京都府風俗案内所の規制に関する条例の合憲性(合憲)
最高裁H28.12.15
<事案>
かつて営業禁止区域内で風俗案内書を営んでいたXが、本件条例(京都府風俗案内所の規制に関する条例)は憲法22条1項、21条1項等に違反すると主張して、Y(京都府)を相手に、営業禁止区域内で風俗案内所を営む法的地位を有すること等の確認を求めた
<規定>
憲法 第22条〔居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由〕
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
<一審>
①風俗案内所による弊害が風俗営業所による弊害よりも大きいとはいえず、
②風俗法及び同法施行条例が風俗営業所の営業禁止区域を保護対象施設の敷地から最大70m以内としている
⇒
保護対象施設の敷地から少なくとも70mを超える区域において風俗案内所の営業を全面的に禁止する本件条例の規定は、立法府の合理的裁量の範囲を超えて営業の自由を制限するものであり、憲法22条1項に違反。
<原審>
①風俗案内所の特質(多数の風俗営業所の情報が集積し、案内業務に収益を上げるため、多数の風俗営業所について積極的に広告・宣伝が行われること)⇒建物内部への見通しなど構造設備要件により規制されている風俗営業所に比べて外部環境に与える影響は格段に大きくなる。
②風俗案内所が違法な性風俗店と結びつきやすい
⇒
風俗案内所に対して風俗営業所より厳しい規制をすることも合理的な範囲にとどまる限り許される。
風営法等が性風俗営業所に対して200m以内の営業禁止等を定めている
⇒規制内容の必要性・合理性についての立法府の裁量に逸脱・濫用はなく、憲法22条1項に反しない。
<判断>
本件条例の規定が憲法22条1項、21条1項に違反しない
⇒Xの上告を棄却。
<解説>
●憲法22条1項による職業選択の自由の保障は、広く一般に、いわゆる営業の自由を保障する趣旨を包含するものであり、狭義の職業選択の自由(職業の開始・継続・廃止の自由)だけでなく、職業活動の自由(選択した職業活動の内容、態様の自由)も含む。
経済的自由の制約を伴う規制立法の憲法適合性について、薬事法距離制限事件判決(最高裁昭和50.4.30):
これらの規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。
この場合、右のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである。
しかし、右の合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭がありうるのであって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものといわなければならない。
~
憲法適合性判断の枠組みとして、利益衡量論を基礎とした上で、前記の諸事情を比較考量して立法府の判断がその合理的裁量の範囲内にあるか否かを判断する枠組みを採用。
本判決:
この判断枠組みを前提として、本件条例による風俗案内所の営業禁止規制について検討し、京都府議会が本件条例所定の保護対象施設の敷地から200m以内の区域における風俗案内所の営業を禁止する規制を定めたことが合理的な裁量の範囲を超えるものとはいえず、本件条例の規定が憲法22条1項に違反しないと判断。
●Xが風俗案内所に接待飲食等営業に従事する者等を表示する等の行為は、営利的な表現活動(営利広告)の側面を有する。
学説は、営利的表現の自由も憲法21条により保障されるとするが、判例は表現の自由の範疇に属するか否かを明確にしていない。
精神的自由の制約を伴う規制立法の憲法適合性に関する最高裁判例は、
当該自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、①当該目的のために制限が必要とされる程度と、②制限される自由の内容及び性質、③これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を衡量して決せられるべきものである旨判示し、合憲性判断の枠組みとして利益衡量論を採ることを明らかにしている。
判例時報2328
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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