意を通じ、知人の暴力団員が覚せい剤を所持しているのを目撃した旨の共犯者を供述者とする内容虚偽の供述調書を作成して証拠を偽造した
という事案。 
 
<争点>
参考人の捜査官に対する虚偽の供述に基づき供述調書が作成された場合に証拠偽造罪が成立するか。 
 
<判断・解説>
●「他人の刑事事件に関し、被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べ・・・を受けた際、虚偽の供述をしたとしても、刑法104条の証拠を偽造した罪に当たるものではないと解されるところ・・・その虚偽の供述内容が供述調書に録取される・・・などして、書面を含む記録媒体上に記録された場合であっても、そのことだけをもって、同罪に当たるということはできない。」

現行刑法は、偽証罪以外の虚偽供述を不処罰としており、参考人が捜査官に虚偽供述をして、それに基づき供述調書が作成された場合であっても証拠偽造罪は成立しないと解するのが相当

●「本件において作成された書面は、参考にAのC巡査部長に対する供述調書という形式をとっているものの、その実質は、被告人、A、B警部補及びC巡査部長の4名が、Dの覚せい剤所持という架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り出す意図で、各人が相談しながら虚偽の供述内容を創作、具体化させて書面にしたものである」と本件の特殊事情を示した上、
「本件行為は、単に参考人として捜査官に対して虚偽の供述をし、それが供述調書に録取されたという事案とは異なり、作成名義人であるC巡査部長を含む被告人ら4名が共同して虚偽の内容が記載された証拠を新たに作り出したものといえ、刑法104条の証拠を偽造した罪に当たる

本件は、単に参考人が捜査官に対して虚偽の供述をし、それに基づき供述調書が作成された場合とは異なり、被告人が調書の作成名義人である警察官らと共同して供述調書という形式の虚偽の証拠を作り出した場合であることから、前記の基本的立場が適用されるべき事案ではないと判断されたもの。

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2017年7月19日 (水)

消防吏員に対する懲戒処分が取り消された事例

東京高裁H28.6.30      
 
<事案>
Y(大和市)の消防吏員として勤務していたXが、Yの消防庁から平成24年11月30日付で懲戒停職6月の処分⇒その取消しを求めた。 
 
<原審>
●Xの行為が横領に該当するか 
標準貸与期間を徒過した貸与品についても、Yの所有物であり、X自身の廃棄処分にするか退職時に返還するかを委ねられているにすぎず、X・Y間の貸与品に係る委託関係は継続
⇒インターネットオークションに出品・売却することは、上記委託の趣旨に反してYの所有物を不法に領得したもの⇒横領に該当。
 
●本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか 
最高裁判決(最高裁昭和52.12.20)を参照し、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、
懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り処分が違法であると判断すべき。
具体的な考慮要素として、
①本件行為の原因、動機、②本件行為の性質、③本件行為の態様、影響、④本件行為の結果を検討。

①は強く非難されるべき、
②は、Yの貸与品の管理状況に鑑みれば、「委託関係に反した点における違法ないし非行の程度は軽いもの」であり、
③は、本件行為が「消防吏員としての職務遂行に直接関わるものでなく」、「公務に対する信用を直ちに失墜させるおそれがあったものとはいえ」ず、
④は、Yに「経済的損失はなかった

本件行為は、「横領の類型の中では、かなり軽い部類に属するものというべき」。

Xは過去に非違行為や懲戒処分を受けたことがない

本件処分は、「重きに失し、社会通念上著しく相当性を欠」き、Y職員の懲戒処分に関する指針に照らしても、本件処分は「裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものとして違法」
 
<判断>
原判決を基本的に支持し、控訴棄却。
原判決に補足し、
①Yにおける貸与品亡失届出書の提出件数は少なく、「損傷等した貸与品の届け出をするかどうかは、貸与を受けた者の自由に任されていた」こと
②編上げ靴は、一般に販売されているもの
③「標準貸与期間が経過した本件編上げ靴は、その時点で、一段と・・委託関係が緩やかになったと見ることができ」、Xにおいて「自らの判断により破棄することも可能であった物品という意味では、私物に近い存在であった」
④Xは、「当初から職務に使用する意思がなく、インターネットオークションに出品、売却して利益を得る意図のもとに貸与を受けたものではな」く、計画的、意図的な行為ではない

違法ないし避難の程度は軽く、違反の程度は軽微」である。
 
<解説>
公務員の懲戒処分の裁量権濫用をめぐる判断に関しては、
「社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合」に処分が違法となるのが判例であるが、
本件では、とりわけ「処分の相当性」が主な争点となった。 

編上げ靴についての横領の成立は認めつつも、前記のYの貸与品管理状況等から、標準貸与期間が経過している貸与品の横領については、違反の程度が軽微であるとして、本件処分は重すぎると判断

判例時報2330

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2017年7月18日 (火)

私立大学の教員にかかる期間1年の有期労働契約が、更新限度期間(3年)の満了後に期間の定めのないものとなったか?(否定)

最高裁H28.12.1      
 
<事案>
Yとの間で期間1年の有期労働契約を締結し、Yの運営する短期大学で講師として勤務していたXが、Yによる雇止めは無効であると主張

Y2を相手に、
①労働契約上の地位の確認及び
②雇止め後の賃金の支払
を求めた事案。
 
<事実>
Xは、平成23年4月1日、Yとの間で、Yの契約職員規程(「本件規程」)に基づき、契約期間を同日から平成24年3月31日までとする有期労働契約を締結し、Yの運営する短期大学の講師として勤務。
 
本件規程には、契約職員の更新限度期間が3年であり、
契約職員のうち、勤務成績を考慮し、Yがその者の任用を必要と認め、かつ、当該契約職員が希望した場合は、
契約期間が満了するときに、期間の定めのない職種に異動することができる旨の定め
。 

Y⇒Xに、平成24年3月、同月末で本件労働契約を終了する旨を通知。
Xは、同年11月、本件訴えを提起。
Y⇒Xに、平成25年2月、仮に平成24年3月末で終了していないとしても、平成25年3月末で本件労働契約を終了する旨を通知。
Y⇒Xに、平成26年1月に、契約期間の更新限度は3年であるので、仮に本件労働契約が終了していないとしても、同年3月末で本件労働契約を終了する旨を通知。
 
<規定>
労働契約法 第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
 
<判断>
本件労働契約が3年の更新限度期間の満了後に無期労働契約となったとはいえず、同契約が同期間の満了をもって終了した旨判断。 
 
<解説>
●雇止め法理と労契法19条 
有期労働契約は、契約期間の満了により当然に終了するのが原則。
but
判例上
①有期労働契約があたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は
②労働者において期間満了後も雇用契約が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合
解雇権濫用法理が類推適用され、当該労働契約の雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには効力を否定すべき。

平成24年改正により、労契法19条として明文化。
 
●有期労働契約の無期労働契約への転換(労契法18条) 
労契法の平成24年改正で、有期労働契約の無期労働契約への転換の規定が新設。

同法18条は、
①同一の使用者の下で有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える場合に、
労働者が無期労働契約への転換の申込みをすれば、
使用者がその申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約が成立。

有期労働契約の濫用的利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図る観点から、従来の判例法理にない規制原理を新たに創設したもの。

無期労働契約への転換が可能となるための通算契約期間については、大学の教員等の任期に関する法律の改正により、大学の教員等に係る通算契約期間を10年とする特例(同法7条1項)が規定。

労契法18条は、その施行日(平成25年4月1日)以後の日を契約期間の初日とする有期労働契約について適用され、施行日前の日が初日である同契約の契約期間は通算契約期間には算入されない
 
●労働契約における期間の定めと試用期間との関係 
試用期間:正規従業員としての適格性を判定するため、使用者が労働者を本採用前に試みに使用する期間であり、

判例は、試用期間中の労働関係について(個々の事案ごとに判断する必要があることに留意しつつも)解約権留保付労働契約であると解している。

新規採用時の労働契約における期間の定めが、実際には試用期間を意味するとされる場合。
最高裁H2.6.5:
私立高校に1年の契約期間で雇われた「常勤講師」の期間満了による雇止めの効力が争われた事件において、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、
その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き
同期間は契約の存続期間ではなく、無期労働契約下における試用期間(解約権留保期間)と解すべき。
 
●有期労働契約が無期労働契約となる場合 
A:当該有期労働契約が、更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解釈できる場合。
B:労契法18条による場合。
C:民法629条1項により黙示に更新された労働契約。

雇止め法理有期労働契約の更新の場合に適用されるものとして形成、確立されてきたものであり、これを利益状況の大きく異なる無期労働契約への転換の場面に直ちに借用できないのは明らか

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2017年7月15日 (土)

産婦が分娩直後の大量出血で死亡⇒損害賠償請求(否定)

東京地裁H28.7.21      
 
<事案>
産婦が分娩直後の大量出血で死亡
⇒法定相続人であるXらが、Y病院の担当医師らには、
①輸液、②輸血、③DIC(播種性血管内凝固症候群)に対する治療、④頸管裂傷に対する処置などの点について注意義務違反ないし過失があり、これにより本件患者は死亡したと主張⇒合計8890万円の損害賠償を求めた。
 
<判断> 
●輸液についての注意義務違反
輸液の経過として、午後4時頃までの出血量約1200gから1700gの純出血量に対し、少なくとも合計約1000mlの輸液がされ、さらに午後4時以降については、本件患者の状況の変化に応じて相当量の輸液⇒本件患者に対する輸液量として明らかに不足しているとまではいえない。
 
●輸血についての注意義務違反 
交差適合試験の実施をまって輸血したため開始が遅かった。
but
本件当時、「産科危機的出血への対応ガイドライン」は存在せず、どのような場合に血液型不明で、かつ、交差適合試験を実施しないままの輸血の実施が許容されるかについては、依拠すべき一般的指針はまだ確立していない
輸血についての注意義務を否定
 
●DICに対する治療についての注意義務 
DICに対する一定の治療は行っており、注意義務違反があるとまでは認められない。
 
●頸管裂傷について
頸管裂傷が本件患者の死亡に直接影響したものとはいえない。
 

本件患者の死亡原因を羊水塞栓症を原因とするDICの進行で死亡したと判断。
羊水塞栓症とは、何らかの原因で羊水成分が母体血中に流入し、母体に呼吸不全、循環不全、ショック、DICなどを併発する極めて重篤な疾患であるところ、仮にY病院の医師がXらの主張するような措置を採っていたとしても、本件患者を究明することは極めて困難であった可能性が高い

注意義務違反を否定し、Xらの請求を棄却

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歯のインプラント治療での歯科医の過失による損害賠償請求

東京地裁H28.9.8       
 
<事案>
Yが運営し、院長を務めるY歯科医院でインプラント治療を受けた患者Xが、Yの治療行為により後遺障害が残存する損害を受けたと主張⇒Yに対し、損害賠償請求。 
 
<判断>
●本件事故と本件後遺障害(右側オトガイ感覚神経感覚障害)との間の因果関係
①Xは本件事故の翌日から継続して唇付近の麻痺を訴えている
②Xは本件事故から約1か月後にT病院を受診し、オトガイ神経麻痺との診断を受け、治療を受けている
③T病院で実施されたパントモ撮影(歯科用のX線撮影)では下顎管に達する透過像が認められ、同時に実施されたCT検査ではインプラント埋入窩で神経の断絶が認められる
本件後遺障害は本件事故によるもの
 
●本件診療契約の債務不履行にもとづき、契約を解除し、Yに支払った報酬の全額の返還を求めることができるか?
インプラント治療の工程に照らすと、フィクスチャー(人工歯根)の埋入と上部構造の装着は一般的に治療の工程として分離可能
患者は、インプラント治療に占めるフィクスチャー(人工歯根)の埋入部分の割合に応じて報酬を支払わなければならない。

フィクスチャー(人工歯根)が終わっている本件ではXは報酬の7分の4はYに対し支払う義務がある。

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2017年7月14日 (金)

不動産業者等によるコンサルティングが弁護士法72条違反と不法行為とされた事案

大阪高裁H28.10.4      
 
<事案>
Y1会社:不動産業を営む有限会社
Y2:Y1の代表者
Y3:Y1を退社し個人で不動産業に関わる仕事をしている者 
X:2か所に住宅を所有しており、いずれも、敷地は亡妻と共有(持分各2分の1)、建物はXの単独所有。

Xと亡妻は本件住宅Aに居住し、本件住宅Bには長男がその家族と居住。
長女は結婚し別の場所に住む。
亡妻は平成22年7月に死亡。
遺言により亡妻の前記敷地共有持分はいずれもXと長女が2分の1ずつ取得。
同年12月、Xは、本件住宅Bの敷地のX共有持分の4分の1を長女に贈与し、同敷地の長女の共有持分は2分の1になった。

Xは、同年11月以降、介護老人施設で生活するようになり、同年12月、長女と共に本件住宅Bの売却をY1に相談。
Xは、同年8月ころ長男に対する資金の回収を弁護士に相談しており、長女もそのことを知っていた。
Y1は、Y2と共に、X及び長女から話を聞き、Y1とXは、住宅B売却の仲介の他に、長男に対する明渡の交渉、長男に対する貸金の回収を解決することを内容とするコンサルティング契約を締結。
Y2は、長男と交渉して、長男は住宅Aに転居し、かつ、長男が住宅Aの土地建物の所有権を取得すること、長男の前記転居に伴う費用(住宅Bの家財の搬出や廃棄の費用、長男の引越費用)はY1が負担することを合意し、亡妻の住宅Aの敷地持ち分を長男が相続したとする遺産分割協議書の作成や、Xの住宅Aの建物所有権及び敷地共有持分を長男に贈与するとの贈与契約書の作成を手配。

住宅Bは2195万円で売却され、Xは仲介手数料40万1600円とコンサルティング料203万円をY1に支払い、謝礼名目でY3に50万円を支払った。
 
<規定>
弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
 
<争点>
①本件コンサルティング契約の締結及び長男との交渉が弁護士法72条の要件である「業として」行われたものか否か
②控訴人らの行為が弁護士法72条に反するだけでなく、不法行為に該当するか 
 
<判断・解説>
●争点①について 
弁護士法72条の「業として」は、反復的に又は反復の意思をもって法律事務の取扱等をし、それが業務性を帯びるに至った場合を指す(判例)。

「業として」行われたものと判断

①Y2、Y3は、住宅Bの売買の仲介を依頼されたことがきっかけでXと知り合ったのであって、以前からの友人、知人といった属人的なつながりから長男との立退や貸金回収の交渉を引き受けたものではなく、当初から対価を得る目的で長男との交渉を引き受けた
②Y1は以前にも不動産仲介に伴って不動産の立退交渉を行い「お世話料」の名目で金員を得ていた
③長男との交渉の最終目的は住宅Bの明渡しを成功させてこれを売却することにあり、売却が成功すればY1は仲介手数料得ることができた。

Y1は反復の意思をもって本件コンサルティング契約を締結して、長男との交渉等の法律事務を行ったといえる
 
●争点②について 
弁護士法72条で禁止される「一般の法律事件に関して、法律事務を取り扱うこと」を内容とする契約は、民法90条の公序良俗に反する法律行為として無効⇒前記契約に基づいて支払われた報酬等については、不当利得返還請求権に基づきその返還を求めることができる

①Y1がXから受け取ったコンサルティング料が仲介手数料の約5倍に及び、Y2が受け取った謝礼も仲介手数料を上回っている上、②Yらは、Xと同道の上、Xが長男に対する貸金等を以前から相談していた弁護士に対する依頼を解消するにも関わっている

公序良俗に違反して無効であるのみならず、不法行為法上もこれを違法ということができる

判例時報2330

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2017年7月13日 (木)

養育費の減額事例

東京高裁H28.7.8      
 
<事案> 
相手方(元夫)xが、抗告人(元妻)Yに対し、離婚の際に公正証書により合意した養育費の減額を求めた事案。 
 
X(元夫)とY(元妻)は、離婚の際、公正証書により、両名の間の3人の子の養育費について、XがYに対し子1人につき月額2万5000円(合計月額7万5000円)を支払うとの合意。
離婚後Yは再婚し、再婚相手と子ら(この子らは再婚相手と養子縁組していない)と共に生活。

Xは、Yの再婚や経済状況の変化などを理由に養育費の減額を求める調停の申立て。but審判移行後、申立てを却下するとの審判が確定。

事情の変更を肯定した上、公正証書による合意はいわゆる標準算定方式により算定される額を月額5万5000円上回っている⇒この合意の趣旨を反映させるべく、前件審判時の双方の収入により算定される養育費月額6万円に5萬5000円を加えた月額11万5000円とすべき
他方、Yの再婚相手がXとYとの間の子らの扶養に一定の責任を負うことは否定できない
Xが負担すべきは11万5000円の3分の2であるとし、結論としては変更の必要なし

その後、Xも再婚し、その再婚相手との間に一児をもうけた⇒再度、養育費の減額を求める審判申立て。
 
<判断>
前記審判後にXが再婚相手及びその間に生まれた子の扶養義務を負うに至ったことは、養育費の額を変更すべき事情変更に当たる。 
前件審判を前提に、
子それぞれについての養育費の額を生活費指数(親を100とした場合の子に充てられるべき生活費の割合)に応じて按分し、結論として、減額が相当
 
<解説>
●父母が養育費について合意し、あるいは審判により養育費が定められた後に、その合意等を基礎付ける事情が変更⇒養育費の増減額を求めることができる。 
事情の変更は、一般に、「法的安定性の要請から、前協議又は審判の際に予見されなかった事情であり、かつ、前協議又は審判を維持することが困難な程度に事情の変更が顕著であることを要する。」

●前に合意し、あるいは審判により定められた養育費の額がいわゆる標準算定方式により算定される額と相違する場合には、増減額の検討に当たってこの相違を考慮する必要がある。 
両者の差額を①固定額としてとらえて考慮したり、②両者の比率に着目して考慮したりするなどの方法があり得るが、最終的には、事案ごとに判断することになる。

●本件では、5万5000円の加算を、XとYの間の3人の子のみに配分すべきか、Xとその再婚相手との間の子等にも配分すべきか?
本決定「未成年者ら以外に相手方が扶養義務を負う子を未成年者らより劣後に扱うことまで求める趣旨であるとまで解すことはできない

Xが、Yとの間の3人の子に対して負う扶養義務と、再婚相手との間の子に対して負う扶養義務との間に差異はない。 

原審判は、5万5000円をXの基礎収入(養育費を捻出する基礎となる収入)に加算することで、同額をX自身にも配分してしまっている。
~合意の趣旨を超えている。

Y(元妻)の再婚相手は養親ではない以上、Xの養育費支払義務の検討においてYの再婚相手の存在を考慮すべきでないという考え方もあり得るが、考慮するという考えもあり得る

以上の検討を経て、XとYとの間の3人の子の養育費の合計額を算定した上で、これを3人の各生活費指数に応じて按分して、子ごとの養育費の額を算定。
←標準算定方式による算定の過程において、子ごとに異なる生活費指数を用いている。

判例時報2330

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2017年7月11日 (火)

NHKの放送受信契約とその受信料(相当額)の請求

東京高裁H28.9.21      
 
<事案>
Yらが運営する各ホテルに平成26年11月以降に設置されたテレビジョン受信設備に関して、その設置後まもなく、X(NHK)が、Yらに対してそれぞれ放送受信契約締結を申し込んだ⇒Yらがこれを承諾しなかった

①主位的に、前記申込みにより放送受信契約が成立した⇒各受信設備に応じた放送受信料の支払を求める
②予備的に、Yらには放送受信契約の申込みを承諾する義務が生じた⇒Yらに対して各承諾の意思表示及び各受信設備に応じた放送受信料の支払を求めるとともに、撤去済み受信設備について不当利得が生じている⇒その支払を求める。
 
<規定>
放送法64条1項本文:
「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」

放送法施行規則23条:
「法第64条3項の契約の条項は、少なくとも次に掲げる事項を定めるものとする。」
「一 受信契約の締結方法」 
「条項」として総務大臣の認可を受けた「日本放送協会放送受信規約」3条1項は、受信機を設置した者に遅滞なく放送受信契約書を提出する義務を課し、
規約4条1項は、「放送受信契約は、受信機設置の日に成立する。」と定めているが、これ以外に、放送受信契約の成立についての規定はない。

民法 第414条(履行の強制)
2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる
 
<判断>
主位的請求をいずれも棄却する一方、予備的請求を認容。

受信設備設置者の承諾なしに申込みのみによって放送受信契約が成立すると解することはできない

受信設備設置者は、放送受信契約締結の申込みをした被控訴人(X)に対し、放送法64条1項に基づきこれを承諾する旨の意思表示をする義務を負う放送受信契約の申込みを受けた受信設備設置者がこれを承諾しない場合には、被控訴人は、民事裁判において、放送受信契約締結の承諾の意思表示をすることを求めることができる(民法414条2項ただし書)。

上記意思表示を命ずる民事裁判の判決が確定放送受信契約は、規約4条1項に基づき受信機の設置の日に遡って成立したこととされ、受信設備設置者は、被控訴人に対し同日からの放送受信料を支払う義務を負う。

口頭弁論終結前に受信機を撤去⇒その設置から撤去まで間、放送受信契約を締結すべきであったとにこれをしなかった⇒被控訴人の損失において法律上の原因なく放送受信料の支払を免れるという利益を得たものとして、被控訴人に対して当該期間の放送受信料に相当する金員を不当利得として返還する義務を負う。
 
<解説>
●法64条1項は、設置者に対して契約締結の義務を負わせたもの。

● 受信設備設置者がこれを無視し、又は承諾を拒否した場合
A:NHKが申込みをすれば、正当な理由がない限り一定の期間経過後(原則は1週間とする。)に放送受信契約が成立⇒NHKは、当該期間経過後には直ちに放送受信料を徴収できる。
←NHKの受信料の広狭的な性格(放送法15条、20条参照)を重視し、放送法64条1項の「契約をしなければならない」との文言をいわば目的論的に解釈。

B:受信設備設置者による承諾の意思表示がない限り放送受信契約は成立しない
←放送法64条1項の文言によれば、契約を成立させるためには申込みに対する承諾が必要
but
同条項が存在する以上、受信設備設置者は、承諾を義務づけられており、NHKは、放送受信料を徴収するためには承諾の意思表示を命ずる判決を得る必要がある

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2017年7月10日 (月)

検察官からの実質証拠として取調べ状況の録音録画記録媒体の取調べ請求の却下等

東京高裁H28.8.10    
 
<事案>
被告人が、B及びCと共謀の上、駐車中の自動車を窃取しようとしたところ、その所有者に発見され、同車を取り返されることを防ぐとともに、逮捕を免れるため、殺意をもって、同社を運転して衝突させるなどして同人を死亡させた⇒強盗殺人罪。
付近で別の車両に乗っていたB及びCは窃盗罪の限度で刑責を問われた。 
被告人は、運転者はBであったとして犯人性を争った

原判決は、弁護人が取調べ請求したBから被告人に宛てた手紙等も根拠として、B及びCらの供述の信用性を否定⇒「被告人が運転者であったことにつき、常識的に見て間違いないと認められるほどの証明はされていない」⇒窃盗罪の限度で有罪。
 
<検察官>
訴訟手続の法令違反と事実誤認の主張をして控訴。 

訴訟手続きの法令違反の主張:
起訴後に行われた被告人の取調べの録音・録画記録媒体(自己が運転者であることを認めるもの)について、原審検察官が「被告人が供述した内容そのものを実質証拠として、かつ、その供述態度をみてもらうことにより、その供述の信用性を判断してもらうため」として請求⇒取調べの必要性を否定して却下
~裁判所の合理的な裁量を逸脱したと主張

事実誤認の主張:
前記Bの手紙の趣旨の解釈等を誤った⇒B及びCらの供述の信用性判断を誤り、明らかに不合理な事実認定をした。
そのことは、控訴審で取調べを求めた被告人の返信の手紙等を見れば一層明らか。
 
<判断>
●訴訟手続きの法令違反の主張
①B及びCらの証人尋問や被告人質問を経た後に、被告人が運転者であったことを立証する趣旨で原審検察官から実質証拠として請求された被告人の自白を内容とする録音・録画記録媒体について、これを原裁判所が採用すべき法令上の義務は認められない。
その自白の概要が被告人質問により明らかになっている。
③争点については、B及びCの供述の信用性が決めてであるが、前記記録媒体で再生される被告人の供述態度を見て供述の信用性を判断するのが容易とはいえない
取調べ状況の録音・録画記録媒体を実質証拠として用いることには慎重な検討が必要

取調べの必要性がないとして請求を却下した本件却下決定には合理性があり、同決定が、証拠の採否における裁判所の合理的な裁量を逸脱したものとは認められない。
 
●事実誤認の主張
①B及びCらの捜査の経緯や
②控訴審で調べた被告人の返信の手紙等

前記Bの手紙の趣旨等に関する原判決の認定には明らかな事実誤認があり、・・・運転者は被告人であるとの事実が優に認められる。

第一審判決を破棄
その認定をしなかった強盗殺人罪における殺意の有無について判断をした上で量刑をする必要⇒事件を原審に差し戻した。
 
<解説>
●録音・録画記録媒体の却下決定と裁量逸脱の有無 
◎ 本判決が、取調べの録音・録画記録媒体を実質証拠として用いることの許容性や仮にこれを許容するとした場合の条件等については、適正な公判審理手続の在り方を見据えながら、慎重に検討する必要があるとしている。

原審で請求されたものが検察官調書であった場合は、逆の結論が導かれた可能性は否定できない。

◎本判決は、公判審理において、長時間にわたる被疑者の取調べを、記録媒体の再生により視聴することの問題性を指摘。

裁判員制度対象事件における被疑者1人の取調べ時間は平均約43時間。
共犯事件では、被疑者の人数に応じて、更に2倍、3倍になる。
これを公判審理において全部再生することは現実的ではない。

通常は、全体の取調べの録音・録画記録の中から一部を抽出して編集したものでなければ、証拠としての適格性を有するとはいえない。
but
取調べ中の供述態度を見ることが裁判体に強い印象を残すことも考えられる。


当事者の一方である検察官が編集した録音・録画記録媒体については、そのことを理由として、実質証拠としての適格性ないし法律的関連性が争われることも考えられる。
 
●取調べを請求することができなかった「やむを得ない事由」 
原審検察官は、公判前整理手続の段階で、Bが前記の手紙を保管していることを知ってはいたが、それらが弁護士を通じて授受されたもので、任意に提出することをBが拒んでおり、接見交通権に対する配慮という点でも、重要証人であるBの意思に反して差押えにより強制的に押収する手段を選択することには支障があった。

第一審弁論終結前に取調べを請求することができなかったことには、やむを得ない事由があった。

判例時報2329

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刑の執行猶予の言渡し取消し決定謄本の送達先

最高裁H29.1.16      
 
<事案>
執行猶予付き懲役刑の猶予期間中の再犯に関し、再度の執行猶予付き懲役刑を言い渡され、保護観察に付されていた申立人につき、遵守事項違反があったなどとして、刑の執行猶予の言渡し取消し決定がされ、即時抗告も棄却されたため、特別抗告が申し立てられた。 

検察官が前記各刑の執行猶予の言渡し取消しを請求⇒原々審は各刑の執行猶予を取り消す各原々決定。各決定の謄本を、いずれも検察官と原々決定で申立人が選任した弁護人2名のうち主任弁護人に対して送達but申立人に対して送達しなかった。

申立人は、前記弁護人2人を原審の弁護人として改めて選任し、各原々決定に対して即時抗告⇒原審は、各即時抗告をいずれも棄却⇒申立人が本件特別抗告を申し立て。
前記弁護人2人は、刑訴規則62条1項の送達受取人には選任されていなかった
 
<規定>
刑訴規則 第62条(送達のための届出・法第五十四条)
被告人、代理人、弁護人又は補佐人は、書類の送達を受けるため、書面でその住居又は事務所を裁判所に届け出なければならない。裁判所の所在地に住居又は事務所を有しないときは、その所在地に住居又は事務所を有する者を送達受取人に選任し、その者と連署した書面でこれを届け出なければならない。

刑訴規則 第34条(裁判の告知)
裁判の告知は、公判廷においては、宣告によつてこれをし、その他の場合には、裁判書の謄本を送達してこれをしなければならない。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。
 
<判断>
刑訴規則34条は、「裁判の告知は、公判廷においては、宣告によつてこれをし、その他の場合には、裁判書の謄本を送達してこれをしなければならない。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。」と規定しているところ、刑の執行猶予の言渡し取消し請求において、同条により刑の執行猶予の言渡し取消し決定(刑訴法349条の2第1項)の謄本の送達を受けるべき者は、検察官及び猶予の言渡しを受けた者(被請求人)であり、また、同謄本が、被請求人の選任した弁護人に対して送達されたからといって、被請求人に対する送達が行われたものと同じ法的な効力は生じないと解するのが相当である。
 
<解説>
最高裁昭和58.10.19:
刑の執行猶予言渡し取消し請求事件についての即時抗告棄却決定謄本が即時抗告の申立人(被請求人)本人と弁護人との双方に日を異にして送達された場合、特別抗告期間は申立人(被請求人)本人に対して送達された時から進行を始めるものと解すべき。 

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2017年7月 9日 (日)

非公開会社における新株発行の効力発生日から1年を経過した後に提起された新株発行無効の訴えと信義則

名古屋地裁H28.9.30       
 
<事案>
非公開会社であるY1会社の株主Xが、
①Y1に対し新株発行を無効とすることおよびその不存在の確認を求め
②Y1およびY1の取締役Y2・Y3に対し、民法709条または会社法429条1項(Y2・Y3に)もしくは同法305条(Y1)に基づき、連帯して、本件新株発行に至る一連の違法行為によりXが被った損害の一部の賠償等を求めた甲事件と
新株発行後に開催された定時株主総会決議の取消し等を求めた乙事件からなる事案。 
 
<規定>
会社法 第八二八条(会社の組織に関する行為の無効の訴え)

次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。

二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
 
<判断>   
甲事件:
本件新株発行は無効。
損害賠償請求は棄却。

乙事件:
各決議の時点では本件新株発行が有効に行われたことを前提とすることになり、Y2の保有株式数を620株として各議案を可決したことは、総会決議不存在事由とならない

定款変更の議案に関しては、招集通知に議案の概要の記載として定款規定をどのように変更するか了解可能な程度の記載があることを要するがそれを欠いている⇒決議取消事由に当たる。 
 
●新株発行無効の訴えの提訴期間徒過の有無
最高裁昭和53.3.28を参照し、提訴期間は株式の効力が生じた日から1年以内(会社法828条1項2号括弧書)、払込期日である平成24年6月4日にY2が払込みをした本件では株式の効力が生じた日は、当該払込期日であるから、同日から1年以内
but
①Y1の代表者であるY2は、XをY1会社の株主から排除する意図の下、Xに知られることなく本件新株発行を行うべく、Xがこれを察知する機会を失わせるための隠蔽工作を繰り返した
②Xが本件新株発行の事実を予想し、または想定することは容易ではなかった
③Y1が株式譲渡制限会社で、Y2だけが株式の発行を受けた者であり、本件新株発行につき取引の安全を考慮する必要性がさほど高いとは言えない
④Xは、本件新株発行の存在を知った平成25年10月3日から1年以内に本件新株発行の訴えを提起していて訴訟提起が不当に遅延したとはいえない

信義則上、Xが本件新株発行の無効の訴えを所定の提訴期間を徒過して提起したとすることはできず、当該訴えは適法
 
●同訴えの無効事由の有無 
最高裁H24.4.24を引用し、
非公開会社であるY1において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされたもの
この瑕疵は新株発行の無効原因となる。
 
●不存在確認の訴えの不存在事由の有無
新株発行が物理的には存在するような外観を呈する場合には、その手続的、実体的瑕疵が著しいからといって不存在事由となるものではない
 
<解説>
会社(その代表者)がことさらに瑕疵ある新株発行について株主に秘匿し、株主による提訴を妨げた事情がある場合、信義則上、会社は提訴期間の徒過を主張することができないとの見解(田中亘、会社法)。 

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私立学校で旧姓の使用と損害賠償を求める請求

東京地裁H28.10.11      
 
<事案>
私立学校において、同校に勤務する教員が婚姻前の氏(旧姓)を通称として使用することを拒否された⇒同教員が同学校法人に対し、旧姓の使用を求めるほか、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を求める事案。 
婚姻前の氏(旧姓)を通称として使用することを拒否されたXは、Yに対し、
妨害排除請求(ないし予防請求)として、時間割表、生徒出席簿、生徒指導要録、成績通知票、生徒及び保護者に対する書面による通知、業務用ソフトへの登録氏名、タイムカード、年次有給暇届並びに出張願(届)において、Xの氏名として旧姓を使用することを求めるほか、
損害賠償請求として、慰謝料110万円及び弁護士費用相当の損害金11万円の合計121万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める本件訴訟を提起。
 
<争点>
①Yに対してXの婚姻前の氏を使用することを求めることの可否
②Yによる不法行為の有無
③Yによる労働契約法上の付随義務違反の有無
④Xの損害 
 
<判断>   
XがYに対してXの婚姻前の氏を使用することを求めることはできない⇒YのXに対する不法行為(使用者責任)は成立しない
YのXに対する労働契約法上の付随義務に違反するところもない
⇒Xの請求を棄却。

●Yに対して婚姻前の氏を使用することを求めることの可否及びYによる不法行為の有無

最高裁昭和63.2.16:
氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する。

最高裁昭和61.6.11:
人は、その氏名を他人に冒用されない権利を有しこれを違法に侵害された者は、加害者に対し、損害賠償を求めることができるほか、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる

氏名が上記の識別特定機能、個人の人格の象徴等の性質を有する⇒氏名を自ら使用することが、いかなる場面で、いかなる目的から、いかなる態様で妨害されたとしても法的な救済が一切与えられないとすることは相当ではなく、その意味で、氏名を自ら使用する利益は、民法709条に規定する法律上保護される利益であるというべきである。
氏は、氏名を構成する要素⇒それを自ら使用する利益についても、上記と同様の意味で、法律上保護される利益ということができる

以上の議論は、まずは戸籍上の氏名、氏について当てはまるところ、婚姻前の氏についても、同様にそれを使用する利益が法律上保護される利益をいえるか否かは措くとしても、少なくとも、上記の意味で、法律上保護される利益であるということができ、これを違法に侵害した場合には不法行為が成立し得ると解するのが相当。
とはいえ、本件のように職場という集団が関わる場面において職員を識別し、特定するものとして戸籍上の氏の使用を求めることには合理性、必要性が認められるということができるだけでなく、婚姻後に通称として婚姻前の氏を使用する利益は、・・・婚姻前に戸籍上の氏のみを自己を特定するものとして使用してきた期間における当該氏を使用する利益と比して、それと同程度に大きなものであるとはいえないところ、いまだ、婚姻前の氏による氏名が個人の名称として、戸籍上の氏名と同じように使用されることが社会において根付いているとはまでは認められない

通称として婚姻前の氏を使用する利益は一般的には法律上保護される利益であるということができるが、本件のように職場が関わる場面において戸籍上の氏の使用を求めることは、その結果として婚姻前の氏を使用することができなくなるとしても、現時点でそれをもって違法な侵害であると評価することはできない

不法行為の成立、人格権に基づく妨害排除(予防)請求を否定

●Yによる労働契約法上の付随義務違反の有無 
Yの上記行為が業務命令に該当するとしても、Xが婚姻前の氏を使用することができないことの不利益を考慮してもなお、上記の合理性、必要性を以て、当該業務命令の適法性を基礎付けるに足りる合理性、必要性が存するというべき。
Yが労働契約上の付随義務に違反したとは認められない

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2017年7月 8日 (土)

遺産分割調停事件での相続税申告書及び添付資料を対象とする文書提出命令の申立(否定)

福岡高裁宮崎支部H28.5.26      
 
<事案>
被相続人Bの遺産につき遺産分割調停(基本事件)の申立てをした相手方Aが、抗告人国の所持する基本事件相手方CがD税務署長に対して提出した相続税申告書及び添付資料につき文書提出命令を申し立て⇒原審が「D税務署」に対して、一部の提出を命ずる決定⇒抗告人国がこれを不服として即時抗告 
 
<判断>
行政庁が現実に保管する文書の所持者は国又は地方公共団体であると解され、本件文書の所持者は抗告人国であるが、原審において実質的に抗告人国に手続保障が与えられていたといえる⇒原審の手続に違法な点はない。

相続税申告書等は、公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密が記載されたものであって、これが公にされることにより、申告者との信頼関係が損なわれ、申告納税方式による税の徴収という公務に支障を来すことになる
民訴法220条4号ロ「公務員の職務上の秘密に関する文書」に該当する。

①基本事件に係る遺産分割調停の手続が非公開であるとしても、相続人が感情的対立等から、自己の申告内容を他の共同相続人等に開示することを拒むような場合に、相続税申告書等を当該遺産分割調停事件に提出することにより、申告者との信頼関係が損なわれることは明らかであり、
申告納税制度が納税者の自主的かつ誠実な申告を前提に組み立てられている制度であり、納税者の自主的かつ誠実な申告にとって納税者と税務当局との信頼関係の確保が不可欠

基本事件のような遺産分割調停事件における相続税申告書等の提出が、被相続人の遺産の全貌を明らかにし、調停手続を円滑かつ迅速に進める上で必要性が認められ、ひいては適正な遺産分割の実現による紛争の解決に資するところがあるなどを考慮しても、
本件文書のような相続税申告書等は、その記載内容からみて、民訴法220条4号ロ「その提出により・・・公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれ」がある。
 
<解説>
確定申告書は、その提出により公務の遂行に著しい支障が生ずる可能性があるものの具体例の1つとして紹介されているだけでなく、民訴法220条4号ロ該当性を肯定する下級審決定もある。

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在日韓国人間の婚姻無効確認請求の準拠法

大阪高裁H28.11.18       
 
<事案> 
在日韓国人A(平成25年3月死亡)と在日韓国人Yとの平成10年1月19日付の婚姻の届出について、Aの子らであるXらが、本件届出について届出の意思はなく無効であるなどと主張し、婚姻が無効であることの確認を求めた事案。 
 
<規定>
法の適用に関する通則法 第24条(婚姻の成立及び方式) 
婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
2 婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。
 
<一審>
在日韓国人の届出意思の欠缺を理由とする婚姻無効に関し、
届出意思は「婚姻の成立」に当たり、 通則法24条1項に基づき韓国民法による。
韓国民法に基づき、Aには婚姻の意思があったと推定される⇒Xらの本訴請求を棄却。
 
<判断>
在日韓国人の届出意思の欠缺を理由とする婚姻無効に関しては、届出意思は「婚姻の方式」に当たる
⇒通則法24条2項により、婚姻挙行地法である日本民法が準拠法。 
Aに無断で婚姻届を提出したと認定したが、その後Aは届出意思を追認した
⇒同旨の原判決は相当。
 
<解説>
「婚姻の成立の要件」とは、婚姻の実質的成立要件を意味、
「婚姻の方式」とは、法律上有効な婚姻を成立せしめるために、当事者に要求される外面的行為を意味するものと解すべき。 

民法の「届出」は、婚姻の合意に含まれる意思表示がさような意思表示として効力をもつための方式であって、民法は、届出によって「その効力を生ずる」としているが、届出は、単なる効力の要件ではなく、成立要件と解されている(我妻)。
⇒届出の意思は「婚姻の成立」の問題か、それとも「婚姻の方式」の問題かの判断は、微妙で困難。

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2017年7月 7日 (金)

支払期限が到来していない養育料債権(強制執行認諾文言のある公正証書あり)を被保全債権としての仮差押命令(否定)

最高裁H29.1.31      
 
<事案>
元妻であるXが、元夫であるYとの間で作成した強制執行認諾文言のある公正証書(「本件公正証書」)で定められた長男A及び二男Bの養育料(1人当たり月額3万円)のうち、Aに係る支払期限が到来していない養育料債権(平成28年2月~平成32年3月の50か月分、合計150万円)を被保全債権として、Y所有の土地及び建物(「本件不動産」)に対して仮差押命令の申立てをした。
 
<原審>
金銭債権について債務名義が存在する場合には、債権者は、特別の事情のない限り、速やかに強制執行をすることができる。
本件申立ては、権利保護の利益を欠き不適法であるから、これを却下すべき。
 
<判断>
抗告棄却 
 
<解説>   
●最高裁H24.9.6:
(いわゆる例文の形ではあるが)債務名義がある債権を被保全債権とする仮差押命令の申立てについて、権利保護の必要性を欠くとの理由でこれを却下すべきものとした原決定を正当として是認。 

例外が認められる場合:
・債務名義に条件又は期限が付されている場合
・執行停止命令があった場合等
 
●本件の養育料債権については、債務名義(執行証書)がある
支払期限が到来したもので未払のものについては、これを請求債権として強制執行の申立てをすることができる。
but
Yが給料その他継続的給付に係る債権を有していない
養育料債権のうち支払期限が未到来のものを請求債権として強制執行の申立てをすることはできない(民執法30条、151条の2。ただし、同法167条の16による間接強制の余地はある。)。 

養育料債権を被保全債権とする仮差押命令の申立ての権利保護の必要性の有無については、各月ごとの債権を切り出して議論するのではなく、養育料債権全体実現方法の問題として議論すべきであり、既に支払期限が到来した未履行のものがあれば、基本的には、まず、それについて強制執行に着手すべきものであるという考え方が背景にあるように思われる。
 
●本件では、Xが、本件不動産の強制競売を申し立てたとしても無剰余を理由に手続が取り消される可能性が相当程度ある。 

債権者が債務名義を有している場合に債務者所有の不動産が無剰余でること(又は無剰余の見込みが高いこと)が、当該不動産に対する仮差押命令申立てについて例外的に権利保護の必要性(保全の必要性)を認める事情となり得るか?
A:必要性を肯定するもの
B:必要性を否定するもの
C:近い将来に剰余が生じる見込みが高いことが証明された場合に例外的に必要性を肯定することを明言するもの

平成24年最高裁判決:
債権者が債務者所有の不動産に対して強制執行をしたが無剰余取消しされる直前に当該不動産について仮差押命令の申立てをした事案において、権利保護の必要性を否定した原決定を正当として是認
but
この決定が、例えば、遠くない将来に剰余が生じる見込みが高いことが証明されたような場合にまで例外を否定する趣旨であるかは明らかではない。

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仮差押え⇒土地第三者に譲渡(所有者別)⇒本執行の場合の法定地上権の成否(肯定)

最高裁H28.12.1      
 
<事案>
Xが、その所有する土地(838番6の土地)を占有するYに対し、所有権に基づき、土地明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めるなどした事案。
838番6の土地上にはY所有の建物(本件建物)があるところ、Yはこれにつき法定地上権が成立するから、土地の占有権原を有するとして争った。

①Aは、平成14年5月23日当時、838番6の土地及び838番8の土地並びにこれらの土地上にある本件建物を所有。
②本件建物及び838番8の土地につき、平成14年5月23日、仮差押えがされた。
Aは、平成19年3月26日、838番6の土地をXに贈与
④本件建物及び838番8の土地につき、平成20年2月20日、強制競売手続の開始決定による差押え。
⑤Yは、強制競売手続における売却により、本件建物及び838番8の土地を買い受けてその所有権を取得し、それらを占有。
 
<規定>
民執法 第81条(法定地上権)
土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至つたときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合においては、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
 
<原審>
本件建物につき法定地上権の成立を否定し、Xの土地明渡請求を認容し、賃料相当損害金の支払請求を一部認容。
 
<判断>
地上建物に仮差押えがされ、その後、当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において、土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたときは、その後に土地が第三者に譲渡された結果、当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有者に属していなかったとしても、法定地上権が成立する。 

法定地上権の成立を肯定し、

原判決中、土地明渡請求を認容し、賃料相当損害金の支払請求を一部認容すべきものとした部分を破棄し、
法定地上権の消滅等について審理を尽くさせるため、前記部分につき原審に差し戻し、その余の上告を棄却。 
 
<解説>
●民執法81条は、同一所有者に属する土地及びその上にある建物の一方につき差押えがあり、その売却により所有権を異にするに至ったときは、法定地上権が成立。

①抵当権の実行にかかる民法388条の法定地上権と同様に、土地と建物は別個の不動産とされる一方、自己借地権は認められていないことから、前記のような事案では、特別の手当をしないと建物所有者は土地買受人に対して、また建物買受人は土地所有者に対して、土地利用権を主張できないことになり、
②建物取壊しによる社会経済上の不利益が大きい。

●民執法81条の、土地及び建物が同一所有者に属するとの要件(所有者要件)の基準時 
A:差押え時(中野他)

①民執法においては「仮差押え」と「差押え」は明確に区別され用いられているところ、同法81条には「仮差押え」の場合は規定されていない
②建物の仮差押え後に土地が譲渡された場合、建物につき土地譲受人との間で約定利用権が設定されるはずであり、建物の存続にはこの約定利用権があれば足りる

〇B:これを前提としつつ仮差押えがある場合については基準時を仮差押え時に修正する仮差押え時(民執法実務)

①執行の保全という仮差押えの目的を考えると、仮差押えには執行対象の価値の保存(交換価値の把握)という意義があるところ、基準時を差押え時とすると、建物の仮差押えをした後に土地の譲渡がされ、かつ利用権が設定されなかった場合、建物の価値はほとんど観念できないから、仮差押えで把握していたはずの価値を失うことになる
建物の仮差押え後に土地所有権が移転された場合、確固たる約定利用権が設定される保証はない

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2017年7月 6日 (木)

国税通則法施行令の除外規定の法適合性

大阪地裁H28.8.26      
 
<事案>
Xらは、平成18年11月8日に死亡したAを相続。
Xらは、法定申告期間内である平成19年9月10日、財産評価基本通達に基づいて相続財産を評価して相続税の申告。
but
その後、平成25年5月27日付けで前記通達が改正され、改正後の通達に基づいて相続財産を評価すると前記申告により納付すべき税額が過大に

Xらは、国税通則法23条2項3号及び国税通則法施行令6条1項5号(申告などに係る課税標準又は税額等の計算の基礎となった事実に係る国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈その他の国税庁長官の法令の解釈が判決等に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたことにより、当該課税標準等又は税額等が異なることとなる取扱いを受けることとなったことを知ったこと)によりB税務署長に更正の請求。

B税務著証は、Xらの更正の請求には以下の理由から理由がないとして、原告らに通知。
①Xらの更正の請求は、法定申告期限から5年間(納付すべき税額を減少させる更正をすることができる期間)が経過した後にされたものであるところ、減額更正は法定申告期限から5年を経過した後はすることができない。
②通則法71条1項2号は、①の特例として、政令で定める理由が生じた日から3年間は更正できる旨規定しているものの、同号の委任を受けて定められた施行令30条及び24条4項は、施行令6条1項5号の理由に基づく更正を除外しているから、通則法71条1項2号の適用はない。

Xらは、通則法71条1項2号の更正の理由として施行令6条1項5号の理由を除外する施行令30条及び24条4項の規定(「本件除外規定」)は、通則法71条1項2号の委任の範囲を逸脱したものであるなどと主張して、Y(国)に対し、本件各通知処分の取消しを求めた。
 
<争点>
本件除外規定が通則法71条1項2号の委任の範囲を逸脱したものであるか否か。 
 
<判断・解説>
法律の委任に基づく行政機関の委任命令が授権規定の委任の範囲か否かが問題となった最高裁判例(最高裁H14.1.13等):
委任命令が授権規定による委任の範囲内といえるか否かについては、
①授権規定の文理
②授権規定が下位法令に委任した趣旨
③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性
などを考慮して判断すべきと解される。

●通則法71条は、租税法上の法律関係の早期安定を図るために設けられた課税処分の期間制限の原則に対する例外を定めるもの。

同条1項2号に基づく減額更正は、租税法上の法律関係の早期安定を犠牲にしてもなお減額更正を行うべき事情が存在する場合に認められるというべき。
①同号が例示的に規定する更正の理由(申告納税方式による国税について、①その課税標準の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに起因して失われた場合、②当該事実のうちに含まれていた取消うべき行為が取り消された場合)は、いずれも法的申告期限後に発生した事実に基因して課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実が変動し前記の計算が異なることとなった場合であって、同号は、前記のような場合には申告時においてその後に変動した事実を前提に納税義務がないことを確定することが不可能であることから、租税法上の法律関係の早期安定の要請を犠牲にしてもなお減額更正を行うことを認めたもの。
②同号が、更正の期間制限の特例が認められる場合として、同号に例示的に規定された場合に「準ずる」場合を政令に定めるものとしている。

同号が政令に委任しているのは前記と同様の事情がある場合というべき。

施行令6条1項5号の理由は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に変動が生じたというものではなく、国税庁長官の法令解釈の変更を契機にして課税標準等又は税額等の計算が異なるものであったことが確認される場合であり、
納税者は、自ら正しいと考える申告をし、課税庁から増額の更正を受けた場合にはこれに対する取消訴訟を提起して自らの権利保護を求めることができる

租税法上の法律関係の早期安定の要請を犠牲にしてもなお減額更正を行うべき事情があるとはいえない。

通則法71条が通則法70条の期間制限の例外であってその範囲を緩やかに解すべきでない。

施行令6条1項5号の理由が通則法71条1項2号のいう「その他これらに準ずる」理由に当たるとういことはできず、本件除外規定が同号の委任の範囲を逸脱するものということはできない

判例時報2329

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死刑確定者の再審請求の弁護人との立合いのない面会の申出に対する制限の仮の差止め

東京地裁H28.12.14      
 
<事案>
死刑確定者であるXが、Y(国)に対し、拘置所長において、再審請求の弁護人である弁護士による、再審請求の打合せを目的とする、同拘置所の職員の立会いのない1時間の面会をしたい旨の申出⇒同拘置所の職員を立ち会わせた上での30分の面しか認めなかった

Xは、このような制限は違法であるとして、

主位的に、同拘置所長において、前記目的の面会について、同拘置所の職員を立ち会わせる措置を執る旨の処分及び面会の時間について制限する旨の処分をすることの差止めを求めるとともに、
同拘置所長のこれらの行為に処分性が認められない場合に備えて予備的に、同面会について、同拘置所の職員を立ち会わせ、面会の時間について制限を付して面会を許可する処分をすることの差止めを求めた。 

本件は、前記本案の訴えを提起したXが、Yに対し、前記本案の訴えにおいて差止を求める各処分の仮の差止めを求める事案。
 
<争点>
①刑事施設の長による同施設の職員を立ち会わせる旨の措置及び面会時間を制限する措置が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるかどうか

仮の差止めの要件である「本案について理由があるとみえるとき」に関し、
②刑事施設の長による同施設の職員を立ち会わせる旨の措置及び
③面会の時間を制限する措置が、
裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものといえるかどうか。 
 
<判断>
死刑確定者の面会に関する刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(「刑事収容施設法」)120条ないし122条の条立てと、受刑者の面会(同法111条、112条、114条)及び未決拘禁者の面会(同法115条、116条、118条)の条立ては基本的に同様であることを指摘した上、

受刑者の面会に関する同法の規定を挙げて、
被収容者の面会は、本来的には刑事施設の職員の立会い等及び面会の時間等の制限の規制を受けない性質のものとして規定されているとし、未決拘禁者の面会及び死刑確定者との面会に関しても別異に解すべき理由はない
死刑確定者の面会に際し、刑事施設の長が、その指名する職員を面会に立ち会わせ、又は面会の時間を制限する措置を執る場合には、面会の許可によって認められた死刑確定者の面会の利益を制約することになる
刑事施設の長によるこれらの措置は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる
 
●最高裁H25.12.210を参照し
再審請求弁護人が、再審請求の打合せをするために死刑確定者と刑事施設の職員の立会いのない面会(「秘密面会」)の申出をした場合に、刑事施設の長が、その許可に係る面会に職員を立ち会わせる措置を執ることは、秘密面会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ、又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえその心情の安定を把握する必要性が高いと認められるなど特段の事情がない限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものとなる。 

現時点における事情の下では、前記の特段の事情があるとはいえない
⇒拘置所長が秘密面会を許さずにその指名する職員を立ち会わせる措置を執ることは、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものというべき。

死刑確定者の再審請求の弁護人による刑事施設職員の立会いのない面会の申出に対する、これを許さない刑事施設庁の措置を仮に差し止めた事例。
 
●同拘置所における面会の実施件数などから、一般の面会についての面会可能時間は30分程度である上、面会の時間を制限する措置については、個々の面会の申出ごとの当該措置の時点における同拘置所の個別具体的な人的・物的事情を踏まえた上でなければ、現時点で直ちにその措置が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものとなるか否かを判断することができない。

面会の時間を制限する措置に係る部分については、本案について理由があるとみえるときに当たるとはいえない

死刑確定者の再審請求の弁護人による時間制限のない面会の申出に対する、刑事施設長による面会時間を30分に制限する措置の仮の差止めの申立てを却下

判例時報2329

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2017年7月 5日 (水)

交通事故による高次脳機能障害の発症を認めた事例

大阪高裁H28.11.30      
 
<事案>
Xは、本件事故により左不全片麻痺と記憶障害を主とする本件高次脳機能障害を負ったとして、労災保険法に基づく障害給付の支給を請求
⇒処分行政庁が障害給付を支給しない旨の処分⇒Y(国)に対し右処分の取消しを求めた。 
 
<原審>
Xの請求を棄却。 
 
<判断>
高次脳機能障害が交通事故により発症したか否かを判断する重要なポイントとして
意識障害の有無とその程度
画像所見
因果関係の判定
が挙げられる。

①Xは、本件事故にあり、救命救急センターに搬送された当時、意識障害があり、その障害は20時間継続したもので、その障害の程度は重大なものであった。
②Xには、受傷直後に撮影された頭部CT及びMRI画像上、脳実質の損傷を窺わせる出血が認められる⇒慢性期の脳室拡大、脳萎縮が不明であったとしても、高次脳機能障害を否定するのは相当ではない。
③本件事故後におけるXの診療録、本件事故後におけるXの行動、他の疾病の可能性を総合考慮⇒本件事故と本件高次脳機能障害との間には因果関係が認められる

Xの請求を認容。
 
<解説>
高次脳機能:
視覚や聴覚等の各感覚系の情報に基づく広い意味での、知識に基づいて行動を計画し、実行する精神活動であり、これには、知覚、学習、記憶、概念形成、判断、言語活動、抽象的思考等が含まれるとされ、これらに障害を起こすことを高次脳機能障害というとされる。

平成15年8月8日付けの労働者災害補償保険における「神経系統の機能または精神の障害に関する障害等級認定基準について」の厚生労働省労働基準局通達によれば、
①意思疎通能力
②問題解決能力
③作業負荷に対する持続力・持久力
④社会行動能力
の4能力に区分して、その能力の程度を6段階で評価して等級認定されることになるが、
脳外傷による高次脳機能障害と判断するためには、
①意識障害の有無とその程度・長さの把握、
②画像上での脳室拡大・脳萎縮等の有無
③因果関係の判定(他疾患との鑑別)
が重要なポイント。

判例時報2329

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2017年7月 4日 (火)

天候の悪化による遭難事故についての登山の引率者の過失責任が問われた事例

<事案>
天候の悪化による遭難事故についての登山の引率者の過失責任が問われた事例。 
 
<判断・解説> 
●結果の予見可能性 
◎ 
①過失責任を問うためには、普通に注意していれば天候の悪化による遭難事故の発生を予見することができたにもかかわらず、必要な注意を欠いてその予見をせずに登山を続行した、といえることが必要。
遭難事故となる危険性のあるような天候の悪化が予見できれば、遭難事故を避けるために登山を中止することが期待できる

過失判断の前提としての予見の内容としては「遭難事故となる危険性のあるような天候の悪化の可能性」でたり、それ以上に「現に生じたような著しい天候の悪化の可能性」は予見の対象とならないというべき。

一審判決が、現実の因果的経過を逐一予見することまでの必要はなく、ある程度抽象化された因果的経過を予見することが可能であれば十分といえると判断したのと同様の理解により、その判断を是認。

◎過失犯の成立要件の予見可能性:
具体的予見可能性説(構成要件該当事実の具体的予見可能性が必要であるとする見解)が判例・通説。

どの程度まで結果発生の危険が認識可能であれば予見可能性を肯定してよいかが問題。 

判例:
予見の対象としての因果経過はある程度具体的なものである必要があるものの、現実結果発生に至る因果の経過を逐一具体的に予見することまでは必要ではなく、ある程度抽象化された因果経過(「因果関係の基本的部分」)が予見可能であれば、過失犯の成立要件としての予見可能性が認められる
 
●結果回避義務 
◎本件における結果の予見可能性の内容⇒被告人には、遅くとも、被害者らの生命、身体に対する危険を生ずる結果を回避することが可能であったと認められる尾根の途中で、登山を中止して避難小屋に引き返すなどの対応をとる義務があったというべきであるとして、これを肯定。

結果回避義務の検討にあたり、「優良登山ツアーでは、登山者が自己の責任で行う通常の登山の場合と異なり、登山者は、登山中の安全の確保についてツアーの引率者に依存するところが大きいと考えられる」

引率者が、引率の対価を得る有料の企画か否かも、責任の有無に関係している可能性。
 
◎過失犯の正否の検討:
結果から遡って、結果と因果関係が認められる過失行為を抽出した上で、行為者の結果回避義務の存否及び内容を検討していく方法。
その内容として複数のものを考え得ることもある

判例時報2328

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大学の専任教員の定年後の再雇用拒否につき、労契法19条2号が類推適用された事例

東京地裁H28.11.30      
 
<事案> 
被告:大学等を設置する学校法人
原告:被告との間で機関の定めのない労働契約(「本件契約」)を締結し、平成18年4月1日から平成27年3月31日まで、同大学総合政策学部の専任教員として勤務し、定年を迎えた者。 
 
被告の就業規則において、専任教員の定年は、満65歳に達した日の属する学年度の末日と規定。
この特例として、「理事会が必要と認めたときは、定年に達した専任教員に、満70歳を限度として勤務を委嘱することができる。」との専任教員の定年に関する特別規定。
これまで定年後も引続き勤務を希望する専任教員については、本件規程に基づき、特例専任教員として、70歳まで1年間ごとの嘱託契約を締結。
but
原告は再雇用契約を拒否された。
 
<主張>
原告は、
主位的に
①本件契約には定年を70歳とする合意が存在する
②定年を70歳とする労使慣行が存在する
と主張し、
予備的に
③本件契約には専任教員として65歳の定年になった後、70歳まで特別選任教員として再雇用する旨の合意が存在する、
④仮に①から③までの合意や慣行が存在しなかったとしても、原告には、定年後70歳まで特別専任教員として本件再雇用契約が締結されるものと期待することについて合理的な理由があるといえるから、雇止め法理が類推適用される。

被告に対し、特別専任教員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた。
 
<判断>
主張①について:
原告が被告との間で、被告の就業規則と異なる70歳定年制の合意をしたものと認めることはできない。

主張②について:
①本件規程が形骸化しているとはいえない
②本件再雇用契約を締結しした教員は希望者の全員とはいえ15年間で7名にとどまる
70歳定年制の労使慣行が事実たる慣習(民法92条)として成立しているとはいえない。

主張③について:
被告が、大学教員としての勤務実績のない原告を採用する際に、定年後(9年後)の再雇用を予め確約しておくことは、社会通念上考え難い
70歳まで特別専任教員として再雇用する旨の合意が成立しているとはいえない

主張④について:
(1)
原告の採用を担当した理事が70歳までの雇用が保障される旨の説明をしており、
②採用決定後の説明会においても、事務担当者が、就業規則を示しながら定年後は70歳まではほぼ自動的に勤務を委嘱することになる旨説明

これらの言動は、本件再雇用契約締結に対する期待を相当持たせる言動
(2)平成26年8月までの間、本件再雇用契約の締結を希望した専任教員の全員が再雇用契約を締結して70歳まで契約更新を繰り返してきた

原告において、定年後、本件再雇用契約が締結されると期待することが合理的

労契法19条2号を類推適用し、津田電気計器事件(最高裁H24.11.29)を参照した上で、本件再雇用契約の成立を認め、原告の請求を認容。
 
<規定>
労働契約法 第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

労働契約法 第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
<解説>
●津田電気計器事件:
①継続雇用制度(高年法9条1項2号における継続雇用基準(同条2項))を満たしていた労働者が、定年後に終結した嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することに合理的な理由があると認められるときは、特段の事情のない限り、使用者において再雇用を拒否することは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、
②嘱託雇用契約終了後も継続雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については継続雇用規程の定めに従うことになる。

津田電気計器事件は、高年法の適用があり継続雇用基準を満たしている事案。
本件事案は、65歳以降の再雇用の問題であり、高年法の適用がなく、再雇用基準(本件規程)に使用者の裁量が認められている点が津田電気計器事件と異なる。

●高年法が求める定年が65歳
⇒本件規程のような使用者に一定の裁量を与える形の就業規則を設けたとしても、合理性のある条項として有効(労契法7条)。
⇒再雇用の採否は、原則として、使用者の裁量に委ねられ、使用者による再雇用拒否が違法となるのは例外的な場合。

仮に違法となる場合には、使用者に対し、①不法行為に基づく損害賠償請求を求めることが考えられ、さらに、②再雇用契約上の地位確認まで求めることができるか、その理論構成や津田電気計器事件の射程距離が問題。
 
● 本件契約は、有期労働契約ではなく、定年によって終了したものであるが、
本判決は、
労契法19条2号の趣旨が、定年後も再雇用されて雇用が継続されるものとの合理的な期待が存在する場面でもあてはまると判断して、労契法19条2号の類推適用を肯定するするとともに、
②その結果生ずる法律関係については、津田電気計器事件の考え方を参考にして、再雇用契約の成立を認めたもの。 

判例時報2328

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2017年7月 3日 (月)

分割型新設分割に伴って実施された剰余金配当に対する否認権行使(否定)

東京地裁H28.5.26       
 
<事案>
会社法(平成26年法律第90号による改正前のもの)763条の12号ロに定める形態による新設分割(いわゆる分割型新設分割)に伴う剰余金配当に対する、否認権行使の可否が問題となったもの。 
 
<事実>
A社は、以下の内容で、B社を新設設立する会社分割を行った。
①A社は、その保有するP事業に属する資産・負債をB社に承継させる。
②B社は本件会社分割に際して普通株式200株を発行し、A社に交付。
③A社は、会社分割効力発生日に、B社から割当交付された株式の全てを、会社法736条12号ロの規定に基づく剰余金の配当として、Xに交付。
④A社は、会社分割に当たり、会社法所定の債権者異議手続を履践したが、所定の期間内に異議を述べたA社の債権者はいなかった。 

その後、A社は再生手続開始の申立て
⇒裁判所は、Yを監督委員に選任し、A社につき再生手続開始の決定。
Yは、前記会社分割に際して行われた会社法763条12号ロの規定に基づく剰余金配当について、民事再生法127条1項1号又は同条3項に該当すると主張して否認の請求⇒裁判所はそれを認容する旨の決定(原決定)。

XがYに対し、原決定の取消しと否認の請求の棄却を求めた。
 
<判断>
分割型新設分割が会社法所定債権者異議手続を経て行われた場合には、特段の事情がない限り、分割型新設分割に伴って行われる剰余金の配当に対して否認権を行使することはできない。
but
債権者異議手続において備置された事前開示書面の記載内容に、債権者が会社分割に対して異議を申し立てるか否かの判断を誤らせるような虚偽の記載がある場合は、前記特段の事情があるものとして、否認権行使が可能である場合がある
 
<解説> 

会社分割が濫用的に用いられる場合の債権者保護の方途として、
会社法上は、会社分割無効の訴えが規定。
but
出訴期間や原告適格に制限

会社分割に対する否認権や詐害行為取消権の行使など、会社法以外の法令に基づく権利行使による債権者保護が求められる事案がある。 

新設分割に対する詐害行為取消権の行使を認めた最高裁H24.10.12:
新設分割は、新たな会社の設立を内容に含む会社の組織に関する行為

このような性質からすれば、当然に詐害行為取消権行使の対象になると解することはできず、その可否については、「新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要する

本判決:
①分割型新設分割が物的分割とは異なる効果(分割会社と設立会社を親会社の下に対等な関係で分社化する)を実現するもの
②通常の新設分割とは異なり債権者異議手続の対象が全ての債権者に拡大されている
③剰余金配当につて財源規制が課されない

剰余金配当に対する否認権行使の可否は、「会社分割と密接に関連する法律行為」であって、「これに対する否認権行使の可否については、『会社の組織に関する行為』である会社分割に準じ、新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要する」。

分割型新設分割に伴う剰余金配当について、新設分割と一体となって独自の経済的効果を実現するスキームの一部であると位置づけ、従って組織再編の法的安定の要請が働き、当然に否認権の対象となるものではなく、新設分割の否認に準じた慎重な判断を要する。
 
●本件の会社分割は、分割型新設分割⇒全ての債権者が債権者異議手続の対象となっていたところ(会社法810条1項2号)、所定の期間内に本件新設分割に対して異議を述べた債権者がいなかった。
⇒全ての債権者に承認擬制(会社法810条4項)の効果が及んでいた。
 
新設分割当時既に存在した債権者については、債権者異議手続による権利保護の機会を与えられていた
②分割型新設分割の後に分割会社に対して債権を取得した債権者については、そのような新設分割が実施されたことや、当時の分割会社の財産状態を前提として再建を有するに至ったこと

新設分割に求められる法的安定性の要請に反してまで否認権の行使を認めることにより保護すべき利益があるとは言い難い

判例時報2328

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2017年7月 2日 (日)

地方公共団体が発注したプラント設備工事の契約解除等

京都地裁H28.5.27       
 
<事案>
原告(地方公共団体)と被告(請負人)との間で締結された廃棄物焼却の後に排出される焼却灰を溶融する施設のプラント設備工事を内容とする請負契約(請負代金112億4550万円)について、被告による工事がなされたが、当事者間で工期が何回か変更され、最終引渡期限前で被告による引渡前の第二次試運転中に、設備に不具合(ダスト堆積)が生じた。
被告が期限までに工事を完成させることが不可能となったなどとして、原告が、最終引渡期限より約1か月前に、契約を解除。 

工事途中において、原告は、被告に対し、出来率97%であるとの検査結果を通知し、請負代金約88%を支払っており
被告は、原告に対し、1162日分の工事遅延損害金合計23億円余を支払っていた。
請求  原告が被告に対し、
契約解除は有効であり、本件プラントの解体撤去及び損害賠償に関する合意(本件解体撤去等の合意)も成立したなどと主張し、

主位的に
①本件プラント設備全体の解体及び撤去
②損害賠償金68億円余及びこれに対する遅延損害金の支払
③既払請負代金98億円及びこれに対する遅延損害金の支払
を請求し、
主位的請求①について、予備的に、解体撤去費用相当額17億円余及びこれに対する遅延損害金を請求。

反訴請求:
被告が原告に対し、原告が工事の進捗を妨害し、工事を完成させることが社会通念上不能となったなどと主張し、本件契約に基づき、請負残代金の支払を請求。
 
<争点>
①本件解体撤去等の合意の成否
②本件請負契約の解除の有効性
③解除が有効である場合の解除の範囲
④被告の原告に対する請負残代金請求の可否 
 
<判断>
●争点①(本件解体撤去等の合意の成否)
原告は、本件解体撤去等の合意の意思を一貫して有し、明示的に申し込みをした。

被告の承諾について:
①株主代表訴訟のリスク等を理由に難色を示していた
②100億円以上の負担を被告が承諾する動機に乏しい
③被告担当者は、あくまで現行の要望を協議する意図で調整を図っていた
⇒否定
本件解体撤去等の合意の成立は認められない

●争点②(解除の有効性) 
◎適用される民法上の規定
予定された工程を一応完了したといえるためには、少なくとも発注仕様書において予定されていた第二次性能確認試験合格が必要
②被告は同性能試験に合格しておらず、いまだ予定された工程を完了していない
請負の担保責任ではなく、債務不履行一般の規定が適用される。

◎履行遅滞に基づく解除 
①本件請負契約上、債務不履行に基づく解除原因は、
「責めに帰するべき理由により」「工期又は工期経過後相当期間内に工事を完成する見込みがないと認められる場合」と規定。
②被告が、本件請負契約の変更契約によって合意された期間までに本件プラントの完成検査に合格できなかった
契約上の履行期徒過を認めた
but
本件請負契約の規定(損害金を徴収しての工期延長規定)
被告が同規定に基づく遅延損害金を支払っていること

被告は、原告に対し、同規定に基づき、引渡期限延長の申込みを行い、
原告は、被告に引渡期限を厳守すること等を内容とした「厳命書」を交付した時点で、被告の前記申込みを少なくとも黙示的に承諾

本件契約の履行期は平成25年8月末日まで延長された。

第二次試験運転時に発生したダスト堆積の発生により、前期債務不履行に基づく解除の各要件が満たされるか?
①同試験に使用された焼却残さ成分は、第一次試運転時と異なり、設計図書において設計値として記載された値を上回っており、性能評価会議の有識者もダスト堆積原因を明確に特定できていない
②被告が立案したプラント内部の形状変更や堆積したダストを空気圧で排除しして体積を防止するスチームブローを移設すること等の対策工事の有効性が、事後的な実験ではあるが確認された

原告による解除の意思表示時点で、本件請負契約上の解除要件は満たされていない

原告の解除に至る意思決定の過程には、原告の協力義務に違反するものがあると評価できる⇒受領遅滞の成立を認め、このような点からも債務不履行による解除が否定される。
 
◎履行不能に基づく解除 
本件請負契約には一定の開発行為が含まれ、想定外の不具合の発生及びその是正の必要が生じ得る不具合の発生から直ちに履行不法となるとはいえない
②被告提示のダスト堆積への対策工事の有効性が確認できる
③プラント内の炉内圧力(正圧)による蒸気噴出の問題は、負圧状態の維持の仕組みが整っていたと認められる

本件請負契約における仕事完成債務は社会通念上履行の期待可能性がないとはいえず、履行不能であるとは評価できない
 
●争点④(被告の原告に対する請負残代金請求の可否)
①被告の仕事完成債務について、被告が工事を完成させることができないのは、技術的対策工事の面ではなく、原告が被告の対策工事を明確に拒絶していることが原因
原告がそのような態度をとる原因となる事情があり、本件工事未完成の責任が、一概に原告のみにあるとまではいえず、被告にも原告の頑なな態度を招いた面も否定できない

原告が被告の対策工事を明確に拒絶していることのみから、ただちに社会観念上の履行不能と評価すべき事案ではない

公益上重要な施設の将来にかかわり、巨額の公的資金の使途における有効性にかかわる
⇒原告の翻意がいまだ期待される。

仕事完成債務が履行可能と解すべき事案であるとして、民法536条2項の履行不能に当たらない

反訴請求が既払部分を除く完成部分の請負残代金請求であると解したとしても、当該請求の根拠がない。
 
<解説>
債務不履行の一類型としての「履行不能」は、一般には、債務の対象が不存在又は滅失するなどの物理的不能の場合や、物理的には履行可能であっても、社会通念や取引通念によって債務者による履行の実現が期待できない場合をいうと解されている。

判例時報2328

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2017年7月 1日 (土)

社会保険事務所の担当者の説明・回答の誤り(⇒時効消滅)と国賠請求(肯定)

東京地裁H28.9.30      
 
<事案>
厚生労働大臣から遺族厚生年金の支払裁定を受けたXが、その裁定を受けるまでの間に、複数の社会保険事務所において、遺族厚生年金の受給の可否を相談⇒各職員から受給はできないとの誤った説明ないし回答⇒遺族厚生年金の受給権の一部が消滅時効にかかり支給を受けることができなかったことから損害を被った⇒Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、消滅時効の完成を理由に受給できなかった年金総額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断>
●国賠法1条1項の違法な行為の有無 
・・・・このような事情の下では、平成4年6月15日の年金相談を担当した本件担当職員は、X及びBからの説明内容を踏まえ、配偶者要件充足の可能性を認識した上で、XがAの死亡時に離婚していた場合、原則としてAの遺族厚生年金を受給することはできないが、もし、配偶者要件及び生計維持要件を充足する事実関係が認められたとするならば、XがAの遺族厚生年金を受給することができる可能性もある旨説明すべきであったというべきであるのに、本件担当職員は、このような説明をすることなく、また、配偶者要件や生計維持要件の充足に関する事情を聴取することもないまま、死亡時に離婚していたので遺族厚生年金を受け取る方法はない旨誤った説明、回答を断定的にしたものといえ、これは、職務上の法的義務に違反する国賠法1条1項の違法な行為に該当する。
 
●損害額 
①平成22年10月15日の裁定請求の際のX及びBの対応⇒平成4年6月15日の年金相談において遺族厚生年金を受給することができるかもしれない旨の説明を受けていれば、X及びBは、速やかに、必要な書類を調査、収集して、遺族厚生年金の給付を請求したものと認めるのが相当。
②Xが平成4年6月15日の年金相談の後、速やかに遺族厚生年金の支給を請求すれば、そのころ社会保険庁長官により遺族厚生年金支給の裁定が行われ、Xは、平成22年の裁定では消滅時効が完成したためにXへ支給されなかった昭和62年9月分から平成17年7月分までの遺族厚生年金をも受給することができたと認めるのが相当。

時効消滅したXの遺族厚生年金の昭和62年9月分から平成17年7月分の合計額が・・・相当因果関係のある損害といえる
Xは・・・平成8年9月分から平成17年7月分までX自身の老齢厚生年金合計338万8646円を受給しているが、これは、仮に平成4年6月に、Aにかかる遺族高裁年金支給の裁定が行われていれば受給することのなかったもの

これを・・時効消滅額から控除した1433万9869円が、本件でXがYに請求することが可能な損害額と認めるべき。
 
●消滅時効の可否 
Xは、相談担当職員の誤った回答で遺族厚生年金の受給権が時効消滅したとして、国に対して時効消滅した年金受給権及び遅延損害金を請求する旨の平成25年11月6日付けの通知書を消滅時効完成前の同月7日に受け取っているところ、この通知書により、Xは、本件損害賠償請求についてYへ催告したものと認められる。
⇒仮にY主張の日が本件の損害賠償請求権の消滅時効の起算日となるとしても、上記の通知書による催告によってY主張の消滅時効は中断。
⇒消滅時効完成についてのYの主張を否定。

判例時報2328

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