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2017年5月23日 (火)

東住吉事件再審無罪判決

大阪地裁H28.8.10    

<事案>
被告人の自白した方法では放火することは困難で、自然発火の可能性も認められる⇒再審開始。
被告人両名の自白を除けば、本件火災が自然発火によるとの合理的な疑いがあり、放火行為を認めることができない⇒被告人両名にそれぞれ無罪を言い渡した。

男性被告人A(当時29歳)とその内妻B(当時31歳)が、Bとその前夫との間の長女Cに掛けられていた1500万円の生命保険金を目当てに、平成7年7月22日、Cが入浴した際に、家族で居住した家屋に火をつけて家屋を焼損させるとともに、C(当時11歳)を焼死させて殺害し、生命保険契約を締結していた会社に保険金を請求したが、被告人らが逮捕されたために保険金を受領できなかったという要旨の公訴事実で起訴
⇒被告人両名無期懲役で確定。
 
<経緯>
平成7年7月22日、本件発生。
9月10日、被告人両名はそれぞれ別の警察署に任意同行の上取調べを受け、その日のうちに両名共に犯行を認め、通常逮捕。
その後、自白と否認を繰り返す。 
本件発生から、確定判決まで約11年、再審無罪判決まで21年以上経過。
確定第一審以来、本件が放火なのかという事件性のほか、自白の任意性、信用性が争点。
 
■本件火災の原因 
 
●確定控訴審 
ガソリン蒸気の漏出の可能性を視野に入れて、その点の実験(漏出しなかった)を行った結果を取調べ。

本件自動車から発火した可能性は抽象的な可能性に止まるとされ、本件自動車からの発火の可能性は極めて低い。
 
●再審請求審 
弁護側は、平成23年に静岡県内で行われた実験(「小山町新実験」)の結果等をもとに、
(1)Aの自白は、
多数の事項について科学的見地から不合理な内容である上、
その他の新証拠によっても、Aの自白は極めて不自然、不合理
⇒信用できない。

(2)提出した新証拠⇒確定審が自然発火の可能性を否定した論拠、根拠は崩壊し、自然発火の蓋然性が高いことが明らかになった。
と主張。

裁判所:
被告人両名と本件犯行を結びつける直接証拠は被告人両名の自白しかなく、特に多数の自白調書や自供書を残しているAの自白の信用性が揺らぐことになれば、確定判決の有罪認定も同様せざるを得ない証拠構造にあるとの認識の下、①②について検討。

確定審とは全く異なったものであり、自白の信用性を否定して、再審開始の結論
 
●再審無罪判決 
小山町新実験は、可能な限り、当時のガレージの状況を忠実に再現し、実際に燃焼実験を行った。

①ガソリンを床上に散布すると、風呂釜の種火から約64センチないしもっと離れていても、種火がガソリン蒸気に引火。
⇒風呂釜の種火による引火という、それまでほとんど問題にもされていなかった発火の原因が浮上。
ガソリンが人為的に散布されなくても、給油口から漏出することが確認

本件自動車の給油口からガソリンが漏出し、それが蒸気となり、それに風呂釜の種火が引火することにより、本件火災が発生しうることが、確かめられた。
 
■自白の任意性
●取調べの経過 
被疑者としての取り調べは、9月10日からであるが、それ以前から事情聴取を受けており、Aも、自分が疑われていることを理解し、無料法律相談を受けて弁護士にその旨相談していた。
それ以前に、焼死したCと性的交渉を持っていたことを警察官に供述。

9月10日からの本格的取調べ:
当初は否認して、相談した弁護士に連絡してほしい。
その後自白して、8通の自供書を作成。
その後、自白と否認を繰り返したが、9月14日になって、否認が自白に再度転じ、自供書11通を作成するとともに、相談していた弁護士を解任し、新たな弁護士を選任。
その後、自白を維持し、自白調書が作成。

9月10日、なぜ早々に自白したのか?
9月14日に再度自白し、弁護人を替えたのは何故か?
 
●確定審 
◎被告人側の主張と判断
①任意同行は違法な身柄拘束
②警察官から、Aが放火したところをBの長男が見たと言っているとの虚偽の情報を与えられて精神的に圧迫を受けた
③否認すれば、Cとの性的関係を事件として立件する、世間に公表する等の利益誘導ないし脅迫を受けた
④警察官から首を絞められる等の暴行を受けた
⑤警察官からBが全部しゃべっているとの虚偽の情報を与えられ、いわゆる切り違い尋問が行われていた。
but
被告人の供述と取調官の供述を比較⇒被告人供述に一貫性がないとか、供述内容が自然ではないなどと評価。

◎ 9月14日までの経過として
①被告人は、12日の取調べの際に、自分の父親からの手紙を見せられ、取調官から、「否認すれば、父親の病気が悪くなるかもしれない。」などと言われ
②「調書書くのは自分であり、悪く書こうと思えばいくらでも書ける。」「お前を死刑にすることも簡単にできる。」「今認めるなら、情状酌量で訴えたら、15年くらいの判決で、仮釈放をもらったら7,8年で出てこれる。」などともいわれた。
but
被告人の訴えるようなことが、その日の弁護士との接見の際には、被告人は言っていないこと等⇒被告人の供述は信用できない
被告人が弁護士の解任届を書いた経過についても、
①その後の弁護人とのなった弁護士との接見において、犯行を認める態度をとっていたこと
②前の弁護人を解任したのは自分の意思であり、前の弁護人は死刑になると脅したので信頼できないと述べていた
⇒被告人の供述は信用できない。

●再審無罪判決の判断 
①単に、取調官の供述と被告人の供述を比較するだけでなく、
A及びBの取調べに関する報告書や取調日誌、さらには供述調書の記載内容をも検討し、取調官の供述の矛盾を指摘し、あるいはその不自然さを明らかにした

取調べ状況に関する被告人の供述を信用できないものとして排斥することは困難であるとした上で、さらに、被告人の自白内容から被告人の自白の任意性を検討
従来、取調べ状況については、被告人側と取調官側の水掛け論になる場合も多く、その認定に困難をきたしていた。

①(再審では)単に供述者の供述を比較するだけでなく、その余の証拠、留置人出入簿や取調官の残した報告書やメモ、接見した弁護士のメモや供述などをも考慮して取調べ状況を認定
②確定審では、被告人の供述が信用できるか否かを検討、再審無罪判決では、取調官の供述が関係証拠との関係で虚偽でないか、合理的か、自然かといった形で判断され、それとの関係を踏まえて、被告人の供述の信用性が検討

再審無罪判決は、任意性の判断のため、自白内容も検討

記載の仕方等から誘導があったのではないかといった検討方法を超えて、記載内容自体を問題にするもので、一般的には、自白の信用性の問題として扱われている。
but
本判決は、自白の内容を他の証拠とつきあわせて、自白がある程度詳細で具体的であっても、捜査機関が把握していた情報から推測可能な内容にとどまっていることを実証し(秘密の暴露のようなものが含まれていないことの証明)、自白に自発性を裏付けるようなものがないとして、不任意を推定。
本判決は、A、 Bの自白について、信用性を問題にせず、任意性の問題として決着をつけた。

「この自白は、証明力の問題ではなく、証拠とすること自体を許してはならない」という決意。
 
■自白の信用性 
●Aの自白の中でも、放火方法の非現実性。
①ガレージという空間で、約7リットルものガソリンをまいてライターで点火したという自白を前提にすれば、ほぼ一瞬にして炎が立ち上がり、その後ガソリンがなくなるまで激しい燃焼が続くであろうことは、ほぼ常識の範囲のことであった。
②まして、近くに風呂釜の種火があって、すぐにでも引火しそうな状況であった。
③使用後に本件自動車の下に置いたとされる給油ポンプの残骸もない
④自白から想定される燃焼状況は、火災の初期を目撃した住民の供述とは全くそぐわない。

再審開始決定:
「放火方法に関するAの自白は、見過ごせないほど不自然、不合理な点を含み、客観的状況ともそぐわない。」と評価。
その他、
①当座必要な170万円のために、子ども、しかも、Bにとっては実子である11歳の娘を焼死させるのかとうい動機面での疑問。
②AとBがどのように共謀したのかという共謀の過程についての疑問。
③供述の変遷(たとえば給油ポンプの入手について)等
 

に可能性がない場合、それが本当に他の方法や態様があり得ないのか、実際はあり得ても、それが説得力のある説明がなされていないだけなのかは、細心の注意を払って検討されるべき

現在の科学をもってしても説明できないことがあるし、多くの者の供述を集めても解明できない事実関係があることを率直に認める必要。

判例時報2324

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