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2017年5月30日 (火)

刑の一部の執行猶予に関する規定の新設と刑訴法411条5号にいう「刑の変更」(該当せず)

最高裁H28.7.27    
 
<事案>
被告人が、2回にわたり、営利の目的で知人に覚せい剤を譲渡したという事案。 
1審、2審とも量刑が争点。

原判決後、本件が上告審係属中であった平成28年6月1日に、刑の一部の執行猶予制度を新設する2つの法律(①刑法等の一部を改正する法律、②薬物使用等の積んにを犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律)が施行
 
<弁護人>
上告趣意において、刑の一部の執行猶予制度の新設は、刑訴法411条5号が職権破棄事由と定める原判決後の「刑の変更」に当たる。 
 
<規定>
刑訴法 第411条〔著反正義事由による職権破棄〕
上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。

刑訴法 第383条〔再審事由等〕
左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その事由があることを疎明する資料を添附しなければならない。
二 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。

刑法 第6条(刑の変更)
犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。
 
<解説>
●刑訴法411条5号は、控訴審に関する同法383条2号に対応する規定で、その趣旨は、原判決後に刑の変更等があった場合に、原判決にその時点では瑕疵がなかったにもかかわらず、原判決前に刑の変更があった場合との衡平の観点からみて、原判決を維持することが法的正義に反するという政策的理由でこれを破棄するもの。

最高裁昭和23.11.10:
刑法6条は特定の犯罪を処罰する刑の種類又は量が法令の改正によって犯罪時と裁判時とにおいて差異を生じた場合でなければ適用されない規定⇒刑の全部の執行猶予の条件に関する規定の変更は、同条にいう「刑の変更」には当たらない。
 
●刑の一部の執行猶予制度新設の趣旨:
改正前刑法では、刑の言渡しの選択肢として全部実刑か刑の全部の執行猶予かのいずれかしか存在しなかった。
vs.
犯罪をした者の再犯防止・改善更生のためには、施設内処遇後に十分な期間にわたり社会内処遇を実施することが有用な場合がある。

裁判所において、宣告した刑期の一部を実刑とするとともに、その残りの刑期の執行を猶予することにより、施設内処遇に引き続き、必要かつ相当な期間、刑の執行猶予の言渡しの取消しによる心理的強制の下で、社会内における再犯防止・改善更生を促すことを可能にするような刑の言渡しの選択肢を増やすべく、刑の一部の執行猶予制度が新設。 
 
刑法6条は、法定刑ないし処断刑を定めるために新旧どちらの法律を適用するかという場面で用いられる規定。
ここでいう「刑の変更」とは、法令の改正によって特定の犯罪に対して科される刑の種類又は量、すなわち、特定の犯罪に対する法定刑又は処断刑が変更された場合を意味する。

①上訴に関する刑訴法383条2号、411条5号の趣旨
②「刑の変更」と並んで破棄事由とされているのが「刑の廃止」及び「大赦」

これらの規定にいう「刑の変更」は、改正法を適用しないことによって衡平の観点から法的正義に反するほどの重大な事態が生じる場合を意味すると解される。

③同一文言解釈の統一性
刑法6条の場合と同一の意味に解するのが相当

本決定は、刑の一部の執行猶予の制度趣旨をふまえ、それが特定の犯罪に科される刑の種類や量を変更するものではない
刑の一部の執行猶予に関する刑法の各規定の新設は刑訴法411条5号にいう「刑の変更」には当たらない

判例時報2324

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