« 「製造パラドックス」 | トップページ | 「保護主義」 »

2017年5月11日 (木)

情報公開法での不開示情報と一部開示

大阪高裁H28.2.24      
 
<事案> 
平成24事件(①事件)、平成25年事件(②事件)ともに、一審原告が、内閣官房内閣総務官に対し、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)に基づき、内閣官房報償費(「報償費」)の支出に関する行政文書である、
①政策推進費受払簿、②支払決定書、③出納管理簿、④報償費支出明細書並びに⑤領収書、請求書及び受領書(「領収書等」)の各文書の開示を請求
⇒内閣官房内閣総務官が不開示決定
⇒それぞれ特定の期間に係る不開示決定の取消しを求めた事案 

両事件は、原審では、それぞれ別の裁判体で審理がされたが、控訴審では、事件の併合はされていないものの、同一の裁判体で審理がされ、同日に判決。
 
<規定>
情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。

三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ

情報公開法  第6条(部分開示)
行政機関の長は、開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。
2 開示請求に係る行政文書に前条第一号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。
 
<解説>
【争点】
本件対象文書に記録された情報が、不開示情報、すなわち、
情報公開法5条6号(国の機関・・が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、・・当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの)及び同条3号(公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報)に該当するかどうか。

さらに部分開示義務が認められるかどうか。
 
【原審①】
①政策推進費受払簿及び④報償費支払明細書に関する不開示決定を取り消し
③出納管理簿のうち、調査情報対策費及び活動関係費の各支出決定に対応する記載を除いた部分の不開示決定を取り消し、
その余の請求を棄却。
 
【原審②】
不開示決定の取り消しの範囲を平成24年事件の原判決よりも拡大させ、
前記に加えて、
利用者の記録されていない公共交通機関の利用に係る交通費の支払については、
②支払決定書、③出納管理簿の調査対象費及び活動関係の各支払決定に対応する記載並びに⑤領収書等に関する不開示決定も取り消した。
 
<判断・解説>
●判決の概要 
事件①について、当事者双方の控訴を棄却。
事件②については、一審被告(国)主張の公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する文書の不存在を認め、その限度で一審被告(国)の控訴に基づき原判決を変更したが、その余の双方の控訴を棄却し、本件対象文書の不開示決定の取消しについては、事件①と同範囲とする判断。

事件①の控訴審では、公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する文書であっても、具体的な弊害が生じ得るものとして、その区別なく不開示情報と認定した原判決を是認する判断。
 
●不開示情報該当性 
◎不開示情報該当性の主張立証責任の所在及びその内容 
情報公開法5条6号については、情報公開法の趣旨(=情報開示を原則とし、不開示情報を特に法定していること等。)⇒一審被告(国)において、当該文書に同号の情報が記載されており、かつ、これが開示されることにより当該事務又は事業の性質上、その適正な遂行に実質的な支障を及ぼす蓋然性について、主張立証責任がある。

同法5条3号について、①同号の文言(=おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報)や②その性質上、高度の政治的判断を要すること等⇒行政機関の長の裁量権を認め、その逸脱濫用につき、一審原告に主張立証責任がある。

◎ 本件のような情報公開訴訟の特殊性として、
①文書の所持者は、不開示自由該当性の立証に際し、当該文書自体を証拠方法として用いることはできないし、
②請求者はもちろん、裁判所も、その当該文書の内容を確認することはできない
審理の出発点としては、文書の所持者が、当該文書の書式やサンプルを示すなどして、記載されている情報の類型を明らかにしていく。

最高裁H21.1.15:
情報公開法に基づく行政文書の開示請求請求に対する不開示決定の取消訴訟において、不開示事由該当性を判断するために、当該文書を目的物とする検証の申出及び検証物提出命令申立てを行うことは、申立人が検証への立会権を放棄したとしても、民事訴訟の基本原則に反し、許されない
情報公開訴訟において、いわゆるインカメラ審理を行うことを許容していない
 
◎不開示情報該当性の具体的な判断 
①政策推進費受払簿については、特定の政策推進費の支払日、支払額、支払相手方及び支払目的等が特定ないし推認されるとはいえない⇒不開示情報を含まない。
政策推進費受払簿が開示されることで、国民の間に種々の憶測を呼ぶことがあり得ることは認めつつも、その程度では不開示情報には該当しない。

②支払決定書については、支払相手方及び具体的使途等が記載⇒不開示情報を含む。

③出納管理簿については、
政策推進費受払簿の転記部分には不開示情報を含まず、
支払決定書の転記部分には不開示情報を含み、
その余の累計額の記載等には不開示情報を含まない。

④報償費支払明細書については、支払相手方や具体的使途等が明らかになるものではない⇒不開示情報を含まない。

⑤領収書等については、支払日、支払相手方、金額、具体的使途等が明らかになる⇒不開示情報を含む。

支払相手方が情報提供者や協力依頼者ではなく、会合業者や交通事業者等の役務提供者である場合(間接支払類型と定義され、本件では、書籍代、交通費、金融機関の振込手数料、会合費等が問題となった。)についても、第三者が当該事業者に買収、監視、盗聴及び脅迫等の様々な不正行為を行うことにより、役務利用者の氏名等が明らかになる可能性があることを具体的に認定⇒不開示情報を含む。
 
●部分開示の可否 
各原審が、
①最高裁H13.3.27を引用しつつ、情報公開法が、「情報」と「記述等」を区別し、「記述等」の一定のまとまりをもって「情報」としている
部分開示の可否は、このように独立した一体的な「情報」ごとに判断され、これをさらに細分化して「記述等」についての部分開示を予定していない(情報公開法6条2項が不開示事由に該当する個人識別部分のみを除いて開示することを認めるのは、同条項の場合に限り、このような細分化した部分開示を許容することを是認した創設規定であるとする。)ものとした判断、
②このような「情報の」把握については、社会通念に照らして合理的に解釈されるべきであると、その具体的な適用について、一つの政策推進費の繰入れ、一つの支払決定、一つの金銭授受などの社会的に有意な辞意jつに関する情報(誰が、誰に、いつ、いくら等)をもって、社会通念上独立した一体的な情報を構成するものとする判断
をいずれも是認。

領収書等(⑤)については、一通の領収書等に記載された一つの金銭授受の情報は、それ全体が一つの情報とされ、これをさらに細分化する部分開示(例えば、受領者の氏名のみをマスキングして開示すること。)を否定

支払決定書(②)についても、同様の判断。

出納管理費(③)は、政策推進費受払簿と支払決定書の性質を併せ持ち、報償費の出納状況を一覧表にしてまとめたもの⇒各出納ごと、すなわち、各政策推進費の繰入れや各支払決定ごとに一つの情報を形成するものとし、不開示情報とされた支払決定書からの転記部分である調査情報対象費及び活動関係費の記載を除いた部分の開示を命じている。

不開示情報(調査情報対策費及び活動関係費の支払決定に関する記載)と
開示情報(政策推進費繰入れの記載等)
を峻別して、各情報につき、それぞれ情報単位論を適用し、前者につき、その情報を限度として不開示とし、後者の情報について部分開示を是認

解説  最高裁H19.4.17は、1つの文書に不開示情報と開示情報とがあり、両情報を構成する記載部分の一部が共通する。

判例時報2323

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 「製造パラドックス」 | トップページ | 「保護主義」 »

判例」カテゴリの記事

行政」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 情報公開法での不開示情報と一部開示:

« 「製造パラドックス」 | トップページ | 「保護主義」 »