温泉施設の爆発事故について設計担当者の業務上の過失(肯定)
最高裁H28.5.25
<事案>
東京都渋谷区内にある温泉施設において、温泉水から分離処理されたメタンガスが、ガス抜き配管内での結露水の滞留により露出・滞留した上、引火して爆発⇒本件温泉施設内にいた従業員3名が死亡し、2名が負傷、通行人1名が負傷。
⇒
本件温泉施設の建設を不動産会社から請け負った建設会社に所属する施設の設計者である被告人が、情報伝達(説明)義務違反の過失があったとして、業務上過失致死傷罪に問われた事案。
<争点>
本件温泉施設の設計担当者である被告人においてガス抜き配管内からの結露水の水抜き作業に係る情報を説明すべき号無上の注意義務の有無が争点。
<主張>
過失の有無について
①本件爆発の機序に関する予見可能性がなかった
②信頼の原則の適用により水抜き作業に係る情報につき不動産会社に対する説明義務がなかった
<解説・判断>
●過失犯についての因果経過の予見可能性の有無が問題となった判例
生駒トンネル火災事件に関する最高裁H12.12.20
明石砂浜陥没事故事件に関する最高裁H21.12.7
⇒
予見の対象として因果経過はある程度具体的なものである必要があるものの、現実の結果発生に至る経過を逐一具体的に予見することまでは必要ではなく、ある程度抽象化されて因果経過が予見可能であれば、過失犯の要件としての予見可能性が認められるという立場。
●組織内における担当者の不作為による過失犯について業務上の注意義務の有無が問題となった判例:
薬害エイズ事件(厚生省ルート)
明石花火大会歩道橋事故事件
トラック欠陥放置事件
明石砂浜陥没事故事件等
⇒
判例は、業務上の注意義務の有無に関し、
①被告人の地位や職責等、②その職務の遂行状況の実態等の諸事情を前提として、③結果発生の危険性や、④そに対する支配管理性などの事情を総合的に考慮し、刑法上の注意義務として結果回避義務を肯定できるかどうかを判断してきた。
●本件では、本件温泉施設の設計担当者としての被告人の立場や本件への関わりなどの事実関係から、注意義務主体として当然に被告人が想定され、その業務上の注意義務の有無や具体的内容が問題となる。
本決定は、原審までの認定事実から、
①被告人の職責や立場、②本件温泉施設の構造、③メタンガス爆発事故防止のための結露水排出の意義と被告人によるその認識可能性、④本件爆発事故の因果経過、⑤被告人による建設会社の施工担当者に対する説明状況、⑥水抜きバルブの開閉状態の変更指示等の事実関係を確認。
その上で、本件が爆発事故であることを前提として、
①被告人が、本件温泉施設の建設工事を請け負った建設会社におけるガス抜き配管設備を含む温泉一時処理施設の設計担当者として、職掌上、同施設の保守管理に関わる設計上の留意事項を施工部門に対して伝達すべき立場にあり、自ら、ガス抜き配管に取り付けた水抜きバルブの開閉状態について指示を変更して結露水の水抜き作業という新たな管理事項を生じさせたこと、
②同作業の意義や必要性を施工部門に対して的確かつ容易に伝達することができ、それによって爆発の危険の発生を回避することができたこと
等の事情
⇒
被告人には、同作業に係る情報を、建設会社の施工担当者を通じ、あるいは自ら直接、不動産会社の担当者に対し確実に説明し、メタンガス爆発事故の発生を防止すべき業務上の注意義務がある。
~
本件の具体的事実関係に応じて、被告人の立場や新たな管理事項の創出に加え、結果回避措置の容易性を指摘。
判例時報2327
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