著作権判例百選事件保全抗告決定
知財高裁H28.11.11
<事案>
Xは、自らが編集著作物たる「著作権判例百選(第4版)」(「本件著作物」)の共同著作者の一人であることを前提に、Yが発行しようとしている雑誌「著作権判例百選(第5版)」(「本件雑誌」)は本件著作物を翻案したもの
⇒本件著作物の翻案権並びに二次的著作物の利用に関する原著作物の著作者の権利(著作権法28条)を介して有する複製権、譲渡権及び貸与権又は著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権を被保全権利として、Yによる本件雑誌の複製・頒布等を差し止める旨の仮処分命令を求める申立てをした。
東京地裁は本件仮処分申立には理由があると判断⇒Yが保全異議の申立て⇒原決定は、本件仮処分決定を認可⇒Yが原決定及び本件仮処分決定の取消し並びに本件仮処分申立ての却下を求めた。
<争点>
①Xが本件著作物の共同編集著作者の一人か
②翻案該当性ないし直接感得性
③本件著作物を本件原案の二次的著作物とする主張の当否
④氏名表示権の侵害の有無
⑤同一性保持権の侵害の有無
⑥黙示の許諾ないし同意の有無
⑦著作権法64条2項、65条3項に基づく主張の当否
⑧権利濫用の有無
⑨本件雑誌の出版の事前差止めの可否
⑩保全の必要性
<規定>
著作権法 第12条(編集著作物)
編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
2 前項の規定は、同項の編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。
著作権法 第14条(著作者の推定)
著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。.
<判断>
①本件著作物の表紙にA教授、X、B教授、C教授の氏名に「編」と付して表示されている
②はしがきの記載
⇒
本件著作物には、Xの氏名を含む本件著作物の編者らの氏名が編集著作者名として通常の方法により表示されている
⇒
Xについて著作権法14条に基づく著作者の推定が及ぶ。
著作者の推定の覆滅の可否:
編集著作物の著作者の認定につき、
①素材について創作性のある選択及び配列を行った者は著作者にあたり、
②本件著作物のような共同編集著作物の著作者の認定が問題となる場合、編集方針を決定した者も、当該編集著作物の著作者となり得る。
他方、編集方針や素材の選択、配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難い⇒これらの行為をしたにとどまる者は当該編集著作物の著作者とはなり得ない。
共同著作物の著作者の認定につき、ある者の行為につき著作者となり得る程度の創作性を認めることができるか否かは、
①当該行為の具体的内容を踏まえるべきことは当然として、さらに、
②当該行為者の当該著作物作成過程における地位、権限、当該行為のされた時期、状況等に鑑みて理解、把握される当該行為の当該著作物作成過程における意味ないし位置付けをも考慮して判断されるべき。
Xは、本件著作物の編集過程においてその「編者」の一人とされてはいたものの、実質的にはむしろアイデアの提供や助言を期待されるにとどまるいわばアドバイザーの地位に置かれ、X自身もこれに沿った関与を行ったにとどまるものと理解するのが、本件著作物の編集過程全体の実態に適する
⇒
著作権法14条による推定にもかかわらず、Xをもって本件著作物の著作者ということはできないと判断し、著作者の覆滅を認め、本件仮処分決定及びこれを認可した原決定をいずれも取り消し、本件仮処分申立てを却下。
<解説>
著作権法 第17条(著作者の権利)
2 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
著作権法は、創作時点で権利が発生する無方式主義(法17条2項)を採用⇒その著者を特定することが困難な場合も想定される。
⇒14条に著作者の推定規定をおき、調整を行っている。
14条の推定を受けるには
①原作品への氏名等の表示
②実名または周知な変名の表示がされていること
③通常の方法による表示がされていること
が求められる。
自らが著作者であると主張する者は、具体的な創作について主張するまでもなく、例えば書籍であれば表紙や奥付に著作者として表示されていればそれをもって著作者と推定されることになり、
この推定を争う場合には、その事実の推定を覆す立証をその相手方がする必要がある。
編集著作物(著作権法12条1項)の著作者として認められるためには、表現の創作行為への実質的な関与が必要。
最高裁H5.3.30:
「企画案ないし構想の域」を出ない程度の関与は、著作者としては認められない。
東京地裁昭和55.9.17:
配列について相談に与って意見を具申すること、又は他人の行った編集方針の決定、素材の選択、配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難い。
判例時報2323
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