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2017年6月13日 (火)

地自法251条の7に基づき辺野古湾の埋立承認取消しの取消しをしないという不作為の違法の確認を求めた事案

最高裁H28.12.20      
 
<事案>
日本と米国との間で返還の合意がされた普天間飛行場の代替施設を名護市辺野古沿岸域に建設する事業(「本件埋立事業」)につき、沖縄防衛局が、前沖縄県知事から公有水面埋立法42条1項に基づく公有水面埋立ての承認を受けていた。
⇒沖縄県知事が、本件埋立承認に違法の瑕疵があるとしてこれを取り消した。
⇒国土交通大臣が、沖縄県に対し、本件埋立承認取消しは違法であるとして、地方自治法245条の7第1項に下づkい、本件埋立承認取消しの取消しを求める是正の指示をしたものの、現知事が、本件指示に基づいて本件埋立承認取消しを取り消さない上、法定の期間内に是正の指示の取消訴訟を提起しない
地自法251条の7に基づき、現知事が本件指示に従って本件埋立承認取消しの取消しをしないという不作為の違法の確認を求めた事案
 
<原審>
本件埋立承認取消しは本件埋立承認に裁量権を逸脱・濫用した違法があるいえないにもかかわらず行われたものであるなど違法であって、
それに対する本件指示は適法であるとした上で、現知事が本件指示に従わず、本件埋立承認取消しを取り消さないのは違法であり、国土交通大臣の請求には理由がある
 
<判断>
上告棄却 
 
<解説> 
●処分の職権取消しの適否に係る判断の在り方について
◎ 本件埋立承認取消しの適否を判断する前提問題として、行政庁が処分に瑕疵があることを理由に職権取消しをした場合に、その適否が訴訟上争われたときの判断のあり方が問題とされた

処分の職権取消し:
違法又は不当の瑕疵を有するものの、一応有効である処分につき、行政庁が、職権によりその成立当初に存在した瑕疵を理由にして効力を失わせること
~行政庁が、後発的事情を理由にして効力を失わせるという講学上の処分の撤回とは区別される概念。

処分の職権取消しは、当該処分の根拠規定等に職権取消しに関する規定があればそれにより規律されるが、そのような規定がない場合であっても、処分に瑕疵があれば職権取消しは許され、そのこと自体に異論はない

◎ 処分が違法であるとまではいえず、不当であると評価されるにとどまる場合に、当該処分の職権取消しが許されるか?

原審:
いわゆる授益処分の取消しの場合には、原処分が違法であることを要し、原処分に不当又は公益目的違反の瑕疵があるにすぎない場合には職権取消しをすることができない。
but
処分の職権取消しが許容される根拠は法律による行政の原理又は法治主義の観点によるものと考えられるところ、当該処分に処分を取り消すに足りる不当があるのであれば、同様の観点からは職権取消しをすることが許容されると解するのが相当。

最高裁判例においても、処分に不当がある場合にも職権取消しをすることができることを前提に、職権取消しの制限について判断を示すものがある(最高裁昭和43.11.7)。

また、学説上も、原処分に不当の瑕疵があるにすぎない場合であっても職権取消しをすることができるとする見解が多数。

本判決は、原処分に不当又は公益目的違反の瑕疵があるにすぎない場合には職権取消しをすることができないとする見解を採用しなかった

◎ 本件における裁判所の裁量審判の対象となるのは、原処分である本件埋立承認に係る前知事の判断か、本件埋立承認取消しに係る上告人(現知事)の判断か?

行政庁が処分に違法又は不当(「違法等」)があることを理由に職権で取り消す場合には、そのような違法等が客観的に存在することが求められる

原処分に違法等があるとはいえない場合には、原処分を取り消す理由がない⇒原処分の職権取消しをすることは違法

職権取消しの適否が争われる訴訟においては、原処分に違法等があるか否かが直接の審理判断の対象となる。
職権取消しの対象とされた処分が裁量処分である場合には、裁量権の逸脱、濫用がある場合に違法等があることになる⇒原処分に係る行政庁の裁量判断の当否を審理判断すべきとするのが当然の帰結。

●本件埋立承認が第1号要件に適合するか否かについて 

公有水面埋立法4条1項1号は、免許基準(承認基準)の1つとして、「国土利用上適正且合理的ナルコト」(第1号要件)を定めるところ、その意義については、当該埋立自体及び埋立地の用途が、国土利用上の観点からして適正かつ合理的なものであることを要する趣旨であるなどと説明されている。

「国土利用上適正且合理的ナルコト」の判断枠組みについては、本判決が判示するとおり、
埋立ての目的及び埋立地の用途に係る必要性及び公共性の有無・程度に加え、埋立を実施することによる国土利用上の効用、公有水面を埋め立てることにより失われる国土利用上の効用等の諸般の事情を総合考慮して判断することになる。

①第1号要件の文言は抽象度の高いもの
②埋立が国土利用上の観点から適正かつ合理的であるかを判断するための考慮要素としては多種多様なものがあり得るという事柄の性質

第1号要件の適合性については、免許権者(承認権者)である都道府県知事が一定の幅をもって裁量的な判断を行うことが予定されている

そのような裁量判断の当否を裁判所が判断するに当たっては、
①その基礎となれた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、
事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に当たるか否か
を審査することが相当。

●本件埋立承認が第2号要件に適合するか否かについて

公有水面埋立法4条1項2号は、免許基準(承認基準)の1つとして、「その埋立が環境保全及び災害防止について十分配慮せられたるものなること」(第2要件)を規定。
第2号要件は、「水面を変じて陸地となす埋立行為そのものに特有の配慮事項を定めたもの」とされ、埋立地の竣工後の利用形態ではなく、埋立行為そのものに関して必要となる環境保全措置等を審査するもの。

ここでいう「十分配慮」とは、「問題の現況及び影響を的確に把握した上で、これに対する措置が適正に講じられていることであり、その程度において十分と認められることをいう」と説明されている。

①第2号要件は、「十分配慮」という評価概念ないし不確定概念を用いるところ、第2号要件は、第1号要件と異なり、政策的な判断を求められるというよりは、環境配慮という専門的・技術的な判断が予定された要件
②一般論としては、不確定概念により定められた要件充足性の判断に当たり行政庁の専門的・技術的判断が求められる場合には、処分行政庁が当該許認可等の要件を充足するか否かにつき裁量的な判断をすることが予定されているということができると考えられる。
③個々の許認可処分における行政庁の判断の幅については、許認可要件を定めた法令の規定内容に加え、要件充足性を判断するに当たり検討すべき事項の範囲の広狭や専門性の程度、許認可における第三者専門家の関与の有無等に照らして個別具体的な検討が必要

①公有水面埋立法は、「その埋立が環境保全及び災害防止について十分配慮せられたるものなること」と定めるのみであり、極めて抽象度の高いものであるといえる。
公有水面の埋立てが環境にいかなる影響を与えるかや、環境への負荷を回避又は軽減する措置の適否等に係る審査は対象地の自然的条件や環境保全技術等、専門技術的な知見に基づく総合的な判断を要するものであり、かつ、審査すべき事項も広範に及んでいる

第2号要件の適合性に係る承認権者の裁量的な判断の幅はある程度広範にならざるを得ない

裁判所がそのような専門的・技術的な観点からの判断の当否を審査するに当たっては、
専門的・技術的知見を踏まえて作成された審査基準等に不合理な点がないかや、
そのような審査基準等に沿った判断過程に不合理な点がないか
といった観点から審査をするのが適切。
 
●地自法245条の7第1項にいう「法令の規定に違反する場合」の意義 
本判決は、内閣総理大臣又は各省大臣が、その所管する法律またはこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認める場合には、当然に地自法245条の7第1項に基づいて是正の指示をすることができる旨を判示。
 
●地自法251条の7第1項にいう「相当の期間」の意義 
行訴法3条5項(不作為の違法確認の訴え)における「相当の期間」の解釈が参考になる。
同項にいう「相当の期間」については、行為の種類、性質等によって一概にいえないところがあり、具体的事案に即して個別に判断するほかないとされるものの、一応、行政庁が当該行政行為を行うに通常必要とする期間を経過している場合を基準とすべきであるなどと説明されている。
 

本判決は、原判決の言渡しから約3か月という比較的短期間で言渡しがされている。

地自法251条7項1号に定める不作為の違法確認の訴えについては、第1審である高等裁判所が訴えの提起の日から15日以内の日を第1回口頭弁論期日として指定する必要があるとされ、また、高等裁判所の判決に対する上告期間が1週間とされるなど、迅速に審理判断がされることが法律上予定されていることを踏まえたものと考えられる。

判例時報2327

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