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2017年6月

2017年6月30日 (金)

自筆証書遺言の日付の記載が故意による不実記載⇒遺言無効

東京地裁H28.3.30      

<事案>
X及びYの母であるAを遺言者とする自筆証書遺言(平成19年12月21日付)について、Xが、本件遺言書はYが偽造したものであり、本件遺言は無効である
⇒Yに対し、本件遺言が無効であること及び本件遺言書を偽造したYが相続人の地位にないことの各確認等を求める事案。
 
<規定>
民法 第968条(自筆証書遺言)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
 
<判断>   
①Aの認知症に係る診断経過、
②本件遺言書の作成日付である平成19年12月21日前後からA死亡時までの間のAの財産をめぐるXとYの交渉経緯等
を認定
 
●本件遺言書の有効性:
Yは、Aの財産をめぐるXの振る舞いに対する不信感又はこれに類する情を高じさせて、平成20年4月23日より後のいずれかの時点で、本件不動産をYに取得せしめる内容の本件遺言につき、Aの他の不動産の売買の日と同じ平成19年12月21日にされた意思表示としての体裁を整えることとした上で、本件遺言書の作成に関与したものと推認するのが合理的。

①本件遺言書は、平成20年4月23日より後の日において、平成19年12月21日まで日付を意図的に遡らせて作成されたものと推認
自筆証書による遺言に際し意図的に真実の日付と異なる日付が記載された場合には、民法968条1項所定の要件の1つである自書による日付の記載があるとはいえない

本件遺言書にはついては、Yの抗弁と位置付けられる自筆証書の要件の立証がないことに帰し、有効性は認められない
 
●Yが本件遺言書を偽造したか否か 
①本件遺言書がAの自筆によるものとは断じることができず
②本件全証拠によっても、本件遺言書の作成へのYの関与の具体的な態様を認定することはできない

Yが本件遺言書を偽造したとは認められない。
 
<解説>
自筆証書遺言に日付の記載が要求されている。

遺言作成時の遺言能力の有無を確定するための基準や②互いに抵触する内容を持つ遺言書の有効性を判断するための遺言の先後を決定するための基準となる。

日付を欠く遺言は無効であり、たとえ日付の有無によって遺言の内容に疑問の生じる余地がない場合でも無効(判例・通説)。

遺言書に日付の記載はあるが、それが真実の遺言作成日と一致していないとき
(1)故意の不実記載⇒無効(通説)
(2)錯誤による誤記の場合
自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、それが①誤記であること及び②真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、遺言はそれによって無効となるものではない(最高裁昭和52.11.21)。

本判決は、本件遺言が(1)の場合に当たるとして、これを無効としたもの。

遺言無効確認訴訟では、一般に、
①遺言無能力、②遺言書の偽造(自筆証書遺言の自書性)、③方式違背、④公序良俗違反等の法律行為の一般的要件の欠如、⑤錯誤無効・詐欺取消しなど多数の無効原因が主張されるのが通常。

判例時報2328

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遺言能力欠如⇒公正証書遺言無効

東京地裁H28.8.25      
 
<事案>
亡Aの相続人であるXら(Aの前夫の子ら)が、Aの公正証書遺言による遺言における受遺者ないしその相続人であるYらに対し、Aの遺言能力の欠如を理由として、本件遺言が無効であることの確認を求めた事案。 
 
<判断>
本件遺言当時のAの遺言能力を否定。 
(1)Aに遺言をするに足る意思能力がなかった旨の意見を述べる医師の意見は、Aの経歴、診察経緯及びその内容等に照らし、少なくとも医学的観点から見た当時のAの精神状態の評価に関しては、疑問を差し挟むに足る証拠は見当たらない。

(2)Aが遺言能力を有していた旨の前記公証人の供述等は、
①その前提において医学的根拠がない部分があるなどその根拠に乏しい
②Aと公証人との面談時のやりとりにおいてAの能力に疑問を抱かせる点がある
⇒遺言能力を認めるに足りる的確な証拠であると評価できない。

(3)本件遺言当時のAが遺言能力を肯定するに足りるほどのコミュニケーション能力を有していたと認められない

(4)本件遺言当時のAは、Y夫婦に財産の全てを相続させたいとの意思を明示し、他の相続人に財産を分けない理由を自発的に述べていたが、それは、自分が置かれた現実の状況を理解・把握する能力を失っているAをY夫婦が誘導することによってされたものであるとみるのが相当

本件遺言当時のAは、医学的観点はもとより、法的観点から見ても、遺言能力を欠いていたと認めるのが相当。
 
<解説>
遺言能力についての規定
①遺言能力具備の要件として15歳に達することが求められる(民法961条)
行為能力に関する総則既定の適用が排除(同法962条)
遺言能力は遺言時に有することが求められる(同法963条)
but
遺言能力についての明確な定義規定なし。
遺言能力の意義については、前記年齢要件のほかは意思能力と同様に解した上で、
その有無の判断に際しては、
一般的な事理弁識能力があることについて医学的判断を前提としながら、
②それとは区別されるところの法的判断として、当該遺言内容について遺言者が理解していたか否かを検討すること
が一般的に是認されている。

裁判実務上、主として、
①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
遺言内容それ自体の複雑性
遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等といった諸事情が考慮されている。

今日、公正証書遺言でさえも裁判で無効とされることも珍しくないとされている。

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2017年6月28日 (水)

信用保証協会の主張する免責の抗弁(=「保証契約に違反したとき」)に理由がないとされた事例

東京高裁H28.5.26       
 
<上告審>
Yの動機の錯誤を認めた上で、保証契約の性質に照らしつつ、保証契約締結当時における当事者双方の合理的意思を検討し、債務者が反社会的勢力ではないことが当該保証に係る法律行為の内容となっておらず、Yの意思表示に要素の錯誤はない

控訴棄却判決を破棄した上、Yの保証債務の免責の抗弁等について更に審理を尽くさせるために、本件を東京高裁に差し戻した。 (最高裁H28.1.12)
 
<争点>
Xが「保証契約に違反したとき」に当たるか(免責の抗弁) 
 
<判断>
●中小企業者等が金融機関から貸付け等を受けるにつき、信用保証協会がその貸付金等の債務を保証する場合には、金融機関及び信用保証協会は、保証契約に関する基本契約上の付随義務として、個々の保証契約を締結して融資を実行するのに先立ち、相互に主債務者が反社会的勢力であるか否かについてその時点において一般的に行われている調査方法等に鑑みて相当と認められる調査をすべき義務を負う

Xがこの義務に違反して、その結果、反社会的勢力を主債務者とする融資について保証契約が締結された場合には、本件約定書に定められた免責条項であるXが「保証契約に違反したとき」に当たると解するのが相当である(前記上告審)。


①本件保証の締結当時において、反社会的勢力対応部署を整備して一元的な管理態勢を構築すること、
②融資に伴う審査等の通常業務の中で、主債務者及びその関係者について反社会的勢力でないかどうかを調査、確認すること、
③前記部署において反社会的勢力に関する情報を一元的に管理したデータベースを構築し、取引先の審査に活用すること
が金融機関において求められていたといえる

これらの方法を用いて反社会的勢力か否かの調査を行うことは一般的に行われている調査方法に含まれる

金融機関において、本件各保証締結当時、警察に対する反社会的勢力であるか否かの照会は可能⇒以上の調査方法により相手方が反社会的勢力であることの疑念が生じるなど、必要な場合には警察に対しても相手方が反社会的勢力か否かについて情報提供を求めることも一般的に行われている調査方法に含まれる


本件各消費貸借の際に、Xは反社会的勢力対応部署を設けていたが、主債務者の審査業務等において徴求した審査資料や訪問調査時に反社会的勢力であることをうかがわせる事情は認められず、前記部署において構築されたデータベースやその他利用可能なデータベースを用いても該当結果が出なかった

Xは、主債務者が反社会的勢力であるか否かについて、その時点において一般的に行われている調査方法等に鑑みて相当と認められる調査は行っていた

「保証契約に違反したとき」には当たらず、抗弁には理由がない

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遺産分割の方法についての判断等

東京高裁H28.8.12      
 
<事案>
被相続人の妻であるXが、いずれも被相続人とXとの間の子であるY1及びY2に対し、被相続人の遺産の分割を求める審判 
 
<原審>
法定相続分に従い、
Y1の自宅の敷地となっている本件土地を除く不動産及び金融資産をXに、
Y2が保管する現金の大半をY2に、
同現金の一部をY1に取得させるほか、
Y1が取得を希望したものの代償金を支払う資力がない⇒換価競売を命ずることとした本件土地の換価代金の1割をXに、その9割をY1に取得させる旨の審判。 
   
Y1:本件土地の競売による換価代金が評価額より低廉なものとなるのは必至⇒原審の分割方法によるとY1のみが著しく不利益を被ると主張して抗告。 
Xが死亡し、Xの相続人であるY1及びY2がXの地位を承継。

Y1及びY2は、本件遺産分割手続においてXが取得すべき財産をY1とY2の間で更に具体的に分割することには同意せず、また、両名とも不動産の取得を希望せず
 
<判断>
金融資産及び現金をY1とY2の具体的相続分(本件では法定相続分と同じで2分の1ずつ)の割合に従ってY1とY2に均等に取得させ
不動産の全てについて換価競売を命じた上で、競売により取得する換価代金の一部について、Y1とY2に均等に取得させた。

遺産分割申立事件において、現金等の分割とともに不動産の換価競売を命ずる場合には、競売による換価代金が当該不動産の評価額と異なるものとなることが避けられないから、当事者間の公平を図るためには、換価代金は、出来る限り、各当事者の具体的相続分の割合に応じて分配するのが相当である。

遺産分割申立事件の係属中に相続人が死亡し、不動産の換価競売に基づく換価代金の一部を死亡した当該相続人に分配すべきこととなる場合には、同部分は同人の相続人らの遺産共有状態にある⇒同人の相続人らに相続分に従って保管させるのが相当

Xに分配すべきこととなる前記換価代金の残部について、Y1及びY2に均等の割合で保管させることとして、主文において、Y1及びY2に均等の割合で交付する旨を明らかにした。
 
<解説>
●遺産の一部について換価競売を命ずる場合の遺産分割の具体的方法:
競売する遺産の価額をあらかじめ評価して他の遺産と合算し、各相続人の具体的相続分により算出した具体的相続分額から、各相続人が他の遺産から取得する財産の価額を控除して、各相続人が換価代金から取得すべき額を算出し、これを割合化して、審判の主文において換価代金を当該割合で分配する旨を定める方法
②審判の主文において、現物分割により相続人が取得した遺産の分割時における価額と将来換価によって得られる金額とを合算して、これを具体的相続分に応じて分配すべき旨を定める方法
換価競売に付す遺産とその他の遺産を区別し、競売した遺産については、その換価代金を具体的相続分率により分配する方法

①⇒換価代金額と評価額との乖離による相続人間の不公平
②⇒競売終了時まで遺産の総額が確定しないことによる難点
③⇒総合的解決という遺産分割制度の趣旨に沿わない
結論的には①か③が妥当とされる。

原審判は①の方法
遺産を構成する財産の種類や性質、評価額によっては、この方法によらざるを得ない場合もあり、原審判も、遺産取得に関する各相続人の意向や、遺産の利用、管理状況等を考慮して、この方法によった。
本決定は、原審判後にXが死亡したという事情の変更もあって、原審判とは異なる分割方法を採用し、総合的な解決を図りながら、できる限り、当事者間の衡平に適う分割方法を採用するのが相当であることを明らかにした。

共有物について、遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(遺産共有持分)と他の共有持分とが併存する場合における共有物分割に関する事案について、

最高裁H25.11.29:
遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その価格を遺産共有持分を有する者(遺産共有持分権者)に賠償させる方法により共有物を分割する場合には、当該賠償金は遺産分割の対象となり、当該賠償金を支払を受けた遺産共有持分権者は遺産分割がされるまでこれを保管する義務を負うとした上で、
裁判所は、当該共有物分割の判決において、各遺産共有持分権者において保管すべき賠償金の額を定めた上で、遺産共有持分を取得する者に対し、各遺産共有持分権者にその保管すべき額の賠償金を支払うよう命ずることができる

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2017年6月27日 (火)

反政府政党の指導的立場にあったとまでは認められなくても難民該当性を肯定した事例

名古屋高裁H28.7.28      
 
<事案>
ウガンダ共和国の国籍を有する外国人女性であるXは、平成20年7月に本邦に入国し、平成21年11月に、出入国管理及び難民認定法(「入管法」)61条の2第1項に基づき難民認定の申請⇒
平成23年1月に法務大臣から難民の認定をしない旨の処分、
法務大臣から権限委任を受けた名古屋入国管理局長から同法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分
名古屋入国管理局主任者からウガンダを送還先とする退去強制令書発布処分

Xは、自らはウガンダ政府から弾圧を受けている野党FDCの党員であり、ウガンダ出国前には親政府勢力から襲撃を受けるなどの迫害を受けており、前記各処分はXの難民該当性の判断を誤ってされた違法なものであるなどと主張し、その取消しを求めた。 
 
<原審>
①Xは、ウガンダ政府等から迫害の対象として関心を抱かせるような指導的立場で政治活動を行っていたものとは認め難い
②Xの供述には、重要部分で変遷が認められる
③Xは、本邦への入国時に迫害を受けていることを申し立てておらず、難民認定申請をするまでにも相当期間が経過しているなど、行動に切迫性を欠いている
⇒難民該当性を否定。
 
<判断>
ウガンダの一般情勢等についても子細に検討し、
同国政府が、FDCの役職員や指導的立場にある者のみならず、集会や抗議活動に参加するFDC党員一般に対して、発砲、催涙ガスの発射、暴行、逮捕・拘留、集会の阻止などの行為を行っていることを認定

ウガンダの前記情勢では、指導的立場にあるとまでいえなくとも、XのようにFDC党員として実質的な活動をし、集会に参加して積極的に発言をしたり、動員役員としてFDC支援を募る有意な活動をしたりしていれば、迫害の恐れはあり、、実際に、Xは、親政府勢力から襲撃を受け、反政府活動を止めるように警告も受けている

難民該当性を肯定。

Xの供述の信用性について、
複数の重要な事実について客観的裏付けがあり、
難民該当性に関する中核的事実についての供述が具体的で一貫しており
ウガンダの客観的情勢とも整合
信用性を肯定
 
<解説>
「難民」の要件である「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」ことが認められるためには、その者が主観的に迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているだけでなく、通常人がその者の立場に置かれた場合に迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要

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地方税法施行令附則の「居住の用に供するために独立的に区画された部分が100以上ある共同住宅等」の判断

最高裁H28.12.19      
 
<事案>
土地の取得に対する不動産取得税を納付したXが、当該土地上に建築された複数棟の建物につき同税が減額されるべき住宅に該当する⇒東京都都税条例48条の4に基づき不動産取得税の還付を求める申請⇒東京都都税総合事務センター所長からこれを還付しない旨の処分⇒Y(東京都)を相手に、本件処分の取消しを求めた。 

本件各建物は、Xが本件土地を取得してから3年を超えて4年以内に新築⇒本件減額規定の適用を受けるためには、施行令附則6条の17第2項の戸数要件及びやむを得ない事情に係る要件を満たす必要がある。

本件各建物はそれぞれ構造的に独立した建物(特例適用住宅)であり、その戸数はいずれも100に満たないものであった⇒戸数要件の対象となる独立区画部分が100以上ある共同住宅等につき1棟の建物ごとに判断すべきか否かが争われた。
 
<法令>
地税法73条の24第1項1号及び東京都税条例48条1項1号は、土地を取得した日から2年以内に当該土地の上に住宅(「特例適用住宅」)が新築された場合には、所定の方法によって算出した額の不動産取得税を減額する旨を規定。 

平成11年法律第15号による改正により設けられた地税法及び本件条例の附則は、一定の期間に限って前記の新築期間を3年以内に延長し、平成16年政令第108号による改正により設けられた地税法施行令附則6条の17第2項は、
①当該特例適用住宅が居住の用に供するために独立的に区画された部分が100以上ある共同住宅等であって(「戸数要件」)
②土地を取得した日から当該共同市住宅等が新築されるまでの期間が3年を超えると見込まれることについてやむを得ない事情があると道府県(地税法1条2項により都を含む。)知事が認めた場合には、新築期間を4年以内に延長する旨を規定。
 
<判断>
地税法73条の14第1項は、施行令附則6条の17第2項に定める戸数要件の対象となる共同住宅等につき、「共同住宅、寄宿舎その他これらに類する多数の人の居住の用に供する住宅」と規定し、同法73条4号は、住宅につき、「人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分」と定義。
⇒施行令附則6条の17第2項の共同住宅等は家屋に含まれる。 

地税法73条3号は、家屋につき、「住宅、店舗、工場、倉庫その他の建物をいう。」と定義しているところ、ここでいう建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものをいい、別段の定めがない限り、一棟の建物を単位として把握されるべき。

施行令附則6条の17第2項の共同住宅等に関して定められた戸数要件を充足するか否かの判断においても、別段の定めがない限り、一棟の共同住宅等を単位とすべきであるところ、これと別異に解すべきことを定めた規定や複数棟の共同住宅等を合わせて戸数要件を判断することを前提とした規定が存在しない
一棟の共同住宅等ごとに判断することが予定されているというべき
本件各建物は、一棟ごとの独立区画部分がいずれも100未満であって戸数要件を満たさない⇒本件処分は違法であるとはいえない。
 
<解説>
租税法は侵害規範であり、法的安定性の要請が強く働く
⇒その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない(判例・学説)。

既定の文理上その意味を直ちに明らかにすることができない場合、既定の趣旨目的をどの程度考慮し得るかという点について、学説上、文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に規定の趣旨目的に照らして意味内容を明らかにすべきとする考え方(金子)が有力。
but
論者によって規定の趣旨目的を考慮し得るとする幅は異なり、必ずしも一致している状況にない。

判例は、租税法律主義の趣旨に照らし、文理解釈を基礎とし、既定の文言や当該法令を含む関係法令全体の用語の意味内容を重視しつつ、事案に応じて、その文言の通常の意味内容から乖離しない範囲内で、既定の趣旨目的を考慮することを許容しているように思われる。

● 不動産取得税における「家屋」の範囲は、固定資産税にいう家屋又は不動産登記法上の建物の意義と同一であり、屋根及び周壁を有し、その目的とする用途に供し得る状態にあるものをいう。

地税法73条3号の家屋は一棟の建物を単位として把握すべきであり、施行令附則6条の17第2項の共同住宅等に関して定められた戸数要件を充足するか否かの判断においても、別段の定めがない限り、一棟の共同住宅等を単位とすべき。

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2017年6月26日 (月)

京都府風俗案内所の規制に関する条例の合憲性(合憲)

最高裁H28.12.15       
 
<事案>
かつて営業禁止区域内で風俗案内書を営んでいたXが、本件条例(京都府風俗案内所の規制に関する条例)は憲法22条1項、21条1項等に違反すると主張して、Y(京都府)を相手に、営業禁止区域内で風俗案内所を営む法的地位を有すること等の確認を求めた 
 
<規定>
憲法 第22条〔居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由〕
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
 
<一審>
①風俗案内所による弊害が風俗営業所による弊害よりも大きいとはいえず、
②風俗法及び同法施行条例が風俗営業所の営業禁止区域を保護対象施設の敷地から最大70m以内としている

保護対象施設の敷地から少なくとも70mを超える区域において風俗案内所の営業を全面的に禁止する本件条例の規定は、立法府の合理的裁量の範囲を超えて営業の自由を制限するものであり、憲法22条1項に違反。 
 
<原審>
①風俗案内所の特質(多数の風俗営業所の情報が集積し、案内業務に収益を上げるため、多数の風俗営業所について積極的に広告・宣伝が行われること)⇒建物内部への見通しなど構造設備要件により規制されている風俗営業所に比べて外部環境に与える影響は格段に大きくなる。
②風俗案内所が違法な性風俗店と結びつきやすい

風俗案内所に対して風俗営業所より厳しい規制をすることも合理的な範囲にとどまる限り許される

風営法等が性風俗営業所に対して200m以内の営業禁止等を定めている
規制内容の必要性・合理性についての立法府の裁量に逸脱・濫用はなく、憲法22条1項に反しない
 
<判断>
本件条例の規定が憲法22条1項、21条1項に違反しない
⇒Xの上告を棄却。 
 
<解説> 
●憲法22条1項による職業選択の自由の保障は、広く一般に、いわゆる営業の自由を保障する趣旨を包含するものであり、狭義の職業選択の自由(職業の開始・継続・廃止の自由)だけでなく、職業活動の自由(選択した職業活動の内容、態様の自由)も含む。

経済的自由の制約を伴う規制立法の憲法適合性について、薬事法距離制限事件判決(最高裁昭和50.4.30):
これらの規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。
この場合、右のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである。
しかし、右の合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭がありうるのであって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものといわなければならない。

憲法適合性判断の枠組みとして、利益衡量論を基礎とした上で、前記の諸事情を比較考量して立法府の判断がその合理的裁量の範囲内にあるか否かを判断する枠組みを採用

本判決:
この判断枠組みを前提として、本件条例による風俗案内所の営業禁止規制について検討し、京都府議会が本件条例所定の保護対象施設の敷地から200m以内の区域における風俗案内所の営業を禁止する規制を定めたことが合理的な裁量の範囲を超えるものとはいえず、本件条例の規定が憲法22条1項に違反しないと判断。
 
●Xが風俗案内所に接待飲食等営業に従事する者等を表示する等の行為は、営利的な表現活動(営利広告)の側面を有する。 

学説は、営利的表現の自由も憲法21条により保障されるとするが、判例は表現の自由の範疇に属するか否かを明確にしていない。

精神的自由の制約を伴う規制立法の憲法適合性に関する最高裁判例は、
当該自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、①当該目的のために制限が必要とされる程度と、②制限される自由の内容及び性質、③これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を衡量して決せられるべきものである旨判示し、合憲性判断の枠組みとして利益衡量論を採ることを明らかにしている。

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グーグル検索結果削除請求事件許可抗告事件

最高裁H29.1.31      
 
<事案>
Xの居住する県の名称及びXの氏名を条件としてYの提供する検索サービスを利用⇒関連するウェブサイトにつき、URL及び当該ウェブサイトの表題及び抜粋(URL情報等)が提供されるが、この中に、本件事実等(児童買春で逮捕された事実)が含まれる。
Xが、Yに対し、人格権ないし人格的利益にに基づき、本件検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てを行った
 
<原審>
Xの主張の多岐にわたる被保全権利の主張を、名誉又はプライバシーに基づく削除請求権(差止請求権)に帰着するものと解した上で、これらの被保全権利及び保全の必要性をいずれも否定。 
   
Xが抗告許可の申立て等⇒原審が抗告を許可
 
<判断>
検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、
①当該事実の性質及び内容、②当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、③その者の社会的地位や影響力、④上記記事等の目的や意義、⑤上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、⑥上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較考量して判断すべきもので、
その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当。


本件においては本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない⇒Xの抗告を棄却
 
<解説>   
●平成20年第中頃まで:
検索事業者は飽くまでも媒介者であって、媒介内容について検索事業者は原則として責任を負わず、法的責任を負うとしても二次的なもの。
~検察事業さhが法的責任を負う場合を限定的、補充的に考える判断枠組みが有力。
平成20年代中盤以降:
出版メディアの領域で集積されてきた判例理論の判断枠組みに基づいた判断をした裁判例が増えている傾向。
but
比較衡量論の枠組みを採用する裁判例の中でも2つの枠組み。

A:比較考量の結果、プライバシーに属する事実を公表されない利益が優越するとされる場合には、原則として削除請求権を肯定。

B:「石に泳ぐ魚」事件控訴審判決と同様に、比較衡量に当たり、被害の明白性、重大性や回復困難性等をも考慮要素として加えるもの。
 
●一般的の用いられるロボット型検索エンジンは、
①インターネット上のウェブサイトに掲載されている無数の情報を網羅的に収集してその複製(キャッシュ)を保存し
②この複製を元にした検索条件ごとの索引(インデックス)を作成するなどして情報を整理し、
③利用者から示された一定の検索条件に対応するURL等情報を前記検索に基づいて検索結果として提供する
という3段階の情報処理を経るという仕組み。 

検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った検索結果を得ることができるように設計作成されたもの⇒検索事業者自身の表現行為という側面人格的な権利利益と検索事業者の表現行為の制約との調整が必要
②検索事業者による検索結果の提供は、現代社会におけるインターネット上の情報流通基盤として、一層大きな役割を果たすようになっている。
③被害者の明白性、重大性や回復困難性にとどまらず、検索サービスの正確や重要性等も考慮要素として取り込む判断枠組みを採ることは、人格的な権利利益の保護範囲を事実上切り下げることになることが懸念。

本判決は、印刷メディアの伝統的な法理に沿った比較衡量の判断枠組みを基本としつつ、削除の可否に関する判断が微妙な場合における安易な検索結果の削除は認められるべきではないという観点から、プライバシーに属する事実を公表されない利益の優越が「明らか」なことを実体的な要件として示したもの。
 
●本決定の列挙した考慮要素の検索に当たっては、収集元ウェブサイトの内容を吟味することを要するが、当該内容は、ロボット型検索エンジンの一般的な仕組みに照らすと、検索結果の内容から容易に推認可能なことが多いであろう。
もっとも、収集元ウェブサイトの内容について個別に主張、立証することを本決定が否定するものではないと思われる。 

判例時報2328

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2017年6月22日 (木)

匿名組合契約の営業者の匿名組合員に対する善管注意義務違反が認められた事例

最高裁H28.9.6      
 
<事案>
XはY1社との間で、Y1社の営業のために出資をする旨の匿名組合契約を締結。
Y2はY1社の代表取締役であり、Y3はその弟。 
Xが、Y1社への出資金がY2及びY3とXとの利益が相反する取引に充てられて損害を被ったなどと主張して、Y1社、Y2及びY3各自に対し、不法行為に基づき、1億6500万円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
選択的に、
Y1社に対しては債務不履行に基づき
Y2社に対しては会社法429条1項に基づき、
前記と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるなどした事案。
 
<規定>
商法 第535条(匿名組合契約)
匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
 
<原審>
匿名組合員と営業者又はその利害関係人との利益が相反する取引をすることは、営業者がその営業の遂行に当たりその地位を利用して匿名組合員の犠牲において自己または第三者の利益を図るものと認められるとき限り、営業者が匿名組合員に違反すると解すべき。

本件におけるY1社の行為は、Xの犠牲において自己または第三者の利益を図る行為であったと認めることができない⇒営業者の善管注意義務に違反するとは認められず、Y1社はXに対し債務不履行に基づく損害賠償義務を負わない。

Y1社に善管注意義務違反は認められない⇒Y1社らは不法行為に基づく損害賠償義務を負わず、Y2は会社法429条1項に基づく損害賠償義務を負わない。

請求棄却。
 
<判断>
匿名組合契約の営業者であるY1社が、その営業として、新たに設立される株式会社D社の資本金の8割を出資し、D社の発行する新株予約権付社債を引き受け、D社がY1社の代表取締役であるY2及びその弟であるY3から売買によりC社株式を取得した場合において、次の(1)及び(2)など判示の事情の下では、前記の出資、引受け及び売買に係る匿名組合員であるXの承諾の有無について審理判断することなく、Y1社に善管注意義務違反はないとした原審の判断には、違法がある
(1) 
①前記売買は、Y1社らがD社設立時に予定し、D社の代表取締役であるY3において実行したものであり、前記の出資、引受及び売買はY1社による一連の行為といえるところ、
②前記一連の行為は、これによりY1社に生ずる損益が匿名組合契約に基づき全部Xに分配されるもの
Y2及びY3とXとの間に実質的な利益相反関係が生じるものであった。
(2) 
①前記売買の売主であるY2及びY3が買主であるD社の取締役や代表取締役であること、
②C社株式に市場価格はなくXが売買代金額の決定に関与する機会もないこと
③前記の出資及び引受けの合計額は1億8000万円であり、前記売買の代金額は1億5000万円であって、いずれも匿名組合契約に基づくXの出資額である3億円の2分の1以上に及ぶもの
前記一連の行為はXの利益を害する危険性の高いものであった。
 
<解説>
●本件の争点:匿名組合契約の営業者の関係者(営業者の代表取締役とその弟)と匿名組合員との間に実質的利益相反関係が生ずる行為を行うことが、匿名組合契約における営業者の善管注意義務に違反するか? 

匿名組合契約:
当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益の分配を約する契約(商法535条)
商法上、匿名組合契約の営業者の善管注意義務や利益相反行為の避止義務を定めた明文の規定はない。
匿名組合の内部関係には民法の組合の規定が類推適用される⇒善管注意義務を負う(民法671条、644条)。

●利益相反行為の避止義務 
A:匿名組合については、会社法356条の利益相反取引の制限や信託法31条の利益相反行為の制限のような規定なし⇒営業者の利益相反行為は善管注意義務違反とはならないという解釈。
B:匿名組合契約の営業者が負う善管注意義務の内容に、利益相反行為の避止義務が含まれるという解釈。

本判決:
①匿名組合契約の営業者であるY1社が行った一連の行為はY2及びY3とXとの間に実質的な利益相反関係が生ずるものであったこと
②前記一連の行為はXの利益を害する危険性の高いものであったこと

このような事実関係の下で、Y1社が前記一連の行為を行うことは、Xの承諾を得ない限り、営業者の善管注意義務に違反する。

Xの承諾の有無について審理判断することなくY1の善管注意義務違反を否定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

判例時報2327

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裁判員裁判の死刑判決の事案・訴因変更勧告・択一的認定

名古屋地裁H27.12.15      
 
<事案>
平成10年に起きた夫婦を被害者とする強盗殺人事件(甲事件):
被告人が共犯者2名と、パチンコ店の売上金等を目当てに、同店の店長宅に侵入し、店長の妻(当時36歳)を殺害して現金を奪い、さらに帰宅した店長(当時45歳)を殺害し金庫や鍵束を奪ったが、結局はパチンコ店に入ることができず、その売上金などを盗むことはできなかった。

平成18年に起きた強盗殺人未遂事件(乙事件):
甲事件の共犯者の1名と共謀し、金品を強奪しようとし民家に侵入し、同所にいた被害者(当時69歳)をひも様のものを用いて首を絞めるなどして犯行を抑圧し、現金等を奪ったが、殺害は未遂に終わった事案。
 
<解説> 
公判での証拠調べが終わって事実認定に関する中間論告が終わった段階で、乙事件について、予備的訴因が追加。 

訴因変更⇒被告人の防御のため、公判手続を停止することもあり得る(刑訴法312条4項)⇒裁判員の職務従事期間を延ばさなければならなくなるという困難な問題と直面。
but
本件の場合、事案が重大で、訴因を変更さえすれば事実が問題なく認定できるといった点が考慮され、勧告となった
 
●判決で「単独で、又は被害者の殺害についても共犯者と共謀して、殺意をもって、」被害者の首をひも様のもので絞め付けるなどしたと認定。
~択一的認定

東京高裁H4.10.14:
原審が、強盗の共同正犯の起訴に対して、単独犯か共犯者との共同正犯であると認定したことを、実体法の適用上及び訴訟手続上、被告人に不当な不利益を及ぼすものではないとして是認

本判決は、いきなり判決で示したのではなく、検察官に訴因変更を勧告した上でのこと⇒不意打ちにはなっていない
量刑を考える際には、択一認定のうち被告人に有利な方を前提に考えることになろう。
本判決「殺人の実行行為を行ったのが共犯者1人であるという被告人にとって最も有利な場合を想定しても」と論じる。
 
●量刑について 
裁判員裁判と死刑の量刑について「裁判員裁判における量刑評議のあり方について」(司法研究報告書63.3.103以下)
死刑については、氷山基準(最高裁昭和58.7.8)

司法研究報告書:
死亡被害者が2名の強盗殺人事件⇒約3分の2の被告人が死刑
2名に対して当初から強盗殺人の犯意を有していた類型と、2回の機会における犯行で、そのそれぞれにおいて、当初から各被害者に対する強盗殺人の犯意を有していた類型は、死刑が宣告されることが多い。
犯行現場において強盗殺人の犯意が発生した類型は、無期懲役が宣告されることも多い

生命侵害に向けられた強盗殺人の犯行の危険性は、早い段階から殺害を計画して実行した場合に高まり、また、計画性が高まれば高いほど、その行為が生命を軽視した度合いが大きい
本件は、当初から強盗殺人の犯意があったとはいえない事例だが、
2名の生命を奪い、1名の生命を脅かしたという結果が極めて重大であるとし、これらを繰り返した点で被告人の生命軽視の態度が甚だしいとして、特に酌量すべき事情がない限り、死刑を選択することもやむを得ないと判断。

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2017年6月21日 (水)

温泉施設の爆発事故について設計担当者の業務上の過失(肯定)

最高裁H28.5.25   
 
<事案>
東京都渋谷区内にある温泉施設において、温泉水から分離処理されたメタンガスが、ガス抜き配管内での結露水の滞留により露出・滞留した上、引火して爆発⇒本件温泉施設内にいた従業員3名が死亡し、2名が負傷、通行人1名が負傷。

本件温泉施設の建設を不動産会社から請け負った建設会社に所属する施設の設計者である被告人が、情報伝達(説明)義務違反の過失があったとして、業務上過失致死傷罪に問われた事案。 
 
<争点>
本件温泉施設の設計担当者である被告人においてガス抜き配管内からの結露水の水抜き作業に係る情報を説明すべき号無上の注意義務の有無が争点。 
 
<主張>
過失の有無について
①本件爆発の機序に関する予見可能性がなかった
②信頼の原則の適用により水抜き作業に係る情報につき不動産会社に対する説明義務がなかった 
 
<解説・判断> 
●過失犯についての因果経過の予見可能性の有無が問題となった判例
生駒トンネル火災事件に関する最高裁H12.12.20
明石砂浜陥没事故事件に関する最高裁H21.12.7

予見の対象として因果経過はある程度具体的なものである必要があるものの、現実の結果発生に至る経過を逐一具体的に予見することまでは必要ではなく、ある程度抽象化されて因果経過が予見可能であれば、過失犯の要件としての予見可能性が認められるという立場。

●組織内における担当者の不作為による過失犯について業務上の注意義務の有無が問題となった判例:
薬害エイズ事件(厚生省ルート)
明石花火大会歩道橋事故事件
トラック欠陥放置事件
明石砂浜陥没事故事件等

判例は、業務上の注意義務の有無に関し、
被告人の地位や職責等、②その職務の遂行状況の実態等の諸事情を前提として、③結果発生の危険性や、④そに対する支配管理性などの事情総合的に考慮し、刑法上の注意義務として結果回避義務を肯定できるかどうかを判断してきた。

●本件では、本件温泉施設の設計担当者としての被告人の立場や本件への関わりなどの事実関係から、注意義務主体として当然に被告人が想定され、その業務上の注意義務の有無や具体的内容が問題となる。

本決定は、原審までの認定事実から、
被告人の職責や立場、②本件温泉施設の構造、③メタンガス爆発事故防止のための結露水排出の意義と被告人によるその認識可能性、④本件爆発事故の因果経過、⑤被告人による建設会社の施工担当者に対する説明状況、⑥水抜きバルブの開閉状態の変更指示等の事実関係を確認。

その上で、本件が爆発事故であることを前提として、
①被告人が、本件温泉施設の建設工事を請け負った建設会社におけるガス抜き配管設備を含む温泉一時処理施設の設計担当者として、職掌上、同施設の保守管理に関わる設計上の留意事項を施工部門に対して伝達すべき立場にあり、自ら、ガス抜き配管に取り付けた水抜きバルブの開閉状態について指示を変更して結露水の水抜き作業という新たな管理事項を生じさせたこと、
同作業の意義や必要性を施工部門に対して的確かつ容易に伝達することができ、それによって爆発の危険の発生を回避することができたこと
等の事情

被告人には、同作業に係る情報を、建設会社の施工担当者を通じ、あるいは自ら直接、不動産会社の担当者に対し確実に説明し、メタンガス爆発事故の発生を防止すべき業務上の注意義務がある。

本件の具体的事実関係に応じて、被告人の立場や新たな管理事項の創出に加え、結果回避措置の容易性を指摘

判例時報2327

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いわゆる混合組合と不当労働行為救済の申立て・救済命令の内容等

大阪高裁H28.12.22      
 
<事案>
地方公共団体X市は、その職員により組織される労働団体Z1(地公法適用職員と労組法適用職員の双方で構成されるいわゆる混合組合。なお、Z2はZ1の下部組織)の組合費について、かねて無償で行っていたチェック・オフを、財政健全化等を理由に有償にし、その事務手数料の支払に応じなかったZ1との間でチェック・オフを中止し、これに関する団体交渉の申入れにも応じなかった。
⇒Z1は、組合費を徴収するため、振替手数料を負担して、金融機関の口座振替を利用。
Y府(処分行政庁・労働委員会)は、X市の行為が不当労働行為に当たるとするZらの申立てに基づき、Z1の組合員全員を対象としてチェック・オフの再開を命ずる等の救済命令(本件救済命令)を発した
X市が本件救済命令の違法を主張してその取消しを求めた。 
 
<争点>
①本件救済命令申立てにおいてZ1に申立人適格があるか
②本件チェック・オフの中止が労組法7条3号(支配介入)に当たるか
③本件団体交渉拒否に正当な理由があるか(本件団体交渉拒絶の労組法7条2号該当性)
④不当労働行為に対する救済として、労組法不適用職員に関してもチェック・オフ等を命じることができるか
⑤振替手数料相当額の支払を命じることができるか
 
<判断・解説>
●争点①申立人適格、④労組法不適用職員に命じられるか
地公法が同法の適用職員につき労組法の適用明示的に排除⇒地公法適用職員と労組法適用職員の双方で構成されるいわゆる混合組合が労組法に基づき不当労働行為救済の申立てができるか?

(原審維持)
混合組合労組法適用職員に関する事項については労組法上の「労働組合」(同法2条)に当たるが、地公法適用職員に関する事項についてはこれに当たらず、労組法に基づき労働委員会に対し救済を求めることはできない
本件救済命令のうち地公法適用職員について救済命令を認めた部分を取り消した。
労組法不適用職員については、不当労働行為に対する救済としてチェック・オフ等を命じることはできない。
 
●争点② 労組法7条3号(支配介入)に当たるか
不当労働行為の成否の判断の要素としては、①問題とされる使用者の行為が労働組合活動に与える影響、②当該行為を正当化する理由の程度とその合理性、③使用者が当該行為に至った経緯、④その間の労使の交渉の内容、⑤双方の態度等諸般の事情を総合考慮して、不当労働行為の意思及び不当労働行為の成否を決することになる。

(原審維持)
①Z1に対するチェックk・オフの有償化がX市の財政収支の改善にもたらす効果が小さい、②長らくZ1の財政基盤を支えてきたチェック・オフの中止はZ1の組織運営に悪影響を及ぼす、③X市長が、就任以来労働組合に対し、勤務条件の変更に関し十分な説明を怠り、合意を得るために努力する姿勢を示さなかった、④自己のブログを通じてZ1の組合活動に否定的な表現を繰り返し、チェック・オフに関する団体交渉にも一切応じてこなかった経緯
X市によるチェック・オフの中止はZらの弱体化を意図してされたものと評価されてもやむなしとし、不当労働行為の成立を肯定
 
●争点③ 団交拒否の正当理由の有無
使用者は「組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体k的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」については、団体交渉に応ずる義務がある(義務的団交事項)。
地公法7条ただし書は地方公営企業等の管理及び運営に関する事項(管理運営事項)は団体交渉の対象外であると定めるが、管理運営事項であっても職員の勤務条件に影響を及ぼす限り、団体交渉の対象となると考えられている

(原審維持)
チェック・オフが団体的労使関係の運営に関する事項であり、これを行うかどうかも使用者X市において処分可能な事項⇒義務的団交事項に当たり、長年継続してきた便宜供与の廃止に際しては労働組合と誠実な交渉を行うべき
⇒X市の団体交渉の拒否には正当な理由がないとして不当労働行為(労組法7条2号)の成立を認めた。
 
●争点⑤振替手数料相当額の支払を命じることができるか
労働委員会が不当労働行為に対して救済命令を発する場合、その内容については特段の規定がなく、労働委員会の裁量に委ねられている(労組法27条の12第1項、最高裁昭和52.2.23)。
 
原審:
X市い対し、Z1に口座振替手数料相当額の支払を命ずることは、不当労働行為による団結権や組合活動の侵害状態を回復するもの⇒労働委員会が救済方法によついて有する裁量権の範囲内にある。
 
控訴審:
救済命令本来の目的不当労働行為がなかったのと同じ事実状態を回復するところにある⇒救済命令としては事務手数料を徴収することなく無償でチェック・オフを再開するように命じることで十分
①本来組合費の徴収費用は労働組合(組合員)が負担すべきもの⇒救済命令として使用者にチェック・オフの中止期間中の振替手数料相当額の支払まで命じるのは、前記期間中に労働組合に生じた損害を補填するもので、実質的には不法行為による損害賠償を命じるに等しい。
不当労働行為救済申立ての手続において、損害賠償のような民事上の権利義務の存否を判断することは予定されておらず、このような救済命令は労働委員会の裁量権の範囲を超える

原審の判断を変更し、本件救済命令は労働委員会の裁量権の範囲を超えるとして、原審の判断を変更し、本件救済命令中、振替手数料相当額の支払を命じた部分(本件救済命令主文第2項)については、労組法適用組合員に係る部分についてもこれを取り消した。

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2017年6月20日 (火)

有価証券報告書の虚偽記載等に係る課徴金を課された⇒創業者取締役に対する損害賠償請求(肯定)

東京地裁H28.3.28      
 
<事案>
有価証券報告書の虚偽記載等に係る課徴金を課された会社の創業者取締役に対する損害賠償請求の事案。 
平成24年3月に上場廃止。

Yは、Xの創業者であり、Xの代表取締役や取締役会長をしていた者。

Xの取締役会決議により設置された第三者調査委員会は、平成23年12月、平成18年5月から同21年4月までに行われた11の取引(「本件取引」)におけるXの会計処理は不適切又は適切性に疑問が残ると報告。

Xは前記第三者調査委員会の報告に基づき、本件取引に係る過去の会計処理等を訂正し、K財務局長に対し、有価証券報告書等の訂正報告書を提出。
⇒金融庁長官は、Xに対し、重要な事項について虚偽記載のある開示書類の提出及び同開示書類に基づく募集があったとして、課徴金4996万円の納付命令の決定。

Xは、Yらの有価証券報告書の虚偽記載等により損害を被ったとして、納付した課徴金や第三者調査委員会に支払った費用等合計1億1366万円余の支払を求めた。
 
<判断>
本件取引のうち7つの取引については、有価証券報告書記載の各計算書類について虚偽の記載があったと認定(「本件粉飾取引」)。 
Yは、他の取締役と共謀して、Xの財務状況を良好に見せかけるため、又は、転換社債に関する損失補てんに充てるため、取締役の善管注意義務に反し、あえて架空、水増し又は循環取引を行い、有価証券報告書の虚偽の記載をした。
⇒Yの責任を肯定。

Yが負担すべき損害額について、第三者調査委員会に対する報酬の11分の7である1416万円余、課徴金4996万円等の合計額から和解金として支払われた額を控除した、6002万円を、Yの違法行為と相当因果関係のある損害として認容し、その余の請求を棄却。

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スーツケース等の特定の態様のリブからなる表面形状の周知商品等表示性(否定)

大阪地裁H28.5.24      
 
<事案>
スーツケース等を製造販売しているXが、その製造販売に係るスーツケースの表面形状はXの商品等表示として周知であり、これに類似した表面形状を使用したスーツケースのYによる販売はXの商品と混同を生じさせる不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する行為⇒Yに対し、同法3条に基づき同行為の差止め及びYの販売に係るスーツケースの廃棄を求めるとともに、同法4条に基づいて損害賠償の支払いを求めた事案。
 
<主な争点>
Xの商品に共通する表面形状がXの商品等表示として周知か? 
 
<判断>
●特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別しうる特別顕著性を有し、かつ、その商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力な宣伝が行われたような場合には、結果として、商品の形態が、商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示としての形態が周知性を獲得する場合がある。

複数の商品からなる商品群であっても、その共通形態においてかかる要件を満たし得るのであれば、商品表示としての形態が周知性を獲得する場合がある。

Xの商品群に共通する、ある商品形態が周知商品等表示となったというためには、その商品群が原告製の商品のうちでも販売実績が多く、また宣伝広告の頻度の多いもの、すなわち、需要者が原告製の商品として認識する機会が多い商品群であるということを明らかにした上で、これらの商品群の商品全体を観察して需要者が認識し得る商品形態の特徴を把握して、商品形態の特徴が特別顕著性を有し、かつ、販売実績や宣伝広告の実態から出所表示機能を獲得して周知となったといえることが主張立証されるべき。 

●その上で、裁判所は、需要者に認識される機会の多いXのスーツケースに共通する形態と一般的なスーツケースの商品形態について検討し、需要者に認識される機会の多いXのスーツケースは、
①②③・・・という点に商品形態の特徴があり、これらの3つの商品形態の特徴が相俟って、他のスーツケースと識別しうる特別顕著性を有するものと認められるのであって、①のみで特別顕著性を有するというXの主張を採用することはできない。
 
<解説>
●商品形態が商品等表示に該当し得るか?
商品の形態が「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)に該当するためには、実務上、
①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)かつ、
②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性)
需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要する(知財高裁H24.12.26)。
 
●どのような商品群に共通する形態が商品等表示に該当し得るか? 

一般的に、ある商品が広く世に知られたものである場合、その商品のどのような形態を商品等表示と特定して主張するかにより、裁判の帰趨は異なり得る。

裁判では、不正競争を主張する者が商品等表示に該当する形態を特定して主張することが必要であり、その形態を対象として相手方の不正競争行為の成否が審理されることになる(控訴審でなされた商品等表示に該当する形態を変更する原告の主張を時期に後れたものとして却下した事例(知財高裁H17.7.20))。

本判決は、商品群の特定の問題について、不正競争を主張する者において、その商品群が自己の商品のうちでも販売実績が多く、また宣伝広告の頻度の多いもの、すなわち、需要者が原告製の商品として認識する機会が多い商品群であることを明らかにすることが必要であることを述べた。

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2017年6月19日 (月)

原告(未決拘禁者・死刑確定者)に対する拘置所長による自弁の書籍等に対する一部抹消処分⇒国賠法上違法(肯定)

名古屋地裁H28.8.30      
 
<事案>
平成23年4月1日までは未決拘禁者として、それ以降は死刑確定者として、拘置所に収容されているXが、
平成22年9月1日以降、差し入れられた書籍、パンフレット及び新聞の記事の一部(=死刑執行状況が具体的に記載された文書及び写真等)を抹消してXに交付した拘置所長による13回の各抹消処分が違法であり、これらによって精神的苦痛を被った
⇒Yに対して、国賠法1条1項に基づき慰謝料合計100万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<Yの主張>
本件各抹消処分当時Xの精神状態が不安定であった⇒同文書等を閲覧することにより、Xが自傷行為や器物損壊行為等に及ぶおそれがあり、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあった⇒本件各抹消処分が刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律70条1項1号に基づく適法な処分
 
<判断>
本件各抹消処分当時のXの精神状態について、
幻聴を聴いていた可能性を認めつつも、その頻度や当時のXに対する精神科医の治療の有無等処遇状況を検討
Xが本件各抹消処分当時に精神的に不安定になっていたとは認められない

①Xが過去に自傷行為及び器物損壊行為を行った時期から本件各抹消処分までの間に10年以上経過
②抹消処分の対象となった文書等の一部については、Xが以前に同一の文書等を抹消処分のない状態で閲覧していたものの、その後にXが自傷行為等に及んだ事実がなかった

本件各抹消処分当時、Xが本件各抹消部分を閲覧した場合に自傷行為等に及び、拘置所内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があったと認めることはできない

拘置所長による本件各抹消処分はいずれも裁量の範囲を逸脱濫用した過失があり、国賠法上違法であると判断し、各処分につき5000円ずつの慰謝料及び遅延損害金の支払義務を認めた。
 
<解説>
●原告の刑事収容施設法:
書籍等の閲覧が憲法上の表現の自由等に関わるもの

未決拘禁者、受刑者及び死刑確定者について、その収容の事由によって区別することなく、原則として自弁の書籍等の閲覧の自由を保障(同法69条)

刑事施設の規律及び秩序の維持のためにその閲覧を禁止する場合(同法70条1項1号)であっても、その制限に当たっては、同目的を達成するために必要な限度を超えてはならない旨規定(同法73条2項)。 

本判決:
同法70条1項1号所定の「刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき」の解釈に当たっては、
死刑確定の有無を問わず、当該閲覧を許すことにより刑事施設内の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず被収容者の性向、行状、刑事施設内の管理、保安の状況、当該書籍等の内容その他の具体的事情の下において、その閲覧を許すことにより刑事施設内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、その制限の程度は、その障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきと解するのが相当。

未決拘禁者については、監獄法下の判示ではあるが、既に同旨のの判例がある(最高裁昭和58.6.22)ところ、本判決は、刑事収容施設法の下では、死刑確定者についても同様であることを確認。

●本件各抹消処分の一部について、Xの同意を得て抹消処分をしていたことがそれらの処分の適法性を基礎付けるか? 

本判決:
Xによる一部抹消に対する同意は、一部抹消を行うことによる書籍等の財産的価値の損失に対する同意として行われたものにすぎず、本件各抹消処分そのものの適法性を基礎付ける事情とはならない。

判例時報2327

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関連会社の新規借り入れに際して担保のために行った約束手形の振出・裏書に対する無償否認(肯定)

東京地裁H28.6.6      
 
<事案>
再生債務者Aは、各種電気機械器具の製造販売等を業とする株式会社。
 
平成26年4月以降、Aの全株式をBが代表取締役を務める持株会社Cが取得し、BがAの代表取締役に就任。
Xは平成26年10月30日にCに対し1億円貸付、AはXに対し、額面3800万円の約束手形を振り出すとともに、額面6264万円のD振出の約束手形を裏書譲渡
 
平成27年2月18日、Aは東京地裁に民事再生手続開始申立て、同裁判所は同月23日午後9時付で再生手続開始決定及び管理命令を発し、Yを管財人に選任。 

Xは、手が金合計1億64万円及び利息を再生債権として届け出たが、Yは全額について認めない旨の認否⇒Xが査定の申立て⇒再生裁判所は本件再生債権の額をゼロ円と査定する旨の決定⇒再生債権査定異議の訴えとして本件訴訟を提起。
 
<規定>
民事再生法 第127条(再生債権者を害する行為の否認) 

3 再生債務者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、再生手続開始後、再生債務者財産のために否認することができる。
 
<Yの主張>
①本件貸付はもっぱらCのためになされたもの⇒Aは何ら関係ないから本件各手形の原因関係は存在しない。
②本件各手形がCのXに対する債務の第三者弁済ないし代物弁済としてなされたとしても、この手形債務負担行為は無償行為否認の対象となる。 
 
<判断>
●主張①について 
A及びX代表者らの供述

本件各手形は、その実質は本件貸付における担保として、後の貸付金弁済時に買い戻すことを予定して、形式としては第三者弁済(代物弁済)の形式をとり、Xに対して振出(本件手形1)又は裏書譲渡(本件手形2)したものと認定
⇒原因関係不存在の抗弁は認められない。
 
●主張②について 
旧破産法上の無償否認行為に関する最高裁昭和62.7.3を引用し、
再生債務者が義務無くして他人のためにした担保の供与は、それが債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であっても、再生債務者がその対価として経済的利益を受けない限り、無償否認の対象となる。

①本件貸付の債務者はCであり貸付金もCの口座に送金されている
②Aは保証料を得ていない
③以前にXに対する保証債務を負っていたものでもない
手形債務の負担によりAは直接的な利益を受けていない

①C口座からA口座への送金も見られるが、直後にCの事業協力会社への手形債務の決済に使用されている
②C口座からA口座への送金よりもA口座からC口座への送金が多くなっている
③これら送金の当時はCを親会社とするグループ全体の資金繰りが悪化した時期であり、BはAの取締役会の決議をとらずにCの債務をAに補償させていたことがあった

BはAの資産をCその他グループ会社の資金繰りのために頻繁に利用しており、本件各手形に関してもAは間接的な意味でも利益を受けていない

本件各手形の振出ないし裏書譲渡を無償否認の対象と認め、Xの主張を退けた。
 
<解説>
●民事再生法上の否認権の類型は、破産法及び会社更生法のそれと基本的に同じであり、
①支払停止発生後の危機時期またはそれに接着する時期において、無償でその責任財産を減少させたり、債務を負担する債務者の行為がきわめて詐害性の高いこと
受益者の側でも無償で利益を得ているのであるから、緩やかに否認を認めても公平に反しないこと
詐害行為否認の特殊類型として定められている。 

●債務の保証又は担保の提供の場合
XがAに対して融資を行う際、BがAのXに対する債務の保証人となったり、担保を提供したとして、Bが破産した場合の破産管財人は、債務保証や担保提供行為を否認できるか?(=Bにとって無償行為か?)
破産者の保証等が他人の既存債務についてなされた場合⇒学説の多くも無償否認を肯定。

その保証等が直接の原因となって新規の出捐がなされた場合。
A(かつての多数説):無償行為性を否定

①受益者たる債権者Xは、保証と引き換えに主債務者Aに対して融資を行っているから、受益者Xの側についてみれば無償で債務保証の利益を得たことにはならない。
②保証人は主債務者に対する求償権を取得するから、債務保証は無償行為とは言えない。

B(判例):破産者の受けた経済的利益の有無の観点から無償行為性を決している

最高裁昭和62.7.3:
同族会社の代表者で実質的な経営者でもある破産者が、同会社の債務を個人保証するとともに担保を提供した事案において、
破産者が義務無くして他人のためにした担保の供与は、それが債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であっても、破産者がその対価として経済的利益を受けない限り、無償否認の対象となる

最高裁H8.3.2:
会社の代表者等に対する信用保証協会の代位弁済による求償権行使の可否が争われた2つの事件において、連帯保証人がすでに包括的債務保証により金融機関に対して会社の金融機関に対する一切の取引上の債務を返済すべき義務を負っていた⇒無償否認を否定。

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2017年6月18日 (日)

韓国法での相続分・法定相続分の確認請求

東京地裁H28.8.16      
 
<事案>
韓国籍を有している被相続人Aは昭和14年頃来日し、昭和20年に原告X1と婚姻し、日本において複数の事業を行い、平成21年8月に死亡。
Aには相続人として、配偶者X1のほか、合計7人の子がいる。 

法の適用に関する通則法38条は、相続は被相続人の本国法によるとしているところ、韓国民法は被相続人に子が数人ある場合、その相続分は平等であり、被相続人の配偶者の相続分は子の相続分に5割を加算した割合とされている。

X1の相続分は17分の3、子は17分の2となる。

X1は、Y1らを被告として、Aを被相続人とする相続において、通則法42条を適用して、韓国民法の配偶者の法定相続分の規定の適用が我が国の公の秩序又は善良の風俗に反するとして韓国民法の同規定の適用を排除し、日本民法の配偶者の遺留分割合を最低限の法定相続分として、妻X1の相続分を4分の1、その余の子の相続分を韓国民法に従って平等の割合すなわち28分の3とするべきであるとして、法定相続分割合の確認を求めた。 
 
<規定>
法の適用に関する通則法 第36条(相続) 
相続は、被相続人の本国法による。

法の適用に関する通則法 第42条(公序)
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。

民法 第899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

民法 第905条(相続分の取戻権)
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
 
<被告主張>
請求の棄却を求めるとともに、
本案前の抗弁として:
遺産分割の前提となる具体的相続分の確認を求める訴えは確認の利益を欠くと解される(最高裁H12.2.24)のと同様に、法定相続分割合の確認を求める本件訴えは、確認の利益を欠き、不適法。 
 
<判断>
●本案前の抗弁について
法定相続分は、遺産分割の前提となるべき計算上の価値又は割合にすぎない具体的相続分と異なり、実体法上の権利であって、その割合に争いがある限り、その確認を求める訴えが直ちに確認の利益を欠くものであるとはいえない
but
法定相続分の確認は認められるが、相続財産を掲げて法定相続分の確認を求めることは許されない
⇒「亡Aを被相続人とする相続についての」法定相続分の確認請求として認容。
 
●本案請求について 
通則法42条にいう公序に反するときとは、外国法の規定の適用が日本の法秩序にとって容認し難い結果をもたらすような場合をいうと解される。

法定相続分及び遺留分の割合は各国ごとに配偶者及び子の権利の均衡に配慮して定められていることから、外国の規定が適用される場合には、遺留分割合が日本の民法の規定による遺留分割合を下回ることも当然に予想され、このような結果をもたらす外国法の規定が直ちに公序に反するものではなく、①被相続人Aと原告X1が日本に生活の基盤を有し、韓国との特段のつながりを有していないこと、②被相続人Aが日本で財産を築き、原告X1がこれに多大な貢献をしたこと、③原告X1の相続額など原告らの主張する事実を全て考慮しても、本件相続に韓国民法の法定相続分割合の規定を適用することが公序に反するということはできない
⇒原告の請求を棄却。

相続分の譲渡の対象となる相続分は、法定相続分ではなく具体的相続分である
⇒法定相続分の譲り受けにより法定相続分の加算を主張した原告の主張を排斥。
 
<解説> 
法定相続分の確認請求の訴えの適否 
法定相続分が権利性を有する⇒その確認請求は許される。
法定相続分が特別受益及び寄与分によって修正されて具体的相続分が形成される。

A:具体的相続分は法定相続分を修正した相続分であるが、具体的な相続分計算を待たずに相続財産に対する観念的な権利として実在し、これにしたがって相続財産が書く共同相続人に承継されるとして、民法899条にいう「相続分」を具体的相続分であると解する相続分説。

〇B:持戻計算は特別受益によって相続分を修正するのではなく、特別受益者が現実に相続分に対して持つ取得分に変更を加える操作に過ぎず、かつ具体的相続分の計算は遺産分割審判の審理とともに初めて明らかになるもので、算定された具体的相続分は、具体的権利ないし法的関係ではなく、単に分割の過程で設定される一種の分割基準であるとする分割分説

最高裁H12.2.24:
具体的相続分遺産分割審判手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるということはできず、遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり、このような事件を離れてこれのみを別個独立に判決判決によって確認することが紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはできない

共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法。
~
遺産分割分説に立つことを明言。
具体的相続分の権利性を否定する分割分説は、法定相続分が権利性を有することを前提にしているものと思われる。
⇒法定相続分権利性を有する以上、その割合に争いがある場合には、確認請求訴訟が許されるのは当然。
 
●通則法42条の適用の可否
本判決は、通説・判例に従い、
通則法42条が適用されるのは、外国法の規定の適用が日本の法秩序にとって容認し難い結果をもたらすような場合をいうと判示。

外国法の適用の結果が公序に反するか否かは、
我が国法律の適用結果との差異の大きさ
事案の我が国との牽連性
の双方を総合的に考慮すべきものと解されている。
 
●相続分の譲渡 
原告X2は、訴外の相続人から相続分の譲渡を受けたことを前提として、同人の法定相続分割合を自己の法定相続分割合に加算して主張。
本判決は、相続分の譲渡において譲渡の対象となるのは、法定相続分ではなく具体的相続分とし、X2の相続分の譲受を認めない旨の判示。
but
法定相続分に権利性を肯定する以上譲渡性も肯定されるのではないか

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2017年6月17日 (土)

認知症の高齢者を養親とする養子縁組について、意思能力及び縁組意思が否定された事例。

名古屋高裁金沢支部H28.9.14      
 
<事案>
平成25年8月20日、亡A(大正9年生)を養親、Yを養子とする養子縁組届がYによって提出された(本件養子縁組)。AとYとの間に本件養子縁組以前からの親族関係はない。
本件は、Aの妹であるXが、本件養子縁組についてAの縁組意思の欠如等を主張して、Yに対し、本件養子縁組の無効確認を求めた事案。
 
<規定>
民法 第802条(縁組の無効) 
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。

<原審>
Aにおいて、本件養子縁組当時においても養子縁組に必要な意思能力を有していたことが認められ、その届出意思がなかったとも認められない。
⇒Xの請求棄却。 
 
<判断>
養子縁組当時、Xに養子縁組にかかる意思能力及び縁組意思がなかったと認められる⇒原判決を取り消し、Xの請求を認容。 

①Aはかねてからその妻との関係で妄想がみられ、遅くとも平成23年8月頃から認知症の症状が現れていた。
②平成24年11月時点で、医師により年齢(92歳)相応の脳萎縮があって、見当識障害及び著しい記憶障害によりアルツハイマー型認知症に罹患し、後見相当の精神状態にあると診断。
③このような状態は、本件養子縁組の届出書の作成、届出がされた平成25年8月20日前後の時点において更に進行し、客観的な所見としては、著名な脳萎縮が認められたほか、長谷川式及びMMSEの数値は高度の認知症があることを示し、しかも、見当識障害及び記憶障害が著しく、尿失禁等の周辺症状もみられた。

本件養子縁組の届出書作成・届出がなされた当時、精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にあったということができるのであって、仮にAが本件養子縁組届出書に署名押印したとしても、これをもって直ちに縁組意思があったと推認することはできない。

Yは、平成24年11月以前からしばしばAを訪問し、その際にAの身の回りの世話をするなどして、それなりに親しくなっていたことは認められる。
but
①AとYは、本件養子縁組の届出がされるまで、本件養子縁組を周囲の関係者に対し公にしようとした様子は見受けられず、
②Yが養子となった後のAに対する扶養や祭祀承継等のあり方について、具体的な話し合いがされた形跡はなく、
③同居又はこれに類する生活を送ることについても同様であり、かつ、そのような生活が具体的に予定されていたものでもない

AとYとの間で、親子関係を創設するための真摯な協議はなく、少なくとも、Aについて、Yと親子関係を創設する意思があったとみるべき事情はない。

Aは本件養子縁組の届出後、入院先病院の医師や看護師に対し、Yと養子縁組をしたかのような発言をしていた事実が認められる。
but
このような発言は、Aとして、予期に反して入院が続いたことで帰宅願望を強めていたところ、YがAとの面会において同居を示唆するなどし、Aをして退院を期待させるようなことを述べたのを受けてなされたもの。
⇒これらの事情に加えて、当時のAの精神状態を考え併せると、Aの発言は、帰宅願望の文脈で理解され、Yが自分の面倒を見てくれるから退院させてほしいと医師や看護師に訴えることに主眼があったとみるのが相当で、本件養子縁組が有効に成立したことを前提にした発言と解するのは相当でない。 

本件養子縁組時のAの精神状態に照らして、AがYとの間で人為的に養子関係を創設し、扶養、相続、祭祀承継等の法的効果を生じさせることを認識するに足りる判断能力を備えていたとはいえず、かつ、その意思を有していたとも認められない。
⇒Aが、本件養子縁組当時、縁組意思がなかったと認めることができる⇒本件養子縁組は無効。
 
<解説>
民法802条1号は、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に縁組を無効とする旨定めているところ、「縁組をする意思」(縁組意思)の具体的内容について、最高裁は、「真に養親子関係の設定を欲する効果意思」と解している(最高裁昭和23.12.23)。
同号は、縁組当事者が意思能力を有しないにもかかわらず、縁組の届出をしたときにも適用があるものとされている(判例)。
半面、その意思能力ないし精神機能の程度としては、「格別高度な内容である必要はなく、親子という親族関係を人為的に設定することの意義を極く常識的に理解し得る程度であれば足りる」(東京高裁)とされている。

判例時報2327

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2017年6月15日 (木)

養子縁組の実質的縁組意思について判断した事例

東京高裁H27.2.12      
 
<事案>
亡Aの長女である被控訴人(原審原告)Xが、Aと控訴人らY1・Y2との間の養子縁組は、縁組当時Aに意思能力がなく、Xの遺留分を減少させることだけを目的としてされたものであり、AとYらに実質的縁組意思もなかったため無効⇒養子縁組の無効確認を求めた事案。

平成22年2月、AとYらは養子縁組をし(Y2は当時11歳であったため、親権者であるCとY1が代諾した。)、同年9月、Aは死亡。
翌平成23年、Xが、AとYらとの養子縁組の無効確認を求め提訴。
 
<規定>
民法 第802条(縁組の無効) 
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき
 
<原審>
Aの財産等を巡るXとC及びAの激しい対立という本件各養子縁組の背景⇒本件各養子縁組は、Aが、Cの関与の下、もっぱらXの遺留分を減少させる目的で行ったものであると強く推認され、Aには実質的な縁組意思がなかったものと認められる。
⇒Xの請求を認め、本件各養子縁組は無効。 
 
<判断> 
●実質的縁組意思の存在を肯定し、本件各養子縁組を有効であると判断して原判決を取り消した。 
養子縁組においては、養親及び養子において、社会通念に照らし真に親子関係を生じさせようとする意思があること、すなわち、親子としての精神的つながりを形成し、親子関係から本来生ずる法律的又は社会的な効果の全部又は一部を目的とするものであることが必要であって、こうした意思を全く含まず、単に別の目的を達成するための方便として、養子縁組の形式を利用したにすぎない場合には、縁組意思を欠くものとして当該養子縁組は無効となると解される。

養子縁組に至った経緯についてのY1の供述等

AはY1(息子の妻)に老後の面倒をしっかり看て欲しいとの考えから養子縁組を決意し、
Y1はAの気持ちに応えて安心させるため養子縁組に応じたと認められる。
⇒両名とも真に親子関係を生じさせようとする意思があったものと認めるのが相当。

原判決は、Y1の供述等の信用性を否定。
but
本判決は、
①Xのような資産がある高齢者も認知症が現れたり、体力的に弱って日常生活を一人ですることが困難になれば心細い思いをするが、そのような境遇で最も頼りたいはずの娘XからFの支配権を奪うような行動に出られた状況で同居していた長男Cの嫁であるY1に最後の面倒を看てもらいたいと考え、親子関係を形成しようとすることは不自然ではない。
②親子としての情愛を有する実子や養子から人的な信頼関係に基づき生活の面倒を看てもらうことなどで得られる安心感や満足感は、ヘルパーなどの第三者から得られるそれとは全く質が異なること等。
Y1の供述等の信用性を認め、実質的縁組意思の存在を肯定
 
●AとY2(孫) の養子縁組について
①本件と同様の境遇にある高齢者が、可愛がっている孫等に自分の思いを伝え、後を託す意味で、孫等と養子縁組を結ぶことは社会的に必ずしも珍しいものではない
②Aにとって可愛い孫で同居もしていたY2を経済的に援助するとともに、将来的に自分の資産が上手くY2に承継されるのを願い、養子縁組をしようとすることは何ら否定されるべきものではない
③Y2を養子にすることは、Cの希望を叶えるとともに、生活の面倒を看てもらっているY1との関係を円滑なものとし、Y2にも役立つものであって、いわば一石三鳥を期待できた

AにY2と真の親子関係を形成しようとする意思が認められないというものではないし、Y2の法定代理人として養子縁組を承諾したCらにAとY2との間で親子関係を形成させようとする意思があったことも明らか。
 
<解説>
縁組意思を欠く養子縁組は無効(民法802条1号)。
判例・通説:真に親子となろうとする意思(実質的縁組意思)が必要

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2017年6月14日 (水)

主債務者が中小企業の実体を有しない場合の信用保証協会の保証契約の意思表示の錯誤(否定)

最高裁H28.12.19      
 
<事案>
Y銀行と保証契約を締結し、同契約の保証債務の履行として代位弁済をした信用保証協会Xが、Y銀行に対し、同契約は要素の錯誤により無効であると主張して、不当利得返還請求権に基づき、代位弁済金の返還等を求めた事案。 
 
<原審>
A社が本件事業を行う中小企業者であることは、Xが本件制度を利用した保証契約を締結するための重要な要素であるところ、
A社が事業譲渡によって本件事業を行う中小企業者の実体を失っていたにもかかわらず、Xは、A社が本件事業を行う中小企業体であると誤信して本件保証契約を締結したと認められる。
⇒Xの本件保証契約の意思表示には要素の錯誤があるとして、Xの請求を認容。 
 
<判断>
原判決を破棄し、Xの請求を棄却。 
 
<解説> 
●信用保証協会法は、信用保証協会の業務を、中小企業者等が金融機関に対して負担する債務の保証等と定めており(同法20条)、信用保証協会は、主債務者が信用保証の対象となるべき中小企業者でないことがあらかじめ分かっていれば、その債務に係る保証契約を締結することはないと考えられる。

保証契約の締結後に主債務者が中小企業者でないことが判明した場合には、信用保証協会が保証契約を締結した動機に錯誤があったということができる。
 
●最高裁H28.1.12:
保証契約の主債務者が反社会的勢力であることについて信用保証協会に誤認があった事例について、信用保証協会による錯誤無効の主張を排斥。 

本判決:
平成28年最判と同様、当事者の意思解釈上、動機が法律行為の内容とされたものと認められない限り、表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解すべきことを前提として、
信用保証協会の制度の趣旨及び目的や、当事者の属性に照らし、主債務者が中小企業者の実体を有しないことが事後的に判明する場合が生じうることを想定して対応をとることが可能であったが、そのような対応がされていなかった
主債務者であるA社が中小企業者の実体を有するという点に誤認があることが事後的に判明した場合に保証契約の効力を一律に否定することまでを当事者双方が前提としていたとはいえず、当事者の意思解釈上、この点についてのXの動機が保証契約の内容となっていたとはいえない

Xによる保証契約の錯誤無効の主張を排斥

一般論として、金融機関には、信用保証に関する基本契約に基づき、主債務者が中小企業者の実体を有するものであることについて、相当と認められる調査をすべき義務があるとし、Xは、Y銀行がこの義務に違反したために中小企業者の実体を有しない者を主債務者とする融資について保証契約が締結されたことを主張立証して、本件免責条項に基づき、保証債務の全部又は一部の責めを免れることができる。 


錯誤により保証契約を一律に無効とせず、調査義務違反による保証債務の全部又は一部の免責の余地を認めることにより、事案ごとの個別具体的な事情に応じて金融機関と信用保証協会との間の利益衡量を図るべきであるとの判断を示したもの。

平成28年最判は、主債務者に関する調査の程度について「その時点において一般的に行われている調査方法等に鑑みて」相当と認められるものであればよいとして、高度の調査義務を課していない。
←主債務者となる者が反社会的勢力であることを調査する方法が実際上限られている。

中小企業者の実体を有しないことについては、融資に係る通常の審査の過程においても、その兆候を把握することができる場合が少なくない
金融機関が、通常行うべき審査を懈怠したり、把握すべき徴候を看過したような場合には、信用保証協会との関係で前記の調査義務違反が認められ得るものと考えられる。

判例時報2327

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2017年6月13日 (火)

地自法251条の7に基づき辺野古湾の埋立承認取消しの取消しをしないという不作為の違法の確認を求めた事案

最高裁H28.12.20      
 
<事案>
日本と米国との間で返還の合意がされた普天間飛行場の代替施設を名護市辺野古沿岸域に建設する事業(「本件埋立事業」)につき、沖縄防衛局が、前沖縄県知事から公有水面埋立法42条1項に基づく公有水面埋立ての承認を受けていた。
⇒沖縄県知事が、本件埋立承認に違法の瑕疵があるとしてこれを取り消した。
⇒国土交通大臣が、沖縄県に対し、本件埋立承認取消しは違法であるとして、地方自治法245条の7第1項に下づkい、本件埋立承認取消しの取消しを求める是正の指示をしたものの、現知事が、本件指示に基づいて本件埋立承認取消しを取り消さない上、法定の期間内に是正の指示の取消訴訟を提起しない
地自法251条の7に基づき、現知事が本件指示に従って本件埋立承認取消しの取消しをしないという不作為の違法の確認を求めた事案
 
<原審>
本件埋立承認取消しは本件埋立承認に裁量権を逸脱・濫用した違法があるいえないにもかかわらず行われたものであるなど違法であって、
それに対する本件指示は適法であるとした上で、現知事が本件指示に従わず、本件埋立承認取消しを取り消さないのは違法であり、国土交通大臣の請求には理由がある
 
<判断>
上告棄却 
 
<解説> 
●処分の職権取消しの適否に係る判断の在り方について
◎ 本件埋立承認取消しの適否を判断する前提問題として、行政庁が処分に瑕疵があることを理由に職権取消しをした場合に、その適否が訴訟上争われたときの判断のあり方が問題とされた

処分の職権取消し:
違法又は不当の瑕疵を有するものの、一応有効である処分につき、行政庁が、職権によりその成立当初に存在した瑕疵を理由にして効力を失わせること
~行政庁が、後発的事情を理由にして効力を失わせるという講学上の処分の撤回とは区別される概念。

処分の職権取消しは、当該処分の根拠規定等に職権取消しに関する規定があればそれにより規律されるが、そのような規定がない場合であっても、処分に瑕疵があれば職権取消しは許され、そのこと自体に異論はない

◎ 処分が違法であるとまではいえず、不当であると評価されるにとどまる場合に、当該処分の職権取消しが許されるか?

原審:
いわゆる授益処分の取消しの場合には、原処分が違法であることを要し、原処分に不当又は公益目的違反の瑕疵があるにすぎない場合には職権取消しをすることができない。
but
処分の職権取消しが許容される根拠は法律による行政の原理又は法治主義の観点によるものと考えられるところ、当該処分に処分を取り消すに足りる不当があるのであれば、同様の観点からは職権取消しをすることが許容されると解するのが相当。

最高裁判例においても、処分に不当がある場合にも職権取消しをすることができることを前提に、職権取消しの制限について判断を示すものがある(最高裁昭和43.11.7)。

また、学説上も、原処分に不当の瑕疵があるにすぎない場合であっても職権取消しをすることができるとする見解が多数。

本判決は、原処分に不当又は公益目的違反の瑕疵があるにすぎない場合には職権取消しをすることができないとする見解を採用しなかった

◎ 本件における裁判所の裁量審判の対象となるのは、原処分である本件埋立承認に係る前知事の判断か、本件埋立承認取消しに係る上告人(現知事)の判断か?

行政庁が処分に違法又は不当(「違法等」)があることを理由に職権で取り消す場合には、そのような違法等が客観的に存在することが求められる

原処分に違法等があるとはいえない場合には、原処分を取り消す理由がない⇒原処分の職権取消しをすることは違法

職権取消しの適否が争われる訴訟においては、原処分に違法等があるか否かが直接の審理判断の対象となる。
職権取消しの対象とされた処分が裁量処分である場合には、裁量権の逸脱、濫用がある場合に違法等があることになる⇒原処分に係る行政庁の裁量判断の当否を審理判断すべきとするのが当然の帰結。

●本件埋立承認が第1号要件に適合するか否かについて 

公有水面埋立法4条1項1号は、免許基準(承認基準)の1つとして、「国土利用上適正且合理的ナルコト」(第1号要件)を定めるところ、その意義については、当該埋立自体及び埋立地の用途が、国土利用上の観点からして適正かつ合理的なものであることを要する趣旨であるなどと説明されている。

「国土利用上適正且合理的ナルコト」の判断枠組みについては、本判決が判示するとおり、
埋立ての目的及び埋立地の用途に係る必要性及び公共性の有無・程度に加え、埋立を実施することによる国土利用上の効用、公有水面を埋め立てることにより失われる国土利用上の効用等の諸般の事情を総合考慮して判断することになる。

①第1号要件の文言は抽象度の高いもの
②埋立が国土利用上の観点から適正かつ合理的であるかを判断するための考慮要素としては多種多様なものがあり得るという事柄の性質

第1号要件の適合性については、免許権者(承認権者)である都道府県知事が一定の幅をもって裁量的な判断を行うことが予定されている

そのような裁量判断の当否を裁判所が判断するに当たっては、
①その基礎となれた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、
事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に当たるか否か
を審査することが相当。

●本件埋立承認が第2号要件に適合するか否かについて

公有水面埋立法4条1項2号は、免許基準(承認基準)の1つとして、「その埋立が環境保全及び災害防止について十分配慮せられたるものなること」(第2要件)を規定。
第2号要件は、「水面を変じて陸地となす埋立行為そのものに特有の配慮事項を定めたもの」とされ、埋立地の竣工後の利用形態ではなく、埋立行為そのものに関して必要となる環境保全措置等を審査するもの。

ここでいう「十分配慮」とは、「問題の現況及び影響を的確に把握した上で、これに対する措置が適正に講じられていることであり、その程度において十分と認められることをいう」と説明されている。

①第2号要件は、「十分配慮」という評価概念ないし不確定概念を用いるところ、第2号要件は、第1号要件と異なり、政策的な判断を求められるというよりは、環境配慮という専門的・技術的な判断が予定された要件
②一般論としては、不確定概念により定められた要件充足性の判断に当たり行政庁の専門的・技術的判断が求められる場合には、処分行政庁が当該許認可等の要件を充足するか否かにつき裁量的な判断をすることが予定されているということができると考えられる。
③個々の許認可処分における行政庁の判断の幅については、許認可要件を定めた法令の規定内容に加え、要件充足性を判断するに当たり検討すべき事項の範囲の広狭や専門性の程度、許認可における第三者専門家の関与の有無等に照らして個別具体的な検討が必要

①公有水面埋立法は、「その埋立が環境保全及び災害防止について十分配慮せられたるものなること」と定めるのみであり、極めて抽象度の高いものであるといえる。
公有水面の埋立てが環境にいかなる影響を与えるかや、環境への負荷を回避又は軽減する措置の適否等に係る審査は対象地の自然的条件や環境保全技術等、専門技術的な知見に基づく総合的な判断を要するものであり、かつ、審査すべき事項も広範に及んでいる

第2号要件の適合性に係る承認権者の裁量的な判断の幅はある程度広範にならざるを得ない

裁判所がそのような専門的・技術的な観点からの判断の当否を審査するに当たっては、
専門的・技術的知見を踏まえて作成された審査基準等に不合理な点がないかや、
そのような審査基準等に沿った判断過程に不合理な点がないか
といった観点から審査をするのが適切。
 
●地自法245条の7第1項にいう「法令の規定に違反する場合」の意義 
本判決は、内閣総理大臣又は各省大臣が、その所管する法律またはこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認める場合には、当然に地自法245条の7第1項に基づいて是正の指示をすることができる旨を判示。
 
●地自法251条の7第1項にいう「相当の期間」の意義 
行訴法3条5項(不作為の違法確認の訴え)における「相当の期間」の解釈が参考になる。
同項にいう「相当の期間」については、行為の種類、性質等によって一概にいえないところがあり、具体的事案に即して個別に判断するほかないとされるものの、一応、行政庁が当該行政行為を行うに通常必要とする期間を経過している場合を基準とすべきであるなどと説明されている。
 

本判決は、原判決の言渡しから約3か月という比較的短期間で言渡しがされている。

地自法251条7項1号に定める不作為の違法確認の訴えについては、第1審である高等裁判所が訴えの提起の日から15日以内の日を第1回口頭弁論期日として指定する必要があるとされ、また、高等裁判所の判決に対する上告期間が1週間とされるなど、迅速に審理判断がされることが法律上予定されていることを踏まえたものと考えられる。

判例時報2327

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2017年6月11日 (日)

道路位置指定の取消処分申請についての裁判例

東京高裁H28.11.30      
 
<事案>
昭和26年に原告土地を四棟の住宅敷地として利用するために、私道が開設され、東京都知事による道路位置指定処分がされた。
・・・・その後、昭和26年に開設された私道は廃止され(事実行為として廃止され)、原告土地全体を敷地として一等のマンションが建築された。 

平成25年に至り、隣接土地の新所有者が、本件土地が建築基準法上の道路であることを前提として、建築確認を取得(接道義務は区道に接することで満たされるが、本件土地が建築基準法で定義される「道路」だとすると、二面で道路に接するため、各種建築規制が緩和される。)。

Xは、本件道路位置指定の取消しを申請⇒Yは、隣接土地やその地上建物所有権者・抵当権者等の承諾がないことを理由にXの申請を却下
却下処分の取消し及び取消処分の義務付けを求めるのが本件訴訟。
 
<判断>
本件の事実関係(道が無くなった時に接道義務を満たさない土地の発生などのトラブルが生じておらず、道路位置指定の必要性は消滅した。)に即した判断。

本件の事実関係の下では、道が壊されて無くなった後の本件土地は、「道」も「これから築造しようとする道」も存在しない⇒建築基準法42条1項5号の「道路」に該当しない
このような場合には、申請がなくても道路位置指定の取消処分をすべきであり、この点について処分行政庁に裁量の余地はなく、敷地所有者・隣地所有者等の同意も必要ではない

最高裁昭和47.7.25:道路位置指定の取消処分をするには道路敷地所有者(本件ではXのほか隣接土地新所有者がこれに当たる。)の承諾が必要であるかの如く判示。
but
最高裁昭和47.7.25は、係争地に現実に「道」が存在し、道路位置指定の必要性が存続していた事案であって、これと事案を異にする本件には適用されないと判断。

国民に義務を課し又は権利を制限するには、法律、法律の委任に基づく政省令又は法律の委任に基づく条例によらなければならないと判断

前掲最高裁判決を根拠に地方自治法15条の規則により道路位置指定解除の要件を定めることができるというYの主張を排斥。

判例時報2325

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2017年6月10日 (土)

意匠の類否について

知財高裁H28.7.13      
 
<事案> 
発明の名称を「道路橋道路幅員拡張用地覆ユニット及び道路橋道路幅員拡張用地覆ユニット設置方法」とする本件特許及び意匠に係る物品を「道路橋道路幅員拡張用張出し材」(「本件物品」)とする本件意匠権を有するXが、YによるY製品の製造、譲渡等はXの本件特許権及び本件意匠権を侵害すると主張して、Yに対し、Y製品3の譲渡等の差止め及び廃棄等を求めるとともに、損害賠償金1720万6051円等の支払を求めた事案。
 
<判断> 
●登録意匠と対比すべき相手方の意匠とが類似であるか否かの判断:
需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており、意匠を全体として観察することを要する。
この場合、 意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様、並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠とが、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視して、観察を行うべき。

●本件意匠の要部 
本件意匠の構成のうち、要部は、道路橋の利用者から注目される全面側の舗装層によって隠れない部分であるといえ、また、背面側及び底面側のうち、施工後も公衆から見える部分も、ある程度取引者・需要者の注意を惹くといえる。

しかし、基本的構成態様(正面視左右方向に長く、長手方向に中空の直方体(中空筒体)を有し、中空筒体の正面側の面(前面側)の外方に向けて底面側の面(底面側)が前面にわたって延伸して延伸部が形成され、底版部(底面側と延伸部からなる)の下面に、その左右方向の全面にわたって下方に延びる四角板状体(腹板)が形成され、中空筒体の背面部の面(背面側)の下の底面側の下面から、腹板の最低位までを直線状につなぐ三角板状態(リブ)が左右方向に複数形成されている。)自体は、施工後に見えなくなる部分が含まれる以上、要部であるといえない

●本件意匠とY意匠との類否 
本件意匠とY意匠1及び2とは、要部である全面側の舗装による隠れない部分において構成態様に大きな差異があり、背面側の構成態様にも一定の差異がある
取引者・需要者の注意を惹くものの程度が弱い底面側の構成態様が類似していることを加味しても、両意匠を全体として観察した際に、看者に対し異なる美感を起こさせるものと認められる

判例時報2325

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2017年6月 8日 (木)

私立大学が定年年齢後、専任教員との再雇用契約を締結しないことが権限濫用にあたるとされた事例

東京地裁H28.5.10       
 
<事案>
被告学校法人Yが設置する大学の専任教員であった原告Xが、就業規則所定の定年年齢(65歳)に達し、1年契約の特別選任教員として再雇用を希望⇒Yが再雇用契約を締結しない旨決定⇒選任教員として引き続き勤務する地位にあることの確認等。 

<Xの主張>
定年を満70歳とする①個別合意または②労使慣行がある。
YがXとの間で再雇用契約を締結しないとすることは③権限濫用に当たる。 
 
<判断>
●入職前の説明会で総務部長等が就業規則を交付して、70歳まで再雇用されるケースが多いことなどを口頭で説明した事実はある
but
就業規則と異なる内容の合意を口頭でしたと認めるには慎重な検討を要するものと解される

定年を満70歳とする旨の合意が確定的に成立したと認めるには足りない
⇒①の個別合意の成立を否定。


就業規則と矛盾抵触する内容の労使慣行が法的効力を認められるには、その慣行が相当長期間、相当多数回にわたって広く反復継続され、かつ、当該慣行についての使用者の規範意識が明確であることを要するものと解するのが相当
②本件において、過去の取扱い事例も少なく(7名程度)、Yにおいて就業規則を排斥する規範に基づくものとして明確に認識されていたとはいえない

労使慣行として法的効力を認めるまでには至っていない


①労使慣行として法的効力が認められるまでには至らないとはいえ、70歳まで雇用が継続されるという一定の方向性をもった慣例が存在し、
65歳以降も希望した者の雇用は継続されるという点では例外はなかったところ、これらの雇用継続に際して実質的な協議や審査が行われていたとは認められない

教員らが再雇用による雇用継続に期待することには合理性が認められる。

定年後再雇用について、一定の裁量が認められるものの、理事会での審議は、「客観性のある基準に基づくものでも、具体的な事情を十分に斟酌したものでもな」い⇒理事会がXについて再雇用を否定し、YにおいてXとの間で再雇用契約を締結しないことは権限濫用に当たり、違法無効

内規に基づき、基準給与月額の70%の額で一年契約の再雇用契約が締結されたものと同様になるものと解するのが相当。
 
<解説> 
労使慣行(労働慣行)とは、労働条件、職場規律、施設管理、組合活動等について、労働協約や就業規則の規定に基づかない取扱いが、長期間反復継続して行われ、労使双方に事実上のルールとなっているもの。 
労使慣行の法的効力について、多くの裁判例は、民法92条の事実たる慣習を根拠とする。

民法 第92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。

一般に、労使慣行の成立について、
①同種行為等の長期間の反復継続
②労使双方の排除意思の不存在
③当該労働条件の決定権限を有する者(使用者)等の規範意識の存在
の3要件が求められる。

労働協約や就業規則に矛盾する内容の労使慣行の場合は、規範意識の認定には厳密な証明が求められるとして、「例外的な場合に限られる」とされる。

・大学における定年延長の労使慣行に関して、教授会の議決があれば延長されるという慣行の成立を肯定したもの。
・当然に定年延長がとられるという慣行や教授会での相当数の異議がなければ定年延長されるという慣行の成立を否定したもの。

裁判例は、労使慣行の成立にはやや慎重な態度といえる。
 

判旨は、雇用継続に対する期待の合理性から、契約締結という法的効果を導く枠組みは、日立メディコ事件(最高裁昭和61.12.4)等の雇止め法理や労契法19条2号と類似。
解雇であれば解雇権濫用に該当し解雇無効とされる事実関係の下」という文言は、日立メディコ事件の判旨とほぼ同様で、「再雇用契約が締結されたのと同様になるもの」との法的効果を導いている。

雇止め法理を念頭においたものと解される。 

労働契約法 第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

いったん定年退職後に期間の定めのある再雇用契約を締結し、経営上の理由等からその更新の可否が問題となった事案では、雇用継続への合理的期待を認め、期間満了による終了について客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当とは認められないとして、有期契約の更新を認容するものもある(最高裁H24.11.29)。

雇止め法理は、有期労働契約の更新の場合に適用されるものとして形成、確立されてきたもの
定年後再雇用の事実関係(無期労働契約を終了し、有期労働契約を締結する)に、雇止め法理を適用の射程を広げたとみることもできる。

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2017年6月 7日 (水)

攻めのガバナンスについての覚書

(①)攻めのガバナンス(=ガバナンスを変えれば利益がでるようになる)という考えには懐疑的。大事なのは企業統治のあり方ではなく、「有効な戦略」が実行されるかどうかだと思う。

(続き②)毎日無駄な会議で時間をつぶすような「障害となるガバナンス」はある。でも、そうでなければ、大事なのはガバナンスの問題ではない。1人のカリスマ経営者のおかげで成功する会社もある。それは、ガバナンスがきいているからではなく(そのカリスマ経営者の)戦略が正しいから。

(続き③)例えば大塚家具の場合。社長(娘さん)はロースクールにも通っていたし真面目そうだから、おそらくガバナンスもきいているのだろうけど、苦境に陥っている。他方で、おそらくワンマンであろうお父さんの会社はうまくいっているらしい。

(続き④)大事なのは、有効な戦略とそれが実行されること。おそらく有効な戦略を考えられる経営者がいて、それを妨害する要素がない会社(=一種のワンマン経営)は、1つの成功パターン。有効な戦略があみだせなかったり、それ(有効な戦略)が多数決でつぶされるのは、失敗パターン。

(続き⑤)「有効な戦略」は、例えば(ジョブズのような)ずばぬけたアイデアだったりする。そういう卓越した人間がいる場合、機能するガバナンスはかえってそれを殺す方向に働く場合がある。

(続き⑥)卓越したカリスマ経営者がいる場合、それを妨害せず、サポートするガバナンスがいい(カリスマ経営者が正しい判断ができなくなった時、ブレーキをかけ、方向転換を図る必要がある。)。

(続き⑦)そんなカリスマ経営者がいない場合、みなでアイデアをだすしかない。その場合、正しい戦略が採用され、すみやかに実行されるシステムが大切。ガバナンスについては、チェック機能が強調されるが、それが吉となるとは限らない。

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特例有限会社における任期の定めのない取締役の解任と会社法339条2項に基づく損害賠償請求(否定)

東京地裁H28.6.29      
 
<事案>
Xが、特別有限会社であるYの取締役を務めていたところ、Yの臨時株主総会において、Xを取締役から解任する旨の決議(「本件解任決議」)その他の決議がされた。

Yの発行済株式の大半を保有していた訴外Aが意思能力を欠いていたにもかかわらず議案に賛成する議決権を行使し、これにより、これらの決議がされたと主張し、

Yに対し、
(1)
①主位的にこれらの決議が無効であることの確認を、
②予備的にこれらの決議が不存在であることの確認をそれぞれ求めるとともに、
(2)
①主位的に、本件解任決議が無効であることを前提として役員報酬の支払を、
②予備的に、本件解任決議が有効に存在する場合に会社法339条2項に基づく損害賠償を
それぞれ求めた事案。
 
<判断>
(1)の各請求について:
前記決議に瑕疵は認められず、これが無効であるとはいえない
法的にみて不存在であると評価することもできない。
⇒いずれも棄却。

(2)の請求について:
①の請求について、本件解任決議が有効に存在⇒解任以後の役員報酬は発生しない。
②の請求について、特定有限会社における任期の定めのない取締役が解任されたとしても、会社法339条2項に基づく損害賠償請求をすることはできない
 
<規定>
会社法 第三三九条(解任)
役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
 
<解説>
●旧有限会社法下の規律 
会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律による廃止前の有限会社法(「旧有限会社法」)は、有限会社の取締役の任期に特段の制限を設けていなかった⇒定款又は社員総会の決議で任期が定められていなければ、有限会社の取締役は、辞任・解任等のない限り、任期が続くこととされていた。

旧有限会社法32条は、会社法整備法による廃止前の商法(「旧商法」)を準用しており、同条1項ただし書は、「任期の定ある場合において」正当の事由無くして人気の満了前に取締役を解任したときは、当該取締役は、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができると規定

有限会社の取締役は、解任された場合であっても、任期の定めがなければ、会社に対し、損害賠償を請求することができないと解されていた。
 
●会社法下の規律と争点 
会社法の施行後は、有限会社は、会社法の規定による株式会社として存続する(会社法整備法2条)。
but
このような有限会社については、特例有限会社(会社法整備法3条2項参照)として、会社法の規律が一部適用されないなどの特例の1つとして、株式会社の取締役の任期を定める会社法332条が特例有限会社に適用されないとされている(会社法整備法18条)。
⇒会社法の施行後も、旧有限会社法下と同様に、特例有限会社の取締役の任期について制限がない。

解任された取締役の損害賠償請求権を定める会社法339条2項は、特例有限会社の取締役にも適用される。
but
同項は、旧商法257条1項ただし書と異なり、「任期の定めがある場合において」の文言はなく、解任された役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。会社法329条1項)又は会計監査人は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができると定めるのみ。

特例有限会社における人気の定めがない取締役が解任された場合に、当該解任された者が、会社法339条2項に基づき、会社に対して損害賠償を請求することができるかが解釈上問題。
 
●裁判例と本判決における判断 
本判決は、他の裁判例と同様消極に解し、特例有限会社における任期の定めのない取締役が解任されたとしても、当該取締役は、解任の正当な理由の有無にかかわらず、少なくとも会社法339条2項に基づく損害賠償請求をすることができないと解するのが相当であると判示。

①商法257条1項ただし書を受け継いだ会社法339条2項には、「任期の定ある場合において」に相当する文言はないが、会社法の下では、取締役の任期は法律又は定款によって定められており、任期の定めが全くない場合は想定できないことから同文言は不要とされたものと考えられ
②会社法の施行により、同項の損害賠償責任の本質に変化が生じたという事情はない
解任された取締役を有限会社法の下におけるよりも手厚く保護する実質的な理由は見当たらない

本判決は、特例有限会社における任期の定めのない取締役が解任されたとしても「少なくとも」会社法339条2項に基づく損害賠償請求をすることはできない
同項以外の根拠に基づく会社に対する損害賠償請求の余地を残している
ex.
当該解任された者が、民法651条2項に基づき、不利な時期に委任が解除(解任)されたことを理由として行うもの。

判例時報2325

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2017年6月 6日 (火)

医師の説明ミスと胃がん患者が受けた先進治療の費用の間の相当因果関係(否定)

奈良地裁H28.2.25      
 
<事案>
AはY1の開設する本件病院で検査を受け、胃がんであることが判明。
医師であるY2の不注意によりこれを説明しなかった⇒治療が遅れて胃がんにより死亡し、Aの相続人であるXらが損害賠償を求めた。 
 
<争点>
①Aが治療のため受けた保険適用のない免疫療法、NK細胞療法、がん免疫細胞療法、遺伝子両方等を受けた治療費が、本件説明ミスと相当因果関係のある損害といえるか
②相当因果関係がないとした場合に、先進治療費について支払合意があったか否か
③Y1がAに対して支払った金員が損害賠償の内払いに当たるのか 
 
<判断>
争点①について
本件説明ミスと先進治療費との間には相当因果関係はない

Aが受けた先進治療については、その有効性が医学的証拠をもって裏付けられたものではなく、これに要した治療費も著しく高額
争点②について、合意が成立したとは認められない。 
争点③について
AがY1に対して具体的に発生していた先進治療費の負担を求め、Y1もこれを認識してこれに応じて支払っている⇒損害金の内払いとはいえない
 
<解説> 
交通事故の被害慰藉が、脳脊髄液漏出症に罹患したとして、先進医療である硬膜外自家血注入療法(ブラッドバッチ)を受け、加害者に対し、損害賠償請求
⇒いずれも脳脊髄液漏出症の立証がされていないとして、請求を棄却された事例(大阪高裁H27.7.24)。 
がん治療について、通常とは異なる治療方法を行うことが医師の債務不履行、不法行為に当たるとしたもの(東京地裁H17.6.23)。

判例時報2325

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2017年6月 5日 (月)

警察による記者発表について、名誉毀損の国賠請求が認められた事例

東京高裁H27.11.18      
 
<事案> 
神奈川県警察は、本件書籍に関し、記者発表において、
①新薬の効果や効能に関する意思・研究者の談話及び体験者の体験談につき、これらの者の了解を得ずに氏名を使用し、
②本件書籍の記載内容はほとんどが虚偽である
と説明。

Xら(X1:発行者、X2:著者、X3:X1従業員で本件書籍の編集を行った者、X4:X1の代表取締役、X5:X1元従業員で、本件書籍を企画した者で、いずれも未承認医薬品の名称及び効果を広告したとして薬事法違反の被疑事実で通常逮捕された者)は、記者発表による事実が新聞報道されたことで名誉が毀損された
⇒Y(神奈川県)に対し、国賠法1条1項に基づき、X1につき300万円、X2~X5につき各110万円の支払を求めた。 
 
<原審>
真実性の抗弁を認め、Xらの請求を棄却。 
 
<判断>
真実性の抗弁を認めず、また、誤信相当性の抗弁も認められないとして、原判決を取り消し、X1に対して110万円、X2、X4に対して22万円、X3、X5に対して11万円を認め、その余の請求はいずれも棄却。

●医師・研究者の証言の信用性につき、
①X1から取材料が支払われて取材が存在したことを推認させる
②医学的見地に反する内容を述べたものとすると、医師らとX1との間で深刻な紛争が発生し、X1が法的責任を問われる大きな危険が生じる
③本件書籍の出版に協力する医師が複数存在している中で無断で談話を掲載するのは合理的な行為とは考え難い
④本件刑事事件の被疑事実からすれば、本件書籍への関与を否定しようとする動機をもつことがないとはいえない

X1が医師らに対して取材を行っていないとか、取材に沿った内容が記載されていないといった事実は認めることができない

体験者の証言につき、
①この証言、供述以外に、本件書籍に記載された内容が取材に沿わないものであることを裏付ける証拠はない
②本件刑事事件の被疑事実から、本件書籍への関与を否定しようとする動機を持つことがないとはいえない

X1が体験者らに対して取材を行っていないとか、取材に沿った内容が記載されていないといった事実を認めることはできない

①本件書籍には取材に沿った内容が記載されているとする者が存在
②医師、体験者らのうち、X1が取材を行っていないとの事実を認定できる者が存在しない

本件書籍の記載内容のほとんどが虚偽であるといった事実は認められず、真実性の抗弁は認められない
 
<解説>
名誉毀損による不法行為については、摘示事実の公共性、公益目的性、真実性の要件を満たすとき、違法性が阻却され、これらの要件は、名誉毀損の加害者が主張立証責任を負う(最高裁昭和58.10.20)。 

本件において、「新薬の効果、効能に関する医師・研究者の談話、体験者による体験談が取材に基づくことなくXらによって作り上げられているなど、その記載内容のほとんどが虚偽であるとの事実」について、本件書籍に登場する医師・研究者、体験者の供述を基に立証が組み立てられている。
信用性の検討に当たっては、合理的な疑いを残すことのないようにすべき。

控訴審:複数の医師・研究者の名前が挙げられているのに、本件書籍が取材に基づかずに発行されているとすると、X1と医師・研究者らとの間で法的な問題が顕在化することは明らかであって、そのような危険を冒してまで本件書籍を発行することが不合理であると指摘。

医師・研究者らの実名を挙げていることからすれば、法的危険を冒すことの意図よりも、取材が行われた事実を推認させることが通常であると考えられる。

判例時報2325

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2017年6月 4日 (日)

自筆証書遺言の内容が遺言信託であると判断された事例

東京高裁H28.10.19       
 
<事案>
株式会社である第一審被告Yの株主総会決議についての不存在確認訴訟及び取消訴訟。
第一審原告であるX1(弁護士)は、死亡した株主Aが有していたY発行の譲渡制限株式(本件A株式)についてその議決権を行使できる⇒原告適格を有すると主張。
具体的には、
①Aの自筆証書遺言により本件A株式について遺言信託が開始⇒X1は遺言信託の受託者として株主権を行使できる。
②Aの自筆証書遺言の遺言執行者としても原告適格を有する。

尚、別紙決議目録2記載の監査役選任決議の不存在確認・取消しについてX1に原告適格があることは、X1は、株主総会の時点においてYの監査役権利義務者であり、当該決議が不存在又は取消しとなる場合に監査役となる者であることについて自白が成立しており、争いがない。
X2が原告適格を有することには争いがない。

<判断>
●自筆証書遺言の解釈⇒保険A株式に関しては、信託行為(遺言信託)を内容とするものと判断(信託法2条、3条参照)。
その具体的内容は、
①信託財産が本件A株式
②受託者がX1(共益権を行使できる)
③受益者及び信託行為において指摘する残余財産帰属者(信託法182条、183条)がB(Aの孫で未成年者)
④信託行為において定める信託の終了事由(信託法163条9号)がBの成人。
⑤信託行為において指定する残余財産の帰属権利者(信託法182条)はB。

遺言の文言(株券をBにあげる。Bが成人するまで弁護士X1が信託管理し、株券の権利行使は全部X1が行使する。)は解釈が困難で、遺言自体には、信託終了事由や残余財産帰属者という用語は使用されていないが、遺言者の真意に最も近い解釈を試みた。
 
本件遺言信託はBの成人前に目的達成不能により終了し(信託法163条1号)、信託の清算(信託法175条以下)に入り、信託財産である本件A株式は信託行為において指定する残余財産帰属者である未成年者Bが取得すべきものとなったと判断(信託法182条、183条)。

①信託においても、受託者X1に譲渡制限株式が移転するには、会社の承認が必要
②本件においては、受託者X1への株式譲渡について会社の承認が得られず、受託者X1が任務(配当を受領して受益者Bに交付する・共益権を行使する等)を遂行することは困難。
③仮に受託者X1への株式譲渡について会社のみなし承認(会社法145条1項)があったと判断されるとしても、本件遺言信託は受益者全員の受益権放棄を原因としても目的達成不能により終了。 
本件A株式は信託行為において定める残余財産帰属権利者である未成年者Bが取得すべきものと判断し、本件A株式の遺言信託の受託者たる地位を根拠としては、X1の原告適格(別紙決議目録2の決議を除く)を根拠づけることはできない。 

●Aの自筆証書遺言によればX1は遺言執行者であったが、遺言執行者であることだけを理由として遺産である株式の株主権の行使はできない
⇒この観点からもX1の原告適格(別紙決議目録2記載の決議を除く。)を否定。 

同じ当事者間の先行する訴訟の確定判決の理由中にある、遺言執行者であることだけを理由として遺産である株式の株主権を行使できる(X1の原告適格を認める。)という判断については、当該判断の既判力及び争点効類似の効力をいずれも否定。

本件株主総会には手続上の瑕疵があるが、瑕疵は軽微
⇒決議取消請求を裁量棄却。

判例時報2325

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2017年6月 1日 (木)

離婚訴訟で父親を親権者(一審)⇒監護者である母親を親権者に(控訴審)

東京高裁H29.1.26      
 
<請求>
Xは、YのXに対する身体的・経済的・精神的・性的暴力により婚姻関係は破綻したとしてYに対し離婚と慰謝料500万円の支払を求め、
附帯処分として養育費月額10万円及び年金分割を求め、

Yは離婚について請求棄却を求め、
予備的にA親権者としてYを指定することを希望し、
その場合の附帯処分として別紙共同養育計画案に基づきXとAの面会交流の時期・方法等を定めることを求めた。 

<原審>
離婚は認容。
X(母親)の慰謝料請求は否定。
Y(父親)をAの親権者に指定。
本判決確定後直ちにAをYに引き渡すことをXに命じる。

面会交流を認め、Yが前記条項に基づく面会交流に応じない場合は、それが親権者変更事由になることを認める旨の条項を付加。 
①XはYの了解を得ることなくAを連れ出し、以来今日まで約5年10か月Aを連れ出し、以来今日まで約5年10か月間Aを監護し、その間Y・A間の面会交流を合計で6回程度しか認めておらず、今後も一定の条件の下で月1回程度の頻度とすることを希望
②YはAが連れ出された直後から取り戻しについての数々の法的手段に訴えたが奏功せず、爾来今日までAとの生活を切望しながら果たせずに来ており、それが実現した場合は整った環境で周到に監護する計画と意欲を持っており、XとAの交流に関しては、親密な親子関係の継続を重視して、年間100日に及ぶ面会交流の計画を提示

Aが両親の愛情を受けて健全に成長することを可能にするためには、YをAの親権者に指定し、本判決確定後直ちにAをYに引き渡すことをXに命ずるのが相当。
 
<控訴の趣旨>
①原判決中X敗訴部分の取消し
②A親権者X指定
③養育費月額6万円
④慰謝料500万円の支払等
 
<Xの主張>
Aは主たる監護者であるXの下で安定した生活を送っているのに、
原判決は、
Yの提案する年間約100日面会交流を認めるとの主張について、その現実性、父母間を高頻度で行き来する8歳の長女への影響を考慮せず、Xが提案するY・A間の面会交流が少ないことをもって、Aの親権者をYと定めたもので、
現実に生きているAの福祉という観点に立たず、面会交流の回数のみから親権者の適格性を判断するという過ちを犯している。 
 
<判断>
●親権者指定の判断基準として、
①これまでの子の監護養育状況
子の現状や父母との関係
父母それぞれの監護能力や監護環境・監護に関する意欲
子の意思その他子の健全な生育に関する事情
を総合的に考慮して、子の利益の観点から判断すべき。

面会交流の頻度等に関しては、親権者を定めるにあたり総合的に考慮すべき事情の1つであるが、父母の離婚後の非監護者との面会交流だけで子の健全な生育や子の利益が確保されるわけではない
⇒①~④について総合的な観点から検討。

年間100日面会のYの主張に対しては、
X・Y宅は片道2時間半程離れており、現在小学校3年生のAが年間100回の面会交流のたびに両宅を往復するとすれば、身体への負担のほか、学校行事への参加、学校や近所の友達との交流等にも支障が生ずるおそれがある
⇒必ずしもAの健全な成育にとって利益になるとは限らない。

Xは、Y・A間の面会交流の頻度は当面月1回を想定しており、当初はこの程度で面会交流を再開することがAの健全な生育にとって不十分でAの利益を害するという証拠はない。

以上のほか、
Aの現在の監護養育状況にその健全な生育上問題なく、
Aの利益からみてAに転居・転校させて現在の監護養育環境を変更しなければならないような必要性があるとの事情は見当たらず
Aの利益を最も優先して考慮すれば、その親権者をXと定めるのが相当

●Xによる長女Aを伴う別居に関しては、
①別居当時Aは満2歳4か月であり、業務が多忙なYにAの監護を委ねることは困難であり
②破綻的別居で予めAの監護について協議することは困難であった
③Xはそのころ8回にわたり面会交流の場を設け、更に電話による交流もさせていた
④平成22年9月26日以降は面会交流をさせなかったが、これは同月8日にYがXに対し、AとYが寺日番組で放映される旨、他のマスメディア関係者もこの問題を取り上げる旨等を記載したメールを送り、実際に同日Yがマスメディアに提供した面会交流時のAの映像が、目の部分にぼかしが入れられたものの、放映され、Xがこれに衝撃を受けたことによるもの(Xはマスメディアの取材やYによるAの撮影がないことを条件に同月26日の面会に応じたもの)

これらをもってAの利益の観点からみて、Xが親権者としてふさわしくないとは認め難い。 
 
<解説>
Xは離婚と親権者指定とを求めたが、面会交流に関しては、予備的にせよ附帯処分として申立てをしていない。
⇒本判決で面会交流の頻度方法等について判断していないのは、不告不理の原則から当然。 

判例時報2325

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