裁判員裁判の死刑判決の事案・訴因変更勧告・択一的認定
名古屋地裁H27.12.15
<事案>
平成10年に起きた夫婦を被害者とする強盗殺人事件(甲事件):
被告人が共犯者2名と、パチンコ店の売上金等を目当てに、同店の店長宅に侵入し、店長の妻(当時36歳)を殺害して現金を奪い、さらに帰宅した店長(当時45歳)を殺害し金庫や鍵束を奪ったが、結局はパチンコ店に入ることができず、その売上金などを盗むことはできなかった。
平成18年に起きた強盗殺人未遂事件(乙事件):
甲事件の共犯者の1名と共謀し、金品を強奪しようとし民家に侵入し、同所にいた被害者(当時69歳)をひも様のものを用いて首を絞めるなどして犯行を抑圧し、現金等を奪ったが、殺害は未遂に終わった事案。
<解説>
●公判での証拠調べが終わって事実認定に関する中間論告が終わった段階で、乙事件について、予備的訴因が追加。
訴因変更⇒被告人の防御のため、公判手続を停止することもあり得る(刑訴法312条4項)⇒裁判員の職務従事期間を延ばさなければならなくなるという困難な問題と直面。
but
本件の場合、事案が重大で、訴因を変更さえすれば事実が問題なく認定できるといった点が考慮され、勧告となった。
●判決で「単独で、又は被害者の殺害についても共犯者と共謀して、殺意をもって、」被害者の首をひも様のもので絞め付けるなどしたと認定。
~択一的認定
東京高裁H4.10.14:
原審が、強盗の共同正犯の起訴に対して、単独犯か共犯者との共同正犯であると認定したことを、実体法の適用上及び訴訟手続上、被告人に不当な不利益を及ぼすものではないとして是認。
本判決は、いきなり判決で示したのではなく、検察官に訴因変更を勧告した上でのこと⇒不意打ちにはなっていない。
量刑を考える際には、択一認定のうち被告人に有利な方を前提に考えることになろう。
本判決「殺人の実行行為を行ったのが共犯者1人であるという被告人にとって最も有利な場合を想定しても」と論じる。
●量刑について
裁判員裁判と死刑の量刑について「裁判員裁判における量刑評議のあり方について」(司法研究報告書63.3.103以下)
死刑については、氷山基準(最高裁昭和58.7.8)
司法研究報告書:
死亡被害者が2名の強盗殺人事件⇒約3分の2の被告人が死刑。
2名に対して当初から強盗殺人の犯意を有していた類型と、2回の機会における犯行で、そのそれぞれにおいて、当初から各被害者に対する強盗殺人の犯意を有していた類型は、死刑が宣告されることが多い。
犯行現場において強盗殺人の犯意が発生した類型は、無期懲役が宣告されることも多い。
←
生命侵害に向けられた強盗殺人の犯行の危険性は、早い段階から殺害を計画して実行した場合に高まり、また、計画性が高まれば高いほど、その行為が生命を軽視した度合いが大きい。
本件は、当初から強盗殺人の犯意があったとはいえない事例だが、
2名の生命を奪い、1名の生命を脅かしたという結果が極めて重大であるとし、これらを繰り返した点で被告人の生命軽視の態度が甚だしいとして、特に酌量すべき事情がない限り、死刑を選択することもやむを得ないと判断。
判例時報2327
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- (脚本の)映画試写会での公表(否定)とその後の週刊誌での掲載による公表権の侵害(肯定)(2023.06.04)
- いじめで教諭らと市教育委員会の対応が国賠法上違法とされた事案(2023.06.04)
- 破産申立代理人の財産散逸防止義務違反(否定)(2023.06.01)
- 土地売買の中間業者の詐欺行為・転付命令の不当利得(肯定事案)(2023.06.01)
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
「刑事」カテゴリの記事
- 詐欺未遂ほう助保護事件で少年を第一種少年院に送致・収容期間2年の事案(2023.05.07)
- 不正競争防止法2条1項10号の「技術的制限手段の効果を妨げる」の意味(2023.05.01)
- 保釈保証金の全額没収の事案(2023.04.02)
- 管轄移転の請求が訴訟を遅延する目的のみでされた⇒刑訴規則6条による訴訟手続停止の要否(否定)(2023.04.02)
- いわゆる特殊詐欺等の事案で、包括的共謀否定事例(2023.03.23)
コメント